3、4、4A、Qプレイ済みかつサントラ網羅している作者としては狂気乱舞ものですが、全体のユーザー的にはいかがなものなのでしょうか。
本話投稿時点で曲のコラボは決まっていますが、はたしてイベント限定ストーリーがあるかどうか……ぶっちゃけ、蘭とか沙綾のシャドウとか胃が痛くなるくらいに陰気なものになりそうですね。
同じバンドであれ、メンバーには各々予定と言うものがある。たとえ、五人揃わない場合でも自主的な練習は欠かすことはできない。
特に、アイドルとして仕事をしているPastel*Palettesではそれが顕著かもしれない。活躍して有名になっていくごとに個人の仕事が増え、さらに学生として勉学にも励まないといけないことを考慮すると、必然的に練習時間は削られていく。かと言って、パフォーマンスのレベルは有名になっていくにつれて、より高いものが求められる。ままならないかもしれないが、それだけ期待されている証拠と考えると、割り切るしかないところである。
だからこそ、忙しいスケジュールの中で捻出できた、今の自主練の時間は貴重なものだけれど──────
「彩ちゃん、また話を勝手に省略しているわよ。それじゃあお客さんに伝わらないわ」
「ご、ごめん」
例によって、私───白鷺千聖は彩ちゃんのMCの練習に付き合っていた。既存曲は何度も演奏しているため完成度は充分に高いレベルに仕上がっている。なので、普段は簡単な音合わせか、こうして彩ちゃんのMCの練習に力を入れている。
演奏する曲は同じでも、MCで原則話す内容は繰り返さないもの。アドリブの弱い彩ちゃんは、こういった練習を積まないといけない。
「その話の展開だと、せっかく遊園地で面白いことがあったって話をしているのに、『行ったことないのに面白いって言っている』ように伝わっちゃうわ」
「そ、そうだよね。本当に行ったとしても、行ってないかのように聞こえちゃうと意味ないもんね」
「ええ、薄っぺらい感想に聞こえちゃうのよ。じゃあ、もう一度話の構成から見直しましょうか」
同じ話を何度も聞かされるのは苦痛だけど、これもパスパレと彩ちゃんのため。回数をこなす毎に改善されていくけれど、普段の会話でできることが何でMCだとできなくなるのか疑問に思う。
………私の前だと身構えてしまうから、かしら?
………少し複雑だけど、それで本番前にいい練習ができると考えれば良いかもしれないわね。
そして、ようやく形になってきた時に、こんな能天気な声が降りかかってきた。
「千聖ちゃん。今日って、この後オフだよね?」
こんな切り出し方をする彩ちゃんは大抵妙なクセが出ている時なので、返事をするのがほんの少しだけ気が重い。
「ええ、今日はこれで終わりだけど……」
「そっか!で、千聖ちゃんって、よくあそこ行くんだよね。あの商店街の喫茶店」
「そうね。それがどうかしたの?」
思い浮かぶのはつぐみちゃんのお店。
最近仕事が増えてきているせいであまり通えてないが、そろそろ今度のオフに花音と行こうかな、とは思っていた。
「じゃじゃーん!」
そんなファンファーレとともに私の目の前に突き出されるスマホの画面。
彩ちゃん御用達のSNSのページに写ったものを見て、思わず目を見開いてしまった。
「羽沢珈琲店、和菓子道?」
「なんか、この期間だけスイーツのメニューが全て和菓子になるみたいだよ!期間限定のものもあるって!」
「……多分、イヴちゃんの発案ね」
敢えて“道”と言う言葉を使っている点や、最近現場に手作りの和菓子を持ってくるようになった点から考えるに間違いない。けれど、メニュー全てを和菓子に変えるなんて、大胆な改革をするとは予想外だった。
「じー………………」
ここまで言われた上に、この物欲しそうな視線が組み合わされたなら、誰でも彩ちゃんの主張はわかるはず。
繰り返すけど、最近のPastel*Palettesは個人の活動も増えてきた。つまり、五人全員で集まることが減ってきていることを意味している。現に、今いる練習スタジオには私と彩ちゃんしかいない。
