空に太陽があるかぎり   作:練り物

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21話 ランブリングメモリー(前編)

 今日もどこかで、鈴の音が聞こえる。

 秋も過ぎ、刺すような寒さが続く中でも、人々の足取りは軽やかだ。

 ……一部、逆に重くなる者もいるかもしれないが、それもまた風物詩と言うものだろう。

 

 じんぐるべる。じんぐるべる。

 

 陽気な音楽とともに、人工的な電灯が点滅する。機械的でありながら、幻想的な色彩を生み出すイルミネーションが今年のクリスマスシーズンを彩る。

 

 

「いささか骨が折れそうだ」

 

 

 つい、本心を吐露してしまった俺は、ショッピングモールのとある一角のテナントにいた。目の前には食料品……ではなく、小物類が並んでいる。

 

 毎年恒例の、羽沢珈琲店クリスマスパーティー。

 今年もひたすらジンジャークッキーを作るつもりだったが、なんと俺は飾り付け担当に任命されてしまった。

 

 理由は単純。

 叔父たちに『いい加減キッチンから離れろ』と言われてしまったからだ。

 

 毎年、クリスマスパーティーとは別に、羽沢珈琲店でもクリスマスケーキを作っている。

 受注生産なので、事前に申し込みがあった分だけ作る。

 だが……何を間違えたのか、叔母が数量の制限を設けなかったのが致命的だった。

 

 想定よりも二倍、三倍に膨れ上がる受注量に、俺は嬉しい悲鳴をあげながら着々と準備をしていた。

 そして、いつの間にか二徹目になっていることに気づいた叔父とつぐみより、しばらくキッチンの立入禁止令が発令。

 

 接客スキル皆無の人間としては、キッチンに入れない時点で役立たず以外の何物でもない。仕方ないので充分に休息を取ったものの、僅かばかり時間を持て余してしまったので、何か手伝えることはないか、つぐみたちに相談してみた。

 

 結果、気分転換も兼ねてクリスマス会の準備……特に料理関係から離れた飾り付け担当を任された。

 

 で、この飾り付け担当だが、俺以外にも助っ人がいる。本人は素直に認めたがらないが、飾り付けやアレンジメントに日々携わっている心強い味方だ。

 

 

「蘭め、なぜ店に入らない?」

 

 

 …………その味方が、いつまで経っても店の中に入ってこないことが問題ではあるが。

 

 来た道を戻ってみる。

 特徴的な赤メッシュが、店の前にいるのを見かける。気づいているのか、ちらちらとこちらの様子を見ながら、落ち着きのない素振りで、誰かと会話していた。

 

 蘭が向いている方角を見ると、そこには銀髪の女性がいる。年代は蘭と近そうだが、何やら、緊張感のある空気だ。

 

 

「なるほど」

 

 

 とにかく、この場において俺が介入するのは、蘭が望んでいないことは察した。

 仕方ないので、助っ人を外したまま買い物をすることにし、再び店内に身を投じた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 まずいまずいまずいまずい。

 何がまずいって、もうこの状況がまずい。

 

 

「美竹さん?」

「み、湊さん」

 

 

 きっ、とした視線が突き刺さる。

 ばったりと会ってしまった湊さんは、確実にあたしの存在を認識していた。

 

 無意識に、声がうわずってしまう。

 よりにもよって、この瞬間、この場所で出くわすなんて、なんて不幸な日なんだろう。

 

 

「きょ、今日はリサさんは一緒じゃないんですね」

「私は四六時中リサといるわけじゃないのだけれど」

 

 

 それもそうだ。

 前に似たようなことがあった際に、遠くからモカとリサさんが尾行していたことがあったから、つい警戒してしまった。

 もちろん、他にも理由はある。

 

 

「いえ、湊さんがひとりでこういう店に立ち寄るイメージがなくて」

「………そ、そうかしら?」

 

 

 ………あれ、随分と歯切れの悪い返事だ。

 これはさては、何かやましい事があるのでは───?

