空に太陽があるかぎり   作:練り物

24 / 24
 ここは一言だけ。
 Happy Birthday! つぐみ!


幕間 二人っきりの誕生日(つぐみ誕生日回)

 夜の商店街は、実に静かだ。

 馴染み深い北沢精肉店や、やまぶきベーカリーなど、日が昇る前から仕込みを始めるような店は言わずもがな。それ以外の店も、シャッターが閉まっていたり、もう片付けを始めていたりしている。

 

 つい最近まで、慌ただしかった商店街も、徐々に落ち着きを見せ始めている。あちこちにあった締め縄や門松も、既に押し入れの中。空を見上げてみれば、あれだけ見えていたオリオン座も姿を消し、寒さも幾ばくか和らいでいることから、これから一気に春の陽気になるのかと錯覚してしまいそうにもなる。

 

 

「おっ、つぐみちゃん! そう言えば今日は誕生日だったね! おめでとう!」

「あっ、ありがとうございます!」

 

 

 ちょうど、子供の頃からのお得意さんが店じまいをしているところに出くわした。

 

 そう。

 恥ずかしながら、今日は私の誕生日なのです。

 

 振り返ってみると、色んな人から祝福をもらってしまったと思う。

 毎年祝ってくれる幼馴染(みんな)は、今日のためにささやかなパーティーを開いてくれた。

 偶然居合わせていた(みんなによばれた)あこちゃんと紗夜さん、さらにお客さんからもお祝いしてもらっちゃった。ひまりちゃんには一本取られちゃったかな。

 

 その後、練習のためにみんなでCiRCLEに行くと、パスパレとハロハピにばったり会った。イヴちゃんと千聖さん、花音さんも含めて、全員が『おめでとう』って言ってくれた。こころちゃんが盛大にパーティー開こうとして、それに日菜先輩が悪ノリしちゃって練習どころじゃなくなっちゃったけど……………。

 

 

「はぁ〜……………」

 

 

 祝福されっぱなしの一日だけど、私からは溜息がひとつ溢れる。実を言うと、家に帰る足取りは軽くない。

 高校生になってから色んな人たちにお祝いしてもらえるようになったことは心の底から嬉しい。ただ、肝心の人からはまだ不穏な動きしかないことが心にのしかかる。

 

 

「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ……」

 

 

 頭に浮かぶのは、少し困った兄の顔。

 幼馴染と誕生パーティーをした羽沢珈琲店はおろか、ここ三日ほど家を離れていた。

 どこ行くのー、と聞いてみると「南だ」と一言だけの簡潔すぎる回答だけ。

 行き先は不明。ちょっと寂しくなったから電話をかけてみると、無機質な機械音か返るばかり。

 そんな話を幼馴染(みんな)にしてみると、そろって苦笑いが出てくる始末。

 

 

「…………はぁ」

 

 

 我ながら期待しすぎかもしれないなぁ、と心中で自嘲する。もう高校生になったんだから、家族からのお祝いから卒業する頃合いなのかもしれない。

 

 …………でも、一番祝ってもらいたい兄(ヒト)から関心を寄せられない事実を突きつけられるかもしれないと思うと、気分が落ち込むのも無理ないと思う。

 

 そんな取り留めのない思考に参っていると、もう家の近くに着いてしまった。

 羽沢珈琲店(うち)も、もう店じまいしている時間帯。

 にもかかわらず、ぼんやりとした光が窓から漏れる。

 

 この明かりの付け方だけで、誰がいるのかわかってしまった。

 

 

「あっ!」

 

 

 みんなから貰ったプレゼントを胸に抱えて駆け出す。さっきの足の重さが嘘のようだ。

 店の前で一度立ち止まる。

 ガラスに反射している自分の口元が緩んでいないか確認して、扉をゆっくりと引く。

 

 

「あっ、おかえり、お兄ちゃん!」

 

 

 ───やっぱりいた!