加えて、私も新しい舞台の出演が決まっている。まだ稽古は始まっていないけど、これからさらに忙しくなるのは確実だ。
ふぅ、と一息ついてから返事をする。
「ちょうどキリもいいし、今から行きましょうか」
「うんっ!」
ぱあっ、と彩ちゃんの笑顔が花開いた。
本来なら、限られた貴重な練習時間だからこそ、ギリギリまで有効に使うべきはず。
けれど、Pastel*Palettesといる時間を大切にしておきたい──────ふと、そんな気がしたから頷いた。
………なんて、彩ちゃんと二人きりの場で口にするのは柄じゃないから、あの店の限定和菓子メニューに惹かれた、ってことにしましょう。
後片付けをしながら、そう誤魔化すことを決めた。
◆◆◆
「こんにちはー!」
扉を開けると、見慣れたはずの喫茶店が一変していた。
並べられていたはずのテーブルと椅子は初めからなかったかのように姿を消していた。代わりに畳と座卓、そして衝立が空間を彩り、擬似的な個室の座敷が出来上がっていた。
さらに周りを見てみれば生花や和傘、提灯、エトセトラエトセトラ……それらが和の雰囲気を引き立たすように配置されていた。
「あっ、アヤさん!チサトさん!らっしゃーい!」
変わり果てた内装に度肝を抜かれる中、小走りで近づいてきたのはイヴちゃん。今日、ここのアルバイトがあったのは前もって聞いていたため驚きはしなかった、けど………
「自主練、お疲れ様ですっ!今、座布団用意しますね!」
「イヴちゃんも、バイトお疲れ様。今日は袴なのね。似合っているわよ」
「ふふっ、ありがとうございます!」
イヴちゃんは自慢するように身に纏っている紺色の袴を翻す。着物の柄に注目すると、どこか西洋風な絵柄が目立つ。さらにはブーツの組み合わせからはどこか大正ロマン的な出立ちに見える。戦国や江戸の後の時代になり、武士がいなくなってしばらく後の時代のものであるはずだけど、本人の表情は非常に嬉しそうだ。
「では、こちらにお座りください!」
案内された席の座布団に正座する。
普段よりも低い目線で店内を眺めるのは思ったよりも新鮮だった。
彩ちゃんも私と似たような気持ちなのか、キョロキョロとあたりを見回しながら、はえー、と感嘆していた。
「随分と模様替えしたねー。この畳とか全部用意したの?」
「はい!大変でしたけど、カズナさんが手伝ってくれました!感謝感激、雨、嵐です!」
「いやいや!それ、私達の大先輩の曲だよ!?」
…………本当に、こんな返しが本番でできれば文句はないのに、と、残念に思っていた。そんな時であった。
「あ、和那さーん!こっちこっち!」
彩ちゃんが席の横を通りかかった、長身の人物を呼び止めた。
銀色の前髪の隙間から私達を見下ろす彼の容貌も、普段のエプロン姿とは異なっていた。
「呼んだか」
「あれ、和那さんは和服じゃないんですか?」
「和服だろう。この法被が見えないわけでもあるまい」
腕を広げ、着ている法被を見せる彼。
法被を着ること自体はいいとして……問題はそのデザインだった。
柄の派手さは別にいいとして、よりにもよってなぜ“ハッピー”という文字が刻まれているのか。本人はそんなくだらない洒落をきかせた自覚はないとは思うけど………大真面目にそんなものを着られたら、あまり思い出したくない顔を連想してしまいそうではないか。
「もー、それじゃあお祭りじゃないですか。ここはイヴちゃんを見習って、もっとおしゃれした方がいいですよ、絶対!」
「似合わないのは自覚している。年中お祭り騒ぎをしているお前の方が上手く着こなせるのだろうな」
「ね、年中お祭り騒ぎ!?それってどういう意味ですか!もー!」
「言葉通りの意味だ」
ぷんすこと怒る彩ちゃんと、対称的に無表情な彼。
…………私としては、かなり驚いている。まさか、彩ちゃんがこの人と自ら会話するほど知り合っているとは思っていなかったから。
ふと、こちらにも目があった。
