幻想と科学が混ざった世界で   作:spare ribs

6 / 20
六話 収束

 

「回夜くん!!!」

 

一瞬の内に消えてしまった仲間を名を叫ぶ。しかし彼は緑谷たちを庇い、脳無の一撃を食らってしまった。その威力は恐ろしいほど間近で感じてしまっている。

 

「ははは…………あの生意気なガキもこれで終わりだ。全身の骨が砕けて死んでるだろう」

 

腕を焼かれ(もだ)えながらも、死柄木は愉快そうに笑う。完璧に入った一撃はこの眼でよく見ていた。今まで何かしらの小細工をしていたようだが、あれではどうしようもない。最後に良い光景が見れて死柄木は満足する。

 

「そんな……嘘だ………回夜くんは僕たちを守って………」

 

「緑谷を連れて逃げろ。俺が時間稼ぎをする」

 

 

絶望に染まっていく。悠月の時のような攻撃を食らえばこの場にいる皆もあっという間に同じ結末を迎えるだろう。

相澤が生徒の前に出てヴィランたちを睨む。だが両腕は下に垂れ下がり、立っているのもやっとの状態だ。それでも彼らを正面から見据え、視線を逸らさない。

 

「ダメ!相澤先生も重症を負ってる。とても戦える身体じゃないわ!」

 

「いや、あの手だらけヴィランは手負いで脳筋の奴は拘束がまだ残っている。ワープ持ちのアイツは……俺の個性で封じればなんとかなる」

 

現に今も相澤は“抹消”の個性を発動させ、黒霧の“ワープゲート”を消している。奴さえ押さえればヴィラン側で動ける者はこの状況だといない。相澤は一人でも時間を稼ぐのは可能だと判断していた。

 

「でもそれじゃ先生が…………」

 

時間稼ぎにも制限がある。悠月が残した最後の抵抗。脳無はうめき声を上げながら必死に暴れて拘束を解いている。あのヴィランが動けるようになった瞬間、真っ先に狙うのは相澤のはずだ。

 

 

「早く行け!!回夜が作った機会を無駄にするな!!!」

 

 

一喝。生徒を逃がすために全力を振り絞る。この身は満足に動かせず、逃げるとしても誰かの助けがなければ難しいだろう。それならば相澤は逃げる選択ではなく少しでもヴィランを抑える囮となった。

 

 

(生き残るのは……この状況ではほぼ不可能。一歩踏み出すのもキツいな。覚悟、決めるか…………)

 

 

相澤の言われた通りに緑谷を蛙吹と峰田が引っ張っていく。あの調子で行けば何とか入口前の連中の元に辿り着くはず。本当なら悠月の捜索をして欲しかったが、万が一ここを抜かれた際、次に狙われでもしたら彼の二の舞になる。そのように判断した上で逃がしたのだ。

だがその為には少しでもここで食い止める必要がある。自分自身の未来が絶望的なのは分かりきってる。ここで足止めしてる間に腹を括った時_______

 

 

 

 

入り口辺りで馬鹿でかい音がした。

 

 

 

 

見れば扉が物理的に破壊されているようで煙が上がっている。新手が来たのかと一瞬警戒したが、()()姿()()()()ようやくか……と言葉が漏れた。

 

 

 

「もう大丈夫、私が来た!!!」

 

 

 

平和の象徴オールマイトである。彼の姿を見た生徒は安心で涙や膝を崩す者がおり、ヴィランたちにはこの場にいるだけで怯む存在となる。

ネクタイを引きちぎり、いつもの笑顔は全く見られない。この状況はヒーローとして先生として、目の前に写るものに対して怒りを覚えているのだろうか。

上から景色を見渡した後、姿が消える。目に追えない速さで道ゆくヴィランを倒し、途中まで逃げていた緑谷たちの元に相澤を避難させていた。

 

「皆、早く入り口へ。安全な場所まで避難するんだ!!」

 

気づかない内に移動したことに驚く四人だったが、怪我が酷い相澤を担ぐように支える。

 

「オールマイト!あの脳味噌ヴィラン…………」

 

 

