桜が咲くには少し早く、未だ蕾で春の訪れを待つ今日。
しかしながら、卒業式の前に大抵の中学生にあるのが高校受験である。
勿論、金成は受験せずとも自身が立ち上げた企業もあり、悪魔の実の能力もあるため行く必要はない。
孤児院も随分前から部下の一人を通して慈善活動の体でマネトリアカンパニーから少しばかりのお金を送っている。
そんな理由もあり基本行く必要がないのだが、彼の根底にあるのは好奇心だ。
彼が望んでいるのは平和ではない。
いや、その言い方には語弊があるが彼は波乱万丈な人生を求めている。
これは前世からの業のようなもので今更変えられない。
そういった理由もあり彼は高校進学を選んだ。
では彼がどの高校を選んだのか。
勿論彼なりの選定基準があるためしっかり考えて決めた。
ならその選定基準とは何か?
しつこいようだが彼が求めているのは未知との遭遇。
ならそれを満たす高校しかありえない。
ならこの国で一番面白いことが起こりそうなのはどこか?
そんなの決まっている、雄英高校に他ならない。
ここで雄英高校の説明をしようか。
かの高校は国が経営する由緒正しきヒーロー育成高校だ。
勿論、ヒーロー育成のためのヒーロー科のみでなく、ヒーローを支えるための開発を行う開発科、世間一般にある普通科、そして経営について主に学ぶ経営科と計4種類ある。
総合偏差値75もある日本トップの学力を誇り、ヒーロー科においては入試人数が、倍率300倍になる程の超難関校である。
しかしここで一つ問題がある。
彼、金成は勉強ができない。
いや偏差値でいうと65と世間から見たら平均以上であるため優秀に見えるだろう。しかし雄英高校のヒーロー科においては偏差値75は必要であり圧倒的に足りない。
普通科の専願であれば彼の成績であれば、金成が通っている中学校から数枠ほどだが推薦がある。
しかしこれを受けてしまうとヒーロー科には行くことができない。
「はぁ、どうすっかなぁ。普通科かぁ」
金成は自分の会社の社長室の椅子に座り項垂れていた。
別にヒーロー科でなくてはならない訳ではない。普通科でも同じ高校であればあの有名な文化祭にも出られるし、間近で面白いことに遭遇できるかもしれない。
「そもそも勉強なんてなんでやんなきゃいけないんだよ。必要ないだろ」
金成は未だ不満げな表情でブツブツと不満を垂れる。
「ボス、仕方ないよ!私も普通科に行くから!ね?一緒に行けるしラッキーって感じ!!」
「それに普通科でもいいとこいっぱいあるよ!文化祭にも出られるし、もしヒーロー科につくとプロヒーローが一杯いるしこっちの内情までバレちゃうかもよ?うちって結構グレーだしやばいよー?」
項垂れる彼の前で身振り手振り動かしながらご機嫌をとるかのように言葉をかける少女がいた。
彼を慰めたのはあれから大きく成長を遂げたエイミィである。
光に反射して煌々と輝く深みのある真紅の長髪は腰まで伸ばし、外国人の特徴である、真っ白い肌。
日本人のだれもが羨むような長い足に高い腰の位置。
未だ幼さが残る輪郭ではあるがメリハリのある顔立ち。
身長も167と平均よりも大きい。
彼女はもともと戸籍がなく学校に通えてなかったが、金成が5年の時についに市役所にまで手を伸ばすことに成功したため秘密裏に戸籍を取得した。
金成は彼女を同じ中学校に通わせている。
同じ学校の方が何かと都合がよく、彼女の戦闘力はもはやマネトリアカンパニーの戦闘科を務める
通っている中学校では普通科に三人、経営科に一人、と4枠の推薦枠があるため、彼女の成績でも推薦はもらえる。彼女も同じ高校にボスと通えるのが嬉しいらしく、ヒーロー科を目指さないようちょくちょく普通科の良いところを語っている。
「うーん。そうだな。まぁ普通科でもいいか。よし!じゃぁ飯食い行くか。エイミィ日陰に車を出すよう連絡してくれ」
「うんわかったー!」