 

 

「そう言う美竹さんも一人?」

「……………………………え、ええ、まあ」

「なんでそんなバツの悪そうな顔をするのかしら」

「し、してないですよ」

 

 

 お互い様もいいところだ。

 やましい事は何一つなくても、返事に困ることはある。何と言おうと盛大に自分に返ってくるので、ここは飲み込もう。

 

 

「……………」

「……………」

 

 

 飲み込んだ途端に会話が終わった。

 この流れなら、『じゃあ、また』で去れるのに、なぜか湊さんも離れようとしない。

 

 

「そ、そういえばもうクリスマスですね」

 

 

 

 ───であれば、あたしも引くわけにはいかない。

 慣れていないけど、ここは当たり障りのない会話で牽制することにした。

 

 

「…………ええ、そうね。貴女は……クリスマスパーティーの飾り付けを買いに来たのかしら?」

「毎年皆とやるんです。Roseliaは練習ですか?」

 

 

 隙を見せないように、視界の端に映る連れに意識を向ける。無駄に目立つ身長をしているので、見つけることには苦労しなかった。

 何やら持ってきたメモと向き合い、買い物に勤しんでいる。

 

 

「コーン……ふむ、さすがに三角コーン、ではないだろうな」

 

 

 ホームセンターに行け。

 …………早速、先行き不安になる様子だけど、あたしからは何も言えない。言える状況じゃない。

 

 

「違うわ。その日はライブがあるの。………パーティーをやるとしたら、その後ね」

「へぇ、クリスマスライブですか」

 

 

 こっちもこっちで無様は見せられないからだ。Roseliaの面々はクリスマスだろうと何だろうと、やることは変わらないみたいだ。

 

 ほんの少しだけ感心している一方、湊さんの目つきがさらに鋭くなった気がした。

 

 

「………意外ね」

「何がですか?」

「気にしないで。私の買いかぶりだったようだから」

「何勝手に納得してるんですか。言いたいことがあるなら、はっきり言ってくださいよ」

 

 

 その言葉で、あたしの心に棘が立つ。

 わけのわからない理由で落胆させられて、『はいそうですか』なんて言えるわけがない。

 

 

「…………美竹さんたちなら、私達のようにライブをすると思っていたから。あまり興味がなさそうで、少し意外だっただけよ」

 

 

 …………ああ、何だ。そんなことか。

 沸点に達しようとした頭が一瞬で冷える。

 

 

「何が言いたいのかわからないですけど、あたしたちはやりませんよ。きっと、これからも」

「一応、理由を聞いてもいいかしら?」

「さすがにこの時期になって予約も準備も間に合いませんし。何より、Afterglow……いえ、あたしたちにとって特別な日なので」

「そう。残念だけど、そういう事ならこれ以上は何も言わないわ」

 

 

 そう言葉にする湊さんの表情は、本当に残念そうに見えた。あたしたちの存在を意識してくれていることは嬉───悪くないけど、事実として何も準備していないから、何もできない。ここは諦めてもらおう。

 

 …………全く、湊さんといい和那といい、ハッキリ物を言うくせに、肝心な部分はこっちから聞かないと言おうとしないのは本当に何なんだろう。

 前のライブバトルの時はわざとだったのは知っているけど、今回のは素か。二人って、ある意味似た者同士なのかな。

 それはそれで何かムカつ──────

 

 

「あっ」

 

 

 そう言えば和那どうしてるんだろう。

 完全に意識の埒外だった。慌てて視線を向ける。

 店内自体、そこまで広いわけでもない。無駄に目立つ容貌は嫌でも目立っていた。

 

 

 

「こんなものか」

 

 

 透明の買い物かごには、メモに書いてあったものばかり。変な物はなさそうだ。

 ホッとする反面、なんで自分よりも年上の人間がちゃんと買い物できているのか一喜一憂しないといけないのか甚だ疑問に思う。

 

 

「失礼、会計を頼む」

「はい、承りまし………あら?」

 

 

 何にせよ、これであたしもこの場を離れられそうだ。買い物を一人で任せてしまったことは後で謝ろう──────

 

 

「お客様、もしかしてパーティーの準備ですか?」

「もしかしなくてもそうだが?」

 

 

 ──────と思ったけど、雲行きが怪しくなってきた。

 

 

「いえ、よろしければ他にパーティーグッズを取り扱っているので、是非そちらもご検討いただければなー……なんて思ったりして♪」

「ほう。具体的にどのようなものがある?」

「例えば……仮装とかいかがてしょうか? お客様、背は高くてなかなか細身でございますし、色々とお似合いのものがありますよ!」

 

 

 心中で、溜め息を漏らす。

 なんだ、あのグイグイと迫る店員は。この前つぐみに連れられて行った時は、そんな媚びた態度じゃなかったのに。

 金ズルにでも見えたのか知らないけど、こと嘘や誤魔化しは一切通用しないのが、この和那だ。

 