 

 キッチンで洗い物をしている姿を見て駆け寄る。それに気づいたのか、お兄ちゃんの鉄面皮も仄かに崩れた。

 

 

「おかえり、と言うべきなのは俺の方だろう」

「そうだけど! 帰るなら帰るって言ってよ!」

 

 

 テーブルに乗り出して顔を覗き込む。

 今まで離れていた距離が、このカウンター越しになっただけで安心感が一気にこみ上げてくる。我ながら子供っぽいかもしれないけど、ここは大目に見て欲しい。

 

 

「まあいいや。それよりどこ行ってたの? あと、今何してるの? みんな心配していたよ?」

「待て。一気に質問されるとさすがに返答に困る」

「あ、ごめんね」

 

 

 つい、はしゃいでしまった。自省して、カウンター席に座って一息つくと、そっとカップが目の前に差し出される。

 香りからして、ホットココアかな。ありがとう、とお礼を言いながら一口分、口に含むと、いつもと違う風味を感じた。

 

 

「あれ、これ深みあるね。どうしたの?」

「新作だ。少し南の方に行ったとき、ついでに調達してきた」

「調達………あっ!」

 

 

 ようやく腑に落ちた。

 突然の旅行の目的は慰安ではなく、新しい仕入先の開拓だったみたいだ。

 

 

「うん! これだったらうちでも出せるね! あれ、ついで(・・・)って?」

「…………明日まで黙っているつもりだったが、仕方ないか」

 

 

 ココアに続いて差し出されたのは、手のひらサイズの円形のケーキ。

 チョコソースでハ長調の記号が描かれ、白い皿に鎮座するそれは、今まで見たことのないザッハトルテだった。

 

 

「すごい手が込んでるね。これも新作? お母さん、これ作れるかな………」

「叔母が作れる必要ない。これを最初で最後に口にするのはお前だからだ」

「えっ?」

 

 

 首を傾げる。

 また言葉が足りてないのか、さっきのお兄ちゃんの発言を反復しようとすると、逆にお兄ちゃんの方から補足が入った。

 

 目の前のザッハトルテに、ホワイトチョコでデコレーションされたプレートを添える形で。

 

 

「お前のために作ったと言っている。つぐみ」

「──────」

 

 

 ぽかん、としてしまった。

 その意図を正確に飲み込めたのは、その数秒後だった。

 

 ───あ、そうだ。私、誕生日だった。

 

 

「…………呆れたな。まさか忘れていたとは」

「え、えへへ……さっきまで頭一杯だったんだけど……」

 

 

 パタパタと、火照る顔を手で仰ぐ。

 帰ってきてくれたことに安心して、ぽっかり忘れてしまったみたいだ。お兄ちゃんからしたら、それも筒抜けなんだろうな。

 恥ずかしいけど、嫌な心地は一切しない。

 

 

「本来なら明日(・・)出すつもりだったのだが、こうなったら背に腹は替えられん」

「そうなんだー………あれ?」

 

 

 …………明日?

 なんで今日じゃなくて明日なんだろう?

 

 

「お兄ちゃん。今日って何日?」

「何を言っている。六日だろう」

「…………七日、なんだけど」

 

 

 ───ぴしり、と、何かが固まる音がした。

 

 流れる動作でポケットからスマホを取り出すお兄ちゃん。表情は変わっていないため、一見落ち着いているように見える。

 

 

「…………………………………七日、だな」

「あ、あははは…………」

 

 

 意味深な間からはどれだけショックを受けたのかが察せられる。

 誕生日は覚えていても、お兄ちゃんの中では昨日を生きていると思っていたみたいだ。

 

 

「面目ない。まさか時差ボケに惑わされるとはな」

「あ、そうなんだ。時差ならしょうがないよね……えっ? 海外にいたの?」

「ああ。だが、結果的に駆け込みで祝う形になってしまったな。本当なら一番最初に祝うことができればよかったのだが……」

「き、気にしないで! 私はそれでも嬉しいから!」

「そうしてもらえると助かる。そうなると、もう誕生パーティーでたらふく食べた後か。ならば、このケーキは明日にした方が良さそうだ。今片付ける」

「あっ」

 

 

 しょんぼりと落ち込んだまま、目の前のケーキを取り上げられる。形を崩さないようにラップを被せたそれを冷蔵庫の中に放り込み、同時に途中だった洗い物もあっという間に片付けてしまった。

