「おーい!ボスー!勝ったよぉ〜」
疲れた様子も見せず、ニコニコとした笑顔で近づくエイミィ。
「あぁ、お疲れ。次は大智の試合だから一緒に見ようか」
エイミィが戻ると、金成は隣にエイミィを座らせ、次の試合である大智対飯田の試合を見るために前を向いた。
「ふーん、大智くん勝つかな?」
隣に座ったエイミィがあまり興味がないのか素っ気なく聞いてくる。
ーーー友達として見てるんだろうけど、もうちっと興味もってやれよなぁ。
流石に可哀想に思う金成。
「……大智の個性は強いけど、弱点がないわけじゃない。今回の相手は大智にとって強敵だろうな」
弱点のことは悪いが騎馬戦の時に見聞色を利用し確認していた。
あの強力な個性に対し、その弱点はそれほど問題はないだろう。
立ち回り次第でどうとでもなる。まぁそれは味方が複数の場合、身を隠した状態ならだが。
会場の興奮のざわめきが冷めない中、プレゼントマイクの紹介が始まり試合が始まる。
「……。あぁやっぱりか」
「ねーボス、結局弱点ってなんだったの?」
試合はすぐに終わった。
試合開始の合図とともに、飯田は全力でブーストし、瞬時に大智の襟を掴み場外へ放り出したのだ。
「大智の‘個性’は見つめた相手を5秒間乗っ取る能力だ。まぁ、見つめる時間が5秒必要だがな。一度でも目を離すと再び5秒やり直し。だから相手が素早い奴、姿を隠せるやつには通用しない」
「そっかぁ」
金成は同じD組として勝利して欲しかったが、それも仕方ない。
その後暗そうな表情で戻ってきた大智をみんなで慰めるという事があったが金成は次が自分の試合のため急いで移動することにした。
金成はプレゼントマイクの選手紹介を落ち着いて聞いている。
目の前にいるのは自分の対戦相手である、ヒーロー科の常闇と言う奴だ。
ーーー影か。日陰の能力と似てるな。まぁ常闇の方は自在に形を操れるって訳じゃあないけど。
卑怯ではあるがある程度見聞色で情報を集めていたため、緊張することなく立っている。
既に対策はバッチリだ。
まぁ対策なんてなくとも力づくでどうとでもなるであろうが。
一方で相手も相手で、今回派手に名を挙げた金成を前にしても緊張は見られない。
ーーー来栖金成。今体育祭でのイレギュラー。普通科がここまでやるとは。いや、この思考自体が怠慢と言うもの。全力で相手をするまでだ。
『レディィィーーーー!!!START!!!』
始まりの合図とともに二人は同時に動く。
金成は全身を覇気で強化し、腕を武装色の覇気で覆い走り出す。
腕先から黒く染まって行く様子は、‘個性’を使っているかわかりやすいと思った常闇ではあるが、強化系ならそれほど関係ないかもしれない。
「ふんっ!」
一方の常闇は自分の‘個性’である影を出し、意識を持ち、獣のような見た目を持つ影が金成に襲いかかる。
「おら!」
金成は来ることがわかっていたため慌てることなく、覇気を纏った腕で思いっきり影を殴り飛ばす。
殴られた影の方がグェッと唸り声をあげて横に吹き飛ばされた。
金成の方はそのまま止まることなく走り続ける。
「っく!!」
グェッと悲鳴をあげた影を一瞬見た後に再び影で追撃しようとするが時すでに遅し。
気がついたら腹部に強烈な衝撃を感じ、後方へ吹き飛ばされそのまま地面を擦りながら場外に落ちた。
「……。ふぅ。悪いな。俺格闘技得意なんだわ」
一瞬で終わったため汗一つかくことなく金成は試合を終えた。
ーーーあいつ、格闘技もできんだな。
ーーーまぁあの生徒を気絶させた方法は知らんが、‘個性’は身体強化系だろ。バリバリの近距離だからな。
会場から湧き上がる声援を背にして金成はフィールドを後にし、控え室へ戻って行く。
どんどん選手が減って行くため、観客席に戻る時間がどんどん短くなって行く。
