順調に事が運び2回戦が始まろうとしている。
2回戦の初めの試合は、エイミィとA組の轟焦凍の試合となる。
今彼女らはフィールドでお互いに向かい合っている。
轟が普通のジャージなのに対し、エイミィは熱耐性がある服を着ている。動きやすいようにジャージのような水色の服を着ていて、着慣れた感がある。それもそのはず、それは彼女が普段訓練をするときに使っているものだからだ。
日陰へ連絡して急いで持って来てもらったのだ。
日陰の方も会議室のモニターで見ていたため呼ばれると思い待機していたのだ。
二人が対峙するとプレゼントマイクのアナウンスが会場を満たす。
『じゃあ第2回戦いくぜー!初めはこいつらだ!ヒーロー科のクールな男!初戦では巨大な氷を見せてくれたが今回はどうする?!轟焦凍!
対するは普通科の刺客!1回戦では無敵とも見えた全身マグマ少女!エイミィ・グランドーラ!!!』
エイミィと轟は自然体で向かい合い、開始の合図を待っている。
エイミィが笑顔なのに対し、轟は無表情で相手の顔を見つめる。
「グランドーラ。俺が氷に対してお前はマグマ。相性的には最悪だ。だが、勝てないわけじゃ無い」
見つめ合っていた二人だが、轟が自分を納得させるかの様につぶやいた。
彼は、先の彼女の戦いをただ見ていたわけじゃ無い。
万全とは言い難いがしっかりと相手の個性を把握したはずだ。
「そうだね。相性は最悪だろうね。何か策でもあるのかな?」
元々が戦闘好きであるエイミィは彼の宣言に少し昂ぶってくる。
その証拠に先ほどまでのニコニコとした笑顔に少しの獰猛さが見え隠れしているのがわかる。
ーーーエイミィ、アイツ本当好きだよなぁ……。
それを遠くから見ていた金成が少しのため息とともに呆れる。
彼女の表情の変化を目の当たりにした轟は内心では少し驚きながらも、顔には出さず自分が思っていることを口にしようとしたが此処で待ったがかかる。
どうやら時間が迫っている為早く始めなければならないらしい。
残念ではあるが後は試合に集中するべきだろう。
『じゃあ準備はいいか?!レディィィ!!START!!!』
開始の合図と共に、轟は腕から冷気を飛ばしエイミィの全身を氷で覆う為襲いかかる。
腕から伸びた冷気が地面を伝って彼女に急接近していっている。
それを何を思ったか、エイミィは口角をニッと上げて微動だにせず立ち尽くすのみ。
一体何するつもりだ?と疑問に思った轟だが、結局はなんの抵抗もせずに分厚い氷に閉じ込められる結果に終わった。
ーーーなんだ?これで終わりのはずがない。
そう、これで終わるとは流石に思っていない轟。
こんな攻撃で終わっている様じゃあ、あの緑谷にすら勝てない。
轟は警戒を解こうとはせずじっと氷を見つめる。
ーーーおいおい、もう終わりかよ。
ーーー馬鹿、んなわけねぇだろ。
突然の試合模様に驚いた観客ではあるが、彼らも彼女の個性を知っているのでやられるとは思っておらず、固唾を飲んで見守っている。
ーーーピキ、ピキ
そんな中微かに小さな破裂音が鳴る。
この音を聞いたのは近くにいる轟と審判のミッドナイトのみであろう。
「やはりか……」
ーーーバキッ。
その音を聞いた轟が構えると同時に、ひびが勢いよく広がっていきそのまま中から勢いよくマグマが吹き出す。
割れ目から吹き出す様に漏れるマグマが瞬時に触れた氷を蒸発させ溶かしていく。
その瞬間氷が水蒸気へと変化して辺り一面を霧で覆う。
マグマから漏れる黒煙と、氷の蒸発により生じた蒸気が混ざり合い彼の視界を若干鈍らせる。
「……チッ」
思わず舌打ちをしてしまったがそんなことをしている暇はない。
彼は微かにかすれる視線の先を何一つ見逃さないと言った瞳で凝視している。
「くそ、やはりか。一筋縄ではいかねぇな」
轟が水蒸気が出来る時に発生した爆風に耐えながら霧の中を見つめる。
霧が晴れるとそこにいたのは下半身をマグマに変化させ、こちらへ向かってくるエイミィだ。
走るより早いらしく、蒸気と黒煙で出来た空気を割きながら瞬時に迫っていく。
「氷じゃあ、無理だよ!」
迫ってくるエイミィを止める為に先端を尖らせた氷を飛ばすが、無駄に終わってしまう。
エイミィはきた順からマグマで瞬時に溶かし、弾き落としているからだ。
「無駄か」
ダメだと判断した轟は目の前に大きな氷の壁を作る。
厚さ50センチはあるであろう分厚い氷の壁が瞬時にせり上がって形成される。
「追い詰められたか」
その氷の壁からバックステップで後退するがいつのまにかフィールドの端ギリギリに迫っていたらしく、それ以上下がれない事に気がついた。
後ろに飛ばした視線を前に移し目前の氷の壁を見ると、氷の中心が赤くなって行ったと思うと、そこからマグマでできた巨大な腕が貫通して氷が崩れ落ちる。
急激に熱せられたせいか、バキっという破裂音とともに壁が崩れ、彼女の姿が露わになる。
両腕はマグマでできた綺麗な拳の形であり、それを突き出して此方を見ている。
彼女の平然とした、まるでこれで終わりかといった視線が轟の心に突き刺さる。
「だから氷じゃ弱いんだよなぁ。棄権してほしいな?」
エイミィはこれ以上無駄とわかっているため棄権を促す。
大人気ないようだが、普通の学生には少し酷と感じられるほどの実力差。
あまりの実力差に、一瞬ではあるが氷ではダメかと考えてしまう。
忌々しい事に片側を占領する赤い髪が視線に入り、脳裏に男の姿が一瞬浮かんだ。
ーーークソ……!氷だけじゃ無理なのか?