すかさず姿勢を正し、彼に体を向ける。
「ご無沙汰しています」
「ああ、世話になっている」
「あ、やっぱり千聖ちゃんのことわかります?」
「顔は覚えているが、こうして面と向かうのは初めてか。これからもよろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
膝を折り、会釈してきたので、無心のままお辞儀をする。その一連の動作があった後、彼が手に持っていた冊子を私達に差し出した。
「では、これがメニューだ。イヴ、あとは任せる」
「御意、です!」
そう言い残し、彼は足早に去っていく。
その背中から
「あ、見て見て!千聖ちゃん!メニューまで和風だよ!」
「ええ、しかも手書きね。筆跡からしてイヴちゃんのものかしら?」
「えへへ!頑張りました!」
「じゃあ………私は、黒糖ロールケーキとグリーンティーのアイスをひとつ」
「ええと、宇治金時パフェとアイス抹茶ラテをお願いします!」
「押忍!カズナさん、注文入りました!」
紺色の和服を翻して席を離れるイヴちゃんの背中を見送る。
彩ちゃんはパフェを頼んだようね。
確かに彩ちゃんのイメージ通りだけど………正直、ここでそれを頼むのはナンセンスと言わざるを得ない。
「イヴちゃん、すごいやる気になってるね」
「そうね」
いや、せっかくの憩いの場でダメ出しするほど私も酔狂ではない。彩ちゃんもここに通ってから日が浅いのだから仕方ないでしょう。
けれど、声を大にしていいたい自分がいるのも事実だ。ここで頼むべきなのはパフェではない。ケーキ──────なかでもロールケーキが絶品なのだ。
「あ、そう言えば、なんでイヴちゃんってここで働いているのかな?今日はまさに日本文化って感じだけど、普段はイヴちゃんとあまり関わりがないような気がするよね」
「そう言えばそうね」
喫茶店では普通のケーキやパンケーキが主流かもしれないけど、この店はロールケーキに強いこだわりがある。生地は食べ応えのある厚いものから、スプーンで掬って食べなければ簡単に崩れてしまうくらいのふわふわで繊細な生地まで、その時勢ごとの流行を的確に抑えてくる。生クリームの儚………こほん、あっさりとしながら余韻に浸れる甘さは、老若男女あらゆる年齢層を容赦なく唸らせる。一度口にすれば、裏で何度も試行錯誤し、血の滲むような努力の結果に得た製法であることを、比喩なしに追体験させられる………そんな熱意が伝わる一品だった。初めて食べた時の衝撃は今でも鮮明に思い出せる。
「あれ、千聖ちゃん?どうしたの?」
時には、期間限定として新しいロールケーキが出ることがある。ポピュラーなものと言えば、去年のクリスマスのブッシュ・ド・ノエルかしら。店頭で売り出されたものを仕事帰りに持ち帰って、家族で食べたことがある。
あれは甘さが控えめな紅茶やコーヒーとの相乗効果を生み出すために、敢えて甘さが口に残るように意図して作られたのだと瞬時に理解できた。あの発想には私も脱帽してしまった。悔いがあるとしたら、それを花音と分かち合うことができなかったことくらいかしら…………
さて、新作の黒糖はどのようなものなのか。おそらく、緑茶との組み合わせを狙ったものだと推察され──────
「千聖ちゃーん!ちーさーとーちゃーん!」
「えっ」
「あっ、やっと反応してくれた!もー!私の話聞いてた!? 」
ふと、口をへの字にした彩ちゃんが視界に飛び込んできた。
いけないいけない。
「もしかして疲れてた?大丈夫?」
「あ、ごめんなさい、彩ちゃん。体調が悪いとかじゃないから」
「ほんと?無理してない?」
…………思っているほど心配をかけさせてしまったようで、恐る恐ると言ったように尋ねてくる彩ちゃんに、少しばかり罪悪感に襲われた。
誘われた側として、この態度は悪手だったと反省する。
「ええ、それは本当よ。無理なんかしてないわ」
「…………それは?」
…………あら?
私、何か変なこと言ったかしら?
