空に太陽があるかぎり   作:練り物

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 父の日に投稿を目指しましたが、帝都テラリン云々で結局間に合わず、かと言ってお蔵入りにはしたくなかったので投稿しました。

 全く関係ない話ですが、ツイッターで『全肯定カル太郎』なるものを見つけて思わず「ふふっ」ってなりました。この拙作もそんな誘い笑いができるような作品になったらいいなって思います。なあカズ太郎!?お前もそう思うよな!?

 冗談はさておき、今回もどうぞよしなに。



幕間 成長に乾杯

「ふぃー、やっと一息つけたぜ……」

「今日もみっちりやったよねー。ゴールデンウィークのキャンプが遠い昔のよう………」

 

 

 ドン、と羽沢珈琲店の床に重々しい物が置かれる音が響く。

 ギター、ベース、キーボード………バンド活動を続け、この重さは慣れたとは言え、練習で疲れた後の楽器の持ち運びは中々に堪える。

 

 

「だいぶ遊んだからね。遅れた分、取り戻さないと」

「それ、先月からずっと言ってるよねー。まあ、楽しいからいいけどっ」

「みんな、ちょっと待っててね。今コーヒー淹れてくるから」

「お~、練習後もツグってるね~」

 

 

 モカちゃんがそう思うんなら、きっとそうなんだろうな…………あ、今のお兄ちゃんみたいだったかな。

 そんなことを考えながら、五人分のコーヒーを淹れる準備を続ける。

 

 

「あれ、和那は?」

「お兄ちゃんなら今日はお出かけしているよ?夜遅くまで戻ってこないみたい」

「そっかー、カズさんいないんだ……」

「まあ、そういう時もあるよな」

 

 

 いつもなら『今日も精が出るな』なんて言いながら労ってくれるはずだけど、生憎なことに今日は不在にしていた。

 巴ちゃんの言うとおり、いくらお兄ちゃんでもいない時だってある。偶々、それが今日だっただけの話だ。

 

 

「こんな時間まで出かけるとな、むむむ」

「モカ?」

 

 

 ただ、モカちゃんが腕を組んで思案していた。

 確かにお兄ちゃんにしては珍しいかもしれない。けれど、そんなに違和感を感じるものなのかとも思う。

 

 ドリッパーにお湯を淹れる最中──────ふと、モカちゃんの方からこんな呟きが聞こえた。

 

 

「女の臭いがしますなー」

 

 

 …………フィルターからコーヒーの雫が落ちる音が、やけに大きく聞こえた。

 

 全員の視線がモカちゃんに突き刺さる。その後の皆の反応はそれぞれだった。

 

 

「うっ………ぐすっ………」

「いや、待て待て待て!?突然泣くなよ、ひまり!?いつものモカジョークだって!」

「何それ。意味わかんない。つまんない。笑えないから」

「蘭も怖えよ!なんで矛先をアタシに向けるんだよ!こっちが意味わかんねぇよ!」

「…………あっ、ご、ごめん、巴」

 

 

 モカちゃんが投じた言葉はまさに起爆剤だったようで、場が一層混沌とする。

 巴ちゃんが一身にとばっちりを受けている。あらかじめ、どこの誰に会いに行くのか聞いている身としては、私も言葉が足りなかったかな、と反省する。

 

 

「まあ、それはそれとしてー……つぐー、カズくんが会いにいったのって、あの人でしょー?」

「そうだよー」

 

 

 モカちゃんも見当はついていたようだ。

 敢えて名前は伏せているけど、認識の違いはないと思うので、私もそれに肯定する。

 

 

「………あー、アタシもわかったわ。ひまりも大体想像つくだろ?」

「──────あっ!あーあーあー!なるほどー!なら大丈夫だね!良かったー………」

「え?誰?」

 

 

 巴ちゃんもひまりちゃんも察したようだった。意外なことに、蘭ちゃんは気づいていないようで、私達の顔を交互に見ていた。

 

 

「しっかし、カズもよく付き合うよなー…………いや、いつも世話になっている身として失礼なのはわかっているけど、アタシだったらちょっとキツイぞ」

「うっそー!?巴がそこまで言うなんて意外!」

「あ、いや、苦手とかじゃないぞ!ただ、二人で対面するってなると尻込みしちゃうよなー、ってだけだからな!…………そう言えば、あの二人って何で仲良いんだろうな?」

「うーん……似た者同士だからなんじゃないかな~?」

「あっ、それわかるかも!」

「ねぇ、ちょっと……」

 

