タグにも書いておりますが、改めて注意をお願いします。
※注意※
■オリ主(クセ強)有
■独自設定(主に家族構成)有
では、よろしくお願いします。
幼少のころ、事情があって親元を転々としていたためか、親、と呼べる人間には何人か心当たりがあった。
ひとりは、俺をこの世に産んでくれた母。
ひとりは、俺に俗世を教えてくれた一人の男。
そして、俺に家族の温もりを教えてくれた叔父夫婦だ。
彼らは、俺の人格を形作る上では欠かせない存在であることには違いない。
母に関する記憶は既に薄れてしまっている。
恥ずかしいことに、どんな性格なのか、何が好きなのか、ほとんど憶えていない。
ただ、赤子のときから身を粉にして働き、俺を育ててくれた人間であることは覚えている。
夜遅くまで家を留守にし、されども俺への食事は欠かさず用意してくれた。
それだけでも充分に立派な親だと言えるだろう。
母の元から離れ、俺はとある男に引き取られた。
彼には帰るべき家が無かった。かといって各地を巡っているわけではなかった。
ただ、一日一日を必死に過ごし、辛うじて生きながらえているような、世間一般で言う"ろくでなし"であった。
お前を引き取ったつもりなんてない、と口癖のように言う彼の背中を縋りつくように追いかける。そんな奇妙な関係であった。
苦しくなかったといえば嘘になるが、あの生活があったからこそ、俺は世の中というものを知ることができた。
────そして、最後に行き着いた先が、母の弟夫婦の元であった。
彼らは他人に等しい俺を、本当の息子として育てると言った。事実、彼らにはそのように育ててもらった。当たり前に、当たり前の家族のように。
思い起こすのは、初めて叔父夫婦と出会ったときのこと。
優しい笑顔で迎え入れる叔父叔母の後ろに隠れながら、顔だけを覗かせて俺を見る小さな女の子の姿が特に印象に残っている。
女の子は俺の身なりに面食っていた。
しかし、たしかに小さな声でこう言った。
「こ、これからよろしくね。お、おにいちゃん」
優しき"親たち"に出会えた俺は恵まれている。
ならば、俺も当たり前のようにこの小さな従妹を支えよう。恵まれていると思えるような人生を送らせてやるべきだ。いや、しなければならない。
それこそが、俺を育ててくれた"親たち"への最高の返礼と信じて。
この出会いをもって、俺の生き方は決定づけられた。
◆◆
「ねぇーつぐー、聞いてよー」
「はいはい、どうしたのー」
ある休日の朝方のことだった。
羽沢珈琲店に客が来なくなるこの時間帯で、この話の切り出し方をした上原ひまりの話は決まっている。
つぐ、と呼ばれた羽沢つぐみも、それをわかっており、手が空いたところでひまりがいるテーブルに歩み寄った。
「なんでモカはあんなに食べるのに体型変わらないのー?やっぱり前言ってたようにカロリーを誰かに送っているのかなー?うらやましーなー」
「それはモカちゃんのいつものじゃ…それより何で今その話が…」
つぐみがそう言いかけたところで「あっ」と何かを察した。
「そう!そうなのつぐ!どうしよ〜…」
「え、ええと、大変だね」
つぐならわかってくれると信じてた、と言わんばかりに声が大きくなるひまり。他に客がいなくて本当に良かった。
察しの悪い者でも今の一連の会話を聞けばわかるに違いない。
そう、つまりは
「もう。こうなったらもう食事制限するしかないんじゃ…うう、あまいものが恋しい…」
「そうか。だが、こうしてその『あまいもの』を注文しているあたりお前の決意の柔らかさは相変わらずのようだな」
「違うもん!これ食べた後からスタートするから…って」
ひまりがゆっくりと、突然口を挟んだ俺に振り向いた。
…目と目が合う。
この店の時間が止まったかのような静けさが続く。
やがて、目の前にいたひまりが普段見ないような俊敏さで後ずさった。
さすがテニス部。瞬発力はなかなかだ。
「かっ、かかかかカズさん!!?いたんですか!?」
