USJに入ります。
マスコミ騒ぎが警察の対応によって収束し、ある程度落ち着きを取り戻した雄英高校。一部不可解なこともあったが、この日もいつも通りの授業が過ぎていく。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」
変わったことがあったのは午後の授業、ヒーロー基礎学での授業だった。内容に入る前に相澤先生から話がされる。教師三人で進めていくことに一体何をするのかと声が上がるが、相澤は『
人々を
「訓練所は少し離れた場所にあるからバスに乗っていく。以上、準備を始めろ」
その一言で全員が移動し始める。どういったことをやるのか、自分の得意な場面は何かなど話し合っている中、一人だけ顔を俯いて何も行動を起こしていない人物がいた。
「まーたそんな暗い顔してんのかよ。もう少しその顔どうにかした方がいいぜ?」
お決まりのように肩をバシッと叩いて絡んでくる上鳴。そんな風に言われた悠月はため息をついた後、うっとおしそうに彼の腕を払った。
「何でもねぇよ」
「またまた〜。あ、もしかして救助訓練大変そうとか思ってたり?」
「でも回夜くんの個性ならある程度出来そうな気がするけどね」
望まないことに出席番号が近いので
「まあクヨクヨしててもしょうがねえよ!最善の手を尽くしてやるだけだぜ!」
「分かりやすい性格してるな」
呆れるように呟く悠月だったが、ははは……尾白も言いはしないが似たようなことを考えていたようだ。
どちらにしても今日は何かしら起こるだろう。良い意味か悪い意味かは分からないが、こういう場合は悪い方に比率が高くなるのは必然なのだろうか………
*
「みんな!バスの席順でスムーズにいくよう番号順に二列に並ぼう!」
各々の準備が完了してバス停で待っている間、飯田がホイッスルを鳴らして迅速に乗れるよう誘導する。しかし、やって来たのは座席が観光や高速バスではなく、路線バスような配置だったため、飯田の行動はあまり必要ではなかった。
A組全員が座れる余裕はあるので前の人から順に席に着いていき悠月は奥の方の座席に入る。その隣に座っていたのは赤と白に分けられた髪に目の辺りに火傷の跡が特徴の轟だった。
「「…………」」
席に入った際、一瞬目が合う。しかし、二人が会話をすることはなかった。バスに揺られる途中で色々と会話や怒鳴り声で騒いでいたが、そんな雑音は無視して悠月は時間まで目を閉じて眠る。しばらくして、相澤の一声でバスが到着したのを確認し、A組の奴らと共に送迎バスを降りた。
「すっげーー!!U S Jかよ!?」
上鳴が今回の行き先の施設を見て驚きの声を上げる。そこには火があり水があり瓦礫があり。まるでアトラクションを想像するかのような場所だった。
「水難事故。土砂災害。火事……etc。あらゆる事故や災害を想定し、僕がつくった演習場です。その名も、
((((USJだった!!))))
