幻想と科学が混ざった世界で   作:spare ribs

12 / 20
12話 最終種目

 

「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!ちょっと何でいきなりこんな事されてるの!!?」

 

第二種目の騎馬戦が終わった。お昼頃なので一時間の昼休憩が設けられ、現在は多くの生徒が昼食をとっている。

フランも悠月と一緒に何か食べようと思っており、話を聞いた拳藤が一緒に着いてくることになった。食堂で待ち合わせをしようとメールを送ったところ、いつもなら一緒に食事をすることを渋っている悠月が二つ返事で了承した。珍しいと思いながらも特に疑いもなく、頼んだ料理を持って合流したのだが……

 

会ったと同時に顔を鷲掴みにして圧迫する____いわゆるアイアンクローをかけられていた。

 

「そうか、心当たりはねぇか。だったら思い当たる節が出るまで絞めりゃ問題ねぇよな?」

 

「待って!問題あるって!それは物理的に出ちゃう!!ていうか“吸血鬼”の私がここまで痛がるってどんな技術使ってんの!?」

 

未元物質(ダークマター)”なんて代物を使っている悠月でも筋力は一般男子より幾分かある程度だ。そんな彼でもフランをここまで追い込めるのはある意味才能の無駄遣いだろう。流石に痛がってるフランを見て可哀想に思ったのか拳藤は悠月に尋ねる。

 

「ていうか悠月くんは何でそんなに怒ってるの?」

 

「……怒ってる訳ではねぇが、こいつのお陰で妙に煽ってくる金髪に恨み買われたんだよ」

 

名前ではなく金髪と言われ誰?と拳藤は思ったが、直ぐにあーはっはっは!!と高笑いをする人物が頭の中に浮かび上がる。

 

「あー物間だねそいつ。他とは違った考えを持ってる奴だけどさ、B組の為に頑張ってたところはあったんだ。許してやってくれ」

 

「……言葉を選んだようだが、あれがデフォルトって事かよ」

 

掴んでいた手を離す。あれが普通だとしたら根本から性格を矯正しない限り、自分に対する対応は変わらないだろう。考えるだけでも億劫だと言うように悠月は物間について放棄することにした。

 

「うー、こめかみがジンジンする〜」

 

「まあ、悠月くんの事色々言ってた所があったから……仕方がないよねー」

 

アイアンクローから解放されたフランはこめかみを抑え、まだ響いている痛みに悶える。なはは〜と笑っていた拳藤だったが、料理が冷めちゃうから早く食べよ、と話を変える。今いる食堂は自分たちの他にも多くの生徒が利用している。あまり大声を出して迷惑にならないようにする為のフォローだろう。

 

(もう既に目立っているけどね……)

 

奇声を発してたからか近くの人から視線を受けている。一応体裁というのがあるので周りに謝っている彼女の姿は完全に姉御だろう。

_____ひと騒動あったが元々は昼食の時間である。それぞれが持ってきた料理に手をつける中、話は先程行った騎馬戦の内容になる。

 

「そう言えば二人とも四位以内に入ってたよね。第二種目突破おめでとう」

 

「ありがとう〜。拳藤は残念だったね。五位だったんでしょ?」

 

「ああ。私らは氷結を放つ奴に動けなくされたからなー。そのまま終了の合図まで何も出来ずじまい」

 

それまで寒い思いをしたよ、と恥ずかしそうに話す。ここで何かを思い出したかのように拳藤は悠月の方に向く。

 

「そういえばハチマキ奪ろうとした時、悠月くんのチームは何で抵抗しなかったの?すんなり奪れたからビックリしたよ」

 

「……そんなもんか?」

 

「そりゃあそうさ!突然姿も消えるし、何がなんだかって感じだったよ」

 

「……あそこでフリーになっておけば動きやすくなると思っただけだ」

 

拳藤と悠月の会話からそんな事があったのかとフランは話を聞く。自分たちのチームは激戦を繰り広げていたが、彼はできるだけ回避をする立ち回り。行動が悠月らしいと彼女は思った。