緑谷はヴィランについてをオールマイトに伝えようとしたが、ここで先程まで戦っていた彼の姿が思い浮かぶ。

 

「オールマイト。貴方が来る前まで回夜くんがあの脳味噌ヴィランと戦っていたんです。途中まで優勢だったんだけど、僕のせいで……ぐすっ……攻撃を受けて………」

 

「……………そうか」

 

 

削れた跡や崩壊した地形。整備されていた場所は荒れ果てており、壮絶な戦いをしていたと見れる。先程までいて今は姿が見えないとなると視界に入らない所まで飛ばされたか、あるいは………

 

 

(なんてことだ………皆を守る存在でありながら!!)

 

 

身体の奥底から炎が燃え盛っていく。もし最初から自分が此処にいたならば、生徒や教師の負担を取り除くことが出来たかもしれないのに………

だが今は怒りを外に出してはいけない。精神的な柱となっている私が周りの人間に対して安心させる言葉をかけなければならない。

 

「大丈夫だ緑谷少年。私が終わらせる。あとは任せておくんだ」

 

オールマイトは緑谷の肩に手を置き、落ち着かせるように話す。

 

「オールマイト、でも………」

 

「自分を責めちゃダメだ。相澤くん、重症の君に頼むのは心苦しいが()()()()()()()()()?」

 

「……大丈夫です。こちらでも何とかやっておきます」

 

察したように頷く相澤。そうして蛙吹たちに支えながらもこの場から離れていく。その間も緑谷は悲痛な眼差しでオールマイトのことを見続けていた。

 

(すまない緑谷少年。君の心の中の“負”を取り除く時間は無いようだ)

 

オールマイトは気づいていた。緑谷の精神、自分のせいで誰かが消えてしまったことに対して心が折れかかっていることに。相澤も分かっているのだろう。自分に負担をかけない為に無理をしてでも彼のことを引き受けたのだ。その気遣いに感謝しオールマイトは正面を見据える。

 

 

「ここからだ、覚悟は良いかヴィラン!!」

 

 

 

その背中はとても大きかった。でもそれと共にどこか彼に宿る火が消えてしまうような……そんな面影が一瞬みえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つ、話をしましょうか。

 

 

 

 

 

 

お前が辿り着こうとしている境地は私たちの……いや、人類にとって未知の領域であるのは確実。

 

 

 

 

 

 

空想が現実に、超常が日常に……常識が崩れ去ったこの時代のブラックボックスが開きつつある。実際に一回開いたのかしら?

 

 

 

 

 

 

 

それが善悪どちらに傾くかは()()()()()()まだ分からない。

 

 

 

 

 

 

 

だから私は()()()()()

 

 

 

 

 

 

この現状をぶち壊すための…………それと遊びを兼ねてね。

 

 

 

 

 

 

 

その為だけにかなりの博打じゃないかって?

 

 

 

 

 

 

 

確かに、普通だったら危険物に触れに行こうとする馬鹿は早々いない。

 

 

 

 

 

 

だけど、その厄介事と関係あったなら話は別でしょ?

 

 

 

 

 

 

 

それに……貴方はまだ知らなかったわね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私……そういうゲームはけっこー強いのよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オールマイトと脳無の戦い。何度か攻撃を加えたオールマイトだったが、脳無の個性が“ショック吸収”だと知り、動きを封じる策に出る。

後ろに回り込んでコンクリートに突き立てようとバックドロップをしたのだが、黒霧が脳無の上半身をワープさせて逆にオールマイトを拘束する形になった。

 

「いいね黒霧。期せずしてチャンス到来だ」

 

 

脂汗が(したた)り落ちながら死柄木は笑う。元々ヴィラン連合の目的はオールマイトを殺すこと。彼らは脳無でオールマイトの速さを封じた後、黒霧のワープで身体を引きちぎるという作戦を立てていた。実際ここまで順調にいけており、オールマイトも脳無の怪力に脱出できない状況だった。

 

(僕だけが知っている。オールマイトが活動限界に近い事に)

 

救けに行かなければならない。だけど()()()()

