空に太陽があるかぎり   作:練り物

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 今日はエイプリルフールですね。

 嘘をついていいのは午前中まで、ということで小ネタを投稿するタイミングを完全に逃してしまった私です。

 皆様も今日はミッシェル顔になったり、4月2日を迎える為に特異点で石をぶんなげているのでしょうか。まだ4月1日は終わっていないので楽しんで参りましょう。

 あ、あと地の文さらに増えました。
 読みにくかったらすみませんネ。


3話 妹として

 従兄(あに)が兄になったのはいつのことだっただろう。

 

 

 無論、初めから一緒に生活していたわけではない。

 父の姉の息子、と聞いていて、身寄りがなくなったために引き取ることとなった────と、親たちから聞いていた。

 ただ、そう聞かされた幼い自分は「そういうものか」と思い、すんなりと受け入れることができなかった。

 

 

 当時はその理由なんて自覚できる年ではなかったが、今になって分析してみると、色々とわかることがある。

 

 

 家族が増えることが嫌だったわけではないし、むしろ喜ばしかった。

 両親とも喫茶店で働いているため、仕事中は構ってもらえないことに年相応の寂しさを抱いていたため、ずっと兄弟が欲しいとは思っていたからだ。

 

 

 ただ、それとは別に───“なんで本当の両親と一緒に居られないのか”という点に無意識に疑問を持ってしまった。

 もし自分が両親と離れ離れになってしまったらとても悲しい。

 考えただけでも心細くなってしまい、泣いてしまうくらいに。

 これから新しい家族になる人は、まさにそんな想いを一身に背負っている。自分ならば絶対に耐えられない。

 

 そんな心細さを抱えている人にどうやって向き合えばいいかわからない。

 幼い自分はそんな憂いを抱きながら、母の背中に隠れながら会うことになった。

 

 

 そして、初めて対面した時の彼は─────

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「た、ただいまっ!」

 

 

 荒くなった呼吸をそのままに部屋に鞄を投げ捨てた。

 休む暇なくいつも使っているエプロンに袖を通す。

 

 

 今日は生徒会の仕事もバンドの練習もない。

 生徒会は季節的に特に集まって会議などするようなことはなく、バンドの練習は突然ひまりから中止の連絡が入ってきた。

 

 

 どうしたんだろう、とは思ったが、モカはともかく、蘭や巴が何も理由を聞かなかったので、つぐみも聞かないことにした。

 

 

 そのため、授業を終えたら家の手伝いをする予定だった………のだが、頼まれ事を引き受けてしまっていたら随分と遅くなってしまった。

 生徒会という役割は良くも悪くも頼りにされてしまうものだ。それがやり甲斐であるが、一方でこうして振り回されてしまうことも珍しくない。

 

 

 ちなみに、帰りが遅くなることを事前に連絡はした。

 兄からの返信は『必要ない』の一言のみ。

 

 

 本人は『家のことは気にしないで放課後を有意義に使いなさい』と気遣っているつもりなのだろうが、圧倒的に言葉が足りていない。

 家族である自分や、付き合いの長い幼馴染なら察することができるだろうが、赤の他人からみれば突き放しているようにしか見えないだろうに。

 

 

閑話休題(それはそれとして)

 

 

 ひとまず、店の前で深呼吸して息を整える。

 

 

 幸い、羽沢珈琲店は家族の他にもアルバイトがいるので、それほど心配はしていない反面、何かしら手伝いをしなければ気が済まなかった。

 喫茶店の店主の娘としての使命感から来るものなのか、それとも別の理由からなのか。

 とにかく、考えるよりも体を動かしたい気分であった。

 

 

「ごめんなさい、遅くなっちゃった!」

 

 

 従業員用の出入口から店に入る。

 

 

 店内は騒がしい様子はなく、既にピークは去っていた。想像通り、何も問題は起きていない。

 

 

 

 

「ヘイ、ラッシャーイ!」

「ヘイ、ラッシャーイ」

 

 

「二人とも何やってるの!?」

 

 

 従業員二人を除いて、であったが。

 店に入って早々に声を上げると、兄の和那が特に焦った様子もなく振り向いた。

 

 

