……空気が重い。
搭乗員室のソファで徹子は備え付けのカールスラントの雑誌をぺらぺらとめくっていたが、周囲の雰囲気のせいでのんびり読むような気分ではなくなってしまった。
「大丈夫、大丈夫大丈夫、ユーリでも出来たんだもん、私でも大丈夫……」
自分の目の前で呪文のように大丈夫と唱え続けるベレーナ。大丈夫じゃない。完全に肩に力が入りすぎている。
「アンネ、私扶桑の緊張を解くおまじないを萩谷准尉に聞いてきたの」
「マジで、そんなのあるの?」
「手のひらに三つ人(Menschen)って書いて飲み込むんだって」
「それって効くのか?」
「だからさっきからずっと試してるんじゃない」
他の2人も似たようなものだった。ていうか長い、スペルが長い。手のひらに収まらないだろ、それ。
あれだ、これ。ハンナが睡魔に襲われて部隊編成を間違えたに違いない。午前中はアンジェラにハンネ、信乃と経験の積んだ奴が3人いたのにこっちは逆に自分以外の3人がひよっこだ。配分がおかしい。
多分ハンネとアンネだ。『h』のつけ間違えが致命的な事態を引き起こしている。
あるいは余程自分の指導力が評価されているという事か。
いや、それはないか。カールスラント人がハギを見てオレに教育をまかせるはずがない。
まあ、兎に角、空気は変えたいところだ。
「あー。お前ら」
徹子のかけた言葉にびくっ、とベレーナ達が肩を震わせる。
あぁ、まずい目をしている。空でこんなに委縮した目をしていたら、真っ先に落とされる。
咄嗟にため息を押し殺し、逆に、口元に不敵な笑みを浮かべる。
「緊張してるな?」
徹子の問いに、少しためらった様子だったが、やがてこくり、と三人のウィッチが頷く。
うむ、と一つ頷き、手にした雑誌を机の上に投げ捨ててその場に足を組む。一つ一つの動作を大げさに、まるで舞台に観客を引き込む俳優のような仕草で、徹子は口を開いた。
「確かに、お前らはまだひよっこだ。だが、訓練はしてきた。なら、きちんと飛ぶことが出来る。飛ぶ事さえできれば後は敵を倒すのに必要な事は?」
ベレーナと視線を合わせる。教師に指名された生徒のようにおずおずと、ベレーナが答える。
「ええと……射撃の腕ですか?」
「それもあるが大して必要な事じゃない。お前はどう思う?」
「勇気……とか……」
「それも大事だ。だが、それ以上に大切な事がある」
そういうと徹子は自分の目を指さして、口を開く。
「敵に見つかる前に敵を見つける事だ。どんなに素早い敵でも、レーザーを沢山撃ってくる敵でも、奇襲をかけて何かさせる前に落とせば問題はない。解るな?」
「ヒットアンドアウェイ……ですか?」
ぽつり、とベレーナが呟く。成程、見た目通り座学は優秀そうだ。
「……でも、どうすれば?」
人(Menschen)の字を飲み込んでいた少女が尋ねる。
「見るんじゃない、感じるんだ」
適当にそれっぽく答える。
「まあ。お前らにはまだ早い」
そうやって余計な不安は煙に巻いてやる。ようはこいつらを、自分の意のままに動くように誘導してやればいいのだから。
「いいか、敵はオレが見つける。空に上がったらお前らはオレの背中以外見るな。オレの背中についてきて、オレが銃を撃った時だけ前を見ろ。そしたらそこにネウロイがいる。オレと一緒に撃ってオレが銃を降ろしたら、同じように撃つのをやめてまたオレについて来い。それだけでいい。そうすれば必ず勝てる」
「そ、それだけですか?」
「それだけだ。それでハギはエースになった」
ここに信乃がいれば目を吊り上げて抗議するだろうが、敢えて名前を借りておく。皆が良く知ってる奴の方が具体性があるからだ。
不安が完全に取り除かれたわけではないだろう。だが、空に上がってどうすればいいか、具体的な指針を与えられた事で、ベレーナ達の表情から委縮のような色は薄れてきた。
「……ただし、オレについてくるのは簡単じゃないぞ。オレが銃を撃つまで、お前らは瞬きもするな。もしオレを見失ったら、すぐに戦闘空域を離脱して基地に帰れ」
