幻想と科学が混ざった世界で   作:spare ribs

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十話 目指すもの

 

“禁忌” レーヴァテイン______

 

 

スタジアム中央に伸びる炎の剣。

 

騎馬戦が終盤になって盛り上がりを見せていた時にそれは出現した。その光景はほぼ全ての人間の目線を釘付けにし、氷壁の向かい側にいた緑谷たちにもはっきり見えていた。

 

「うそ…何あれ………」

 

「分からない。でもこの場に現れたということは誰かの個性によるものだ」

 

轟々と燃え盛る紅。それを見た麗日は空いた口が塞がらない。美しさと共に生物としての火の恐れを呼び起こされる。緑谷も他の人間もあの剣を見た者は同じような気持ちを抱かせた。

ここで緑谷は異変に気づく。

 

()()()()()()()!離れて三人とも!!」

 

空を穿(うが)つのではと天に向かって伸びていた炎剣は突如倒れ始め、轟・緑谷チームの間を叩き割った。

________衝撃が辺りを襲う。元々轟が造った氷壁内の空間は更に二分割に狭まる。かと思えば深紅の剣は消え去り、地面に色濃い跡を残した。

 

 

「ふう……ちょっとやり過ぎたかな」

 

 

この場に少し抜けた声が響く。炎剣が噴出していた地点、“レーヴァテイン”を放った本人であるフランドール・スカーレットが氷壁の向かい側から顔を見せた。

 

「オイオイ……何だ今の!?あんな事出来るなんて知らねえぞ!!?」

 

「驚きました。今まで本気で無かったのは存じてましたが、これ程の力を出せるとは思いませんでした」

 

「だな。味方で良かったって正に今言う言葉だよ」

 

フランのそばにいた鉄哲たちも今の行動に目が見開きになる。どうやら同じクラスの人間も知らなかった様子だ。

“レーヴァテイン”は炎剣を(かたど)ったレーザーを存分に奮う大技である。それゆえ狭い空間では扱いづらいという難点がある。A組と同じようにヒーロー科の授業で戦闘・災害救助訓練をやってきたフランだが、この技を使う機会が無かったのだ。つまりこの騎馬戦が周りに観せる初お披露目となる。

 

「予選で三位だった人。空を飛んでた場面しか見れなかったけど、一体どんな個性なんだ……!」

 

「考える暇はないぞ緑谷。轟に加えB組の猛者の襲来。事態は過酷を極めるぞ」

 

1000万を持つ緑谷チーム。ここで真っ先に狙われるのは自分たちなのは分かりきっている。いくらダークシャドウが防衛に重視していても二組から来られると穴が出てくる。サポートアイテムで飛んで逃げようとしてもフランの方が空中を自由に移動できる。それに麗日に装備していた着地用のジェットシューズも峰田の“もぎもぎ”によって破損しており、飛んだとしてもその後が危うい。正直言ってかなり厳しい状況だった。

 

「轟くんの足止めは効かなかったのか?」

 

「いや、イバラの壁越しに凍らせたはずだ」

 

「彼女は一体………」

 

同じく新たにやって来たフランチームに轟たちも警戒を示す。

氷結を出して壁越しに脚を凍らせたと思ったが(かわ)されたのか、もしくはすぐに突破されたのか。どちらにしても氷壁を壊したあの炎剣。彼女の個性はエネルギー弾を放てるような異形型だと思われたが、それにしては当てはまるものが無い。どんな個性を有してるか知らないが、緑谷よりもアイツの方が危険だと轟はフランを睨む。

 

 

「どういう個性持ってやがる」

 

「…………あ、俺あの子の個性知ってるぞ」

 

 

突然カミングアウトした上鳴の発言に「は?」と轟だけでなく飯田と八百万も振り向く。いきなり三人分の視線が向けられた事に上鳴はウェ?と戸惑いを見せる。

 

「上鳴くん、彼女の個性を知っているのか!?」

 

「おい上鳴どういうことだ。あいつの個性知ってるって。何で言わなかった」

 

「いやいやいや!!騎馬戦みたいな混戦だから……たった一人の個性を言うのもどうかと思いまして……」

 

騎馬の動きを止めるために使った大放電の影響か何処か抜けたような表情になりかけている上鳴。彼の個性は自身の限界量の電力をはき出すと脳がショートし、一時的にアホになる。今はまだ受け答えが出来るようで大丈夫だが、冷静になれば上鳴の言うことは間違ってないかもしれない。こんな事なら事前に危険人物を確認すべきだったと轟は悔やむ。