 もう勝ったも同然だ。相手が悪かったね。

 

 

「ふむ……歯の浮くような見え透いた営業トークだな。付き合う暇はない。連れを待たせている」

「連れ………ああ、あの赤色のメッシュの──────」

「ん、ん゛ん゛っ!」

 

 

 ちょっと待ってそこの店員。

 さすがにそれは反則でしょ。

 

 我ながらわざとらしい咳ばらいに、和那からも溜め息が漏れる。こっちの意図は伝わっているはず。

 ごめん、和那。あとで謝るから。

 

 

「取り込み中のようだな。すまないが、見させてもらう」

「あら、でもさっきは『全然興味ないぞ』みたいなご返事だったような……?」

「………なぜそうなる? 個人的には興味があると言ったつもりなのだが」

「やった!ありがとうございます♪」

 

 

 あああもう……なんか和那も乗り気みたいだし……あたし、いつになったらこの場を離れられるんだろう……。

 

 

「……………今、随分とわざとらしい咳払いしなかったかしら」

「そ、そうでしたか?ここ、少し乾燥してますから」

 

 

 やばいやばいやばい。

 湊さんの視線がきつい。すっごい怪しんでる。咄嗟に出てきた苦し紛れの言い訳は、我ながらさすがに無理があると思った。

 

 それを知ってか知らないでか、湊さんはやや呆れたように腕を組む。

 

 

「体調管理は基本でしょう? 喉はボーカルの命。今更こんなこと言わせないで頂戴」

「余計なお世話です。体調には気をつけてます」

「そう。ならさっきの咳はわざと(・・・)なのね」

「っ」

 

 

 あ、墓穴掘った。

 ………駄目だ、あたし。こんなに気を遣わなきゃいけないことなんてなかったから、もう何がなんだかわからなくなってきた。

 はやく……はやく切り上げてってば和那……。

 

 

「これは………馬のキグルミ? いや、被り物か?」

「いえ、トナカイですよ?」

「精巧ではあるが…………しかし、角がないぞ」

「トナカイですよ?」

「いや、待て。トナカイは鹿とは違って、雄雌を角の有無で区別は──────」

「トナカイですよ?」

「……………そういうのであれば、そうなのだろうな」

 

 

「美竹さん?急に頭を抱えて」

「聞かないでください………何でもないですから………」

 

 

 体調は悪くないのに、頭が痛い。

 このままじゃだめだ。和那に期待するより、あたしがこの場をどうにかするしかない。

 折れそうな心を奮い立たせて、攻めに転じることにした。

 

 

「で、湊さんこそ、こんなところで道草食ってて良いんですか?」

「……………」

「湊さん?」

「み、美竹さんが離れたら、私も離れるつもりよ」

 

 

 露骨に目を逸らす湊さん。

 よし、この調子だ。このまま湊さんが自発的に離れてくれればいい。

 

 

「それより美竹さん。あなた、何か隠していない?」

「別に、何もやましいことなんてないですけど」

 

 

 だけど、湊さんも引くつもりはないみたいだ。核心をつく質問に後ずさりそうになるけど、本当にやましいことはしていない。

 なら、こっちが引く理由なんてない。

 

 

「じゃあ、なんでさっきからあの店の様子を伺っているのかしら?」

「………………」

 

 

 まずい、バレてる。

 冬なのに、汗が吹き出そうになる。

 

 あんなに揺さぶりをかけられた以上、アドバンテージは明らかに湊さん側にある。

 しくじった。攻めに転じるのが遅かった。

 

 

「怪しいわね………ちょっと行ってくるわ」

「湊さん!」

 

 

 それだけは駄目だ。湊さんと和那を会わせるわけにはいかない。

 

 こうなったら実力行使だ。

 あたしの横を通ろうとする湊さんの腕を掴もうと手を伸ば──────

 

 

「あっ」

「む」

 

 

 ───す前に、ドン、と鈍い音がする。

 湊さんが誰かとぶつかったみたいで、あたしの手が届く頃には、既にその誰かに支えられていた。

 

 ……………いや、誰か、と言うより。その、何というか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんなさ…………………………………………う、馬?」

 

 

 なんか、馬がいた。

 

 ……………何、これ?