「つぐみか。おかえり。見てわからないのか?仕事をしているだけだが?」

「そうじゃなくて!その接客!」

「…ああ、これか。イヴから教わった。喫茶店でそれはいかがなものかとも考えたが、やはり日本人としては国独自の文化というものは重んじる必要はあると思ったわけだ」

「う、うーん…考え方は立派かもしれないけど、そこまで考えて何でやっちゃうかなぁ……これじゃあお寿司屋さんだよ……」

「一応、寿司なら一通り作れるぞ。自慢するのは恥ずかしいが、これでも本場の板前から賞賛されたこともある」

「そういう問題じゃなくて!ここはカフェだからね!だからドヤ顔しないの!」

 

 

 ため息混じりに嘆く自分の顔を見てか、貴重なドヤ顔をしていた兄も目を伏せた。

 一見、普段通りに見えるかもしれないが、このような表情をした兄はかなり落ち込んでいるのだ。

 

 

「どうやら、また俺は頓珍漢なことをしてしまったか」

「大丈夫です!いつかツグミさんもわかってくれます!」

「……そうか、そうだな」

 

 

 ─────あれ、これ私がおかしいみたいになってる?

 

 

 一瞬だけ自分の常識を疑ってしまいそうになったつぐみだが、すぐに気を取り直して仕事に入る。

 

 

 ちなみに、兄とともに働いていた彼女は若宮イヴ。

 簡単に紹介すれば、フィンランド人の母と日本人の父の間から生まれたハーフで、花咲川女子学園の茶道部と華道部と剣道部に所属しながらこの羽沢珈琲店でアルバイトをしている現役アイドルだ。

 

 

 ……これだけでも並のアイドルを没個性にすることができるほどの強烈な個性を持った彼女であったが、口数が少なく、他人を寄せ付けず、常時仏頂面の、彼女とは別の意味で個性的な兄とも良好な関係を築いていた。

 

 

「あの、カズナさん」

「?」

「これ、作れますか?」

 

 

 店の中が落ち着きを見せ、日が陰り始めたころ。

 イヴが兄に見せたものは雑誌の1ページであった。

 遠目から覗き込んでみると、そこには儚いピンク色と葉の緑色が鮮やかな和菓子が写っていた。

 

 

「ふむ、桜餅か。作れるぞ」

「本当ですか!?さすがです!」

「だが材料が足りんな。桜の葉の塩漬けはないが、それでもいいか?」

「はい!お願いします!」

「では準備が終わったら声をかけよう。それまでしばらく待つがいい」

 

 

 そう言い残した兄は厨房に消えていった。

 生徒と先生。これがあの二人の関係だった。

 

 

 兄が作れる料理は、この店のメニューだけに留まらない。

 基本的な料理は勿論のこと、特に菓子類のレパートリーは豊富で、喫茶店で定番の洋菓子や和菓子にも広く精通していた。

 本人曰く、専門学校時代に実習先で技を盗んでいたらこうなった、とのことであった。

 ……正直、自分以外の幼馴染たちも、兄の専門学校は実はパティシエ養成のための学校であったのでは、と疑っているのは内緒だ。

 

 

 そんな兄に、店長である父の気まぐれで作らせたわらび餅をイヴが試食役になったことが全ての発端であった。

 作り方は簡単だから家でもやってみるといい、と兄が乗り気でレシピを教え、勤勉な性格のイヴは兄を慕うようになった。

 

 

 こうして和那の『授業』は、この店ではよく見る光景となった。

 ……きっと、ひまりがこの現場を目撃した暁には、ぷりぷり怒りながらずっとこの店に入り浸ることになるだろう。

 

「……むぅ」

 

 

 自分の幼馴染以外にも交友関係を築けていることに嬉しい。反面、兄とイヴ、二人の空間が作られてしまうと、──当人たちがそんな意図がないことを理解していても──、自分だけ仲間はずれにされているような感覚を覚えてしまう。

 

 

 ……私って、こんなにわがままだったっけ?