いっそ通路脇で待っていようかと思うほどだ。
「うーん。次は誰だっけ?」
金成は控え室で、パイプイスに座りながら次の対戦相手は誰かと考える。
控え室に設置されているモニターでは次の試合が映し出されていた。
「あ、次は美亜の番だったか」
モニターの中では美亜と爆豪が対峙している。
美亜は純粋な力で戦っている。
始まりの合図とともに美亜は駆け出す。
美亜は素の身体能力が高いため、爆豪との距離を瞬時に詰めそのまま殴りかかるが爆豪の方も素の戦闘センスが極めて高いため瞬時に避ける。
爆豪はそのまま手を爆破させ、爆風を利用し回し蹴りを繰り出す。
美亜の方も殴りかかった体勢から、腕を交差させて蹴りをガードし、足を掴む。
爆豪はそれを予見していたかのように、慌てることなく美亜の目前で爆破をする。
「グウッ...。この!!」
若干のダメージが入ったらしく、苦しそうな表情を見せるが離すことのなかった足を思いっきり振り回し地面へ叩きつけた。
「グハッ……!」
しかしタダでやられる爆豪ではなく、そのまま空いている方の足で掴んでいた手に蹴りを入れて足を離させる。
美亜の方も若干の手は赤くしているがそのまま距離を開けることなく詰め寄る。
「美亜ってバリバリ近接型だよなぁ。格闘技に関しては学生にしてはレベル高いし」
なんとも上からの感想ではあるが、金成達は裏で実践を腐るほど経験したために格闘技は磨いてきたが、美亜は隠れて実践を経験するような感じには見えなかった。
純粋に訓練で身につけたか、‘個性’が鬼のためか本能で戦えるのかもしれない。
そうした攻防は3分ほど続き、どちらも息を荒げている。
「クソ端役の分際でなめんじゃねぇぞ!」
思いもよらなかった相手に苦戦しているのが癪にさわるらしくイライラしている爆豪。
「戦闘訓練があるヒーロー科が普通の授業しか無い普通科にここまでやられるなんて、ちょっと練習が足りないんじゃないの?」
汗を流し疲れた表情を見せながら、爆豪のセリフにイラついた美亜は挑発し返す。
「……ざけんなクソが!ぶっ殺す!!」
爆豪は戦闘センスは抜群ではあるが、ものすごく短気であるため、すぐにブチ切れる。
爆豪は両手を後ろに向けて爆破の風圧を利用し瞬時に美亜の前へ移動する。
美亜は見えてはいたが思った以上に疲労していたらしく、防御態勢に入るが途端に足から力が抜け無防備になってしまった。
「くっ、きゃあっ!」
爆豪が空中で繰り出した蹴りがお腹へまともに入ってしまい、場外まで吹っ飛んでしまった。
「はぁ……。はぁ……。端役は眠ってろ!」
爆豪は若干スッキリしたのか、主審のミッドナイトが爆轟の勝利を告げると颯爽と帰っていった。
女子の腹部に思いっきり蹴りを入れた爆豪に対する会場から聞こえるブーイングを物ともせずに。
「爆豪が勝ったか。じゃあ次の相手はあいつか」
金成はまともに蹴りを食らった美亜を若干心配しながらも、次の相手は強そうだと思い体をほぐし始めた。
次の試合は準決勝。
ホールの中央にあるフィールドには男女が向き合っている。
一方は今まで、ヒーロー科をバタバタとなぎ倒しジャイアントキリングを成し遂げてきた普通科のエイミィ・グランドーラという少女。
片や、実直な戦闘により勝ち星を挙げてきたヒーロー科の飯田天哉という少年。
準決勝という事もあり、立ち見も溢れるほどの観客が見ている。
「今まできみの戦闘を見てきて、非常に悔しいが僕には君の‘個性’の対処法が見つからなかった。しかし、僕は全力で挑ませてもらう」
「わかったよ、じゃあよろしくね」
エイミィは飯田から滲み出る生真面目さに若干慄いたが、すぐに戦闘の意識に切り替える。
二人が揃うと共にプレゼントマイクの選手紹介が始まり、試合の開始を告げた。
結果から言うと、勿論エイミィの勝利だ。
