幻想と科学が混ざった世界で   作:spare ribs

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19話 職場体験

 

職場体験当日____

 

雄英高の最寄りの駅にA組の生徒たちが集まる。ここから各々職場体験先の事務所に向かい、一週間実際の現場を体験する。

 

「コスチュームは本来公共の場じゃ着用厳禁な身だ。落としたりするなよ」

 

「はーい!!」

 

「伸ばすな。『はい』だ芦戸」

 

期間中は事務所内か用意されたホテルで寝泊まりするので、皆着替え一式とコスチュームを持っている。ヒーロー科の生徒とはいえ資格もしくはプロヒーローによる許可が無ければ公の場でのコスチュームの着用及び正当防衛以外による個性の使用は認められない。なので事務所に着くまでは支給されたケースに入れてコスチュームを持ち運ぶのだが、遠足気分で浮かれた返事をした芦戸が軽く怒られるなんてくだりが見られた。

 

「くれぐれも体験先に失礼のないように。それじゃ行け」

 

相澤の注意事項を聞いた後、それぞれの体験先に向かう為に移動を開始する。悠月も早々にクラスメイトと別れ、とある人物を探す。

 

「あ、いたいた。こっちだよ~」

 

通勤ラッシュの時間帯で人がそれなりにいる中、フランの呼ぶ声が駅構内に響く。先程まで退屈そうにベンチに座っていた彼女だが、悠月の姿を見ると満開に咲いた花のような笑顔で手を振っていた。

 

「うるせぇ。目立つから大声で呼ぶのは止めろ」

 

「だって人が沢山いるじゃん。声かけないと気づかないでしょ?」

 

何故クラスが違う二人が一緒に行動しているのか。それは職場体験の行き先が同じだからである。A組とB組は集合場所がそれぞれ違っていたのだが、別々で行くよりも一緒に行動した方が何かと都合が良い。クラスでの説明が終わって各自解散をした後、こうして待ち合わせをしていたのだ。

とは言ったものの同年代と比べて幾分か高いフランの声は駅の中でよく響く。今も周りから注目されており、非常に居心地が悪い。ここにいても何の意味がないので二人はこの場から立ち去る。

 

「はあ……なんか気が乗らないな~」

 

「だったら何で()()()()()()()()()?おめぇの奇行のおかげでここ最近寝不足なんだよ」

 

体験先を決める間、フランは何かと悠月の部屋に来ては事務所を何処に決めるべきか延々と悩んでいた。期限ギリギリまで引きずってようやく用紙を提出した後も彼女は部屋に入り浸って「うううぅ……」と後悔したかのように唸っていたのだ。

 

「それはまあ……ちょっと申し訳ないな~と思ってるけど」

 

「ちょっとだけかよ」

 

悠月からすれば自分の部屋にいながらゆっくり出来る時間が無かったのだ。文句を言いたくなるのも当然だろう。

 

「それで?事務所を決めた理由ってのは一体何なんだ?」

 

「まあちょっと提案っていうか色々取引があったというか……ブツを仕入れるために

 

悠月の問いかけに若干渋りながらもフランは答える。

 

「最後の方は聴き取れなかったが、そういや夜に電話してた日があったな。それと関係あんのか?」

 

何気なく言った言葉だが、突然フランは歩みを止める。どうしたのかと彼女の顔を見ると表情は固まり、血の気が引いたように青くなっていた。

 

「え、悠月それって……内容とか聞いてないよね?」

 

「内容?時々大声で話してるのが聞こえたくらいで内容とかほとんど知らねぇよ」

 

何故か必死に詰め寄るフランに疑問を抱きながらも答える。

二人が住んでいるマンションは学生が住むには少々家賃が高い場所を借りている。部屋がある程度広く壁が薄いなんてことは無いが、流石に大声で話していれば隣の部屋にも聞こえる。てっきりクラスメイトと話が盛り上がっているのかと思っていたが、彼女の反応を見る限り何か訳ありなのだろうか。

 

「そ、そっか。うん…聞いてないんだったら良いよ」

 

「聞かれたら困るような事でも話してたのか?」

 

「ぜ、全然!!そういうのじゃないから安心して!」

 