身体は震え呼吸が乱れる。それは入試の時の仮想ヴィランと対峙した時と同じだった。本当の自分は心も身体も弱いただの一般人だ。彼と会ったことでヒーローを目指す足がかりとなったけれど、それは個性が強くて僕自身が強くなってる訳じゃない。

僕が弱かったせいで………回夜くんを……皆を…………

 

 

「落ち着け緑谷」

 

 

はっ、と顔を上げる。そこには緑谷の眼を真っ直ぐ見つめる相澤がいた。

 

 

「このような結果になってしまった。その元は単身突っ込んで負けた俺の責任だ。お前が気に病むことは無い」

 

「でも、僕があの時ワープの可能生を考えていれば……回夜くんが……」

 

 

涙を流して自分の無力さを(あら)わにする。それほどまで緑谷の精神は不安的になっていた。それでも相澤は話を続ける。

 

「だが選択としては間違ってはいなかった。誰かを(たす)けるために力を奮う。それを持て余せばたちまちヴィランに成り下がる。お前はそういう使い方をしたか?」

 

「違う。僕は救けたい一心で…………」

 

相澤の言葉を一つ一つ胸に刻みながら緑谷は自らの思いを呟く。

 

「だったら良い。それに考えても見ろ、俺を簡単に倒せる奴らが相手だったんだ。自分の想定通りに事が進む方が難しい」

 

 

相澤が柄にもなく慰めの言葉をかける。いつもなら見込み無しとして切り捨てるが、今回の場合はろくな経験もさせずにヴィランと向き合わせてしまった教師陣(こちらがわ)が悪い。やられていった仲間の姿を見れば、耐性の無い者は誰だってそうなるだろう。

その理由もあるのだが相澤は何より、入学時から見てきた彼の志を信じて告げる。

 

 

 

 

「だから悲観的に考えるな。お前は()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

“ヒーロー”

 

その単語を聞いた瞬間、緑谷はこれまでの人生で起きたことがフラッシュバックした。

映像で何度も憧れのヒーローが人々を救うのを見たこと。

幼い自分が無個性だと知って絶望したこと。

それでも諦め切れず、ヒーローについて独自の考えを交えた内容をノートに何冊も纏めてたこと。

 

 

そして_____彼に出会った瞬間のこと。

 

 

 

(そうだ。僕はオールマイトのようなヒーローになる為に雄英(ここ)にいるんだ)

 

 

だからここで立ち止まっては行けない。僕一人が行ったところで何か変わるものでは無いかもしれない。けれど、オールマイトが危ないんだ。彼に教えてもらいことが山ほどある。

流していた涙を拭き、何か決心したかのような顔つきになる。多少の影は残るものの、その眼は確かに前を向いていた。

 

 

「ありがとうございます相澤先生。僕はもう……()()()()()

 

 

緑谷の姿を見た相澤は微かだが少し口角が上がった気がした。その後、ゆっくりと目を閉じる。ヴィランと戦闘した身体は疲労と痛みで限界を迎えていた。自分を支えている二人に体重が段々とかかってくる。そんな相澤を状態を蛙吹は分かっているかのように受け止めた。

 

「大丈夫、相澤先生。オールマイトに任せておけば問題ないわ」

 

「うげ……なんか更に重くなったぞ!」

 

「男を見せなさい、峰田ちゃん」

 

 

 

二人の声が聞こえる中、相澤の意識は闇に沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

「………ケロ、ここはまだ危ないわ。緑谷ちゃん、早く行きましょ?」

 

緑谷は立ち直ったようだが、ゲートまである程度距離がある。一刻も早く移動しようと蛙吹は呼ぶのだが、何故か来る様子がない。彼が見る方向はゲート前ではなく、オールマイトが戦っている場所_______セントラル広場の方面だった。

 

「ごめん蛙吹さん、峰田くん。僕あの場に戻るよ」

 

「あの場って………おいおい緑谷!オールマイトが任せろって言ってたじゃんよ!邪魔になるだけだって!!」

 

「うん、だけど行かなきゃ。ここで何もしなかったら僕は一生後悔するだろうから」

 

 

峰田が行かない方が良いと引き止めるが、緑谷はそう言ったきり走り出す。彼の踏み込んだ足には一瞬()()()()()()()()()()()、常人よりも一段速いスピードで飛び出した。

 

 

「オールマイト!!!」

 

 

猛スピードで向かってくる緑谷に広場にいたオールマイトは気づく。彼は自分を救けようと右腕に力を込めていた。

 

(緑谷少年………君って奴は!!)