そもそも飯田の‘個性’はスピードを極端に上げるだけだ。
勿論視界から外れ思わぬ反撃を食らうことになるだろうが、エイミィはそこまで弱くない。飯田の全力のスピードだって認識することができるし目で追える。
その時点で勝利が決まったようなものだが、基本物理が効かないエイミィに格闘技だけで勝てるわけがなかった。
「うん、次頑張ってね」
こうしてエイミィは会場中から注目を集めながらも勝利を収め、フィールドを後にした。
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「あ、エイミィ準決勝突破したわね」
「いやぁ、やっぱ強いっすよねぇ。あの個性ずるいっすよ」
マネトリアカンパニーの会議室にいるメンバーがエイミィの決勝進出を見届けた。
ロングの黒髪を揺らしながらエイミィの勝利を信じて疑わなかった美流が淡々と述べる一方で、チャラい男の荒戸が反応した。
「そもそも、この程度の相手に負けるようじゃボスの護衛は務まりません」
「勝つのは当たり前だ」
黒子服姿の日陰や、巨体な剣司もエイミィの勝利を疑っていなかった。
まぁ、この会社で一番強いエイミィが負けるなんてありえないと思っていて、もし負けるようじゃあ、この会社の戦闘員が学生以下になってしまうため、エイミィも楽しみながらではあるが絶対に負けるわけにはいかないって思っていた。
試合も終わり、次の金成の準決勝を見届けようとした時、日陰に情報部から念話で通信が入った。
隣にいた美流が一瞬動いた日陰の挙動で馴染みである念話が入ったことに気がついた。
「どうしたの?緊急事態?」
「いえ、例の脳無の調査結果が上がってきたの」
通話を終えた日陰は内容をここにいる幹部へ伝えるため情報を話す。
「DNAの結果から二人以上の反応が出ました。‘個性’も超再生と衝撃吸収と二つ所持していることから、人体実験でDNAを取り組むことにより個性を持たせたらしいですね。まぁそのせいか意識がほとんどなく、機械のような肉塊に変えられてますが」
「……ふむ。じゃあ処分してもいいんじゃないか?ある程度サンプルも取っただろうし、意識がないなら用済みだ」
情報部によって結論づけられた報告を聞き、剣司が処分する方向で話を持っていくが日陰から声がかかった。
「なら、私がもらいます。丁度肉体が強い個体が欲しかったので」
「貴方、また増やすの?置き場は大丈夫なの?」
「ボスから専用の場所を与えられたから大丈夫。それに、戦力強化にもなるし」
美流は日陰に若干呆れながらも納得した。
そもそも日陰の個性を正確に箇条書きで述べると、
・対象の影を切り取ることが出来る
・切り取った影はゾンビ兵に注入して、その動力に出来る
・切り取った影を自分に入れて強化したりも出来る
・切り取られた側は日光に当たると消滅してしまう
・その他、影を操作して攻撃したり守備したり出来る
・自分が認識している影の中を移動することができる。
・ただし「塩」に弱い
といった感じに、破格の能力を備えている。
このことから分かるように、こういったことでないと影が手に入ったり強力な個体が手に入らないため、処分するのなら日陰が受け取るのが最も利益がある。
いくらグレーな会社といえど、派手に行動するとすぐにヒーローにばれ、それにボスに迷惑がかかると思っているため、非合法な連中にしかできず、そもそも最近は非合法な連中も身を潜めていたため、久しぶりの収穫になるのだ。
情報部が出来るとほとんど指揮に回っていたため実戦に参加できなくこういった機会がなかった。
「あ、次ボスの番すよ。モニター見ましょうか」
そうしているうちに次の試合が始まるらしく、脳無の事など頭の隅に追いやり、幹部らはモニターに注目した。