Fate/Observe   作:えんびー鉛筆

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交渉

「ねえマスター、マスター、マースーター?」

「……霊体化していてくれないか」

「え、あ、はい」

 

 親しい友ぶって絡んでくるシールダーを追いやり、私は作戦を立てることにする。

 正面切って戦うのは無理があった。

 彼のステータスは円卓の騎士を名乗る割にはとても低く、その件を咎めると「な、中身が半分ほど抜けているので」と目を逸らされた。

「戦うのも多分、他のサーヴァントには劣る、かも」と彼は付け足した。どれだけ自信がないのか。

 

 何故半分抜けているのか問いただすも口は開いてくれず。そんな反抗的なサーヴァントにやる魔力はないと言って供給を絞っているところだ。

 ……実を言うと、難癖をつけて魔力は絞るつもりだったのでいい口実が見つかって良かった。

 

 自分の頭を切り替えるため、私は長時間の歩行でずれてしまった礼装である眼鏡を掛けなおす。

 正面が無理なら待ち伏せ、罠、もしくは同盟を組んで……。

 

『あ、それ伊達眼鏡なんだね』

 マスターとサーヴァントの繋がりを通じて、シールダーが声を掛けてくる。

 そんな事に魔力の無駄遣いをするとは。いい口実が更に見つかった。

 なんて奴だ、無論無視。

 

『似合ってるよ』

「……」

『あー、もしかしてマスターはサーヴァントと交流する気無い?』

『あると思うのか?』

『あははー、ですよねー』

 サーヴァントは奴隷、聖杯を手にするための生贄。

 それに情を抱くのは馬鹿げている。裏切りさえされなければ良いから、理不尽な事さえ押し付けなければ良いだろう。

 

『……と、マスター、前方にサーヴァント反応発見! どうする? 俺そんなに体のスペックが強い訳じゃないけど、技だけなら人一倍あると思ってるよ』

『……まだ仕掛けるのは早い。戦いは潰し合いが終わってから始めた方がいい』

『成る程? そういう感じ? マスターってば理性的だネ! ふざけるのはさておき、じゃあ偵察してこようか、任せて、スキルとしては持ってないけど俺の気配遮断はEXだよ!』

 良いから黙ってくれ。とても煩い。

 

 少し眉を顰めただけなのにサーヴァントは敏く気付く。

『……嫌なら行かないよ、どうする?』

 ただ騒ぐだけではないと言う事で納得しておこう。……要求したレベルが低すぎるだろうか。

 

『いや、偵察は本当に出来るんだろうな』

『任せて! 多分俺が生きてた時でもあそこまで隠密に長けた人は居なかったね』

 そう軽口を叩きつつシールダーは離れていった。

 色々とシールダーの正体に思う所はあるが、役に立つのであればどうでもいい。

 

 無能なのであれば、最悪奴は魔力を生み出す為の道具になってもらったって構わない。

 

 ーーーーー

 

 どれだけこの時を待ったのかはよく覚えていない。

 ほんの数秒で呼び出されたような気もするし、何百年と待った気もする。

 よく分からないので楽観的に行こうと思っている。その方が気分もいい。

 

 俺ことシールダーを召喚したマスターは、どちらかと言うと地味めな人だった。

 目や髪が黒い割に、顔立ちは日本人って感じはしない。使う言葉も日本語じゃ無かった。

 大きなベレー帽を被ってるから前髪以外は見えなくて、髪がどれくらい長いのかは分からない。もしかするとすごく長いのを中に詰めている可能性もある。……蒸れそうだ。

 着ている上着は少しでも周りの景色に同化するためか緑。迷彩服を着ればよかったのにとは思う。

 そうそう、この上着はボタンがなくて、両方に穴が開いている。靴紐を使うスニーカーを想像していただきたい。あんな感じで紐を通して結ぶ、何だかんだで色んな結び方ができて楽しいかもしれない。

 今は一番上しか結んでなくて袖のあるマントみたいになってるけど。

 そしてズボンは白。何でだ。下も緑にすれば良かったのでは……。

 

「マスター、マスターは何て名前なの? どう呼べばいい?」

 召喚されてすぐの事だった。マスターは表情をピクリとも変えず「アイン。名前で呼ばれる筋合いはない、マスターと呼べ」と冷たい言葉を返してくれた。

 自分の名前が嫌いなのか、サーヴァントに呼ばれたくないのか。

 まだ数時間しかマスターと過ごしていないとはいえ、あの人がサーヴァントに対して典型的な魔術師よりな思考を持っているのはなんとなくわかっている。まだ「より」なのが救いか。

 変に罵られたりとかされないのであれば自分は気にしないし、そんなことを気にして折角のチャンスを不意にするのも嫌だ。

 

『もうすぐ着くけど、マスターはどんな情報が欲しい?』

『気が付いたこと全部に決まっているだろう』

『あ、はい、そうですね。視覚共有する?』

『……そうだな』

 そこからは念話もせず息を殺す。流石に気付かれはしないだろうけど、細心の注意を払うべきだ。

 小枝を踏むなんて愚は犯さない。当たり前だろ?

