「なぁ、これってあれかな?ヒーロー科にある職場体験の逆指名って奴か?」
「ちょっと、あんた鬱陶しいからやめて!」
金成に、エイミィ。大智と美亜が前後に並んで学校の廊下を歩いている。
大智は興奮のあまりグワッと隣にいる美亜に顔を近づけたために、隣にいた美亜が思わずほっぺをビンタした。
「何してんだ...」
前を歩く金成は後ろから聞こえる乾いたビンタ音に思わずため息を吐いてしまった。
雄英体育祭が終わり2日の休校が明け学校に来た彼らは、昼休みに話があるということで教師に呼ばれていた。
金成も以前に職場体験について聞いたために、きっとそのことだろうと思っている。
職員室へ行く過程で、学年問わずに結構注目を浴びていた。
こちらをチラチラと窺いつつ、何か話しているのがわかる。
金成とエイミィは普段と変わらない様子で足を進めるが、大智は若干の優越感を感じ、美亜は少し恥ずかしそうにしながら歩いていた。
「ん、あぁ。こっちだ。来てくれ」
金成達が指定された会議室に着き、扉をあけて中に入ると待っていたのは三人の教師だった。
中央に横長のテーブルがあり向こう側に三人座っている。
D組の担任教師を挟むように座っていて、左から順に、無造作に伸ばしたかのようなロン毛の髪の教師で、A組担当のイレイザーヘッドこと相澤先生。
右には清潔感を思わせる短髪に鍛えられたマッチョを持つ男である、B組担当のブラドキングこと管先生だ。
先生らに促され金成達は彼らの向かいにある椅子に、金成、エイミィ、美亜、大智といった順で座る。
「じゃぁまずこれを見てくれ。君たちに来た事務所からの逆指名数だ」
真ん中にいたD組教師が金成達にそれぞれプリントを配って行く。
そこに書いてあったのは彼ら四人の逆指名数と、逆指名して来た事務所名だった。
来栖金成 3480
エイミィ・グランドーラ 2860
阿久津美亜 360
夢大智 240
「結構多いなぁ」
それを見た金成は思わず声に漏らし、他の3人からも同じような声が聞こえた。
金成とエイミィはそもそもの4桁を超える事務所があったことに驚いていて、美亜と大智は自分にこれだけ指命が来たことに驚いていた。
元々金成とエイミィはそこまでヒーローに興味がなかったため知らなかったのだ。
ちなみにだが、事務所数が4桁に行っていることは正しいが、5桁に行くことは無い。
指名の仕方だが一事務所三人までと決まっていて、どの事務所も金成とエイミィのどちらかには入れているためにこういった偏った結果になったのだ。
「今回は思った以上に集中したらしくてな。それよりこれが君らが来週に行く職場体験のリストだ。今週までに決めて置いてくれ」
金成達は先生の言葉に納得して、再び紙に目を下ろす。
ーーーうーん。多すぎてわかんないよぉ。まぁボスについてけばいいよね。
エイミィはプリントを見ているがはなからそこまで興味がなかったために、ボスと一緒のとこでいいか、と考えていた。
「そのプリントは後で見といてくれ。それより君たちが編入するのはヒーロー科があるクラスのA組とB組となる。だから今回はちょっとした面談って感じだ。そのために2人にきてもらったんだ」
四人はプリントをテーブルに置き目の前に座ってた二人に視線を送る。
「俺はB組担任の菅だ。よろしくな!」
「A組の相澤だ。それよりいろいろ聞きたいことがある」
「ん?聞きたいことですか?」
相澤の問いに疑問に思った金成は聞き返す。
「まず一つ、来栖、グランドーラ、阿久津は入学時普通科に推薦で入ったが、ヒーロー科に編入ってことでいいのか?」
「あぁ、それは単に学力が足りなくて学校に来ていた推薦で入ったんです。ヒーロー科は普通科より偏差値十は離れてますし、無理だと思ったんで」
あぁそこのことかと思った金成は、三人を代表するように答えた。
実際には実技では余裕で入れたと思っていたが、三人とも共通して学力が足りなかったのが理由である。