ほとんどの生徒の気持ちが一致したのだが、悠月は維持費がどれくらいかかるのか計算していた。個性がない時代以前と比べれば新しいエネルギーの活用など負担を軽くしている所はあるかもしれないが、壮大な金額が詰め込まれているのは確かだった。
生徒の前に宇宙服のような格好をしている人物が現れる。13号という教師がこの施設を作り、今回の授業担当の一人だと言う。
彼の個性“ブラックホール”は吸い込んだものをチリにする強力な個性である。それ故に人や物を簡単に傷つけることができる危険なものだが、その力を人を救う道、災害や人命救助のために使っている。
個性は使い方次第________
正しく個性を使っていけば本当のヒーローになれるのを13号自身で例えながら生徒に教えていく。
視点は違えど、ヒーロー基礎学で習うことは人々を救けるためのものだ。ヒーローにおいてヴィランと戦闘する機会もある中で人々を救助するというのも役目になってくる。彼は今回この事を教えるために担当となったのだろう。
13号の話が終わり、早速訓練に入ろうとするのだが、悠月は違和感を感じる。同時に相澤も何かに気づいたようだ。
「ひとかたまりになって動くな!!13号、生徒を守れ!!」
セントラル広場中央。そこに黒い
周りの生徒は突然の展開に驚きが走る。まだ状況を把握できていないのだ。何人かは異常だとわかっているのだが、まだ多くは緩んだままだ。相澤はヴィランだと大声で伝え戦闘態勢に入る。
しかし、雄英高校には先日のような侵入者用のセンサーが張り巡らされているはず。この施設にもあるはずだが、何故か付いた様子はない。
「現れたのはここだけか学校全体か……何にせよセンサーが反応しねぇなら向こうにそういうこと出来る“個性”がいるってことだな」
轟はそう予想を立てるが、理由としては妥当だろう。隔離空間の中に教師数名に生徒一クラスという少人数という構成。その情報を知った上での襲来はそれ相応の目的をもって計画されたものである。
相澤は生徒の避難を優先する。高校という立場ではまだ生徒には危険な状況に晒したくないのだろう。
「13号、任せたぞ」
一言言い残し、相澤はそのまま広場まで飛び降りる。一番先頭にいたヴィランが応戦しようと構えたのだが、何故か慌てた様子になる。その間に相澤が接近し次々と無力化していく。
彼の個性は視界に入れた相手の個性を一時的に消し去る“抹消”である。異形型の個性には効かないようだが、その点の対策はしているようだ。“抹消”の個性をフルに使いヴィランを倒していく。
悠月はここから援護は出来るのだが動かない。それが得策ではないと判断していたからだ。
自分も一応は生徒の枠組みである。守られる立場である彼がヴィランに立ち向かえば他の生徒も自分にも出来るだろうと余計なやる気を見せかねない。最悪、生徒全員がヴィランに立ち向かう選択をすれば、相澤の苦労が無駄になる。
時間稼ぎをしてくれている間に13号が生徒の避難を行う。施設の外に出れば救援を呼べ、安全を確保できるからなのだろう。
だが、そう上手くはいかない。
出入り口前に突如、靄が行く手を阻む。陽炎の揺らぎのように動く漆黒は少なからずこの場に威圧感を放っていた。
「初めまして、我々は敵連合。
______平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
ヴィランが攻めてきた理由。
それは彼らにとって最も邪魔な存在の排除。普通ならプロヒーローと厳重なセキュリティがあるこの場所で襲撃をするのかと思われるだろう。しかし、今回の用意周到な流れからしてオールマイトを殺す何かをもっているはず。それがどんな手段なのかまだ分からないが、少なくても目の前のコイツは作戦の主要人物で間違いないだろう。
「本来ならばここにオールマイトがいらっしゃるはず……しかし変更があったのでしょうか」
「まぁそれとは関係なく……私の役目はこれ」
「させるかよ!!」
黒いヴィランが行動に入ろうとする前に二人の生徒が突っ込む。一人は爆豪でもう一人は逆立った赤髪の切島だった。二人の攻撃は当たったかのように見えたが、相手に効いていないようである。
黒い靄が大きく広がる。13号はブラックホールで靄を吸い込もうと構えるが、前方に二人がいて巻き込んでしまうため根源から断つのは無理だった。
