空に太陽があるかぎり   作:練り物

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 時系列的には前話の続きです。
 まとめて1話にすれば良かったかな…?


1話 目指す先はまだ長い

 宇田川巴は、俺にとっては妹の幼馴染、という関係だけに留まらない。

 いや、良き友人という点では他の3人も同様ではあるが、巴に限っては他の3人よりも対等な関係性であるように思っている。

 

 

 実際に、店内で二人になったときには俺が相談事を持ちかけたり、逆に巴から相談事を持ちかけられたりすることもある。

 ……ここ最近は前者の方が圧倒的に多いのだが、そこは目を瞑ってほしい。年頃の従妹との接し方はわからないことだらけなのだ。

 巴自身、妹がいるせいか、嫌な顔せずに快く引き受けてくれるから、つい甘えてしまうのかもしれない。

 

 

 以前、ひまりが『巴が男だったら放っておかない』と言っていたが、確かにその通りだ。

 俺も巴が…………いや、よそう。

 とにかく友としては絶対に放っておかないだろう。

 

 

 そして、今日も同様に二人になったので、俺から相談している最中だ。内容は、ひまりが泣いて店を飛び出してしまった件について。

 つぐみから原因は指摘されているが、今後俺が取るべき行動についても含めて聞いてもらっている。

 

 

 全て話し終えたところで、状況は大体わかった、と巴から話が切り出された。

 

 

 

「さて、その上でお前は体重を気にしているひまりのために、糖分とカロリーたっぷりのパフェを作ろうとしてるんだな。鬼畜だな」

「…………………返す言葉もない」

 

 

 ……よくよく考えれば確かにそうだ。体重を気にしている者にパフェなんてものを差し出すなんて真似をしようとしたのだろうか。

 

 

 ちなみに、ひまりとつぐみは先ほど店に戻ってきた。ひまりは泣き止んでいたが、先ほどから恨めしそうな視線が俺の心に刺さる。正直なところ、今すぐ背を向けたいくらい痛い。

 

 

 俺の醜態には、さすがの巴も溜息が溢れてしまうようだ。

 

 

「相変わらずお前の天然思考とコミュ力のなさには呆れるよ、全く」

「なんだと」

 

 

 ここは反論すべきだろう。

 

 天然で、コミュ力がない。

 巴は間違いなく俺のことを指してそう言った。

 

 

 

 ……そうか。

 

 

 …………なるほど、そうなのか。

 

 

「え?嘘だろ。もしかしてお前、今の今まで自覚がなかったのか?」

「そんなことはない。多少はあった。だが、俺としては理解力が不足しているせいだと思っていたのだが、違うのか?」

「……すまん、お前が言っている”理解力”の意味がわからないんだが」

「む、“相手の心情や感情を読み取る力”と言う意味の理解力だが、伝わらなかったのか?」

「わかるか!まず言葉そのものが足りてないだろ!」

 

 

 巴としては、今の俺の返答では『聞き手の理解力不足が原因だろ。俺は悪くない』という意味に捉えられかねないらしい。そういうものなのか。

 

 

「まったく、自分の伝えたいことがそのまま伝わっていないなー、って普通感じ取れるだろ?なんでその時に訂正しないんだよ」

「!!………そうだな。これからは心がけるとしよう」

「今、『その方法があったか!!』みたいな顔したな…たまにお前が年上ってこと忘れそうになるよ…」

 

 

 相手に自分の想いが伝わらない。

 そんなことは日常茶飯事だろう。人間、自分の意図を100%そのまま相手に伝えることなんて不可能に近いのだから。

 

 

 ……しかし、そうか。

 他の人はそこで『違う、そういう意味じゃない』としっかりと意思表示をして訂正すればいいのか。

 俺としては、相手がどのような捉え方をしようと、それは相手の自由であり、俺に侵害する権利はないと考えていたのだが、どうやら違うらしい。

 

 巴だけでなく、つぐみからも耳にタコができるほど聞かされているように、俺は人一倍、言葉を尽くす能力が欠けているようだし、今後は気をつけなければならない。

 

 

「いや、そこまで思い詰めなくても……おい、ひまり。カウンターの裏にいるのはわかっているぞ」

「えっ、嘘!?いつから気づいてたの巴!?」

「出ていったフリして、さっき従業員用の出入り口から戻ってきたのハッキリ見てたからな」

 

 

 ……実のところ、この20年間の人生で、やたら対人トラブルに多く遭遇していたと思っていたが、そうだったのか。原因がはっきりとした今では悔いが残るばかりだ。

 

 専門学校時代の実習先で店長が軽いノイローゼになってしまったのは、実は俺が原因だったのか。

 彼にも守るべき家族がいるだろうに。

 本当に申し訳ないことをした。

 

 

 ─────俺も強く生きるから、あなたもどうか強く生きてくれ。

 

 