その理由で納得したのか、三人の教師は納得げな顔をしていた。
「じゃぁ最後に、来栖。あの体育祭の最後に使った‘個性’はなんだ?市役所の個性届けはただの身体強化になっていた。もしかして検査以降にわかったのか?なら市役所に変更の申し出を出しとけ」
「いいえ。あれは敢えて身体強化で届出を出しました。」
「...なんだと?」
金成が答えた途端に三人の教師は明らかに険しい顔になり、大智と美亜も戸惑った表情を金成に向けた。
国では個性の把握のために、小学校1年生、中学校1年生で全国一斉検査をおこなる。
国の平和を維持するために個性の把握は大事であり、明らかな嘘の報告は逮捕まではいかないが明らかなグレーである。
そのために教師である彼らは険しい顔をしたのだ。
「...それは一体どういう事だ?」
明らかな怒気を含んだ声で相澤が聞いてきた。
「それはこの‘個性’は明らかに危険なものだからです。あの時俺が生み出した金色の物体はどんな物質だと思いましたか?」
金成はこの機会に教師には知らせておこうかと思った。
すでに、自身の戦闘力は前世に迫るほど完成していて、それにこんな時のために会社を作り、軍部を作った。
正直、金成の全勢力を使ったら一国くらいは楽に落とせる自信がある。
だから別に、自衛手段は完璧である為いいかなと思ったのだ。
それにこれから3年間を隠し通すのは無理と思ったのも理由である。
因みに美亜と大智はある程度信頼できるかなと思った為だ。
彼らには悪いが、彼らがどのような人物であるか知るために共にいるときは常に心を覗いていたため、大丈夫と判断した。
ーーーまぁ、もし裏切ったら俺の会社からの刺客が向かうがな!!
と、冗談を思い浮かべつつ金成は真剣な顔で教師に聞いた。
大智と美亜は気がつかず困惑しているが、さすが教師である為かその‘個性’の真実に気がついた。
「...まさかそれが金だとでもいうのか?」
「ええ、黄金です。あり得ないでしょうがそれが真実です。これがもし市役所から漏れたらどうなると思いますか?それとも国が動き出すか。明らかに危険なんですよ。まぁ、’個性‘から金が生まれるっていうありえない事だからか、多分気がつく人は少ないでしょうけど」
金成は証明する為に掌を上に向けて液状の黄金を生み出して操って見せる。
その黄金は光に照らされて神秘的なほどきらびやかに輝いていて信じる以外にはないだろう。
「...まじかよ。そんなヤベェやつなのか」
「...だからか。親も知ってるのか?」
そのことを聞いたエイミィ以外のメンバーは一様に顔を引きつらせ、美亜や大智に至っては青ざめていた。
「いえ、知ってるのはエイミィだけです」
「...。そうか。事情はわかった。なら聞くが、そんなデメリットを抱えつつ本当にヒーロー科を希望するのか?」
今聞いただけでも、十分なデメリットがあることがわかる。
もしバレたら。もし残骸を拾われたら。
それでもヒーロー科に入りたいのかと相澤は聞いてくるが、金成の答えは変わらない。
「勿論。ヒーローになることが最も身を守れる道。合理的判断です」
もう一押しとばかりに、前から知っていた相澤がよく使う言葉とともに思いを告げた。
ある程度話を終えた彼らはこれからのことについて話し始める。
その過程でどのようなクラス分けになるのか決めることになったが、エイミィが金成と同じクラスを強く希望し、同じく金成も希望したために同じクラスになることになった。
そのとき、優勝、準優勝が同じクラスでは戦力が分散できないと教師らから苦言が入ったが、エイミィがどうしても一緒じゃなければダメと意見を押し通した為に渋々同じクラスという事になった。
ーーー意外とすんなり行ったな。もっと反対されるかと思ったけど。
教師らは既に先ほどの金成の’個性‘を見て若干疲労していた為、そこまで反対せずに承諾した。
因みにクラスはA組みらしい。
面倒ごとが起きた場合は相澤の方が処置に向いてる’個性‘である為、そう決まった。