 

 目を凝らす。まず目に入ったのは、こちらに背を向けている青年。

 そしてもう一人、自信なさげに首を触る男。

 

 サーヴァントはこの近くで、物陰からお互いのマスターを見守っているのだろう。姿が見えない。

 サーヴァントはサーヴァントを知覚出来ると言うし。姿を見せないのは手札を切らせないためか、それとも……。

 

「で、僕達は君と手を組みたいと思ってる。悪い話じゃ無いだろ?」

 背を向ける青年が喋った。どうやら英語で交渉をしているらしい。

 ああ、交渉だからサーヴァントは近くに置かず、って事か。

 

「……それは……そうだ。こんな訳の分からない状況で、殺し合えなんて言われても、実感が湧かない」

 力なく頷くもう一人のマスター。これも男性。

 

「僕もそうだ! だからさ、お互いに協力して周りを倒そう。二人掛かりなら出来るさ! そういや君のサーヴァントは?」

「そ、そう、だな。貴方と会えて本当に良かった! サーヴァント? あ、ああ、ライダーだって名乗っていた」

「だろ? ライダーか、じゃあ手数が多いってわけか! 助かるね」

 背を向けている男は、どうやらある程度の知識があるらしい。ライダーは宝具を多く所有するクラスだ。

 

「そう、なのか?」

 対してもう一人の方は、巻き込まれたクチなのか首を傾げてばかりだ。

 

「そうとも! さ、僕らの仲を祝って乾杯と行こうじゃないか!」

 青年が取り出したのは黄金色にほんのり赤が差す液体のボトル。ワイン? あれは果肉でも入っているのかな、生物が入っていてでおまけに冷蔵庫とかに入れてたわけでもなく。……大丈夫なんだろうか。

 

「良いのか? わ、随分と良い酒だな……か、乾杯!」

 かちん、とグラスが鳴った。

 青年はゆっくりとそれに口をつける。

 男は自棄酒のように勢いよく煽った。不安もあったのか、あっという間にそれは無くなった。

 

「どうだ? 良いだろ、自慢の酒なんだ」

「ああ、凄く美味しい! 何処の酒なんだ?」

「自家製だよ、勿論レシピは秘密さ。所でお前のサーヴァントって真名は何なんだ?」

 青年の手の中で黄金が揺れる。

 

「え、それは……」

「まあ教えられないよな、それは良いよ。男か? 女か?」

「ん? あ、女性だけど……ど、どうして?」

 男のグラスを回収してから青年は答えた。

 

「いや、気になっただけさ。やっぱ可愛い子がいると士気も上がるし、ライダーは今遠くの方に控えてるんだよな?」

 俺も男なので否定はしない。たしかにむさ苦しいよりは、まあ。

 

「交渉するからそうしろって言ったのはそっちじゃないか」

「確認しただけだよ」

「そう、なの……か、……ぁ?」

 男の声が弱まる。それは自信がないとか、そう言った類のものではなかった。

 様子がおかしい、自信なさげに首を撫でていた(庇っていた)手がすとんと落ちた。う、腕が抜けそうな落ち方するなあ。

 

 ……切り替えろ。

 眉をひそめる。男の中で今何が起こった?

 

 目の前にいる青年への信頼?

 いやどう見てもこの青年怪しいでしょ。いきなり持ちかけてきて、真名を聞こうとして、飄々と自分の意見を押し付けて。

 そもそも、こんな短期間で無意識に近いその手を下ろすだろうか。無理だ、そんなこと出来るならコミュ障とやらは生まれない。

 

 青年は明らかに様子がおかしい男性を前に一歩下がる。そりゃ警戒する、俺だって刺激しないように下がることはしなくても身構えるくらいはする。

 

 男は落とした手をもう一度顔の前まで持ち上げ、静かに無感情に呟いた。

 

「自害しろ、ライダー」

 青年のグラスの中身が全く減っていないことに、今気がついた。

 




早くも一騎脱落です。実を言うと、この作品ガッツリ活躍するサーヴァントってそんなに多くないです。作者が大人数を動かすのが苦手なので……。
あと10騎くらいは詳細も明かされず消滅するんじゃないでしょうか、行き当たりばったりなので分かりませんけど。
亀更新のこの小説をよろしくお願いします。
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