 

 似た者同士、似た者同士………心中で繰り返してみるけど、いまいちピンとこない。

 ひまりちゃんやモカちゃんにはそう見えているらしいけど、妹としては普段の雰囲気くらいしか似ていないと思う。

 言葉で上手く表現できそうにないので、この場では黙っておくことにした。

 

 そんなことを思っていたら、既に目の前には五人分のコーヒーが出来上がっていた。ここに帰る前にファミレスで夕飯は済ませてきたけど、少し口の寂しさを埋めるようなものはないか、冷蔵庫の中を確認する。

 ──────と、ちょうど目に入りやすい位置に、ぽつんと銀色のトレイが置いてあった。

 

 

「あ、みんな、プリン食べる?お兄ちゃんが作り置きしてくれたみたいだよ!」

「おっ、ラッキー!食べる食べる!」

「やたっ!さっすがカズさん!」

「………このプリンを食べてしまったことをあんなに後悔することになるなんて、この時のひーちゃんは思いもしなかったのであった」

「モカ!そんなこと言って、私からカズプリンを取ろうとしたって無駄だからね!」

「えー、ケチー」

 

 

 相変わらず好評なお兄ちゃん手製スイーツ。

 “カズプリン”って呼称はさておき…………こうして喜ばれると私も誇らしい気持ちになる。『食べるといい』なんて簡単すぎる書き置きを傍目にプリンを取り出し、コーヒーとともにみんなのもとへと運びに行くことにした。

 

 

「なんであたし蚊帳の外になってるの?」

「甘いもの苦手な蘭の代わりに、あたしが代わりに食べてあげるー」

「…………いい、あたしも食べる」

「……ほーん」

「何、その顔。てか、結局和那が会いに行った人って誰なの?」

「なーんでもなーい。お口チャックー」

 

 

 蘭ちゃんとモカちゃんがそんなやり取りをしていた。意外にも、まだお兄ちゃんが会いに行った人に気づいていないみたいだった。

 

 

 ──────これぞまさに“灯台下暗し(・・・・・)”です!

 

 

 イヴちゃんだったらそう言いそうだな、なんて考えながら、運んでいたトレイをテーブルに置く。

 カチン、と、カップ同士が当たってしまった音が心地良かった。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「お疲れ様、でいいのか」

「あ、ああ」

 

 

 カチン、と、グラス同士が当たる音が心地良かった。一口分、口に含んだビールから細やかな刺激が全体に広がっていく。

 

 

「こんなぎこちない乾杯は初めてだな」

「安心しろ、俺も初めてだ。そもそも、何に乾杯すればいいんだ?」

「…………成長、か?主に君の」

「それはお互い様だろう」

 

 

 対面に座る男──────蘭の父からはそんな戸惑いが見える。眉間の皺が見えないためか、普段よりもどこか柔らかいような印象を覚える。

 

 

「まあ何にせよ、久しぶりに一息つけそうだ。来てくれて助かったよ」

「恐縮だ。そこまでご無沙汰だったのか?食事会なぞいくらでも機会はあるだろうに」

「そうだな。だが、結局は家同士、得意先同士の繋がりにすぎん。気心の知れた者とのものは別だ」

「そういうものなのか。俺には難しい話だな」

「君はそういうものとは無縁だろうな」

 

 

 そう言う手に持つグラスの中は既に半分が無くなっていた。なるほど、彼も気苦労が多いことは確かなようだ。

 

 

「──────しかし、よくもまあこれほどの店を選んだものだ」

 

 

 溜息を吐きながら、周りを見回す。

 俺達のいる空間を切り取るように障子が設けられ、宴会の笑い声は聞こえず、遥か遠くに人の気配が少しばかり感じるばかり。

 背後には腰の高さまで格子状の背もたれが位置するする座椅子が、目の前には存在感のある漆塗りの座卓が鎮座していた。この部屋に案内される最中にも、何やら水音と竹筒が固いものに当たったような、風情のある音色はまだ耳に残っている。

 

 

