ヒーロー基礎学、屋内対人戦闘訓練
終了の合図が鳴り、試合はヴィランチームの勝利となった。訓練を終えた悠月たちは他の生徒らがいるモニタールームに戻り合流する。
「さあ、論評の時間だ!今回も熱い試合だったぜ!」
HAHAHA!とオールマイトは笑いながら講評の進行を進める。
「MVPはやはり回夜少年だな!相手に対して最も効果的な作戦を考え尾白少年と動きを合わせながらヒーローチームを翻弄していた。常闇・蛙吹チームも中々良い考えだったが、一歩及ばずって感じであったな!」
この場の誰もが同じ気持ちだろう。相手の個性を理解し、自らも戦闘能力があるのを見せつけた。最も活躍していたのは悠月で間違いないだろう。
「ゲロ、ごめんなさい常闇ちゃん。頑張って時間稼ぎしてくれたのに……申し訳ないわ」
「いや、今回は相手が一枚
「ありがと。それにしても、まさか核があんな所にあったなんて………」
すぐ近くの位置にあった核に二人は悔しい思いをする。他のチームは核の守りやすさを考えて広めの部屋に配置していた。だが悠月たちはこの定石を変え、二人が予想しないであろう守るのに適さない廊下に核を置いた。また時間を稼ぐ方法も連携も最善の手で立ち回っていた。
「この他にも良かった点があるんだけど、分かる人はいるかな?」
「はい」
ここで八百万が手をあげる。最初の訓練内容にも的確な指摘をしていたのもあり、今回も
「廊下に核を配置。意表を突くのは出来ていますが、ただ置いただけでは防衛するのは厳しいものになるでしょう。ですから回夜さんは相手の視線を上手く誘導する立ち回りをしていました」
「相手の………視線?」
芦戸は理解が難しいかのように首を傾げる。彼女の他にも似たような生徒が何人かいた。
「モニタールームからは分かっていましたが核の位置は最初、探索されていない
廊下に核を置いてしまえば窓から目視することは出来ない。なので蛙吹さんは部屋を確認した後、上の階に核があると判断したのでしょう」
「ケロ、確かにそうね。あと梅雨ちゃんって呼んで?」
八百万の言葉を聞いて覚えがあるかのように蛙吹は相槌を打つ。
「つ、梅雨ちゃん……!ええ、梅雨ちゃんの時だけでなく常闇さんとの戦闘もそうです。核を守っていると見せかけて一番隙があった瞬間に尾白さんは距離を詰めていました。気づかない内というのもあり、上手く動揺させ確保に至りました」
ここで大事になってくるのは蛙吹の動きだ。ある程度万能に動ける彼女は作戦の中にもあった窓から侵入という選択肢がある。悠月の攻撃を受けて別の部屋に飛ばされた時、蛙吹は悠月の視界から外れた。そうなることで窓から離脱するという裏をかく方法が出来た。穴から出てこないのは攻撃を受けて動けなくなったのを理由にすれば良い。
だが悠月はそれすらも読んでいた。いや、
「ヤオモモ、それじゃヒーロー側はどうすれば良かったの?」
「そうですね……悠月さんたちが決めた核の位置はヒーローチームが瓦礫を超える前提で置いています。そうでなければ、ヒーロー側が瓦礫を見て二人とも窓から攻めれば核を守るのは尾白さんだけになるからです」
瓦礫の先で待ち伏せされている可能性があるなら、まず最初に窓から部屋の様子を確認する。中に核があるのを確認出来れば、蛙吹が常闇を持ち上げて窓から奇襲をかければ良い。悠月が部屋に戻る間、尾白は広い部屋で二人から核を守るのは難しくなるはずだ。
「蛙吹さんの身体能力で今回の結果になりましたが、先に一通り六階を捜索する時間も多少ありました。六階を見た後、どのように攻めていくか考えることも出来たでしょう」
彼女の洞察力におぉーと感嘆を漏らす生徒もいればここまで気づかなかったと反省している者もいた。ただ単に映像の結果だけを見るのではなく可能性について気づけた八百万は訓練の内容をこと細かく分析していた。
「予防策があれば話は別ですが………回夜さん、この事について何かお考えがあったのでしょうか?」
一通りの点を話した八百万であったが、どうしても彼に聞きたいことだった。もし自分でも気づけない対策があれば、相手の立ち回りを掌握する正に完璧な作戦だと言えるからだ。
八百万が質問すると共に全員が彼に注目する。ここまで何も口を挟まなかったが、少し間を置いて悠月は答える。
