幻想と科学が混ざった世界で   作:spare ribs

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15話 オリジン

 

“禁忌”カゴメカゴメ_____

 

 

フランが告げたと同時に二人の周りに何重もの檻が作られる。それは緑色の魔力弾が網目のように配置された弾幕だった。

 

「さあ、いくよ!!」

 

交差を繰り返す檻の中にフランは新たに悠月を狙う巨大な魔力弾を放つ。魔力弾は悠月のところまで届く途中、網目状の弾幕に当たり四方八方に拡散していく。直接狙う弾を避けようとすれば掻き乱れた緑色の弾幕が邪魔をするという実に嫌らしい攻撃だった。

 

(こうも不規則じゃ先を読むのも面倒くせぇ。一点に留まって防御しても狙い撃ちにされる)

 

翼を振るって網目状の弾幕を払い除け、自らが通れる空間を作る。“スペルカード”と名付けられたフランの必殺技は相手を倒す力がありながら見ている人間を魅了する美しさがあった。ヒーローとしてヴィランの対処する際には全く必要ないだろうが、今はこの場を盛り上げる要因となっている。

悠月が弾幕を払い除けて回避をしていく間にも緑色の檻が更に増えていく。

 

「付き合うのはここまでだ。吹き飛べ」

 

痺れを切らした悠月は四翼全てを使い、強烈な風を巻き起こした。魔力弾は自壊や他の弾同士でぶつかったりして爆発していく。フランは爆発範囲から逃れる中、同じく高度を下げることで回避した悠月は“未元物質(ダークマター)”を操作する。フランが半ば崩した氷山はやがて水へと変化し、ステージが軽く浸るまでの水量になる。

右腕を上げる。彼の思考に応じて集束をし始め、空を飛ぶ吸血鬼を狙う渦を引き起こす。

 

「弱点を狙ってくるか!」

 

「弱い所は徹底的に突く。当然だろ?」

 

吸血鬼の弱点の一つである流水。フランの場合は完璧に動けなくなる訳ではなく、若干動きが制限されるだけだ。とは言ったものの、流水を食らってしまえばその隙に悠月は一撃で決めにかかるだろう。つまり当たれば実質詰みのようなものだ。

 

「レーヴァテイン!!」

 

炎剣を再度出現させ、薙ぎ払う。圧倒的な熱量で水の渦が一気に蒸発する。水が一気に状態変化をしたことによって水蒸気になり、霧で視界が不明瞭になった。

相手の姿が見えなくなっても悠月の顔に変化はない。目視で確認することが不可能でも他の方法で補うだけの力があるからだ。

 

「魔力弾。20……いや、22か」

 

「やっぱり分かっちゃうよね!!」

 

超高速の魔力弾が悠月を襲う。だが既に魔力弾が来るのが分かっていた悠月は冷静に翼を振るって対処する。その間にフランは高速で接近するが、その姿を見て悠月は翼を羽ばたかせ飛翔し、フランはその後を追いかける。今まで地上で戦っていたのとは違って空中戦が繰り広げられる形となった。

 

『もうこれプロ以上の戦いだろ……』

 

プレゼントマイクが無意識に発した一言。その言葉に対して否定する者は誰もいなかった。炎剣と白翼がぶつかるたびに閃光と爆音が轟く。スタジアム全域を高速で移動しているためか、中継カメラで撮ろうとしても画角の中に収めるのは至難の技だった。

数度の攻防を重ねた後、フランは自身の魔力を更に引き出す。レーヴァテインはこれまで以上の輝きと熱量を持ち、より一層荒々しさを醸し出す。危機感を持った悠月は四翼を使って受け止めようとするが、力に耐えきれず吹き飛ばされた。

 

(重いな。上を取られたのもあったが、やっぱ受け止められねぇか)

 