轟の個性は氷を生み出すことではない。いや、生み出すことはあっているが、彼は炎も生み出すことができ、表裏一体なのだ。
轟は目の前の圧倒的な熱量を感じてとっさに自分の左側である、炎について考えてしまった。
自分が嫌悪する、使わないと決めた左側を。
『おっと!やはりマグマの前には全てが無意味か?!あの轟が追い詰められている!!』
プレゼントマイクの解説は轟の耳に届かなかった。
氷をぶち破ったエイミィはこれからどうしようかと考えていた。
金成が楽しんでいたため自分も参加していたが、正直これ以上攻めると弱いものいじめにしか見えない。
別に、正義がどうのとか関係がなく、これじゃあつまらないのだ。
金成の方を確認すると、こちらの勝ちを確信した目で見つめていたが、それ以上に若干力量差があるためか詰まらなそうにしている。
ーーーんー。やっぱ公平さって大事だよね。
『ん?なんだ?グランドーラが個性を解いて構えてる?!なんだ、これからは格闘技で攻めるのか?!』
『...手加減か』
こういう不合理的なことが嫌いなのか若干不機嫌そうにイレイザーヘッドが言葉に漏らす。
「っ!!」
その言葉は彼の心をえぐる。
自分で氷だけで戦い勝利すると決めていたが、それ以前に手加減されるほどの実力差なのか。
手加減される、その事実が再び彼の心をえぐる。
「……おい。手加減のつもりか?」
「うーん。だってこのままだと面白くないんじゃない?ボスも楽しくなさそうだし」
構えたエイミィから少しのため息が漏れるのを見た轟は今までにないほどの怒りを覚えている。
ボスとは誰なのか知らないが、こいつは楽しさを求めているらしい。
確かに客観的に見たら自分が一方的にやられているだけのリンチに見えるのか。
「……。それがどこまで続くか見ものだな」
意趣返しのつもりに少しの煽りを入れるが、これではただの負け犬の遠吠えになってしまう。
「じゃあ、私に個性使わせて見てね?」
エイミィは挑発気味に笑顔を向けると、そのまま轟の方に駆け出す。
腰を低くして直ぐにでも戦闘態勢に移行できる走り方だ。
どうやら本気で格闘技で挑むらしい。
別にそのスタイルに轟は合わせる必要はない。
そのため轟は腕から何十もの氷を作り出しエイミィへ向かって打ち出すが、彼女はそれをことごとく避ける。
スピードを落とす事なく半身を動かすだけで避ける最小の動きは様になっている。
そのまま速度を落とすことなく迫ってきて、腕を大きく振りかぶり殴りかかる。
その腕を轟は右手で掴みかかろうとするが、エイミィはわかっていたのか殴りかかろうとした体勢のまましゃがみこみ足払いをかけた。
人間にできるのかと言われそうな強引な動きである為、咄嗟にできた隙を突かれてしまった。
「なにっ……?!」
それをまともに食らってしまった轟は背中から地面に向かって倒れかかる。
「ぐはっ」
背中から落ちた衝撃で肺の中の空気が一瞬で吐き出される。
すぐに咳き込んで息を整えようとするが、それを許さないようにエイミィは払った足を再び一周させて倒れている轟を蹴ろうとした。
「……くっ!」
それを轟は空いている左手で止めようとしてしまう。
彼の意地なのか一瞬左手を包んだ炎が消えるのがエイミィから見えた。
「ぐふっ!」
体勢が悪かったのかあまり蹴りに力が乗らなかったため、場外になることなく手前で止まった。
「君ってさ、右手でしか氷が出せないの?いつも氷を使うときに右手を何かしら動かすし」
これまでの戦いで分析したエイミィが話しかけるが、蹴りをまともに食らった轟は咳き込むのみ。
「それに、左手。炎が一瞬見えたけど、本当は炎と氷が使えるんじゃないの?なんで左使わないの?」
なぜ左を使わないのか、はっきり言って手加減してます。っていう状況じゃない。
エイミィは圧倒的な力があるために手加減で楽しもうとしているが、轟はそんな余裕はないはずだ。
「それで、優勝できると思ってるの?」
「ゲホッ、お前には関係ないだろ」
咳き込みながら立ち上がる轟は関係ないだろとばかりに睨みつける。
「そんなんで楽しいの?笑えるの?全然楽しくなさそう」
エイミィは金成の影響で若干の快楽主義的思考になっている。
なぜ、勝てない試合でまで力を制限するのか、全く意味がわからない。