最後に駄目押し。戦えない奴を守りながら戦うのは、ある意味一人で戦うより困難だ。
真っ直ぐ三人の目を見やる。
「そのくらいは出来るな?」
その言葉に三人が頷く。最初に比べれば大分マシな顔になった。
さて、このくらいで良いだろう。
「話は以上だ。レシュケ曹長」
「は、はいっ!!」
「全員分のコーヒーを淹れてくれ。オレのは砂糖とミルクも頼む」
「え……あ、はいっ!!」
徹子の言葉に一瞬きょとんとした顔を浮かべていたが、すぐにベレーナが立ちあがる。
「お前らはブラックでいいのか?」
その言葉に他の2人もミルクと砂糖を注文する。ベレーナが私も同じでいいですかと聞いてきたので、徹子がそこまでオレに命令権はないと答えると、小さいながらも搭乗員室に笑い声が漏れた。
緊張感は依然として残るが、先程とは違う緊張感だ。少なくとも、嫌な感じではない。
投げ出していた雑誌を再び手に取ると、ソファに背中を預ける。
後はナイトシフトの時間まで平穏に過ごせる事を願うだけだ。
そう。それだけだったのだが。
ガリアにおける扶桑の神様のコネもそろそろ限界なのか、リヨン基地に未確認機襲来を告げるサイレンが鳴ったのは、甘ったるいコーヒーを飲み干そうとしたその時だった。
ハンガーの中は出撃に備え多くの兵士たちがせわしなく準備を整えている。
徹子は地図を片手に通信兵から届く情報を頭で整理しながらも、緊張した面持ちのベレーナ達を横目でちらり、と見やる。
レーダーに引っかかった飛行物体は二機。反応からして小型。ディジョン方面からこちらへと向かってきている。経度と緯度、飛行速度はと、次々に徹子の耳に情報が飛びこんでくる。
その間も三人の若手たちは飛行脚を始動すべく足をいれ、手順通りに飛行前のチェックを行っている。徹子からすればまだるっこしいくらいにゆっくりとしているように思えるが、それはそれで悪くない。
こういった手順を新人のうちから簡略化したり、サボったりする奴は大抵先が長くない。
機体に乗った瞬間にコンディションが掴めるくらいに慣熟しても尚、不慮の事故とは起こるものだ。ひよっこのうちからエースのまねごとをしても意味はない。そして、エースになっても慢心を忘れず基礎を徹底する。
だからこそ、カールスラント軍は規律正しく、故に、他国からは融通が利かないだの堅苦しいなどと言われたりするが、徹子からすればそんな事だから撃墜数をカールスラントの連中に独占されるのだと言いたいところだ。
こういったしつこいくらいの基礎の反復こそがカールスラントの精強なウィッチを生み出す所以だというのに、それを殆どの国が理解していない。
嗚呼。素晴らしい。流石規律の国カールスラント。
頭の片隅でそんな事を考えつつ通信兵の情報をまとめていると、ふとした違和感が徹子の脳裏をよぎった。
「……」
その違和感に思わず徹子が眉を顰める。
猫だと思って一生懸命組みあげてきたジグソーパズルが途中で実はそれが犬だったと気が付いた猫派のような、そんな顔だ。
「おい、通信兵。無線警告はしたのか?」
「いえ、警告がネウロイに通じるんですか?」
……まあ、カールスラント兵も人間、中には横着な奴はいるという事だ。こいつがウィッチではなくて本当に良かったと思う。
「……後でお前の処遇をフィリーネ司令代行に具申しとくからな」
「えぇ!?」
徹子の言葉に通信兵が慌てて警告無線を送るとか言い出したが、徹子はそれを止めさせる。
どうせなら、利用させてもらうまでだ。
内心でほくそ笑みながら次から気を付けろとだけ言い残し、自分もユニットに足を通した。
「三人とも、準備は出来たか?」
機体のチェックをしながら既に離陸準備をしている三人に確認する。
「はい、レシュケ曹長、準備完了ですっ」
「マイヤー曹長、大丈夫です」
「ヴェーネルト曹長、行けます!!」
緊張感はあるが声が震えるまでではない。エンジンと同じで人の思考や感情もレッドゾーンに入る程に昂っていては危険だが、適度に回していないといい動きをしないものだ。
そういう意味では今の三人は良く回っているといっても良いだろう。
