……はい(気ままに更新してみました)
九話、十話の内容を踏まえた文章がありますので先にそちらを読んでおく事をオススメします。
話は騎馬戦チームメンバー決めまで遡る。
第一種目障害物競走は緑谷が一位を続いて爆豪・フラン・轟の順で最前線にいた者の順位が決まる。トップ争いをしていた中で爆風を利用するという大逆転劇を見せたのだ。今現在もギャラリーは大きく盛り上がっている。
その後も続々と順位が決まっていく中、上位とは程遠い28位でゴールにたどり着いた青年がいた。
(こんなもんか。それにしても
相応のハンデがあったとしても、この障害物競走はフランにとってある程度優位な競技だった。そんな彼女が三位だったのを見て、予想外の事態というのは起こり得るのだと一人考えていた。
全体的に見てみれば、A組の多くは上の順位。逆に同じヒーロー科であるB組は予選を通れるであろうギリギリの順位に集中していた。その意図に早くも勘づいていた悠月だったが、その後は特に気にする様子もなく、ステージ端で事を待つ。
続く第二種目。
ミッドナイトの説明で騎馬戦の詳細が話される。最大四人一組で作られるハチマキ争奪戦。第一種目での順位によってポイントが割り当てられ、騎手と騎馬の持ち点の合計がハチマキに反映される。障害物競走での個人の実力が試されるのと打って変わり、ここでは仲間との連携が大事になる。
チーム決めの時間は15分。皆がそれぞれ最適のペアを見つけるために話し合いが行われている時、自らの名が呼ばれる。
「回夜、ちょっと良いか」
振り向くとそこには赤と白に分けられた髪が特徴の轟がいた。
「なんか用か?」
「騎馬戦のペアについてだ。お前には俺のチームに入ってほしくて声をかけた」
轟は騎馬戦の説明を聞いている間、それぞれの役割を持った安定した布陣を頭に浮かべていた。その中でも戦闘訓練やUSJの件で目覚ましい活躍を見せている悠月は特に引き入れたかった。第一種目で低い順位を取っていることに疑問が残るが、A組でも強者と言える人物の一人だと轟は評価している。
最終種目で壁となるかもしれない。しかし、この競技を勝つために悠月のことを必要としていたのだが……
「悪いな。おめぇの考えてるチームが強いってのは分かる。この競技でも上位を取れる騎馬になるだろうよ。だが俺は一番安定した勝ち方をしたいんでな」
「……それは俺と組まないって事か?」
ああ、と悠月は返す。屈指の実力者と謳われている轟と組むよりもそれ以上に安定したものがあると言う。どういう人選なのか聞こうとしたが、この時点で味方にならないのが決定した場面で言うはずが無いかと思い、言葉を飲み込む。
「そうか。だったらお前はもう敵の一人だ。緑谷にも言ったが、お前にも勝つぞ」
「……好きにしろ」
完全に悠月が敵だと割り切ったようだ。一度も振り向くこと無く、先に勧誘していたであろう飯田と八百万の所に向かった。
(さてと。俺も早いとこ声かけとくか……)
轟の誘いを断った悠月は首を動かして目当ての人物を探す。周りに人がごった返している中で目的の人物を見つけた彼はこの第二種目を勝つ為に足を進めた。
「よう、そこの人。少し話どうだ?」
*
(これで二人目。あと一人は欲しいな)
制限時間も半分が過ぎ、普通科で唯一障害物競走を突破した心操人使は二人のヒーロー科の生徒を“洗脳”していた。
彼の個性“洗脳”は自身の問いに答えた相手を操るという強力なものだ。この個性により、騎馬戦の最終局面のところでポイントを持っている騎馬を洗脳することで簡単に最終種目に進むことが出来る。そんなシナリオがある故に自身が組む相手は誰でもよいのだが、せっかくなので扱いが良さそうな奴を取り込んでいた。