何処か慌てた様子のフラン。何か隠していると思った悠月は(いぶか)しく彼女を見るが、まるでお手本のような笑顔で見つめ返す。

 

「……別に興味ねぇから勝手にすればいいが、あんまり大声で電話すんじゃねーぞ。近所迷惑になるから」

 

「分かった。次から気をつける」

 

暫くの間お互いに目を合わせていたが、時間と体力を使うだけだと悠月が先に折れた。

 

「じゃあ行くぞ。新幹線来るまでそんな時間ねぇからな」

 

「待って待って!その前にお弁当買っとかないと!」

 

もうすぐ出発の時間だというのにフランは一目散に弁当を買いにお店に向かう。その姿に呑気だと思う中、無理矢理テンションを上げている又はヤケクソように見えるのは気のせいだろうか。

 

「ほら悠月!早く来ないと私が勝手に選んじゃうよ!」

 

一向に来ない悠月に気づいてフランは遠くから手を振る。そんなこんなで始まろうとする職場体験。一週間という長くも短くも思える期間で既に厄介事が起こりそうだと悪い予感がする中、不安の残る気持ちで彼女を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

新幹線に乗ること3時間ほど。事務所がある長野県にたどり着く。

ここまで不測の事態は起こらず無事に目的地まで行けるかと思っていたが、改札を抜けた後にとある問題が生じていた。

 

「ここまで来たのは良いが、この後どうやって事務所に行けば良いんだ?」

 

「う〜ん。何も聞かされてないよね?」

 

事務所の最寄り駅に着いたのは良いが、この後の移動手段について何も知らされていなかった。駅から事務所までは距離があり、歩いていくのは少々気が引ける。一応二人は飛ぶことが出来るが、個性の使用許可が下りていない状態で飛んで移動する手段はとれない。天気は快晴なので日傘がマストアイテムのフランにとって太陽が照らす中を歩かせるのも酷だろう。

ここからは自力で来いという流れなのかと愚痴りながら駅を出ると……

 

「……なんかすげぇ目立つ車が停まっている気がするんだが、これは目の錯覚だと思うか?」

 

「多分錯覚なんかじゃないと思うよ」

 

ロータリーを何気なく見るとそこには一風変わったというか明らかに場違いな()()()()()()()()()()()()()()。周りの人間も高級車を珍しがって遠巻きに見ている。あれが体験先からの迎えなのだと察してしまうばかり自分も毒されているのかと悠月は思うが、人目に付くという考えは無いのかと聞きたくなってくる。そんなことを思っている間に二人の姿に気づいたのか車から一人の女性が降りてきた。

 

「お待ちしておりました。スカーレット様、回夜様」

 

二人の前に現れたのは銀色の髪を(なび)かせた一人の女性。一般的な女性にしては身長が高く、宝石のような青い瞳が相まって容姿だけでも目を惹かれる。しかし、それ以上に目を惹く要因になっているのが一般人はまず着ないであろう()()()()()()()()()。メイドに高級車と十人中十人全員が二度見するであろう場所に心底行きたくなかったが、雄英生だと気づかれたのか二人にも既にスポットライトが当たってしまっていた。

 

「久しぶり~咲夜。ていうかいつもと呼び方違くない?」

 

「職場体験先の人間と生徒という名目ですので。最初の挨拶というのは大事なものなのです」

 

「そういうものなの?」

 

「はい、そういうものです。改めてご挨拶を。______お帰りなさいませ、妹様」

 

元から気にしてなかったのか、それとも久しぶりの再会で視界が狭まっているのか。周りの視線を気にした様子は無くフランはヒーロー兼メイドである十六夜咲夜の元に向かう。小さく笑いながら迎えた咲夜はごく自然に彼女の持っていた日傘を代わりに持ち、同時に後部座席のドアを開けて乗りやすいようにする。この一連の動作をさも当たり前にこなせる辺り、相当な修練を重ねているのだろう。開けられた後部座席のドアからフランは車に乗り込む。

 

「ほら行きますよ。そんな所に立っていないで貴方も乗ってください」

 

「……ったく。薄情な奴だな。フランに対する優しさを少しは分けることができねぇのか」

 