 

「少しでも情報が欲しい。上鳴、アイツの個性を教えろ」

 

「お、おう。確か個性は……」

 

上鳴はフランの個性について知る限りを話す。戦いの最中なので手短めにだ。

 

 

 

「………………“吸血鬼”か」

 

個性を聞いた轟は考察する。吸血鬼は主に民話に出てくる悪魔の(たぐ)いである。並外れた怪力をもち、人の生き血を啜る怪物。この他にもコウモリや霧状に姿に変えれるなどの様々な特徴がある。あのエネルギー弾を放てるのも自分たちが知らない特徴の一つかもしれない。

 

「だけど太陽とかの弱点も少し反映してるようでさ、日に当たってると少なくても半分は力が出せなくなるらしいぜ」

 

強力な力をもつ吸血鬼だが、日光や十字架など弱点が多いというのが有名だ。ただそれは地域の違いや映画などのイメージがあり、実際はそれらの弱点が効かないという話もあるが、彼女の場合は一部反映しているらしい。

ただ上鳴から聞いた中で一番引っかかったのは………

 

「あれで()()()()……」

 

逆に言えば半分の実力で俺らと渡り合ってることになる。今の馬鹿でかい一撃は彼女が本来の実力を出した結果なのだろうか。

彼女の個性についてある程度分かったが、いずれにしてもアイツは危険因子な事に変わりはない。

 

「1000万をあいつらに取らせる訳にはいかねえ。何としても俺たちが先に()るぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さあ、行くよ!!」

 

氷の破片を踏み越えて区切られたフィールドに入ったフランチーム。緑谷と轟チームの一騎打ちに乱入する形で1000万を奪りに行く。狙われている緑谷たちはこちらに来る敵に関わるのはマズいと下がる選択をするが……

 

「させるかよ」

 

鉄の棒を伝わせてフランたちの進行方向に氷結が奔る。

 

「骨抜くん!!」

 

「一旦止まれ!道を作る!」

 

騎馬を止めて骨抜の個性を発動させる。“柔化”によって柔らかくなった氷は形を歪ませて水になり、フランたちが通れる空間を作る。

レーヴァテインや魔力弾で壊せば良いのではと思うだろうが、そう制限なく放てる物ではない。太陽下で活動する間はフランの体力はどんどん削られていく。そう何度も大技や無駄打ちは避けたいところだった。

 

(そうは言っても駄目な時はあるよね!)

 

氷をどうにかする間に轟チームは緑谷の所へ向かう。このまま何もしなければ轟チームは1000万を奪るかもしれない。体力的に不安があるが、足止め代わりに魔力弾を形成して轟チームに投げつける。

 

「上鳴!」

 

「分かってらあ!!」

 

上鳴が電撃を起こす。指向性を持たない一撃だが、向かっていた魔力弾は全て誘爆した。最大火力の一撃を放ったのもあってかなり控えめだったが、凌ぐことに成功する。

だが上鳴の限界も近い。電撃を放てるのもあと一、二発と言うところだろう。しかし、一発放てるだけでも相手を牽制出来る。この一撃はかなり重要になってくるだろう。

そんな二組が争う中、緑谷は今の状況を瞬時に分析する。

 

(目的は同じでも相手に1000万を奪われてはいけない。この考えが二組とも妨害するっていう行動に表れているんだ)

 

妨害しながら1000万を奪う。これが実力差があったなら良かったが、拮抗しているからこそタチが悪くなる。互いに妨害し、凌ぐ手段があるからこそ攻めが上手く働かないのだ。

逆に緑谷たちにとっては良い状況である。最悪の場合、二組が一時休戦して協力しながら奪いに来るというのが消えたからだ。ただ二人が違うクラスだったり障害物競走で争っていたのもあり、その心配は杞憂(きゆう)だったかもしれない。緑谷は逃げ切りがしやすくなると三人に伝えようとした時_______

 

 

「っ!?ダークシャドウ!!」

 

『アイヨ!』

 

突如、ダークシャドウが前に出る。その瞬間、無数のイバラが緑谷の顔前で止まった。

 

「これって……B組のイバラのような髪をした……」

 

「集中しろ緑谷。向こうは互いに争ってはいるが、こちらに被害が及ばないとは限らないぞ」

 

