ここは、新世界・
半径五十キロほどの大きさでその大地の六割ほどが緑で覆われており、この島の中央には正義のマークが刻まれた旗を
そして今この島では、
島の中央にある処刑台には、ボサボサになった金色の髪を風で揺らしながら座らされている男がいる。
その周りでは一般市民がその処刑に歓喜の声を上げている。
彼の名はマネトリア・ゴルディ。
悪魔の実の能力者であり、一海賊団の船長だ。
いや、ゴルディの悪魔の実の能力のお零れに預かろうと集まった海賊達が1万を超え、天竜人を操るほどの力を有する
ゴルゴルの実と言われる、黄金を自在に操る悪魔の実に魅了され、利用しようとし、様々な思惑の元出来上がった組織はリーダーのゴルディのみならず、懸賞金十億ベリーを超えるような能力者が何人も所属する大規模なものとなっていた。
それ程の
そんな世界に名を轟かせ、金の力で世の中を操っていた組織ではあるが、遂にその組織に幕が降りようとしていた。
「おい何か言い残すことはあるか?」
海桜石の鎖で繋がれたゴルディの隣に立つ海軍所属の海兵が大きな剣を振り上げて、今か今かとその時を待つ。
「この歓声が心地いいぜ。あぁ、あるさ。今度はうまくやってやる。こんなクソつまんねぇとこで終わるのは癪だが、まぁいい。少しの間俺の死の余韻に浸ってるがいい!
この世界は再び動く!
混沌へ向けて止まる事のない針が動き出したぜ!
再びお前らに告げよう!
五百年も前のセリフだが、今がふさわしい。
オレの財宝か?欲しけりゃくれてやる。探せ!この世のすべてをそこへ置いてきた!!
見つければこの世の全てを支配できる。そんな物をな」
ゴルディは口角を吊り上げて不敵に笑った。
言いたいことを言い終え瞳を閉じたゴルディの脳裏に次々と今までの記憶が走馬灯として蘇ってきている。
生まれてから今この瞬間までの、自他共に認める波乱万丈な日々。
世間一般的にみると極悪人と言われることもやってきたはずだが、自分の信念、理念の元行動してきた彼に後悔はない。
ーーーあぁ、終に終わったかぁ。まだいろんな世界を見たかったなぁ。
若干の心残りを見せつつも、ゴルディの顔には笑顔を浮かんでいた。
市民の罵詈雑言がここら一体に響く中、今まで待機していた海兵が無慈悲にもその笑みを遮るようにゴルディの首筋に刃を落とした。
これがゴルディの最後のセリフであり、彼が築き上げてきた組織の幕切れであると同時に、五百年前の悲劇である大海賊時代以上の混沌とした世界の幕開けとなった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ゴルディは確かにこの瞬間死んだ。それは確かだ。
どんな魂であれ、死んだら輪廻の輪に加わり全てが浄化され、その後新たなる
それは彼の魂も例外ではない。
しかし、なんの因果か彼の魂は浄化されずに
悪魔の実という歪な力は浄化される事なく魂に残され、いや、輪廻の輪を潜ったことにより、更に魂と混ざり合い歪な形状となった。
其れがこれから彼の人生、次の世界にどのような影響を及ぼすかは神のみぞ知ることであろう。
しかし、その魂がたどる人生が平穏無事に終わることはないと言うことは明確である。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ここは東京都内にある孤児院の院長室。
この孤児院の院長である男が書類整理をデスクでしていると、突然目の前の扉が乱暴にバッと開かれた。
何事だと書類から顔を上げると、慌てた様子の女性が息を切らして立っていた。
まだ十代でも通用しそうなほど若い見た目の女性であり、この孤児院の職員だ。
「た、大変です院長先生!