「この程度で傷つくようなキャラでは無いでしょう?冗談を言う暇があったら早くしてください」

 

先程と違っていたずらっぽい笑みを浮かべながら車に乗るよう促す。「相変わらず食えねぇ奴だ」と彼女に対して呟いた後、悠月は無駄に広い車内に入った。運転席に戻った咲夜はシートベルトを締め、そのまま車を発進させる。

 

「私たちが来るまでどれくらい待ってた?」

 

「新幹線が到着する時間は分かっていましたから、それほど経っていません」

 

「つーか何でベンツ(これ)で来てんだよ。馬鹿みてぇに目立ってたじゃねーか」

 

「あら、ヒーローを目指すのであれば目立つのは決して悪い事ではないと思いますけど?」

 

運転の為に前方に目を向けながら咲夜は答える。

 

「お二方は体育祭で活躍された身ですが、周りの人からすればテレビに出ていたヒーローの卵という認識だと思います」

 

「確かにその程度だと思うが……それが目立つのと何が関係あんだよ?」

 

「私たちヒーローはヴィランの脅威に立ち向かうと同時に人々の精神的支柱となる存在です。例えばNo.1ヒーローのオールマイトは平和の象徴という肩書きを持っていますが、それは人々に安心を、ヴィランには抑止力としてその役目を担っているのです」

 

「えーと、つまり顔を売ってヒーローとしての自分を知ってもらおうってこと?」

 

「おっしゃる通りです」

 

フランの言葉に咲夜は肯定を示す。

今回の職場体験はプロヒーローの仕事や訓練といった教えを乞うのが主な内容だ。しかしその他にも周りの人々に認知してもらう、そして自分自身もヒーローとしての自覚を持たせるという一環もあるということなのだろう。

 

「____と申しましたが、お二方を迎えに行く以上、妥協は許されないという理由もあります」

 

「おいこら、そっちが本音じゃねーか」

 

よくよく考えればパトロールなんかで印象を持たせることは十分可能だし、目立つと言ってもあれは悪目立ちの間違いだろう。今まで話を聞いていたのが馬鹿らしくなったと悠月は座席に深くもたれ掛かる。

 

「それにしても…妹様がこちらの事務所にお越し頂けて本当に良かったです」

 

「えっと……まあ、そうだね。うん」

 

ヒーローについて色々と考えていたフランだったが、咲夜の言葉に気まずそうに返事する。

 

「直前まで悩まれていたようですし、先日お電話差し上げた甲斐がありましたでしょうか?」

 

「うっ……」

 

「なんだ、フランが言ってた電話の相手ってあんただったのか?」

 

あら聞いていなかったのですか?と咲夜はルームミラー越しにフランを見るが、何故か彼女は指でバツ印を作る。その意図に気づいた咲夜はそうでしたねと微笑ましく思いながら視線を前方に戻した。

 

「ヒーローのお仕事について妹様からご相談を受けましたので、少しばかりアドバイスを送っていたのです」

 

「それにしては電話の件を秘密裏にしていたが、一体どんなこと話してたんだよ」

 

「かなり繊細なお悩みでしたので私からはお答えできませんね。それよりも悠月、先程の呼び方は何ですか?仮にも私は貴方の上司です。“あんた”ではなくちゃんと名前で呼んでください」

 

「あ?フランだって呼び捨てじゃねぇか」

 

「メイドとして仕えている以上、妹様の方が立場が上になります。ですが貴方は()()()()()()()()()()()身でしょう。社会に触れていくのであればもう少し(うやま)いの気持ちを持って下さい」

 

へいへいと面倒くさそうに返事する悠月に対してナイスフォローと言うようにフランは親指を立てる。立場が上の者の言うことを聞くのは従者の務めなのだろうが、なんだかんだ二人との会話を楽しんでいるのは気のせいではないだろう。笑みを漏らすフランと咲夜に機嫌悪そうに窓の外を見る悠月。そんな構図が車の中で作られていた。

 

「_____お二方、間もなく到着します」

 

車を十五分ほど走らせていると目的地にたどり着く。第一印象は紅。全体的に紅色を基調とした建物は事務所というより屋敷と言った方が正しいかもしれない。紅魔館と呼ばれるこの場所がフランと悠月の職場体験先である。

