初めましての人は初めまして。
良ければ感想ください。泣いて喜びます。
普段と違うテイストにしてみました。

お題箱消化シリーズ第一弾です。
お題は、透明人間になれるけど誰かに触れられたら効果が切れてしまう薬飲んだ話
素敵なお題ありがとうございました!!


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『透明人間の恋』

 僕は久遠寺(くおんじ)さんのことが好きだ。

 この世界で一番愛していると言っても過言ではない。初恋なんだ。

 中学生一年生の頃からずっと見てきたし、彼女と同じ高校に入るために勉強も頑張った。

 努力の甲斐もあって、久遠寺さんは僕の斜め前の席で今もこうして授業を受けている。

 その後ろ姿を見ているだけ毎日が満たされる。

 満たされていたら、あっという間に時間は過ぎ去っていた。

 最近までの悩みといえば、未だに少し仲の良いクラスメイトから脱却出来ないこと。

 僕の経験と度胸では、それ以上は手が届きそうにない……。

 しかし、そんな日々とは今日でおさらばなのである!

「これ、本物なのかな……」

 見るからに怪しい桃色の瓶を取り出す。

 手のひらサイズのそれは、「かんたん透明なれるくん」と書かれていた。

 通販で、冗談半分で買った透明人間になれる薬。

 まさか本当に届くとは思わなかった。

 日本円にして300円。お手頃過ぎないか……。

 僕だってこんな胡散臭い商品本気で信じているわけではない。

 ただ、もしも本当に透明人間になったら――。

 想像するだけで心が浮き立つのが分かった。

 決行は今日の放課後。僕は透明になるんだ。

 目の前の久遠寺さんを見据え、決意を再び固めた。

 …………。

 ……。

 

 

「すごい……本物だ。これ……」 

 長かった授業も終わり、あっという間に放課後。

 僕は本当に透明人間になっていた。

 そして目の前には、一人で帰宅している久遠寺さん。

 ここまで接近して尾行しているのに、彼女は全く気付く素振りを見せない。

 もし僕が透明じゃなかったら、今頃警察を呼ばれているだろう。

  先ほど立ち鏡で確認してきたが、本当に僕の姿は映っていなかった。

 此処にいるのにいないような――奇妙な感覚に襲われる。

「これで久遠寺さんの……」

 ゴクリ……。

 彼女の白く透明な素肌を想像しただけで、軽い眩暈がしてくる。

 大丈夫、僕は透明人間なんだ。誰にも見つかるはずがない。

 佐山奏太。一世一代の挑戦。本日の作戦を発表する!

 久遠寺さんを尾行し、家に侵入して、着替えを覗く。以上だ。

 ――分かってる。分かってるよ! 僕だって本当はこんなことしたくないんだ!

 けど、透明になれる薬を手に入れたんだぞ!?

 好きな女の子の裸を見てなにが悪い……?

「悪くない、悪くない、悪くない……」

 若干足を早めた久遠寺さんに引き離されないように、僕もあわせて歩幅を広げる。

 ここではぐれてしまっては全部丸潰れだからな。

 そういえば、説明書には一つだけ注意書きがあった。

 『誰かに触れられると透明でなくなってしまいます。くれぐれもご注意ください』

「久遠寺さんに今触られたらアウトということか……」

 今ならまだ言い訳が効くかも知れないが、家の中に一緒に入った時に間違って触れられでもしたら……。

 僕は明日から学校に行けなくなる。下手したら少年院行きだろう。

 ――それにしても、久遠寺さん。今日も可愛いな……。

 彼女の後ろ姿を見ながら。揺らめくミニスカートに目をやりながら。

 僕は改めて久遠寺さんの美しさに魅了されていた。

 何処にでも居るようなチャラチャラとした女子高生とは違う。

 『清楚』という言葉は、彼女が語源に違いない。

 そう思わせるほど大和撫子を体現していた。 

 長く燦然と輝く黒い髪。華奢な腕と足は繊細かつ透明で、つい曲線美に見惚れてしまう。

 まるで宝石のように澄んだ輝きを放つ瞳。見据えられたらそれだけで溶けてしまいそうだ。

 それだけじゃない。これだけじゃないんだ! 彼女が綺麗なのは、外見だけじゃなかった。

 こんな僕にすら優しく話しかけてくれるんだぞ!?

