幻想と科学が混ざった世界で   作:spare ribs

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17話 仕舞い

準々決勝の試合が全て終わり、現在は第三試合で崩壊してしまったステージを直している最中。次の試合まで少し余裕があるということで緑谷の発言をきっかけに悠月のお見舞いへ行くことになった。

 

「なあ緑谷。ここまで来ちまって言うのもあれだが、本当に大丈夫か?」

 

六人は足元がふらついている緑谷のペースに合わせながらリカバリーガールの出張保健所へ歩いている。騎馬戦や轟との試合で緑谷は極端に体力を使っている状態だ。最終的に手術まで行ったが、怪我を治しきれていない部分もあって見た目が少々痛々しい。発言をした上鳴だけでなく皆が心配するのは無理もないだろう。

 

「大丈夫。急いで行くのは厳しいけど、このくらいのスピードだったら問題ないから」

 

「そうか。緑谷がそれで良いなら俺からは何も言わないけどよ……」

 

「無理だけはしないでね。いざとなったら私の個性で浮かばせるから!」

 

「うん、ありがとう」

 

自分を気遣ってくれるクラスメイトに緑谷は感謝を伝える。その後は体育祭の競技や普段の生活等たわいも無い話をしているとあっという間に目的地にたどり着いた。失礼しまーす……と麗日が言葉を入れてから保健所の扉を開け、その後に五人がぞろぞろと入る。

 

「まーた来たんかい。今度は一体何をやらかしたんだい?」

 

六人というそれなりの人数が入ってきたことに何事かと目を向けるリカバリーガールだったが、緑谷の姿を見て呆れた顔になる。

 

「あ、いや!今回は怪我とかしたんじゃなくて……先程試合があったクラスメイトのお見舞いに来たんです」

 

「全く……大怪我したんだから安静にして欲しいんだけどねえ」

 

教え子だからって言う事聞かないところは似なくて良いのに、とリカバリーガールは続けて言う。緑谷の間柄は知らないが、もう少し落ち着きを持って行動して欲しいと彼女は思うのだった。

 

「仕方ない。奥のベッドで寝ているさね。用が済んだらさっさと戻って試合を見てきなさい」

 

「は、はい!ありがとうございます!」

 

「病室では静かに!」

 

「す、すいません……」

 

大きい声を出してリカバリーガールに怒られながらもお見舞いの許可を貰う。診療スペース前のカーテンを開けると部屋の奥にもカーテンで区切られている場所がある。ベッドで寝ている様子を隠しているが、きっとあそこに悠月がいるのだろう。六人は仕切りの前まで静かに向かう。

 

「緑谷だけどお見舞いに来たんだ。カーテン開けても大丈夫かな?」

 

一応の礼儀でカーテンを開ける前に悠月に呼びかける。ここに来てからあまり声を潜めていた訳ではないので、起きていれば自分たちが来ているのは分かっているはずだ。しかし、呼びかけたは良いものの彼から返答がくることは無かった。

 

「……寝てるのかな?」

 

「どうだろう。様子だけでも見ようかな」

 

一瞬どうしようかと緑谷は悩んだが、一目だけでも見ようと思いカーテンを少しだけ開けた。

 

「ッッ!!?」

 

「……デクくん?」

 

中の様子を覗いた緑谷だが、何故か物凄いスピードでカーテンを戻す。何があったのかと麗日は緑谷を見るが、顔が赤く染まり目が限界まで見開かれていた。その表情はまるで見てはいけない物を目にしたかのようだった。

 

「何があったの?」

 

「僕には……ていうか()()()()()()()ちょっと刺激が強すぎた」

 

鼻を抑えて耐えるように呟く。残った五人は緑谷の不自然な行動に(いぶか)しげになる。男子はダメだと言う彼の言葉。カーテンの先には悠月が寝ているだけのはずだが、それにしては緑谷の言っている事はおかしい。

 

「一体どうしたんだろう」

 

「ケロ。男子が不味いのなら私達は問題ないのかしら?」

 