「……楽しい?戦いが楽しいわけないだろ」
本当に彼女は何を言っているのかわからなかった。
戦うことを楽しんでいるのか?まるでヴィランじゃないか。
彼の中での戦闘は義務であり、目的の為の必要なプロセスに過ぎない。
「楽しんでなくてもさ、嫌々個性使うならヒーロなんか目指さなきゃいいのに。君の憧れたヒーローはそんなちゃっちいものなんだ」
ヒーローを目指していなくて、ただの暇潰し、金成と一緒に学校に行くためにこの高校に入った彼女が言えた義理ではないが、余裕もないのに手加減するなんてヒーローとしての資質を疑ってしまうエイミィ。
若干の呆れた表情を見せたエイミィに轟は我慢ができなかった。
「俺の憧れたヒーローはそんなんじゃねぇ……!そんなクソ親父じゃねぇ……!」
唸るような低い声で呟くが、すでに彼への興味が失せたエイミィには聞こえなかった。
「うーん。じゃあ最後におっきいのやるよ!きみの固執する右側だけで耐えてみてね!」
エイミィはそろそろ決着をつけようと動く。
もうこんなつまらない試合は終わらせよう。
そして早くボスと戦いたい。
そんな思いが募ってくる。
彼女は一杯一杯まで後ろへ下り、先程まで消していた個性を発動させる。
すでに楽しむ必要はない。
ただこの試合を終わらせるのみだ。
「じゃあ、耐えてね!」
エイミィの体から大量のマグマを吹き出し、地面に溢れ出す。
コンクリートの床を焦がしながら広がって行く。
しかし、ある程度広がったと思うと、そのあふれんばかりのマグマが意思を持ったかのように大きな津波のように轟へ襲いかかる。
『な、なんだこの津波はぁ!てか、轟のやつ耐えられるのかー!!』
驚きの声を上げるプレゼントマイクの声が聞こえてくるが、今はそんな暇はない。
「なに……!」
流石の巨大さに驚愕の表情を露わにする轟。
轟はあの量を見て一瞬左も使おうとするが、彼の因縁はそれくらいでは崩れなかった。
すぐさま自分の最大限の力を発揮し、マグマに対抗するように氷を放つ。
方や津波の様なマグマ、方や迫り来る氷の冷気。
それがちょうど中間あたりで二つが衝突した。
激突したその瞬間に水蒸気爆発が起こり、爆風になる。
その爆風にエイミィは瞬時に体をマグマ化し耐えて、一方轟の方は力を使い果たしたのかその風で場外まで吹き飛んでしまった。
「試合終了!轟の場外により、勝者エイミィ・グランドーラ!」
その言葉を合図に観客席が盛り上がる。
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「なぁイレイザー。今回の普通科なんかやばくね?強すぎね?」
マイクを切ったプレゼントマイクが、隣のイレイザーヘッドのブラシこと相澤に語りかける。
「……。あぁ、それにあれは相当戦い慣れていた。ヒーロー科には実習があるから戦い慣れててもわかるが普通科にそれはないはずだ」
相澤は何か神妙な面持ちで考える。
「やべぇなぁあれ。ぜってぇこの後にヒーロー科に誘った方がいいんじゃねぇのか?良くも悪くも普通科がここまでできるとヒーロー科の士気に関わるしよぉ」
「……。あぁあいつらがそれを望むならそうするつもりだが……。職場体験には間に合うかどうか……」
2回戦に進出した8名の選手のうち、4名が普通科という事からそのことの異常さがよくわかる。
こんなことここ数十年起こっていなく、プレゼントマイクも初めての経験だった。
「……。4名中3名は普通科の推薦入試か……。この後の職場体験で、彼らは普通科だから参加はないって説明するのか……。頭がいたいな」
これほど活躍し、そのどれもが強力な個性である。その為、ヒーロー科ではなくても彼らにきて欲しいって言う要望が出ることは目に見えている。
それの説明のことを思うと頭が痛くなる相澤であった。
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試合を終えたエイミィは金成の元へ戻るために通路を歩いていると、轟と緑谷と思わしき声が聞こえてきた。
何を言っているのかわからなかったが緑谷が声を荒げているのがわかった。
「うーん。これが青春ってやつかな!」
エイミィは単純にそう思い込みその場を後にし、観客席への階段を上って言った。