目の前にいる尾白と庄田を難無く洗脳した後、騎馬の安定性のためにもう一人下が欲しいと思っていた時、後ろから声がかかる。
「よう、そこの人。少し話どうだ?」
すぐ後ろで発せられた声に心操は半ば反射的に振り返る。そこにいたのは気だるげな雰囲気を漂わせる青年。ルックスは良いが心操からすれば特に気にする存在ではないはずだが……
(なんだ…コイツの眼。まるで俺の全てを見透かしてるような……そんな眼をしている)
自分の中身を覗かれるという奇妙な感覚を植え付けられる。一瞬身体を強ばらせたものの、体育祭前に一度見かけたことがあるのを思い出す。少し気圧されたところはあったが、前の二人と同じように“洗脳”をかければ問題ないと判断し、彼に話しかける。
「もしかして俺たちの騎馬に入りたいのか?」
「ああ、そうだな______」
ここで相手の言葉が止まる。蒼色の瞳は何も映さず人形のように固まった。“洗脳”が効いたことに心操はニヤリと笑う。
「駒は揃った。後は騎馬戦終盤で他のチームからハチマキを取れば_____」
「なるほど。
聞くはずのない声に心操は驚愕した顔で振り返る。そこには先程までの無機質な表情とは打って変わって首を鳴らして不敵な笑みの悠月がいた。
「お前、なんで……!?」
「そう驚くことはねぇさ。一度俺の話を聞いてかねぇか?おめぇの持つ“洗脳”なんか使わずによ」
「………チッ、分かったよ」
自分の個性がバレている。恐らく“洗脳”の解き方も知っているのだろう。知っていたからこそ“洗脳”を対処してこちらに話しかけに来たのだ。半ば脅迫されているかのようだが、心操はそこまでして接触してきた悠月と対話することにした。
「話をする前に聞きたい。どうして俺の個性の解除条件が分かった」
「あ?……あぁ、障害物競走の時におめぇの個性を見たからな」
何故?という表情をするが、すぐに納得したかのようで彼は心操の質問に答え始める。
「あの時の俺は先頭を行く選択はせずに上位陣の観察をしていた。第一種目っていう言葉の時点で落ちる順位には制限があるはず。それで急ぐ理由もねぇから“ついでに”見とくかって感じだったんだが……そん時に見つけたんだよ」
轟の攻撃を他人を足場にして避けていたおめぇがな、とつけ加える。
「様子を見ていたが、他人を使っておめぇは競技を突破していた。使われた奴らは丁度今の尾白たちと同じように虚ろな眼をしていたなぁ」
一瞬尾白たちに目を向ける。特徴を隅々まで知られてることに舌打ちをしたいところだが、心操は少し引き攣りながらも笑みを浮かべる。
「なんだ?お仲間だから解除して欲しいってか?」
「いや?そうしたらコイツらから無駄に説明を求められそうだしほっとく。それよりもおめぇの個性についてだ」
まるで興味ないかのように言う悠月。口封じのために二人を利用するのを匂わせたものの、あまり意味が無いと判断する。昔から他人の心情に敏感だからこそ悠月が本心から言ってるのだと分かったからだ。
「正直おめぇの個性はすげぇ。精神に干渉するってのは対策がなけりゃ勝つのは不可能だからな。だからこそ発動条件はできる限り知られたくはない。だが騎馬戦では多くの人間の目に映ることになる」
「まあ、その可能性は出るだろう」
「故に俺は取引を持ち込む」
「取引?」
ここでそんな言葉が出るとは思わなかったのかオウム返しのようになる。
「ああ。終盤に“洗脳”で相手チームからハチマキを奪るっていう作戦は変えねぇ。ただ、俺の力で個性を使ってる瞬間を隠してやる。俺は楽に戦いに勝てる。おめぇは最低限に個性が隠せる。最終種目に行くには悪い話ではないと思うが?」
笑みを浮かべている悠月とは対称的に心操は難しそうに考え込む。ここまで誰かを操って第二種目まで来た彼にとって、
