エイミィが試合を終え10分ほどが経ち、次の準決勝となる試合が始まろうとしている。
「いやぁ、遂にここまできたなぁ」
試合会場の中心にあるフィールドには二人の男が立っている。
一方は不機嫌そうに眉間にしわをつくりながら立ってるのに対し、一方は周りの観客席を見渡して楽しそうにしている。
前回のエイミィの時と同様に観客の数が驚くほど多い。
その分、まだ試合も始まってはいないが雑踏とした声がうるさい。
しかし、この観客の数は例年にも見ないであろう人数である。
何故それほど人数が多いのか、それはもしこの試合で金成が勝つことになったら前代未聞である普通科同士の決勝となるからだ。
今までも最終種目は形式は違えど一対一の力勝負と決まっているため、ヒーロー科とそれ以外という入試の時点で決められた力の差が決め手となり、ヒーロー科が決勝を行うことが当たり前となっていた。
それが覆そうとしているのだから多いのも納得できるだろう。
ーーーあぁ、次どうしよ。エイミィのマグマと戦うなら覇気だけでも行けそうだがこの世界の体って基本的に前世より動きづらいからなぁ。
金成にとっては爆豪といえど眼中にないらしい。すでに次の決勝のことについて考えていた。
今更だが、この世界の体については異形系や超人的な身体強化系でもない限り人外な動きはできない。
前世のあの世界みたいに、刀だけで竜巻を起こしたり、悪魔の実を持っていなくても超人的な動きができるわけではない。
その為、ゴルゴルの実が‘個性’として発現したからといっても、覇気を用いなければ人外の領域に達することはないのだ。
その事もあり、マグマの能力に覇気だけで対抗するにはできなくはないが少しきつい。
その為、エイミィと模擬戦をするときは限定的ではあるがゴルゴルの実の能力を使い、全身を鎧のように覆い、身体強化を行なっていたのだ。
次の試合について悩んでいるとプレゼントマイクの声が届く。
『じゃあ次の準決勝もやるぜー!次の対戦はこいつらだ!普通科にして、各種目で異様な活躍を見せるヒーローキラー、来栖金成!一方は超人的な戦闘センスを見せつけ上位に位置しながら上がってきたヒーロー科の最後の希望、爆豪勝己!』
ーーーヒーローキラーって、そこまではやってないがグレーな感じで否定できないなぁ。
ーーーこのクソ金髪。騎馬戦の借りはゼッテー返す!!!
『レディィーー!!!START!!!!』
金成と爆豪がそれぞれの気持ちを持ちながら試合開始の声が響いた。
始まりとともに、動き出したのは爆豪だ。
手の爆破を利用し高速的な移動で接近してくるのに対し、金成は武装色の覇気で腕を覆うと待ち構える。
爆豪が殴りかかる腕の動きを見せると金成はその腕を摑みかかるようにするが掴める事はなかった。
爆豪は近くに迫ると、殴りかかろうとした腕で爆破を起こし目くらましをして反対の腕でも爆破を起こし上空へ身体を吹き上げる。
ーーーおぉ、こいつ上手いなぁ。でもただの目くらましじゃ意味がないんだよなぁ。
爆豪が接近した勢いを殺すために、金成の後ろにくると逆側で爆破を起こし、同時に金成の背後に攻撃しようと腕を構える。
金成にとっては目くらましなど意味をなさず、その程度の動きは前世でごまんと見てきた。
覚えている記憶に体をトレースするように、爆豪が上空にいた時点で足を大きく動かして回し蹴りの体勢に入った。
金成はそのまま爆豪が背後に回ったのを確認するとみぞおちにつま先をめり込ませるようにして蹴り飛ばした。
「ウガッ!」
蹴り飛ばされら衝撃で肺の中にある空気が一気に吐き出されてはいるものの、空中でなんとか態勢を立て直し、足で地面に着地する。
「お、綺麗に決まったか。おーい、大丈夫かぁ」
「クソがっ」
なんとか身を立て直した爆豪であったが綺麗に急所に決まったため、膝を地面につき咳き込んでいる。
金成は絶対的自信があるのか、一歩一歩近づくように歩いて行く。
『クリティカルヒットだ!あの目くらましを物ともせず、背後から迫る爆豪に回し蹴りを決めた!爆豪は早くもダウンかぁ?!膝をついてるぞ!』
『爆豪は言動には難があるが戦闘センスはピカイチだ。あの立体機動的動きもかなり上出来だったがあれに対処するだけでなく反撃したか』
プレゼントマイクや相澤の解説が始まる。
そのセリフを聞き、実際にその光景を見ていた観客席にいる緑谷は驚きの表情を見せている。
「来栖くんはあれを対処するだけでなく、予見していたかのように動いた。確かに今までは見てわかる通りに身体強化系の’個性‘だと思ってたけど、違うのか?いやそれとも自然に動けるまでに実戦経験があるのか?ブツブツブツブツ……」
緑谷の癖とも言える分析で声が漏れる光景は異様であったが、A組は慣れているために気にしていない。
「あれでもうちのクラスで一番強いんだがなぁ。爆豪!いけーー!」
「なにあの動き、才能マン、才能マンなの、ねぇ?」
「確かエイミィさんから聞いたのですけど、来栖さんはヒーロー科編入を目指しているらしいですわ。もしかしなくてもあり得るかもしれませんわね」
ヒーロー基礎学というヒーローになる為の戦闘訓練や、前のヴィラン連合襲撃事件で成長したと思っていた面々ではあるが、まだまだ上がいることを思い知らされ、それが訓練を行っていない普通科であることに悔しさを滲ませながら爆豪の応援をしていた。
それからの試合運びは、金成は苦戦することなく爆豪を追い詰める。
爆豪がいくら戦闘センスがあっても、それを追える目、膨大な戦闘経験がある金成には無きに等しい。
爆豪の爆破による空間的な立体的な動きに丁寧に対処していき、反撃を与えて行く。
「……はぁ。……はぁ」
金成が息を切らさないでいる一方、ボロボロになっている爆豪は荒い息を漏らしている。
ーーーなんだこいつ!!ざけんじゃねぇぞ!トップになるのは俺だ!絶対的な一位じゃなきゃ意味がねぇ!!