攻撃の正体は塩崎のツルだ。緑谷に向けて放たれたのをダークシャドウがギリギリ掴んだのだ。

まだ遠い位置にいるからといって安全ではない。戦況はめまぐるしく変化する。それはどんな要因も起こり得るということで自分の予測が外れる可能性の方が高いのだ。分析ではなく直感で動く時もあるだろう。常闇に注意されて緑谷は気持ちを切り替え集中する。

 

『ハッハー!ツカマエタゼー!!』

 

「くっ!」

 

伸ばされたツルをダークシャドウが両手で掴む。イバラのツルは触れた者を傷つける棘があるが、影のモンスターであるダークシャドウには関係ない。封じられたこの状態はまずいと判断した塩崎はツルの端から切り離し脱却する。

 

「この際仕方がねぇ。上鳴!()()をやるぞ!!」

 

「ああ!全力でいくぜ!!」

 

 

残り十五メートルほどまで接近した轟チーム。その左翼である上鳴から内包している電気が溢れ出る。多くの騎馬の動きを止めた最大規模の放電______その前兆だ。

 

「茨ちゃん!!」

 

「同じ手は食らいません!」

 

地面にイバラが這い、壁が形成される。少し前に食らった最大火力の電撃は一度見ている。予備動作を確認してから今度はしっかり防御が間に合ったかと思われたが______

 

 

 

 

 

いつまで経っても雷撃はこなかった。

 

 

 

 

 

「身をもって知った攻撃だ。なら当然()()()()()()()()()()

 

「なっ……フェイク!?」

 

上鳴が個性を使おうとしてイバラの壁で凌ごうとした。しかしそれはガードをするために視界を塞ぐことが目的だった。フランたちの防御方法を見ていたのと同じ手は受けないと次はしっかり防ぐだろうと轟は予期していたのだ。

気づいた時には轟たちは一気に緑谷チームに距離を詰める。同じくダークシャドウが防衛しようとしていた緑谷チームもこの事に気が付き、逃げの一手に出る。

 

「キープ!!」

 

「チッ……!」

 

緑谷たちは轟の左側に入るように逃げる。それは轟の氷結が及ばない安全な範囲だからだ。

轟の個性“半燃半冷”は右に氷結、左に熱を生み出す。熱の方は轟自身が制約をかけて使わないようだが、氷結となると出せるのは右側からとなる。しかも今は騎馬に乗っている状態である。放とうとすれば前騎馬の飯田が射線上に入ってしまう。氷結を鉄の棒に伝わせるやり方もあるが、地面に届く角度的に辛いところがあった。

緑谷たちの動きは轟チームの主軸の妨害を潰す一手となっていた。

 

 

『残り約一分!!四位に入ってない奴はもう後がないぜ!全力をみせな!!』

 

 

この場にいる三組は最終種目に全員が進める順位だ。しかし、この場の誰もが狙っているのは一位の座。ポイント維持の為に保守に走る者は誰もいなかった。

だがこのままではハチマキが取れずポイントが変動しないで終わってしまう。一位ではないチームには焦りの色が浮かんでいた。

 

「皆、聞いてくれ。残り時間はもう無い。だから勝負に出たいと思う」

 

「飯田?」

 

「この後俺は使えなくなる」

 

何をするのかと轟は飯田の名を呼ぶが、彼は腰を低くして構えをとる。するとふくらはぎのエンジンから急速に青い炎を噴き出した。

 

「奪れよ轟くん!トルクオーバー!!」

 

 

視界が一気に変わる。それが爆発的な加速で変わっているのだと気づく前に轟は咄嗟に右手を伸ばす。その手はギリギリだったが、緑谷の額に巻かれた1000万を掴んだ。

 

 

 

「_______レシプロバースト!!!」

 

 

彼らが駆け抜けた瞬間を緑谷は捉えきれなかった。

あったのは頭のハチマキが無くなるという感覚。いつの間にか自分たちの後ろに位置づいていた轟の握る手には1000万という数字が書かれたハチマキがあった。

 

「なんだ、今のは……?」

 

「トルクと回転数を無理矢理上げ爆発力を生んだ。反動でしばらくするとエンストするがな。クラスメイトにはまだ教えていない裏技さ」

 

地面には飯田が通ったであろう跡が濃く残っており、エンジン部分は負担がかかった結果を表すように黒煙を上げていた。

クラスの皆に話してなかった彼のとっておき。この一手が戦況を動かす大きなきっかけとなった。

 

「言っただろ緑谷くん。君に挑戦すると!!」

 