 

 

 そんな疑問を胸に抱きながら、自然と厨房へと身を投じた。何を言いたいのかまとまらないが、あれこれ考えながら声をかけた。

 

 

 

 

「お、お兄ちゃん」

「わかった。だが駄目だ」

 

 

 ……今の“お兄ちゃん”だけで、一体何がわかって何が駄目なのだろうか。

 さすがに一番古い付き合いでも、こればかりはわからなかった。

 

 

「……まだ何も言ってないのに」

「お前の言いたいことはわかる。材料も足りる。だが、お前に教えることは何もない。悪いが、それは譲らん」

 

 

 相変わらず言葉が足りていないせいで、突き放す言動をしてしまっているが───学校から急いで帰ってきたことを気遣っていることはわかる。

 

 

「……待て、なぜ不服そうな顔をする?また言葉が足りなかったか?」

「違うもん。お兄ちゃんはイヴちゃんと二人きりでいたいから、妹は邪魔なのかなー、って」

「そうだな。お前がこの場にいないで欲しいのは俺の個人的な願望ではあるが…まさか、理由を言わなければわからないのか?」

 

 

 気づかないことに呆れながら問いかけをされても、本当にわからないから困る。今日のカズ語は一段と難解だ。

 

 

 ……もしかして、本当にイヴのことが────!?

 

 

「違う」

「あうっ」

 

 

 そんな思考を断つように、指で額を小突かれた。

 確かにそれはないな、とは思ったが、では何だ言うのか。

 さらに不服そうな視線を向けると、観念したのか、兄は溜息をつきながら口を開いた。

 

 

「以前、ライブが近いと言っていたな」

「う、うん。あと1週間切ってるから、もっと練習しないと……」

「そうだな。だが、現に今日は全体練習は無しになった。理由は?」

「理由?」

 

 

 そう言えばそうだ。

 普段なら可能な限り練習を詰め込んで本番に備えるはずなのに、今日は中止になっている。

 結局、ひまりには理由を聞かなかったが、なぜ今になって中止にしたのだろう。

 

 

「………ガルジャム」

「─────あっ!?」

 

 

 その単語のみで全て察することができた。

 まるで点と点が線になったようにつながった。

 

 

 少し前の話だ。

 ガルジャム、と呼ばれるライブイベント出演に向けて活動していた時、自分が過労で入院してしまったことがある。詰め込みすぎた練習を続け、その上で生徒会の仕事と家の手伝いを併せて行っていたことが原因だった。

 それに追い打ちをかけるように蘭の家の事情が重なり、バンド内の関係がギクシャクしてしまった。

 結果的にライブは成功し、蘭の父にも一定の成果を見せることに成功したが、もう二度と倒れるようなことはしないように心に決めていた。

 

 

「……なら、初めから『休め』って言ってくれれば良かったのに」

「そう言えばお前は休んだのか?」

 

 

 ちゃんと休む、と言おうとしてつぐみは口を噤んだ。

 何だかんだで動いていないと落ち着かず、勝手に自主練をしてしまう自分を想像できてしまったからだ。

 きっと、幼馴染たちも兄に味方するに違いない。

 

 

「反省したようで結構。だから部屋に戻るといい。お前は充分手伝ってくれた」

 

 

 今度こそもう話すことはないのか、背を向けて厨房から出ていった。周りを見ると材料は全て机の上に置いてあった。話し込んでいる間に準備を終えていたことに気づかなかった。

 

 

「……むぅ」

 

 

 ……今回は兄が正しい。

 基本的にイエスマンで、よく変な勘違いをすることはあるが、こうして意見を譲らないときは、決まって兄の方が正しいことが多い。

 

 

 しかし、心の中ではまだモヤモヤしていた。

 休むべきであることは納得したが、実際に仲間はずれにされていることには変わりない。

 自分だけ置いてけぼりにされるのは御免だ。

 

 

 置いてけぼり─────ああ、思い出した。

 そう言えば、初めて兄とあった時もそんな感情を抱いたのだった。

 

 この人は、いずれは自分や両親を置いてどこかに行ってしまう。

 しかも、それは彼の意図的なものではなく、誰も止めることができないような自然な形─────まるで、太陽が沈むことを人間が止められないように、いつの間にか消えてしまうような、そんな予感がしたのだ。

 

 

 だからこそ、彼の妹として、自分は─────

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「準備ができたぞ、イヴ。店の片付けは終わったか?」

「はい!バッチリです!」

「よし」

 

 

 閉店の準備が整ったので、もはや定例となったイヴへの授業を始めることにした。

 今日教えるのは桜餅。ありあわせの材料で作ることができるギリギリのラインではあったが、イヴが見せた雑誌よりも高い品質のものを作れるように努めよう。

 