 

 

 

 

 

 

 

「─────────ハッ」

 

 

 

 一瞬、正気を失いそうになったけど、どうにか理性が勝った。

 朝、起きた時みたいに働かなくなってしまった頭を回転させて、状況を整理する。

 

 湊さんが馬………いや、馬の被り物をした変質者にぶつかって、倒れそうになった湊さんを変質者が支えている。

 

 よし、通報しよう。

 

 

 

「トナカイだ。いや、トナカイらしい…………すまない、俺も自信がない」

 

 

 ──────聞き慣れた声が、冷や汗を加速させた。

 この現実から目を背けたくなるけど、不本意なことに、変態(コレ)和那(連れ)だった。

 何があったの。あたしが目を離している隙に、何がどうしてそうなったの。

 

 で、その馬の和那こと馬和那(バカズナ)が固まっている湊さんから手を離すと、今度はあたしに顔を向ける。

 

 

「出るぞ。こっちも買い物は終わった」

「えっ、あっ、えっ?」

「はやくしろ。この店は危険だ。走る準備をしておけ」

「ちょっ、いや、話を」

 

 

 危険、って、本当に何があった。

 なぜか数少ない私服が乱れているし、普段これでもかと動揺しない和那が珍しく焦っているし、本当にわけがわからない。

 

 

「ああ、そうだ」

 

 

 これ以上場を混沌にする気なのか、馬和那(バカズナ)は、まだ状況が飲み込めていない湊さんに向き合う。

 

 ビニール袋から何かを取り出すと、あろうことか、それを湊さんの頭(・・・・・)に被せた。

 

 

「向かいに開店した猫カフェに行くつもりのようだが、コレをつけていくと二割引きになるそうだぞ。俺より使い道があるはずだ。好きに使え」

「え」

 

 

 素っ頓狂な言葉が出てしまう。

 …………ああ、猫カフェとか、二割引きとか、もう色々ツッコみたいけど、最も指摘したいのはコレしかない。

 

 

「──────」

 

 

 固まる湊さんの頭部。

 そこには、グレーの猫耳(・・)カチューシャがつけられていた。

 

 この馬、曲がりなりにもあたしの先輩に何てことをしているんだろう。

 

 

「………それにしても、互いが相手に知られたくないと察していながら、切り上げるタイミングを見失うとはな。そもそも、隠し通したい理由すら明確に理解していないのに意地を張り合う姿、俺からしたら幼稚に見えてしまう」

 

 

 極めつけにはこの言葉。

 ほんと、もう、そこまでにしておけよ和那。

 

 

「あーん、お客様ー!今なら『これでアナタもケンタウロス!』キットをお買い求めいただければ、人馬一体の立派なトナカイですよ!盛り上がること間違い無しですよー!」

 

 

「ではな。蘭、逃げるぞ。掴まっていろ」

「…………………」

 

 

 ズルズルと、引きずられるようにその場を退散させられるあたし。

 傍から見たら、暴れ馬に引きずられる騎手みたいなものか。

 

 目下の問題はこの馬鹿の説教だけど、問題は山積みだ。

 放心状態で、いっそ哀れに思えてきた湊さんに見送られる。

 …………心底同情しながら、今度会った時は謝ろうと心に決めた。

 

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

「…………で、何か言うことは?」

「白状すると、俺はコレを馬だと思っている」

「そういうこと聞いてないから」

 

 

 先ほど居た場所とは反対側のモールの一角。

 俺はなぜかベンチで正座をさせられていた。

 

 目の前には仁王立ちしながら睨む蘭。

 どうやら、先ほど睨み合っていた学校の先輩に失礼な真似をしたことに立腹しているようだ。

 …………失礼さで言えば蘭にも刺さる言葉だろうに。何やら難しい距離感にいることは察することができる。

 

 

「はぁ……ほんとわけわかんない。次、湊さんと会った時、どんな顔すればいいの……」

「顔を見せたくないのか。では、これを使うか? 悔しいが、着心地は悪くないぞ」

「怒るよ?」

 

 

 気を遣ったつもりだが、逆効果だったようだ。であれば、今の蘭の機嫌を取ることはできなさそうだな。業腹だが、ここは時間を置くとしよう。

 

 

「最悪……もう楽器店寄って帰ろ……」

「わかった。俺も配慮が足りなかったことを反省しよう」

 

 

 せっかく蘭が、あの先輩と俺が接触しないように気を遣ってくれたのだ。

 察するに、俺との相性は悪いのかもしれんようだが…………さっきは俺が一方的に話しただけだ。現時点では何とも言えない。

 