それでも取引自体は悪くない。奴が言ってることが本当ならば騎馬戦の状況によって大勢の目に晒される心配が無くなるからだ。
…………しばらく会話が止まっていたが、心操は決断した表情を見せて答える。
「条件がある。俺の個性とその対策について一切口外するな。それを守ったら受けてやる」
「肝が据わってんな。良いぜ、取引成立だ」
これは単純な力ではない。知恵と能力において最強のチームがここに結成された。
*
『START!!!』
プレゼントマイクの一声で騎馬戦が始まった。開始と同時に一位の緑谷の所に何組か騎馬が向かって行く。
「やっぱ1000万の騎馬は人気だな」
「一点狙いの奴らはいるだろうよ。だが敢えて狙わねぇ奴らがいるのも事実だ」
合図の後は適当にステージの端に移動し、相手チームとの衝突を避ける。状況の観察から行い、ハチマキ争いには極力参加しない動きだった。
そんな彼らだったが、暫くすると一組の騎馬が接近してくる。よく見ると上に乗っている騎手はフランの世話をしてくれているという拳藤だったはず。障害物競走では手を大きくする個性と見たが、鬼気迫る勢いでこちらに向かってきていた。
「大人しくポイントを寄越しな!」
「ああ、別にいいぞ」
そんな彼女の気迫とは反対に心操は特にこれといった抵抗もせずに額に巻かれた360ポイントのハチマキが奪られる。
「……あ、あれ?」
「俺らのポイント持ったんだ。まあ頑張ってくれ」
それなりの苦労をかけるだろうと思って伸ばした手が割とあっさり、というか貰ってくださいと言われたかのようにハチマキを手にする。今の行動に拍子抜けになる拳藤チームだったが………
「あれ?あの人たちは?」
「
忽然とハチマキを奪った心操チームが消えていた。
ハチマキを奪ったすぐ後だ。反撃を予想してふり返って見ればまるで神隠しにあったかのように彼女たちの視界から突然いなくなったのだ。
「なんだ?いきなり視界が変に……?」
「周囲の光情報を弄って俺らの姿を隠した。多少原理は違ぇが光学迷彩って言ったら分かんだろ」
いきなり姿を消した心操たち。一瞬の間に移動したかと誤認させたが、実際はハチマキを奪られた場所から動いていなかった。自分たちの周りで純白の粒子が覆われる。その後視界が晴れたと思えば、周囲から認知されなくなったと言う。
「じゃあなんで合図と同時に消えなかったんだ。そっちの方がもっと楽に行けたんじゃないのか?」
「ポイント持ってる状態でいきなり消えりゃあ目立つだろーが。注目される可能性がある時にやんなかっただけだ」
何気なく話す彼だが、実際にやっているのはとんでもない事だ。心操は騎馬である悠月について改めて考察する。
(ハッタリ……じゃない。ここまでの言動はできて当たり前の事って訳か)
どうやら自分と組んだ相手は想像よりも強力な人物だと知って安心感と同時に個性に対する妬みが募る。この力を使えば自身や他人の姿を隠すことで索敵や隠密、ヴィランへの奇襲などの面で活躍するだろう。情報収集といったところは“洗脳”でも行えるが、誰かを操るみたいなヒーローに誂え向きでは無い個性と比べて人道的でマシな部類だ。
(くそ……そんな事考えてる場合じゃないか)
順調に進んでいても今は競技の真っ只中。心操はその思いを内側に留め集中する。対する悠月もそういう視線を受けていたことに気づいていたが、何も言わずに周りを観察していた。
(アイツは…………派手にやってんな)
視線の先には無数の魔力弾がA組の葉隠チームを囲む様子が映る。その後に前騎馬の青山のレーザーが放たれたと思えば、まるで花火がすぐ近くで爆発したかのようにスタジアムが明るく染まった。それと同時に数名分の悲鳴が上がる。