通常、火が燃える条件は可燃物と酸素供給体、そしてある程度の高温が必要だ。“未元物質”を使えば酸素を先に結合させたり、可燃物の性質を変化させたりして燃焼させる条件を無くせるが、フランのレーヴァテインは主に魔力で構築されている。威力を削ぐことは出来ても、完全に消すことは難しい。オマケにフランは“核”を認識出来るのだ。衝突をする度に翼の再構築を繰り返していても弱い部分を突かれれば一気に打開される。

吹き飛ばされた悠月を追いかけてフランは急降下してくる。レーヴァテインの剣先を前方に向けた刺突の構えだ。

 

「わりぃな。そこはもう()()()()()

 

接近してくるフランに物怖じせず、悠月は手をかざす。あと少しで攻撃が届きかけた瞬間、フランの左腕から突然血が噴き出した。

 

「ぐっ……」

 

急に襲ってきた痛みにフランの顔はゆがむ。気づいた時には何か鋭利な物で斬られたかのように裂傷が作られたのだ。接近していたのを中断し、一度距離をとる。

攻撃を食らったのは丁度、魔力弾を対処しようと翼を振るった位置。考えられるのは翼を振るった際、不可視の斬撃という設置型トラップを仕込んでいた。予測不可能な攻撃をする悠月ならば何かしらの方法で見えない斬撃を潜めることなど造作もないとフランは思った。

 

(そうなってくると少し不味いかな……)

 

試合が始まってから何分か経過している。今のようなトラップが既に仕掛けているかもしれない。見えない攻撃を見つける術は今のフランには無い。だがトラップの事に集中し過ぎると悠月本人からの一撃を受けることになるだろう。

 

「ああもう、しゃらくさい!!」

 

容赦なく繰り出される悠月の追撃を躱しながらレーヴァテインを一旦消し、半ばやけクソのように右腕を天高くあげる。

 

“禁忌”グランベリートラップ_____

 

スペルを宣言すると共に複数の魔法陣が虚空から現れ、移動しながら多数の魔力弾を生成する。時間が経過していくにつれて弾幕の密は大きくなるが、“カゴメカゴメ”や“禁じられた遊び”と比べて層が薄い。悠月は魔力弾の動きを予測し、回避運動だけでやり過ごす。

 

(俺が仕掛けたのは……全部発動しちまったか)

 

空間全域を襲う無差別な攻撃でスタジアム内に仕掛けていた不可視の斬撃は全て潰されてしまった。牽制もあるだろうが、どうやら彼女の狙いは悠月ではなく、設置していた斬撃のようだった。

 

「見えないトラップ。本当にいやらしい攻撃が好きだね」

 

「そういうオメェは弾幕ごっこか。技名を言ってから攻撃を始めるのは対策してくれって言ってるようなもんだぞ」

 

「必殺技ってカッコイイじゃん?技名を名乗ったからこそ気合が入るんだよ」

 

何故か自慢げなフランに対して悠月は呆れた様子だ。何かと子供っぽい彼女相手ではここでとやかく言っても無駄だろう。

“未元物質”を更に引き出し、十を超える白銀の奔流が放たれる。フランはそれをギリギリで避けるが、奔流は壁に当たる直前に不自然にねじ曲がる。

 

「げっ、誘導付きですか」

 

後ろから再び迫ってくるのを見てフランは腕に魔力を纏わせる。そのまま力の限り振るい、奔流を弾き返した。お返しに自身の周囲に魔法陣を出現させ、そこから紅く輝くレーザーを照射する。悠月もそれに対するように二枚の翼で防ぎ、残りの二翼が小刻みに震え始める。何かを溜め込んでいく仕草を見せた後、翼から幾千もの純白の矢が放たれた。

 

「これは……ちょっと無理かな」

 

全方位を包み込むように向かってくる攻撃。それを見て避けきるのは不可能だと悟る。だがフランはその場から動く様子はない。暴力的な攻撃が彼女を襲う。

 

『ああーと!先程と同じような展開!!避けた様子がなかったが、これは決まったか!?』

 