 

順位が大きく変動し、轟チームが一位に。そして緑谷チームが一番下の0ポイントに急降下した。

 

「あの野郎!先に奪りやがって!!」

 

「茨ちゃん!!」

 

新たに一位となった轟チームだが、すぐに1000万のハチマキを奪ろうとイバラのツルが襲いかかる。塩崎がツルを向かわせていたのだが、轟の氷結が壁となり妨げられる。残り時間はもう僅かだ。緑谷たちとは違って防衛能力に加えて攻撃的な轟チームに攻めあぐねるフランチームだったが………

 

 

「1000万は……誰にも渡さねえ!!!」

 

 

連続で響く爆発音。第二の乱入者である爆豪が空から轟チームを襲った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『言っただろ緑谷くん。君に挑戦すると!!』

 

 

飯田くんがあんな超加速の必殺技を持っていたなんて思わなかった。ポイント数は1000万から0ポイント。それは最終種目に行くには絶望的な数字だった。

ハチマキを奪られた緑谷は瞬時に考える。この狭いフィールドにかっちゃんが加わって四チームが集まっている。それに残り時間は数えるほどしかない。どのチームも最終種目に行ける有力候補。元々1000万を守るために防御に重きを置いていたこのチームでははっきり言って厳しく、常闇くんのダークシャドウでも対処される可能性が高い。

 

「デクから1000万を奪ったんだな。だがそれは俺のもんだあ!!」

 

「てめぇ……!」

 

目の前を見れば新たにやって来た爆豪に轟は氷壁で接近を許さない。しかし、飛べなくてもある程度は空中で自由が利く彼にとって、違う方向から攻めれば良いだけだ。だがそこは八百万が盾を“創造”して何とかカバーしていた。

 

残り時間は?

皆どのくらいのポイントを持っているんだ?

どういう選択をすれば良い?

 

頭の中で疑問が浮かび、その問題点が出てくる。だけど僕に出来ることなんか限られたものだった。

 

 

「緑谷くん!!」「緑谷!!」「緑谷さん!!」

 

騎馬の三人がこちらに向けて叫んでいる。きっとこの後どうするか僕に話しているのだろう。こんな僕に三人はハチマキを託してくれたんだ。その思いを無駄にする訳にはいかない。

それにオールマイトが見てるんだ。僕が来たってことを証明するために、この授かった力を使わないでどうする!

 

 

()()()!!」

 

 

叫ぶように緑谷は自分に活を入れる。1000万は奪られてしまった。だがまだ負けた訳ではない。多少のリスクなんか今は捨ててしまえ。今出来る最善の策は目の前にいる人物がその答えだ。

 

「麗日さん!僕を浮かして!!」

 

「え……?う、うん!分かった!!」

 

緑谷の気迫に流されるように麗日は“無重力”を緑谷自身にかける。

 

「常闇くん!()()()()()!!!」

 

「……承知した。ダークシャドウ!!」

 

『アイヨ!』

 

彼が何をするのか理解した常闇はダークシャドウに命じる。緑谷が見据える先は1000万を持った轟チーム。ダークシャドウは緑谷を掴み、勢いをつけて投げ飛ばした。

 

「嘘でしょ!!?」

 

飛べないはずの緑谷が急速に通り抜けたことに驚くフラン。当然だろう。空を飛べない彼がいきなり宙に投げ打つ行動に出たのだから。

 

 

(この状態でなくても“ワンフォーオール”を直接人に向けるのは厳しい。だけど空を切るように……相手の防御を崩すだけなら!!)

 

 

伸ばした右手に稲妻が帯びる。爆豪の対処をしていて突如来た緑谷の迎撃が出来なかった轟は咄嗟に腕で庇うようにして防御の構えを取る。その左腕には無意識に炎を噴き出していた。

伸ばされた手が届こうとした時、緑谷は腕を払い、その風圧で轟の構えを崩した。

 

「っ!?」

 

「ああああああああああぁぁぁ!!!」

 

轟の首に巻かれているハチマキは二本。ポイントが裏側になっており、どちらが1000万かは確認出来ない。

だけど関係ない。どちらか分からないのなら()()()()()()()。必死に伸ばされた右手。その手が二本のハチマキを確かに掴んだ。

 

「ごめん上鳴くん!!」

 

「ウェ? ぐべら!!?」

 