「うぎゃあ!?騎馬が崩れた!」
「すぐに騎馬を立て直さないと……口田!青山!早く立って!!」
「第一種目で個性それなりに使ったから、お腹限界なんだよね☆」
「んなこと言ってる場合か!?」
爆発の中心にいたであろう葉隠チーム。その全員が灰色の泥のようなものを被った状態になっている。耳郎が早く騎馬を立て直そうと声を上げるが、フランのところにいる奴の個性なのか葉隠チームは動けそうになかった。
好成績を残しているフランは騎馬の三人に的確な命令を出してハチマキを奪っているようだ。
「この後は暫く待機する形か?」
「ああ。最初言った通りだ。終了間際まで機会を待つ」
ポイントを無くし、更には姿を消したことで注目される要素はなくなった。このような乱戦の中でたった一組いなくなった所で気づかれやしない。
「あとは隙を見てこっそりとハチマキを
ハチマキを奪い合う乱戦。掛け声や怒号が響く空間の中でこちらに語りかけてくるかのように声が聞こえる。その先には金髪でやけに自信に満ちた人物を乗せた騎馬がいた。それを見て心操は下の悠月に問う。
「おい、俺たちの姿は見えないんじゃなかったのか?」
「……ああ。確かに不可視にしてるはず。だとしたら……」
消える瞬間を見られていたか____
そう結論づけるしかないだろう。現に今も光情報を弄り、視覚で捉えるなど出来ないはず。最初から自分たち……いや、俺と同じように観ていた奴がいたということ。悠月は少しだけ警戒を強め、こちらを見据えている人物____物間寧人を見る。
「おい物間。本当に大丈夫かよ?今の俺たち虚空に話しかけてる頭のおかしい奴らだぞ」
「お前らも見てたろ。どんな個性か知らないけど突然姿を消した。瞬間的に移動したならこのステージの見渡せる範囲にはいるはず。だけど姿が見える様子はない。つまり彼らはコソコソとそこら辺で隠れてるに違いない」
騎馬の三人は不安そうにキョロキョロと周囲を見るが、物間は確信を持った口調で話す。
「どうする?こっちの動きがバレているようだが」
「今の会話で下の騎馬には姿が見えてねぇことが分かった。つまりこっちに対抗する手段はねぇか騎手のアイツのみ。だったら確認してぇことがある……
____だとしたらどうするんだ?金髪」
悠月の声がはっきりと聞こえたからか物間はニヤリと笑う。
「へえ?やっぱりそこにいたんだ。姿を隠す個性。臆病者にはピッタリだ」
「そう言うおめぇの方は複数の個性を使う事ができるみてぇだが……」
障害物競走で物間を見た時は透明な板のようなものに乗って奈落や地雷ゾーンをクリアしていた。恐らく空気を固めて壁を作る個性だと予想していたが、この騎馬戦では全く違う個性を扱っていた。
「折角だから君にも教えてあげるよ。僕の個性は“コピー”。その名の通り、他人の個性を僕は使うことが出来る」
悠月が既にあたりを付けてたからか物間は直ぐに自分の個性を話す。自慢したいからか、又は余裕があるからか。恐らく両方だろう。相手が隠れるしか能がないと決めつけてるからこそ自分たちに話しかけてきたのだ。
(いや、見つけることに長けた個性を“コピー”していれば話は別か)
競技中、全員の個性を見れた訳では無い。視覚を惑わせているのであって他の方法で探られたら見つけられるのだ。そうだとしても対抗策などいくらでも考えられるのだが……
(個性の
“コピー”によって他人の個性をどこまで扱うことが出来るのか、悠月はその部分を一番に懸念していた。
「どうする?姿が見えてないって言っても相手の力が未知数だ。ここで(“洗脳”を)使うか?」
「いや、この後の展開を考えたらハチマキを奪るのは悪手だ。最後までとっておけ。それに奴らはここで争うつもりなんてねぇだろうよ」
