空に太陽があるかぎり   作:練り物

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 評価バーが右端まで埋まったり日刊の順位が一桁台に上がったりしていますが、おかげさまで私は元気です。

 皆様のお気に入りや感想や評価は確実に創作活動の励みになっております。
 ただ、現状に満足せずにこれからも精進して参ります。

 では、今回もよろしくお願いします。



5話 違い

 人間が陸で生活するようになっても、海とは切っても切れない関係にある。

 

 我々が生活する陸地なぞ、地球単位でみれば三割ほどの広さに過ぎず、大部分は海でできている。

 それでいて、海にはまだまだ未知の生き物が多く存在している。普段、食卓に並ぶ魚料理なぞ、その一握りの生命に過ぎない。

 そんな未知に魅入られた者たちが、今日も今日とて日々研究に励んでいる。

 

 

 松原花音もまた、その未知の生物の存在に心を踊らせる者であった。

 ………もっとも、彼女に限っては“主にクラゲ”という注釈がつけられるが。

 

 

 そんな彼女であるが、今日は友人とともに水族館に訪れていた。

 あらゆる生物が展示されている水族館という場所は、ある意味では海や川の縮図と言っても過言ではないのかもしれない。

 

 

「ふぇぇ……ここどこぉ……?」

 

 

 だが、花音はまるで群れからはぐれた小魚のように、一人取り残されていた。

 何を隠そう、花音は重度の方向音痴である。

 ショッピングモールなど人混みの多い場所では、こうして迷子になることは日常茶飯事であった。

 

 

 とは言え、仮に迷子になったとしても、現代日本においてはいくらでも解決手段はある。

 花音は慣れた手つきで携帯電話を取り出した。同伴していた者に連絡を取り、今後について相談する。

 

 

「どうしよう、美咲ちゃん……」

『えっと、じゃああたしが探しますから、花音さんは今いるところで待っててくださいね。ちなみに、今一番近くにいる水槽ってどこですか?』

「えっと……あっ、ダイオウグソクムシ!意外と大きい!」

『か、花音さーん!お願いだから、動かないでくださーーい!!』

 

 

 このようなやり取りの後、花音はその場に待機して迎えを待つことになった。

 迷子を探す鉄則としては、探す対象に目立つ場所でじっとして貰うことが一番なのだ。

 

 

「いつもごめんね。今度お礼するから」

『いいですって。気にしないでください』

 

 

 そう言って花音は電話を切った。近くの水槽は伝えたので、あとは職員の人に尋ねればすぐに場所は特定できるだろう。

 自分の方が年上なのに情けないなぁ、と同伴者の彼女に申し訳ない気持ちになる。

 しかし、迷子になってしまった以上は仕方ないので、この場を動かずに周りの水槽を眺めることにした。

 

 

「すごいなぁ…」

 

 

 水族館にはよく足を運ぶ方だ。

 その際に、好きなクラゲばかり見ているわけではないが、こうして立ち止まって他の生き物を見ると、花音はいつもより新鮮な気持ちで見ることができた。

 

 例えば、ダイオウグソクムシの隣の水槽にあるこの大きなカニ。

 説明文に目を通すと、どうやら深海に生息しており、不安定な地形に適応するために足が長くなったそうだ。珍しいカニらしいが、どこかで見たことのあるような形をしていた。

 

 

 

「カニか。カニならば余計な手を加える必要はない。シンプルに焼きガニやボイルしたものをそのまま食べるのが一番だな」

 

 

 

 そう、まるで店で売っているようなタラバガニの足をそのまま長くしたような─────

 

 

 

 

 ……そこまで考えたところで首を振る。

 展示されている生き物たちは食用ではない。

 

 

 続いて、足の長いカニがいる水槽の、足元近くにある別の水槽に目を向けた。そこには、掌よりも小さいカニがのんびりと足を動かして歩いていた。可愛らしく、無意識に笑みがこぼれてしまう。

 

 

 

 

「小さくて剥くのが面倒なら、いっそのこと調理の間に剥いてしまうのも手だ。身だけを取り出してカニクリームコロッケやサラダと和えるのも捨てがたい。俺だったらパスタにする」

 

 

 

 これも、普段スーパーなどに並んでいるワタリガニのような姿で─────

 

 

 

 

