水着とか、そんなチャチなもんじゃねぇ………もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ………。あ、フェス限モカはでませんでした。順当。
それはさておき、次話です。ようやく季節に合った話を投稿できました。どうぞよしなに。
文句なしの快晴、とは今日の空模様を指すのだろう。
この季節、多少の入道雲があってもおかしくないはずだけど、生憎、空は視界一面の群青色だ。
台風よりは断然良いに決まっているが、強烈な日差しを隠してくれる雲はひとつもない。
木陰を探しながら歩くのは骨が折れる。こんな日は外出なんてするべきじゃない日だと思う。
「かーくん!あーちゃん!はやくー!」
「待ってよ、はぐー!」
「おーい、二人ともあんまり走んじゃねーぞー」
そんなのをお構いなしに日向の中を駆ける二人を、あたし──────市ヶ谷有咲はひーひー言いながら追いかける。
前を走るのは戸山香澄と北沢はぐみ。
「お祭りって本番も楽しいけど、準備している風景って、見ているとワクワクするよね!」
「わかる!文化祭の準備みたいだよね!有咲もそう思うよね!」
「あー、まあ、確かにわからなくはないな…………実際にやりたいかって言うと話は別だけど」
この通り、あたしたちは夏祭り……の開催予定地に来ている。
一ヶ月ほど前に香澄は神社の祭りに参加したらしいけど、今日は別の神社で開催されるものだ。
この前も
ちなみに、真昼間から向かっている理由は聞かされていない。香澄と北沢さん、この二人から懇切丁寧に経緯を教えてもらおうとすること自体、余計な体力を使うだけだから深くは追及することはしなかった。
………とは言え、さすがに何か理由がないと踵を返したくなるほどの熱気だ。
「で、北沢さん。あたしたちってどこに向かってんの?」
「
かーちゃん………母ちゃん、か?
そう言えば、今日の夏祭りは商店街の組合が主導となっている、なんて話をばあちゃんから聞いたような、そうでないような。
「ふーん、北沢さんのところも店出してんのな。やっぱりステーキ串とか?」
「え?うん。はぐみのところも出してるよ?それがどうかしたの?」
「ん?いや、まあ、そうなんだなーって思っただけ」
どこか違和感がある会話だったけど、北沢さんは家が露店を出しているから、その手伝いがあるから早めに現地に来た、ってところか。
以前、商店街の人達には世話になった恩がある。なら、この炎天下でも手伝いをするのも吝かじゃないな。
「かーくん、見つかった?」
「うーん……見当たらないなー……結構目立つと思うんだけど、有咲はどう?」
「いや、あたしわかんねーし」
七夕の思い出探しのときに北沢家にはお邪魔させてもらったけど、夕方という忙しい時間帯に押しかけてしまったせいか、ご両親とは顔を合わせなかった。どんな人なんだろうか、少しばかり興味はある。
「あ!いた!かーちゃーん!!おーい!」
と、北沢さんが見つけたみたいだ。
駆け抜ける先には、北沢さんのお母さんがいるらしい。
北沢さんの性格から鑑みるに、快活でアグレッシブな肝っ玉タイプなのか。
それとも、北沢さんとは対照的な、物静かなクールタイプなのか。
…………結論から先に言うと、後者であった。
ただ、あたしにとっての誤算がひとつ。
なにせ、北沢さんが向かう先にいる“かーちゃん”とは──────
「む、はぐみか」
長身痩躯で、目つきの鋭い白皙の青年だったからだ。
「は、はあああああああああああああ!?!?!」
ここまで取り乱したのも、全て夏の暑さのせいだと思う。
◆◆◆
「というわけで、かーちゃんだよ!」
「紹介された。よろしく頼む」
「え、その………よ、よろしくお願いします………」
北沢さんの母ちゃん………ではなく、北沢さん称“かーちゃん”の紹介を受けたあたしはぎこちなく返答する。残念なことに、猫を被る暇すらなかった。
仕方ないだろう。“かーちゃん”と聞いて、それが男性なんて思い浮かべるわけがない。
………加えて、この人、雰囲気が怖い。
二頭身くらい身長差あるし、キッとした目であたしの目を見て、一切逸らそうとしないし、しかも、ずっと無表情だし………。
大袈裟、なんて言うやつはこの状況でこの人相手に「うふふ、ごきげんよう」とか言ってみろ。あたしには絶対に無理だ。
「お久しぶりです!あたしのこと覚えてますか?」
「? すまない。どこかで会ったか?」
一方、香澄はというと、件の男性に話しかけていた。こいつ、かなり顔が広いから顔見知りでも驚かないけど、相手はどうやら会った覚えがないみたいだ。
「………えーと、じゃあ、よっこいしょ」
ほんの一瞬、困った表情を見せた香澄だけど、何を思ったのか、頭にある“耳みたいなやつ”を両手で隠した。
………まさか相手が気づいていない理由が
「おい、待て香澄。北沢さんじゃないんだから、そんなことしても──────」
「ああ、香澄か」
「ピンポーン!正解です!やった!覚えててくれたんですね!」
─────────それでわかんのかよ!!?