轟からハチマキ二本を奪い取る。その際、丁度良い位置にいた上鳴が緑谷に踏まれて潰れた声を漏らす。ここで彼が損な役になるのは必然なのだろうか…………

上鳴を踏み台に使って一気に跳躍し、轟チームの元から離脱する。だが離脱したは良いが、空を飛べない緑谷はそのまま場外に出る勢いだった。

 

「緑谷!!」

 

「勝たなきゃダメなんだ。僕は……期待に応えるために!!」

 

しかし彼は諦めてなんかいなかった。空中という自由に動けない場所。だが勢いをつけて跳んだその先には、轟が少し前に形成した氷壁があった。その上に着地した緑谷はそのまま右脚をバネのように曲げて再び“ワンフォーオール”を引き出す。

 

「常闇くん!!!」

 

氷壁を足場にして強引に方向転換。厚さのある氷を砕くほどの踏み込みで再び空に舞い上がった。

 

「ざけんじゃねえぞ……クソデクがあぁ!!!」

 

「回収しろ、ダークシャドウ!!」

 

『アイヨ!』

 

ダークシャドウが緑谷を受け止めるために常闇から伸びる。しかし、その前に轟チームに張っていた爆豪が怒号を上げながら急加速していた。

戦闘スキルも空中戦もかっちゃんにの方が上。ならば下手に迎え撃つよりもなるべく関わらない選択が一番正しい。ならばやる事は一つ。

 

「もう一発だあ!!」

 

「うお!?」

 

 

腕を振り切る。再び“ワンフォーオール”で風圧を起こし、爆豪を接近を食い止める。二発目も成功するか不安だったが何とか上手くいった。空中で体勢を崩した爆豪は何処から来たテープがくっつき、引き寄せられる。どうやら先行していた彼に騎馬の人たちがようやく追いついたようだった。

また緑谷も今の牽制であらぬ方向に身体が飛んでしまったのだが、ダークシャドウが捕まえて騎馬に帰ってくる。

 

『なんちゅー執念深さ!!一度は奪られた1000万を緑谷チーム!最後の最後で奪い返したー!!!』

 

 

騎馬の攻防に歓声も最高潮に盛り上がる。1000万をとり返し緑谷チームは再びの一位に上り詰める。

 

「凄いよデクくん!!一人で行っちゃったと思ったらハチマキをあっという間に取ってきちゃったんだもん!」

 

「とんだ無茶を……どうなるかとヒヤヒヤしたが、期待以上の成果だ」

 

突然の行動に三人は驚いたものの、再びの一位に喜びを露わにする。ダークシャドウから降ろされた緑谷は騎馬に足をかけるが、ここで発明が異常に気づく。

 

「み、緑谷さん!?脚が……その怪我大丈夫なんですか!!?」

 

騎馬の体勢を立て直す際、騎馬の右翼である発目は必然的に緑谷の右脚を見ることになる。その時、彼の脚が先程と変わってスボンの裾が破け、赤く腫れあがっていたのだ。

この混戦と残り時間を考えて奇襲という策が必要だった。ただそのまま騎馬を突っ込むだけでは対処される。そこで爆豪の動きを参考にした。彼の空中での奇襲が轟の不意をつくのに一番適している。幸いその策を実行する人員は揃っていた。かなり危険な賭けだったが、何とか掴み取ったのだ。

 

しかし、脚に“ワンフォーオール”をかけたことで騎馬に戻れたのは良いが、力の調整はまだまだ不安定だ。USJ(あの時)の感覚を再現しようとしたが、身体を壊さずに奮って成功するのは難しいのだ。

異常に気づいた麗日と常闇も心配の声を上げるが、緑谷は大丈夫だと返す。気を緩めてはいけない。1000万をとり戻したとはいえ、騎馬戦はまだ終わっていないからだ。

 

 

「1000万は……私たちのだ!!!」

 

 

自身の騎馬から飛び出してフランが緑谷チームの所に向かってきていた。先制に魔力弾を数発、緑谷たちに放つ。

 

「ダークシャドウ!!」

 

ダークシャドウがその身を呈して魔力弾の射線上に陣取る。

 

『ギャン!!』

 

「やっぱり防いじゃうか!」

 

魔力弾が爆発して大きく仰け反るダークシャドウ。騎馬戦の前に緑谷は常闇の個性についてある程度聞いていた。影のモンスターということもあってダークシャドウは光に弱い。今はまだフランには知られていないだろうが、爆発による光や先程見せた炎剣(レーヴァテイン)はとても相性が悪かった。

 

