「…………今何時だ」
心地よい温かさに抗って身体を起こす。
時計を見れば10時になろうとする時間だった。今日は休日ではなく平日。本来であれば学校に遅刻したと言うような時間なのだが、特に慌てた様子なくベッドから出た。
「あ、起きた?」
寝室のドアの先にはまるでここの住人のように振る舞うフランがいた。別に合鍵持って(かれて)るしこの部屋にいるのはもう慣れてしまっていたので驚くことは無い。現に今もいつも通りの光景として見れるはずなのだが…………
「何でそんな格好してんだ?」
何故かエプロンを着て洗濯カゴを持っている状態だった。
「あ、これ?どう似合ってる?」
「知らねぇよ」
何処か期待したかのような眼差しを向けてくるのを無視する。よく見れば洗濯カゴには悠月の服だったり靴下などが入っている。しかし、一部見慣れない色の生地がのぞいているのでフランの物も一緒に洗濯したのだろう。ベランダの方向に身体が向いているのを見るに外に干そうとしていたのか。
そんな自分の行動を観察されたのがあれだったのか少し苦笑いになるフラン。
「いや…………朝ここに入っても悠月が起きてる様子じゃなかったし、
段々と声を小さくして話す。何故二人がこの時間になっても家にいるかと言うと、雄英高校にヴィランが襲撃した後処理で臨時休校になったからである。特に事件に巻き込まれた形の1-Aに対しての配慮云々だろう。なので平日のこんな時間でも家に居れるのだが、フランの心境は複雑であった。
(そういや、こいつに話してなかったんだっけか……)
電源が付いてるテレビを見れば雄英で起きた出来事についての特集が流れている。ヒーローを育てる学校にヴィランの集団が現れたのだ。他のテレビ局も同じように放送しているので電源をオフにする。
昨日は家に帰った後、飯食べて風呂入って……他は何もせずベッドに横になった。先にフランがここにいたのだが、あまり会話せずに寝室に入ってしまった。学校の方でもあらすじを聞いてるはずなので不安視するのは当然だろう。
「悠月、ちょっとこっち来て」
フランを方を見ればカゴを側に置き、ソファーに姿勢良く座っていた。真剣そうな雰囲気でポンポンとソファーの半分が叩かれる。その部分が空いているので座れということだろう。よっこいせと年寄りのように座る。
幾らか間を置いてフランの口が開いた。
「ヴィラン襲撃の件って悠月関わったよね」
「そうだな」
「何があったか聞いても良い?」
テレビや学校側の話では知り得ない内容はある。彼女は当事者である悠月からその部分を知りたいと思っているのだろう。無事なのはこうして隣にいることで分かってはいるが、それでも心配するはずだ。
USJであったことを悠月はかいつまんで説明をする。訓練に入ろうとした時にワープの個性で攻めてきたこと。その時オールマイトがいなかったこと。その後バラバラに飛ばされて各々対処したこと。
_____そして敵の主力と戦ったこと。
「その主力の奴って強かったの?」
「ああ。俺の攻撃を耐えるのに加え、超パワーを兼ね備えた身体。オマケに“超再生”なんて個性も持っていて………」
ここで悠月は言葉が詰まる。その顔は言うべきなのか迷っている様子だった。
「そこからは言えない事なの?」
「………そうだな。根拠がねぇし、俺自身も確証得られねぇ部分だ。お前に話して混乱させるのも悪い」
一息つく。悠月は伝えるべきでは無いと判断した。いつもなら何を隠しているのかとフランは突っかかるのだが、今回はそれがない。悠月の様子を見て追求すべきでは無いと気遣ったのだろう。そっか……と彼女は引いてくれた。
ソファーに背を寄りかからせて天井を見上げる。彼の中には一つの仮説が浮かんでいた。
(超パワーに高速再生。恐らくあのヴィランは
当てはまるものは多くある。実際脳無と戦っている間、この仮説が頭をよぎっていた。
勿論、悠月の勘違いかもしれない。他の研究から持ってきた奴なのかもしれないし、
だが今回の首謀者と見れた死柄木という人物。奴があのヴィランを作る環境を整えられるとは思えない。ならば彼の裏で糸を引いている者がいるということだ。
オールマイトを殺すという理由。平和の象徴という大きすぎる存在が消えればヴィランの活動は活発になる。それが彼らの狙いなのだろうか。