 ……再び首を振って思考を中断させる。

 二度目になるが、展示されている生き物たちは食用ではない。断じてない。

 

 

 ほら、このハサミが特徴的なカニは体中に黒い点のようなものがついている。ブツブツとしたそれは微生物か何かなのかはともかく、食べる気にはならないものであった。

 

 

「殻に黒い斑点のようなものが付いているものは新鮮な証拠だ……ああ、待て。殻は必ず茹でてアラ汁にしてから捨てろ。そのまま捨てる愚行は許さんぞ」

 

 

 

 花音はカニがいる水槽から目を離すことにした。

 

 

 まさかこの黒い斑点が良いものだったとは初めて知った。

 いつ役に立つのかはわからない情報であるが、花音としては、少なくとも今この場では、知りたくはなかったことである。

 

 

 閑話休題(それはさておき)

 

 

 改めて言及するが、ここは水族館である。

 ダイオウグソクムシやカニ以外にも生き物は沢山展示されている。

 

 どうやらここは甲殻類の水槽が集まっているのだろう、と花音は何度目かの水族館巡りの経験から察した。

 現に、別の水槽を見てみれば、そこには長細い体をしたエビがふよふよと泳いで─────

 

 

 

「海老か。海老ならば定番の揚げ物だろう。フライと天ぷら……どちらにするかは各々の判断に任せるが、加熱すると身が丸くなってしまう。加熱前に筋繊維が切れる音がするまで、しかし身を完全に崩さない程度に潰しておくことが基本だ」

 

 

 

 少し先の水槽を眺めると、素早い動きで魚が泳いで─────

 

 

 

「カンパチ…青物か。刺身、煮付け、照り焼き…レパートリーは多彩だ。ただ、鱗が細かい分、捌くのは苦労するぞ。鱗取りは念入りにな」

 

 

 

 ─────ひょっとして、この人はここを生け簀か何かと勘違いしているのではないか?

 

 

 

 時折耳に入ってくる魚の調理法や豆知識の発信先に顔を向ける。

 ちょうど、花音の左側───順路的には花音の先に立っていたのは一人の男性であった。

 

 花音よりもニ頭身ほど高い身長に、服越しからでもわかるくらいの身の細さ。それに加え、水槽を照らす照明に溶け込むような白い肌をしていた。彼はぼんやりと水槽を泳ぐ魚を見ながら、花音が聞こえるくらいの大きさで発言していた。

 

 

 

 …………もしかして、自分に話しかけているつもりなのだろうか。

 そんな風に考えてしまった、その時であった。

 

 

「……む?」

「……わ、わっ!」

 

 

 花音の視線が気になったのか、男が目を向けた。

 目を合わせないように、花音は素早く水槽の方に体を向けた。

 

 

「…………」

 

 

 彼も気のせいかと考えたのか、すぐに水槽の方に視線を戻した。

 

 

「ふ、ふぇぇ……」

 

 

 思わず声が出てしまう。

 一瞬、目を合わせてしまいそうになったが、男の視線が痛い。

 目が細いわけではないのだが、突き刺さるような鋭さが伴っていた。

 

 接客のアルバイトをしているとは言え、女子校育ちでそのような男性には耐性を持ち合わせていない。

 そんな視線を正面から受けては身が持たないと考えた花音は、気を紛らわせるように素早く背後の水槽に目を向けた。

 

 

「あっ、クラゲだ!」

 

 

 幸運にも、そこには彼女が好きなクラゲのいる水槽であった。

 自由気ままに、海を漂うその姿には釘付けにされてしまう。

 

 

「クラゲ…クラゲだと?」

 

 

 隣の男性も花音につられたのか、クラゲのことを言及していた。

 どうやら、クラゲを見つけた時に花音の声が耳に入ったのだろうか。

 恥ずかしいが、あえてそちら側には意識を向けないようにする。先程まではカニやらエビやら食用として馴染み深い生き物だった。だからこそ、食に関する情報が偶々耳にする機会になっただけだ。

 

 

 しかし、クラゲならば、そのような形で水を差される心配は────

 

 

 

 

「食べられるぞ」

 

 

 

「─────嘘ぉっ!?」

 

 

 

 

 ────────松原花音。本日一番の衝撃を受けた。

 

 

 

 