金成もそこまでヒーロー科を所望しているわけではないためそれで妥協することにした。
そう心に決めると、気分転換に昼食へ向かうことにした。
金成はエイミィが電話を終えると、共に社長室からでるために金で縁を囲った重厚感のある木製の扉を開ける。
レッドカーペットが敷かれた長い廊下を歩き、そのまま社長室専用エレベーターに乗り込むと地下のB1ボタンを押した。
ウィーンとエレベーターが動く音が響く。
「そう言えば、本当に大きくなったよね。うちの会社。まぁほとんどの社員は裏、本来の事業を知らないでいるし、会社の顔である社長を美流と勘違いしてるけどね」
「まぁ、そうだな。別に表の事業なんてどうでもいいしな。金ならいくらでもあるし、いくら投資しても構わないからなのか結構な研究員から人気が出たなぁ」
「そうだよね、うちの収益の7割が社長の金塊だもんね」
あれから8年ほど経っていて、金成の会社もでかくなった。
前使っていた事務室はもはやなく、今は東京の調布に15階建の大きなビルを建てて、そこを拠点としている。
何十億とかかったがそんなのすぐに集まる。
金成が4年の時に建設を始め、2年もかからず完了した。
未だに金塊の秘密は誰にも教えてないが幹部連中は慣れてしまったため気にしない。
まぁ普通の社員からしたらこの企業の資金源が七不思議として囁かれるほど謎めいているが。
止めどないほどの研究資金が来るからだ。
彼が今行なっている事業は、裏では金塊を定期的に捌き、裏のチンピラやヴィランの統制を図り、自分の部隊の育成。
表では、ヒーローの活動を支えるためのアイテムの開発を主に執り行っている。
まぁ本来の目的は裏の主力部隊の武器調達のためだが、いつのまにか表に供給するほど大きくなってしまっていた。
金成が社長であることがバレないために地下と社長室の直通のエレベーターを降りると用意してあった黒の車に乗った。
茶色の高級そうなシートに腰をかけ、車が動き出す。
「ボス、本日はどこへ向かいますか?」
運転席から本日の行き先を訪ねる声が聞こえた。
「エイミィはどこがいい?」
「うーん、私は美味しいならどこでもいいよ!」
隣に座るエイミィに尋ねるが一番困る答えが来てしまった。
それが一番困るんだけどなぁ。
まぁいいか。
「んー、じゃぁ新宿にあるレストランで。日陰も昼食まだだろ?一緒に食べようか」
「わかりました」
車を運転するのは、彼と長い付き合いのある日陰だ。
今は流石に黒子服を着ていなく素顔がミラーから見えている。
茶色のボブカットで、綺麗な二重が特徴の女性だ。
無表情のため怖い印象であり、まだ若いため彼女がマネトリアカンパニーの秘書だとわかる人は少ない。
そうして彼女たちが乗る車はビルの地下にある駐車場を出て新宿へ向かった。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「じゃぁ雄英高校の普通科の推薦を受けるでいいんだな、二人とも」
「えぇ、間違いありません」
「私もです」
それから翌日にはエイミィとともに自分の通う中学校で雄英高校の推薦を受けたく思っている申し出をした。
教師も、雄英高校に進学することに驚いているが目の前の二人は成績優秀であるため推薦を出すことに戸惑いはない。
「そうか、わかった。校長にはそう伝えておく。戻っていいぞ」
この中学校はヒーロー科合格者は居ないものの普通科や経営科、などは毎年何人もいるので推薦枠を何枠か獲得していた。
教師も自分のクラスから推薦希望者が出て嬉しいのだろう、若干笑顔でいる。
それから1ヶ月後に推薦入試を終えて彼らは晴れて雄英高校の合格通知を受け取った。
金成達にとっても雄英高校に受かったのが嬉しかったのでその日は幹部連中を集めて高級レストランでのディナーを楽しんだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「ふん!!はっ!」