「随分と金を持て余す生活を送っているように見える。わざわざこんな場所を確保する必要性がどこにあった?」

「言い方に悪意を感じるが…………まあ、この際だから白状すると、この店は君の勉強にもなるだろうと思って選んだ。大人の見苦しい背伸びとでも思ってくれ」

「なるほど。その見栄に心より感謝しよう」

「…………自分で言っておいておかしなことだが、せめて気遣いと言ってほしかったな」

 

 

 彼は彼なりに、俺のことを考えた上でのチョイスだったようだ。これも一つの経験としてありがたく受け取るとしよう。

 

 閑話休題(いただきます)

 

 

「食事は食事として素直に楽しむとして────まだ他にも目的はあるだろう。大方予想はつくが」

「………まあ、君の予想どおりだ」

 

 

 そもそもの話、一週間ほど前に彼から連絡があったのがきっかけであった。例外はあれど、わざわざ俺を呼び出す時なぞ、総じて目的は決まっている。

 …………まさかこれほどの格式の料亭に連れて行かれるとは想定外であったが。

 

 

「期待してもらっている手前悪いが、俺はあまり適任とは言えないぞ。それこそ、ひまりや巴の方が正確な情報を得られると思うが」

 

 

 そう言いながら、中心に位置しているホタテの刺身を口に運ぶ。ちょうど旬の時期のためか、心地よい歯ごたえとまろやかな風味が、さらにビールを誘惑させる。

 

 一方、それを聞いた彼は呆れながら目を伏せた。

 

 

「逆に聞くが、中年男性が女子高生を呼び出す構図は傍からはどう見える?」

「犯罪だな。通報されても文句は言えまい」

「よし、あとはわかるな?」

 

 

 完全に理解した。

 いくら娘の友人とはいえ、娘を抜きにして同じ空間に呼び出して食事をする構図は警察を呼ばれてもおかしくはない。

 性別の違いとは、実に難儀なもの───────む。

 

 

「ま、待て。実は俺もアウトなのか?」

 

 

 背筋が凍るような感覚を覚えた。

 従妹(いもうと)の友人、幼馴染とは言え、傍からは成人男性と女子高生。年齢的には大学生にはあたるが、事実関係で言えば、目の前にいる男とそう大差ないのでは──────?

 

 

「…………なんというか、もし君が聴取でもされてしまったら、冤罪でも認めてしまいそうで怖いぞ。周りが理解のある人たちで助かっているようだが、遠出したときは気をつけることだ」

「…………否定、できそうにない。忠告はありがたく受け取ろう」

 

 

 ………ここまで動揺したのはいつ以来だったか。

 別に俺がどんなレッテルを貼られようが、言わせたい者には言わせればいい。しかし、従妹(いもうと)や叔父叔母、そして幼馴染をはじめとした周りの人間が害を被る可能性があるなら話は別だ。

 今後、距離感については見直すべき時なのかもしれないが、優先順位としては彼の相談が上だ。今はそれを解決させるとしよう。

 

 

「さて、本題に戻るか。とは言っても、学校内のことは俺にはわからないところではあるが」

「構わない。君から見聞きしたことをありのまま教えてくれ」

「承知した。さて、どこから話したものか」

 

 

 人一倍口下手な俺としては正確なことを伝えられているかどうか不安だが、精一杯努めさせてもらうとしよう。

 

 さて、どこから話したものか…………とりあえず、ひとつの転換点であったガルジャムの時から話すとしよう。彼も当事者のひとりであったが、あの一件は他の要因も複雑に絡んでいた。それを含めて、俺の方から振り返ってみよう。

 

 また、苦しいこともあったが、それ以上に楽しかったことがある。この間のキャンプの一件もあるが、最近は別のバンドで活動している先輩たちと校内清掃をやった、なんて話も聞いた。

 学園でも、幼馴染以外の居場所もできつつあることを言うと、目の前の彼は「そうか」と軽い返事をした。

 …………緩みそうになる頬を酒で抑えようと、いつの間にか手にあったグラスの中身を一気に呷ったのは注意するべきかもしれない。

 

 他にも、日常の中であった些細な出来事を話していくと、もう充分なのか、今度は彼の方から口を開いた。

 

 

「大体わかった。やはりバンド活動はプラスに働いているようだな」

「ああ、俺も全てを把握しているわけではないが、バンド活動を中心に人間関係も広がっていっているようだ」

「そうか…………」

 