玄関前に数人のメイドが迎える中、車を代わりの者に任せ咲夜は先導する。そのまま彼女に続く形で屋敷に入るが、歩いている途中掃除しているメイドやスーツ姿の従業員とすれ違う。妖精のような羽が生えた者、猫耳と尻尾がある者、中にはゴブリンのような見た目な人物もこの屋敷内にいた。

 

「ここを通る度に思うが、本当にヒーロー事務所か?って疑う光景だよな」

 

「紅魔館はヒーロー活動の以外にも様々な事業に手を出しております。メイドもその一環ですので他の事務所と比べると異色に見えるでしょう」

 

西洋風の屋敷だけでも珍しいのにメイドたちがすれ違う度にお辞儀してくるのだ。初見でこの光景を見れば誰でも驚くだろう。通路には絵画や彫刻品が所々飾られており、屋敷の主の趣向が見える。

 

「こちらになります」

 

紅魔館に入ってから暫く歩き、ようやく目的の部屋と思われる執務室にたどり着く。悠月はいつも通りの調子だったがフランは唾を飲み込み、身を引き締めた状態で後ろに隠れていた。

咲夜が何度かノックをした後、フランと悠月を呼び出した人物がいる部屋に足を踏み入れる。

 

 

「______待っていたわ、二人とも」

 

 

部屋の奥から聞こえたのは威厳がありながら何処か幼さを残した声。豪華なひじ置きに頬杖をつき、不敵な笑みで二人を見つめる女性がいた。

 

「お嬢様。雄英高校より職場体験を希望されたお二方をお連れ致しました」

 

「ええ。話は聞いてるわ。ありがと咲夜」

 

机には書類の束がいくつか積み上がっており、つい先程まで事務作業でもやっていたのだろう。しかし、それ以上に目を引くのは彼女の背から蝙蝠(こうもり)のような漆黒の翼が覗かせていた。

 

「まずはここまでの長旅ご苦労……と言うべきかしら」

 

二人に対して気遣った言葉を言う彼女だが、話し方も含めて悠月には違和感というか気になっていることがあった。

 

「……一応聞いておくが何でそんなカッコつけてんだ?正直言ってあんまり似合ってねぇぞ」

 

「見知った関係でも今は仕事の場よ。貴方もこの場に相応しい振る舞いを見せるべきだわ」

 

ニヤリと笑いながら高圧的な雰囲気で話すが、普段の様子を知っている二人にとって目の前にいる彼女は見栄を張ってふんぞり返っているようにしか見えなかった。

 

……おかしいわね。何か生暖かい視線を感じるんだけど、特に問題なかったわよね咲夜?

 

……はい、いつも通りのお嬢様でございます

 

そうよね、威厳溢れた態度だったわよね!

 

想像していた展開ではないことに不安に思ったのか屋敷の主で()()()()()でもある“レミリア・スカーレット”は小声で咲夜と話す。しかし、彼女の小声は普通に聴きとれる声量だったのでフランと悠月にもばっちり聞こえていた。もうちょっと深く座っていれば良かったかしら?等と的外れな事を言っている時点で彼女の性格が分かってしまうのだが、大人の対応というか彼女の威厳の為にも二人は触れないことにした。

 

「さてと……色々あったと思うけど、とりあえずティータイムにしましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

紅茶を飲みながらゆっくり話がしたいというレミリアの一声で執務室から談話室に移動した悠月たち。無駄に高級そうな座席にフランと悠月、テーブルを挟んでレミリアが座る。メイドである咲夜は命令があった時にいつでも動けるようレミリアのすぐ後ろに(たたず)んでいた。

 

「一人暮らしをするって聞いて不安だったけど、フランはちゃんと家事をしているのかしら?」

 

「一応その辺の事はやってるみてぇだぞ」

 

「へえ?じゃあ言いつけを守っているのね」

 

現在は高校生になってからの私生活についてを話している。雄英に行く際、部屋を借りて暮らす条件として部屋の掃除と洗濯はフラン自らが行う約束をしていた。引っ越す直前まで咲夜から家事を教わっていたのだが、それが続くと思っていなかったのだろう。話を聞いてレミリアは驚いたように目を開く。