「すべてのクラゲが食べられるものではないが、食用のクラゲは確かにある。店頭ではあまり取り扱っていないから馴染みはないだろうが、中華料理屋に足を運べば取り扱っている店は珍しくない」

 

 

 初耳だった。

 このクラゲたち……とは限らないが、海を超えた別の国でクラゲ料理が存在するなんて思わなかった。

 まさに青天の霹靂。カルチャーショックと言っても過言ではなかった。

 

 一体どんな料理があるのか、その先の情報を聞き逃さないように、もはや形振り構わず隣の男性に顔を向ける。

 

 

「待て、キクラゲはクラゲの仲間ではないぞ」

 

 

 そんなことは知っている。

 違う、そうじゃない。知りたいことは、クラゲ料理はどんな調理をするのかだ。

焼くのか、煮るのか、揚げるのか、それとも刺身があるのか……はやく答えを教えて欲しい。

 

 

 …………いっそのこと、こちらから質問しようか。

 

 

 そう考えた矢先だった。

 

 

「……仕方ない。今からそちらに向かうから、どこかで待っていろ。そこまで時間はかからないだろう」

 

 

 そう言いながら、その男性は花音の横を歩いていった。

 通り過ぎる瞬間、花音の視線は彼が手に持っているものを捉え、腰の力が一気に抜けた。

 

 

「で、電話してたんだ……」

 

 

 彼の手には携帯電話が握られていた。

 

 花音にとっては死角側の耳に当てていたせいで見ることができなかった。彼は花音を含めた他の来場者に語りかけていたわけではなく、電話越しに離れた誰かに話をしていただけであったのだ。

 

 

 自分に話しかけていたと勘違いしかけていた。

 酷い自意識過剰だったと考えると、花音の顔はみるみる赤みを帯びて────

 

 

 

「花音さん?」

「ひゃああっ!」

 

 

 飛び跳ねてしまいそうな勢いで声を出してしまった。

 

 恐る恐る声のした方向に振り向くと、そこにはこの水族館まで同伴してきた奥沢美咲がいた。

 

 

「か、花音さん?そんな大声出してどうしたんですか?」

「な、なんでもないよっ!気にしないで美咲ちゃん!」

 

 

 美咲も突然大声を出されて驚いたのか、花音を案じるように質問する。

 花音もそう言うが、見知った顔が目の前に現れてくれたことで安心してしまい、その場にへたり込んでしまいそうになった。

 

 

「ふぇぇ…一時はどうなることかと思ったよぉ……」

 

 

 迷子になってしまったことを発端に始まったこの十数分間を体験した花音の気持ちは、まさにこの言葉通りである。

 ハチャメチャなバンドメンバーに巻き込まれることは日常茶飯事ではあるが、今日は深海のような、未知の世界に入ってしまいそうな怖さがあった。

 

 

「あはは…まあ、合流できたので再開しましょうか。あっ、花音さん。すごい量のクラゲがいますよ。きれいですね!」

 

 

 近くのクラゲたちに目が入ったのか、美咲は水槽を指差しながらそう言った。

 ……クラゲ料理のことは気になるが、ここは彼女の言うとおり、ここから気を取り直すことにしよう。

 

 花音は美咲の言葉に同意するように、満面の笑みで口を開いた。 

 

 

 

「うん、すごいよね!これ、サラダ和えとかにしたら何人分になるのかな?」

 

 

 

 

 瞬間、時間が止まったような錯覚を覚えた。

 

 

 

 

「─────えっ」

「……………あっ」

 

 

 突然ふって湧いた食の話題に困惑する美咲と、やってしまった、と恥ずかしさで顔を俯かせる花音。

 

 

 この後、花音は美咲とともに中華料理屋に足を運んだのであった。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 休日のある日、俺は水族館へと足を運んでいた。

 

 

 以前、店のお得意様である黒い服の男から水族館の招待チケットを貰った。

曰く、職場の会社が新たに買収した水族館のチケットを譲ってもらったのはいいが、結局行く暇がなさそうなので譲ることにしたそうだ。

 

 俺が持っていても仕方ないので、つぐみに渡そうと思っていたのだが、一枚しかない上に有効期限がギリギリであったため、仕方なく俺が行くことにした。

 

 

 普段、そのような場所に行かない身としては新鮮ではあったが、突然電話で呼び出されたために、半分も回れずに戻ってきてしまったわけだが。

 

 