「ここは俺の家だ。休日の午前中であれば、普段どおり店にいてもおかしくないだろう」
「も、もももしかして、今の話…」
「この店の落ち着きようで『聞くな』と言われても無理があるな。そもそも、お前が店にきたときに声をかけたはずだったんだが、気づいてなかったのか」
「ご、ごめんね、ひまりちゃん。止めようとしたんだけど、ひまりちゃんが勝手に話し始めちゃったから…………」
つぐみがどうにか話を遮ろうとしていたのは俺も見ている。とは言え、ひまりの口を抑えるには少し強引さが足りなかったようだ。
……しかし、食事制限か。
過度な我慢は毒にしかならないと言うのに。
「食事制限をしたところで、お前が満足する結果になるとは思えんがな。それに──────いや、何でもない。さて、ご所望のガトーショコラだ。ここ一週間で会心の出来だ。心して味わうがいい」
カチャリ、と紅茶とともにテーブルに置く。
以前、ひまりからもらったアドバイスを参考に紅茶はストレート。淹れ方、蒸らし時間、全て完璧に仕上げてある。当然、甘さは自分で調整できるように角砂糖もセットだ。
さて、たとえ"珈琲店"として看板を掲げていても、カフェである以上は紅茶も美味であることを証明してみせよう。
「う、ううぅ……」
「どうした、ひまり?なぜ泣く?」
「もういいですよっ!カズしゃんのバーカ!ド天然!とーへんぼく!もうかえる!!」
だが、返ってきた言葉は、普段言い慣れていないことが明らかにわかるような罵倒。
そんな捨て台詞を吐いて、ひまりは扉を壊してしまうかのように出ていった。
例によって、店の中に他に客がいないことに安堵する一方、半泣きのひまりの顔に罪悪感を覚えてしまう。
「……また何か余計なことをしてしまったようだな」
「ひまりちゃんの自爆もあるけど、タイミングが悪すぎだよ、もう」
「すまない。店の手伝いは俺がやっておくから、フォローを任せていいか?」
「はいはい、本当しょうがないんだから。お兄ちゃんは」
こういう時の
おそらく、あの幼馴染四人と俺が未だに良好な関係を保てているのは、つぐみのおかげと言っても過言ではないかもしれない。
「あっ、そうだ。さっき、お兄ちゃん何か言いかけたよね?何言おうとしたの?」
「む、『俺としては嬉しそうに食べるひまりの方が好ましいからな』と言おうとした。俺の所感なんて言うまでもないと思って言わなかったが」
「……本当、なんで肝心なところ言わないかなぁ」
「そうなのか?」
「ううん、なんでもないよー。行ってきまーす」
つぐみが出ていく背中を見て、ふと気づいてしまった。
この家に身を寄せた時、俺はつぐみを支えられるような存在になるつもりだったはず。
しかし、現実はこれだ。
─────これではまるで逆ではないか?
「……どうしてこうなった」
カランコロン、ドアベルの音が虚しい心に響いた。
「おっす、って、カズだけか?今日、ひまりと約束してたんだけど、来てないか?」
「……よく来たな、巴。ひまりならついさっき出ていってしまったところだ。そんなわけで、ひまりの代わりにこれを食べてくれ。そして少しでもひまりにカロリーを送ってやってくれ」
「よくわかんないけど、またカズがやらかしたことはわかった。話聞いてやるから、とりあえず座っていいか?」
「助かる」
俺だけではさらに拗らせてしまうことになるのは目に見えて予想できる。仕方ないので、つぐみと入れ替わりに来た巴に胸を借りるとしよう。
……年上として恥ずかしいことこの上ないが、ひまりやつぐみに軽蔑されるのはかなり堪える。背に腹は代えられない。
人生とは総じてままならないものだが、出来る限りのことはしなければならない。
そう、俺───羽沢和那は、とりあえずひまり用のパフェの作成の準備に入ることとした。
最近、人前で話す機会が多くなったせいか、会話って難しいなって実感してばかりの生活を送っているなかで思いついたネタです。
こんな極端な例はないでしょうけど、皆さんも大なり小なり経験はあるのではないでしょうか。
感想お待ちしてます。