「なぁ、
「いや、来週体育祭だからじゃないの?」
休み時間になると生徒たちは友達同士で来週の体育祭についての話で盛り上がっている。
エイミィの周りにも数名の女子が集まり会話を弾ませている。
「いやいや、うちの体育祭って言っちゃうとヒーロー科がメインじゃん?俺たちが活躍することなんてないし、辛いだけだろ」
諦めの感情を滲ませた声を絞るように漏らす。
きいたところによると、大智は元々はヒーロー科志望であり、落ちたために普通科に入ったらしい。
若干のネガティブ思考がある。
「いや聞いたところ、頑張ったらヒーロー科に入れるらしいじゃん。それに、屋台とか、色々出るし選手じゃなくてもお祭り騒ぎて楽しいんだろ」
まぁ、金成はバリバリヒーロー科編入狙ってるが。
「いや、聞いてないの?ヒーロー科に編入したのここ10年ないらしいぞ。無茶だろ...。」
若干顔を俯かせながら言葉を漏らした。
「あちゃー、まじかぁ。それは聞いてないなぁ。そもそもどこまで活躍すればいいかわかんないよなぁ」
まさか、10年はないとは思わなかった。
金成が本気を出したら優勝できる自信がある。よほど相性が悪くなければだけど。
問題はどこまで力を出すかだ。流石に覇気はバリバリ使うが、ゴルゴルの実を使うかが悩ましいところだ。
使ってもその金色の流動体が黄金ってバレなきゃ問題はない。
しかし全国放送だ、必ず気がつく奴が出てくる、と思う。
「っと、先生が来た」
そこで前の扉から先生が入って来て授業開始にチャイムが鳴った。
金成は孤児院に帰宅する前に一旦マネトリアカンパニーに来ている。
今は社長室の椅子に座って部下から上がって来た報告書を読んでいる。
エイミィは暇つぶしに、中央のソファで報告書を持って来た日陰を誘ってジェンガをしている。
「ふーん。衝撃吸収に、超再生ねぇ。日陰、この情報はあってるの?」
「はい、我が部隊が調べた限りほぼ合ってます」
机から目を離し金成と目を合わせる。
「人体改造でここまでできるかぁ。じゃぁこの報告を元にアイテム開発に役立ててくれたらいいよ」
「わかりました。其れで脳無はどうしましょう?処分しますか?」
日陰が立ち上がった拍子にジェンガが崩れてしまい、ついでにエイミィも床に崩れ落ちる。
ーーー崩れたぁああああ!!
「....。いや、できる限り矯正の方向で持ってってくれ。もし無理そうならあとはそっちに任せる」
「かしこまりました。
ではエイミィ私はこれで」
日陰はそのまま影の中へ消えて言った。
その日はテンションが低いエイミィの為に美味しいレストランで夕食をしてからの帰宅となった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
それからあっという間に日が過ぎ、体育祭当日の朝を迎える。
雄英高校の前には一目、生徒たちの熱い戦いを見ようと訪れた人々で長蛇の列が出来ている。中にはメディアの人達もいる。
先日に、ヴィラン襲撃事件があった為入場の際には厳重な検査が行われているのだ。
雄英高校までの道路も今は封鎖され、屋台がずらっと並んでいる。
そこにいる人たちの間を縫って金成達は校舎を目指す。
「はぁ、すっごいひと。なんか酔って来ちゃうよ。うおっぷ」
エイミィは自身の口を手で塞ぎながら重い足取りで金成について行く。
「本当に、ここまで多いとはなぁ」
本当にすごい。校舎裏から打ち上がる花火や、そこら中から聞こえる人の声。
今回の警備にプロヒーローがたくさん集められた為、至る所で彼らからサインをもらおうとする子供達が多い。
