拙作ではGW明け前にやってくるであろうサザエさん症候群の重症化に備えて、筆に身を任せて完成させたお話を投稿します。
ちょっと予定を前後してしまった関係上、今回は他バンドメンバーは出ません。申し訳ないです。
では、よろしくお願いします。
「つぐみ、蘭を追い出したいのだがどうすればいい?」
朝の団欒の中、唐突に俺は
「ちょ、ちょっと待って、お兄ちゃん。全然話が見えないよ?」
当たり前のように、
相談事というのも、我らが幼馴染───蘭の営業時間外来店の件についてだ。
「へぇ〜、蘭ちゃんそんなことしてたんだ」
「ああ、特に最近、毎週のように来ている。その時に俺がいればいいんだが……」
「そっか。偶々お父さんとかお母さんがいる時だと驚いちゃうよね」
つぐみがテーブルの隣に視線を落とす。
今日は定休日なので、叔父叔母夫婦は朝から外出している。つぐみもこれから生徒会で学校に行かねばならないため、相談するタイミングはこの朝食しか無かったわけだ。
「それに、あいつ自身、本来悪いことをしている意識が無くなってきている」
「うんうん。で、口止めされているから誰にも相談できなくて、ギリギリ相談できるのが私だったってことだよね?」
「そういうことだ」
さすがつぐみだ。話が早くて助かる。
口止めされている、とは言え、さすがにここ最近の蘭は目に余る。かと言って、俺の知恵だけでは効果的に蘭を注意することはできない。
であれば、従妹に白羽の矢が立つのは当然の帰結───であってほしくはないが、まあ順当だろう。
「あ、蘭ちゃんのお父さんに言ってもらうのはどうかな?確か仲良かったよね?」
「逆効果だ。蘭が反発してかえってここに入り浸ることになる。あの人は使えん」
「お、お兄ちゃん!その言い方だと体良く利用しているみたいに聞こえちゃうから!」
「む」
長年亀裂の入っていた親子関係がようやく修復しかけている中、こちらから再び火元を近づけるのは憚られる、と言うニュアンスだったのだが……今後は気をつけるとしよう。
「蘭ちゃん対策かぁ……蘭ちゃんだったら、お兄ちゃんが言えば普通にやめてくれると思うんだけどなぁ」
「それでも一向にやめる気がないから聞いている。すまないが、他に何かないか?」
再び、うーんと唸る羽沢家の食卓。
なかなか名案は浮かばない。
「──────あっ、そうだ」
ちょっと待ってて、と言い残すと、つぐみがリビングからそそくさと出ていく。
しばらくしないうちに、つぐみが再びこちらに戻ってきた。
「良かった!あった!」
「何だそれは」
つぐみが手にしていたのは一枚のCDケース。
当然、中にはCDが入っているわけだが、これがどうしたと言うのだろうか。
「私たちが初めて収録したCD!前にひまりちゃんからデータ貰ってたんだ!」
「ほう」
それはまた記念すべき一品が出てきたものだ。
つぐみの提案した策とは、蘭が来た際にAfterglowの嬉し懐かしの記録であるこのCDを流す、という至極単純なものであった。
そうすることにより、蘭は羞恥により迂闊に営業時間外に店に入れないような警戒心を持ってもらうことが狙いらしい。
「あ、あくまで流すのは営業時間外で、お兄ちゃんと蘭ちゃんがいる時だけだからね!間違っても営業中とか、お父さんとお母さんがいる時に流さないでよ!」
「わかった」
つぐみもかなり恥ずかしいらしい。
楽器の演奏経験もなかった時のものなのだから、下手で当然に決まっている。いまさら恥ずかしがる必要があるのだろうか。
「……果たしてこれは効果があるのか?」
「多分、大丈夫じゃないかな。この間、練習で聴いた時とか、蘭ちゃんすごい恥ずかしがってたから」
「そうなのか」
前例があるならば信じてみよう。
礼を兼ねて、つぐみを学校まで送り届けた後、すぐに店内で作業を進める。
部屋から持ち出したCDプレイヤーにスピーカーを取り付け、コンセントを入れる。
改めてCDを見る。
何の飾り気の無い、真っ白なCD。これがAfterglowの出発点と考えると、バンド活動にあまり関わっていない俺としては奇妙な重さを感じる。
「まあ、何もしないよりはいいか」
そんな軽い気持ちで、俺はCDを挿入した。
その軽い気持ちが命取りだった。