 

「じゃあ、あの紅白くんを閉じ込めた時はどんな感じにハチマキを奪ったの?」

 

「そいつは話せねぇ内容だな」

 

その一言にフランは何か気づいたかのような表情になる。

 

「ふーん。()()()()ねえ。その言い方だと悠月が直接やった訳ではないのかな……」

 

悠月は何か言いたくない事があったら適当にはぐらかす。しかし今回は明らかに否定の言葉を使っていた。不自然なその言い方は誰かの秘密を言えないのなら納得がいく。口止めをされてるのかと思ったが彼の事だ。言わないことを条件に裏で何かやっていたのだろうとフランは予想していた。

 

(変なところで察しが良い奴だ)

 

騎馬戦が終わった後の出来事を振り返る。ステージを後にした悠月だったが、同じ騎馬として組んだ尾白が自分に突っかかってきたのだ。

 

『騎馬戦で組んでたアイツ。約束を守れって君に言ってた。回夜くんは彼の個性が何なのか知ってるんじゃないか?』

 

尾白ともう一人の騎馬の奴は心操の個性で操り人形になっていた。そこで先程の会話に違和感をもったということ。かなり真剣な顔をしている様子から個性の予想がついているからこそ、ヒーローらしからぬ行動だと思っているのだろうか。

 

『彼の問いかけに答えてから記憶がほぼ抜けてた。でも最後の場面で君……俺の手を()()()()()よね?』

 

『……チッ、何処で気づいたかと思ったが、あの時か』

 

“洗脳”は外部からの衝撃を受ければ解除される。あの時の痛みで尾白は元に戻ったという訳だ。それほど強く握っていたのかと自分に対して舌打ちを漏らすが、一応心操との約束があるので彼については何も言わないでおいた。これ以上問いただしても無駄だと悟ったのか尾白は何処かに行ったが、どういう個性か検討がついているようだった。

別に話した訳でも無いしどうでも良いかと頭を切り替え、頼んでいたうどんを啜るが……

 

 

「……今、ケータイ鳴らなかった?」

 

 

ここで悠月のケータイのバイブ音が鳴る。食べてる最中でタイミングが悪いのか話を誤魔化せたのに良かったのか。一体誰かと思えば、無理矢理番号を登録させやがった上鳴からのメールだった。

 

『女子達にチア服を着せようと峰田と一緒に作戦を練ってんだ!証人がいれば成功しやすくなる。お前も手伝ってくれ!!』

 

 

「……誰から?」

 

「何でもねぇ。ただの迷惑メールだ」

 

悠月はケータイの電源を落とし、何も見なかったことにした。

 

 

 

 

 

 

 

昼休憩が終わり、最終種目に進んだ16名がステージに集まる。最後の競技として行われるのは一対一のぶつかり合い。トーナメント形式となっており、組み合わせはくじ引きで決まる。

ミッドナイトの指示で一位の騎馬から順にクジを引く流れだったが、ここで尾白が手を上げる。

 

「俺、辞退します」

 

彼の言葉に周りはざわめく。様々な人に見られ、ヒーローになる為の一歩として活躍出来る機会を彼は放棄した。何もしていない自分が許せないと彼は苦渋の決断をしたのだ。同じような理由でB組の庄田も辞退すると発言する。

二人辞退したとなると五位のチームから繰り上がりが発生する。五位は拳藤チームなのでそこからメンバーが選出されるのだが……

 

「そういう話でくるんなら、最後まで頑張って上位をキープしていた轟チームのほうじゃん?」

 

そうだよな?とチームメンバーにも同意を求める。他の三人も反対する者はいなかった。話題に上がった轟チームの四人は何故?という風に拳藤の顔を見る。

 

「良いのか?折角のチャンスだぞ」

 

「馴れ合いとかじゃなくてさ、あんたらの氷結で動けなくなったんだから私らは負けたも同然。それに……頑張ってた奴が報われるのは当然だろ?」

 