と、喉まで出かかっていた言葉を必死に飲み込んだ。初対面の人に対してツッコミを入れるほど、あたしはアホ………こほん、大胆にはなれない。
「いや、気づかなかった俺に落ち度がある。責められても仕方あるまい」
「そんなことしないですよ!はぐも初めは気づかなったもんねー!」
「ねー!」
………ああ、このやり取りだけではまだ判断するのは早計かもしれない。けれど、多分、この人もしかしたらあの香澄と北沢さんと同類じゃないか?
香澄と北沢さんはあっはっは、と笑い合っていて、彼………ああ面倒くさい、かーちゃんは鉄面皮だけど、とにかくこっちは苦笑いしか出てこない。
第一、なんで香澄が“かーくん”で、この人が“かーちゃん”なんだよ。前例からして名前から文字って“なんとなく”決めているんだろうけど、普通逆じゃないのかよ。
「で、俺に何の用だ。まだ開店前だぞ」
「えっとね、かーちゃんが今年はどんな屋台出すのか気になっちゃって、つい早めに来ちゃった」
「向こう見ずさは相変わらずか…………串焼きだ。紆余曲折あったが、今年はこれに落ち着いた」
「あ、ほんとだ!屋台の看板にも書いてありますね!」
つられて見上げると、───準備中だったため、全体像は把握できなかったけど───、屋台の骨組みに掲げられた看板には『串焼き』と言う文字が確かに綴られている。
北沢さんの聞き方からして、この人は毎年屋台出しているみたいだ。
「うー、あたし去年、夏期講習で行けなかったんだよねー……去年は何だったんですか?」
「たこ焼きだ」
「すっごく美味しかったよ!かーくん、一昨年は行けたの?」
「勿論!タイ焼きは食べたよ!」
あれ、毎年同じ屋台やっているわけじゃないのか。過去のラインナップを聞く限り、意外とまともなチョイスだ。もしかしたら、同類と思ったのは早合点だったかもしれない。
最近、奇人変人に囲まれる機会が多いせいか、もしかしたら感覚が麻痺している気がする………やば、目頭が痛くなってきた。
…………つーか、あたし、蚊帳の外になってないか?
初対面の人がいるからツッコミ遠慮してたけど、さっきから一言しか話してないぞ?
「苦労しているようだな」
「あ、いえ…………」
身の振り方を完全に見失ったあたしに気づき、声をかけてたのは、意外にもかーちゃんだった。
「なになに?有咲どうしたの?そう言えば、さっきから静かだよね?お腹減ったの?」
「いや、お前じゃねーから、そんなことで黙るかっつーの」
「違うぞ、香澄。単純に話について行けていないだけだ。昔話に花を咲かすのもいいが、話について行けない人間がいることを失念していたようだ」
「なっ!」
………いや、待て。
そう言うのって、知った上でさり気なく話を振ってくれるものじゃないのか?わざわざ『こいつ仲間外れだぞ』って言うのか?