「そうだと思うけど……ちょっと見てみようか」

 

結局、何を見たのか緑谷に聞けないまま女子である麗日と蛙吹がカーテンの先を覗くことになった。この先には一体どのような光景が待ち受けているのだろうか。二人は恐る恐るカーテンに手をかけると……

 

 

 

「うへへ……えへへへ……♪」

 

 

 

そこには掛け布団を抱き枕のように抱え、幸せそうに眠っている金髪の少女が()()。時折掛け布団に身体を擦りつけ、頬が緩みっぱなしになっている様子は同性が見ても自然と顔が赤くなる光景だった。

 

「これは……ちょっと不味いわね」

 

「ちょ、ちょっと不測の事態だから男子は一回出ようか!特に峰田くんは最優先で!」

 

せめてもの救いは先頭にいた緑谷と女子である麗日と蛙吹の三人しか今の彼女を見ていないことだろう。相応の正義感を持つ常闇やチャラいがヘタレである上鳴は一万歩くらいギリギリ譲るならまだしも、A組で危険物認定されている峰田が今の彼女を見てどのような奇行に走るか分かったものでは無い。

 

「お、おい!何があったんだ?回夜はどんな状況なんだよ!」

 

「オイラは名指しかよ!でも感じるぞ……このカーテンの先にはオイラを受け入れてくれる理想郷が待っているって____!」

 

「そんなの無いから!さっさと出てって!!」

 

「俺は空気みたいな扱いになってないか……?」

 

麗日がグイグイと背中を押して男性陣を保健所から追い出す。異性が見るには色々と刺激が強すぎる。彼女の尊厳を守るためには……というか誰かに見られた時点で無くなっているようなものだが、これ以上傷つける訳にはいかなかった。一人様子を見守っていた蛙吹だったが、寝ている少女を見てある事を思い出す。

 

(彼女は確か回夜ちゃんと戦っていた子だわ。保健所にいるのは分かるけど、だとしたら彼は一体何処にいるのかしら?)

 

彼女のことで気を取られていたが、本来会う予定だった悠月の姿を見てないのだ。奥から二番目のベットに寝ていたのは彼女一人だけだ。他のベッドも一応確認するが、誰も使っている様子はなかった。

 

うーん、何かあったの……?

 

今の騒ぎで目が覚めたのだろうか。ベッドの上でモゾモゾと動きながら金髪の少女、フランドールは身体を起こす。未だ夢と現実の境目をさまよっているのか欠伸をしながら寝ぼけた瞳で周囲を見渡す。その際に麗日と蛙吹と目が合うのだが……

 

「……ッッ!!?」

 

一瞬で覚醒したかのようにフランは目を見開いてベットの端に寄る。突然動いたからか麗日と蛙吹も同じようにビクッ!と身体を震わせた。

 

「あの……これは……その……」

 

自分が寝ている姿を見られたのが恥ずかしかったのか身体を縮こませ、掛け布団で目元まで隠す。悠月がいると思っていた麗日たちと寝ている様子を見られたフラン。両者とも予想していない展開だ。三人の間に微妙な空気が漂う。

 

「ご、ごめんね。覗くつもりは無かったんだけど……私達、回夜くんのお見舞いに来たんだ」

 

優しく、年下の子に話しかけるように麗日は言うが、フランの身体は細かく震え今にも泣きそうな顔になっていく。

 

「貴方回夜くんの対戦相手だった子だよね?彼が何処に行ったか____」

 

「ち、違うの!!」

 

遮るように声を上げるフラン。その結果、麗日の言葉は途中で終わる形となる。

 

「え?」

 

「これはちょっと魔が差しただけで……本当は私の意思じゃないの!!」

 

小動物のように怯えていたかと思えば何故か慌てたように顔を真っ赤にする。熱でも出したのかと二人は心配するが、何でもないよ!とフランは平静さを装う。しかし、その慌てぶりからまるで動揺を隠せていなかった。

 