 で、その呼び出した張本人は─────

 

 

「全く、わざわざ電話で聞いた意味があったのか?」

「いやぁ、悪い悪い。やっぱり電話越しじゃわからなくてさ」

 

 

 悪い、と言いながらも一切反省の色を見せていない巴である。

 

 俺自身、迷惑とは思っていないので別に構わないが、それならば初めから『来てほしい』と言って欲しかったものだ。

 

 

 巴の相談事とは至って単純だ。

 いつも通り、巴が商店街を歩いていたら、魚屋の店主に声をかけられ、話の流れで店の魚を何匹か譲ってもらえることになった。

 冗談のつもりでカニや金目鯛を頼んだら、すんなり了承を貰ってしまった。

 ……巴としては『何か裏があるんじゃないか』と思ってもいないことを考えてしまったらしい。

 そして、目利き役として俺に相談してきたが、言葉足らずの俺が電話で伝えきれるはずもなく、こうして駆けつけてきたわけだ。

 

 

「おっ、羽沢さんとこの倅じゃねぇか!相変わらず細っけぇな!」

「数日前に会った人間に言う言葉ではないぞ、大将。さて、俺が来た以上は誤魔化そうなんて考えないことだ」

「んなことするか馬鹿野郎!そら、巴ちゃんのおこぼれだ!お前ぇも好きなもん選びな!」

 

 

 ここの店主とも長い付き合いだ。

 この男が変に誤魔化すなんて器用な真似はできないことなぞ、巴もわかっているはず。なのに、あえて俺を呼んだということは目利きの他に理由があるに違いない。

 

 

「廃棄処分にご苦労なことだ。ならば遠慮なく、そこの金目鯛をひとつ。そして、そこのサーモンとイカとタコ…あとは棚にあるマグロの赤身を頼む」

「あっ、この野郎!少しは遠慮しろっての!」

「この点に関して俺は容赦しないことは百も承知のはずだ。男に二言はないのではないのか?」

「それは巴ちゃんだけの話だ馬鹿!キンメとマグロの料金は払いやがれ!」

「それが落とし所だろうな。よし、それで行こう」

 

 

 交渉なんて大したものではないが、他にもいくつかおこぼれを貰うことができた。

 会計の際に店主が『巴ちゃんに感謝しろよ』と言っているあたり、向こうも俺の意図をわかっていて乗ったようだ。

 

 こうして得られた戦利品を手に帰路につく。

 隣を歩く巴が戦利品が詰め込まれた袋の中身を開いてのぞき込んでいた。

 

 

「カニに車海老にカンパチ、そして金目鯛とその他諸々……気前よく貰ったのはいいけど、これ、今日中に食えなさそうだな…」

「残ったものは冷凍庫行きだな」

「あと、クラゲはどうするかなぁ。てか、そもそもあそこクラゲなんて売ってたのかよ」

「おそらくは業者に卸すためのものだろう。そう言えば、街の外れにある中華料理店では、クラゲを使った料理を取り扱っていた」

「マジか」

 

 

 そんなやり取りをしながらも、巴の表情はどこか晴れない。

 クラゲはともかく、他にも米や茶葉など色んなものを貰っていた。巴としては、ここまで良くしてもらっていることに悪いことをした気になっているのだろう。

 ………慕われている、と言うのも考え物か。

 

 

「大将も言っていただろう。数日遅れとは言え、年に一度の記念日なのだから遠慮することはない。後日、礼の言葉でもかけてやれば満足するだろう」

「……さらっと人の心読むなよ、全く」

「すまん。いつものこととして流してくれ」

 

 

 こうして遠慮なしに言えるのも巴との関係の良いところだ。

 この気安さと気負わないところはいつも助けられている。

 だからこそ、せめて年に一度の記念日くらいは……む、そう言えば。

 

 

「俺からはまだ何もしてやれていなかったな」

「あれ?この間、みんなと一緒にラーメン作ってくれたんじゃないのか?」

「食材の仕入れだけ、な。俺自身は調理には一切口出ししていない」

 

 

 これはまずい。

 今現在、こうして荷物持ちをしているが、実質、俺は何もしてやれていないではないか。

 巴にはこれからも俺とつぐみの両方とも世話になることは多いだろう。

 どうしたものか、と唸っていると、巴が何か名案を思いついたようだ。

 