 ……余程悔いているのか、その手際の前には口を挟む余裕すら与えてくれなかった。

 

 

「渡したいものがある。一時間後に部屋に行く。悪いが、それまで風呂にでも入っていてくれ」

「ちょっ、お兄ちゃん!」

 

 

 時間がない、とばかりに、言いたいことだけ言って自室に戻るお兄ちゃん。

 僅かな明かりが灯る店内に、ぽつんと取り残される。飲み干してしまったホットココアのカップも既に乾燥機の中で、あるのは幼馴染(みんな)から貰った入浴材セットだけ。

 

 

「しょうがないなぁ、もう」

 

 

 呆れ半分、期待半分の感想を吐露する。

 待ち望んでいたのも事実なので、ここはお兄ちゃんに合わせることにした。

 

 一時間あれば、お風呂も問題なく楽しめる。

 せっかくなので、早速貰った入浴材のどれかを楽しむことにした。

 

 …………んだけど、ちょっとした問題がひとつ。

 

 

「…………………」

 

 

 無意識に、視線が羽沢珈琲店の冷蔵庫に向いてしまう。

 あのホットココアと見せつけられたザッハトルテが呼び水になったのか、ちょっとだけ───ほんのちょっとだけ、小腹が空いちゃったみたいだった。

 

 …………あのケーキ、そこまで大きくなかったよね?

 

 

『ケーキは生菓子だからね〜。その日に食べないと味は落ちるし、食感も変わっちゃうよ〜。それに〜、見たところアレ、出来たてだから超美味しいことは間違いなし。もう、今日は年に一度の誕生日なんだから……ゆー、食べちゃいなよー』

 

 

 こんな時、巴ちゃんはひまりちゃんが誘惑してくる、って言ってたけど、私だとモカちゃんが誘惑してくる……。

 いけない。モカちゃんは太りにくい体質みたいだから……言い方は悪いけど、あてにしてはいけない。誘惑は振り切らないと。

 

 

『そうだよ、つぐ! この時間帯にケーキはダイエットの天敵中の天敵! “まあ、今日くらい良いよねっ”が積み重なると、あとで体重計に乗った後の後悔につながるんだから! ここはぐっと堪えて、日を改めてゆっくり食べるべきだよ、絶対!』

 

 

 あああ、私の中のひまりちゃんが守ってくれる……。

 そ、そうだよねっ。私のために作ってくれたケーキだから、間違ってお母さんが勝手に食べたりしないよねっ。

 

 

 

 

 

 

 …………でも、ひまりちゃん。

 もし、ひまりちゃんが私の立場だったら、これ、我慢できる?

 

 

 

 

『………………………………むりです』

『も〜、つぐ〜。今度からはストッパーはひーちゃんじゃなくて蘭かトモちんにしないと〜』

 

 

 

 そうだね。気をつけるよ、モカちゃん。

 今度から、紗夜さんにお願いするね─────────

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 

「食べたのか」

「────────────」

 

 

 ここは私のお部屋。

 今、時間通りに訪ねてきたお兄ちゃんのジト目から必死に目を逸らしている最中でございます。

 せっかくお風呂上がりなのに、冷や汗をかきそうなくらいに追い詰められています。お兄ちゃん自身、そんな意図はないけど。

 

 

「それもいいだろう。俺から言うことは、無理な追い込みだけはしないようにしておけ……というくらいだ」

 

 

 だからこそ、この優しさが余計に自責を促す。肯定される度に、自分の耐え症のなさが露わにさせられているみたいで居た堪れなくなる。もういっそのこと、説教してくれた方が楽になれるかもしれない。

 

 

「まあ、俺も準備のできなかった側だからな。とにかく、これを受け取ってほしい」

「は、はいっ!」

 

 

 変な返事とともに手渡しされたモノ。

 片手サイズに収まる無地の黒い箱からは、大人っぽい上品な雰囲気がある。

 正直、私が負けちゃっているかと思ってしまう程に、似合ってないのではないかと思ってしまう。

 

 

「あ、開けていい……かな?」

「好きにしろ」

 

 

 許しを得る必要なんてないのに、わざわざ聞いてしまう。開けるにしても、誰かの保障が欲しかった。

 