 

「これも咲夜の教えが良かったのかしら?」

 

「お褒めに預かり光栄です。ですが私は手本をお見せしただけです。妹様の意欲があってこそ為せた事だと思います」

 

「つっても掃除に関しては大雑把なところがある。もう少しどうにかして欲しいって感じだな」

 

「相変わらず厳しいわね、貴方は」

 

咲夜が淹れた紅茶を飲みながら会話をする姿は貴族の令嬢と思わせるほど気品に溢れている。とても最初に出会った際の幼稚な彼女とは思えなかった。

 

「数日のうちに泣きつくかと思ってたから予想外だわ。意外とやるじゃないフラン」

 

「ソ、ソウネ。お姉サマ」

 

そんなレミリアの言葉にヒクついた笑みで返すフラン。先程から話しているのは主にレミリアと悠月で普段よく喋るはずのフランは全く会話に参加していなかった。彼女の様子を見ると肩身狭そうに縮こまっており、明らかに無理をしているように見える。いかにもこの場から出たいという気持ちがひしひしと伝わってきていた。

 

「雄英っていえばUSJの襲撃事件がニュースで取り上げられていたわね。A組の生徒が巻き込まれたって聞いたけど、悠月がA組だったかしら?」

 

「ああ。授業中に出くわした。警報装置の無力化とかオールマイトが授業の担当だったのを知っていた辺り、あれは計画的な犯行だった」

 

「それは災難ね。やっぱり貴方の周りには厄介事が降りかかってくるのかしら?」

 

是非とも止めてほしいと悠月はため息混じりに言う。本心から言っているところから見て割と気にしている事らしい。レミリアだけでなく後ろに控えていた咲夜もくすくすと笑っている。

 

「そうね……私たちもヴィラン襲撃について聞かされてるけど、どうも開示されていない情報があるみたいなのよねぇ。あの場では一体何が起きたのかしら?」

 

レミリアの問いに悠月は一瞬考え込む。一応雄英からは情報を漏らさないよう一定の規制が掛かっている。混乱を招かないようにする処置なのだが、まあ話しても良いだろうと悠月は結論づけた。

 

「ヴィランの大部分はチンピラ同然の連中だった。あの時戦える人間は見ただけで三人ってところか」

 

「三人だけ?オールマイトに対抗するには少し戦力不足じゃないかしら?」

 

「最初は俺もそう思っていた。だが三人の内の一人、ていうかアレは“一体”って数えた方が良いかもしれねぇな」

 

「……どうも訳ありみたいね」

 

「ああ。向こうの切り札と思われる“脳無”ってやつ。あれは色々きな臭ぇ感じだ」

 

紅茶と一緒に出された菓子を食べる。当時のことを思い出したのか悠月は何処か不機嫌な様子だ。

 

「なるほどねぇ。やっぱり雄英も警察も隠し事はあるか……話を続けても暗くなるだけだし、この辺で止めておこうかしら」

 

難儀なものだと思いながらレミリアは口を潤すために紅茶を飲む。悠月が話をぼかしたのを考慮してUSJの件は一旦置いておくことにした。

 

「雄英の話題って言ったら後は……」

 

首をかしげてレミリアは何があったのか思い出そうとする。

 

「______あ、そうだ。体育祭があったわね」

 

そう彼女が言った瞬間、ビクッ!と金髪の少女が反応する。だがそれに気づいていない…いや気づかないふりをしてレミリアは話を進める。

 

「今年は例年以上に視聴率が凄かったようね」

 

「先程話題に挙がっていたUSJ襲撃事件が理由かと思います。例年は三年の視聴率が高いですが、今年はヴィランの襲撃を切り抜けた一年が注目株だったようです」

 

さすがは咲夜ね、と細かな事情まで把握していたメイドにレミリアは称賛を送る。

 

「体育祭は初めて見たけど中々面白かったわね。一年の部で優勝した子……名前は何だったかしら?」

 

「爆豪勝己です」

 

「そうそう、そんな名前だったわね。あれは将来が楽しみだわ」

 