 学校の日陰者みたいな僕にすら、積極的に話しかけてくれた記憶が思い起こされる。

 『奏太くんと一緒の高校に行けて嬉しいな。これからも仲良くしてね?』

 『一緒のクラスだなんて、嬉しいなっ』

 『教科書忘れちゃったの? 私の使っていいよ』

 満面の笑みで僕に接してくれる久遠寺さん。

 これで惚れないほうがおかしい。最近はあまり話しかけてくれないけど……。

 ああ、久遠寺さん……。久遠寺さん

「久遠寺……さん?」

 その時目の前に見えた景色。

 僕を現実に引き戻すには充分過ぎるほどだった。

 ――猛スピードで向かってくる対向車線の車。

 それが、久遠寺さんの方向を向いていたことを。

 時が止まったような感覚が僕を襲う。

 このまま車の勢いが止まらなければ、久遠寺さんが轢かれて死んでしまう。

 そんな考えを巡らせる前に、既に足は動いていた。

「久遠寺さん、危ない!!」

 ――っ!!

 久遠寺さんを抱きかかえて、出来る限り前方に向かって飛び込んだ。

 背後ではけたたましい衝突音。

 ふと後ろを振り返ると、車は歩道の隅の電柱に突っ込んでいた。 

 先ほどまで久遠寺さんと僕が居た場所だ……。

「奏太くん……?」

 僕に突き飛ばされた彼女は、なにが起きたのかまだ完全に把握していないようで。

 地面に尻餅を突いたまま目を丸くしていた。

「大丈夫……? け、け、怪我とかしてない!?」

 こんな時だって言うのに、緊張で上手く喋れない自分が恨めしい。

 見たところ、久遠寺さんに目立った怪我は見られないし、痛がる素振りもない。

 ミニスカートからは艶かしい足がこちらを覗いている。

 こんな時に……僕は! 激しい罪悪感に打ちのめされそうだ。

「私は大丈夫だよ。奏太くんは……?」

「だ、だ、大丈夫大! 丈夫!」

 久遠寺さん……っ! 

 こんな時だって言うのに真っ先に僕の心配までしてくれて。

 本当に良い子だ……。そしてなんて可愛いんだ……。

 ――それに比べて僕は! 丈夫ってなんだよ丈夫って……!

 彼女に自分から触れたせいで、透明化は解けてしまっていた。

 ほんの少し残念だが、彼女の命を助けたことに比べれば些細な問題だろう。

 なんの取り得もない僕だったが、彼女の役に立てたことが少しだけ誇らしかった。

 …………。

 ……。

 

 

 

 これで終わらせるわけにはいかない。

 翌日。僕は今日も透明になって久遠寺さんを尾行していた。

 良心と彼女の裸を天秤に掛けた結果。ほんの僅かな差で裸が重かった。

 ごめん、久遠寺さん……。脳内天秤が悪いんだ。

 今日も久遠寺さんの後をつける。

「しっかし久遠寺さん。歩くの早いな……」

 今日ほど自分の運動不足を呪った日はない。

 なにをそんなに急いでるんだろう……。

 もしかして、この後なにか予定があるのだろうか。

「しかし……今日も久遠寺さん可愛いな……」

 昨日はあの後少しだけ警察の事情聴取に付き合わされていた。

 外傷が一切なかったことで、すぐに解放されたが。

 僕にお礼を言ってくれた久遠寺さんの姿が、今も印象に残っている。

 今日こそ……。今日こそ彼女の生着替えを!

「うぐっ……」

 彼女の服の下を想像しただけで、今にも鼻血を零してしまいそうだ。

 そういえば……透明になった時に鼻血を出したらどうなるんだろう。

 顔を伝う血液だけが皆から見えることになるのかな。

 それとも、鼻血も身体の一部として透明になるのだろうか。

 おそらく後者だろう。

 なぜなら、僕の着ている制服も透明になっていたからだ。

 自分の目で確認したから間違いない。

 そんなことを考えながら、久遠寺さんを追いかけていた。

 ――数分後。

 久遠寺さんは家の前に辿りついたようだ。玄関先で足を止めている。

 此処が彼女の家……。心臓が一層高鳴っていくのが分かった。

 彼女が扉を開く時。ここが一番の正念場だ。しくじってはいけない。

 久遠寺さんが家に入るタイミングで、僕もこっそりと一緒に入らなければならないんだ。

 しかし、誤って彼女に触れてしまったらその時点でアウト。透明化は解除されてしまう。

「瞬発力と機敏さが試されるということか……」

 久遠寺さんは遂に扉を開くようだ。僕は出来る限り彼女に近づく。

 一歩。また一歩……。

 さあ――今だっ!