「な、なんだと?! 今行く!」
それを聞いた男は、慌てて院長室から出ると彼を呼びにきた若い女性の職員に案内され金成と呼ばれた少年の元へと向かう。
男が院内の保健室の扉を慌てて開けると、そこには五歳ほどの年齢の
体温の上昇により暑苦しいのか布団を跳ね除けていて、全身からは大量の汗が噴き出してベッドシーツを濡らしていた。
「
「は、はい!」
御手洗と呼ばれた先ほどの女性が慌てて部屋から飛び出すのを確認すると、男はベットの上でうなされている金成の元へ近づいてすぐ脇で膝をつき、彼の額に手を乗せた。
すると、その手から段々と淡い青色のような光が出てきて、彼の体を包み込むように広がる。
其れが一分ほど経つころには、彼の表情は先ほどの辛そうなものから一変し、落ち着いたものになっていた。
「院長先生、これって多分‘個性’が発動した副作用なんじゃ?」
「あぁ、多分そうだな。五歳というとちょうどその時期だろうし」
「そ、そうですか。よかったぁ」
いつの間にか戻ってきた御手洗が、原因不明の病とかではなく単なる‘個性’の副作用による熱ということがわかり、安堵の息を漏らす。
「それにしても、こんなに熱が出るなんて……」
御手洗は持ってきたタオルで金成の体に浮かんだ汗を拭きつつ‘個性‘について思い出す。
一般的に‘個性‘は自然と使えるようになっていることが多いが、稀に暴走する時がある。
それが強力な‘個性‘な時で、アメリカにある‘個性‘の研究を主に行う大学が二十代の強力な‘個性‘を持つ者にアンケートを取ったところによるとその九十%が‘個性‘の発動時に暴走したことがあると答えたそうだ。
そのために彼女と男が思うのは将来への期待と不安である。
力を有する者には同時に強い心が必要になる。
強力な力であっても、その力に溺れ、飲み込まれるようでは意味がないのだ。
「たぶんそうなんだろうな。でもどのような‘個性’であれ優しい子に育ってほしいものだ」
院長と呼ばれていた男、
◇◆◇◆◇◆◇◆
金成として目が覚めたゴルディは今とても混乱していた。
それは、海兵の剣が自分の首に落ちて意識が途絶えた後に再び目を覚ましたからだ。
目を覚まして初めに気がついたことは自分がベッドに寝かされていることだ。
ーーーおかしい、自分はあの時確かに処刑されたはずだ。いや、もしかして
ゴルディは上半身をベッドから起こし首筋を擦りながら、未だ鮮明に思い出すことができるあの首を切られる感覚を思い出していた。
ーーー首はしっかりつながってるしなぁ。って、え……?
ゴルディが自分の首筋に手を当てるとおかしな感覚に襲われる。
首を触った感触が明らかに以前の自分と異なることだ。
不思議に思った彼が目の前に手を持ってくると彼の瞳に映ったのはきめ細やかな白い肌の小さな手だ。
「え、手が小さい。いや、なんだこの声?! 子供か?!」
ゴルディは今自分に起こっている異常事態に咄嗟に口から驚きの声を上げてしまうが、口から出た声は今までに聞いたことのないような高い声。
それを聞いた彼は現実逃避するかのようにこの部屋を見渡すが、瞳に映るのはタンスと扉、あとはきれいなガラスでできた窓だ。
「は、ははは。なんだこれ……」
この異常事態を受け入れる事ができないゴルディは、次に先ほど瞳に映った手を見た。
ーーーなんだこれは。手も小さい、いや体全体が小さい。それに声がすごい高い。
真っ白な小さい手を見たゴルディは次に視線を下げて身体を見渡す。
彼の瞳に映ったのは今までのような成人男性の身体、腕ではなく、自分がいるベッドと比較するとよくわかる小さな体。
寝巻である青いパジャマの上から全身を触るように手を這わせると子供特有のプニプニとした肉体であることがよくわかる。
ーーー俺は子供になっちまったっていうのかよ。
そうすることで、やっと自分が子供の姿になっている事が理解できた。
理解できたが納得はできない。
自分が処刑から逃れることができたのはよかったが、それで子供に戻りたいと願った訳ではないのだ。
ーーーそれに何だこの部屋は。ここはどこだよ。
子供になったという現状を一旦置いてゴルディは自分がどこにいるか調べようとするが、この部屋だけではよくわからない。
少なくとも自分の今まで住んでいた家、又は仲間の家でないことは経験でわかる。
彼はただぼんやりして居る訳にもいかないので、ベットから降りようとするがうまく体が動かなった。
ーーー起き上がるときに感じたが、何だこの怠さは。子供ってこんなんだったか?