首を傾げながら彩ちゃんの方をみると、何やらわかりやすいくらいにあくどい表情を浮かべていた。
「千聖ちゃん。あんまりここで隠し事はやめておいた方がいいよー?ほら、あの人に見つかって暴露されるより、自分から話した方が楽になれるよー?」
「ふむ、珍しく自分が優位に立てる場と理解した途端に攻勢に出るとはな。ここまでのわかりやすい身の振り方、見ている側としてはいっそ清々しい気持ちになるな」
「ど、どええええ!?」
「!」
どたどたと崩れ落ちる彩ちゃんと、反対に背筋が伸びる私。
声が聞こえた方向を見上げると、満面の笑みを浮かべるイヴちゃんと奇怪な法被を着たあの人。
「さて、注文の黒糖ロールとグリーンティーだ」
「宇治金時パフェにアイス抹茶ラテ、一丁あがりです!」
「あ、ありがとうございます」
単に注文したものを持ってきただけのようだ。
まるで見計らったかのようなタイミング。これには私もつい大袈裟に身構えてしまう。
で、奇声をあげながら腰を抜かした彩ちゃんはというと──────
「み、見てたんですか?」
「生憎、ここは広いわけでもないのでな。しかし、自分が大衆の視線を集める存在であるという自覚はないのか?お前が自分の評判を気にしていると同時に、周りもお前の行動を見ているぞ」
「え、エゴサなんてしてませんよっ!」
「…………エゴサ?なんだそれは。新曲か?」
「うっ、そ、それは………千聖ちゃ~ん」
助けを求める視線に合わすことなく、逸らす形で返答する。
これに関しては私が再三注意していることだ。まだ駆け出しの彩ちゃんには難しいかもしれないけど、改めない方にも非はあるのだから。
視線を逸した先で、少しばかり違和感を覚える。
私が注文したものと彩ちゃんが注文したもの、それに加えてお椀がひとつ、座卓に置かれていた。
器の中を覗き込むと、餡子の海に餅が浮かんでいる。間違いなくこれはぜんざいだった。
「あの、これ」
「知っている。頼んではいないものだ」
頼んでいないのは理解した上で、ここに置いた。彼はそう言い切った。
…………気は進まないけど、さらに尋ねようと口を開いた時。
「イヴ、俺は外出する。しばらく任せるが、何かあったら叔父に言うといい」
「あ、ちょっと………」
呼び止める声にも構うことなく立ち去る彼。
もう話すことはない、その背中はそんな空気を纏っていた。
そして、取り残されるぜんざいのお椀。
結局、これはどうすればいいのかしら?
「………彩ちゃん?」
「………うぅ、私、嫌われてるのかな?」
一方、彩ちゃんは打ちのめされていた。
………まあ、私だけじゃなくて一般の人、よりにもよってあの人に注意されるなんて、落ち込んでしまうのも無理もない。
流石に可哀想なので軽いフォローを入れようとした、その時であった。
「あ、ありがとうございます!お言葉に甘えさせていただきます!」
「え」
突然、彼の背中に向けてお辞儀をするイヴちゃんがいた。
「アヤさん、羨ましいです。私も、カズナさんに褒められるようにもっと精進します!」
「え」
おもむろに私の隣に座り、そんなことを口にするイヴちゃんがいた。
…………この状況は何なのかしら?