「すまん、つぐみ。効きすぎたようだ」
『あ、あははは………やっぱり?』
やっぱり、と言うことは、つぐみも想定していたのだろう。一先ず、電話でつぐみにこの状況に至るまでの経緯をかいつまんで説明する。
今日も定休日で俺しかいない店に、蘭が我が物顔で入ってきた。
タイミングを見計らう………こともなく、普通に例の音楽を垂れ流していたのを発見し、蘭はまるで全身の毛が粟立ったように反応した。
そして……
「蘭がドアの隙間から睨むばかりで動いてくれない。ずっとこの状態でいられないのだが、どうすればいい?」
『う、うーん……』
脱兎の如く、と言うのはまさにあの蘭を指すのだろう。
その隙間からは俺を涙目で睨む目と、腫れたように真っ赤になった耳くらいしか伺うことができない。
『が、頑張って話しかけてみて!こうなったら根気比べだよ!』
「指示が急に雑になったぞ。大丈夫か」
どうやら俺に丸投げするつもりらしい。
つぐみも生徒会の雑務で、こちらに構う余裕はないのだろう。
それに、自分で蒔いた種だ。
仕方ない。できるだけ現場で対応するとしよう。
通話を切り、ずっとこちらの様子を伺っている蘭に声をかける。
「蘭」
「…………うっさい、話しかけるな鬼畜」
案の定、取り付く島もない。
鬼畜、と言うのも酷い言い草だ。ただ誰もいない店の中で音楽を流していただけだと言うのに。
「……蘭。いくら昔の自分の拙さ、至らなさを嘆いても、過去は過去だ。今をどうしたところで何も変わらんぞ」
「うっさい。そういう問題じゃないから」
「お前が恥じるのは勝手だが、今日は休みとはいえ、いつまでもそのままでいられるのは俺も困る」
「勝手に困ってれば?」
今日の蘭は一段と当たりが強い。
こうなった蘭は謝り倒したところで、象のように動かないのは過去の経験則からわかる。
こういった時は時間を置くべきなのだろうが、今日に限ってはそうも行かない。
どうしたものか…………む。
「………そう言えば、店内のBGMには何も着手していなかったな」
「嘘っ!?店でアレ流す気なの!?しんじらんない!?」
「落ち着け、俺はこのCD流すなんて一言も言っていないぞ」
バタン、ドアが壊れるかもしれないほど大きな音と、ドアベルの激しい音が店内に響く。
その勢いでこちらにずんずんと距離を詰め寄ってくる蘭。
つぐみあたりであれば後退ってしまうほどの形相をしているが、こちらは特に何も後ろめたいことはしていないので、直立不動で向き合う。
蘭は俺が距離を取るとでも思っていたのだろう。
ところが、俺は動くつもりはない。
距離感を測り間違えた結果としては──────
「………あっ」
蘭はその勢いのまま衝突する……寸前に立ち止まる。俺と蘭の距離は、自然と息が触れ合うくらいの距離になる。
ちなみに、俺はただ立っているだけだ。
「ち、近いって」
ずい、と顔を背けながら俺を押しのける蘭。
繰り返すが、俺はただ立っているだけだ。
間違いない。
……………。
「………とりあえず、何か淹れてくる。お互い、頭を冷やなければならない」
「………ブレンド」
「承知した」
どうやら俺も、冷静とは言い難い状態のようだ。
ここは一息つこうと、蘭とともにカウンターへと足を運ぶ。
ゴリゴリ、と焙煎された豆がミルの中で砕かれる音が響く。この音は不思議と心を落ち着かせてくれる。
蘭の方に視線を向けると、頭を抱えて項垂れていた。つい最近、見たような光景な気がしてデジャヴを覚える。
「はぁ……もう最悪……せっかく作詞しようかと思ったのに、何でこんな目に……」
「なんだ。その、すまなかったな。まさかあそこまで取り乱すとは思ってなかった」
「………反省してよ、バカズナ」
「わかった」
キッ、とこちらを睨む蘭。
俺も軽い気持ちでやってしまった節もある。今回においては、非は確かにこちらにある。
たが。それとこれとは話が別だ。
「お前も同じだ。何度も言っているが、せめて来るときは連絡を入れろ。俺だけならともかく、叔父叔母にも迷惑をかけるわけにはいかん」
「………はい。反省します」
「よし」
そもそも、蘭の営業時間外来店が
なので、ここは互いに手打ちとすることにして場を収めた。
