どう見ても令呪は光り輝いていて、明らかに魔力は解き放たれていた。何度も経験したあの魔力の暴風が吹き荒れる感覚。
確かに自分のはあれより何倍も力の無いものだったけど、間違える訳がない。
確かにそれは行使された。命令権として。
自害を強要させるために最初で最後の一画は消費されてしまった。
「……!」
反射で口を塞いでいた。
虚ろな瞳で令呪を失った男はその場に膝をつき、ゆっくりと倒れこむ。頭を打ちはしない倒れ方だったのでそこは安心。
それを見て癖の強い髪を苛立たしげにぐしゃぐしゃと乱した青年は、男からまた一歩離れると手に持っていたグラスの中身を一滴と溢さずボトルに戻した。
苛立ちからグラスを地面に叩きつける訳にもいかず、乱暴に地面を蹴って砂埃を上げた青年はまた髪をかき乱す。
「ああ! 飲むフリでもごめんだね、こんなの。吐き気がする。……は? 口をつけた訳ないだろ、気持ち悪い」
青年は姿を見せない自らのサーヴァント相手に喚き散らしている。
喚きつつもボトルの蓋をしっかりと閉めた。
そして彼は男を見下ろすと、一瞬複雑そうに顔を歪める。しかし瞬きの後には、その顔は飄々としていた。
「連れて帰るぞ、ライダー。ここに捨て置いても殺されるだけだからな。利用する」
先程とはうって変わり冷たく吐くと、彼は男を起こしもせず歩き出す。
青年のサーヴァントはライダー、男のサーヴァントもライダー。まあ、21組なのだからクラスが被るのは当たり前か。
それにしてもこれは、男を運ぼうとするライダーの姿を見るチャンスなのではないだろうか。
確かに飛び出して救いたい気持ちも少しはある、前の俺ならそうしたかもしれない。
ただ、これは戦争で。俺は死人で、仕えるべき人がいて、叶えたい願いがある。
今ここで飛び出しても救える訳じゃない、マスターからの信頼は地に、あの男の人はもう正気には戻らないかもしれない。
言い聞かせるだとかではなく、淡々とそう考える自分は実に冷えていた。
青年はブツブツと罵倒を零しながら歩いて行く。それは誰に向けての言葉なんだろう。男へか、ライダーへか、戦争に巻き込まれた運命か、自分か。
とうとうライダーがあの男を抱えにここへ来ることはなかった。
男が自分でゆっくりと立ち上がると、青年の後ろをしっかりとした足取りでついて行ったのだ。
訳が分からない。もう操り人形にされてしまったとみていいだろう。
『シールダー、追わなくていい』
『分かった』
『戻ってこい』
十秒程彼らを観察してから霊体化、素早く帰還する。
あと少しで着くというところで、マスターから呆れたような落胆したような声が聞こえて来た。
『……最初から霊体化して見に行けば良かっただろう』
『霊体化状態で攻撃食らうとマズイので……あとあまり霊体化出来るとか実感なくて』
『……』
『あっ、これ以上絞られたら俺消えちゃう! 消えちゃうって!!』
盾を立てて簡易的な陣地作成、ご立腹を通り越して最早「お前に何も期待してねえから!」と言わんばかりの魔力しか寄越さないマスターに明るく声をかける。
何事も明るく元気に、ノリで何とかしてきた俺は今もノリで何とかする気でいる。俺にはノリしかなかった、今もノリで生きている。いや死んでるけど。
「マスター、あのライダー陣営だけどどうする?」
「どうするも何もない。お前が役立たずなのは分かった、他のサーヴァント同士で潰しあって貰えばいい」
「あ、はい」
その通りです。俺もその方が確実だと思います。何も反論はございません。はい。
「……だが、あの強制的に自害させた方法は気になる」
「ひえ……」
「あれはサーヴァントの能力なのか、それともあれは魔術を知らない男相手なのだから、あの癖毛のただの精神干渉という線もある。……待てよ、聖杯戦争を知っているのだから奴は……」
「奴は?」
独り言を続けていたマスターは、わざとらしく口を一回閉じ、視線を逸らし。
「……役立たずに教えることは何もないな……」
嘲りもなく、淡々と。事実を言うように。いや事実なんだけど。
「あー………」
反論出来ないなあ……。偵察だって魔術師なら使い魔を飛ばせる。
あれはどちらかと言うと俺を試していた訳で。はい。
戦闘もそこまで出来ずサーヴァントの自覚もなく、出来るのは今の所簡単な陣地作成のみ。のみ。我が事ながら泣けてくる。
唯一のアドバンテージは憎っくきアイツに規制をかけられ没シュート、いやマジで俺どう立ち回ればいいんですかねえ。
頑張れマスター、全てはマスターの推理力に掛かってる。
「取り敢えず、戦況が安定するまで籠城だ。そんな簡易的なものではなくしっかりと陣地を作成して貰おう。……あ、出来ないか?」
「出来ます! やれます! やらせて下さい!」
ニッポンの文化、DOGEZA。
マスターは一瞬面食らったが、「お前どう考えても円卓じゃないよな」と一言零すだけで後は何も言ってくれなかった。
ーーーーー
「円卓……アーサー王の騎士かな」
「む? 奴は何と言っていたのだ?」
「お前どう考えても円卓じゃない、とか。あと僕初めて見たよ、ドゲザ? とか言うの」
「円卓を名乗る黒髪碧眼の青年サーヴァントが土下座? 随分と面白いな! 余もその姿を見たい! 美青年なのであろう?」
「ん? あ、まあ。顔は整ってて綺麗だよ。アジア系の顔して……」
「うむ! 最高だな!! 彼奴らは籠城と言っていたな。ではそこから動くことはあるまい、定点カメラを置くとしよう!」
「カメラ」
「うむ、カメラ」
「……いや、まあ。強ち間違いじゃないんだけど……カメラというより」
「所で! 先程のあのライダーは!」
「え、あ、途中までは追い掛けたんだけど見つかったのか潰されちゃった」
「むう、勿体無い……こんなにも愛らしいのにな」
「ただのガラクタの寄せ集めだけど……」
「馬鹿者! それが何だと言うのだ、余が愛らしいと感じた物を愛らしいと言って何が悪い!」
「いや、悪いとは言ってないけど、えと」
「全く、余を
「……話について行けない僕が悪いんだろうか……」
「マスター! 他に見つけられたサーヴァントは居るのか?」
「え、えーと、居るよ。一杯、」
「美青年は!?」
「……い、いる、よ」
「うむ、うむ!」
どこかで見たことあるような誰かさんが出てきましたね、誰とは言いませんけど(誰とはいいせんけど)。
籠城は死亡フラグだとどこかの誰かが言っていたが、主人公補正の前にはフラグなど折られるものなのだ。多分。うん。