一点集中で襲いかかった攻撃でスタジアムが閃光で明るく染まる。悠月からしても攻撃が当たったように見えたが、まだ油断はできない。

 

『ありゃ?これは……』

 

()()()()()()?』

 

攻撃の余波が晴れたスタジアムにフランの姿はなかった。観客も彼女がどこに消えたのかあちこち探すが、見つけることができなかった。悠月も同じようにフランの姿を探す。

 

「____そういう感じか」

 

“未元物質”を使って熱探知を行うと悠月の後ろに熱源が見つかる。すぐ振り返るが、そこにあったのは急速にエネルギーを集束している魔法陣だった。

淡い光と共に青い魔力弾が放たれる。幾分か余裕があったため見てから回避することが出来たが、誘導がついているのかそのまま追尾してくる。しかし、多少威力はあるが防げない程ではない。いくらか耐えてる内に魔力弾とは違った熱源が複数確認される。

 

(なんだ、人型じゃない?)

 

魔法陣から出てきていたのは魔力弾ではなく黒く羽ばたく生物、俗に言う蝙蝠(こうもり)だった。数十はいるだろう集団は悠月の視界を覆った後、やがて一つに集約される。

 

「テメェ……」

 

「やっほー。私だよ」

 

そこに現れたのは紅き瞳を輝かせたフランだった。今まで探しても見つからなかった中、突然現れたと言っていいほどの出来事である。

 

「そういえば吸血鬼は蝙蝠や霧に姿形を変えれるなんて伝承があったな。さっき攻撃を避けたのも“吸血鬼”の個性によるものか?」

 

「そんな感じかな〜。ちょっと裏技を使わせてもらったよ」

 

余裕そうな雰囲気を出しているが、内心ヒヤヒヤしていたフランを他所に悠月はどんな原理で避けたのか考察する。

 

「この場の状況を知りながら攻撃してきた。だがこちらからは存在が確認できねぇ。瞬間移動じゃ流石に通った軌跡があるもんだ。だとしたらオメェはこの場所ではない()()()()()()に移動したのか?」

 

「げっ、見ただけで手が分かっちゃうもん?」

 

“秘弾”そして誰もいなくなるか?

本来この技はフランが姿を消している間、誘導弾を限界まで出現させるものだ。ただの回避では幾千の矢をどうにかできなかったあの状況を誰にも干渉されない空間でやり過ごしたのだ。

教えられた訳では無いのにネタが割れそうになってることにフランの顔がひきつる。何か出すごとにどんどん対策されている気がするが、彼女の内心は心踊っていた。体力的には限界に近づいている。それでも目の前の相手と存分に戦えることに満足感を得ていた。

 

「やっぱり戦うのは楽しいね」

 

「戦闘狂かよ。悪いがそのノリに付き合う義理はねぇぞ。降参しても良いくらいだ」

 

「ダーメ。まだ足んないんだから。私の力、全部ぶつける」

 

全身が紅く光る。彼女に宿る魔力が可視化されるほど力が溢れ出していた。それを見て悠月は冷や汗を流す。

 

「オメェ、流石にやりすぎだ!」

 

「問答無用!!」

 

音を置き去りにした特攻。悠月は先読みで何とか自身の前に翼を割り込ませるが、手が傷だらけになりながらもフランは翼を弾き、地面に叩きつける。この間僅か一秒経つか経たないかくらいの時間だ。周りの人間からは凄まじい衝撃が伝わったと思いきや、悠月が地面まで飛ばされたとしか分からなかった。

 

「ふざけやがって……!」

 

無けなしの自動防御が働いて直撃は何とか凌いだ。再び飛翔し、衝撃波を撃つ。通常、衝撃波は人の眼に見えないので回避はかなり難しい。だがフランは空気が裂かれる音を頼りに超高速で移動することで回避していた。今までとは数段違った速さ。赤い魔力が残像のように残る中、悠月は持ち前の先読みでフランの通るであろう空間に翼を伸ばす。

 

「甘いよ!」

 