「しかし、三年前か──────」
それは、俺の青春の最後であり、蘭たちの青春の始まりである契機の年。あれから既に三年も経過していることには素直に驚きだった。
傍目で蘭を見る。赤いメッシュを入れていなかった頃の蘭に比べれば、遥かに成長しているのが見て取れる。
「………何?」
「いや、大きくなったな、と思ってな」
「その言い方、おっさんみたい」
「………………なるほど」
一方、俺はおっさんに近づいたらしい。
年は無意味に取りたくないものだ。
◆◆◆
「何をしている、蘭」
三年前の春のこと。
学校を飛び出し、辿り着いた場所の外で縮こまり俯いていたあたしの上から、聞きなれた平坦な声が降り掛かった。
首を上げて見上げると、学生服を着た年上の幼馴染が無表情で見下ろしていた。
「別に、コーヒー飲みにきただけ」
「そんなことを聞いていると思っているのか?」
苦し紛れの言い訳も即座に切り捨てられる。
せめてもの抵抗としてそっぽを向いて誤魔化していると、今度もあちらから声が降りかかる。
「………つぐみから連絡が入った。『学校のどこを探してもいない』らしい」
「……連絡、返しておいて」
「わかった」
幼馴染達には事情は筒抜けのようだ。
衝動に任せて飛び出してしまったせいか、結果的につぐみたちに心配をかけることになってしまった。
勿論、本意ではない。いや、だからこそ授業に出ていないこととは別の後ろめたさがあたしを襲う。
「入るがいい。今日は特別だ」
「…………うん」
そんなみっともない姿を見かねたのか、和那はため息をつきながら店の鍵を開けた。
思えば、これが初めての営業時間外来店だったかもしれない。
「………………」
「………………」
カウンターを挟んで和那と向き合う。
元々、お互い口数が多い方ではない。いつもなら、そんなことで一々居心地の悪さなんて感じることはないはずだが、今日ばかりは口を開かずにはいられなかった。
「……続き、聞かないの?」
「何をだ?」
「ここにいる理由とか、そんなの」
「そんなもの、“ここに居たいから”以外に理由があるのか?」
「そうじゃなくて……」
相変わらず感性がズレている。
この時の心境も荒んでいたので、聞いていることが伝わっていないことに少しばかり腹が立ってしまう。
「お前が話したくなければ、俺からは何も聞くつもりはない。学校に居場所がなければ、ここに居ればいい。それはお前が決めることであって、俺が決めることではない」
だが、和那は続けてそう言い放った。
ここでようやくあたしは理解した。和那の中では既に事情の大枠は把握している。勿論、あたしからは何も言っていないので、あくまで情報源は他人の伝聞でしかない。
そのため、和那に必要なのは本人からの“事実確認”の段階なのだと。
「……学校に行きたくない」
ポツリ、ポツリと、少しずつ言葉にする。
自分の心情……とは言っても全く整理ができていなかったため、あくまで実際にあったことをそのまま口にする。
クラス替えをしてからは屋上で時間を潰してしまっていること。
つぐみたちに心配をかけさせてしまっていること。
………先生から授業に出ていないと聞いた父さんから注意されて、逆に当たってしまったこと。
それを、和那は黙って聞く。
その視線は真っ直ぐにあたしに向けられていた。
やがて、全てを話し終える。
それを見計らっていたのか、間を置かずに和那は口を開いた。
「なるほど。つまり、お前は一人だけつぐみたちと別のクラスになってしまい、これを機に疎遠になることを恐れているわけだな」
簡潔に言えば、今回の騒動についてはそれに尽きる。
──────そう、あたしは怖かった。
居場所を見つけられていないあたしに向けられる、クラスメイトからの視線が怖かった。
いつも一緒にいたみんなが、教室のどこを向いてもいないことが怖かった。
何より、あたしがいないことが、
想像するだけでも胸が張り裂けそうになる。
そんな重荷に押しつぶされそうになって、耐えられなくなって、逃げ場を求めた。
屋上に逃げて、家に逃げて、最終的に
そして、和那がいてくれた。
なぜここにいるかはともかく、こうして溜まっていた悩みを全て吐き出すことができた。
