空に太陽があるかぎり   作:練り物

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 つい筆が乗ってしまった勢いで投稿してしまった…
 誤字脱字、キャラ崩壊しているかもしれないので、あとで修正するかもしれません。

 あと、地の文増やし、始めました。



2話 誰のせい?

 今日は週に一日の定休日だ。

 いつもは慌ただしい毎日であるが、喫茶店が開いていない、今日のような日は時間の流れが穏やかだ。叔父叔母もどこかで休日を謳歌していることだろう。

 

 当然、俺も休みをもらっているが、今日は約束があるので家にいた…が。

 

 

「何をしている、モカ」

「……ん~?」

 

 

 見慣れた人影がフラフラと寄ってくるのを見かけたので、こうして出迎えに来たわけだ。

 今、店の前でおぼつかない足取りをしているのは青葉モカ。つぐみと幼馴染で、“ツグってる”や“カズ語”なる造語を世に生み出した、類稀なるセンスを持っている者だ。

 

 俺を見つけたモカは倒れかかるかのように素早い動きで距離をつめてきた。

 

 

「モカちゃんはー、バイトあがりなのでーす」

「む、そうか。ご苦労なことだな」

「うむ、苦しゅうな〜い」

 

 

 そう、何を隠そう、モカはコンビニでアルバイトをしている。

 ひまりがコンビニスイーツ目当てに通いつめている姿に影響を受けたのかどうかはわからないが、とにかくコンビニで働いているのだ。

 このモカの状態を見る限りは朝から今まで働いてきたのだろう。

 

 

「…で、なぜ店の前にいる?今日は定休日だぞ?」

「それはカズくんにも言えることだよ〜。なんでカズくんはお休みの日なのに店にいるの~?」

「俺の家だからな、俺がいてもおかしくはないだろう」

「でも、カズくんがいるってことは、もはや営業中ってことじゃないかな~」

「それは俺が決めることではない。この扉にぶら下がった“CLOSED”という文字が読めないほど憔悴しているわけでもないだろう?」

 

 

 コンコン、と扉に吊るされたプレートをわざとらしく叩く。モカは確かに疲労を抱えていることはわかるが、そのまま家に帰る体力は絶対に残っている。俺の目に狂いはないはず。

 にもかかわらず、ここに立ち寄ったと言うことは……

 

 

「まあいいや~。とりあえず何かちょ~だ~い」

「やはり(たか)りに来たのか。初めからそう言えばいいものを」

「むー。カズくんはもう少し会話を楽しむことを覚えたほうがいいと思うよ~」

「……俺には高いハードルだな。他をあたるといい」

 

 

 ひどーい、と文句を垂れるモカを連れて店に入り、俺は愛用のエプロンを身につける。

 モカは歩く余力がないのか、そのまま入口に置いている荷物置き場用の脚長のテーブルに身を預けた。

 

 

「…全く、今のやりとりにエネルギーを使う価値があるとは思えんな」

「ふっふっふ、そこがモカちゃんの愛嬌なのだよ〜」

「なるほど。そんなだらしない格好で放つ言葉には何とも言えない力を感じるな。是非ともその愛嬌とやらを理解できる者が誰か教えてほしいものだ」

「ん~、蘭とか〜?」

 

 

 ふと頭に出てきた人の名を口にしたのだろう。

 蘭────美竹蘭とはつぐみの幼馴染のひとりだ。

 Afterglowのバンドの花形とも言えるギター&ボーカル担当。普段は素っ気ないような態度をしているが、おそらく誰よりも音楽を…幼馴染の絆を大事にしているのが蘭だ。

 

 モカが蘭の名前を出したのは直感によるものであっても、適当に口にしたわけではないだろう。

 実際、確かに蘭なら理解できそうだ。

 本人が口にするかという問題はさておくとして。

 

 

 

「────だ、そうだ。蘭、わかるのか?」

 

 

 なので、現在進行形でカウンター席に座って頭を抱えている本人に聞いてみるとしよう。

 

 

「……えっ、何か言った?」

「おー、蘭だ~。おっすー」

「あれ、モカもいる。いつの間に…」

 

 