「…………いや、二人が瓦礫を越す前提でつくった策だ。瓦礫を超える前に窓から覗かれれば普通に室内戦が起こり、俺が抜かれれば核の近くにいた尾白が相手することになる。機動力がある二人を抑えるのは苦労するだろうし、準備中に尾白の意見が無かったらもっと強引な作戦になってただろうな」
「ふむ、じゃあ回夜少年はその点をもう少し考えられたら良かったわけだな!」
オールマイトは丁度ここが区切り目と判断し、論評の仕上げに掛かる。
「二チームの評価は上々だ!皆も作戦の立て方を見習って次の組みに行こうか!!」
次に訓練を行うチームはパートナーと相談しながらモニタールームを出て行く。各々が雑談をする中、講評が終わったことで悠月はあまり目立たない部屋の奥へと移動する。
「回夜ちゃん。一つ聞いても良いかしら?」
その途中、悠月と戦った蛙吹が呼び止めた。思考が読みづらい顔をこちらに向けるのを見て若干相手しづらい印象を与える。
「なんだ?」
「八百万ちゃんの質問への返答。あれ本当に対策無かったの?」
その言動は本心から出ており、同時に半ば確証をもっているかのようだった。
「さあな、過程なんてどうでも良いだろ」
こういう他人の中身を覗いてるかのような奴は苦手だ。実際自分自身も似た者なので余計にそう感じる。
会話を切らせて悠月は奥の壁に寄りかかる。蛙吹もこれ以上深入りするのも……と思ったのか女子グループの中に入った。
ここで次の訓練の準備模様がモニターに映る。それ以降悠月は誰とも話すことなく映像を感情を写さない眼で見つめていた。
✳︎
「ゆーづーきー。起きてー。起きないと_______」
「二回目はダルィ…………」
いつも通り?の朝を迎え、道の特徴をある程度見つけることが出来る頃。フランが主に話し、悠月が時々答えるという変わりない登校をしていたのだが………
「何あれ?」
明らかに雄英の関係者ではない集団が校門前を占拠していた。その中にはカメラやマイクを持っており、登校中の生徒に無理矢理囲い込んで問いただしている。恐らくはマスコミの連中だろうが、なぜあんな所で張り込んでいるのか。
「うーん、オールマイトについて聞いてるね。どうやら雄英で教師をしているのが知られたみたい」
遠くから耳を傾けていたフランが取材の内容を聴き取る。ナンバーワンヒーローが教壇に立つということは格好のネタだろう。教師からでなく生徒に聞くのが一番手っ取り早いと思っているんだろうが………
「「邪魔だな(ね)」」
生徒からしたらあんな人の壁の向こうに行かなくてはならないのだから溜まったもんじゃない。現にマスコミの前に尻込みしている奴らは少なからずいる。
「でもテレビに出るのは将来、有名になる一歩だって何かに書いてあったよ?」
「んなもん微々たるものだ。ああいうのは人じゃなく言葉だけを欲している。人として見るのはそいつがよっぽど良い印象か悪い印象な時だけだ」
吐き捨てるように悠月は言う。そんな彼の考えにやれやれと言った感じでフランは笑った。
「まあ、悠月が進んで行こうとは思わなかったけどね」
日傘を閉じ、フードを深く被って太陽光から顔を隠す。焼け死ぬことは無いが出来るだけ気分を悪くしたくないのだ。
門に向かっていく二人。当然のようにマスコミが情報を聞こうと向かってくるのだが、まるっきり無視して雄英の敷地に入っていった。
…………その近くではオールマイトについて熱弁していた生徒がいたとか何とか。
✳︎
報道陣が張り込んでいても雄英は学業に徹する。
HRの際、戦闘訓練時の映像を見ていた相澤は特に問題点があった緑谷と爆豪に注意をする。私情を挟んだ戦闘にもう一人は個性を十分に扱えてない。ここで相澤がきつく言ったのはこの先も同じような状態が続けば見込みなしと判断するからだろう。
訓練の話が終わった後は学級委員長を決めるというなんとも学校らしいものがあり、その結果緑谷が委員長で八百万は副委員長になった。特に役割になりたい理由もなかった悠月は真面目そうという考えだけで眼鏡に入れている。
朝からそんな出来事があったが、現在は昼休みの時間。食堂に行く者や弁当持ちはそのまま食べ始めたりする中、弁当を作ってない悠月は昼飯を食べようとして食堂に来ているのだが………
「うひょー、人がいっぱいだ。早く飯決めて行こうぜ!」
何故か上鳴が付いてきていた。
「なんでてめぇがいんだよ」