「了解だ。整備兵、エナーシャ回せ」
その言葉に整備兵が手回しで零式のエナーシャを回す。くぉん、と音を立ててエンジンがゆっくりと始動準備を開始する。他の国のユニットと違い、零戦のエンジンの始動は自動ではない。専用のハンガーゲージがあれば、機械が自動的にエナーシャを回すのだが、そんな最新設備の無い臨時基地では、整備兵がエナーシャを回す必要がある。
「エンジン出力よし、フリップ、トリム中立……」
機体の隅々まで確認する。カールスラントの整備兵の腕は素晴らしい。何が素晴らしいのかというと、常に同じような状況に仕上げてくれる。マニュアル通りと言えば聞こえが悪いが、それは裏を返せば必要にして十分なラインを常に保っているという事の裏返しだ。
扶桑が悪いというわけではないが、扶桑の技術屋はなんというか求道気質というか、当たり前の事以上をして当然という気質があるというか、頼んでもいないのにエンジンの出力を強化したり、こちらの体調を勝手に察してセッティングを微妙に変更したりしてくる。
徹子からすれば思い通りに動けばそれでいいし、むしろ毎回均一なセッティングにこちらから合わせていく方が好みである。だが、下手なことを言うと職人気質の整備兵長がへそを曲げるので言いたいことも言えない。
というか、ウィッチの体調に関しては本当に放っておいてほしい。これでも一応まだ10代の乙女なのだ。今日は『あの』日のはずですから振動を極力抑えましたとか、何で飛び立つ前から精神に深刻なダメージを食らわなくてはいけないのか。しかも、奴らは純粋に良かれと思っているのが猶更質が悪い。
「出撃準備完了、滑走路チェック」
「滑走路チェック、異常なしです」
ベレーナが返事を反す。チョークが外され、4人のウィッチが空での編隊の位置のまま、滑走路に進んでいく。
着地の時もそうだが、ウィッチは飛行機に比べ格段に小さい。当然離陸も複数で行う事が可能で、空で僚機を待って編隊を組まずとも地上から編隊を組み、そのまま離陸する事が出来る。細かい点だが、これも航空機にない航空ウィッチの利点の一つだ。
夕焼けの空に向け、シュヴァルムを組んだ徹子達が飛び立つ。
「いいか、命令は一つ。お前ら、しっかりついて来い」
「「「了解!!」」」
無線の向うからの声に、徹子はエンジンの出力を上げる。空へ、瞬く間にウィッチ達の姿が小さくなり、そして消えていった。
早い……。
内心でベレーナが呟く。徹子の背中を二番機の位置で追うが、正直ついて行くのがやっとといった感じだ。旋回性能以外はメッサーシャルフの方が零式より優れているはずなのだが、後ろからついていてもそんな事を感じさせない。ふとすれば舵を切った徹子を追い抜きそうになったり、旋回が大きくなったりと、一時たりとも気が抜けない。他の2人はどうか確認する余裕もない。編隊を保ったまま飛ぶ事がこんなに大変に感じたことは無い。
扶桑のトップエース。そんな言葉が頭をよぎる。目の前の中尉は実績、経験ともまさにそう呼ぶにふさわしいし、先日の戦闘で助けられた時も思わず痛みを忘れて息を飲むほどの美しい戦い方だった。
そう、美しかったのだ。究極まで無駄を削ぎ落した動きというのは美に繋がるというが、たった一回のズームアンドダイブで感動したのは初めてだった。
自分も、そうなれるのだろうか……否、そうなりたい。
そんな思考をしていると急に徹子が速度を落としたので編隊を乱しそうになる。いけない。
飛ぶことに集中しなくては。
そう言い聞かせ、ベレーナはじっと徹子の背中を見つめ、余計な思考を頭から追いやった。
一方徹子は背後の様子を時折横目で確認しながら、内心で小さく笑みを浮かべていた。
ベレーナがついて行くのにやっとだと思ったのはある意味当然である。何故なら、徹子は『意図的に』そういう動きをしているからだ。信乃が僚機にいたら、『遊んでないで真っ直ぐ飛んでください』と罵声が飛んでくる事だろう。
では、何故そんな動きをするのか。勿論意図はある。