 

「あっ、ならこいつらで何か作ってくれよ!」

「それは構わんが…お前の家でか?」

「当たり前だろ?父さんと母さんにはアタシから話を通しておくし、あこも喜ぶからな」

 

 

 悪くない提案だ。

 事実、俺とて巴にしてやれることなど料理くらいしか思い当たらない。ならば、その限られた手段に甘んじるしかないだろう。

 

 

「ならば、精一杯腕を振るうとしよう。……とは言え、こんな新鮮なものに何か手を加えるのも無粋だな。人数的にも、いっそ手巻き寿司にした方がいいな」

「最高。やっぱアタシの目に狂いはなかったな!」

 

 

 どうやらお気にめした様子だ。

 話は決まった。では、他にも用意するものはある。米はこれだけあれば充分すぎるし、寿司酢もわざわざ用意する必要もないだろう。

であれば、あとは海苔か。貰い物の米を全て使うわけでもないが、米に対して海苔の数は圧倒的に足りなくなるのは目に見えている。

 仕方ない。手間ではあるが、ここはスーパーで適当なものを購入し、あとは俺が手巻き寿司に最適な状態になるように炙って─────

 

 

「ああ、そうだ。大事なことを忘れるところだった」

「おっ、どうした?」

 

 

 思考に没頭しかけた時に重要なことを思い出し、立ち止まる。

 ……世の中にはタイミングと言うものはある。だが、たとえ既に最適な瞬間を過ぎてしまっていても、最後までやるべきことはあるはずだ。

 その考えのもと、俺は巴を真っ直ぐと見据えてこう言った。

 

 

「誕生日おめでとう、巴。お前がこの世に生まれてきてくれたことを、心から祝福させてもらう」

 

 

 普段の生活で忘れがちになってしまうことが多いが、こうして場が整った以上は口にするべきなのは俺でもわかる。それこそ、巴だけでなく、つぐみやひまりたちは当たり前にやっているに違いない。

 巴としては、てっきり俺が何か忘れたものだと思っていたようだが、まあ似たようなものだろう。

 

 

「………な、なんだよ、急に改まって」

 

 

 ……そのはずなのだが、巴にとってはそうではなかったようだ。

 

 具体的に言うと、以前つぐみたちが企画した誕生日パーティーの嬉しさよりも気恥ずかしさの方が勝っているように見える。

 ……なぜだ。俺はただ当たり前のことを口にしただけだというのに。

 

 

「む、こういう言葉はしっかり口にした方がいいと再三言われているから、こうして口にしただけだ。余計だったか?」

「余計じゃ…ねえけど…くそっ、不意打ちくらった……」

「どうした、巴。顔が赤いぞ?」

「夕焼けのせいだ、バカ。なんでそういうところは察しが悪いんだよ、全く」

 

 

 そう言った巴の足取りは、徐々に徐々に速くなっていった。

 それを俺が歩くような速さで追いかける。

 

 微妙な空気になってしまったが、こればかりは何も勘違いでも間違いでもないはず。

 そう思った俺は、謝らずに巴の隣に並んで歩いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そう言えばアタシが電話したとき、カズはどこにいたんだ?」

「水族館だ。カニやら海老やら泳いでいる姿を見ながら、電話でお前に目利きのアドバイスしていた。あそこのカンパチはいいものだ。さぞ脂がのっていて美味なものだろう」

「……カズ。お前、水族館を生け簀か何かと勘違いしてないか?大丈夫だよな?」

 

 

 『5年後には、あの水槽の魚たちを全て使用できるように料理のレパートリーを増やす』という俺の目標は、どうやらかなりの不謹慎だったことらしい。

 

 ………場違い、ではあったようだ。

 

 




 子供の頃、水族館に行ったとき『どうしてサメは他の魚を食べないんだろう』と疑問に思ってました。
 調べてみると、元々サメは大人しい性格で、しっかりと餌さえ与えていれば他の魚を襲ったりはしないみたいですね。それでも事故のようなことはあるようですが……。
 そんなことはさておき、水槽の中を泳ぐマグロとか見ると○哲也が思い浮かぶのは私だけでしょうか。

 あと、こんな形ですが、巴の誕生日を祝わせていただきました!
 遅れていることには目をつぶってください。この話を書き始めたのが誕生日当日からだったので実質セーフです。

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