結果的に拳藤チームに譲られた流れで轟チームが繰り上がりとなった。しかし、辞退した尾白と庄田の穴埋めなので最終種目に行けない二人が出てくる。それを理解していた四人だったが、ここで上鳴が頬をかいて言葉をつまらせながら話す。

 

「あ〜俺はいいや。轟に誘われる形だったし、言われたことに従う立場だったからな。他の奴に譲るぜ」

 

「……そうですね。私も辞退しますわ。このチームで要になったのは騎手である轟さんと1000万を奪るきっかけを作った飯田さんだと思いますから」

 

上鳴に釣られるように八百万も譲る。結果的に上鳴と八百万が辞退する形で轟・飯田が繰り上がり、最終種目に出場することになった。

 

「すまねえ。こんな形になっちまって」

 

「気にする事はありませんわ。最善を尽くした結果ですもの」

 

「そうだそうだ。俺らの分まで頑張って優勝目指せよな、二人とも!」

 

譲ってくれた二人に対して轟はお辞儀をし、飯田は涙を流しながら敬礼をする。朝礼台では青春だわ……!と様子を見ていたミッドナイトが変なテンションになっていた。二人生徒が入れ代わったので対戦表の変更がされた後、スクリーンに大きく映し出される。

 

緑谷VS心操

轟VS瀬呂

芦戸VS骨抜

飯田VS発明

 

常闇VSフラン

塩崎VS回夜

切島VS鉄哲

爆豪VS麗日

 

それぞれの試合を相手を見て、各々反応を見せる。

 

(早かったな)

 

横を向けばフランも同じようにこちらを見つめていた。二人は同じAブロック。順調に勝てば二回戦目で戦うことになる。

 

 

『よーしトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間____楽しく遊ぶぞレクリエーション!!』

 

 

レクリエーションと一回戦目の準備の為に一度解散となる。レクリエーションは途中の種目で落ちた人たちの為に作られたアピールする場であるが、最終種目の出場者も参加出来る。この後の試合に対してそれぞれの過ごし方があるだろう。

 

その時彼を見ていれば異変に気づけただろう。最終種目に盛り上がる中で彼は再び頂点を目指せるチャンスを貰った。生徒がスタジアム中央から出る中_______

 

 

 

轟の眼は暗い暗い……闇を映していた。

 

 

 

 

 

 

 

レクリエーションが終わった後、セメントスによって最終ステージが形成される。ここで全15試合が行われ、最終的な順位が決まる。

ルールは相手を場外に落とすか行動不能にする、もしくは降参させることで勝ちとなる。

 

第一試合、緑谷VS心操

 

「振り向いてそのまま場外に歩いていけ」

 

心操の個性“洗脳”により、緑谷はステージの外まで歩いていく。尾白から心操の個性はある程度聞いていたはず。それでも他人の悪口を許せなかったのが不味かった。問いかけに答えたことで緑谷は“洗脳”に嵌ってしまった。

このまま自らの足で場外になるところだったが、指を暴発させることで、“洗脳”を強制的に解除した。かなり強引な解除の仕方だったが、そのまま心操を押し出して勝ちを得た。前もって対策をせずに洗脳にかかった状態から抜け出せたことに驚かされるが、勝負に勝ちたいという彼の執念の表れだったのだろうか。

 

第二試合、瀬呂VS轟

試合開始と同時に瀬呂が轟を“セロハン”で縛り上げ、そのまま引きづる。場外狙いの早業で轟を飛ばそうとしたが……

 

「悪ィな________」

 

最大威力の“冷気”によって会場外からでも視認出来るほどの氷結を生み出した。氷結の目の前にいた瀬呂は全身を氷漬けにされ、行動不能になる。この状態から動けるはずもなく、轟の二回戦進出が決定した。

 