試合会場となる、何万人と入るホールは敷地内にあるらしく、直に観戦したい人は午前2時から入場を始めている人もいる。
まぁ至る所に観戦用のモニターがある休憩所があるため敷地外でも楽しめるが。
「本当雄英って敷地でかいよなぁ。1学年で一つのホールだってよ」
「うっぷ。そうだね...。それより早く行こうよ。じゃないと口から目玉焼きがでちゃうよぉ〜」
青い顔をしながら赤い髪を揺らしている。今日の朝食は目玉焼きだったらしく、若干涙を滲ませながら口を押さえている。
「あぁそうだな。じゃぁ生徒用入り口へ急ぐか」
流石にこれ以上はエイミィにはきついと判断した金成は早々に控え室へ向かおうと足を動かした。
生徒用入り口は大きな一般用入り口の隣にあるためそちらへ足を運ぶ。
すると長蛇の列の横を通る時に声が聞こえてきた。
「やっぱ今回の注目は1年A組ね!ヴィラン襲撃を撃退したクラス!絶対数字でるわよ!」
「それにしても入場検査長いっすねぇ」
「仕方ないじゃない。あんな事あったんだし、こんなことにもなるわよ。そもそも開催を危ぶまれていたくらいだし」
男女のペアのカメラを持ったマスコミの声が聞こえる。
ーーーやっぱヒーロー科は目立つなぁ。まぁ楽しめるならどうでもいいや。
「おっと、よし急ぐぞ!」
エイミィが酔っていること思い出したため、先ほどの会話を頭の片隅からデリートして敷地の中へ入って行く。
「うひゃぁ。中も多いなぁ」
まるで文化祭のようなイメージだ。
中に入ると、外程の人数ではないが生徒や、観光客、プロヒーローなどで溢れかえっている。
ホールまでの案内板を持った人がいたり、屋台で売り込み中の女性、プロヒーローとの記念撮影、カップルが仲良くたこ焼きを食べあいっこなど、本当にお祭り状態だ。
流石に時間がないため急いでホールにある、1年D組のクラスの控え室へ向かう。
控え室へ入るとすでにほとんどの人が揃っていた。
それぞれが緊張をほぐすためか体を動かすものがいたり、音楽を聴いているものがいたりと気合が入っている。
「っと、エイミィ大丈夫?!顔が真っ青だよ?!」
「あぁ、人ごみで酔ったらしい。ちょっと座らせてやってくれ」
エイミィの様子に驚き駆け寄って来た美亜へエイミィの症状を教えてる。
「う、うん!ほらエイミィあっちに行こうね」
「うっぷ。だめ、やばい」
青い顔のエイミィに肩を貸して椅子へ向かう。
周りも心配していたのか、女子達が心配して集まって来た。
金成はエイミィを美亜に預けると空いてるパイプ椅子へと座った。
「よ、遅かったな。それよりあれ大丈夫か?」
「ん?大丈夫だろ。アイツ体丈夫だし」
「いや、今回は精神的なやつだろ...」
近寄って来た大智は具合が悪そうなエイミィを指差しながら近くの椅子に座る。
「で、どうよ。やる気出た?」
金成は、大智は本番になればやる気が出るだろうと思っていた。
「んー。やる気以前にちょっと緊張して来た」
「ふははは!そうかそうか。まぁ楽しめ。本当に楽しいなぁ。体育祭」
まだ始まってすらいないのに金成は少しテンションが上がっている。
こういうイベントが大好きなのである。
「まだ始まってもないだろ....。っとそろそろ入場の時間だ」
時間になったため係員が入場の時間を告げに来た。
ふと気になりエイミィの方を見るとすっかり元気になっていて、友人達とお喋りしてた。
ーーーやっぱ元気か。よし!いっちょ行ったるかーーー!!
金成は気合を入れて体をほぐした。
A組から順番に入場して行く。
ーーー1年ステージ!遂に入場だーーー!!!