もしくは彼自身に因縁を持っていたのかもしれないが……
(そこまでは俺個人で分かる問題では無いな)
向こうにもダメージは与えたので
そんな考えに浸っていた中、フランは悠月の身体をペタペタと触り始める。少々
「何やってんだ」
「だって悠月……昨日怪我してたんでしょ」
確信をもった言動で話す。怪我は昨日の時点で治っていたのだが、過去形で話しているところ彼女にはお見通しのようだった。
「リカバリーガールのとこ行ったからな。怪我を治す個性ってのは対象者の体力を使うだとよ。まあ、あの個性を体験出来たのは______」
「悠月が怪我するほど。それくらい大変だったってことだよ」
フランは声を少し張り上げて悠月の言葉に被せる。USJで怪我をしていた悠月と緑谷はあの後保健室に寄っており、“癒し”の個性の恩恵を受けていた。
強敵と戦ったとはいえ、あまり触れてほしくないのか適当に流そうとする悠月に彼女は少しも眼を逸らせずに見つめていた。
「ねえ悠月。あの力……
「……………フラン」
悠月が何か言おうとしたのと同時にフランが悠月の胸に飛び込んできた。危なげなく受け止めるが、触れ合うその身体が震えていることに気づく。突然の行動に驚くが、いつものような雰囲気ではない。
状況的に動けないのでこのままの状態が続く。ふわりとした彼女の甘い香りが鼻をくすぐった。
数分か、それ以上たったか………
悠月はフランの背中に手を置き、優しくたたく。抱きしめるその細い腕は常人の何倍もの力を出せるとは思えない。今のか弱い印象が相まって力を入れれば壊れてしまいそうだ。
「夜……心配で寝れなかったんだからね」
「ああ」
「ろくに会話しないで寝室行って、少しは心配した身になってよ」
「………わりぃ」
「大体悠月は勝手に物事進めて一人で理解して……一緒にいるこっちは大変なんだから」
なんか心配から説教に変わっていく気がしないでもないが、言い返さず留めておく。一応悪い点ということで受け止めようと思ったからだ。
………ある程度愚痴を言い終わったからか再び静寂の時間が訪れる。今度は悠月の方から口を開いた。
「大丈夫だ。俺は簡単には死なねぇ。それはフランが一番分かってることだろ?」
「うん」
「だから…………もう離れてくれねぇか」
悠月の言葉を聞いて「ブゥー」と不満そうな音を出す。今の一言は彼女を一気に不機嫌にさせるほどだったらしい。普通こんな美少女に抱きつかれてそれは無いでしょ……などと文句を言ってるが、この後だって飯作ったり昨日出来なかったことを片付けてしまいたいのだ。
「良いし。私だって勝手にやるから」
そんな悠月の意思など無視してフランはあーだこーだ言いながらモゾモゾと動く。人の足を勝手に移動させていわゆる膝枕の態勢を作り、そこに寝転んだ。こちらを見上げるフランは満足そうな顔をしており、まるで機嫌の良い猫のようだった。
「腹減ってんだ。さっさと離れろ」
「確かに。私もお腹空いたな〜」
「まだ飯食ってなかったのか?インスタントあっただろ」
「だって悠月のが食べたいし」
食ってねぇなら早くどけと言っても「今はそんな気分なのー」と返され、横になったまま無駄にくっついてくる。雄英の授業は土曜日もあり、休みなのは日曜だけだ。彼女としては休みとなった貴重な一日を一緒に過ごしたいと思っているのだろうが、こちらとしては良い迷惑である。
……膝枕をしている間、特にやることが無かった悠月はフランの髪に目がいく。彼女が寝ているのを良いことにその金髪に触れた。
「ん…………」
ピクッと一瞬反応するが、目を閉じて受け入れるかのように動かなくなる。指を通せば引っかかることは無く、サラサラと流れていく金色。頭を撫でるようにして触り心地を堪能する悠月だったが、彼女も気持ち良さそうに身を預けていた。
_____何分か経って撫でていた手を止める。若干名残惜しそうな声を漏らすフランだったが、二人とも流石にお腹がすいていた。
「朝飯……というかもう昼飯か。作ってやるから待ってろ」
「わかったー」
んんー!とフランは身体を起こし伸びをする。そして消したテレビを再び付けて鼻歌を歌いながら録画の一覧を見始めた。