「うう、寂しくさせてごめんね、有咲ぁ……」
「ごめんね、あーちゃん。はぐみ、これから気をつけるね!」
「だああああっ!だからっていちいちくっつくな!暑苦しいだろ!」
「それにしても、ここに来るのが随分と早いな。俺以外にも他に用があるのではないか?」
いや、あんたは謝らないのかよ。
と、そんなツッコミも喉元でせき止めた。何度も明言するけど、あたしは初対面の人にツッコミを入れるほど非常識なつもりはない。
でも、確かになんでこんな時間に連れて行かれた理由は気になる。なんだかんだで聞きそびれていたけど、本当に商店街の人達の手伝いのために来たのか?
「はっ!そうだ、はぐみはとーちゃんの手伝いにきたんだった!」
「はっ!あたしも太鼓の準備に行かないと!」
「当初の目的見失いかけてんじゃねーか」
本当にこんなところで油を売っている暇なんてなかった。そもそも、あたしが着いてくる意味なんてなかったじゃねーか………まあ、勝手な思い込みをしたのもあたしだから、全面的に責められないけどな。
一方、“かーちゃん”は不意に参道と平行になるように腕を掲げる。指し示す先には、この神社のシンボルたる鳥居があった。
「はぐみの父なら神社側よりの屋台にいたな。香澄の向かう先と同じ方向だな」
「そうなんだ!ありがと!かーちゃん!」
「礼には及ばん。それより、香澄は太鼓の方に行く用事があるのか?」
「ふっふっふー、実はあたしも今年は叩くんですよー!」
「ほう、そうか」
かーちゃんは感心している……ようだ。
香澄の話によると、別の神社でお祭りをやった時に宇田川さん(姉)たちと太鼓の演奏をしたそうだ。その時の演奏が意外にも好評だったそうで、こうしてこのお祭りにもお呼ばれされたらしい。
………さらに余談だけど、演奏も素晴らしかったけど、香澄たちが太鼓を叩きはじめると雨が止んだらしい。
とうとう起きたまま夢を見られるようになってしまったか、とも思った。
けれど、一緒に演奏したとされる奥沢さんが、やたらと疲れた表情していたのを見かけたことのなるあたしとしては、これ以上は詮索するべきじゃないと断定させた。
「神社には巴と沙綾がいたな。お前らもそちらに向かうといい」
「ありがとうございます!」
「でもでも、こころんとも合流しないとだよね」
「げ、つ、弦巻さんも来るのか?」
弦巻さんがこっちに向かっているという情報だけでもつい身構えてしまう。
香澄と北沢さんと弦巻さん。この三大巨頭をひとりで相手取らないといけないのか?
「もう一人友人がくるのか」
「うん、そろそろこっちにつくと思うんだけど………」
急激に帰りたくなってきた。
弦巻さんのリムジンの中に奥沢さんが一緒にいることを祈る。そうじゃなかったら帰る。香澄たちが悲しそうな顔をしようが………しようが………ああもう!
「ちっくしょー!どうすりゃいいんだよ!!」
と、あたしじゃないどこかで、そんな悲鳴が同調した。
………待て、あたしは何も言ってないぞ?
声のした方向を振り向く。そこには参道の外れで屈強な中年男性たちが頭を乱雑に掻いている後姿があった。
「なんでまとめて置いておいたガスボンベが全部寝かされてるんだよ!?」
「知らねーよ!?ちょっと目ぇ離した隙にこうなってたんだよ!ったく、誰がやりやがった、こんな地味な嫌がらせ!」
「よっ、つつ、結構腰に来るな、これ…………おーい!誰か起き上がらせるの手伝ってくれー!」
多分、屋台の店主たち専用に利用するプロパンガスのボンベをひとまとめにしておいたのだろう。
ただ、それがひとつずつ丁寧に、寝かされていて一列に並べられていた、ってところだろう。
…………いやいや、待て。
どうやったらそんな状況になるんだよ?ドミノ倒しになってガス漏れとかしてたら大惨事になるから、良かれと思って寝かせておいたのか?親切なのかいたずらなのかわかりにくいな………。
「…………すまない。席を外す」
「うん、行ってらっしゃーい!」
それを見かねたのか、かーちゃんはあたしたちを置いて現場に向かった。その後ろ姿を見送るけど、あたしとしては少し心配だ。
「おい、大丈夫なのか?」
「かーちゃん、ああ見えて力持ちだからね。すぐ戻ってくると思うよ?」
あの服越しからでもわかるくらいの細腕でか?