「奏太くん……? なにしてるの……?」

「えっ……」、

 暫くの間、僕は久遠寺さんと目を合わせていた。

 しかし、彼女に二の腕を掴まれていることに気付き、感情が一気にこみ上げてきた。

 まずい……まずい、まずい、まずい!

 透明化、切れてる! 彼女に見つかった!? どうして!?

 ばれる……作戦が、作戦が、着替えが、まずいっ!!

「ぼ、ぼ、僕! 久遠寺さんのことがずっと前から好きで……!

裸が見たくて……! でも出来心で! 良ければ付き合ってくださいっ!!!」

「……なに言ってるの? 昨日からちょっと変だよ、奏太くん……っ」

 僕の腕を掴んだまま、困ったように苦笑いを浮かべる彼女。

 自分の発した言葉の意味を理解した時、もう手遅れだった。 

 …………。

 ……。

 なにいってんだあああああああああああああああっ!!

 終わった……。俺の短い人生が終わった……。

 『昨日からちょっと変だよ、奏太くん……っ』

 彼女の言葉が、僕の頭に何度も反響する。

 僕はもう……。

 『昨日からちょっと変だよ、奏太くん……っ』

「え? 昨日から……?」

「うん。ぶつぶつ呟きながら私のこと追いかけてくるし、全く同じペースでついてくるから……」

「……え?」

「命を救ってもらったことは嬉しいけどさ、結構怖かったんだよ……?」

「ちょっと待って、どういうこと……?」

「どういうことって、私が聞きたいよっ!」

 半分呆れているような、乾いた笑いを浮かべる彼女。

 全く状況が読めない。

「もしかして、久遠寺さんには僕の姿が見えてたの?」

「奏太くん……? なにかあったの?」

 頭がおかしい人を見るような目で僕を見据える久遠寺さん。

 僕が頭がおかしいのは分かりきっている。

 もしかして……。

「もしかして、僕が飲んだのは透明になれる薬じゃなくて、自分が透明に見える薬だった……?」

「奏太くん、悩み事とかあるなら聞くよ?」

 なんて、なんて馬鹿なんだ、僕は……。

「ごめん、久遠寺さん。実は……」

 僕は包み隠さずに彼女に事情を説明し始める。

 久遠寺さんは、馬鹿みたいな話をしているのにちゃんと聞いてくれた。

 本当に良い子だ……。

 

 

 

「それで、透明になったつもりで私のことを追いかけてたの?」

「はい、すみません……」

「それで、着替えを見るつもりだったの……?」

「本当に申し訳ありません……」

「ふふっ、もう、最低っ」

 久遠寺さんは怒り狂うどころか、口に手を当てて微笑んでいる。

 心なしかその笑顔は穏やかだった。

「けど、私はそんな奏太くんも好きだよ」

「えっ……」

「同じ高校って決まった時、本当に嬉しかったよ」

「昨日助けてくれた時、告白しちゃおうか迷ったくらいだもんっ」

「でも……久遠寺さんは僕のことなんて見てないと思った。話したことも数えるしかないし……」

「だって、私が話しかけたら奏太くん怖がってるみたいだったから……。あまり声掛けないほうが良いのかなって思っちゃったよ」

 彼女の言っていることを理解するのに、幾分か時間を要した。

 これは夢じゃ……ないよな……?

「こんな僕の……何処を好きになってくれたの?」

「私達が中学生の時、みんなが掃除サボってる中、奏太くんだけは真面目にやってたよね?」

「そんなこと……?」

 彼女が話す僕の好きなところは、拍子抜けするほど小さなことだった。

「それはきっかけに過ぎないよ。あれから奏太くんのこと見てきたけど、奏太くんは誰よりも優しいんだね」

「みんながやらないことを率先して引き受けて、みんながやりたいことはそっと身を引く。かっこいいよ」

 久遠寺さんにかっこいいと言われただけで、涙腺が熱くなるのが分かった。

 僕みたいな日陰者が引き受けたほうが、みんなのためになると思ってやっていたこと。

 久遠寺さんに見て貰えていて、評価されていたなんて……。

「……じゃあ、僕と付き合ってくれるの?」

「奏太くんのさっきの告白、めちゃくちゃだったけど嘘じゃないんだよね?」

「うん! 嘘じゃないよ!」

「それなら私達両想いだよ? 良ければ付き合って欲しいなっ」

「――久遠寺さんっ!」

「でも、まだ裸は見ちゃダメだからね? しっかり反省してください」

「はい……」

 頬を膨らませて僕を叱る彼女。

 今まで見てきた久遠寺さんの、どの表情よりも可愛かった。

 …………。

 ……。 


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