「別にいいじゃねえか!一緒に食べた方がより美味く感じる!早くランチヒーローの料理食いたいぜ!!」
「それでなんで俺なんだよ」
「ほら、回夜も何するか選べよ!」
「人の話を聞けごら」
上鳴の強引なペースで振り回されるのに悠月はイライラとした表情を浮かべる。だが彼が食事を待つ列に並ばずに待っているのには訳があった。その原因となる奴がまだ来ていないので、こうしているのだが………
「悠月〜~! 探したん……だか……ら……」
ちょうど良く呼ぶ声が聞こえる。上鳴もその声が聞こえたのか足を止めた。
食堂の中では一際視線を集めている場所があり、その中心にいるのが予想通りフランであった。金髪に整った顔、真紅の瞳に特徴的な翼。そして彼女独特の明るい雰囲気は多くの人間を引き寄せる何かがあった。それが今回、程よく視線を集めてくれてるので出来れば来て欲しくないものであるが…………
嬉しそうな顔でこちらに向かって来ていたが、段々と笑顔がなくなり警戒したような顔つきになる。
「悠月。隣にいる人、誰?」
フランがチャラ男に目を向ける。
「あ、俺?上鳴電気ってんだ。席が近いから回夜とは仲良くさせてもらってるぜ!」
「いつからそんな仲良くなったんだよ」
勝手なことを言っている上鳴に悠月は嫌そうな顔をするのだが、フランはそんな話を聞かずブツブツと何か呟いている。
「緑谷って奴じゃないか。アホっぽいし別に問題なさそう。友達が増えるのは良いこと……………上鳴くんだね。B組のフランドール・スカーレットです。私がいない時は悠月のことよろしくしてね!」
「ウウェウェ、ウウェ〜〜イ」
「小声でなんて言ったてめぇ。それに騙されんな上鳴」
絶妙な角度からの上目遣いを使って上鳴を味方につけるフラン。それによって上鳴は頭がおかしくなってしまったようだ。思考停止したかのように手を動かしている。
この状況に付き合ってられないという風に悠月は割り切る。早くしないと座席の確保が出来なくなってしまうからだ。上鳴を置いて悠月は食堂の列の最後尾に向かっていき、「待ってー!」とフランも同じように列に並ぶためについて行った。
「ウウェ〜イ。………はっ!俺は何を………ってかあいつらいねえし!?俺を置いていくんじゃねえ!」
上鳴も遅れて食堂を走っていった。
少年少女移動中………
「……その緑谷ってやつは悪い人じゃないんだね?」
食堂は混んでいるが、運良く空いていた席に着くことが出来た三人。一名渋る者がいたが会話を交えながら一緒に昼食を食べていた。
ちなみに上鳴はハンバーガー、悠月は刺身定食、そしてフランはオムライスを頼んでいる。そして今はA組についての話題、というか緑谷の事についてフランが真面目そうに聞いている。
「ああ、なんか個性使ったら怪我ばっかしてるけど、真面目そうな奴だし悪い奴じゃないと思うぜ」
「ふむふむ、成る程。ひとまずはってところか………」
まだ警戒してんのかと悠月は味噌汁を啜りながら思う。いつからこんな風になってしまったのか考えるが、結局は別にどうでもいいかと流した。
この他にも何処の中学だったとか趣味だったりなど、主に上鳴とフランがたわいも無い話をして悠月はそれを聞いている構図だったが、ここで話は先日の対人戦闘訓練の話題になる。
「そういや、回夜の個性で一体なんなんだ?常闇のダークシャドウを簡単にあしらっていたからよ」
個性について聞いてくる上鳴。B組であるフランは戦闘訓練の様子など悠月が詳しく教えてくれなかったので上鳴を通じて聞く。
「へえ、どんな感じだったの?」
「いや、もう近接戦闘で殴る蹴る投げ飛ばすって感じだな。普通は増強型の個性だと考えたけどそれにしては分からねえ部分も多かったし…………」
「え〜〜」
じー、とフランは悠月を見る。まるでそんな戦い方してたの?という表情である。そんな彼女の視線を悠月は軽く無視して箸を進める。
「そうだ!フランちゃんって回夜と同じ中学だったんだろ?だったら個性知ってんじゃないの?」
まるで名案のように言う上鳴。フランにどうなのかと尋ねるのだが、彼女は難しそうな顔をした。
「まあ……そうだね。ざっくりとなら知ってる」
「ざっくり?完璧には分からないのか?」
「うーん。少なくても上鳴くんが言ってた戦い方は苦手と言うか
フランの言葉に上鳴は驚く。あんな