自分でも制御が難しいほど速く動いているにも関わらず、攻撃を当てに来る彼に驚きながら魔力を解放して翼を逸らす。攻撃に向かわせたことで防御が少し削れた隙をフランは急接近して殴りつける。翼がひび割れるが、まだ足らない。彼女を捕まえようと純白の粒子が囲もうとするが、魔力弾をぶっぱなしながら離脱する。攻撃を受け止めている悠月の顔はあまり芳しくない。それを見たフランは魔力弾の撃ち続けながら次のスペルに入る。

 

「“禁弾”スターボウブレイク!」

 

フランの七色を羽根を模した色とりどりのエネルギー弾が、一度ふわりと浮かんだ後に降り注いでいく。常闇戦でも見せた弾幕の嵐だ。魔力弾によって速く遅くの差が激しく、ほとんど隙間のない弾幕が回避を余計にしづらくしている。

 

「チッ____」

 

翼を引き戻し自身を覆うことで上から来る弾幕を防いでいく。降り注ぐ弾幕は天使を地に堕とそうとする七色の雨となった。ここに来て戦況がフランの方に傾き始める。今まで余裕をもって攻撃を無効にしてきた悠月の顔は何処か焦りが見えてきた。それは先読みが鈍くなっているからである。

先読みでも頭を使う。ここまでの過程で脳を酷使している中、正確に予測していくのは厳しいのだ。時間が経てば経つほどフィールドを有利に作り替えることは出来る。しかしその反面、長期戦が強い力でありながら戦闘が長く続けば反動で苦しむという皮肉があるのだ。悠月にとっては彼女との勝負を早く決めたい一心だった。

 

(くそ、イラつくな……!)

 

防戦一方なこの状況。しばらくは耐えられるだろうが、このままではジリ貧だろう。

 

(悠月の動きが止まった。このまま攻める!)

 

連続のスペル宣言で悠月を追い詰めていくフランは彼の余裕が無くなっているのを感じとる。ここまで攻撃を耐えてきてやっと勝機が見えてきた。高度はフランの方が高い分、上から叩くことができる。悠月は今、四翼を重ね『スターボウブレイク』を凌いでいる。

 

ここで決める。

 

手をかざす。フランは自身の内に宿るもう一つの能力を呼び起こす。ありとあらゆるものを壊す破壊の力。元々フランはこの“破壊の目”という力を忌み嫌っていた。壊すという選択肢しか作らず、マトモな日々を過ごせなかった原因であるこの力が。ただただ辛い日々が続く中、ずっとこのままなのかなと半ば諦めていた時に出会ったのが悠月だった。

思い返すとあまり良いとは言えない出会いだった。もしかしたら『あいつ』が導いてきたという可能性もあるが、もう少しマシにならなかったものか。

 

それでも……この“破壊の目”があったからこそ彼に_______

 

手のひらに紅く輝く物が現れる。“目”と呼ばれるこれは潰してしまえば対象を破壊することができる。壊すことしかできないこの力が今では勝利への一手となるかもしれない。

成長した私を見てほしい。後ろを追いかけていた貴方の隣に行きたい。そんな思いで生きてきた。

 

 

だからここで示す。

 

 

 

 

貴方も一人じゃないんだよって______

 

 

 

 

 

「きゅっとしてドカーン」

 

 

 

右手を握りしめる。その瞬間、純白の翼が破壊された。

神々しさを放っていた翼は消え、空間が正常な色を取り戻す。身体の一部のように扱っていたためか、宙に浮かんでいた悠月はバランスを崩したかのように落ちていった。対象にしたのは二対の翼。あくまで“未元物質”で創られたものであるため新たに再構築は可能だが、スターボウブレイクはまだ続いている。弾幕が悠月に届くのが先だ。

攻撃が過剰だと思ってしまうだろう。だけどフランは信じる。私の知ってる彼はこの危機も乗り越えるって。あの状況でもどうにかする力があると。どんな状況にも対応する為に身体に力を入れるが、何かに気づく。