その間にも靄がこの場にいる者を飲み込んでいった。
✳︎
時間は少し流れ______
黒い靄による個性により、バラバラに散らされたA組の生徒。その中で水難ゾーンに飛ばされた緑谷・蛙吹・峰田は一か八かの作戦を決行し、何とかヴィランたちを無力化することが出来た。現在は中央のセントラル広場が見える位置に移動していた。
「緑谷ちゃん次はどうするべきかしら?」
「そうだね……とりあえず救けを呼ぶのが最優先だよ。このまま水辺に沿って広場を避けて出口に向かうのが最善」
蛙吹の問いに怪我をした指を抑えながら答える緑谷。広場では今の大勢のヴィランを相澤先生が相手している。だが緑谷は先生が生徒を守るために無理して飛び込んだのだろうと予想していた。
「え、緑谷まさか……あの場に行こうってわけじゃねーよな?」
「違うよ。ただ隙を見て少しでも負担を減らせればって……」
峰田が相澤の援護に向かうつもりなのかと責めるが、緑谷はそうじゃないと否定する。何の策も無しに飛び出しても邪魔になることは分かっている。だからこそ自分たちがどうするべきなのか考えていた。
実際緑谷の予想通り、相澤は自分一人で対処するのにかなり無理をしていた。
(今まで相手してるのは雑魚の連中だ。コイツらを率いた親玉とワープもちの個性がいるはず。そいつらに対してどれだけ余力を残せるか…………)
長時間の戦闘とドライアイが相まって個性を消せる時間がどんどん短くなっている。この先はどう凌いでいくかかなり不安なところだった。
ヴィランたちの個性を消して無力化していく中、靄の中で最初に見た手だらけのヴィランが攻めてくる。相澤は捕縛用の道具を伸ばし相手が掴んだのを見て、距離を強引に縮めるために引き寄せ肘を入れるのだが……
「髪の下がる瞬間がある。一アクション終えるごとだ。そしてその間隔は短くなってる。
_______無理をするなよ、イレイザーヘッド」
異常な事態に相澤はヴィランの顔を殴り自身から引き離す。相手の個性だと思われるが右腕が満足に使えなくなってしまった。
(チッ、見られていたか…………)
今まで攻めてこなかったのはこちらについて観察していたから。最悪なことに弱い所をしっかりと把握している。
手だらけのヴィラン……死柄木はケラケラと笑いながらイレイザーヘッドが何故一人でここに飛び出してきたのか理由を述べる。
“抹消”の個性は長期戦に向いてないこと。
相澤が得意なのは奇襲からの短期決戦なこと。
それでも多くのヴィランに立ち向かってきたのは生徒を安心させるため。
この仮説は全て当たっており、少ない時間で相手を知る限り彼は観察するのに
「____ところでヒーロー、
それと同時に脳がむき出しの大男が相澤の身体を地に伏せさせ、腕を握りつぶした。
「〜〜っ!!!!!」
ベキッバキッと鳴り響く悲痛な音。当然現れたその怪物が只者ではないと痛感させられた。
「“個性”を消せる。素敵だけどなんてことないね。圧倒的な力の前ではただの“無個性”だもの」
脳無、と死柄木が命じる。すると相澤を抑えていた大男がもう一方の腕をその手で握りつぶした。再びの不快な音に相澤の悲鳴が響く。
(小枝でも折るかのように……!身体の一部でも見れば消せる……つまり素の力でこれか……
激痛に耐えながらコイツがオールマイトの対策だと認識する。だがそんな奴にイレイザーヘッドが勝つのは不可能だった。
「緑谷ダメだ…………流石に考え改めただろ…………?」
遠くから見ていた緑谷たちも自身の考えが無意味なのかを決定づけられる。教師があんな簡単にやられ傷つくのを見てとてもではないが救けに行くのは愚策であった。
(クソが…………)
脳無が相澤の頭を掴む。そのまま軽く上げて地面に叩きつけようとした時_______
ベチャッと鳴るはずが無い音がした。
「は?」
相澤の顔が地面につく直前、
痛みを覚悟していた相澤は今の一瞬の間に自身の守った何かについて驚きと謎が生まれる。
(なんだこれは?顔全体を覆っているはずだが、呼吸が苦しくない?それに………)
「ったく、オールマイトを殺すとか大胆なこと考えやがって。お陰で