「じゃぁ一応クラス変更は夏休み明けからだけど、君らは職場体験に参加してもらう事になる。どうせ夏休み明けから異動になるし、これは経験しといたほうがいいからな」
あれ以降は相澤も聞き役に徹したのか、D組担任が話を進める。
「わかりました」
金成達が声を揃えて同意すると同時に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
因みにその後の美亜と大智が少しソワソワしく、面倒であったと言うことだけ言っておこうか。
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「じゃぁこれが職場体験の指名されたやつだ」
あの後すぐに相澤は自分のクラスへ赴き、午後からあるヒーロー基礎学を行なっていた。普段のヒーロー基礎学は実技が多く、座学と察した生徒らは若干気落ちした姿を見せていた。
しかし、職場体験の指名と聞いて驚くほどのテンションを上げている。
爆豪勝己 460
轟焦凍 213
飯田天哉 67
「お、おぉー!けどなんかちと少なくねぇか?」
黒板のモニターに表示されたものをそれぞれが自分もあるか、とドキドキさせながらも注目していた。
確かに指名は来ているけれど、数千あるうちこれしか来ていないのかと疑問に思った生徒も多く、それを代表するように切島が声を上げた。
「ん、あぁ。例年だと偏ることなく綺麗にバラけるもんだが、今回は色々とイレギュラーがいただろ。殆どの種目で目立ってたから殆どの票がそっちに流れたんだ、来栖とグランドーラ。後は阿久津と夢だな」
「あぁ、あいつらみんな強かったからなぁ!って、みんなどうしたよ!」
切島は単純に彼らの強さに共感する中、ヒーロー科に受かった事へのプライドがある生徒が多くそれぞれが気落ちした表情を見せる。
「....。」
「っち!」
ーーー彼らはあんなに活躍したのに...!僕はせっかくオールマイトに鍛えてもらったのに!!
このクラスで票をとった轟はなんとも無いと言った表情で、爆豪の方はいまにも爆発しそうなほど怒気を孕んだ表情を浮かべている。
緑谷に至っては唇をかみしめて俯いている。
「相澤先生!そもそもヒーロー事務所への職場体験は、ヒーロー科のみが行うと認識しておりましたが、そこはどうなのでしょうか!!」
クラスの学級委員長である飯田がカクカクとした動きで大きく腕を上げている。
「あぁ、そのことか。体育祭で活躍したらヒーロー科編入が出来るって聞いたか?あいつらは編入することになっている。普通は夏休み明けからでヒーロー事務所の職場体験は無いんだが...。仕方がないんだ。思った以上にあいつらに来て欲しいって事務所が多くてな。職場体験に参加することになってる」
ーーーあの人達がこれからうちのクラスに来るのか。ライバルって事か。いや、まだそのレベルにすら立っていない。
生徒らは、金成らが規定通りにできないほど世間に評価されていることに納得しながらも、同じくヒーロー科へ編入することに驚いた。
「マジかよ!あいつら来るのか!賑やかになんじゃねーか!」
「うぉー!美人な赤髪のボインねーちゃん来るのかよ!!オイラ鼻血が出そうだぜ...」
純粋にクラスメイトが増えることに驚く切島ではあるが、一方の変態で有名である峰田に若干引くクラスメイト達。
「まぁなんだ。うちのクラスに来るのは来栖とグランドーラだ。仲良くしろよ。それと気負うんじゃないぞ。お前らはまだ1年だ。あいつらに追いつき、追い越せるようになればいい」
エイミィについてはA組女子と仲がいいため、うまくやっていけるだろう。それに金成の方は人当たりがいいからこっちも大丈夫か。
と、若干強張った表情を見せた生徒らを相澤なりに慰めつつ、そんな評価を下していた。
ーーー取り敢えず今できることをしなくちゃ!
そう決心する緑谷は取り敢えず空気椅子をすることにした。