 

 

 

空間指定………

 

 

 

 

効果範囲拡張………

 

 

 

 

 

解析________

 

 

 

 

 

________掌握完了

 

 

 

聞き取れるかどうかの声量だがそんな言葉が耳に入った。その瞬間、常識が変わった。“スターボウブレイク”による弾幕は全て()()()()()()()

 

「ッ!!?」

 

フランによって地に降るはずの魔力弾は今度はフランを襲う弾幕となる。それだけではない。ステージ上が細かく震えている。ここまでの試合で崩れていた瓦礫も地から離れ堕ちていく。

 

『おいおいマジか!?ステージにあるものが全部()()()()()()()()!!一体どういう事だよ!?』

 

(いや……違う)

 

プレゼントマイクだけでなく見ている誰もが超常現象に驚愕している中、相澤は事の異常さに気づいていた。フランが自身の攻撃と瓦礫を避けるのに必死な中に隠された秘密を。

 

(動いているから分かりにくいが、あんな逆さな状態であれば普通、髪や服の弛みは重力に引かれて垂れ下がっているはずだ。だが今は引っ張られているかのように上に逆立っている。まるであの場所だけ()()()()()()()()()()()()()()()()()……)

 

この世界の物理法則では有り得ない現象。どのような原理であの事態が引き起こされているのか全く分からない。ただ一つ分かるのはあの空間は既に自分たちが知っている場所じゃないということだ。

 

(回夜が……いや、あの二人がヒーローを目指してくれて本当に良かったと思うよ)

 

もしヴィランとなって暴れ回った途端、甚大な被害が出ることは間違いないのだから。

 

 

 

 

 

✳︎

 

 

 

 

 

痛い……痛い……痛い……

 

 

 

 

 

 

身体だけでなく心までも崩れ落ちてしまいそうだ。

 

 

 

 

 

 

気づけば周りには誰もいなくて

 

 

 

 

 

 

暗い闇が広がっていて

 

 

 

 

 

 

自分という存在が消えてしまいそうで

 

 

 

 

 

 

 

ああ、でも………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

消えた方が良いのかもしれないな______

 

 

 

 

 

✳︎

 

 

 

 

ステージ内を染めるかのように粒子がばら撒かれる。会場を純白で埋め尽くすほどだ。それは徐々に集まり何かを形作る。固まりは増えて結合を繰り返し、いつしかそれは翼と化した。

その中心には一人の青年がいた。異質なところといえば、背中に()()()()を生やしているのと風景を写さない濁った瞳だった。

 

「なるほど。制御された“破壊の目”はこういう風に壊れるのか。どんなものにも必ず目と呼ばれる所がある。それは“未元物質”でも同じことだが、的確に壊してくれたおかげで何となく存在を感知できた」

 

淡々と、まるで機械のように喋る。個性は基本一人一つ。親の片方、もしくは複合型として個性を持つ。しかし、フランは世にも珍しい二つの個性持ちだった。では彼女がもっている個性は何なのか。一つは周りにも知られている“吸血鬼”。そしてもう一つが“破壊の目”というものである。

全てのものに存在しているという“目”を彼女は認識し、その部分を突ける。試合の序盤で障壁が最も脆い部分を突く技を見せたが、破壊の目の最も恐ろしいところは()()()()()()()()()()()ことだ。対象にした“目”の部分を自分の手のひらに移動することができ、そして握り潰す。そうすることで対象を破壊する攻撃性が極めて高い個性なのだ。

 

「“目”を破壊されるのは仕方がない。なら形成する際に本質を変えた“目”となる部分を複数創ってしまえば良い。……いや、複数作ったところで一気に壊されちゃあ意味がねぇ。難儀なものだな」

 

これが殺し合いならば悠月の負けはとうに決まっている。だがこれは殺し御法度の試合形式だ。悠月が持つ“目”を壊すのは相手を殺す行為なので当然禁止される。使うとしても“未元物質”での攻撃や防壁を突破する時くらいだろう。“破壊の目”の対象が自分自身でなければ勝機は残っている。