 

 彼にとってはそれが何より嬉しいようだ。

 ………そう言えば、昔──────Afterglowの結成直前、中学生だった蘭が授業を休みがちになった時期、彼にも相談が行っていたことを思い出した。父親として、そういった集団の中で居場所がないことはかなり心配していたのかもしれない。

 

 やがて、いよいよ酒と肴しか残りが無くなった──────そんな時、目の前からわざとらしい咳払いが聞こえた。

 

 

「さて、単刀直入に聞こう。君にとって、蘭はどんな存在だ?」

「む」

 

 

 蘭の父が、先ほどよりも真剣な顔つきでそんな質問が飛び出てきた。

 

 

「どうもなにも、従妹(いもうと)の古くからの親友だ」

「……………それだけか?」

「それ以外に何がある?」

「わかった。質問を変えよう。君は蘭のことを異性としてどう思っている?」

 

 

 …………ああ、なるほど。

 今日、彼が最も聞きたかったことはこれだったのか。

 

 

「おかしなことを聞く。俺は男で、あいつは女。それだけだろう」

「………もっとこう、ないのか?意識してしまうとか、そんなものは」

「貴方はさっき自分が口にした言葉すら覚えていないのか?」

 

 

 普段の彼からは考えられないような失態だ。

 顔を見ると、一杯目のビールを飲んだときよりも目が据わっている。いつの間にか脇に置かれた空の徳利の数々を見るかぎり、俺が必死に口を動かしている間にも、随分と進んでいたことはわかる。

 

 俺の返答を受け、今度は頭を抱える蘭の父。

 頭を抱えたいのはこちらも同じなのだが、彼は構わず口を開く。

 

 

「蘭より君のほうが心配になってきた。さすがに無欲すぎではないか?」

「そうなのか…………」

 

 

 無欲………無欲か。

 彼がそう思うならそうなのかもしれないが、一応、俺から弁明させてもらうとしよう。

 

 

「まあ、俺とて一応男だ。人並みには欲求はある方だろう」

「どの口が言う。君が人並みなら、君以外の同年代はチンパンジーか何かになってしまうぞ」

「待て、チンパンジーは相当頭が良いぞ。蔑称として使うならば他を当たれ」

「そんなことはどうでもいい」

 

 

 性欲の象徴として扱われるチンパンジーの立場を思うとどうでも良くはないが………今は俺の話をしている以上、確かに後回しにするべきか。

 一先ず、おそらく足りなかったであろう言葉を付け足すことを先決とした。

 

 

「欲求はある──────が、俺はあの五人が小学生の時から知っている。そんな俺が、今更そんな目で見ることができると思うか?」

「…………君の気持ちがわかった気がする」

「それは何よりだ」

 

 

 当然だろう。

 俺はランドセルを背負っている時から、あの四人との友人関係を続けている。今、高校生になったからとは言え、気を遣うことはあれど、根本的なものが変わるわけでもないだろう。

 

 

「まあ、あちらにとってはそんなもの関係ないだろう」

 

 

 だが、そんな俺に忠告が投げかけられる。

 

 

「むしろ、そう言った障害が大きければ大きいほど燃え上がるものだ。気を抜いていると、いつの間にか逃げ場がない状態になってしまうぞ?」

「そうか、現時点で囲ってきている本人の言葉は重みが違うな。忠告、ありがたく受け取るとしよう」

「──────ごほッ!?」

 

 

 礼を言葉にした途端、蘭の父は口に含んだ日本酒が溢れる。

 …………彼には申し訳ないが、魂胆は既に見抜いてしまっていた。

 

 

「理解した上で、付き合いを続けている俺が口にするのもおかしいが………人生に大きな影響を与える事柄に関わる以上、相応のリスクが伴うことは決して忘れないほうがいい。たとえ、他人の家であっても───いや、他人の家が関わる以上、より一層慎重になるべきだ」

 

 

 せっかくの酒の席だ。

 口にするまでもないかもしれないが、全て吐き出すとしよう。

 

 

「別に、貴方の行為が悪いとは言わん。親としては子の将来を心配なのは納得できる。やりたければ好きにするがいい。もっとも、娘に知られた結果、あの関係に逆戻りしたいのであれば、の話ではあるが」