上鳴は玉砕覚悟で悠月に追求しようとした時………
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難して下さい』
けたたましいサイレンが鳴った。
「なんだなんだ?何かあったのか?」
「う〜ん。けっこー重大そうな感じがあるけど」
悠月たち以外にも食堂にいた一年生はこの警報がどのような意味があるのか分からなかったが、上級生は焦ったかのように騒ぎ始めた。この後にアナウンスが入る様子はない。どうならセキュリティ3というのが問題の部分らしい。
周りの状況を確認する。近くにいた一年生らしき人が上級生に何が起こっているのか聞くとどうやら校舎内に何者かが侵入してきたらしい。それがヴィランなのかは知り得ないが、大変な事態であることに間違いなさそうだ。
「なんだか知らねえが流れに乗った方が良さそうだな。俺らも早いとこ行こうぜ!」
席を立ち、焦った様子の上鳴だったが………
「はむはむ、低価格でこのクオリティって凄いよね」
「まあ、そうだな。………悪くねぇ」
呑気に飯を食べていた。二人揃って今の現状など興味ないかのようである。
「なにお前ら似たように食べてんだよ!緊急事態って分かってらっしゃる!?」
屋外に出るための出口を見ると、人がごった返していてパニック状態になっているようだ。この場も多くの人が出口に向かっており、避難するのは苦労するだろう。上鳴は早く移動しようと諭しているが、二人が中々動く様子はない。事の大きさが分かってないのか。それともあの人混みの中に入りたくないのか。
二人の顔を見るのだが、そのどちらかではなく………
「外を見ろ上鳴」
言われて外を見る。人が出口側に固まっていき、ここからなら外の様子が見えるようになる。そこにいたのはある集団が雪崩のように押し込んでる様子だった。彼らの手にはカメラやマイクといった
「あれって…………
「うん。多分何処かの門が開いてて、そこから入ってきたって感じかな」
「どちらにせよ此処は雄英の私有地だ。許可を得てるはずがねぇからマスコミは不法侵入ってところだろ」
他に入ってきてる訳じゃねぇみたいだし、その内収まるはずだ。と言って悠月はお茶を啜った。
一瞬の間にこの二人は周囲で起こってる状況を理解し、動く必要はないと判断したのだ。
「じゃあこの事をみんなに知らせないと!」
上鳴は席を立ち、必死に危険は無いと叫ぶのだが、他の人間は聴く様子はない。それでも諦めずに声を張り上げていると近くにいた赤髪の生徒が状況を把握し、同じように危険はないと呼び掛けていた。
だがあれだけ叫んでも騒ぎが収まらない。多くの人間はパニックなままで一目散に出口を目指している。それでも諦めずにいる彼らの様子をフランは少し驚いたように見つめていた。
「どうして殆ど意味の無いことなのに止めずに続けられるのかな。全員に届けるのは不可能に近いのに」
そんなフランの言葉に食事を一旦止めて悠月は話す。
「上鳴がやってる方法は誰かに声を届かせるには不十分だ。この事態は避難すること以上に注目するものみたいなのが無いと混乱が止まることはねぇ」
だからこそフランは余計なことをする方がかえって混乱を招く。ここで騒いでる奴らは状況を的確に判断出来ないのが悪いと、そう考えているのだろう。
「だけどな…………」
数秒、間を空けて彼は答えた。
「あれが俺たちには足りねぇヒーローとしての何かだと思う」
その時『だいじょーぶ!!』とよく響く声が食堂まで聞こえた。
少し時間が経ち…………
結局騒動は飯田が解決した。侵入者がマスコミだと気づいた彼は非常口のピクトさんを思わせるポーズで状況を迅速に伝えた。あれが注目するものであることや全体に響く簡潔な内容に生徒たちは落ち着きを取り戻した。
今現在は生徒みんなで騒ぎの中で散乱した机や食器などを片付ける作業をしている。悠月とフランも同じように片付けを手伝っているのだが、彼女はずっと悩んだ表情だ。
「さっきの事か?」
「うん。まだヒーローとしての気持ちって言うのが欠けてるのかなって」
遠くにいる集団を見つめる。それは騒ぎを解決した飯田を緑谷と茶髪の女子が褒めている様子であった。思えばあの出口上までの高さに飯田がたどり着くのは状況的に難しい。ならば他の個性が影響してあの形が出来た訳だ。恐らく触れたものを無重力状態にする茶髪女子の個性だろう。