 

完全では無いが、なんとか折れずに済んだことにオールマイトは安心する。だが同時にこの危険地帯に戻るのを良しとしなかった。

それは同じく彼に気づいた黒霧が靄を広げていたからである。

 

(靄に飲まれちゃダメだ!あのワープの個性は触れたら終わり。ならその前に消し飛ばせたら_____)

 

望まずだが悠月に向けてしまったこの拳。何も考えず打てばまた同じような展開になるだろう。考えるが今の自分では()()()()()()。オールマイトのように風圧を出すとなれば加減が効かず、自身の腕も壊れてしまう。それでは駄目だ。

 

________なら対処が出来る人に頼めば良い。

 

 

「かっちゃん!!」

 

「その名で呼ぶんじゃねえぞクソデクがぁ!!!」

 

 

“爆破”の個性が靄を吹き飛ばした。

 

 

緑谷は途中まで自分がどうにかするかと策を巡らせていたが、横から爆豪が来ていたことに気づいたのだ。そこでわざと自らを目立たせることで確実に爆豪の攻撃が入るよう誘ったのだ。爆豪が黒霧の動きを封じ、さらに援護に来た轟が氷結で脳無の凍らすことでオールマイトが脱出できる形をつくる。

 

「スカしてんじゃねえぞモヤモブが!!」

 

「平和の象徴はてめえら如きに殺れねえよ」

 

 

状況は一転、ヴィラン側はピンチを迎えているはずなのだが、死柄木はあの時のガキが再び戦える状態になったことに感心していた。あの光景を見せられればトラウマものになるだろうと思っていたからだ。

そんな事を考えていたがまあどうでも良いかと適当に流し、死柄木は周りを見る。脳無も黒霧も動けなくなっており、人数は三対五。この戦況はヴィラン側の圧倒的不利を物語っているように見えた。

 

「攻略された上に生徒はほぼ無傷。すごいなあ最近の子どもは……」

 

恥ずかしくなってくるぜヴィラン連合_________

そう言った後、死柄木は脳無に命令した。

 

 

「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」

 

 

そう言われ脳無は凍らされた身体を無理矢理起こす。その際腕や足を欠損するのだが、“超再生”の個性で再生した。

個性のことを知らなかったオールマイトたちは驚くが、その間に脳無は凄まじいスピードで移動し、爆豪に襲いかかる。それに反応したオールマイトは彼を逃がし、自分が身代わりとなって殴り飛ばされた。

 

「ゲホッ……加減を知らんのか……!」

 

 

衝撃に耐えた跡が地面にくっきりと残っている。何とか腕で防御したが口から血を吐き、辛そうな様子だ。

 

「仲間を救けるためだ。しかたないだろ?」

 

死柄木は本当にそう思っているのかという理由をつける。その後も緑谷が殴りかかってきたことに対して野次を言い、まるで自分が正しいかのように話し始めた。

 

 

「俺はなオールマイト、怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローとヴィランでカテゴライズされ、善し悪しが決まるこの世の中に!」

 

 

暴力は暴力しか生まれない。抑圧のための暴力装置。

確かにヒーローといえどヴィランを倒すためには力を奮う。その事については正しいかもしれない。しかし、オールマイトは死柄木が(まく)し立てる理論の裏に抱えているものに気づいていた。

 

「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘つきめ」

 

「バレるの早……」

 

爆豪たちは共に戦う意気込みだったが、オールマイトがそれを制する。いくら優秀な生徒といえど脳無の強さは強大。相手をするのは危険過ぎるのもあるのだが、オールマイトは彼らに頼みたいことがあった。

 