「…………本当に、そういうところだぞ」

「すまない。こればかりは生来のものだ。悪く思ってくれて構わない」

「全くだ。本当に末恐ろしい」

 

 

 どうやら俺の言葉で頭が冷えたようで、表情に再び落ち着きが見られるようになった。

 

 しかし、彼としてはまだ腑に落ちない点があるようだ。

 

 

「では、君の意思はどうなんだ?蘭たちにかぎらず、そう言った浮いた話はなかったのか?」

「その期待には応えられそうにない。さっきも言ったが、それなりに興味はあるが、それよりも優先されるべきことがあるだけだ」

「優先されるべきこと、か」

「ああ」

 

 

 これこそ、今更口にするまでもないことだろう。

 

 

従妹(いもうと)が立派になるまで、俺は従妹(いもうと)と、その周りの人間を支え続ける。それだけだ」

 

 

 もし、従妹(いもうと)の行く道が暗闇に包まれているのであれば、俺はその先を照らす明かりになる。

いつか、従妹(いもうと)がその明かりを必要しなくなるその瞬間まで、そんな“いつも通り”を貫き通す。それが。あの家に引き取られた俺にとって、何よりも優先するべき使命であり、果たして当然の義務なのだから。

 

 ………現状、支えるべきはずの者たちに支えられている事実は棚に上げさせてもらおう。徐々にではあるが、これでも成長の兆しは実感しているので、そこは大目に見てほしい。

 

 

 改めて、蘭の父に目を向ける。

 先ほどの腑に落ちないような顔とはうって変わり、納得したように頷いていた。

 ………しかし、気のせいだろうか。俺にはどこか、決して俺に(・・・・・)向けるべきではない感情(・・・・・・・・・・・)が含まれているように感じた。

 

 

「どうした?また何か一言足りなかったか?」

「君も筋金入りだと思っただけだ。もはや兄と言うよりは父親だな」

「ほう。つまり、この食事会は“パパ会”になるわけだな」

「…………君から“パパ”なんて言葉が出るとはな」

 

 

 似合わない自覚はある………が、良い響きだ。

 気持ち程度に団結力が強まったような感覚がある。ひまりがよく“女子会”と言う単語を使う理由がわかる気がした。

 

 それはそれとして─────────

 

 

「父親、か」

「何だ?気に障ったのか?」

「いや、もし俺の父が貴方だったなら、なんて考えただけだ。父親のいない人間の、くだらない妄想と思って忘れてくれ」

「君にまだ“お父さん”なんて呼ばれる筋合いはない。あと二年と少し待ってから言いなさい」

「そうか、酒が進んでいて何よりだ」

 

 

 腕時計に目を向ける。思ったより話し込んでしまったようだ。

 彼も多忙な身だ。明日も用事があるだろう。ここでお開きにしたほうがお互いに利点があると思い、先ほど貫禄のある女将らしき女性が置いていった黒塗りのバインダーを開く。

 

 

「……………………………………そうか」

「ああ、会計のことなら気にするな。カードを切る」

「すまない。本当に、すまない」

 

 

 この日、最も勉強になったことを語らせてもらおう。

 父親とは責任が纏わり付くが、一方で相応の力が伴うもの。その偉大さと、己の未熟さを実感した。

 

 ───────これからの成長にも、乾杯しておこう。

 

 誓いと景気づけを兼ねて、いつの間にか手元にあったお猪口の中身を一気に呷った。





・今日のカズ語

「随分と金を持て余す生活を送っているように見える。わざわざこんな場所を確保する必要性がどこにあった?」
(こういう店に自分を呼ぶお金があるなら、少しは家族サービスに使うべきだと思う。そもそも、自分はここまでもてなしてもらう義理がないはずだ、の意)

「そうか、酒が進んでいて何よりだ」
(お酒が進んでいるのはいいが、かなりのハイペースのようにみえる。そろそろ控えてみてはどうだろうか、の意)


 メインが男連中なので、とりあえず幕間なんて括りにした次第でございます。アフグロの皆で飲酒ネタはやりたいけど、色々と引っかかりそうで憚られるのが悲しいところ。いくら二次でも未成年飲酒を助長させるような表現はできないよなァ!?なあ(ry

 さて、そろそろイヴちゃんを出そうと思います。同じ職場で働いているのになぜ拙作では出番が少ないのか、コレガワカラナイ。

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