目の前のロールケーキどころではなかった。何が、どんな脈絡でこうなったのか、誰か説明して欲しい。
「…………千聖ちゃん」
「待って、彩ちゃん。私も混乱しているの。ひとつずつ、整理していきましょう」
「お二人とも、頭を抱えてどうしたんですか?」
首を傾げるイヴちゃん。
さすがモデル。同性から見ても可愛らしい仕草だけど、それはそれとして質問することとした。
「………イヴちゃん?あの人と事前に打ち合わせでもしたの?」
「打ち合わせ?何の事ですか?」
「…………この冷やしぜんざいは?」
「これは私のです!せっかくお二人が来てくれているので、私も休憩していいと用意してくれました!」
…………おかしいわね。
あの人、そんなこと一言も言っていないような気がするのは私だけかしら?ああ、このロールケーキやパフェを用意している間にそんな話をしたのなら辻褄が合う──────
「わ、私のことを褒めてたって、ほんと?」
「はい!巷ではアヤさんも有名になってきたからこそ、これからは有名人だって自覚した方がいいって、褒めてました!」
「ええ?もしかして、さっきの『生憎ここは~』の時?」
「勿論です!」
──────はずなのに、どうしてこんなに頭が痛くなるのかしら。
私としてもあの台詞からは注意にしか聞こえない。何をどう解釈すれば褒めていることになるのか、誰か教えてほしい。
「そ、そうかな?てっきり、珍しく千聖ちゃんをいじれるかなー、なんて思ったのがばれちゃったかと思ったけど、そんなことなかったんだ。えへへ」
「それも多分、カズナさんはわかってましたよ?」
「…………あれ?」
そして、目の前の彩ちゃんが勝手に墓穴を掘っていた。
「…………彩ちゃん?まだ時間はたっっっっぷりあるから、あとでゆっくりお話しましょう?」
「ご、ごめんなさ~いっ!」
立ち直りがはやいのは長所だけど、今の発言は聞き流せない。すっかり調子を取り戻したのはいいけど、それはそれとして彩ちゃんには後でお灸をすえることとしましょう。
「あれ、千聖ちゃん?いつもの千聖ちゃんに戻った?」
『話を逸らそうとしても無駄よ?』
…………そう言うはずだったのに、彩ちゃんの言葉が無視できなかった。
「…………いつもの、ってどう言う意味かしら?」
「えっと、さっきの千聖ちゃん、返事が最小限だったって言うか、できるだけ目立たないようにしてたような気がしたから」
………なるほど。
正直、彩ちゃんがそこまで私を見ていたとは思わなかったので、沈黙するしかなかった。
「チサトさん?」
心配そうに顔を覗き込んでくるイヴちゃんには申し訳ない気持ちになる。自覚はないけど、今の私はそこまで怖い表情をしているのかもしれない。
「………ええ、気にしないで。さっきはちょっと肩の力が入ってただけだから」
「チサトさん、もしかしてカズナさんのこと、嫌いですか?」
「えっ」
二人の視線が戸惑いの色を見せ始める。
…………今までの脈絡からして、そんな結論になるのも無理もないわね。
「そんなことないわよ?あんなに真剣に仕事に向き合う人を嫌いになんかなれないわ」
これは正直な気持ち。
彼の仕事に対するストイックさは、むしろ周りから心配されるほどと聞く。その仕事振りについては実際に何度も目の当たりにしている。真似するかは別として、あの姿勢は私も見習わなければならない部分はある。
…………まあ、色々なことを見透かしてくるのは勘弁してほしいから、積極的に関わりたいとは思えない。
「じー…………」
「じー…………」
「二人とも、はやく食べましょう?」
「うう、駄目かー………」
「チサトさん、いじわるです………」
じとっ、とした視線に構わない態度を見せると、諦めてくれたようだ。ふふふ、そう簡単に悟らせるものですか。
さて、すっかり放置していた新作のロールケーキを堪能する………前に、念のため話題も変えておきましょうか。
「そう言えば、イヴちゃんはどうしてここで働いているの?」
「あっ、それ私も気になってた!」
「んー、理由は色々ありますが、まずは立派な武士になるための修行として働いています!」
「ぶ、武士?」
思わずフォークが止まる。
喫茶店に武士道な要素なんてあるかしら………?
「はい!カズナさんのような立派な武士になるべく、日々勉強の毎日です!アイドルやモデル、部活で忙しくても、最後まで貫いてみせます!」
「………あー、なるほど」
「ええ、なんとなくだけど理解できるわ」
イヴちゃんがよく口にする“武士道の教え”を思い出す。
言われてみればそうだ。確かにあの六つの教えを体現したような人物だ。そんな彼から、武士道を貫く秘訣を学ぶためにここで働いている、と。
………ここまで“武士”と言われて違和感のない人、そうそういないわよね。
「だから、チサトさんにはカズナさんと仲良くなってほしいです。チサトさんにも、カズナさんから得られるものがきっとあるはずです!」
「イヴちゃん…………」
そんな、少しだけ物悲しそうな表情にたじろいでしまう。
…………そこまで言われると、いつまでも逃げ腰のままでいられなくなる。そもそも、お互いに悪いことをしているわけでもないのに、一方的に私が避けるのは失礼だと思い始めてきてしまった。
「戻ったぞ」
と、件の人物が戻ってきてしまった。
本当にタイミングを見計らっているのではないかと思ってしまうほど間が悪い………って、そんな愚痴も無駄ね。
「チサトさん!」
「千聖ちゃん!」
「わ、わかったわ」
少し会話すれば、二人も満足するでしょう。そんな気持ちで返事をした。
いつもファンの人達に言うような一言を言えばいいだけ………とは言っても、何を話せばいいのかしら?