第三試合、芦戸V S骨抜

向かってくる芦戸に対して骨抜は“柔化”でコンクリートを柔らかくして足場を奪う。A組女子の中で身体能力が特に優れている芦戸。

始めは難なく効果範囲外の部分を狙って突き進んでいたが、接近するにつれて回避は難しくなる。ただ走るだけでなく、跳んだり転がったりして避けていたが、あと何メートルかと言った所で足をとられてしまう。その間に骨抜が“柔化”をフルに使い、ステージを底なし沼のように変える。

 

「うわーん!抜けれないよー!!」

 

「くけけ、終わりだな」

 

もがけばその分沈んでしまう拘束に芦戸は対処出来ず、中断させられる形で骨抜の勝利となった。

 

第四試合、飯田V S発目

試合前、サポートアイテムをフル装備していた飯田を巡って一悶着あったものの試合は行われる。

飯田の接近をサポートアイテムで避けた後、性能を解説する時間が訪れた。一部の観客を除いて何故こんな事を聞かされるのだろうと思いながらも、十分間にも及ぶベイビーの紹介をした発明は自らから場外に出て試合を終わった。勝者となった飯田だが、「だーまーしーたーなー!!!」と雄叫びを上げ、発明はフフフフフ……と言って去った。試合前に何かあったのだろうか。

 

 

 

そして第五試合。

 

 

ここまで四回の試合を終えて熱狂が続く中、対戦する二人がステージに入る。

 

「次は常闇とフランちゃんか。一体どういう試合になんだろーな!」

 

ここまでの試合を見てきた上鳴は悠月の前の席で子供のようにはしゃぐ。

 

「そういえぱ回夜。次の試合出んだろ?行かなくていいのか?」

 

「どうせステージの修復作業がある。まだ行かなくても問題ねぇよ」

 

「まるで分かってるかのような言い方ね。体育祭前に見た覚えがあるけど、回夜ちゃんはあの子の個性を知ってるのかしら?」

 

常闇は騎馬戦の時にダークシャドウによる相応の防御を見せている。攻撃を届かせるにはダークシャドウをどのように対応するかが鍵となるだろう。

対するフランも障害物競走・騎馬戦と相手を翻弄させる活躍を見せている。爆発する弾の生成や空中浮遊、そして常人以上の怪力。個性は()()一人一つのはずだが、複数の個性を持っていると言われても納得してしまうだろう。力が未知数のフランの事を知りたいと耳を傾ける者は少なくなかった。

蛙吹の発言に対して悠月は頭をかき、何処か釈然とない様子になる。

 

「俺も実際理解しきれてねぇんだけどよ……あいつは“吸血鬼”であると同時に……“魔法少女”でもあるらしい」

 

「「「………魔法少女!!?」」」

 

 

 

 

 

 

「いけ、ダークシャドウ!」

 

『アイヨ!』

 

先手をとったのは常闇だ。ダークシャドウをフランに向かわせ攻撃を仕掛ける。騎馬戦の際、フランの攻撃でダークシャドウの闇が削れる時があった。対抗される手段がある以上、長期戦になって弱点を知られるのは不味い。相手に気づかれる前に常闇は早めに決着をつけたかった。

 

「甘いよ!」

 

ダークシャドウの手が触れる直前、フランはステップを踏むかのように避ける。身体的な制限がかけられているが、感覚は変わりなく研ぎ澄まされたままだ。元々瞬間的な移動が出来る彼女にとってダークシャドウの攻撃を避けるのは容易いことだった。

 

「くっ、届かないか……!」

 

「そんなんじゃ私を捉えられないよー!」

 

右に左に………時には屈んで回避し続けた後、フランはダークシャドウの懐に飛び込み勢いのままに殴る。普通の少女がやったとは思えない一撃が入り、ダークシャドウは常闇の元まで戻される。

 

(怪力と遠距離攻撃を併せ持つ個性。奥底は未だ見えないが、いずれにしても厳しい状況だ)

 

目の前の敵を注視しながら常闇は考察する。戦闘訓練で味わった回夜との一戦。それと似た感覚を彼はこの身で感じていた。

 

「うーん、やっぱり本人を攻撃しないとダメみたいだね」

 