「これは生意気なアイツが考えたことだから私自身の責任じゃないし。でもあれはもう一人の自分ってやつだから結局私の考えってやつで……私も実際容認しちゃった所があるし。いやでも最初はやっぱり止めようって否定してたからギリギリセーフじゃない?しょうがないじゃん。普段見れない一面を見ちゃったり、その……凄く暖かかったから一緒に寝ちゃうのは最早当然というか……つまり一緒に寝るというのはお互いに体温を分かちあったり安心感を得るといった自然の摂理に従った行動であって____」

 

 

「あの〜ちょっとなんの事だか……」

 

「どうやら私たちの声は届いていないようね」

 

ブツブツと独り言を漏らす様子に二人は困惑する。周りの声が聞こえていないほど自分の世界に入り込んでいるようだ。内容についてはイマイチ読み取れないが、彼女にとって物凄く重要なことなのだろう。

 

「だから私の行動には何も問題視する必要はないということで……ってあれ?」

 

ここまで一人舞台をしていたフランだったが、何かに気づく。

 

「あれ、悠月は?私が寝る前まで隣に……」

 

「「()()?」」

 

不自然に止まった言葉に二人は疑問に思う。途中まで何か言いかけたフランだったが、あわあわと口を震わせて再び赤くなる。どうやらその先の言葉が言えないようで顔を伏せて口を固く閉じてしまった。

 

ど、どうしよう梅雨ちゃん。この子急に黙っちゃったよ。いきなり距離詰め寄り過ぎて嫌われちゃったりしてないかな……!

 

ケロ。言い方としては特に問題なかったと思うけど。でも回夜ちゃんがいないのならこの後どうすれば良いのかしら?

 

小声でヒソヒソと話す麗日と蛙吹。フランが言いかけた内容は気になるが、そらよりも目的の人物がいないという問題が生まれたことに二人は悩む。彼は今何処で何をしているのか。怪我を治すために此処には来ているはずなのだが……

 

「静かにしなさいって言ったのに騒がしくして。そんなに元気があるならさっさと出んさい」

 

「リカバリーガール……」

 

この先どうしようかと悩んでいた所に診療スペースで書類整理をしていたリカバリーガールが三人の元までやって来る。

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「それで、ここまで騒がしくした理由はなんだい?」

 

自分たちの他に保健所を利用している人間はいないが体裁がある。これ以上騒がしくするのはよろしくないだろう。未だにブツブツと何かを呟いているフランは説明できそうにないので、麗日と蛙吹がここまでの経緯を話す。

 

「成程ねえ。試合があったクラスメイトって言ってたけど、男子の方のお見舞いだったわけかい」

 

話を聞いてようやく事態を把握したのかリカバリーガールは納得したように頷く。

 

「あの子なら少し前にここを出て行ったよ。それまではベッドで寝てたけど、あんだけの休憩でよく行ったもんだ」

 

そういえば彼が寝てたベッドは……とフランの方を見るが、ぶんぶんぶん!と彼女は思いっきり首を横に振る。それを見て何か察したのか、リカバリーガールは追求することは無かった。そのおかげでフランの羞恥心は限界値まで達することになるのだが、それはまた別の話である。

 

「回夜くんが何処に行ったか分かりますか?」

 

「そうだねぇ……観客席に戻ったと勝手に思ってたんだが、その様子だと入れ違いにでもなったのかね。私にも分からないよ」

 

「そうですか……」

 

リカバリーガールも悠月の行き先を知らないようで、麗日は分かりやすく肩を落とす。

 

「お見舞いに行くって伝えてなかったんだから仕方がないわ。もしかしたら既に控え室で待ってるかもしれないし」

 

「そうだね。デクくん達にも早く教えてあげないと」

 

いずれにしてもこれ以上此処にいる理由はない。廊下で男性陣を待たせているので悠月のことを伝えるべきだろうと二人は考えていると、リカバリーガールが何か思い出したかのように話す。

 

「ああ、控え室にいるのは無いだろうねえ」

 

「……どういうことですか?」

 