──────そうだ、ロールケーキ。
これなら彼との共通の話題として機能する。
コホン、と咳払いをして、彼にまっすぐ向き合う。
人前に出たときのように笑顔を作る。
「あ、あの?」
「? どうした?」
そして、目の前の作り手に敬意を払い、素直な気持ちを口にした。
「あの、いつも美味しいロールケーキ、ありがとうございます!
「そうか、一口も食べていないのに味がわかるのか。流石だな」
……………。
………………………。
……………………………えっ。
恐る恐る、目の前のロールケーキに視線を落とす。当然、フォークすら入れられていないケーキがある。
で、私は何を言った?
『新作も美味しかったです!』なんて、食べてもいないのに言ってしまった?
「あ、ああああああああああああ!!」
恥ずかしい!恥ずかしい!
十秒前の私!なんでそんな余計なことを言ってしまったの!ありがとうございます、で終わらせれば良かったでしょう!
どうしよう、今の私、絶対顔が真っ赤になってる!
「チサトさん、可愛いです!みんなにも見てもらいたいです!」
「やめてイヴちゃん!こんな彩ちゃんみたいなミス、日菜ちゃんに見られたら一生からかわれるから!」
「酷いよ、千聖ちゃん!私だってそんなミスしないよ!」
「そうなのか?この間のライブのMCでも先にオチを話してしまったとSNSでも話題になっていたぞ。アイドルの伝統芸というものではないのか?」
「お願いですから、一緒にしないでください!反省しますから忘れてください!」
「そ、そうか。努力しよう」
そう言って彼はカウンターの方に去っていった。相変わらず表情の変化は乏しいけど、私の気迫に戸惑っていたのは目に見えてわかってしまった。
…………原因は二つ考えられた。
ひとつは、自主練で彩ちゃんのMCを何度も聞かされてたこと。結果的に彩ちゃんに注意していたことをそっくりそのまま体現してしまった。
もうひとつは、らしくないことに緊張していたこと。いくら苦手意識がある人が相手でも、緊張くらいコントロールできないなんて役者失格じゃない………!
「確かに、武士道を学ぶ必要があるわね………」
「えっ、千聖ちゃんも次のライブでブシドー!するの?」
「チサトさん!一緒にやりましょう!」
「…………それは遠慮するわ。それより、パフェのアイス溶けているわよ?」
「……………あーーーーっ!」
彩ちゃんに教えを説く前に、あの人のように動じない心を身につけなければ。
そんな悔しさを胸に、今度こそロールケーキを口にする。黒糖と黒蜜、生クリームの調和が取れた甘さは間違いなく私好みの味だったけど、なぜかそれが余計に後悔を深めていった。
遅くなりました。
イヴちゃんメインのはずでしたが、ちょうどパスパレ2章が来てしまったので丸山と千聖を投入。悪意ゼロとは言え、主人公みたいなパーソナルなことまで見抜いてしまう人なんて、普通は苦手意識を持たれても仕方ないですよね。
書いている最中に2章にからめて、「夢を与える側の人間が、誰よりもリアリストに徹しないといけないとはな」的なことを主人公に言わせたらどうなるかーなんて思いましたが、拙作はアフグロメインなのでそれはいかがなものかとも考えてしまい、試行錯誤した結果、千聖が羽沢珈琲店ガチ勢になった上に、丸山みたいにとちりました。千聖推しの読者の皆様、許してください。反省します。
あと、千聖と和那は面識はあったにもかかわらず、かのちゃん回でかのちゃんが反応してないのはなぜ?と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、一応理由はあります。ぶっちゃけ後付けなので、深い意味はないですけどネ!
感想お待ちしています!