幻想と科学が混ざった世界で   作:spare ribs

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誤字報告及び作品へのご意見を送ってくれた方、ありがとうございました。
拙い部分が色々あるというかこの先も絶対出てくると思いますが、ぼちぼち頑張っていきます。



18話 再起

 

例年を超える盛り上がりを見せていた体育祭も残すところあと一試合。決勝の轟対爆豪の戦いで競技が終わろうとしていた。最初の大氷結で勝負が決まったかと思えば爆破で凌ぎ、その後はどちらが勝つか分からない攻防を見せる。終盤で一悶着あったようだが、結果は爆豪が勝利して優勝が決定した。

あれから適当に昼寝をしていた悠月は出るのが面倒という理由で表彰式をサボろうとしたが、クラスメイトからの鬼電の甲斐があって嫌々出ることになった。同じく三位だった飯田は家庭の都合という事で爆豪・轟と一緒に壇上に立ちメダルを貰った。最後の最後でオールマイトだけ掛け声が違ったりと何とも締まらない終わり方だったが、体育祭は無事に終わることが出来た。

 

休日を挟んだ後、いつも通りの生活に戻る。

 

 

「休み明けが雨とか……なーんか嫌な感じだよね〜」

 

いつもと変わらずフランと悠月は一緒に登校しているが、外は生憎(あいにく)の雨。身体が濡れるとか湿気でじめじめする等と雨を嫌う人は少なくない。症状によっては頭痛や喘息等の重い悪影響を受けている者もいるだろう。“吸血鬼”の個性をもつフランは正に悪影響を受けている一人で、流水に触れると動きが鈍くなるデメリットを持っている。完全に動けなくなるような重大なレベルでは無いので、身体が濡れないよう小柄な彼女にしては一回り大きな傘を持って登校しているのだが、誰だって制限の無い環境の方が良いに決まっている。彼女が不機嫌になるのも仕方がないだろう。

 

「それにしても……」

 

顔を最低限動かしてフランは周囲を見る。

 

「ねぇねぇ、あの人。体育祭に出てた……!」

「え、やば。途中で棄権してたけどむっちゃ強かった人じゃん」

「だよね!テレビで見た時も思ったけどすごいカッコイイよね〜」

 

「あー!あのお姉ちゃん見たことあるー!!」

「こら、指で差すのは止めなさいって……あら、確かにあの子達は……」

「ほら!見たことあるでしょ!」

 

傘で見えにくいはずなのに目立つ容姿で目を引くのか。彼女たちの他にも出勤中の会社員から老夫婦まで。やたらとこちらに視線を送る人が多く、中には隠れて写真を撮る者もいた。

 

「なんか恥ずかしいね。こーゆうの」

 

「言わせとけ。テレビで見た人間が目の前にいりゃあ騒ぎたくなんだろ。それにこの前のUSJ襲撃事件で一年は特に注目されてたからな」

 

恥ずかしがりながらも何処か嬉しそうにするフラン。しかし、そんな彼女の気持ちなど全く考えていないといった様子で悠月は淡々と述べる。

 

……少しぐらい浸らせてくれてもいいじゃん

 

口を尖らせて不満げに悠月を見る。周りの評価など気にしない、仮に気づいたとしても勝手にしろって態度をとるのは知っているが、もう少し何か感じるものは無いのか。あと空気を読むというスキルを持って欲しいとフランはため息をついた。

 

「あれ?あの二人って確か……」

 

そんなとき耳に入ってきたのは前方にあるコンビニから出てきた二人の女子学生の声。こちらにばれない様に時々視線を外しているが、しきりに見てくるのでフランたちの話題をしているのだと見受けられる。

 

「あー、体育祭で戦ってた雄英生だね」

「色々凄かったけど最後の場面とか特に印象深かったよね!」

「一緒に登校してるってことは……」

「決まってるでしょ。絶対付き合ってるよあの子たち」

 

並外れた聴覚は少し離れた声さえも聴きとれる。フランには女子学生たちの会話がしっかりと聞こえていた。

 

「……どうかしたか?」

 

「何でもない」

 

急に無口になったので悠月は呼びかけるが、即答ぎみに返される。雨でいつもよりひんやりとした気候の中、一回り大きい傘で隣を歩く彼に見られないようフランは顔を隠した。

 

「そ、そういえば悠月ってヒーロー名は考えた?」

 