まあ、見かけによらないといえば、そうなのか?
「みんな、ここにいたのね!」
「あっ、こころん!やっほー!」
かーちゃんと入れ違う形で現れたのは、件の問題児。
すかさず辺りを見渡す。
奥沢さんは………いない。例の黒服の人たちが遠くで見守っているだけだ。マジか。この場はあたしだけで乗り切るしかないのかよ………。
「それにしても、お祭りってすごいわね!どこもカンカン音がなってて、こっちも楽しい気分になってくるわ!お祭りの前には演奏会もするのね!」
「いやいや、演奏会じゃねーって!まだ準備してるだけだからな!本番は夕方からだから!」
「あら、そうなの?だったら、これからこれ以上楽しいことが待ってるのね!ワクワクしてきたわ!」
そもそも現状すら理解してなかった。
前に香澄たちと屋台巡ったはずだよな?だとしても、準備中だってことは一目見ればわかるよな?毎度、こっちの常識が通用しないな………。
そんな時、北沢さんのアホ毛が動いた………ような気がした。
「あっ、とーちゃんの声が聞こえた気がする!ごめん!はぐみ、ちょっと行ってくるね!」
「あたしも行くわ!はぐみのところのコロッケが食べたいの!」
「あっ、あたしもー!有咲!行ってくるねー!」
「いや、さすがにこんな時に用意してないだろ………って、おーい!」
一目散に鳥居の方へと駆けていく問題児たち。
自由奔放さに呆れながらも、難を逃れられたことに安堵するような、そんな溜息が溢れた。
…………あれ、おかしいな。
なんかこの状況にデジャヴを感じると思ったら、この前の花火大会と同じだ。香澄とりみがどっか行って、おたえと沙綾とはぐれて、結局ひとりでとっておきの場所に行った時だ。
…………なんだよ。また、香澄はあたしを置いて──────
「あたし、ひとりぼっちじゃん」
「寂しいのか」
「まあ、ちょっと……って、はへ!?」
背後からの完全な不意打ちに変な声が出る。
勢い良く振り向くけど、不幸にも足がもつれてしまった。
ちょ、ま、ま、と、後ろに倒れてしまいそうな時、あたしの腕を救いの手が掴んだ。それはかーちゃんではなく、ポニーテールが揺らめく見慣れた顔だった。
「………って、沙綾?」
「やっほー。有咲たちが来たって聞いたからこっち来ちゃったんだけど………そんなに動揺して大丈夫?」
「うっ、うるせー!」
あ、やべ。せっかく助けてもらったのに礼言えなかった。あ、あとでタイミング見計らって言おう。うう、絶対からかってくるよな、沙綾のやつ。
コホン、とわざとらしい咳払いで話を切り替える。今はそれどころじゃない。
「あー、いや、その、ほんと来てくれて助かる。あたしだけじゃ、あのお転婆三人衆の手綱を握るの無理だって」
「加えて、初対面の人間と二人きりになる場は避けられたな。良かったな」
「う゛っ、いや、あの、その………」
あれ、あたしは皮肉を言われているのか?
この人、さっきからあたしに対してさらっと毒吐いてくるし…………もしかして、何か失礼なことしちゃったか?