この場に場違いな声が聞こえる。押さえつけられている相澤は見ることが出来なかったが、声の正体に心当たりがあった。その予想は当たっており、まるで待ち合わせに遅れたかのように現れたのは蒼い瞳が特徴の少年、回夜悠月であった。
ここまで愉快そうに笑っていた死柄木は悠月を見て警戒する。
「生徒は黒霧がバラバラに飛ばしたはずだ。その先で待ち伏せしている奴らはどうした?」
「んな事どうでもいいだろ。テメェが知る必要はねぇ」
「近頃のガキは礼儀が欠けてんじゃないか?そういう奴は今の社会すぐ消えるぞ」
ヴィランの質問にだるそうに答える悠月の態度に死柄木は苛立ちよりも興味を無くしたような様子だった。
「なら、テメェらが先に消えろよ」
指を鳴らす。一見なんの意味が無いかのような行動であったが、それに反応したかのようにバチッと目の前に火花が一つ上がった。
「________脳無!!!」
原因不明の異常な事態に死柄木はもう一人のヴィランに向かって叫ぶと同時に大規模な爆発が起こった。
熱気と砂埃が辺りを覆い、一時的に視界が遮られる。緑谷たちも腕で顔を守り凌いでいたのだが、不意に自分たち以外の人の気配を感じた。
「あ、相澤先生!?」
視界が晴れ、すぐそばには仰向けに寝かされている相澤がいた。ヴィランと一緒に爆発に巻き込まれたように見えたが、上手く抜け出したのか。しかし、相澤もどうしてここにいるのか分からないようである。
「そこにいろ緑谷。動かれると守りづらくなるからな」
顔を上げれば悠月の背中が遠くで見えた。どうやらこちらに気づいていたらしい。先程の爆発や先生がここにいるのは全て彼がやったことなのだろうか。少なくともヴィランを見て震えていた自分よりも彼はずっとヒーローのように思えた。
ではヴィランたちはどうなったのか。視界を
「くそ、危ないな。平気で攻撃するとかヒーローとしてどうなの?そこんとこ」
「現に無傷じゃねぇか。それに殺す宣言かけられてんのに抵抗しねぇのもどうかと思うが?」
「……もういい。その口、二度と聞けなくしてやる」
こっちにはオールマイトを殺すために作られた脳無がいる。ガキ一人に負けるはずがない。圧倒的力でねじ伏せ、絶望を呼びこむ要因としよう。
「だったら試してみるか?」
「ダメだ……逃げろ回夜………!」
寝かされた状態でありながら相澤は生徒を身を案じる。教師として彼自身の生徒に対する気持ちがあるのだろう。余裕そうな顔をしているのを見て自分の個性に自信がある奴なのかと死柄木はそう予想づけるが、脳無の前では無意味。
計画の要であるこいつで潰す。元々生徒を殺していく予定だったのだ。だったら一番最初はあいつにすれば良いこと。
「やれ脳無。あいつを殺せ」
死柄木の声に脳無は唸り声を上げ突貫する。常人には目に追うことが出来ないスピードで移動して右腕を上げる。この一撃を食らえば普通の人間など肉片を撒き散らして死ぬことだろう。そんな光景が見えてニヤリと笑う。
しかし、そんな死柄木の表情はすぐに崩れることになる。
「力任せの脳筋。超パワーもってる奴に限ってなんで油断ならねぇのが多いんだよ」
独り言のように呟く。まるで目の前の死など障害にならないという様子であった。
右腕をかざす。その顔は獰猛な笑みを浮かべていた。
「散れ、“
その瞬間、純白の息吹が生み出された。
それは嵐のように巻き起こり視界を圧倒的な白で染めていく。まるで粒子の海が荒れ狂うかのように舞った後、脳無の目の前を阻む壁となった。
脳無は構わず右腕を奮う。直後、爆発のような風圧と音が響き渡った。
「な………!」
死柄木の表情が崩れた。
粒子の海が脳無を攻撃を無力化したのだ。周囲にはその衝撃の跡が濃く残っており、純白の壁は脳無の拳を通していない。
「お返しだ」
言葉が聞こえたと同時に純白が形を変え、なぎ払う。それだけで脳無は地面を深く削りながら広場の端まで吹き飛ばされていった。
どんな色にも染まるはずの白は、今や全てのものを塗り潰し、神々しさで人々を圧倒していた。やがて純白は収束を始め、何かを形造っていく。それは二十メートルは越す巨大な二翼を形成した。
その姿はまるで天使_______
「おいおい、なんだよそりゃあ………」
生徒はチンピラや黒霧がどうにかするという流れだったが、それがどうだ。脳無の一撃を奴の個性と見られる謎の力で正面から受け止め、吹き飛ばしたのだ。