「ヒーロー名?」

 

これ以上踏み込まれたくなかったのか話を強引に変える。そのことには無駄に気づいていた悠月だったが、追及する必要もないかと思い質問に答える。

 

「考えてねぇが、何かあんのか?」

 

「今日のヒーロー基礎学でヒーロー名を考える時間があるかもって拳藤が言ってたんだ。A組では話題になってないの?」

 

「うちの担任は合理的な考えで無駄をとことん削る人間だからなぁ。同じ事二回も言いたくねぇから前の日に伝えてなかったと思われる」

 

しかし、事前に言っておいた方が時間をかけずに名前が決まるから良いんじゃないかと思ったが、つまらない授業を受けるよりはマシかと適当に結論付ける。

 

「そっちもそっちで濃い先生なんだね」

 

「その言い方だとB組も訳ありなのか?」

 

まあね、とフランは思い出したことがあったのか苦笑いになる。

 

「今回の体育祭って一位から三位までA組が独占してたじゃん?だから次はB組が勝つぞー!ってすごく張り切ってたんだ」

 

「あぁ。そういう系統の人間か……」

 

話を聞いた悠月は何故か安堵したかのような表情になる。熱苦しいのが苦手な彼にとってブラドキング__本名管赤慈郎(かんせきじろう)みたいな熱血じみた人間よりも合理的な考えの相澤が担任で良かったと思っているのだろう。そんな悠月の考えが読めたフランは分かりやすいな~と小さく笑った。

 

「話を戻すが、おめぇの方はどうなんだ?わざわざ聞いてきたってことは考えてんだろ?ヒーロー名」

 

今度は悠月がヒーロー名について問うが、それに対して待ってましたとばかりにフランはふんっ!と少しふくらみのある胸を張る。

 

「一応ね~。私の案としては“ミラクル魔法少女マジカル☆フランちゃん”で_____」

 

「おいこらちょっと待て」

 

一瞬聞き間違いではないかと疑う言葉が聞こえたので一旦止めにかかる。

 

「え、どうしたの?」

 

「なんか他のところから怒られそうな名前が耳に入ったんだが、幻聴じゃねぇよな?」

 

「なに~聞いてなかったの?じゃあもう一回言うよ?ミラクル魔法sy______」

 

「いや、聞き間違いじゃなかった。二度も言わなくていい」

 

頭痛がするとばかりに頭を抱える。

 

「まさか本当にその名前を使うんじゃねぇだろうな?」

 

「その予定だけど何か悪いところあった?」

 

当の本人は変じゃないと本気で思っているのが余計に面倒くさい。

イレイザーヘッドやリカバリーガールみたいな人たちのように元々へn……特徴的な名前だったり、ばあさn……ヒーロー歴を重ねていく中で名乗るのが難しくなる前駆者がいる。身近な関係の人間が将来恥ずかしくなるであろう名前で活動していたなら距離をとりたいと思うのは必然だろう。

 

「……その名前はぜってー却下されると思うから他のやつ考えといた方が良いぞ」

 

「何で!?渾身の力作なのに!!?」

 

ガーン!と名前が一蹴されたことに傷ついた様子のフランを見て、この先本当に大丈夫なのかと悠月はため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

普段よりだいぶ遅いペースで通学路を歩いていたが、チャイム数分前に何とか学校にたどり着くことが出来た。あれからも遠巻きに様子を伺っていた人間が多かったが、こちらに話しかける者もそれなりにいた。比率としては何故か女子が圧倒的に高かったのだが、話しかけられる度にフランの機嫌が悪くなっていくので悠月としては気が滅入る思いだった。まだ話しはついていないと駄々をこねるフランと半ば強引に別れ、肩の荷が下りたと思いながら教室に入ると体育祭の影響について話しているのかやたらと騒がしかった。

 

「お、やっと来たか。遅えぞ回夜!」

 

「おはよー、ってなんか朝から疲れてない?」

 

悠月が来たのを見てコミュ力高めの上鳴と直前まで会話していたと思われる耳郎が話しかけてくる。

 

「やっぱ体育祭ってすげーな。なんか視線がビシバシ来てるって感じ!」

 

「ほんと、一瞬で有名人みたいな扱いだよね」

 

「回夜はどうだったよ?お前もすごかったのか?」

 

「なんでおめぇらに話さねぇといけねーんだよ」

 