悠月の返答で物間は感心したかのように声を漏らす。
「どうやら少しは頭が回るようだね。確かに僕たちは争うつもりは無い」
「は?どうしてだよ?」
「見てなかったのか
物間チームの持ち点は960ポイント。順位は今のところ三位だ。このまま行けば最終種目に進める彼らにとって無理にハチマキを奪いに行く必要がないのだ。
「それにハチマキを奪られた時、あいつらは何の反応もしなかった。例えば消えるにはタイムリミットがある。もしくは移動する時は多少歪んで見えるみたいな何かしらの制限があるから最終局面の乱戦で不意打ちするしかない。だとしたら辻褄が合うと思わない?」
つまりハチマキを奪っても自衛する手段がないから奪いに来ないと物間は判断しているのだ。実際に心操も悠月が姿を隠す個性だと思っているため、反論する所はなかった。
だとしてもここで自分たちに目を向けることこそ無意味だと思うが、何か恨みを買われていたのだろうか。
「A組はヴィランに遭遇したってだけで舞い上がってる。運良く切り抜けただけのくせに。だから浅いんだよ君たちは」
そう言って物間は他のチームから奪ったであろうハチマキをわざとらしく見せる。
「分かる?元々このハチマキを持ってた騎馬。宣誓をしてたあのヘドロ事件の奴のさ!気分が良いよ。格下と思ってた連中からポイントを奪われて何も出来ない姿を見れたのは!!」
両手を広げて心底愉快な表情で一人話をする。
「君だってそうさ!スカーレットさんが強いとか何とか言ってたけど見当違いだったよ。今の君ってさあ、ただ逃げてるだけだよねえ?自分は戦えないから姑息な手しか使えないってことだよねえ!!」
相手を煽り余裕を無くしていく。自分語りをしているように思えるが、確実に相手の怒髪天を衝く言葉を選んでいる。
(不味いな。完全に相手のペースに乗っかっている。回夜がこのまま冷静さを無くしてしまえば向こうの思う壺だ)
心操はここまでの会話を聞いてそう分析していた。矛先が向けられている悠月は俯いて何も言わない様子。物事をよく考えてから行動する性格だと分かっているが、コイツとはついさっき話したばかりの仲。いつ食い付いてもおかしくない。
(だったらここで“洗脳”をかけるか?)
先程個性は使うなと言われたが、物間チームからハチマキを奪えば今のところ三位には食い込めるのだ。時間はまだ残っていてもここで仕掛けるのは一つの手だ。
「まあ、ここまで言ったけど今の君たちはポイントのない無価値だ。相手するのはここまでとするよ」
騎馬が後ろを向く。どうやら言いたい事を言い終えたようで競技に戻るようだ。相手は油断している。自身の問いかけに答えれば勝ちなのだ。心操は個性を発動するために話しかけようとするが……
「お前……必死だな」
ただ一言。悠月が発したその言葉で物間の余裕そうな笑みはピタリと止まる。
「へえ?そんな事を言われるとは思わなかった。けど今の言葉は負け惜しみにしか聞こえないよ」
「そんな事はどうでもいい。確かに今は結果を出してねぇからな。そう思われても仕方がねぇだろうさ」
「ッ!?」
物間の身体が震える。目が合った。今まで対峙していた相手に見えないながらも危険を察知して震えたのだ。
「ただ一つ……俺が言いてぇのは_____」
その時、物間チームの一人である円場はある違和感に気づく。屋根がなく太陽が直接選手を照らすステージ。遮るものがない中で自分たちの所に
「目的が高い奴ほど諦めが悪い。オメェの方こそ足をすくわれるぞ」
その直後、怒号と共に
「物間、上だ!!」
咄嗟に円場は“空気凝固”で空気の壁を作る。他の三人も敵襲にあったことに気づく。たった一撃で空気の壁が吹き飛ぶが、物間も