プレゼントマイクの声がこちらまで聞こえてくる。
ーーーわーわー。きゃーきゃー。
まだ入場口まで遠いにもかかわらず歓声が凄い。
A組が人気なのかこれが普通なのか分からないが、段々と楽しくなってくる。
「歓声が凄いね!やっと始まったって感じだよ!」
「そうだな。なんの種目があるんだろ。毎年ランダムって言うからなぁ」
すっかり元気になったエイミィは跳ねるように今の感情を体で表現する。
「っとそろそろ俺たちもだ。エイミィ」
「ん?なに?」
エイミィは金成に呼ばれて首をかしげる。
「いっちょてっぺん取ろうか!」
「もちろん!!!!」
金成の楽しそうな笑顔につられてエイミィも笑ってしまった。
『じゃぁ次は普通科のD組の入場だーーー!』
金成達は暗い通路を抜けて会場へ入って行く。
会場に入ると、晴天のため暖かな光が注いでいる。
周りを360度見渡せば客席には人で埋め尽くされていて、歓声が巻き起こっている。
まぁ、ヒーロー科が終わったから若干小さいが。
「ウォー!凄い人ーー!多いなぁ!これ日陰ちゃん達も見てるかな?」
「ん?どうだろ、いちおう幹部連中は俺たちが雄英に行ってること知ってるし暇なら見るんじゃね」
エイミィはあまりの人の多さ、歓声の高さに驚きの声を上げている。
アイツらは見るのだろうか。うちも一応新参者ではあるがアイテム開発を行なっているためスカウトをすることはできるが、そこのところは美流にすべて任せているため分からない。
でも悪いことにはならないだろうと思う。
全生徒が中央に集まるが、いまだに興奮した歓声がやまない。
『雄英高校体育祭!ヒーローの卵となる者達が我こそはとシノギを削る一大イベント!!開催だぁぁあああああ!!!』
プロヒーロー、プレゼントマイクの合図でより一層会場が湧き上がった。
ビシッ。
「選手宣誓!!!」
中央のホールに登った18禁ヒーローと呼ばれる色気があるお姉さんが、艶のある声で宣言すると鍛えられた軍隊のごとく静かになった。
ーーーおー!今年の主審は18禁ヒーローかぁ!
ーーー18禁なのに高校にいていいのかな?
ーーーんー、可愛いしおkだろ。
ざわざわと小声でそのような噂が飛び交う。
金成は以前も教室で見ていたがヒーローコスチュームのミッドナイトは初めて見たため若干驚いている。
ーーー18禁ってあの格好が由来か?
全身が強調されるようなパツパツのスーツが特徴だ。
「うひゃぁ。おっぱい大きいね!バインバインだよ!ボス!」
「ちょ、恥ずかしいからやめろ!」
エイミィはミッドナイトの胸の大きさを自身の胸の上で山を作って表現する。
普段はそこまで馬鹿ではないが、周りの熱気に当てられたらしく、異様にテンションが高い。
ーーーこいつ大丈夫かぁ?
若干心配になるが今は選手宣誓を聞こうと前を向いた。
「選手代表爆豪勝己!!!」
ミッドナイトの呼び声であの、金髪のザ・ヤンキーが宣誓台へ上がる。
「へぇ、アイツが代表かぁ。ってことは頭いいのか」
「凄いね!ボスより頭いいのかな?」
「いいだろうなぁ。意外だな。人は見かけによらないってこの事か」
金成達は驚愕の事実に驚きながらも耳を傾ける。
「せんせー、俺が一位になる!」
ーーーうっせーー!
ーーーふじゃけんじゃねーぞーー!
ーーーくそA組がぁ!舐められたもんだなぁ!!
両手をポケットに突っ込んで、挑発まがいな宣誓を行ったため、クラス問わずブーイングが巻き起こる。
「ふっはっはは!あぁアイツ面白いなぁ!」
まさかこれほど多くいる観客、生徒の前であれだけ啖呵を切るとは思わなかった金成は思わず吹き出してしまった。
「ボス楽しそうだねぇ」
あまりの面白さに笑ってしまう。
あそこまで突き抜けるか。
ーーーやっと始まったよ。体育祭。最初の種目は何か、まぁ何でもいい。トップを取るのは俺だ。
こいつもこいつで自信過剰らしい。