「ぐっかはっ!」
訓練部の剣司は金成の回し蹴りを両手でガードしたが、勢いが強すぎたためそのまま体を浮かせて壁に激突した。
今金成達がいるのはマネトリアカンパニーの地下2階にある訓練部屋。
200メートル四方の正方形のような部屋であり、特殊な素材でできているためちょっとやそっとじゃ壊れない。
何故金成達が戦闘を行っているかというと今は入学を控えた春休みだからだ。
あまりにも暇であったため金成が剣司との訓練を希望したため行われている。
「っと、おーい!大丈夫かー?剣司!」
「う、うむ。大丈夫だボス。なんとも、重い一撃だった」
剣司は数回咳払いをした後に埃を払うような仕草で立ち上がった。
今回の目的は個性の使用なしでの格闘技の訓練だ。
たまに金成はこうして訓練に参加している。
今は剣司以外いないが、普段は戦闘員が数十人ほどが訓練に参加している。
元々金成が訓練に参加していたのは覇気ならこの世界の人にも使えるのではないか?というか思惑の元参加したのだが結果は散々だった。
使える以前にまったく理解されなかったからだ。
金成は理論派であるが覇気についてはほぼ感覚であるため説明が難しかった。
まぁ、使えないなら使えないで個性を伸ばせばいいのだが。
「あー、ボスー!水持って来たよー!剣司もはい!」
金成達が訓練を終えると入り口からペットボトルを持ったエイミィが現れた。
「あぁサンキュー」
「すまない」
「いいよいいよー!それより次は私とやろうよー!ボス!」
金成達が地面に座って休憩していると、エイミィは自分も訓練したいと申し出て来た。
しかし彼女は格闘技が苦手なためエイミィと訓練するときは個性ありで行なっている。
この空間でも彼女の個性に耐えられるかわからないためいつもは人がいない山の奥地で行なっている。
「やだよ。エイミィ格闘技できないだろ。個性なんて使ったらここが悲惨な状況になるのが目に見えている。まずはここでも使えるよう個性のコントロールをしてくれ」
「えぇー。ぶー」
エイミィは頬を膨らませて不満を漏らすがしょうがない。
彼女は個性は強力ではあるがそれ故かコントロールを苦手としてる。
「それより、ボス達は準備は終わったのか?明日入学式と聞いたが」
「ん?あぁそっちの方はできてるよ」
隣に座っていた剣司はエイミィのコントロールのなさを知っているため、話題を変えようと話を振った。
「そもそも、ボスは会社があるし進学しないと思ってたが」
珍しく剣司が話すなと思いつつ金成は思っていたことを口にする。
「あぁ、雄英高校なら面白そうだろ?ヴィランとか襲撃して来たりしてなー」
珍しくも、楽しそうに剣司に笑顔を向けた。
「なんかボス楽しそうだな。でもヴィランの襲撃はないだろ。ここら辺一帯は大体掌握してる。まぁヴィラン連合が攻めてくるなら有り得るが...」
ヴィラン連合とは金成達に付かなかった連中だ。
なんでも、『先生』という存在に心酔しているメンバーが多いらしく、金では動かなかった連中だ。
「まぁ、あいつらはないか。そこそこ大きい組織だし、プロヒーローが集まるとこに襲撃なんて馬鹿な真似する訳ないか」
「まぁ、あいつら来ても私の個性で燃やし尽くしちゃうよ!!!」
ほとんど可能性はないと思っているが、もし彼らが襲撃して来たらエイミィは出させないと決めている。
「おいおい、エイミィの場合だとヴィラン連合を撃退できるがこっちの被害が凄くなるだろ。やめろよ?」
「え?やれだって?わかったよ!私頑張るよ!」
「いや、フリじゃねーよ!!たく」
金成は元気なエイミィにため息を漏らす。
その後はエイミィがどうしても訓練したいと言って来て、態々日陰を呼び出してワープすると言った面倒ごとがあったが、次の日に備えてそこそこ訓練するとその日は終わった。