意味深な発言に?マークを頭に浮かべる三人。

 

「それは次の試合を見れば分かるさ。ほら、片付けの邪魔だ。外の男子らと一緒に早く観客席に戻んなさい」

 

疑問に答えぬままリカバリーガールは退出を促す。試合を見れば分かるということは戦う際に何か問題でもあるのだろうか。いずれにしてもここで言うべきことではないと判断したのかその先の言葉を話そうとしなかった。

 

「ほらあんたも。元気になったんなら早く出んさい」

 

先程まで寝ていたフランにも出てけと言う辺り中々厳しい面があると思うが、あー…と彼女は歯切れ悪く頭をかきながら言う。

 

「えーと、私ちょっと()()()()な状態でして……もう少しここで寝かせて欲しいかな〜なんて」

 

保健室の騒動は終息へと向かうのだが、結局悠月の行方が分からないまま有耶無耶になったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

準決勝第一試合。

ここまでいくつもの白熱した試合を繰り広げていた最終種目も残すところあと三試合だ。勝てば決勝の舞台に立つことが出来る大事な試合。決勝へと進む一人を決めるために轟対飯田の試合が行われる。

開幕と同時に放たれた氷結を飯田は立ち幅跳びで回避し、一気に距離を詰める。そして騎馬戦の時にも見せた大技、レシプロバーストで決めにかかる。制限時間は十秒。轟は最初の右脚はギリギリ避けられたが、その次の左脚の一撃を食らった。頭に重いのが入って動けずにいる間に飯田は場外に投げ飛ばそうと轟のジャージを掴んで走り出すが……

 

「範囲攻撃ばかり見せてたからな。こういう小細工は頭から抜けてたろ」

 

エンジンのマフラー部分を氷で塞ぐことで高速移動を潰した隙に全身を凍らせた。氷結から逃れる術を飯田は持ち合わせていない。そのまま行動不能という形で轟の勝利となった。

 

続く準決勝第二試合。

 

回夜悠月対爆豪勝己の試合が行われる。そのはずなのだが、しばらく経ってもステージには()()()()()()()、周囲はざわめきを見せ始める。

 

『おいおい、もう一人の奴が来ねえぞ?試合があるの忘れてんじゃないのか!?』

 

『アイツのことだ。忘れてる訳では無いと思うが、無駄に待たされるのは合理的じゃないな』

 

実況解説の二人も状況を聞かされていないのでどうするか迷っている感じだ。待つという行為は苛立ちを生む。退屈は人を殺せると言うが、何もしないというのは人間にとって苦痛なのだ。それに加えて何時まで待てば良いのか分からないのも観客の不満を募らせるばかりである。

『それなら俺がこの場を取り仕切るってことでオーケー!?』とテンション高めな様子でプレゼントマイクは勝手に質問コーナーを設け始める。事前に届いていたのだろうお便りを用意しているあたり、なんだかんだこの展開を予想していたのだろうかと相澤は呆れた。退屈にならなきゃ良いかと思い、待っている時間をマイクに任せることにした。

 

『ん?なになに……ここで試合に関する連絡が入ってきたぜー!!』

 

しばらくの間、体育祭や雄英高校の紹介云々を話していたが、途中でスタッフから一枚の用紙を受け取る。試合についてという事で優先順位が高いと汲んだマイクはここまでの話を吹き飛ばすかのように読み始める。

 

『準決勝第試合!回夜対爆豪の試合が行われる予定だったが……()()()()()()()回夜が棄権!?』

 

プレゼントマイクの一声で会場の人間が騒然となる。ここまで勝ち進んできた選手だ。一体どんな試合を見せてくれるのだろうと期待していたところに今の報告。観れないことに落胆するのは当然だろう。

 

『スカーレットとの試合で飛ばしすぎたな。勝つために必要な労力だったと思うが、その後の試合を考えていなかった結果だ』

 

『手厳しい意見だが仕方がねえ!よって爆豪が決勝戦に進出となるぜー!!』

 

準決勝第二試合は爆豪の不戦勝で終わる。力量を比べる間もなく勝負が決まってしまった。対戦相手からすれば決勝戦の前に戦うことなく、体力を温存できることに喜ぶのが普通だろう。

 

「俺と殺り合う前に棄権だぁ?舐めてんのかスカシ野郎……!」

 

しかし爆豪は違った。こめかみに青筋が浮き出て怒りを露わにしている。

 

(俺が目指すのは完封なきまでの勝利だ。誰もが俺が一番だと認めざるを得ないほどの実力をだ!!それなのに……!)