「よぅ……さっきぶりだなぁ。クソ煽り野郎」
ドスの効いた声。とてもヒーローとは思えない笑みを浮かべて爆豪は物間を視界に捉える。
「お前……!?」
「
物間チームと爆豪チームが争い始めた。爆豪は一人で突っ込んで来たようだが、後ろから騎馬の三人が到着しつつある。この近くにいれば流れ弾が飛んできてもおかしくないだろう。
物間の立ち回りは別に悪かった訳では無い。相手を観察しながら自分のペースに持ち込み、優位な状況を作る。策士と呼ばれる素質はあっただろう。ただ自分が優位に立った途端に羽目を外しすぎた。少なくても騎馬戦が終わるまでゲームメイクを続けるべきだった。
だからと言って気にする存在でもなかったと悠月は結論づける。
「でかい氷壁ができたな。アッチに1000万がいるのか」
「だろうな。行くぞ、騎馬戦も終盤だ」
あとは来たる瞬間まで待つのみ。
……ついでに恨みを買われた原因であるアイツには何か対処しなければと悠月は一人心に留めた。
*
轟チームが氷壁で1000万を持つ緑谷チームと自分たちを囲む。一対一の状況を作り出したが、フランが“レーヴァテイン”で強引に壁を突破。囲われたフィールド内に入った。現在は物間チームを撃破した爆豪が単独で飛んで侵入した後、騎馬の三人も氷壁内に入ったところだ。
「さっきの馬鹿でかい炎の剣、前にアンタと一緒にいた奴のだろ?どんな個性持ってたらあんな芸当出来るんだよ」
「さあな。正直俺でもよく分からねぇ所はある」
氷壁の内側に入るにはどうすればと悩んでいたが、都合良く道が開いた。悠月たちもフランが開けた部分から氷壁内に入る。ここにいるのは自分たちを除いて四チーム。それぞれ一位〜四位の順位を持っている。すなわちどのチームを狙っても最終種目には進めることが出来るのだ。
「ポイントを持っている奴ら、どいつを狙う?」
氷壁内に入ったことでその様子が視覚で分かるようになる。そこには1000万を巡った激しい戦いが繰り広げられていた。
『緑谷ー!!ダークシャドウに投げられて轟チームに一直線!!もうコイツら騎馬から離れるの大好きかよ!!』
麗日の“無重力”と常闇の“
「っ!?」
「ああああああああああぁぁぁ!!!」
接触する直前、緑谷は稲妻を帯びた右腕を奮ったことで生まれた風圧により轟の体勢を崩す。その勢いのままハチマキ二本を掴み、そのまま奪い去った。
「ざけんじゃねえぞ……クソデクがあぁ!!!」
「回収しろ、ダークシャドウ!!」
『アイヨ!』
ハチマキを奪った緑谷に爆豪は怒りの形相で追いかける。空中で身動きの取れない緑谷に手が触れようとしたが_____
「もう一発だあ!!」
もう一度腕を奮う。それだけで強風が吹いたかのように爆豪を押し返した。空中で体勢を崩した爆豪だが、後ろから同じチームの瀬呂からテープが伸びて騎馬まで引き戻される。
「あのやろぉ、ふざけた真似しやがってぇ……!」
「あんまり一人で突っ込むな爆豪!俺たちが来るまで我慢しろよ!!」
「うっせ!!てめーらが来んのが遅せえだけだろ!さっさと援護しろやごらぁ!!」
「いやマジ理不尽!?」
地面につかず失格にはならなかったが、やっとの思いで伸ばした1000万を手にする最大のチャンスを爆豪たちは逃してしまった。
反対に最大の危機を凌いだ緑谷チーム。ダークシャドウに支えられながら騎馬を立て直す。騎手の緑谷の手には二本のハチマキがあり、騎馬の皆と喜びを交わしている。よく見ると彼の額に巻いてあった1000万が無い。どうやら1000万のハチマキを一度奪られてたが先程の攻防で取り返せたようだ。
(残りはアイツらか………)