 蘭は考えに没頭していたせいか、途中で俺が外に出たことや、モカを引きずって戻ってきたことも気づいてなかったようだ。

 モカも本人がいるとは思わなかったのか、少しの間面食らっていた。貴重な表情だった。

 

 

「お前が頭を悩ませている間に店の前に倒れていたのを拾っただけだ。考え込むのは構わないが、少しは周りを気にしてからにしたらどうだ?」

「その言葉、そっくりそのまま返すから」

「そういえば、蘭はどうしてここにいるの〜?今日はここ定休日だよ〜?」

「…同じこと二度も言わせないでよ」

 

 

 普段より言葉にキレのないことから、蘭自身も疲れていることがわかる。

 

 ……本人から固く口止めされているため、この場では口にしないが、実のところ蘭は営業時間外来店の常習犯(じょうれん)だ。

 誰かと一緒のときは営業時間内に来るのだが、今日みたいな一人の時は、朝の仕込みの時間や夜の片付けの時、定休日にふらっと来るのだ。

 その際の蘭は大抵何かしら抱えてやってくるからこそ質が悪い。俺も、なまじそれに気づいてしまうから余計に追い出せず、こうしてずるずると試作品のメニューの味見役などを依頼してしまうからなおのこと質が悪い。

 

 今日は事前に連絡を入れているので良しとしているが。

 

 

「まあいいやー。とりあえずお腹ペコで動けないモカちゃんをテーブルまで運んでおくれ~」

「……ああ、そういうこと。本当、お人好しなんだから」

 

 

 蘭もここまで来た経緯を察してくれたのか、モカを隣のテーブルに運んでくれたようだ。

 さすが、モカの扱い方は慣れたものだな。俺も手が空いたおかげで、その間にコレを用意することができた。

 

 

「出来たぞ、余り物のフルーツ盛り合わせだ」

 

 

 モカの前に出したのは、何の変哲もない色とりどりの果物───その盛り合わせだ。

 

 

「おお、余りものとか言う割に切り方とか凝ってるね~」

「当然だ。他人に出す以上、妥協なんてものは論外……と、言いたいところだが、正真正銘の余り物だ。量もざっと2人前と言ったところか。悪く思え」

「もーまんたーい。じゃあいただきまーす」

 

 

 俺がモカに説明したように、これは何てことの無いフルーツの盛り合わせ。まさに廃棄する前のものだが、俺が練習で様々な形に切ったものをそれらしく盛り付けただけだ。

 ただ、盛り付け方の参考元が特殊なだけだ。

 

 

「─────それ、って」

 

 

 蘭も気づいたようだ。

 それも当然だ。

 何せ、誰よりも近くでこれを見たことがあるはずなのだから。

 

 

「─────さて、蘭」

 

 

 やっと意識がこちらに向いた。

 ようやく話の続きをすることができる。

 

 

「……嘘、今するの?」

「何を言っている。お前はわざわざ時間潰しのためだけにここに来るほど暇をしているのか?」

「ま、待って、ちょっと待って。まだ心の準備が…」

 

 

 …間違いない。弱気になっている。

 いつもなら『何してるの?早く行くよ』と顔色変えずにさっさと済ませるのが美竹蘭という人間だ。

 だからこそ、その蘭をここまで逃げ腰にさせるほど、今抱えているものの解決には勇気がいることなのだろう。

 

 

「準備など今更だろう。モカが来る前はあれほど饒舌に話していたというのに───ああ、モカがいるからこそ言いづらくなったのか」

「そこまで察してるなら黙っててよ!」

「ほー、なるほどー。まさか、また蘭が隠し事をするとは…モカちゃんは悲しいよ…およよ…」

「モカも悪ノリしないでいいから!あと、そんなんじゃないから!」

 

 

 目の前の栄養に夢中になっているものだと思っていたが、モカも会話に入ってきた。

 挟み撃ちになり、ますます逃げ場がなくなる蘭。しかし、一向に話が進まない。困ったものだ。

 

 

「……難儀なものだな。そこまでして恥ずかしがることでもないと思うのだがな」

「っ!もういい!帰るから!」

 

 

 耐えきれなくなった蘭が立ち上がって出ていこうとする。

 その横顔から見る蘭の顔は赤い。目元も潤んでいるように見えた。

 