 

両手から細かく爆破が起こる。段々と規模が大きくなっていく様子は彼の怒りの感情を直接表しているように見えた。

 

『爆豪には控え室で待ってもらった方が良かったな!ステージに上がったところ悪いが、もう一回戻ってステイだ!!』

 

「ふざけんじゃねえぞクソが!!!」

 

苛立ちをぶつけるように爆発が響く。そのせいで対戦が無かったのにも関わらずステージが一部壊れたことでセメントスがため息をついたとか何とか。

 

 

 

 

 

 

 

 

雄英高校は元々森に囲まれた小高い山を一部切り開いて造られた場所だ。広大な敷地の中に様々な施設が建てられているが、自然も多く残されている。準決勝で更なる盛り上がりを見せている会場も今は大勢の人の熱気が立ち込めているが、一歩外に出れば緑がお生い茂げ、喧騒とはかけ離れた静寂を感じることが出来る。

しかし、体育祭がある中でこんな所に来る人は中々いない。独りになりたいか秘密の会合がある者が訪れるくらいだろう。そんな静寂が支配する場所に足を踏み入れた人物が一人。

 

(俺が出る予定だった試合は……そろそろ棄権と知らされる頃か)

 

太陽の光は深緑に遮られ、鳥のさえずりだけが響く場所に本来なら準決勝のステージに立っているはずの悠月がいた。近くに誰もいないのを確認した後、悠月はズボンのポケットからケータイを取り出す。そこには不在着信が一件入っていたのだが、電話の名前を見た彼の顔はあまり良い表情を浮かべていなかった。

折り返しの電話をかけるかどうか悩んでいたようだったが、そこでタイミング良くケータイが鳴り出す。

 

「………もしもし」

 

『久しぶりね。元気にしてる?』

 

電話の向こうからは女の声。口調は大人びているが、女性と呼ぶには(いささ)か幼さを残した声色だった。

 

「俺が出れるタイミングを知っててかけたのか」

 

『そうね。(あらかじ)め着信を入れておいて準備が出来たであろう頃にもう一度かける。貴方からだと適当な理由つけて掛けてこなさそうだったし、結果的には都合が良かったでしょ?』

 

()()()()()()()()って訳か」

 

 

紅い悪魔(スカーレットデビル)”。

名前だけ聞けばヴィランの名前だと聞き間違えるであろう二つ名。それが電話している相手のヒーロー名であり、フランと悠月の二人をよく知る人物だった。

 

『それでどうなの?体育祭はちゃんと取り組んでる?』

 

「中継見てりゃあ分かんだろ?こちとらジャジャ馬娘とリアルファイトしてきたんだぞ」

 

『今まで仕事をしていたの。私だって生で試合を見たかったけど、こっちも何かと忙しいのよ。さっきテレビを付けて……貴方が棄権した場面を見たところかしら』

 

録画してるから後で見るわと言って一息つく。状況知ってんじゃねぇかと悠月は内心毒づくが、言ったところで何か良くなる訳では無い。真面目にやっている時は中々食えない奴だ。言い返せばむしろからかわれるのがオチだと思い、何も言わないでおいた。

 

『フランと戦った後に棄権したってことは、あの子には勝ったようね』

 

「ギリギリな。加減したら怒られるし、おめぇだってちゃんと体育祭に取り組めって言っただろ」

 