ステージに着地して地から見上げる。それと同時に“未元物質”の翼が泡沫のように消えていく。

 

(とは言ったが流石に無理を重ねた。翼の維持も辛ぇところだ)

 

フランの攻撃を凌いだ悠月だったが、ここにきて限界を迎えつつあった。純白が消滅していくことでステージの空間も常識を取り戻していく。力場が元に戻りフランも逆さまの状態から体勢を立て直して地面へと降りる。今の悠月は隙だらけだが攻撃をしない。否、彼女も体力を消耗しており、できないのだ。

 

『アメージングな展開を見せてきたこの試合!!ここにきて両者とも動きが止まったぞ!!?』

 

『回夜もスカーレットも己の全力を出し切った結果だろう。この後はどちらが先に一撃を決めるかになってくる』

 

会場の全員が固唾を飲んで見守る。最早学生レベルでないこの勝負でどちらが勝つのかに釘付けとなっているのだ。

膝をついていたフランは立ち上がり、そして駆け出す。最初に比べたら幾分か遅いが、それでも十分な速さだ。それを見た悠月は“未元物質”で翼を一枚構成して構える。一発、二発……思いのままに殴りつけているように見えるが、最も弱点と言える核を重点的に狙う。

 

「そこおぉ!!」

 

核を突かれ翼がガラスのように壊れる。これで二人の間を遮るものが無くなった。フランは悠月目掛けて突っ込むが………彼女の腹に拳がねじ込まれる。

 

「っ……ガハッ!!」

 

身体に内包していた空気が吐き出される。強靭な身体をもつフランには上辺だけの攻撃は通用しないが、内出血がおきている可能性が高かった。すぐに自己再生が始まるが、そんな事を気にせずフランは魔力弾を放とうとする。しかし、それよりも前に悠月は魔力弾を弾き、彼女の腕を捻じる。違う方向に腕をやられたフランは苦悶の声を上げ、そのまま倒された。

 

「……忘れてた。悠月ってそういう事も出来るんだっけ」

 

「できねぇなんて事言ってねぇからな。これで終わりだ」

 

“未元物質”による自動防御にも限界はある。ならば相手の攻撃を受けるのではなく、相手の動きを封じる策を用意するしかない。そこで悠月は力で抑えるのではなく、固め技を使った。

 

「抜けれない……」

 

「その状態から出るのは不可能だ。無理に力を込めれば腕がイカれるぞ」

 

いくら吸血鬼の力を持っていても人体の構造はそれほど変化はない。先程の攻撃も身体に触れた際に臓器を含んだ内側に振動で直接ダメージを与えた。この状況も無理矢理抜け出そうとすれば自身を痛めることになる。

押さえつけてる時も噛みつかれたり握りつぶされないように自身の腕や足に“未元物質”を纏わせてある。加減を間違えれば自身も危険に陥るが、対策は済んだ。このまま動けずにいればフランは行動不能の扱いを受け、勝負は決まる。

 

「確かに、無理に動けば腕が犠牲になるね」

 

「だったら降参しとけ。そしたら俺も楽に終われる」

 

「ははっ、悠月らしい……でもね、私にも意地ってものがあるんだよ」

 

「……どういう事だ?」

 

彼女の言葉に疑問を持つ。その意図に気づく前にフランは身体に力を入れる。

その瞬間、バキッ______と耳に残る嫌な音が鳴った。

 

「な……!?」

 

「ッ!……これなら……いける!!」

 

腕を犠牲にしたのだ。いくら彼女でも骨が折れたりしたら凄まじい痛みに襲われるはず。それを承知の上で自ら痛みを受ける選択をしたのだ。腕を折るという覚悟は計りしれるものではない。

 

「テメェ、正気か!?」

 

「これが……私の意地だ!!」

 