こんな時、和那ならどうするんだろう、と縋るような気持ちでここまで話すことができた。
「ならば、俺は何もすることはない」
「なっ……!」
──────だが、そんな期待はすぐに見当違いだと思い知らされた。
「驚くことでもないだろう。クラス替えの話は既に終わった話だ。これに関しては何もできん。無論、今後どうするかについても、俺は何もしてやるつもりはない」
「………っ!」
この瞬間においては、間違いなくあたしは目の前の和那に激しい怒りを覚えた。
父さんにすら向けたことのない感情がふつふつと湧き上がるあの感覚は今でも忘れることはない。
「
それでも、和那は一切臆する様子もなく、あたしを短い言葉で制する。
「その苦悩はお前だけが抱えるものではない。自分だけが理不尽な思いをしているなんてくだらない妄想は捨てておけ」
「なにそれっ!?」
耐えきれなくなったあたしは、誰もいない店の中で大声をあげてしまった。
「わかんない!和那の言ってること全部わかんないよっ!」
昔からいつもそうだ。
和那の立っている視点は、いつもあたしたちと違う場所に立っている。
あたしたちが周りを見据えれば、和那はその先を見ている。
あたしたちが先を見据えれば、和那はその遥か先を見ている。
それは、幼馴染のあたしたちだけでなく、和那が大切にしている
当時はそんなこと自覚できなかったが、高校生になって、家の問題にも一段落ついた今だからこそわかる。
この激情の根源は、そんなスタンスを取り続ける和那に対する、あたしなりの反発であったのだと。
「俺が言いたいことはひとつだけだ。“侮るな”」
あたしがどれだけ感情をぶつけようと、和那の主張は揺らがなかった。
この時、さすがの和那も一言で伝えきれないと判断したのか、続けて言葉を口にした。
「たかが教室一つの隔たりで、お前たちの関係が壊れると考えるなんて大袈裟にも程がある。現に、学校も年齢も性別も違うのに、こうして今も友人関係を続けている人間が目の前にいるはずだろう」
………言われてみればそうだった。
あたしたちが小学生のころは、和那は中学生で、あたしたちが中学生になれば、和那は高校生。そして、あたしたちが高校生になれば、和那は大学生、あるいは社会人になるわけだ。
いつも一緒にいたせいで、年齢差というものをすっかりと失念していた。
しかし、それをものともせずに、こうしてあたしたちと関係を続けていると言うのも、それはそれで問題な気がする。
「でも、和那は和那だし……」
「……お前は俺を何だと思ってるんだ」
そんなものは決まっている。
ド天然。ナチュラル鬼畜。コミュ障……エトセトラエトセトラ………言い出せばキリがないくらいに出てくるが、本題はそこではなかった。
「今後についても、俺が出る幕はない。もうあいつら……いや、つぐみがいい話を持ってくるはずだからな」
「つぐみが?」
侮るな、と言ったのは幼馴染のことだったのか。
しかし、突然出てきたつぐみの名前には疑問符が出てくる。
巴でも、ひまりでも、モカでもなく、なぜつぐみが出てくるのか。
「自慢ではないが、こうなった時のつぐみの行動力は計り知れないぞ。おそらくは今日にも“お前たちが一緒にいられるための何か”を持ってくるだろう」
と、自慢げに語る和那の顔は今でも思い出せる。
「……根拠は?」
「ただの予感だ」
この時は、ただの従妹バカが発動したのかと呆れていたが、まさに的中していたことは後々になってわかることだった。
すると、和那はおもむろに携帯電話を取り出した。画面を見て、普段の仏頂面がほんの少しだけ崩れた瞬間は見逃さなかった。
「さて、連絡が入ってきたぞ。『放課後、学園近くのファミレスに来て』だそうだ。その時まで震えて待つがいい」
「……それ、絶対使い方違うでしょ」
中学生に国語を指摘される高校生はどうかと思うが、和那は特に何も気にした様子もなく、キッチンに置いてあった戸棚から取り出したハンカチを渡してきた。
「そうだな。だが、今、お前がすべきことは、その情けない顔を一刻も早く元に戻すことだな。そんな顔をモカや巴にでも見せてみろ。一生笑いものにされるぞ」
「う、うっさいっ!」
そんな顔にした主犯格を睨みながら、受け取ったハンカチで顔を隠した。