「爆豪場外!勝者、来栖!!」
審判のミッドナイトの判定を聞き、今までにないほど会場が盛り上がる。
すでにテレビ局のスタッフたちは慌てて電話を始め、プロヒーローたちに至っては自分の
『き、決まったあぁぁーーー!遂に決勝のカードは決まったぜ!なんと普通科同士の決勝だぁ!』
心で気合いを入れ直すもそれから金成に反撃となる一撃を入れられることなく、最終的に場外へ吹き飛ばされて試合を終える。
「ふぅ、なかなか強かったなぁ」
汗一つかいてないが、実際原石とも言えるセンスを持っている為楽しく戦えた。
あれを鍛えればエイミィや剣司並みの格闘スキルになるなぁ、思った金成。
実際、そう思えるほど彼の才能は抜きんでていた。
金成はそのまま直ぐに次の決勝がある為に、自分の控え室へと向かった。
対戦相手の爆豪の方は吹き飛ばされた拍子に意識を飛ばした為に保健室へ運ばれてこの試合は終わった。
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「先輩、今回の体育祭凄いことになりましたね」
プロヒーローの休憩室では顔を机の上に乗せるような体勢でいるMt.レディが向かいのマッチョに声をかけた。
「あぁ、是非うちにスカウトしたいぜ。職場体験によべぇねぇかな」
「……先輩、職場体験があるのはヒーロー科だけですよ、あの子は普通科です。まぁでも、一応名前を出して見たらいかがですか?」
「んー、そうだな一応出してみっか」
自分も自分の事務所に呼びたいと思っている為、ヒーロー科では無くても一度学校の方に要請を出してみようと考えている。
まぁ他のヒーローたちも万が一があるかもしれない為、要請は出しておこうと思っている事だろう。
「もう一人の女の子も見た目がかなり良い上に、スタイルもいい。その上あの強さ。ウワバミさんとかが好きそうですね」
「あぁ、あいつかぁ。アイツ芸能活動もやってるからなぁ」
ウワバミとはヒーローではあるが芸能活動に力を入れている変わった女ヒーローだ。その為自分の事務所には美少女を積極的に取り入れている。
そうしてプロヒーローの休憩室では決勝までの間ずっと彼らの話題で持ちきりだった。
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一方、ヒーロー科最後の爆豪がやられて、A組やB組では若干のしんみりとした空気が漂っている。
「はははは!どうしたA組ぃ!!なんだいそのテンションは!よほど普通科にやられたことが悔しいようだねぇ!」
「オメェもヒーロー科じゃねぇか!」
B組の物間は自分もヒーロー科ではあるが、悔しがるよりも憎っくきA組を煽る方が優先らしく、積極的に煽って行く。
「まったく、あのヴィラン連合を退けたっていうから少しは期待したけど、普通科にもやられる奴が……うぐっ!」
次々と煽り文句を楽しそうに述べていた物間であるが、同じB組の委員長である拳藤に手刀を降ろされ気絶させられた。
「いやぁ、うちの物間がごめんな。アイツ、爆豪がやられた瞬間楽しそうに席を立ち上がったからさぁ、何をするかと思ったけどやっぱりだったよ。じゃあ私はこいつを連れて行くからすまんね」
若干申し訳なさそうな表情をしながら拳藤は物間を横抱きに抱えてB組の観客スペースへ連れて行った。
物間に言われたことは悔しいが間違ってはいない。
そういった感情がA組に広がる中予見していたかのようにオールマイトが現れた。
「私が普通に観客席に来た!!!」
「オールマイト!!」
思わぬ登場でA組はテンションを上げているなか、オールマイトは続けてA組を慰め、激励する為に口を動かす。
「別に悔しがることじゃない。彼らに負けたからといって腐っていてはヒーローなんてやっていけないぞ。上には上がいる。強いやつに負けたならそれ以上に強くなればいいさ!体育祭明けのヒーロー基礎学は気合入れて挑むぞ!」
そのセリフに再び心に火を灯し、自分のライバルになるであろう少年少女の試合を見る為に前を向いた。