 

「………呆れたものだな」

「なんかバカにされた気がするんだけど」

「違う。お前は皆から頼まれた買い物をしないで、自分の買い物だけをして帰ろうとする顔の厚さに感心しただけだ」

「……………今回のことはノーカンにしてあげる」

「行幸だな。さて、行くか」

 

 

 どうやら不問にしてくれるようだ。

 何と言うんだったか………棚からぼた餅、と言うやつか。たまには褒め言葉(・・・・)を口にするものだな、と考えながら、蘭に連れられて楽器店に入る。

 

 

 所狭しと飾られる楽器たちを眺める。

 先ほどまで雑多な人混みばかりを見ていた身としては、まるでそのままギターやベースに置き換わったようにも思える。

 

 

「この間、弦交換したばかりなの忘れてた。ちょっと待ってて」

「ああ」

 

 

 手放しに『広い』とは言えない店内に取り残される。

 買い物袋を持ったまま立っているのも退屈なので、改めて辺りを見渡す。

 

 

「そういえば、一度も入ったことはなかったな」

 

 

 振り返れば、学生時代は音楽とは無縁の生活を送っていた。従妹(いもうと)が長年ピアノに触っていたためか、それに纏わる話を聞くことはあった。

 しかし、知識面で言えば中学時代で止まったままで、あの五人がバンドを始めてようやく多少なりとも意識するようになった程度だ。

 率直に言うと、いささか場違いのように思えてしまう。

 

 仕方ないので、蘭が歩いていった方向に足を運ぶと………ふと、あるものに目がいった。

 

 

「……………これは」

「お待たせ。どうしたの?」

 

 

 丁度いいところに、目当ての物を見つけた蘭が戻ってきた。

 買い物の邪魔するのは忍びないが、ここは有識者に尋ねるとしよう。

 

 

「蘭、これは何だ?」

「今更何言ってんの? ギターでしょ。あ、これ結構いいやつだ」

「む、お前たちが持っているものと違う気がするぞ」

「………嘘でしょ。アコギとエレキの違いすら知らないって、マジ?」

 

 

 …………そんな信じられない物を見るような目をされても、俺は困るしかないわけたが。

 仕方ない、と言った様子で、蘭が各々のギターの違いを説明してくれた。

 

 個人的にはざっくりとした程度で充分だったのだが、何やら蘭が饒舌に語り始めた。

 情報過多なことこの上ない。しかし、俺が興味を持ってくれたことが予想以上に蘭を刺激したようだ。

 

 

「なるほど、理解した。だが、お前は持っていないのか?」

「…………まあ、今のところは。もういいでしょ。早くつぐみたちのところ行こう」

 

 

 やや興奮していたことを恥じながら踵を返す蘭についていく。

 

 改めて、アコギとやらを眺めながら、手元に近いものの弦をひとつ、弾いてみる。

 重く、沈むように染み渡る低音。

 それでいて、どこか懐かしい音色は、かつての()を想起させる。

 

 

「そうか。これも、ギターだったのだな」

 

 

 古い記憶に浸りたい欲求を振り切り、場を後にする。

 今は、いつもより歩幅を小さく、スローペースで歩きたい気分だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おや、友希那。起きていたのか。浮かない顔をしているけど、何か悩みでもあるのか?」

 

「お父さん……実は、今日、ショッピングモールで新しくできたカフェに行ったの」

 

「へぇ、楽しそうだな」

 

「その近くで偶然会った後輩と話をしていたら、向かいの店から出てきたトナカイを名乗る馬にダメ出しされながら猫耳をつけられて、そのまま後輩が引きずられていったの。おかげでカフェで出費が二割抑えられたのだけど……私、どうしたらいいのかしら?」

 

「ココアでも入れよう。きっと練習で疲れているんだ。夜ふかししないで、早く寝なさい」

 

「…………ええ、そうするわ」





 タイトルど直球勝負。後編はクリスマスパーティー……のちょっと前の話をやる予定です。

 さて、長らくお待たせしてしまいましたが、もう今年も終わりですね。作者としては、拙作がここまで伸びてくれた年なので、それはもう充実した一年でございました。皆様にとっても、この作品がそうであるのならこれ以上の喜びはございません。
 感想お待ちしておりますが、誠に申し訳ないことに大晦日はコミケ初詣云々で感想返しはできなさそうです。
 また来年、ということでご容赦ください。それでは良いお年を!
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