自然に足が一歩後ろに下がる。
「回夜くん………?」
誰かが彼の名前を呼ぶ。驚愕か、それとも畏怖なのか。その声はとても震えていた。
悠月の個性について周りには全く知られていない。訓練が終わった後に彼に聞いても適当に流されていたからだ。ペアになった尾白に問い詰めても『聞いた僕もよく分からなかった』と何故か疲れた様子で答えていた。増強型だと予想はされてたのだが、それでは説明がつかない。まるで
「ふざけんなよ………!」
死柄木はわなわなと身体を震わせ拳を握りこむ。
オールマイトを殺すだけのはずが、こうも計画がズレている。自分の思い通りにいかないことに苛立ちを隠せないでいた。
「いつまで寝てるんだ脳無!さっさとガキを殺せ!!」
首元を搔き声を張り上げて脳無に命令する。立ち上がった脳無は再び唸り声を上げ再び悠月に迫る。しかし、先程の目に追えないスピードではなかった。
その原因は衝撃波である。悠月は背中の二翼を震わせて空気中の圧力を強制的に変化することにより、波を生み出したのだ。波といってもその威力は想像以上のものであるはずだが、衝撃を受けてスピードは落ちていても目標を潰そうと迫って来るのを見て悠月は更なる手を加える。
純白の粒子をさらに生み出し、脳無を襲う奔流を創り出す。脳無は避けようと横に逸れるが、奔流の一部が脚を飲み込んだ。
「おい緑谷!回夜のやつめっちゃ強えよ!!あの化け物みたいなやつをコテンパンにしてやがる!!」
「ケロ。一時はどうなるかと思ったけど、優位に戦っているわ」
「うん。正直回夜くんがあんな個性をもってるなんて……あの純白の翼はどういうものなんだろう……」
ここまでの戦況を見て緑谷たちは悠月の優勢に対して歓喜の声を上げる。相澤に重症を負わせたヴィランだ。この場にはあの怪物を倒せる希望など無いかと思った矢先である。
(回夜くんの行った攻撃はまるで複数の個性をもっているかのようだ。規則性があるとすればあの純白の何かが関係しているはず。でも戦闘訓練の時ではあの純白の翼は出さなかったし、ただ単にあれを形成する訳ではないのか…………)
緑谷は悠月の個性について改めて考え直すが、結論づけるまでの糸口は見つからなかった。こうしている間にも戦況は動いている。純白の奔流が途切れ脳無を見てみれば、攻撃を食らった片足が無くなっていた。思うように動けず両手を地につけた体勢になっている。
やり過ぎではないか……緑谷たちはそう思っていた時_________
「脳無________」
少し前まで声を荒げていた死柄木は今度は冷めた目で名を呼ぶ。奴の心境の変化に周りは疑問を抱くのだが、異変がすぐに現れた。
傷を負っていた箇所に筋肉の繊維のようなものが飛び出し、傷を埋めていくのだ。強靭な肉体に急速な傷の修復、まさに超人と言えるものであった。悠月も脳無の姿を見て眉間にしわを寄せる。今の再生もそうだが、彼は別のことに違和感を感じていた。
(打撃……いや、物理攻撃に対してやけに効いていなかった)
“未元物質”とは本来この世に存在するはずのない物質である。存在しないということはこの世界の物理法則に従わず、また未元物質と相互作用した既存の物質も独自の法則性をもつ。
初めはただその力を使って相手を行動不能にまで追い込むだけだった。しかし、翼でなぎ払って吹き飛ばしたり衝撃波を食らわせても効いた様子はなかった。これは屈強だからでは説明がつかないもので明らかに別の要因があって物理攻撃が無力化されている。
そこで悠月は脳無について解析するために先程の奔流を放ったのだ。打撃や斬撃、はたまた凍傷から腐敗まで、“未元物質”で引き起こせるいくつかの攻撃パターンの要素を一撃に込めたのだ。
その結果このような結論を出したのだが、超人並みの再生も個性だとすれば奴は少なくとも二つは個性を持ち合わせていることになる。
「これは“超再生”。オールマイトを殺すために作られた兵器。それが改人“脳無”だ」
死柄木は両手を広げて自慢げに話す。やはり先程の異常な回復力は個性によるもの。一つは確定として“超再生”の他にも物理攻撃に対抗する個性をもっている可能性が高い。
ああいう風に話しているのは脳無って奴が倒されることはないと信用しているからだろう。そうでなければ、やられている状況の際にも怒っているはずである。また“超再生”の個性だと情報を自らばらしているあたり、幼稚な考えがうかがえる。