「君たちには回夜少年の行方を探してほしい。あのヴィランの攻撃を受けて何処かに飛ばされてしまったようなんだ」

 

「な!?回夜がさっきみたいなのを食らったって言うんですか!!」

 

 

切島が驚いたように叫ぶ。轟と爆豪も同じように驚きが顔に出ていた。オールマイトだから何とか耐えれたものの、自分たちが食らえばどうなるかは先程のを見て想像出来るからだろう。

それでもここを一人で戦うのもどうかと渋る二人にオールマイトは声を張り上げた。

 

 

「ここは大丈夫!!プロの本気を出してやるさ!だから……行きなさい!!」

 

 

グッ、と親指を立て心配をかけないと言う風に意思表示する。活動限界が残り少ないのを実感するが、ここにいる皆を守るために力を絞り出す。

 

「脳無、黒霧……やれ。子どもはほっといて良い」

 

オールマイトを殺すには脳無と黒霧が不可欠。死柄木は戦闘が出来なくなったので生徒の相手は無理だが、当初の目的通りに動く。

死柄木に命令され、脳無が脚に力を入れる。再びオールマイトを行動不能に持ち込むつもりだ。

 

 

 

(確かに時間はもう一分とない……力の衰えは思ったよりも早い!)

 

 

 

 

 

しかしやらねばなるまい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故なら私は________

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平和の象徴なのだから________!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪いな。その運命……()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

純白の息吹が再臨した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まるで津波のように純白が地を飲み込み、脳無を巻き込む。地面に踏み込む直前、方向転換も出来ない瞬間に狙われたことで自ら飛び込んでいったかのように捕まった。突然出現した純白の神々しさにオールマイトたちは目を離せないでいた。

この場の全員が動きを止める中、更に驚くべき現象が起こる。

 

 

『もう終わりだ。そのままの状態でいろ、脳無』

 

 

そんな()()()()()()ヤケに大きく聞こえた。

脳無は言葉通りに動きを停止する。倒すべき敵がすぐそばにいる中での行動である。その間にも純白の物質は身体を覆っていき、遂には全身を包み込んでしまった。

 

「どういうことです死柄木弔!何故脳無を止めたんですか!?」

 

「はあ?俺じゃねえよ!()()()()()()脳無が勝手に反応したんだ!!」

 

 

死柄木は突如聞こえた声に驚きを隠せないでいた。

理解不明な現象に二人は混乱するのだが、ヒーロー側も戸惑いを隠せないでいた。確かに死柄木と呼ばれてるヴィランの声があの怪物が止めた。しかし、本人は自分がやったことではないと言う。

どうしてこうなったのか検討がつかなかったが、その状況に関わっているであろう人物なら知っている。

 

「思った通りだ。脳無が命令を受けてるのは死柄木って奴だ。言葉だけで動かしてたのが裏目に出たな」

 

「「回夜(くん)!!!」」

 

 

回夜悠月であった。脳無にやられてしまったと思われた彼がここにいた。イタズラが成功したかのように笑う彼だが、戦闘服はボロボロで足取りは重そうだ。さらに口元には血を吐いてそれを拭った跡が見られた。逆に言えば脳無の一撃をモロに食らったにも関わらず自らの足で立っているのである。

 

「回夜少年!無事だったか!!」

 

「問題ねぇ……ですよオールマイト。そちらの方が辛そうに見えますけど?」

 

「このくらいどうってことないさ。何せ私は平和の象徴だからね!」

 

 

ムンッ!と上腕二頭筋を見せつけるオールマイト。だが悠月から見れば無理をしてこの場にいるといった様子であった。

死柄木と黒霧も何故あの男が生きていることに驚いていたが、この状況に対しての行動をする。

 

「黒霧、さっさと脳無をこっちまで戻せ」

 

「分かりました、しがら______」

 

「二度目はねえぞモヤ野郎が!!」

 

 

ワープの弱点を暴いた爆豪が阻止しようと突っ込む。それだけではない。追撃に死柄木と黒霧に向かって氷結が地を這う。危険を察知して黒霧は脳無に向けていた“ワープゲート”を解除し、死柄木ごと自身を移動する。少し遠目の位置に出てきた二人だったが、死柄木は周りなど一切気にせず一点を見つめていた。