浮かれたテンションに面倒だなぁと思うが、上鳴と耳郎の席は悠月の真後ろと左隣なので逃げ場がない。今からトイレに行く時間も残ってないのでどうやら話に付き合う以外選択肢がないらしい。

 

「こういうのはやっぱ聞きたくね?なあ耳郎?」

 

「うちも気になる。第二種目で落ちたから最終種目まで行った人ってどんな反応だったのかなーって思うんだよね」

 

耳郎も便乗してきたが、第二種目と聞いて悠月は何かを思い出す。

 

「そういえばB組の奴に騎馬崩されてたよな。泥まみれ…いやあれはセメントまみれって言った方が正しいか?」

 

上鳴は?マークを浮かべているが、悠月の言葉の意味が分かった耳郎はどんどん顔が真っ赤になっていく。

 

「なっ……!み、見てたの!?てかそういうのは言わなくてもいいから!!」

 

「何だ、言わない方が良かったか?」

 

「皆に見られたと思うと恥ずかしいんだよ!」

 

悠月からすれば事実を言っただけなので特にからかう気持ちなんて無かったのだが、耳郎にとっては羞恥の出来事のようだった。声も震えており、落ち着かないのか身体もそわそわと動いている。

 

「おやおや耳郎さん。上鳴さんは初耳ですよ?その時の話を詳しく聞こうじゃないか?」

 

「ふんっ!!」

 

「ごぷううぅぅ!?」

 

ニヤニヤと調子に乗った上鳴の頬に容赦なく拳がめり込む。傍から見ても痛そうなのが分かるのでそれだけ彼女を怒らせたということだろう。

 

「痛いです耳郎さん……」

 

「痛くしたの。話を戻すけど回夜って声とか沢山かけられたんじゃない?体育祭三位だったし」

 

この流れで話さないとダメなのか?と悠月は思ったが、鋭い眼光でこちらを睨みつけてくる。とてもご立腹な様子なのでこちらにも被害が出る可能性があると判断し、今朝あったことを二人に話す。

 

「フランちゃんと一緒に登校したことに飽き足らず、周りの女の子にチヤホヤされただと!?」

 

「前半は合ってるが後半は間違えた解釈してるぞ」

 

「意味はほとんど一緒だ!おのれ回夜、裏切りやがって!!」

 

「そもそも協定とか結んでねぇだろ」

 

既にというか最初から呆れているのだが、隣の耳郎を見ても上鳴の言葉に引いているのが分かる。

 

「ちくしょう……話しかけられたって言っても俺は男ばかりだったのに。俺と回夜じゃあ何が違うっていうんだ!」

 

「そういう欲にまみれたところだと思うよ」

 

耳郎が呟いた言葉で心が折れたのか「世の中理不尽だー!!」と涙声で叫びながら机に突っ伏してしまった。

 

「………こいつなんだと思う?」

 

「ただのバカ」

 

学校に来てからも色々疲れた。こうしている今もガヤガヤ騒いでいる教室だったが、担任の相澤が来たと思えば途端に全員席に着き、しん…とした空間に早変わりする。

 

「おはよう。早速で悪いが今日の一限目のヒーロー情報学はちょっと特別なことやるぞ」

 

何てことない連絡をするかと思ったが、特別な事と聞いて多くの生徒は身構える。難しい内容や小テストなどをするのかと予想を立てるが……

 

「コードネーム、ヒーロー名の考案だ」

 

「「「夢ふくらむヤツきたあああ!!!」」」

 

ヒーロー基礎学は朝フランが言っていた通りヒーロー名とニ週間後に行われる職場体験についての内容だった。ヒーローを目指す者として盛り上がるイベントなのか教室は大騒ぎになるが、ドスの利いた声と“抹消”の個性を用いて無理やり黙らせる。事前に知らされていた悠月はある程度流し気味に話を聞いていく。

 

「指名が本格化するのは経験を積み即戦力として判断される2、3年から。つまり今回来た指名は将来性に対する興味に近い」

 

逆に興味が薄れたら一方的にキャンセルなんて場合もあるという。勝手だと思うかもしれないが、戦力にならない者がいても邪魔なだけだ。ただでさえヒーロー飽和社会と呼ばれるこのご時世で人選に慎重になるのは当然だろう。

 

「それで集計の結果がこうなった」

 