そんな自由な行動をする様子に悠月は呆れた後、キッチンに行こうとする。簡単なやつでいっかと頭に料理を浮かべるが、ここで素朴な疑問が浮かんだ。
「なあフラン」
「なに?」
「なんで自分の洗濯物をこっちで干そうとしてたんだ?普段分けてんだろ」
洗濯については各自でやるよう決めてある。今回は悠月の分をフランが代わりにやってたのだが、洗濯機は一台ずつある。自分の洗う物を持ってくる必要は無いはずだし、年頃の女子が男物と一緒にやっても良いのかと疑問に思ったのだ。
悠月の質問にフランは答えようとしたが、何故か顔の温度が急激に上昇したかのように赤くなる。
「そ、それは…………一緒に洗濯すれば手間なく出来るかなって。ダメだよ!干すのは私がやるから!!」
「俺のやってくれたのは礼を言うが、自分のやつは自分のところのベランダで干せよ」
軽い気持ちで聞いてみたのだが、何か隠していると怪しむ悠月。そんな視線を食らって彼女は更に
「それは口実の一つで本当は悠月の……じゃなくて……
も、もしかして、私の下着見たいの!?ゆ、悠月のエッチ」///
「あーもういいや。適当にやっといてくれ」
何か隠しているのは分かるが、追求するのも面倒臭い。会話を切り上げて悠月はキッチンに向かった。「なにその反応ー!!」とフランは怒りながら再び引っ付いてくる。なんだかんだいつも通りの騒がしいやり取りだった。悠月は隠さずに大きいため息を吐いた。
*
臨時休校の次の日______
身体の調子が元に戻り、本日より授業は再開される。いつも通りの時間に家から出て学校に行こうとするのだが………
「本当に大丈夫?調子悪いとかない?」
「心配しすぎだ。渋ってねぇでさっさと行くぞ」
結局あの後はテレビ見たり、ゲームを一緒にやらされたりと休日らしい事をした。フランに振り回される形だったので、やりたいことが全然出来なかったのが不満な点だったが……
いざ登校しようと日の下に出れば、やたらとこちらの心配をしてくる。太陽光が嫌なのを他の理由で正当化するためだろう。悠月は一瞬、体調不良を理由に休もうかと考えたが、リカバリーガールに状態は確認されている。その後の対応が大変そうだと諦めた。
学校に着き、フランとはA組の前で別れる。相変わらずの馬鹿でかい大きさだと毎度思いながらドアを開けて教室に入った。
「おおー回夜!!怪我の方は治ったのか!」
「ヴィランの主力と戦ったみたいだけど大丈夫だった?」
いつも絡んで来んな的な雰囲気を出してるのに何故か話しかけてくる芦戸と上鳴。その声に釣られてなのか数人のA組の生徒が悠月の席に集まってきた。
「…………何でこんな集まってくんだよ。そんなてめぇらと仲良しした覚えねぇぞ」
「まあ良いじゃねえか!活躍したんだし、聞きたくなるのも当然だろ!」
「おお!最後の方見てたけど、あのでっかい奴を無力化したのマジ凄かったぜ!」
「俺は暴風ゾーンに飛ばされていたからな。是非回夜本人から聞かせて欲しい」
上鳴、切島、常闇の順に話す。ここまで話が広がったのは近くで戦闘を見ていた緑谷たちが状況を周りに話したからだと言う。特に峰田がバーン!とかガガガガ!などの擬音を用いて話を大きくしていたとの事。
「……………」
「ひぃ!!」
とりあえず峰田の方を見る。何故か震えた表情でこちらを見ていた。そこで再びドアが開き、誰かが教室に入ってくる音がする。
「お早う」
「「「「相澤先生復帰早えええ!!!」」」」
両腕をガチガチに包帯を巻き、揺ら揺らとした足取りで現れた相澤。生徒からは心配の声が上がるが、気にすんなと返した。
チャイムが鳴りHRを始めるのだが、戦いが終わっていないと相澤は意味深な発言をする。戦いというのはまたヴィランが襲いに来るのかと緊張が走るが…………
「雄英体育祭が迫っている!」
「「「「クソ学校っぽいの来たあああ!!」」」」
高校の
その後体育祭について説明がされ、最後に相澤は全員に告げる。
「時間は有限。プロに見込まれればその場で将来が拓けるわけだ。年に三回しかないチャンス、ヒーローを志すなら絶対外せないイベントだ」
この言葉がA組の生徒に大きく心に残る。自分を周りに魅せようと考える者。闘争心を湧き立てる者。先の出来事だが緊張感を持つ者。皆それぞれの想いがあった。