初めての感触に感心するという抜けた思考をしているが、同時に攻略の糸口を考える。彼自身の近接戦闘のレベルは分からないが、どちらにしてもダークシャドウ(あのモンスター)をどう切り抜けるか課題になるだろう。

 

(もう少し様子を見ようかな)

 

ダークシャドウの防御力はある程度見れている。太陽下でも今のスピードなら何とか対処出来そうだが、そこに常闇が入ると話は別だ。不用意に突っ込んでいけば返り討ちにあう恐れがある。日の下にいれば何もしていなくても体力が削れていくが、まだ仕掛ける必要はないとフランは考えていた。

 

(そこは悠月に似てきたかな……)

 

先読みして常に思考しながら動く立ち回り。そんな彼の行動を思い出し、フランは小さく笑う。彼を近くで見ていたからこそ学んで身につけた力だった。

 

「さあ、今度はこっちから行くよ!」

 

フランは両手に黄色く輝く魔力弾を生み出す。

 

「防げ、ダークシャドウ!」

 

下から迫る形で向かってくる魔力弾に常闇はダークシャドウに防御をとらせる。その直後、爆発が起きると同時に常闇は攻撃の意図に気づく。

 

(煙で視界が……目くらましも兼ねていたのか)

 

地面を巻き込む爆発で煙が起こる。今の魔力弾の目的はこちらの視界を潰すのと奇襲のための布石だろう。何処から来るか分からないのならガードの選択をするしかない。

 

「全方位だ、固めろダークシャドウ!」

 

『アイヨ!』

 

常闇を中心にドーム状に。全方位からの攻撃を防ぐ壁を作った時、右側から衝撃が伝わる。全体に対応した構えのため、その分防御の壁は薄くなる。それでも自分自身にまで伝わる並外れた威力。実際に食らうことを想像すると冷や汗が流れた。

何とか攻撃を耐えた後、ダークシャドウはフランを捕まえようとするがそれよりも早く離脱される。再び見据える状態になった訳だが、常闇の焦りを知ってか知らずかフランは陽気な態度で身体を(ほぐ)していた。

 

「大丈夫かダークシャドウ?」

 

『モウ、食ライタクナイゼ……』

 

無理にダークシャドウで防御を取れば闇が尽きる。消耗を防ぐのも含めて常闇自身が回避に転ずる必要があるだろう。

 

「接近戦はガードされちゃう。今の私の力じゃこじ開けるのは厳しいか」

 

一方のフランも今の攻撃が上手く決まらなかったことに少々悩んでいた。いくら遠距離から攻撃しようとダークシャドウによって防がれるのは予想がつく。攻撃に耐えれる限界があるかもしれないが、今のところ確認できていない。どう攻略しようか彼女も色々と模索していた。

 

「なら、今度は攻め方を変えようか」

 

独り言を呟く。その間にもフランの周りには様々な色の魔力弾が形成されていく。

 

「ここから第2ラウンド、行くよ」

 

 

まるでゲームをするかのようにニヤリと彼女は笑った。

 

 

 

 

 

 

「すげえ。爆発する玉を作る彼女もあれだけどよ、常闇もしっかり対応出来てるな」

 

「ああ。このままスタミナ切れまで耐えるか押し出せれば常闇の勝ちが決まるぜ!」

 

フランが近づこうとするのをダークシャドウが押さえて場外に出そうとする。それに対処して再び攻撃するという展開が何分か続いていた。しかし、ここで攻め方を変えたのかフランは魔力弾を作り、遠距離からの攻撃を混ぜ始める。

ここまで見ている観客の多くは攻め方が変わったが、まだ拮抗した状態が続いていると思っているだろう。しかし、彼の事情を知っている者からしたら全く違う考えだった。

 

「光る弾で攻撃。常闇君にとって相当厳しいよね」

 

「うん。彼女の攻撃には光と爆発が発生する。常闇君自身ができるだけ当たらないような立ち回りをしているけど、それでもダークシャドウで受けに回らなきゃいけない時がある」