目を向ければ何処か焦りを浮かばせている下の騎馬。そして上にいる騎手_____轟焦凍は俯いて何かブツブツと呟いている。その姿は黒く暗い……目の前の状況など彼の瞳には何も映していなかった。
「目標は決まった。あの紅白頭の所に行くぞ」
「大丈夫なのか?」
勝手に行き先を決めたことに心操は声を上げるが、答えることなく騎馬を進める。
「____負ける訳にはいかねえんだよ!!!」
それがテメェの答えか_______
轟のことを悠月は何処か冷めた眼で見ていた。“
「やれ、心操」
「腑抜けた姿だな、それでヒーローになれるのか!」
心操の呼びかけに轟は炎を宿した眼を向けて唸るような返事をする。そして目が虚ろになり、洗脳が完了した。様子がおかしくなった轟を見て動揺している下の騎馬にも同じように問いかけをし、洗脳を施す。後はあやつり人形になっている隙を狙ってハチマキを奪えば終わりだ。悠月たちはそのまま停止している轟チームの騎馬に近づき、額に巻かれたハチマキを奪った。
どんな世界でも冷静さをかけた者は周りが見えなくなる。それが復讐などと言う過去に囚われている者ならば尚更だ。復讐を達成したとしても、そこにあるのはぽっかりと空いてしまった自分の心だけ。復讐で埋めることなんてできる訳がない。それを知らない……知ろうとしない彼を見て悠月は見ていて不愉快だった。
「だからテメェは負けるんだ、轟焦凍_____」
“未元物質”を解除する。覆っていた純白が晴れていくことで周りの観客も轟チームにハチマキが無いことに気づく。
『ここで轟チーム!何があったんだ!?ハチマキが……ここまでノーマークだった心操チームが根こそぎ奪ったーー!!!』
それと同時に終了の合図がなる。結果は四位。何とも言えないような順位だと思われるが、最終種目には進める。悠月と心操にとって順位にこだわりはないので特に問題はなかった。
「お疲れさん」
心操が騎馬から降りて労いの言葉をかける。それと同時に騎馬の“洗脳”を解除したようだ。状況が読めずキョロキョロと周りを見ているメンバーを残し、悠月は用は済んだという風にスタジアムの出口に向かって歩き始める。
「お前のお陰なのはあったが、約束はちゃんと守れよ」
「……分かってるよ」
約束を破らないようにと念を押す心操にひらひらと手を振って立ち去っていく。この場を仕切るように動き、ある意味こちらの弱みを握っていた彼の呆気ない別れに心操は何処か疑問が残る。
作戦通りの勝利。これで決勝ステージに行けるっていうのに……
(なんでお前はそんな顔をする?)
何気ない仕草。勝ったことへの嬉しさを爆発させる者。負けたことへの悔しさを見せる者。先程までの動きを反省する者。皆が騎馬戦での結果をそれぞれ振り返っている。
しかしその中で彼の顔はまるで苦虫を噛み潰したような……悪い出来事でも思い出したかのような……そんな表情を彼は浮かべていた。
心操くん
→悠月に利用される形で組むことに。この頃は他人を蹴落とすことに躊躇しなかった時期ですかね……
いなくなった……?
→お前……消えるのか?この試合(競技)に勝ったら……消えるのか?
A.消えたと言われたらまあ…そうですね。
物間くん
→イキリ顔を晒しながら話していたことでしょう。
960ポイント
→爆豪チームと物間チームのハチマキの合計。原作では葉隠チームのも入っていたが、この場面ではフランに奪られたので今回のポイントに。
物間vs爆豪
原作では騎馬戦終盤で決着をつけていましたが、ここでは中盤辺りで起きた展開ということに。煽り続けた彼の精根には逆に清々しい気持ちになります。
負ける訳にはいかねえんだよ!!!
→轟の心の奥が見えたシーン。悠月はその気持ちを一蹴していたが、どうやら訳ありのようで……