それはこの場にいる悠月も例外ではなかった。
(ヒーローを志す……か)
事件のこともあり、自分たちに注目は多く集まるだろう。しかしそれが自分の本意なのか。ヴィランと戦ったことで彼の中でどうするべきなのか悩みが生じていた。
*
放課後_____
授業が終わり、教室で他の生徒と話したり、そのまま帰ろうとする者がいる中、今日はいつもとは違った状況となった。
「うおおお……何ごとだあ!!?」
A組のドアの前に多くの生徒がこちらを覗いているのだ。人が多すぎて廊下に出るのがかなり厳しいほどになっている。
峰田が何しに来たのか尋ねたが、爆豪が敵情視察だと言って一蹴する。ヴィランの襲撃を受けて生き延びたA組のことを一目見たくてやった来たという予想を立てるが、「どけモブ共」と眼中に無い様子。正に大胆不敵である。
「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
すると廊下人混みの中からボサボサの髪に目の下に
どうやら彼は普通科の生徒のようでヒーロー科に受からずに他の科に入っている者も多く、体育祭の結果によっては普通科からヒーロー科に編入の可能性があるらしい。その逆も
「敵情視察?少なくとも
(((この人も大胆不敵だな!!)))
言いたいこといって宣戦布告を仕掛けてきた彼に対して緑谷・飯田・麗日が同じ感想を思った中、またしても生徒の壁を大声でかき分けて来る者がいた。
「隣のB組のモンだけどよぅ!!ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!!」
(((また不敵な人キタ!!)))
本番で恥ずかしい事んなっぞ!!とヤンキーばりの
「失礼しまーす。ゆづきー、一緒に帰ろー!」
(((
喧騒とした雰囲気の中、争いを止めるために舞い降りた天使のように現れたのはご存じフランドール・スカーレット。ちなみに整った顔に愛くるしい性格からB組ではアイドル筆頭として扱われているという。
彼女が顔を出したことでA組に立ち込めていた緊張感というのが和らいだ気がした。しかし、それを歓迎していない人物が一人。
「おめぇ、この状況で出てくるか…………」
「え?何か取り込み中だった?」
彼女の来訪の内容が『悠月』という人物に対してということで当然呼ばれた本人に注目が集まる。悠月の席はそこそこドアの前に近い席なので今もフランと周りの奴らがこちらをガン見しているのだ。若干というか確実に自分にヘイトが集まってることに違う意味で厄介事になって頭を抱える。
「…………いや、もういい。行くぞ」
よく考えれば爆豪のように気にしないスタンスをとれば良いかと結論づける。廊下の連中特に男子からはリア充爆発しろ……!後ろからはうぎぎぎ……!と
フランが通ろうとすれば自然と道が出来る。これに便乗してバックを担ぎ教室を出ようとする。
「…………チッ」
その途中、爆豪の横を通り過ぎようとした時イラついた表情でこちらを睨んでいた。違った視線を受けたことに気づいていた悠月だったが何か行動を起こす訳でもなく、そのまま廊下へと足を進めた。
遅い起床
→休みの日になると朝食・昼食が一緒になります。
あいつとは?
→間接的に行動起こしてる人物ですかね。完全に出せるまでどのくらいの日が必要なのか……
悠月の本気
結論を言うと全力はまだ出していません。ここでの扱いとして“未元物質”で形成された翼の枚数は引き起こせる事象の規模、簡単に言えば本気度によって増える設定です。一対、二対、三対みたいな。
俺にはあと2回進化を(ry
洗濯
→親しい人だから代わりにやってあげただけ。途中何してるのかは秘密です。
相澤先生
→顔ぐしゃあ!をやられてないので微妙なるミイラマンに。顔に絆創膏になり、原作とは変更。
心操くん
ヒーローになりたい理由を聞いた時は普通にかっけえと思いました。この場面では誰かの成長を促すやられ役だろ、くらいでしたが……
舞い降りた天使
→天使という風に表現しているが、彼女は悪魔(吸血鬼)である。まあそんなこと気にならないね!
怨念込められた視線
→世にいる『彼女いない勢』から放たれる質量をもった視線。
ちなみにA組からは二つほど発生していた。