黒板に写されたのは指名数を表したグラフ。上から順に轟3614、爆豪3125、回夜2048、常闇343、飯田256、上鳴243、八百万81、切島64、麗日16、瀬呂9と名前と数値が載っていた。

この結果を見て白黒ついたと嘆いたり、逆に指名が来ていたことに喜ぶ人間がいたりと反応が様々だ。とはいってもオファーが来ていないもしくは票が少なった人間からの不満の声が多かったわけだが……

一位と二位の票数が逆転しているのは表彰式での爆豪の暴れっぷりだろう。プロヒーローがビビんなと爆豪は怒りを露わにするが、誰もが納得したかのように頷く。

 

「準決勝を欠場したのに回夜の票がすげえな」

 

「やっぱり二回戦目の試合が決め手だったんじゃない?その前の試合だってほぼ完封してたし妥当だと思うよ」

 

悠月に来た事務所のオファーは2048件。三位という成績を残しているが、轟や爆豪に比べるといくらか劣っていた。恐らく準決勝を棄権したことで評価が少し下がったのだと思われる。次の対戦相手だった爆豪と戦って勝利していれば票が増えていただろうが、体力面の問題でという理由で試合を片付けてしまったのである程度予想はしていた。

 

「これを踏まえ指名の有無に関係なく、お前たちにはいわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

 

途中でミッドナイトが加わり、職場体験の向けてヒーロー名を考えていくことになった。各自にホワイトボードと水性ペンが回されるとどんな名前にしようかと思い思いに考え始める。

 

(そう言えば職場体験のことについてフランに伝えていなかったな)

 

水性ペンを廻している最中に悠月はある約束を思い出す。体育祭の時に言われていたことをすっかり忘れていた。まあどんな反応をするか何となく分かるが、さっさと話しておくことにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ……アイツのところですか?」

 

時間と場所が変わって昼休み。いつも通りフランと一緒に昼食を食べていたが、例の職場体験の話題を出した途端、食事で動いていた手が止まる。

 

「いかにも嫌ですって顔だな」

 

「当たり前だよ。進んで行こうなんて思わないし」

 

返ってきたのは辛辣(しんらつ)な言葉。最初からマイナス評価だが一応頼まれた立場なので悠月は話を続ける。

 

「そんなに行きたくねぇ理由でもあんのか?」

 

「顔なんか見たくないし、それに何より……」

 

ギリギリとフランは苛立ちげに爪を噛みながら予知する。

 

(あの時のことを心底愉快な表情で笑いながらネタにするに決まってる!!)

 

雄英体育祭は全国放送されているのでお茶の間の目に触れてしまったのも痛手なのだが、アイツにだけは見られたくなかった。悠月が言うには試合の時は仕事の最中だったようだが、録画して後で確認するとのこと。ほぼ確実に記憶と記録から消し去りたいあの試合を見ているだろう。結末が分かっているのに何故行かなくてはならないのか。

 

「アイツのところに行ったって何の得もないよ。他にも事務所がある訳だし、悠月だってトップヒーローから指名が来てるでしょ?私と一緒に指名しているところ探して一緒に行こうよ~」

 

駄々を捏ねる子供のように他の事務所に行こうと勧めるフラン。

 

「例えばどんなところから来てるんだ?」

 

「え?上の事務所ってなると……例えばラビットヒーローのミルコとか」

 

「見た覚えは……ねぇな」

 

「じゃあエンデバーとか」

 

「“エンデヴァー”な。つーか段々とランクを上げてくんじゃねぇよ。こういう時は難易度を下げて言ってくのが普通だろ」

 

「ん~だったらスライディン・ゴーとか!」

 

「なんだそのよく分からねぇ名前は?」

 

今の会話で分かるだろうが、フランはそこまでヒーローに詳しい訳ではない。かくいう悠月もそこまで詳しくないのだが、今出てきたヒーローについて答えられたのは上鳴や芦戸、そして何故か興奮気味に解説してきた緑谷から聞いたおかげだった。特にヒーローランキング上位に入るプロヒーローを覚えさせられたので率直に言うと偶々だった。

最後のヒーローは本当に実在するのか不明なのだが……

 

「つーかそれなりの件数があるのにもう見通したのか?今日貰ったっていうのによく見れたな」

 