一人では無理でも力を合わせることで成し得る考え。フランたちにとってまだ未知の領域だった。
「ああいうのを出来るのが本当のヒーローなのかな?」
半ば羨ましそうに見る。そんな彼女を見て悠月も考える。
ヒーローとは誰かを守るための者。今までの考えとしては自分のことを優先にしてこれまで動いてきた。この身を犠牲にして他を
それでも本当のヒーローになるためには…………
「おおーい!二人ともー!!」
手を振りながらやって来たのは上鳴とその隣には赤髪にツンツン頭の生徒がいた。無駄に声を上げてもう少し自重して欲しいものである。
「いやー、大変だったな今回は」
「う、うん。そうだね」
「にしても聞いたぜお前ら。すぐマスコミだって気づいたんだって?俺は上鳴に言われなきゃ気づかなかったぜ」
「そんな俺も言われて気づいたんだけどな」
だろうと思ったわ、と赤髪が話す。事を詳しく聞けば悠月たちと別れた上鳴は必死に呼び掛けをしている途中、赤髪……切島と合流したらしい。一緒になって叫んでいると飯田が宙を飛んで非常口になっていたという流れ。結局あんま意味なかったかな〜と苦笑いで誤魔化していた。切島もそういう瞬時な判断出来るのがヒーローなんだろうなと同意する。
確かに上鳴のやってたことは周りを変えるには小さすぎた。しかし彼の言葉が届いている人物は少なからずいる。
何を言えば良いか言葉が出てこなかった悠月だったが、ここでフランの口が開いた。
「ううん、上鳴くんも切島くんも誰かのために動いていたのは変わらない。普通保身に走るのは当然だけど二人はここにいる皆のために動いてた。
______だから私はあなた達もこの場ではヒーローだったと思う」
彼女を見る。少し言葉に詰まりながらも上鳴たちを見据えるまっすぐな顔は本心から出た言葉だというのが分かった。その後違う方向を見て少し顔が紅くなっている。どうやらあまり言わないセリフを言ったのが恥ずかしかったらしい。
正面から見ていた二人もフランに言われて照れ隠しなのか髪や鼻を掻く。
「そう言われるとやって良かったって思うわな」
「確かに…………やっべ、もう授業が始まるぞ!お前らも急げよ!!」
「あ、おい待て上鳴!!」
バタバタと騒がしく教室に走っていく二人。残っていた他の生徒も今回の騒動をネタに話しながら次々に食堂から出ていく。時計を見ればもう移動しなければならない時間だ。
あの二人にフランが言った言葉。騒動の中では意味の無いことだと言っていたが、彼らを褒める表現を使っていた。今までだったら考えもしないである。
自分を優先にして動く。人間として当然の行動は変えられないものだ。それでも周りに目を向け、誰かの手を取れるようになれてこそヒーローを名乗れるものだろうか。今の自分ではヒーローとして足りない部分は多い。
本物のヒーローとやらになれないかもしれない。だがそれでも………
「今は
「大事なところが抜けてる気がするけど、くさいセリフを言ったのは分かった」
だったらおめぇもだろ、と吐き捨てる。掃除は終わった。悠月たちも教室に戻ろうとした時、突然メールの着信音が響く。見ても良いよ、とフランから言われたのでケータイを取り出し内容を確認すると____
「何かあったの?」
「…………いや、何でもねぇ」
電源を落としポケットに入れて教室に戻る。そんな彼の表情は何処か厄介事に巻き込まれたような顔だった。
梅雨ちゃん
→友達になって欲しい相手に「梅雨ちゃんと呼んで?」と言うコミュ障にはハードルの高すぎる呼び方。悠月や轟みたいなキャラがちゃん付けするのはけっこーシュール。
ランチラッシュ
→雄英の食堂を切り盛りするヒーロー。大型台風で一万人以上の人が被災した際、一人で炊き出しを行ったという話がある。この人は正直言って雄英への貢献度が凄まじいと思う。
ウェ〜〜イ
→上鳴の頭がショートした時に言う言葉。アホ顔になり、親指を立てて両腕を前に出すのがポイント。
緑谷くん
→フランの偏見が多少払拭された模様。それでも彼女に警戒されているが………
悠月とフラン
→上鳴や飯田たちの行動に「俺たちに足りねぇ部分」と称した悠月。誰かと一緒に何かを成し得ることに対して言ったのだが、それにはとある理由があって…………