「おおかた、『カズさんに酷いこといっちゃった〜!どうしようつぐ〜!』ってなった結果だろ?よし、あとは任せた」

「ぎくっ!もしかして巴ってエスパー!?……でも、待って!そもそも何でこのタイミングで私に振るの〜!?」

「何言ってんだよチャンスだぞ!ここでビシッとフォローしてやれば仲直りもできるし、あわよくば幼馴染から先に進展するかもしれないだろ!」

「……はっ!な、なるほど!よし!頑張れひまり!私だってやればできるんだから!」

 

 

 まあいい。過去のことは過去のこと。

 落ち込んでいる暇などない。

 問題は今後の羽沢珈琲店の行き先だ。

 

 叔父叔母は優しい。だが、接客に支障をきたすほどコミュニケーション能力を欠いた人間をこのまま使ってくれるほど甘い考え方はしないだろう。

 こうなれば、矯正されるまで接客はずっとつぐみかイヴに任せたほうが…。

 

 

「あ、あの!そこまで落ち込まないでください、カズさん!」

 

 

 そう考えたところで、今度はいつのまにか店に戻っていたひまりから声が飛んできた。

 さすがつぐみだ。ひまりのフォローに関しては巴レベルだな。

 

 俺としては今後について真剣に考えていただけなのだが、どうやら傍から見たら落ち込んでいるように見えたらしい。

 ひまりは顔を赤くしながら───されども、俺の目をしっかりと見据えながら口を開いた。

 

 

「カズさんが、その…普段何を考えてるかわから…いえ、その、ほんの少し会話が苦手でも、私たちを大事にしてくれていることは分かってますから!だから、カズさんもそこまでおもいつめずに、今まで通りでいていいんですよ!心配しないでください!」

「…ひまり」

 

 

 一瞬本音がちらついたことや、なぜか少しばかり邪な感情が含まれていることについては幾ばくか疑問が残る。……いや、よそう。俺の所感は信用できないことはわかりきっているだろうに。

 

 だが、ひまりが本心から俺を気遣っていること、それだけは伝わった。

 ならば、俺もひまりのためを思って忠告しなければならないだろう。

 

 

「そうか、「俺のことを気にしてくれるのはありがたいがー」お前こそ自分の心配をしたほうがいい。その気持ちを少しでも自制に向けるべきではないだろうか?「もちろん俺も少しずつ努力して直していくからお互い頑張ろうー」…ん?」

 

 

 声のした方向に視線を移す。

 俺の言葉に重ねて発言したのは、カウンターの裏で頬杖をついているつぐみだった。

 

 

「お兄ちゃんってば、本当に一言少ないんだから。フォローする私の身にもなってよねっ」

「そうだな、いつも助かってる」

 

 

 そんなこと、わざわざ言葉で伝えるまでもないとは思うが、つぐみがそういうならそうなのだろう。今後の参考にさせてもらうとしよう。

 

 

 ふと、時計に目が行った。

 

 ……少し話し込みすぎたようだ。ひまりと巴も元々別の約束があるのに引き留めすぎてしまった。そろそろ仕事に戻るとしよう。

 

「そろそろ失礼する。ひまり、そういう訳だ。さっきは悪かった」

 

 

 そう言ったところ、「えっ、はい」「お、おう」と各々から返ってきた。

 ……ちゃんと俺の謝罪の意思が伝わっているのか心配だが、ひとまずその場を後にした。

 

 

 しかし、またつぐみに助けられてしまった。

 一体いつになったら俺は頼りにされるような従兄(あに)になれるのか。

 

 

「見ろ、ひまり。あれがお前の目指す姿だ」

「まだまだ、目指す先は長いんだね…」

 

 

 その通りだ。まだまだ目指す先は長い。

 現に、またひまりが落ち込んでしまっている。

 コミュニケーション────俺には荷が重いが、これからも精進あるのみだ。

 

 

 ……余談だが、この一件以来、Afterglow内にて俺の言葉が“カズ語”と呼ばれるようになり、また、カズ語によって勘違いを起きていることを指す“カズっている”という造語が生まれることとなった。

 

 本当に、モカには困ったものだ。

 

 

 

 

「あと、もしかしてカズのコミュ力が上がらないのって、つぐがそうやってすぐフォロー入れるからじゃね?」

「………えっ?……ええっ!?」

従兄(あに)従兄(あに)で、従妹(いもうと)従妹(いもうと)か……」

 

 

 そんな、休日の一幕。




 兄妹の関係は色んな形があると思いますが、こうして妹が振り回される側になるのも悪くないと思います。つぐにはもっとツグってもらう予定です。

 また、さらっと言及しましたが、カズくんは既に成人済です。
 普通に高校を卒業した後、大学には行かないで専門学校に2年通い、なんやかんやで実家の喫茶店を継ぐ道を選んだ――そんな設定です。

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