 

 ……いかんな、急ぎすぎたか。

 

 モカの言葉を借りるなら、どうやらまたカズってしまったようだ。

 この状況でこのままにするのは不味い。愚鈍な俺もそれだけはわかった。

 

 

 

 だからこそ、巴の言葉を思い出せた。

 

 

「待て、蘭」

「……?」

 

 

 ……足を止めてくれたが、困った。

 さっき言った発言を訂正しようにも、どこを訂正すればいいのかがわからない。

 何が悪いのかわからないのに謝罪するのは悪手だろう。

 

 

「参考になるかはわからんが、二言だけ聞いておけ」

 

 

 ─────ならば、伝えたいことは全て伝えてしまおう。

 

 

「ひとつ。贈り物とは、“相手にとって必要なものを贈ること”だけしか喜ばれない、とは限らないものだ。確かに、相手の立場になって考えることは大事だが、その点だけは履き違えるな。視野は広く持て」

 

「ふたつ。贈り物とは、その想いの深さこそが価値を高めるものだ。お前の悩みや葛藤は当たり前に伴うものだが、───その悩みや葛藤こそが、相手にとって特別でないものを特別なものにしてくれるはずだ。安心して悩み抜くがいい」

 

 

 ……俺が言えることはここまでだ。

 正解かどうかもわからないただの個人的な所感だが、これ以上の助言役となるには、どうやら俺は力不足すぎる。

 

 

「……………」

 

 カランコロン、と虚しい音が響いた。

 蘭は何も言わず出ていった。

 

 

 ……再び、休みの店内に静けさが戻る。

 

 

「……行っちゃったね~」

「……行ってしまったな」

 

 

 同じ言葉だが、俺とモカではどこか温度差があり、対照的であった。

 しかし、こう見えてもモカは駄目なときは駄目と言う人間だ。そのモカが何も言わない、ということは悪い結果にはならないような気がした。

 

 

「蘭ってさ~、昔からカズくんには弱いよね~」

「それはお前たち幼馴染にも同じことが言えるだろう。あと、これでも年上だからな。少しは距離感に違いが出るのは仕方のないことだ」

「ふっふっふ、それだけかな~?」

「………どうだろうな」

 

 

 蘭に限ってそんなことはないだろう。

 偶然に、周りの年上の人間が俺だっただけのことで、偶然に、俺が頼られる機会に恵まれているだけのことだ。

 

 特別なことなど何一つない。

 明日以降も、蘭も含めていつも通り過ごすことができそうで何よりだ。

 

 

 すると、あっ、そう言えばー、と隣から声が聞こえた。

 

 

「結局、何の話だったの~?何か贈り物とか何とか言ってたけど…誰かの誕生日とか近かったっけ~?」

 

 

 ……モカには何も話していなかったか。

 だが、鋭い予想だ。こうなれば俺が黙ってようがいまいが自ずとわかることだから、素直に白状するとしよう。

 

 

「誕生日ではあるが、俺達よりも身近な人間だ。誰かに贈り物を贈る日で、なおかつ蘭があそこまで思いつめるような相手に心当たりはあるだろう?」

「……なるほどね~。ふむ……」

 

 

 無粋にもわざわざここまで言葉にしたのだ。あとはもういいだろう。

 そう思った俺は踵を返し、厨房に戻ることとした。

 

 

 

「やっぱり、蘭はカズくんには弱いよ~」

 

 

 モカもそう言って食事に戻り、皿に残っていたオレンジを口に入れた。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「………む?」

 

 

 夜────ふと、人の気配がした。

 

 自慢ではないが、この家もかなり広い。

 幸い、持て余す真似はしていないが、今日の夜は一段と静けさが悪目立ちする。

 

 自然と居間に足を動いた。

 暗い廊下を歩いていると、まるで自分だけがこの家に取り残されたような錯覚がした。

 

 馬鹿馬鹿しい、と思考を断ち切ったところで、ちょうど居間にたどり着いた。

 襖の隙間からは淡い光が差し込む。

 どうやら、誰かが中にいるらしい。

 

 

 ……十中八九、娘だろう。

 確かライブが近づいていることは聞いていたが、今日も練習に明け暮れていたのか。

 