──────ふと、気づいた。
あれだけ重かったものが気にならないくらいに無くなっていたことに。あれだけぐるぐると行き場をなくしていた鬱憤が、嘘のように無くなっていた。
「………その前に何か飲むか?」
「………ブレンド」
「承知した」
和那はいつも通り豆を挽く。
その音が、どこか穏やかな気持ちにさせてくれた気がした。
そして、この日の夕方、
◆◆◆
「最悪、また和那に辱められたこと思い出した」
「突然何を言うんだお前は」
そんなことを言いながら、和那が目の前にコーヒーを置く。あの時と変わらないコーヒーの香りが鼻をくすぐる。
「だが、今日の取り乱す姿は、あの時の蘭ほどではなかったな」
………コーヒーに口をつけないで本当に良かった。
もし何か口に含んでいたら、間違いなくむせていたに違いない。
「あ、アレは一度きりだから!」
「お前の中ではそうなのだろう。だが、事実としてガルジャムの時もあの時のように─────」
「お願い、もうやめて………」
やはり勝てない。
このナチュラルボーン鬼畜に一泡吹かせられるようには、まだ時間が必要なようだ。
……本当に、例のノートを見られていなくて良かった。あのノートを見られたら、一生和那を打ち負かすことができなくなってしまう。
「今だから白状するが、アレ、実は俺も学校をサボっていたんだぞ。あの時は自分のことを棚に上げて話していたわけだ」
「人のこと言えないじゃん」
そう言えば、あの時の和那は『学校サボってはいけない』という注意は一言も言っていなかったことを思い出す。
少し鬱憤が発散された気になったが、やはりあのようなみっともない姿は見られてしまったわけで。
「はあ……あんなの、二度と誰かに見せないし……」
ここはひとつ宣言しておこう。
「そうか、俺だけには見せてもいいと思うがな」
「は、はあっ!?」
返ってきたのはそんなキザったらしい台詞だった。
和那の方を見てみると、洗い物の片手間に放った言葉だったことが見て取れた。
「………何か変なこと言ったか?」
「はあ、もういい、何かもう疲れた」
「そうか」
今度、ひまりの前で和那を“タラシ”と呼ぶことを決めたところで一息つく。
今日は一段と和那に振り回されている気がする。例のカズ語も今日は鳴りを潜めているようなのに、おかしな話だ。
「あ、そうだ。和那」
「何だ?」
肝心なことを聞き忘れていた。
和那を呼び止め、あたしは今後のことについて尋ねる。
「これからも…ここに来て良い、かな?」
………実のところ、誰もいない
今まで宿題や作詞もここでやっている。普段の落ち着いている雰囲気がさらに静かになるため、作業をするにはうってつけな場所なのだ。
それに行けば和那が………関係ない。それは関係ない。
おじさんおばさんたちに迷惑はかけたくはないが、出来ればこの場所を使いたいのは本心だ。
「………事前に連絡すればな」
「………ありがと」
言質を取ったことで一安心することができた。
さて、作詞作業をしようと、鞄からノートを取り出す。ついでに、テーブルに置かれた角砂糖をひとつ、コーヒーに入れた。
よし、これで準備完了だ。
「む、ブラックの方が好みではなかったか?」
「………今日は砂糖入れたい気分なだけ」
当然ながら、いつもより甘い味がした。
・今日のカズ語
「その苦悩はお前だけが抱えるものではない。自分だけが理不尽な思いをしているなんてくだらない妄想は捨てておけ」
(悩んでいるのはお前だけではない。周りはちゃんとお前のことや、今後のことについて必死に悩んでくれているぞ、の意)
「そうか、俺だけには見せてもいいと思うがな」
(誰にも話さないから、そんな一人で抱え込むような真似はしないで、自分でも良いので、ちゃんと周りの誰かに相談しなさい、の意)
私が思う、蘭の年相応なところを前面に出してみた結果がこれです。ラブコメの波動を少しでも伝わっていれば私の狙い通りです。
拙作では時系列を曖昧にしていますが、本編(ガルパ)でやったことについてはこんな風に『あの時ああだったよね〜』って感じでやっていこうと思います。そもそもバンドリの世界はサザエさん時空なの…?
GW中にもう一話投稿したい…したいです……。