そんな罪悪感を胸に自らの行動を振り返るも、思考はぐるぐると空回りするばかり。
別に嫌悪しているわけじゃない。
ただ、香澄たちの知り合い、みたいな微妙な距離感にいる年上の男性との接し方なんてわからないから、ここまでまごついているだけなのに………。
「………有咲。猫かぶるのはさすがに相手が悪すぎるよ?」
「ち、ちがっ!そんなんじゃねーって………」
「いや、それ以前の問題だ、沙綾。俺は所詮“友達の知人”に過ぎん。こういった紹介の仕方をされた経験が少ないためか、単純に距離感を測りかねているだけだ」
「だぁー!さっきからなんで人の心の中読んでくるんだよ!………あっ、す、すみません」
思ってるそばからやってしまった。
ちくしょう………今日は本当にペース崩されてばっかだ………沙綾のやつ、なんか腹抱えながら必死に笑いこらえているし、なんなんだよぉ………助けろよぉ…………。
「…………何を気にしているのか理解できないが、敬う気もない相手に敬語なぞ、果たして使う意味があるのか?俺としては随分と奇怪に思えてしまう」
「え、えっと、有咲?たぶん、『変に気を使って敬語とか使わないで、有咲が話しやすい方法で話していいよー』って言いたいんだと思う…………んですけど、どうですか?」
「む、妙だな。俺としてはそう言ったつもりなのだが…………伝わってないのか?」
「わかるか!?………いや、わからねーですよ!?ああもう、どうすりゃいいんだよー!!」
真夏の昼下がり、今日一番の声が出た気がした。
気を落ち着かせるため、と、かーちゃんから手渡されたラムネを口に流し込む。
喉元で弾けるようなキンキンに冷えた刺激が、熱暴走を起こしかけていた頭を急速に冷却していく。
…………ちなみに、沙綾が「夏はこれに限るよね~」なんて言いながら一緒にラムネを飲んでるけど、あたしはそっぽを向いている。根に持ってやるぞ、こんにゃろー。
とにかく、ラムネのお礼に加えて、今後の接し方についても確認を取ることにした。
「ま、まあ、年上なんで、さすがに敬語は使わせてもらいます。すんません」
「謝罪は求めていないが、まあ、好きにするがいい。ああ、それと、これからも沙綾たちや俺の
「妹?それって、誰の──────」
「あっ、香澄たち戻ってきたみたいだよ。おーい!」
ようやく会話が成立しかけてきたところで、沙綾からあのお転婆たちが戻ってきたと報告が来た。
この居た堪れないような空気から開放されることに嬉しくなる一方、今度は天然ボケ三人、いや、四人衆を相手にしないといけないと思うと一層ゲンナリする。こっちは今すぐこの場を離れてエアコンの効いた部屋に入りたいってのに…………。
「あーもう、またかよ、ちくしょう!!」
と、またまたそんな悲鳴が同調した。ちなみに、あたしは何も言ってない。
声のした方向は、先ほどのガスボンベの場所とは反対だった。今度はなんだと振り向いてみると、思わずぎょっとしてしまった。
「おい、誰だ!こんなの建てたやつは!お前ら、ちゃんと見張ってたのか!?」
「だから知らねーよ!?ああ、くそっ、妙に完成度高えから、どこから崩していけばいいかわかんねぇぞ!?」
「待てバカ!下から取るのはやめろよ!軽いとはいっても、落下で怪我なんかしたら洒落になんねーからな!おーい、誰かー!背の高ぇやつ寄こしてくれーー!」
助けを求める声がした方向は、参道の途中の広場。
比較的スペースのある敷地に、工事現場とかで頻繁に使われる赤いカラーコーン──────
高さにしておよそ3メートル以上はある。こういうのは、本来であれば積み重ねられないような設計をされているはずだけど、どういうことか絶妙なバランスで奇跡的に形を保っていた。
「…………行ってくる」
「な、なんか変なイタズラばっか起こってんな。ガスボンベの件といい、毎年こんなに慌ただしいものなのか?」
「い、いや?あたしも毎年参加してるけど、こんなイタズラ初めてだよ?」
「よくわからんが、誰かの意図を感じるな。お前たちもはやく場所を移すといい」
そう言い残し、彼はピラミッドの方へと走っていった。あの人もあの人なりに苦労してるんだな、なんて思いながらその背中を見送ることとした。
………さて、と、あたしも自分の仕事に戻るとするか。
反対側からやって来る二つの人影に目を向ける………あれ、二つ?