まさか腕を折るとは思っていなかった悠月はその後に対する行動が遅れる。その間にフランは歯を食いしばりながら拘束を抜け出した。“未元物質”をかき集め、フランを吹き飛ばす風を作ろうとするが、ほぼ密着状態の距離ではフランの方が手が速い。行動する前にこの先の結果が読めてしまった。

フランの手が身体が届く直前、二人の顔は真近に迫る。悠月はそんな彼女を見て呆けた表情になる。

 

(なんでおめぇはそんな()()()()()())

 

痛みによる辛そうな顔でも今の状況に対する必死な顔ではなく、彼女は笑っていた。この上なく無邪気な笑みだったのだ。悠月に身体に抱きつく形となり、そのまま押し倒す。

 

 

 

 

 

そして彼女は顔を近づけて___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガブッと音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 

 

悠月の首元にフランが噛み付いたのだ。無事な右腕と足を使って絶対に離さないという風に抱きつき、血を吸い始める。

“吸血鬼”の個性により、他人の血液を摂取することで食事の代わりになるだけでなく、力の増強や治癒力が上がる。相性が良い場合だと割合が更に上がるらしい。

 

(まずい、こいつの狙いは……!)

 

能力の上昇も十分脅威となるのだが、ここで第一に危惧すべきことは___

 

「テメェ、このまま()()()()()が狙いか……!」

 

「んんんんんんん!!!」

 

引き剥がそうと思いっきり力を入れても、抱きついた状態から動く様子はない。当然だが、今の拘束から抜け出すことは不可能。飲み込めていない血は首とフランの口から垂れて下に滴り落ちていく。このまま悠月が気絶するまで血を吸い続けていくようだ。

ああ、まずい。吸血鬼に血を吸われる際の伝承は同じなのか、快楽的な麻酔がかけられる。しかもここまでの密着状態だ。汗なのかこの状態なのか分からないが、いつも以上に彼女の甘い匂いが悠月の脳を(おか)していく。このままだと……

 

堕ちる___

 

個性の使い過ぎも余計にあり最悪な脳内環境。それでも気力で意識を保ち、打破策を割り出していく。

吸血鬼が苦手なものは太陽光・豆・十字架・流水・ニンニク…etc。前二つはフランに確実なダメージを与えられるが、今は加減が効かない。殺しご法度であるし、自身を巻き込む可能性がある。とても良い方法とは言えない。後ろ三つは似たものを創るのは簡単だが、あくまで怯ませたり動きが鈍くなるだけである。物語によって耐性が有る、無いは違うので差異はあるのだろう。よって状況は打破できない。

 

(やべぇ……意識が……)

 

身体に力が入らなくなってきた。ここまでの戦闘で意識が朦朧(もうろう)になってきている。視界の大半を占めるフランの金色の髪。顔は見えないが、血を飲もうと必死になっているだろう。

 

(こいつとは最初、ろくな出会いをしてなかったかな)

 

この状況で昔の記憶を思い出し、何処か感傷的になる。二人はお互いに周りとの付き合いが苦手で危ういという共通点があった。だからこそ波長が合うところがあったんだろう。

最後の力で悠月は手を伸ばし、フランの頭に手を置く。見るだけで柔らかそうな髪は程よい感触を与え、妙に手に馴染んだ。

 

 

俺はこいつと会ったことで___

 

 

 

 

込めていた力を抜き、悠月は完全に地に身体を預けた。

 

 

 

 




待ってた人はお久しぶりです。何となく読んでくれた方はありがとうございます。不定期更新の名に恥じない間の空いた投稿です。

フランVS悠月の試合の大部分が終わりました。彼女の弾幕についてですが、効果範囲が存在し、観客席まで届かないように設定……になっていると思ってください。正直飛ばしすぎた感じがするので(焦り)

また個性を二つ持ってる件について、この作品では稀にあるという認識で読んでいただけたら幸いです。

この作品について何かありましたら感想欄にてお願いします。マイナス面でなければ活力になると思いますので……


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