普段の悠月ならばこんな面倒くさい催しなどに力を入れず、適当に脱落している。その気になれば手を抜いたと悟られないよう誤魔化すことだって可能だ。

では何故最終種目まで進み、挙句の果てには頭痛が酷くなると分かっていながらフランと戦ったのか。彼女の機嫌が悪くなるのは当然だが、悠月は事前にある事を言われていた。『程々に頑張りなさい。そうすれば()()()()()()()』と。

 

『それはどうだったかしら?でもそうね。貴方のせいで盛大なネタバレを食らったわ。私の楽しみを一つ奪っておいて、一体どうしてくれるの?』

 

「知るか。自分から聞いて勝手に把握したんだろうが。それに現在進行形で楽しんでるくせに文句言われる筋合いはねぇよ」

 

『あら、バレてた?』

 

話を聞いてる悠月はイライラしているが、反対に彼女の方は楽しんでいるようだ。最初の威厳を保つような話し方と比べて段々と弾んだ感じになっていく。

 

『そういえばフランはどうしたの?貴方の事だから今は一人でいると思うけど』

 

「あいつはリカバリーガールの所だ。俺が見た時はぐーすか寝てたし、暫くは起きねぇだろうな」

 

『ふーん。何か隠してる気がするけど、まあ良いわ』

 

リカバリーガールに怪我を治癒してもらった後、そのまま保健所のベッドを借りていた悠月だったが、目を覚ますとフランが真横で眠っていた。寝る直前に彼女が隣のベッドにいたのは確認しているので、恐らく自分が寝ている間に移動してきたのだろう。

普段の生活でこんな事をされたならば悠月は容赦なく起こす。しかし体育祭での疲労や保健所という場所を考えると、叩き起こす選択は合理的ではない。あそこまで暴れておいて移動出来るまで回復していたことには驚いたが、彼女をひっぺがした後は何もせずそのまま寝かしておいた。

この事を伝えると話が更に拗れそうになるので伏せておいたのだが、どうやら彼女には何かあったのだと気づいているようだ。

 

「……それよりそっちはどんな状況なんだよ。仕事をしていたって言ったが、体育祭の影響で多少は盛り上がってんのか?」

 

話題を変えるために話を降ったのだが、それを聞いた彼女はやや憂鬱げに話す。

 

『どうもこうもないわよ。体育祭があるからって昼間から騒ぐヴィランがいるのよ?一般人もお祭り騒ぎだから浮かれ気味だし……そういうのは夜にやってくれないかしら?』

 

「昼過ぎに体育祭終わるからそれはねぇだろ」

 

『そんな事分かってる。ただ言ってみただけよ』

 

通常ヴィランが活発に活動するのは昼間より夜の方が多い。周囲の目がある環境と比べて闇にまぎれていた方が彼らは動きやすくなるからだ。だが日本のビックイベントの影響を受けているのか、ヒーローはお祭り騒ぎに応じた対応をしなくてはならないようだ。

 

(つーかお前は室内で悠々と過ごしてんだろ)

 

『良いのよ私は。偉いんだし』

 

「……ナチュラルに心を読むな」

 

思っていたことに対して的確に返答がくる。こういう時の女の勘は面倒臭い。先程の疲れた声が打って変わり、電話の向こうではクスクスと笑みを浮かべていることだろう。

 

「無駄話はこのくらいで良いだろ。本当の用件は何だ?」

 

『あ、そうそう。貴方と話すのは楽しいから忘れてたわ』

 

わざとらしく、まるで今思い出したかのように言う。

 

『職場体験については聞いてるかしら?』

 

「いや、聞いてねぇな」

 

『体育祭が終わったらヒーローの仕事を実際に体験できる活動があるのだけど、各ヒーロー事務所から職場体験の指名が貴方達に来ると思うわ』

 

授業の一環として行われる職場体験。ヒーロー免許を取っていない学生がプロヒーローの元で実際の仕事を短期的に体験する活動だ。長期にわたって活動するインターンとは違って期間は一週間と決められており、仕事を生で感じると同時にプロヒーローと関わりを持つことが出来る言わば機会作りだ。