(だとしても関係ねぇ。他の攻撃手段で攻めれば良いだけだ)
悠月は敵が踏み込む前に音もなく翼が広げ羽ばたく。すると………
脳無の身体の至る所に裂傷が刻み込まれる。
不意打ち気味で放った攻撃に脳無は腹が立ったように唸り、走り始める。こちらに詰めて来ている間も“未元物質”と介して何倍にも威力をもった斬撃を撃ち続けているが、ゴリ押しで攻めてくる。あのダメージだと普通なら痛みで動けなくなってもおかしくないのだが、まるで痛覚など切られてるかのような様子である。
これを見て悠月は背中の二翼を変質させる。翼には羽根のような形状が明確に浮かび上がり、まるで
脳無の方も
後ろにしか下がる道が無い状況なのだが、ここで脳無は違う選択をした。
おもむろに右腕を構えそして振り抜く。
それだけで“未元物質”の翼がかき消された。
「っ!!?」
悠月の目の前に脳無が現れる。理性など無い印象が今では確かな一撃が入ることに笑っているかのようであった。
振り上げた拳が悠月を捉える。そう思えたが………
「悪いが、テメェみたいな身体能力ある奴を知ってるんでな」
踏み込んでる足元が不安定になることで攻撃の軌道がずれた。上に向かってパンチが空振りして天井の照明などが余波で盛大に割れた。
その間に悠月はこの場から離脱しながら“未元物質”で脳無を拘束していく。必死に抵抗しているが、それは粘着物質のようにまとわりつき離さない。このまま全身まで覆うところまでいくかと思ったのだが、ここでイレギュラーな事が起こる。
黒い渦が地面から出現し脳無を飲み込んだのだ。
これで決まったかのように見えたが、ここで最初に見た黒い靄のヴィランが死柄木の隣に出てくる。あれはA組の生徒をバラバラに飛ばしたワープの個性をもっていたはず。脳無は奴の個性で避難させたようで、“未元物質”は他のところに転送されたようだ。
「脳無が封じられかけていた。どういう状況ですか、死柄木弔」
「ここの生徒が予想以上に優秀だったって事だ。それより13号はやったのか?」
「行動不能には出来たものの、散らし損ねた生徒がおりまして………一名逃げられました」
「………は?」
これを聞いた死柄木は首元を掻き苛立つのだが、俯きがちになりしばらく考え込む仕草をする。ブツブツと独り言を呟いていた後、何かを決めたかのように顔を上げた。
「仕方ない。
帰る。つまり撤退するということだろう。こちらとしては戦闘を終わらせるのでそうして欲しいのだが、この状況で帰るというのはかなり無自然。今さっき言った生徒一人に逃げられた………恐らく助けを呼ぶために校舎に向かったのだろうが、救援が来るのはまだ時間がかかるはず。それにここで撤退をすれば雄英のセキュリティが強化され再度襲撃して成功するのは難しくなるからだ。
嫌な予感がする。それは最悪の形で的中してしまった。
「でもそうだな……平和の象徴としての
死柄木は狂ったような目を
「チッ、緑谷!!」
一瞬で死柄木が移動した。恐らくワープ持ちが関わったのだろう。こちらにヘイトを稼いでいたが、奴が来たことで均衡が崩れてしまった。すぐに切り替えた悠月は“未元物質”を操り、緑谷たちの守りに送らせようとするが_______
「くそ、このデカブツが…………!」
目の前に脳無が現れ悠月の身体を両手で握り潰そうとしたのを何とか防ぐ。凄まじい怪力は“未元物質”を噴出し続けなければ自身まで届いてしまいそうだ。
その間にも死柄木の手が蛙吹の顔を捉えようとしていた。相澤の肘をボロボロにした個性。恐らく触れれば対象を崩壊させるものだろう。死を呼ぶその手が顔に触れる。
「…………余計な真似を」
「やら、せるか!!」
大怪我を負った状態でありながら身体を起こし相澤は個性を発動させた。個性を消され、舌打ちを漏らす死柄木であったが、再発動するために相澤の腕を思いっ切り踏みつける。
「がぁあああああああああああああ!!!!」
激痛を感じながらも眼球を開き、絶対に瞬きをしないようにする。一度でも瞳を閉じてしまえば“抹消”の個性が消えてしまうからだ。
(ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ!!)