「ありしゃー!さーやー!はいっ!コロッケあげる!」
「うわっ!マジであったのかよ!?」
「すごかったわ!何もないところからコロッケが出てきたのよ!きっと、はぐみのお父様は魔法使いなのね!」
「もうあたしツッコまねーからな……って、あれ?北沢さんは?」
「はぐなら、そのままお父さんのお手伝いに行っちゃったよ?有咲たち、コロッケいらないの?」
「いや、そんな気分じゃねーわ。沙綾、食べていいぞ」
「うーん、あたしもちょっと遠慮しようかな………」
そっかー、なんて少し残念そうな表情をしながら余ったコロッケを弦巻さんとはんぶんこする香澄。こいつらは後で演奏するからいいとして、あたしたちはこんな猛暑の中で食べられねーよ。北沢さんには悪いけど。
まあ、あとでお礼を言いに行くついでに様子見に行くとするか。
「そっちはどうしたの?なんか慌ただしいけど………」
「えーと………ああ、なんか説明するのもめんどくせー。とにかく、あの人はあっちのピラミッドを壊しに行った。あたしたちは放っておいていいみたいだし、先に行こうぜ」
「ぴ、ピラミッド!?すごーい!壊すなんてもったいないよー!」
「す、すごいわ!!文化遺産を破壊するなんて、これがロックっていうのかしら!?みんなも行きましょう!!」
いや、本物じゃねーし、こんなロックがあってたまるか………なんて考えていたら香澄と弦巻さんは子どもみたいにあたしの腕を引っ張ってくる。
「こころ様」
制止をかけたのは沙綾ではなく、いつの間にかあたしの背後にいた例の黒服だった。
「こちらにも同様のピラミッドをご用意いたしました。目的地である本殿道のりまで続いておりますので、そちらをご覧になられてはいかがでしょうか?」
「あら?あっちもすごいわ!みんな!こっちに行きましょう!」
弦巻さんが指差す方向には確かに同じピラミッドが神社の鳥居まで続く形で数棟ずつ直線上に並んでいた………というより、現在進行形で並べていた。もしかして、さっきのガスボンベもこの人達の仕業か?
普通に迷惑だろ、なんて考えていたら、いつのまにかアホ二人は走っていってるし………なんかもう疲れてツッコミが追いつかねーわ、どうすんだこれ。
「とりあえず、私達も行こっか?」
「お、おう」
まあ、方向としては目的地に向かう形になるので、あたしたちも付いていくことにした。あたしとしてはさっさと待合室か何かで休みたい。
その後、屋台が営業する頃にまた、北沢さんやかーちゃんのところに挨拶しにいけば………ん?
「あれ?」
「どうしたの?」
沙綾があたしの顔を覗き込んでくる。
…………そう言えばというか、肝心なことを聞き逃していた。
「結局、あの人ってどこの誰なんだ?」
あたしとかーちゃん、北沢さんの紹介があっただけで、お互いに自己紹介していない。
つまり、お互いの本名すら把握していないじゃないか。
「…………和那さんもだけど、有咲も大概だったね」
「待て、沙綾。そのトーンはマジで傷つくからやめろ」
勝手に沙綾に呆れられている理由はわからないのに、理不尽さを感じないのは何でだ。
つーか、あの人、カズナって言うのか………やっぱり、かーちゃん呼びはしっくりこないし…………い、いきなり名前呼びはハードル高いよな。名字聞こう、名字。
──────そして、沙綾から名字を聞いたとき、あたしは二度目の叫び声をあげることになるのであった。
友達と話していたら、“友達の友達”が乱入してきて、その場の会話は盛り上がるんだけど、別れた後に「あれ?結局あの人誰なの?」ってなるパターン、あると思います。
初めに挨拶というか、簡単に紹介タイムがあればいいんですけどね。やはりアイサツは大事。突然のアンブッシュはスゴイ=シツレイ。
あと、前回の後書きに前後編になると書きましたが…………すまん、あれは嘘だ。
①準備編②本番編(前半)③本番編(後半)の三話構成になります。やりたいことが出てくると、何でも詰め込もうとする悪い癖が出てますねこれは……。
次はいよいよ夏祭り本番(前半)。まだまだ未登場だったキャラが出ますのでお楽しみに。
感想お待ちしています!