 恐る恐る、箱を開けてみる。

 中身を見て───私は目を奪われてしまった。

 

 

「ネックレスと………ブレスレットだ!」

「いささか派手すぎるかもしれんが」

 

 

 やや遠慮気味に言われたとおり、意匠は派手な部類だった。チェーン部分からヘッドにかけて、眩しいくらいのゴールドで基調され、

 アクセントとしてルビーやガーネットのような色彩の装飾があちこちになされている。ヘッドの部分は、円形の枠に方位磁針のような針が時計のように張り巡らされている。モチーフは太陽のようだ。

 

 見たところ、お兄ちゃんの嗜好をベースに、できるだけ私の趣味に合わせてくれた……のだと思う。それでも、私の方に傾倒し切れない不器用さが、逆にお兄ちゃんらしくて自然に笑みが溢れてしまう。

 

 高校生が身につけるにしては少し大人すぎるかもしれないけど……幼馴染(みんな)と比べて個性が薄い私にとっては、これくらいの派手さがちょうど良いのかもしれない。

 

 

「……それにしても、これ良く出来てるね。もしかして、すごい高かった?」

「いや、元手はかかっていない。自作だからな」

「そうなんだー………………えっ」

 

 

 今、とんでもないことを言われた気がする。

 自作……つまり、このアクセサリーを、目の前にいるお兄ちゃんが作った。認識の違いがなければ、そういうことになってしまう。

 

 

「旅先で会った職人に教えてもらった。製作期間の割には、会心の出来だと思っている」

「ぷっ……今、すごいドヤ顔してるよ、お兄ちゃん」

「…………………それだけ、自信があったんだ」

 

 

 口を閉ざしながら、恥ずかしそうに頬をかくお兄ちゃん。見ていると、こっちも自然に口元が緩んでしまう。

 確かに、出来は良すぎるくらいだった。それこそ、市販で売ってると言われても騙されてしまいそうなほどに。

 

 けれど、ここにあるのは世界にひとつだけのモノ。悩みながら必死に作ってくれたものが嬉しくないはずがない。

 

 

「───うん、ありがとう、お兄ちゃん。 大切にするね」

 

 

 だから、今日一番の笑顔でお礼を言葉にした。

 お兄ちゃんは、返事の代わりとばかりに満足そうに微笑んだ。

 

 改めて、ネックレスとブレスレットを見比べる。その輝きは、照明の光が反射するどころか、眺める自分すら写してしまいそうなほどに澄んでいる。

 

 

「でも、これが手作りなんて言われても誰もわからないんじゃないかな。このゴールドとか純金みたいだもん」

「当然だ。純金(ホンモノ)だからな」

「そっかー。なら当たりま──────えっ?」

 

 

 

 ………お互い、目を見合わす。

 

 

 

「…………純金(ホンモノ)?」

「ああ」

「…………正真正銘?」

「そうだと言っている」

「で、でも、手作りって言ったよね?」

「手作りだ」

 

 

 何をそんなに驚く、と疑問符が浮かんでいるお兄ちゃん。

 …………いやいやいや。

 待って。何か、色々と、おかしい気がする。

 

 

「………お兄ちゃんって、どこから作ったの?」

「始めからだ」

「えっと……せ。設計図から?」

「ああ。そこから素材調達から加工まで全て俺だ」

「も、元手がかからなかった、ってつまり……」

「自力で調達したからな。強いて挙げるなら、道中の旅費や飲食代程度か」

「き、金って、そんな簡単に採れるものなの?」

「少なくとも日本では採れないな。だからわざわざ南の方へ行った。たまたま装飾に使える宝石の原石も採れたのは僥倖だったな」

 

 

 ───頭が痛くなった。

 

 つまり、突然の旅行の目的は、羽沢珈琲店の仕入先の開拓じゃなくて、向こうで金を採るためだった、と言うことになる。

 じゃあなんだ。電話して繋がらなかったのは、海外にいたことと、本当に電波の届かない鉱山とかにいたから?