突如訪れた危機に緑谷は無我夢中で拳を握りこむ。蛙吹の顔に触れている手。それがいつ彼女を殺すのか分からない。クラスの仲間を
「SMARH______!!!」
拳を死柄木に向け放つ。力の調整は全然駄目だが、出来るだけ加減して…………
そんな一撃が死柄木に届こうとした時_______
「…………黒霧」
漆黒の渦が
ワープ持ちの個性によるものだ。攻撃が当たる部分に展開して死柄木を守ったのだろう。そのはずなのだが問題が一つ。脳無に攻撃が届いていないのに
「がはっ…………」
「え……?」
遠くの方で苦痛の声が聞こえる。蛙吹がピンチのはずだが、思わず目を向けてしまった。
それは悠月が飛ばされる光景だった。胸のプロテクターは砕け散り、破片が宙を舞っていた。そして一番緑谷の目を釘付けにし、一番見たくないものが見えてしまった。黒い渦から出ている自分自身の腕が彼の目の前にあることに……
(僕のせいで回夜くんが………?)
殴った感触もアーマーのような素材。何よりも目の前の現実が絶望を物語っていた。純白の粒子の勢いが止まり、吹き飛んだ悠月を脳無が潰そうと迫っていた。
「
「緑谷ちゃん!!」
触れたら崩壊する死の手が緑谷の顔に伸ばされる。最初に掴まれていた蛙吹は指から離れ抵抗しながら緑谷の名を叫ぶ。だがその声は届かず、緑谷は自分の力を向けてしまった悠月の姿しか目に映らなかった。そんな彼に死柄木は告げる。
「だからさ、責任もってお前も一緒に死なないと」
人の絶望を目にして表情筋を抑えられずに
だから
「ああああああああああああぁぁぁ!!!」
悲鳴が広場全域に響き渡る。それと同時に二度と忘れないような嫌な臭いが周囲に漂った。
後ろに下がって光から逃れた死柄木は左腕に渡る猛烈な痛みに悶絶する。
「カエル顔!全員を連れて逃げろ!!」
それは悠月からの援護だった。緑谷の攻撃を食らったはずだが、腹を押さえはしてるものの無事な様子である。
ではそばに居た脳無はどうしたのか。悠月のすぐ後ろには“未元物質”に脳無が捕えられ暴れていた。しかし、その縛りは不完全なようで身体の拘束が徐々に外れていく。
「ったく……これが限界か。
「回夜くん!!!」
脳無の上半身が自由になる。ただ奴にとってそれだけで充分だった。超パワーを秘めた丸太ほどの太さの剛腕を唸り声を上げて振り切る。
「あと少しだ。気張れよ緑谷」
この時緑谷はどういったことを叫んでいたのか覚えていない。蛙吹に腕を引っ張られる中で自分の攻撃とは比べ物にならない一撃が振り切られ、悠月の姿が消えた。
U S J
→ウソや災害や事故ルームの訳。決して西のテーマパークの事ではない………
“未元物質”
→三話でやっていた事の正体。普通無理だろみたいなやつも“未元物質”だからという理由がつけれそう。メルヘンの象徴。
イレイザーヘッド
→両腕潰されてその後踏まれても生徒の為に力を尽くす。正にカッコイイと称する。
悠月やられてんじゃん
逆に考えれば対オールマイトの脳無が強いんです。あんな怪物倒すのは骨が折れるというスタンス。そしてもう一つ、まだ話せませんがヒロアカの世界に合わせた結果、多少の制約を設けたのと彼自身まだ成長段階だからという理由があります。
コチラの文章力の問題もあるんですが………
緑谷ハ絶望ニ染マッテシマッタ
→この後は一体どうなってしまうのか。悠月は死んだのか?オールマイト殺されるのか?今後どうなってしまうんだこの小説!?