体育祭の表彰式に拘束された状態で出てくるのは爆豪が初めてだろう。愉快なものを見たと言うようにレミリアは笑っている。

 

「体育祭っていうと他には……そういえば悠月、この際だから言うけど貴方準決勝サボったわね」

 

体育祭について話題を探していたレミリアだったが、思い出した途端呆れたように悠月を見る。

 

「順位なんかに興味ねぇからな。()()()()()()()後はどうでも良かったし」

 

「貴方ねぇ……()()()()()()()()()()全然笑った顔とかしてなかったじゃない。狙おうと思えば優勝も行けるのにもう少し行事を楽しむって考えはないのかしら?」

 

「別に問題ねぇだろ?こいつとはちゃんと戦ったんだから文句は聞かねぇぞ」

 

「そうは言ってもねえ……まあ、貴方らしいけど」

 

呆れたような口ぶりをするが、同時に彼女は楽しそうに笑みを浮かべていた。悠月の性格をある程度把握しているからこそ、からかい気味で言ったのかもしれない。

 

「それに対してフランは……」

 

体育祭の話題をしてからなるべく視界に入れないようにしていた少女に目を向ける。それに釣られるように咲夜と悠月の視線も移り、合計三人分の視線がフランに向けられる。未だに(うつむ)いている彼女は耳まで真っ赤にして視線に耐えるかのように震えていた。

 

「えぇと、まあ……」

 

自分の席から離れたレミリアはフランの隣まで移動する。そして何か言葉を選ぶかのような仕草をした後、ポンッと彼女の肩に手を置いた。

 

「その……()()()()()()()

 

顔を逸らしながら同情するかのように告げられた一言。それを聞いた瞬間、プツンッ____とフランの中で自重という何かが切れたような音がした。

 

「う、うがああああああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

部屋中に響き渡る獣のような絶叫。それは部屋の外で待機していたメイドだけでなく、紅魔館全域に聞こえていたという。

 

「その哀れみを持った眼!これだったら笑いものにされた方がまだマシだよ!!なんでこんな思いをしなくちゃいけないんだーー!!!」

 

爆発したかのような声を発しながら壁に頭を打ち付ける。ここまで押さえ込んでいた感情、それが先程の言葉一つで決壊したようだ。頭を打ち付けるたびに屋敷が揺れ天井から塵が落ちてくる。

 

「フ、フラン?確かに試合に勝つ為に頑張ってたのは評価するけど、年頃の男女が公衆の面前でくっつき合うのはねえ……さ、流石に控えた方が良かったと思うの」

 

「そんなの私が一番分かってるわよ!!」

 

「だ、大丈夫です妹様!今回の体育祭の様子は最高画質で録画している故、いつでもご覧になることが出来ますので!」

 

「いや、全然大丈夫じゃないから!?」

 

冷静な表情を変えずにいながらガッツポーズをとるメイド。個性溢れる紅魔館の中で十六夜咲夜という人間は常識人のように見えるが、この姉妹の事となると何処かしらネジが外れたような行動をとるのだ。

 

「ちょっとフラン落ち着いて!私だったら外に顔を出したくないっていうか流石に自重していると思うけど、日本には人の噂は数十日?みたいなことわざがあるみたいだし_____」

 

「だからそんなこと分かってるし、全国放送だから一生記録に残るよ!!!」

 

「ええっと…こういう時ってどうしたら……あ、そうだ!相手が弱っていたら傷口に塩を塗り込めば良いってネットに書いてあったわ!」

 

「うわ~~ん!!そんな事するなんて…お姉さまが虐めてくるーー!!!」

 

暴走しているフランを何とか抑えようとレミリアは説得するが、どう考えても火に油を注いでいるようにしか聞こえない。あんな言葉を投げかけているがあれでも(なだ)めようとしてるつもりらしい。それが暴走を助長させてるのに彼女はいつ気づくのだろうか。

 

「はあ……馬鹿みてぇに騒ぎやがって。まともな奴は俺しかいねぇのか?」

 

暴れる彼女たちを他所に“未元物質(ダークマター)”で一定以上の音波を無効化するという何とも贅沢な使い方をしながら悠月は紅茶を飲む。

 