フランに来た事務所のオファーは1296件である。ベスト8で終わってしまった彼女だが、第一種目での好成績や最終種目の二回戦目でそれなりの試合を繰り広げたのが大きかった。しかし、彼女は晴れや雨といった天候で強さが変化してしまう。戦線で活躍する女性のプロヒーローは需要があるだろうが、事務所の要望に合っていないとか何やらで悠月より票数が減っているのだろう。

 

「え~と、まあ……一応私はB組の中でも票が多かった人間だからどんなところから来ているのか見られた訳でして。ここがスゴいよーっていう事務所を教えてもらったんだ」

 

同級生からすればアドバイスというかお世話感覚で話していたのだと思うが、彼女の立場から見れば複数人から様々な情報が伝えられるもんだから大変だったのだろう。嬉しさ半分気疲れ半分な様子である。

 

「俺も詳しく知らねぇから何とも言えんが、やっぱトップ10に入るような事務所が人気って感じなのか?」

 

「順位が高いだけで実際に行ってみて良いのかどうかは分かんないけどね。個性の相性とか活動する場所とかあるだろうし。悠月は上の方から指名来てないの?」

 

「あぁ……何だっけかな」

 

ダルそうな表情をしながらも悠月は記憶をたどる。資料を見た中ではトップ10のヒーローはエッジショットの名前があったと思い起こす。他にも人気事務所から来ているかもしれないが、見ていないページがあるのでまだ把握しきれていなかった。

 

「つっても俺はアイツに頼まれ事があるからな。良い所からオファーが来ていても選択肢は元からねぇようなもんだ」

 

これが約束もなく行き先を自由に選べるのであればもう少し真面目に考えていただろうが、今の彼には職場体験について微々たるものしか興味がなかった。もし自由だったとしてもそれほど考えずにヒーローランキングの高い事務所か皆のオススメを選んでいた可能性が高かったのだが……

 

「まあいいや。俺は伝言を頼まれただけだし、その後の説得は別の話だ。とりあえずお前には伝えたし問題ねぇだろ。後は勝手に決めといてくれ」

 

一通り伝えたので自分がこれ以上何かする必要はないと思い、職場体験の件は放棄することにした。フランも一旦置いておきたい気持ちは同じなのか「あ、そうだ!」と大きめのリアクションで話題を変える。

 

「聞いてよ!今日のヒーロー基礎学で私が考えたヒーロー名を出したらさ、絶対やめた方が良いって言われて却下されたんだよ!!」

 

「だろうな」

 

「拳藤や他の人たちにも悠月と似た反応されたんだよね。どうしてだろう……」

 

正直分かりきっていたことなので何の新鮮味もなかったが、これでもしフランの案が通っていたら教師と同級生のネーミングセンスも疑うところだった。だが考えてみると雄英高の中では珍しいまともな人間である拳藤一佳がストッパーになるのを考えるといらぬ心配だったかもしれない。

 

「最初のが駄目だったら代案は出たのか?」

 

「まあ色々考えたんだけど、結局“フラン”に落ち着いたかな」

 

「そうかい」

 

名は体を表すということわざがあるが、ヒーロー名は誰もが呼びやすく浸透しやすいものが良いと相澤が話していた。フランという名は親しみがあって呼びやすく、また彼女自身も普段から愛称として呼ばれているので違和感はないだろう。この名前をヒーローネームにしたのは結果的に良かったかもしれない。

 

「そう言う悠月はどうなの?普通は個性に合った名前をつけると思うから……」

 

あのよく分かんない翼を考えると…と何故か名前を当てようと悩んでいたフランだったが、うえぇ~と舌を出して吐きそうな顔になる。

 

「……どうせ天使みてぇな名前が似合わねぇとか思ったんだろ」

 

「あれ?何で分かったの?」

 

心を読んできたのかと彼女は驚くが、少し考えれば誰でも分かるだろう。悠月自身似合わないことに自覚はあるので否定しなかった。

 

「だとしたら名前はどうしたの?」

 

「とりあえず本名で通した。下手に変な名前をつけるよりは後々修正出来るだろうし」

 

「へ~そうなんだ」

 

納得した返事をしているが、同時に探るような眼差しを送ってくる。恐らく「自分だってネーミングセンス無いんじゃないの?」とか「他人のヒーロー名に突っ込める?」と言いたいのだろう。確かに人の事は言えないかもしれないが、少なくてもフラン(こいつ)よりはマシだと湯のみの中に残っていたお茶を飲み干した。

 

 

 

 

 

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