 

常闇の弱点を知っている緑谷と麗日は相性の壁があることを既に知っている。闇を力としている個性にとってこれほどキツイ戦いはないだろう。ただ防御をしているだけではジリ貧になる。どうにかして突破口を見つけられるかが肝だった。

 

「………」

 

「ん?どうした回夜。何かあったのか?」

 

白熱した試合が行われている中、近くにいた切島が気づく。第四試合の最中、常闇とフランの試合に注目するのは当然だろう。観客席の構造上、試合を見るとしたら上から見下ろす形になる。誰もが試合がどうなるか下を向いている中、悠月だけは空を見上げていたのだ。切島や他の何人かの人間も視線に釣られるように上を向く。

 

「……雲?」

 

青空の中、一つの雲が太陽の近くを浮かんでいた。

何でもない光景のように見えるだろう。実際に切島たちも何故雲を見るのか不思議に思い、別の何かがあるのではと勘違いするほどだった。

しかし、この試合にとっては大いに関係がある。あの何気ない雲一つで勝負がつく決定的な要因だった。

 

「おい回夜。空に何かあんのか?太陽と雲しかねえぞ」

 

「あ?だろうな。それしかねぇよ」

 

だからこそ……と悠月は間を置いた後、確信をもった口調で言う。

 

 

()()()()()()、この試合」

 

 

それと同時に太陽が雲に隠された。

 

 

 

 

 

 

 

太陽に雲がかかり、スタジアムが一時的に日陰になる。何度目か分からない攻撃を放っていたダークシャドウだったが、一向に当てられないことに苛立ちを見せ始める。おおかたフランを掴んで場外に出そうとしているのだろう。伸縮自在の漆黒の手に捕まらないようフランは躱していたが、何かに気づいたように笑う。

 

「へえ?太陽が隠れてから動きが良くなったね。名前にもあるけど暗い方が力を発揮出来るのかな?」

 

何度か攻防を重ねるにつれて動きが少しずつ鋭くなっていた。常闇の個性“ダークシャドウ”は暗い場所である程力が増し、その分制御が難しくなってくる。太陽が隠れ闇を取り込む余裕が出てきたことで、若干だが動きが素早くなっていた。その事に気づいた彼女だったが、その顔に焦りなど無く繰り出される攻撃を避け続ける。

 

「くそ、これでも捉えられないか!」

 

攻撃を当てられないことに焦ったダークシャドウはここで大振りに腕を奮う。それに対してフランは後ろに大きく下がり、そのまま宙に浮かんだ。

常闇を見下ろせる位置。今まで地上で回避を繰り返していた彼女が空を飛んだことに警戒する。

 

「貴方の個性は大体分かった。影のモンスターを使って中遠距離戦を得意としている。騎馬戦の時や今までの私の攻撃を何度も防いでいたから防御面でも優秀だね」

 

『ハッ、アタリマエダ!』

 

答え合わせをするかのように話すフランの言葉にダークシャドウは得意げになるが、反対に常闇の警戒度はさらに上がっていく。

 

「けれどそれは特定の条件下で左右される。例えば太陽の影響がない場所だったら力が増大するとか」

 

手を開閉して何かを確認する。紅い瞳を輝かせ嬉々とした表情を浮かばせながら彼女は言った。

 

 

 

「奇遇だね。()()()()

 

 

 

 

その瞬間、空を埋めるかのような弾幕が作られた。

 

 

 

 

「なにっ!!?」

 

魔力弾は一度ふわりと空に舞い上がった後、まるで流星群のように降り注ぐ。その速度は不規則で高速に動くものもあればゆっくりとしたものまで様々だった。

 

「防げ、ダークシャドウ!!」

 

自身を守るために上空からの脅威に備える。自らが動いて回避する選択もあったが、弾幕の密度とバラバラな回避ルートを導くのは今の常闇には不可能だった。

 

『ウギギギギギギ………!』

 

降り注ぐ弾幕にダークシャドウは苦悶の声を上げる。爆発による光がダークシャドウの体力()を削り続ける。

 

(く……抑えられない!!)