 

 

「常連の黒服の男を知っているだろう。あの男が金が採れる鉱山や、この手の装飾品の職人を斡旋してくれた。お前のプレゼントを用意できるついでに、仕入先の開拓もできて一石二鳥だった以上、これに乗るしかないと思い立ったわけだ。プレゼントの他にも実にいい刺激を……どうした? なぜ震えている?」

「おおおおお、お兄ちゃん、その、なんていうか……ひ、ひとつ言っていい?」

「遠慮する必要はない。何が言いたい?」

「その…………プレゼントにしては、ちょっと重すぎるよ、これ」

「重い? ネックレスは六グラム程度だぞ」

 

 

 物理的な意味じゃないよ。精神的な意味で重すぎるって意味だよもう。

 純金かつ、装飾もビーズじゃなくて本物の宝石とか、完全に高校生が手にしちゃいけないものだよもう。

 

 恐る恐る、震える手で元のケースに戻す。傷つけてしまってはいけない。これは机の奥底に眠らせることにした。

 

 

「……………そうか。どうやらまた俺は間違えてしまったようだな。気の利いたプレゼントのひとつもできない従兄(あに)とは、何とも情けないばかりだ」

 

 

 無表情のように見えるけど、間違いなくしょんぼりしているお兄ちゃんに心が痛む。

 

 どうすればいいか、右往左往している間にも、お兄ちゃんは部屋を後にしようとしている。

 

 こんな顔にさせたくない。

 プレゼントが嬉しいのは、偽りのない本心だ。でも、これはさすがに私一人がもらうにしては荷が重すぎる。とてもじゃないけど、身につけられるものじゃない。

 

 

 ──────ひとりで抱え込む必要なんてないだろ。

 

 

 ふと、いつか聞いたような、そんな言葉が舞い降りてきた。

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 

 呼び止めた後の動きは、我ながらかなり自然体だったと思う。

 一度は封をしたそれを、再び手に取る。

 その内のひとつを取り出し、ちょっとばかり背伸びをすればいいだけ。

 

 

「…………つぐみ?」

「ちょっと待ってね……うん、こっち向いていいよ」

 

 

 お兄ちゃんが振り向くと同時に、左手首を見せる。そこには、貰ったばかりのブレスレットがひとつだけ巻かれている。サイズはぴったりだ。

 もうひとつ、セットのネックレスは──────目の前に吊るされている。

 

 

「…………なぜ俺にこれを」

「えへへっ」

 

 

 いたずらっぽく、笑ってみる。

 見立て通り、チェーンが長めだったことと、細身だったためか、レディースでも問題ない。むしろ、私とは比較にならないほどに似合っている。それこそ、まるで初めから身体の一部だったような錯覚を覚えるほどに自然だ。

 

 

「やっぱ、私が身につけるにしては重すぎるよ。とてもじゃないけど、今の私だと着せられちゃうよ。

 ……けど、お兄ちゃんが片方付けてくれるなら、もう片方は私も持てるから! だから、それはお兄ちゃんにあげるっ!」

 

 

 あれこれ理由は言ったけど、正直言ってこれはただの願望とこじつけだ。

 このアクセサリーはお兄ちゃんの方が似合うと思ったから、これをつけたお兄ちゃんを見たかったことがひとつ。

 そして、お兄ちゃんが付けてくれれば、その妹の“証”として、私もこれを身につけていられると思ったことがひとつ。

 ………弱い私はこうでもしないと、この贈り物には向き合えそうになかった。

 

 

 ──────後日、この兄妹ペアルックについて幼馴染(みんな)に死ぬほどイジられる羽目になることになるけど、それは別の話。

 

 

 

「──────」

 

 

 今日のお兄ちゃんはよく表情が顔に出る。

 さっきの残念そうな顔といい、今の面食らった顔といい、普段なら偶に出る程度の変化が、こうも度重なる日は、過去を遡っても存在しないかもしれない。

 

 

「そうか………そうか──────そうなのか」

 

 

 噛みしめるように、何度も呟く。

 幼馴染(みんな)は知っているかわからないし、本人はバレてないと思っているみたいだけど、お兄ちゃんは心が揺さぶられると、同じ言葉を繰り返す傾向がある。

 過去の最高記録は三回。当時、何に揺さぶられたのかは残念なことに覚えていないけど──────

 

 