「くそ!緑谷くん、君って奴は……!」

 

「順位は………ギリギリ四位ですわ!!」

 

「ウウェ~イ!(残り時間はもうないぜ!)」

 

一位から順位が三つほど下がってしまった轟チーム。最終種目には進める順位だが、いつ抜かされるか分からない。

飯田は秘策レシプロバーストを使った反動でエンジンが十分に機能せず、上鳴も“帯電”により許容範囲を超えている。1000万というポイントが無くなった今、少しでも安全圏に入ろうと躍起になる下の三人だったが、轟はだだ一人ブツブツと独り言のように何かを呟いていた。

 

「…け……ねえ」

 

「え?」

 

「負けられねぇんだよ……!」

 

 

無意識に使ってしまった左側。それが憎き父の力だということに苛立ちと制約を破ってしまった自分に怒りが湧く。

右側から冷気が溢れ出る。それは周囲の温度が低下して白い息を吐けるほどだ。しかし、そんな彼の心の内はまるで炎が上がっていると言えるほど燃え盛っていた。

 

 

クソ親父を見返すため、己は右だけで頂点を目指すと誓った。

 

 

アイツが見ている中で無様な格好を晒したくない。結果が必要だ。左を使わず、母から引き継いだこの力で________

 

 

 

 

 

「負ける訳にはいかねえんだよ!!!」

 

 

 

 

 

ヒーローを…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがテメェの答えか______

 

 

 

 

 

 

 

突然轟チームの周りで声が響く。

それは何処から発せられたのか。後ろから……上から……耳元から聞こえた気がした。

ただ一つ分かるのは、その声が何処か聞き覚えのあるということだった。

 

 

 

正直オメェが勝ちにこだわる理由なんて知ったことじゃねぇが_____

 

 

 

 

その声が発せられるたびにまるで身体が受け入れるかのように聴いてしまっていた。

 

 

 

 

だけどよ________

 

 

 

 

 

 

「だからテメェは負けるんだ。轟焦凍_______」

 

 

 

()()()()()()轟チームを覆う。飯田・八百万・上鳴は突如出現した純白が周囲を染める光景に驚きが走る。当然だろう。飯田は教師を呼ぶために校舎に向かい、八百万と上鳴は別のエリアにいた為にこれの正体を知らないのだ。

 

『なんだなんだ!急に現れた白い集まりが轟チームを隠しちまったぞ!?』

 

『ここまで何のアクションを起こさなかったが遂に動いたか』

 

『ん?あれが何か分かんのかイレイザー?』

 

目の前で見せられたからな、と相澤は返す。そしてもう一人、轟もこの純白を見て思い出す。この現象を引き起こした人物……ここまで姿を潜めていた彼の存在を。

 

轟たちをドーム状に覆っていた純白は時間を追うごとに薄くなり、やがて消えていく。観客からも様子を再確認出来るようになったのだが、そこにいたのは_______

 

『ここで轟チーム!何があったんだ!?ハチマキが……ここまでノーマークだった心操チームが根こそぎ奪ったーー!!!』

 

 

終了の合図が鳴る。何が起きたか理解不明だったが、一つ分かることは…………有力候補だった轟チームが敗北したことだった。

 




レーヴァテイン
→今回は氷壁を割るために使ったが、人に向ければとんでもない事になります。

ウェ?
→な、何?という返事の派生系。皆も使ってみよう!

ハチマキ二本
原作では轟の首に巻いてあったハチマキは三本だったが、鱗チームはフランたちと争ってた時に凍らされていたので、70ポイントは奪えず二本に。緑谷が1000万を奪い返せたのは二本あるなら両方奪っちゃえ的な考え。

爆豪、参戦!
乱戦という状況を強調するために入れました。そのお陰というか元からすごい書きにくかったのですが……

轟チーム敗北!?
ここで悠月の騎馬メンバーを記載しておきます。
先頭:騎手、その次:前騎馬

心操、回夜、尾白、庄田

最後に現れて良いとこ取る系男子が十話を締めました。彼が何故このチームを組んだのか。轟がここで敗退!?この先どうなるの!?
ここまで読んで察した方はいるかもしれませんが、轟には救済措置があります。悠月と組んだ人物、最終種目前の出来事、そして轟の思い。これらを考えたらこの先の展開を予想出来るかもしれません。

だからお願いです。轟が最終種目まで行かないのかよ、とか言って見限らないで下さい!何でもしま……頑張りますから!


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