 

『そこで私は貴方とフランを指名する予定よ』

 

「プロの事情は知らねぇが複数出来んのか」

 

『ええ。ヒーロー事務所は二人まで指名が出来るわ』

 

わざわざ電話で伝えるあたり何か思惑があるはず。考えられる事とすれば……

 

「他の事務所に(なび)かないようにって訳か」

 

『貴方のことだから無いとは思うけど一応ね』

 

ベスト4という成績で終わった悠月だが、今回の試合で自分を引き入れたいというヒーロー事務所が出てくるはずだ。同じく成績としては二回戦敗退で終わったが、実力を見せたフランにもそれなりの数は入ってくるだろう。

 

『それと、戻ってきたらやってもらいたい仕事があるからよろしくね』

 

「そうかい。フランにも職場体験について言っておいた方が良いか?」

 

『そうねぇ……直前にでも話しておけば良いわ。私から言ってもあの子は聞かないと思うから』

 

大人びな口調から一瞬見せた彼女の心情。それは親しい者にしか向けない……手のかかる“妹”を心配する様子だった。悠月は二人の仲を多少知っているので、お互いに難しい性格していると思った。

 

「要件はそれだけか?終わったんなら切るぞ」

 

『まったく……相変わらず人付き合いは悪いけど、相手の気持ちを考えないとあの子に嫌われちゃうわよ』

 

「心配すんな。どんな感情持たれても別に気にしねぇよ。そん時は距離感を考えるだけだ」

 

『そういう結論持たれても困るのだけどねえ……』

 

貴方にも困るものだと頭を抱える様子が目に浮かぶ。勝手な解釈だ。変に気遣われた方がこっちだって困る。

 

それは追々考えていくとするか……

 

「聴き取れなかった。なんて言った?」

 

『何でもないわ。ただの独り言だから』

 

はあ……とため息が一つ電話越しに聞こえる。こちらをからかうので余裕があるのかと思ったが、何だかんだ言って仕事が忙しいのだろうか。疲れてんなら休んだ方が良いと悠月が言うと『あーはいはい。お気遣いありがと』と返される。その声色は悠月に対して半ば呆れた様子だった。

 

『本当、貴方達の周りは話題に尽きないわね』

 

「別にそんな事ねぇと思うが?」

 

『見てる側からすればよく分かるわ。さてと……そろそろ休憩は終わりにしましょうか。そういえば、貴方は準決勝まで行ったのよね?』

 

「あ?まあ、そうだな」

 

『言うのが遅くなったけど、三位入賞おめでとう。貴方にしては良かったと思うわよ』

 

それじゃあね、と言って電話が切れる。突然のことで何も返事をすることができなかったが、まさか純粋に祝われるとは思わなかった。こんな事もあるのかと一人考えたが「貴方にしては」の部分は余計だ。試合も見てないのに勝手なことだと一人呟く。

アイツとの連絡を終え、決勝が終わるまで暇な時間だ。誰もいないこの場所は昼寝をするには絶好の環境。ベッドで寝るのも良いが、こういった自然の中で眠るのも悪くないだろう。悠月は樹木の根元で寝転がる。

 

(そういえば、表彰式とか何時やるんだ?)

 

何気なく浮かんだ疑問。彼女に言われて三位だと思い出したが、出ないと駄目なのか。こんな事なら二回戦目を引き分けで終わり、その後は適当に譲るべきだったかと内心後悔するも、今更かと思い諦めることにした。

ここまで平静を装って話していたが、試合の疲れは少し残っている。“未元物質(ダークマター)”で身体のホルモン調節を行えば眠気を誤魔化せるが、結局はその場しのぎなので後々ツケが回ってくる。

 

「寝るか……」

 

会場からはそこまで離れていないので何かあったらすぐに戻れる。表彰式が始まるであろう時間を予想した悠月は普段の騒がしさでは味わえない心地良さを堪能しながら眠りについた。

 

 

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