「承知した。なら、これは俺が預かろう。ただ、プレゼントの半分を受け取ってしまった以上、もう半分の埋め合わせをしなければな」

「もう、そんな気にしなくてもいいのに………あ、なら旅行のお土産話を聞かせて! 小さかった頃みたいに、寝ながらお話しようよ!」

「そんなこともあったか。だが、あの頃はお前の方が一方的に話をしていた記憶しかないぞ」

「だから、今日はお兄ちゃんにいっぱいお話してもらうからねっ!」

「……………難しいな。だが、頑張ってみるとしよう」

「やたっ! なら、枕はこのクッション使って!」

 

 

 

 

 

 

 …………こうして夜は更けていく。

 

 たどたどしいお話を聞きながら思う。

 

 幼馴染たち(みんな)の“いつも通り”が確認できる羽沢珈琲店(ここ)が好き。

 

 私に変化をくれる人達が来てくれる羽沢珈琲店(ここ)が、前よりずっと好き。

 

 …………そして、こんなにも私を愛してくれて、いつも私を信じてくれる家族がいてくれる羽沢珈琲店(ここ)が──────

 

 

「──────やっぱり、大好き!」

 

 

 私は信じている。

 来年は、もっと、もっと、羽沢珈琲店(ここ)が大好きになっていることを──────

 

 

 

 




 明けましておめでとうございます、からの、つぐみの誕生日。
 本当に申し訳ないことに、せこせことクリスマス会の後半を書いていて全然手が回らなかったため、ガルパライフが公開されたくらいの時間帯からタイムアタック感覚で作りました。粗は追々修正します。

 それにしても、この主人公、重い。
 いくら家族とはいえ、誕生日にアクセサリーは重いでしょうと思う作者ですが、元の彼はもっとキッツいものをバレンタインのお返しにあげてますから多少はマイルドと思うことにしました。

 感想お待ちしています!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

ストーカーしていたと思ったらストーカーされていたのは俺だった話(作者:アロアロス)(オリジナル:現代/恋愛)

 銀髪狐耳タートルネックにダッフルコート、おまけに眼鏡をかけている。▼ 尻尾は四本、身長183cm、人気インディーズバンドの一員、担当はベース。▼ 名前を宮舞天音と呼ぶ。▼ 眼が眩むほどに輝く星に、それでも必死に手を伸ばしていたのに、その恒星が向こうから近づいてきたら焼き尽くされるのは道理と呼ぶ。▼推しをストーカーしてたら推しの方から近づいてきたので、それは…


総合評価:14562/評価:9.25/短編:2話/更新日時:2026年07月24日(金) 18:13 小説情報

紐になりたいといったな。あれは冗談だった。(作者:紺南)(原作:魔法少女リリカルなのは)

将来は紐になりたいと冗談を言った主人公。▼それを真に受け、受け入れる準備を始めたフェイト。▼そこから始まるドタバタコメディ。


総合評価:10603/評価:8.12/完結:44話/更新日時:2026年09月06日(日) 21:35 小説情報

ネフェルピトーに執着されるだけ(作者:おいかぜ)(原作:HUNTER×HUNTER)

前世持ちの幻獣ハンター君が原作をちょっとでも良くしようとして裏目に出るだけの話。▼ネフェルピトーをヒロインにしてにゃんにゃんする話が書きたかったけど、どう考えてもこいつは人間に靡かないしゴンさんにぬっ殺される。▼……キャットエンペラータイムはオリジナル念能力に入りますか?▼


総合評価:27455/評価:9.09/連載:27話/更新日時:2026年09月24日(木) 00:00 小説情報

ギャグ要員は転生するようです。(作者:がんぎまり)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

魔王討伐の犠牲に死んだ男が、次の人生をかる~く謳歌しようとするお話。▼なお、激重となった仲間達が同じ時代を狙って転生した模様。


総合評価:19642/評価:8.91/連載:23話/更新日時:2026年08月18日(火) 05:23 小説情報

卍解までは転生者の嗜み。(作者:点差惨敗)(原作:BLEACH)

ナチュラルボーンド畜生主人公が無双する話


総合評価:47964/評価:8.92/連載:39話/更新日時:2026年10月17日(土) 17:47 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>