 

「また、小言のひとつでも口にしてしまうかもしれんな」

 

 

 悪癖だな、と自嘲しながら襖を開けた。

 

 

「……………」

 

 

 ───しかし、そこには誰もいなかった。

 

 

 明かりがついているのは一部だけ。

 さらに、その明かりが照らす先に小包がぽつん、と取り残されていた。

 

 近寄ってみると、その包は簡素ながらも丁寧に包まれた、れっきとした贈物であった。

 

 そして、その下に無造作に置かれた手紙。

 

 

 

「これは、そうか、今日は───」

 

 ようやく思い出した。今日が何の日か。

 年を取るごとに無意識的に考えないようにし、逆に、意識的に家族や友人のことばかり考えていたこそ───この贈り物は衝撃的だった。

 

 小包を開けると、中にはもう一つケースがあった。

 さらにケースを開けてみると、中には見慣れた造形のものがしまわれていた。

 

 それは、いつも自分が身につけているものよりも少しカジュアルさが増したフレームの眼鏡だった。

 

 

「─────全く、余計なお世話だと言うのに」

 

 

 置き手紙───とは名ばかりの簡素なメモ書きに自然と笑みがこぼれる。言葉とは裏腹に、感極まっている自分の心を確かに実感していた。

 

 

 

『Happy Birthday

度数はスペアのやつと同じ物だから大丈夫だと思う。もう少しこだわった方がいいんじゃない』

 

 

 そんなことが書かれた紙を手際よく折りたたみ、彼も自室に戻っていく。

 荷物は多くなったのにもかかわらず、その足取りはどこか軽くなっていた。

 

◆◆◆

 

 

 

「あー、もう!」

 

 

 一方、蘭は自室で悶えてた。

 無論、心の中でのことだ。仮にその状況を父にでも見られたら間違いなく家出するに違いないからだ。

 

 

「ほっんと、慣れないことするんじゃなかった!なんで『余計なお世話だと言うのに』とかいいながらニヤニヤしてんの!?わけわかんない!」

 

 

 ……追記しよう。

 蘭の父も、今の蘭の状況を見てしまった際には、間違いなく自室から出てこなくなるに違いない。

 

 似たもの親子であった。

 

 

「和那も和那だし!モカの前で話の続きしようとするのほんと意味わかんない!しかも、何あのフルーツの盛り合わせ!なんで露骨に父さんの作品に似せて盛り付けしてんの!?あてつけなの!?」

 

 

 傍から見たら絶対にそう見えるだろうが、アレはアレで注意を引きたい思いひとつでやったことで、当人には一切悪意がない。

 だからこそ全面的に怒れず、モヤモヤとしてしまう。本当に質が悪い。

 

 

 とにかく、明日は確実にモカにからかわれることは決定事項だ。いつもならそれだけで憂鬱になってしまいそうだ。

 

 

 ………そう、いつもなら。

 

 

「……父さん、喜んでた」

 

 

 不思議な感覚だ。

 腹が立つのに心地良い。

 腹が立つのに、心のどこかで報われたと思ってしまう自分にモヤモヤする。

 

 浮足立ってる、とはまさにこの状態を指すのか。

 

 

「……バカ。バカズナ。天然。鬼畜。サイテー」

 

 

 そうだ。こんなに浮足立ってるのも全部和那が悪い。

 相変わらず口下手で、何考えているかわからないし、そのくせ他人が隠したいことはどんなに(・・・・・・・・・・・・・・)取り繕っても(・・・・・・)看破してくるし(・・・・・・・)、なにより、ほんの少しだけコミュ力不足に改善の兆しが出ていることにも無性に腹が立つ。

 

 

「あいつが欠点なくなったら…もう絶対に────」

 

 

 そこまで考えた蘭は思考を無理矢理シャットアウトするように、明かりを布団を頭から被った。

 

 その際の彼女の表情は、彼女自身もわからなかった。




もっとコミュ障を活かしたアンジャッ○ュギャグとかやりたいし、言葉足らずですれ違うラブコメとかしたい…

あ、なんでカズくんが蘭パパの作品知っていたかは次回か次々回あたりでやります。

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