 

超高密度の弾幕を受けて通常よりも数段小さいサイズにまでダークシャドウは縮んでしまっている。身体全体をカバーできず、体勢を崩されたのがきっかけで、そのまま弾幕の雨に晒された。何発かも分からない爆発を受けた常闇は元いた場所から何メートルか飛ばされ、仰向けに倒れる。

 

(いきなり攻撃の密度が変わった。本気ではないと感じていたがこれほどとは……!)

 

全身にかかる痛み。弾幕は止んだようだが、追撃が来ないとは限らない。何とか上半身を起こして周りを見るが……

 

「ぐっ……奴は何処に……!」

 

先程まで飛んでいた彼女。しかし、その姿が見えないことに気づく。

 

 

「これで終わりだよ」

 

 

後ろから死神の声が響く。振り向く前には常闇の身体は宙を舞っていた。上も下も分からずに宙に投げ出される。

_____数秒した後、衝撃が身体を襲う。何とかダークシャドウがクッションになったようで多少の衝撃は軽減した。だが完全というわけではなく、倒れた状態から起き上がれずにいた。平衡感覚が狂い、何処まで飛ばされたか分からず首だけを動かしたが、自分がいる場所を理解した常闇はそのまま脱力した。

 

 

『決まったーー!!!第五試合!そんな細腕でなんちゅー腕力だ!?常闇を投げ飛ばしてスカーレット!二回戦進出だ!!』

 

 

歓声が湧く。

常闇のすぐ後ろには観客席との壁があった。これが意味するのは競技内の白線の外側まで飛ばされて場外に出たということ。実況の台詞も相まって自分が負けたのだと知った。しばらく起き上がらないでいた常闇だが、彼の元にフランが着地する。その表情はどこか不安げだった。

 

「大丈夫?貴方の個性が何とかすると思って投げちゃったけど……」

 

「………ああ、問題ない。気にするな」

 

自身を投げたとは言ったが、ステージ中央付近から壁際まで届かせるには相当の腕力が必要だ。それに常闇は彼女が場外なんてせずとも一撃を加えるといった行動不能にするのは出来たはずだ。それをしなかったのは自分は彼女に手心を加えられたということ。力の差があったからこそ可能な芸当だった。

 

「くそ、完敗だ。光が潜んだ途端、まるで修羅を思わせた。お前も闇を糧にする者だったか」

 

「え?ま、まあ……そんな感じだね」

 

「違うクラスの人間だが対敵した仲だ。この後の試合も頑張ってくれ」

 

「う、うん……頑張るよ」

 

 

独特な言葉遣いにフランは動揺するが何とか答える。常闇はここで限界が来たようで意識を失い、担架ロボで救護室まで運ばれていった。

第五試合はフランの勝ちで終わった。普通ならこのまま次の試合に移るところだが、彼女が放った魔力弾でステージがボコボコに変形していた。他の試合と同様にセメントスによってステージを直す時間が必要になるだろう。

フランも逆の出口からステージを後にする。普通なら試合に勝って喜ぶところだろうが、その心境はあまり晴れたものではなかった。

 

 

(頑張るねぇ……そりゃあ頑張らないと)

 

 

 

次の相手は彼になるだろうから……

 

 

 




アイアンクロー
しっぺ、デコピン、ババチョップの流れを昔やってた記憶があります。あの後って雑巾絞りとか衝撃波とか色々派生があるらしいですね。

尾白・庄田の辞退
悠月「俺もついでに辞退すれば良いんじゃね?」

フラン(無言の圧力)

あ、ダメですかはい。

魔法少女
東方紅魔郷においてフランは吸血鬼にして魔法少女という設定があります。この作品においては“吸血鬼”として個性を通していきますが、魔法少女と言われても……文句はない!

闇を糧にする者
→吸血鬼ですからね。しかし妖怪は月の光で力が左右されるのが多いんで夜の支配者の方が良いかも。



  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。