 

「カズナさん、厨房でツグミさんと何の話をしていたんですか?」

「少しは休め、という話をな。なかなか首を縦に振らなかったが」

 

 

 そう、今日のつぐみは珍しく食い下がった。

 幼馴染+俺が計画した“つぐをツグらせない大作戦(命名:ひまり)”。

 再びつぐみが倒れることのないように予防として決行されたそれは、俺がガルジャムの話を持ち出した時点で露見した。

 それに気づいたつぐみは、そう言った厚意を無下にはしないと思ったのだが………もはや、体が勝手に動いてしまうレベルにツグってしまうのだろうか。

 

 

「ふふっ、お二人とも仲が良いんですね!」

「今のところは、な。いつも助けられている身としては、愛想を尽かされないように、もう少ししっかりしたいものだな」

 

 

 だからこそ、今日くらいは俺に任せて休んでほしいものなのだが。

 

 

 閑話休題(それはそれとして)

 

 

 とにかく、今日やることはほぼ終わったようなものだ。あとはイヴに付き合って仕事を終わるとしよう。

 

 

 

 ───と、厨房に戻ってきたときだった。

 

 

「……何をしている、つぐみ」

「………」

 

 

 つーん、とそっぽを向きながら厨房の端っこに座る従妹(いもうと)がいた。

 

 

「俺は休め、と言ったはずだが、お前の休むところは厨房だとでも言う気なのか?」

「休んでまーす。お二人は私にお構いなくやって?ほらほら」

 

 

 つつーん、と素っ気ない返事で突っぱねる従妹(いもうと)が椅子に座っていた。

 

 

 ───どういう状況なのだろうか、これは。

 

 

 従妹(いもうと)の態度が素っ気ない。それでいてどこかソワソワしながらこちらをチラチラ見ている。

 また肝心なことを伝え忘れたのだろうか。

 ……いや、もう言葉は尽くした。文字通り、つぐみに言うことはない。

 では、後はどうすればいいのだろう?

 

 

「ツグミさん?少し手伝ってくれませんか?」

 

 

 そんな困っている俺を差し置いて、イヴが助け舟を出してくれた。

 だが、それはいけない。蘭たちに頼まれた以上、つぐみがリフレッシュできたという結果を残さなければならない。

 

 

「イヴ、それは─────」

 

 

 できない相談だ、そう言いかけたが言えなかった。

 なぜなら、有無を言わさないとばかりに視線が二人分こちらに集中していたからだ。イヴは自覚がないようだが、つぐみは『ここまで言わせておいて、それはないんじゃない?』とばかりに圧力をかけてきていることがわかる。

 

 

 

 ………。

 

 

 …………結局、こうなるのか。

 

 

「……頼めるか?」

「……! うんっ!」

 

 

 俺の意志は煮崩れた芋のように脆く、ボロボロであった。

 従妹(いもうと)のわがままを聞くのも従兄(あに)の役目として、自身を無理矢理納得させることにした。

 

 なお、別に何もしないことがリフレッシュになるわけではない、とは本人の談。

 その裏には仲間はずれにされたくない想いがあったのが見え隠れしていたが、つぐみ自身も俺が察していることに気づいているようなので黙っておくことにした。

 

 

「では、始めるとしよう」

「はい!よろしくお願いします!」

 

 

 さて、教師など柄ではないが、頼まれた以上は期待以上の成果をもって全うするとしよう。

 思考を切り替え、シャツの袖を捲った。

 

 

 

「……今度、紗夜さんも呼んでみようかな」

「? 何か言いました、ツグミさん?」

「ふふっ、何でもないよー」

 

 

 それはそうと。授業中にそんな不穏なやり取りを耳にしてしまった。

 ……今後、生徒が増えることも想定しておくべきなのかもしれない。

 

 




 ※拙作のツグは主人公に振り回されている分、逞しさと甘えたがりが2割増し仕様となっております。

 と言うわけで、主にツグ視点でお送りした1話でしたが、いかがでしたでしょうか。
 さらっとガルパストーリーのネタバレいれたけど、タグで注意喚起したほうがいいかなとか考えたけど、どうなんでしょうね。

 感想お待ちしております。
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