 

「おいそこのガキ。俺の脳無に何をした!!」

 

 

瞳を極限まで開き、悠月に激怒しながら指をさす。黒霧が落ち着くよう諭しているのだが、全く聞いてないようだ。

対称に冷めた顔の悠月は少し馬鹿にするかのように話す。

 

「テメェの言う事に従順だったからな。コイツは命令を受けて止まっただけ。なんともまあ忠実じゃねぇか」

 

「話逸らしてんじゃねえよ。俺は何をしたかって聞いてんだろーが………!」

 

 

首元を掻き全身から怒りを吐き出す。

悠月がやったことは簡単だ。脳無は死柄木の声に命令させられる形で動いていた。それは何かで操っている訳ではなく、死柄木の声のみに反応するように改造されているのだろう。

だったら話は早い。死柄木の声と同じトーンの言葉で「止まれ」と言えば良い。音の伝わり方などただの振動である。悠月にとってそれを弄るのは造作もないことだった。

 

そんな事知らない黒霧は死柄木の身体を靄で覆いながらすぐ横まで顔を近づけて耳元で囁く。

 

 

「落ち着いて下さい死柄木弔。脳無が使えなくなった以上、今の我々にはオールマイトを殺すのは不可能に近い。ならばここは撤退すべきです」

 

 

死柄木の参謀としてこの場の戦況について冷静に分析する。脳無が使えなくなった以上、この状況で勝てる見込みは無いと判断していた。

首元を掻いていた死柄木だったが、今の言葉と戦力を考えてみて急に先程までの感情の高ぶりが嘘のように消える。

 

「ああそうだな。今回はゲームオーバーだ。帰るぞ黒霧」

 

「む?させるか!!」

 

敵が逃げるのを阻止しようとオールマイトは距離を詰めるが、その前に靄が拡大する。あらかじめ死柄木を包んでいたことでワープの方が行動が速かった。

 

 

「今度は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト」

 

 

靄の中から声が聞こえたのを最後に二人は消えた。ここに残っているヴィランはどうやら捨て駒扱いのようだ。動揺が広がったと思ったら次々と逃げ始める。

逃げた二人は追うことが出来なくなったが、まだ残党連中が残っており、他の生徒はバラバラのままだ。皆のことが心配だと切島が真っ先に動こうとするが、ここで何処からか銃撃がヴィランを撃ち抜いていく。

 

「一年A組クラス委員長、飯田天哉!!ただいま戻りました!!!」

 

 

ようやくプロヒーロー達が来てくれたらしい。彼らの姿を見て本格的に逃げることにしたヴィランの奴らを次々に無力化していく。この様子なら生徒がそこまで動く必要はないだろう。爆豪みたいなのは積極的に参加しているが………

 

悠月はその場に座り込む。余裕そうに見せていた彼だったが、蓄積したダメージが大きかった。一番の山場が抜けたことで一気に身体が重くなり、立っているのが困難になった。

 

 

「あの…………回夜くん」

 

 

少しの間そのままの態勢でいた時、声がかけられる。顔を上げればそこには緑谷がいた。ただその表情はかなり複雑なもので呼びかけたは良いものの、次の言葉が出てこないといった感じである。

 

「なんだ?」

 

「ああ、いや!その……怪我とか大丈夫かなって」

 

オドオドしながら緑谷は聞く。

 

「少なくとも打撲に腹部の内出血があるかもな。見た目は酷いがリカバリーガールの所に行けばなんとかなるだろ」

 

 

ここで悠月はなぜ彼がそこまで自分のことを心配するのか理由が分かった。

 

「別にこの傷はおめぇのせいじゃねぇよ。ワープ持ちの対処を見誤ったのが原因だ」

 

「そんな……あれは僕が何の考えも無しに攻撃したのが悪くて!回夜くんが悪い理由なんて無いよ!」

 

自分の攻撃で悠月を危険に晒してしまった。それだけではない。最初死柄木たちを見た時だって緑谷はあの場に行って戦う勇気なんて無かった。圧倒的な差を目の当たりにして、ただ見てることしか出来なかった。