この体が高熱を出して寝込んだことを知らないゴルディは、体に感じる倦怠感に首を傾げた。
「ぐっ、いってぇ!」
動くこともできなく今はベッドで寝ていることしかできないと感じた彼は、仕方がなくあの処刑のあとに何が起こったのか思い出そうとすると、突然激しい頭痛に襲われて頭を抱えた。
其れが数分程続き痛みが頭から引くと、今まで自分が見てきたゴルディとしての記憶の他に、以前のこの体の持ち主である金成としての記憶があることに気がつく。
「そうか……。そういう事か。俺がいた世界と違うとこに生まれたのか。それに金成の記憶、いや俺の記憶があるのか」
そこでやっとこの現状を正確に理解することができ、ゴルディが今いるこの世界は今までにいた世界とは全く別の世界であることが分かった。
「だから、俺は子供になっちまったのか」
ゴルディは自分が子供の姿になった理由が、生まれかわった事が原因と分かり、病気や人体実験とかではないことに安堵した。
先ほどまでの慌てた感情が落ち着き、もっと詳しくこの世界を知ろうと金成としての記憶を思い出そうと思考すると、ゴルディは驚愕の表情を顔に浮かべた。
これほど発展しているのか、と。
ゴルディの眼に浮かぶのはきちんと都市開発された街に立ち並ぶ高層ビル。
それにあの時代では考えられないような繊細な衣服や精密に計算された造形物など。
これを知って驚くことしかできない。
他にも、モノの在り方が変わっている事に驚く。
此方の世界では、海賊はすでに過去の産物であり、今世の中を騒がすのは
彼らは、今や世界人口の約八割が持つと言われている超常的な力である‘個性’を悪用して暴れる者達のことを指している。
「‘個性’か……。まるで悪魔の実のようじゃないか」
‘個性’とは言ってしまえばピンキリだ。
首を伸ばす‘個性’、ライトを灯す‘個性’などほぼ無害である物もあれば、力を入れれば超人レベルまで筋力が倍増する‘個性’、炎を出す‘個性’など使用自体が危ない物など多岐にわたる。
それを制御するために政府が発効したのが個性使用許可証だ。
基本的に‘個性’を使用するためにはこれが必要となる。
しかし日常生活の中、公共の場で‘個性’を使うことなどほとんどないため普通の人は取ることは少ない。
基本的にというのは、小さなことであれば公共の場であってもある程度見逃してもらえるために、日常生活に使うレベルから逸脱しない限り許可証など必要ないからだ。
‘個性‘の中には、異形系と言う体に特徴が現れ常時‘個性‘を発動した状態の者もいるため厳密に規制することなどできなかった。
もしそれすら規制してしまえば異形系である本人や、親族や友人などから暴動が起きるのは目に見えており、それ以前に憲法にも反してしまう。
一方で彼がいたところの、海軍にあたるものがヒーローと呼ばれる人たちだ。
彼らは全世界に‘個性‘が現れた事を皮切りに徐々に増えていった‘個性‘を使った犯罪を犯す
彼らはそのコミックのような活躍からヒーローと呼ばれるようになり徐々に世間に浸透していき、終には職業の一つにまでなるようになっていた。
個性使用許可証、通称‘資格‘を必要とするのがこのヒーロー達であり、ヒーローを目指す者はヒーロー育成を目的としたヒーロー科がある高校へ通って国が行う試験に合格する必要がある。
ゴルディはこの世界について五歳までにある程度得ていた知識で理解すると、先程までの動揺は無くなっていた。
「なるほどなぁ、さすがに今世で暴れる訳に行かないよなぁ。ヒーローか、なんか面白そうだな」
流石に前世で一万人をまとめ上げた男であっても全く異なる世界で再び暴れるほど愚かではない。
元々、ゴルディが組織を作り、大きくしたのは単純に暇つぶしがしたかったからだ。
彼の悪魔の実があれば金に困らない。安全な場所に住み、美味しい料理を食べ、美しいものを愛でる生活だってできた。
しかし彼はそれが我慢できなかった。
彼が悪魔の実を食べた十五歳から二十歳までは能力を使って豪遊しまくっていたが、ある時ふと思ったのだ。
もしかして死ぬまでこの生活を続けるのだろうか、と。
そのことを考えた彼は途端に目の前にあるモノ達がすべて色あせていった。
つまらない、つまらなすぎる、と。
ならばこの生活を捨てて外に出ればいい。
世界を回れば今までに見たことないモノや、自分を興奮させてくれるモノに出会えるのではないか。
そう思ったゴルディは思い立ったが吉日とばかりに、その日に家を飛び出し海に出て海賊となった。
そんなゴルディがこのような摩訶不思議な体験、別世界にいるという事実に興奮しない訳がない。
先ほどまであった感情はすべて消えて、いま彼の中にあるのはこれからの期待だ。
ーーーこんな世界があったのか、また人生を歩めるのか。今度はうまくやろう。退屈な人生ほどつまらないものはない。
ゴルディは前世の、あの楽しかった海賊生活を思い浮かべながら、今世について思いを巡らす。
「あぁ、今度の人生も波乱万丈でありますように。」
ゴルディが願うのはただそれだけであった。
時代設定は、ルフィ達がいた500年後です。