「確かにここにいるのは逸脱人ばかりですが、貴方も相当な変人である事をお忘れでしょうか」

 

「あの姉妹の事でネジが吹っ飛んだ様に見えたがさらっと毒を吐いたなこのメイド。穴が空いた頭から雑念とは別に知能まで漏れ出てんじゃねぇのか?」

 

「ご心配せずとも私は正常です。それよりもヒーローとしての威厳を持って頂く為にも貴方のがらの悪さは直した方が良ろしいかと思います」

 

ド直球に頭がおかしいと悠月が言うと咲夜も丁寧な言い回しをしながらも(けな)した言葉を吐く。その間も金髪吸血鬼は未だ暴走状態、屋敷の主は宥められずに泣きそうな顔だ。この部屋は誰も手が付けられない正に混沌とした空間になっていた。

 

「お嬢様~。一回目の見回り終わりました……って何ですかこの状況」

 

その時、混沌じみた談話室に新たな人物がやって来た。現れたのは緑色のチャイナドレスっぽい服を着た女性。若干疲れ気味な様子で部屋に入って来たが、あまりの部屋の異様さに一歩後退りをする。先程の絶叫と外のメイドが不安そうにしていた時点でろくでもない事になっているのだろうと覚悟していたが、想像以上にぶっ飛んだ展開に頭を抱えたくなった。

 

「一体何をしたらこうなるんですか……」

 

「……やっぱりまともな人間なのは貴方と私だけね、中国」

 

「私の名前は美鈴です」

 

主に名前を間違えられた彼女は紅美鈴(ホンメイリン)。悠月より少し身長が高く、チャイナドレス以外では帽子に龍と書かれた星形のマークがあるのが特徴だ。フランと悠月が来たことでいつもより活気がある事に喜びを見せつつあった彼女だが、それ以上に苦労が増えるのを察したのか一人ため息をつく。

 

(おそらくフラン様が暴れ始めたのがキッカケでしょうが、この人たちが集まれば誰が暴走しても不思議じゃないですよね~。ていうかお嬢様、自分のことをまともって棚に上げていましたけど、この場で一番おかしいのはお嬢様なのでは?)

 

「何か…言ったかしら?」

 

心を読んだのかレミリアは生気を感じない瞳を美鈴に向ける。「いやいや、そんな事無いですよ!?」と彼女は言い逃れしようとするが、渾身の拳骨がクリーンヒットして悶絶。そのまま絨毯(じゅうたん)の模様の一部となった。

この惨状を止めれる者はここにはいない。その後も紅魔館では絶叫と地響きが続き、落ち着くまでそれなりの時間がかかったとか何とか。

 

 

 

 




例のブツ
フランと咲夜の間で取引された物。ブツと言ってる時点でフランが物で釣られた事が確定である。
 
黒塗りのベンツ
高そうな車は何だろうと考えて最初に思い浮かんだ車。黒はやっぱり高級感があるイメージ。車を知らない人でも聞いたら高いよねって何となく分かると思う。
 
十六夜咲夜
年齢は20歳。東方Projectでは10代という設定だがここでは成人している。ヒーロー免許を取得しているが、メイドとしての活動が主な業務。
趣味は紅茶を淹れること、そして隠れて写真を撮ること。
 
紅魔館
場所を長野県にしたのは東方Projectに何かと関連がある場所だから。ぶっちゃけ関東か中部地方なら何処でも良かったってところがある。
ちなみに内部は空間拡張されておらず、至って普通?の屋敷である。
 
レミリア・スカーレット
年齢は22歳。公式ではフランと5歳差だが、ここでは7歳差というせってー。普段はカリスマという名の皮を被っているが、ちょっとの刺激で割と簡単に剥がれる。
最近はカッコイイ言い回しをしたい為かことわざを覚えるのが日課(なお知識に偏りがある模様)
 
響き渡る絶叫
黒歴史を晒されてその後に察したような態度を取られたら誰だって精神がブレイクします。
 
紅美鈴
何処かの世界では門番をしているが、ここでは花の世話と外回りを任されており、行動にかなり自由がある。業務中には昼寝と買い食いの姿が目撃されており、屋敷の主とメイドによく怒られている。
 


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