それでも悠月は恐怖なんて表情は見せず、脳無というヴィランと渡り合っていた。その姿こそオールマイトのような本当のヒーローのようで…………

 

「おめぇの腕…………」

 

「え?」

 

悪い方向に思考が傾く中、ここで悠月が会話を切り出す。

 

「腕だ腕。今まで個性使ったら身体壊してたろ。だが俺を殴りやがったその腕はボロボロになってねぇ」

 

「そう言えば…………」

 

あの事態の中だったからか、そんなこと頭にもよぎらなかった。しかし、今考えてみれば確かに“ワン・フォー・オール”を使っていても腕は折れていない。この事から言えるのは…………

 

 

「個性の制御出来たんじゃねぇか。その顔だと全然意識してやった訳ではねぇようだが」

 

 

この戦いの中で進歩した。緑谷は壊れていない右腕を見る。それに今になって気づいたが、オールマイトの元に向かおうとした時もいつもより速く移動出来たような。意識的にはやってはいないが、どんな感覚で放ったのか……少なくともこのヴィラン襲撃の中で個性の使い方を見い出せそうな気がした。

 

「……緑谷は俺の方がヒーローみたいだと思ってんのかもしれねぇが少し違う。確かに戦闘面では不安すぎる個性だし、正直言って俺に勝てる要素なんて少しもねぇ」

 

「うっ…………はい」

 

容赦ない言葉に緑谷は違うベクトルからのダメージを受ける。

 

 

「だがな、ヒーローの本質から見たら、おめぇの方がよっぽどあるさ」

 

 

どういう事かと悠月を見るのだが、彼はこちらにはもう興味がないかのように周囲を見渡していた。

緑谷も一緒になって確認するが、さっきまで戦闘で騒いでいた音が止んでいた。どうやら残党を抑えたようで駆けつけた教師陣が率先して状況処理に励んでいる。こちらの方にも生徒たちはゲート前に集合するようにとエクトプラズムの分身が伝えにきた。

状況を把握してきたところで緑谷はハッ、とした表情になる。

 

「回夜くん、早く保健室行かないと!怪我してんだから!!」

 

 

キツかったら肩貸すよ、と言って手を差し出す。おめぇも一応怪我人だろうと返すが、君なんかより全然マシだよ!と言ってテコでも動かなそうな様子である。

 

『今度は私が手を引く番だよ_______』

 

 

顔を下に向け、誰にも見せずに悠月は笑った。彼の姿がとある人物と重なったからだ。

 

(お節介なヒーローだな……)

 

 

緑谷には痛みでうずくまっているのかと勘違いされたが、顔を上げて少し遠慮がちに手を伸ばした。

突然起こった襲撃騒ぎ。その事態は終わりを向かえようとしていた。

 

 

 

 




緑谷ハ前ヲ向イタ
→原作とは違って脳無を殴ってはいないが、何とか“ワン・フォー・オール”の使い方を少しは理解するように。その中で精神面や観察面も成長してるぞ!

途中の何か
→話している人物は誰か察している人はいると思う、多分。

死柄木は火傷を負っている!
→火傷状態では物理攻撃力が下がる。言いたいのはポ○モン。

オリ主は生きていた!!
→尚オールマイトと脳無の激闘の瞬間に横やりを入れる。まさに良いとこ取りである。

俺と似た声に
→普段、自分自身の声というのは骨伝導の影響で多少相手が聞く声とは違う風に聞こえる。今回の死柄木の場合も自分の本当の声を聞いたことが無かったため、この発言が出た。

思ったけどフラン活躍してなくね?
最近考えるんだ。フラン=禁書目録の図が………!
体育祭では何とか戦闘描写とか書けていけたら良いなと思います。


ザ・裏話

USJの戦闘描写は五・六・七話で元々考えていましたが、ここで時間をかけるのもな〜と結論付け六・七話を強引に一緒に書きました。結果的には内容薄い気がしてるのですが、文字数と文章力の都合上限界があった……

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。