旋回や急加速、制動を動きに加え、敢えて追随しにくい、だが、脱落するほどではないような動きを交えてやることで、後ろの僚機たちに自分の背中に集中せざるを得ない状況を作り上げる。これで恐怖や逡巡など、飛ぶことにとっては余計な思考を僚機の頭から飛ばしてやることと、ついでに新人たちの現在の練度も推し量ることが出来る。カールスラントのウィッチの育成技術は優れていると聞いたことがあるが、成程、新人でも機体に振り回されたり、咄嗟の動きが出来なかったりすることが無い。
後で信乃が新人だった頃の話をしたらさぞかしベレーナたちは安堵するだろう。信乃は激怒するだろうが。
さて。
徹子は十分な高度を取ったことを確認し、視界を下に移す。
索敵というのはただむやみに目を皿にするだけでは意味が無い。相手の位置、速度、進路から、その日の天候、地形、時間諸々、肌で感じるすべての情報を経験則に照らし合わせ、限りなく正確な予測位置を割り出す事が肝要なのだ。
そして、徹子の見立て通りなら、数秒と立たないうちに、そこに『それ』は現れる。
「行くぞ」
徹子が短く呟き、加速しながら機体の高度を下げていく。夕日の光を受けて、一瞬きらり、と何かが光った。
目標の背後に忍び寄るように旋回を加え、相手の2時方向から6時方向へ。時折反射する光以外全く見えなかった相手が徐々に点になり、そして大きくなっていく。もしネウロイ相手なら、完璧に奇襲に成功したタイミングである。
だが。
「あれ……?」
呟いたのはベレーナだった。
「余裕があるな。オレは背中だけを見てろと言ったはずだが」
「いや、でも、あれ……」
その言葉に他の2人も目を丸くする。自分たちはネウロイを追っていたはずなのだ。何故そこに、『自分たちの上官』がいるのか理解できないといった顔をしている。
「持ってろ、レシュケ軍曹」
構わずに徹子は手にしていたMG42を放り投げ、目標に向けてさらに加速する。エンジン音に気が付いたのか、振りかえった信乃が目を丸くするが構わず、すれ違いざまに信乃が肩から下げていた99式2型2号機関銃を奪い取る。
「なー!?」
信乃が素っ頓狂な声を上げる。
「よし、弾は残ってるな。結構結構」
「何で!?そこまでしますか!?頭おかしいんじゃないですか!?」
銃を掠め取られた信乃が叫ぶ。
「若本中尉、一体どういう事です、これは?」
訝しむようにハンナが尋ねる。たかが銃を奪うために部下を引き連れ空に上がるなど、信乃のいう通り正気の沙汰ではない。
「それはこっちの台詞なんだがなぁ」
だが、徹子は二人の非難がましい視線を受けても飄々と肩をすくめた。
「オレはただ、未確認機が近づいているって連絡を受けただけだ。まさかロンドンに向かってるはずの司令代理殿が連絡も寄越さず戻ってきてるなんて、解るはずないだろ?」
「……え?」
信乃の非難がましい目がそのまま徹子の脇へそれる。
そして、新人たちもその言葉に信じられないものを見るような目が、司令代理……ハンナへと注がれる。
「連絡、しなかったんですか?」
ぽつり、とジト目の信乃が尋ねる。有り得ないものを見る目だ。
たらり、とハンナの額から汗が一筋垂れる。
「ええと、それは……したような……してなかったような……」
してません。完全に忘れてました。
「予想外のネウロイの出現に基地は大騒ぎだったなぁ」
「そう……ですか……」
徹子の言葉にハンナの顔から血の気が引いて行く。
「隊長……」
「まさか隊長がそんなミスを……」
「嘘でしょ、隊長……」
ひそひそと耳に届く新兵の小さな声。
銃を持つ手が震える。こんな羞恥プレイ、雷に怯えて枕を被っていたところをキッテル少尉に見られた時以来だ。内密にするよう念を押したのに気が付いたらJG54の200機撃墜のエースで大人しいけど意外とお茶目で雷が怖い人、という自分を形成するアイデンティティの一部に組み込まれる程に話が広がっていた。許さない。あの子だけは絶対に許さない。
現実を直視するのに耐え切れなくなったのか、うつむいたままぶつぶつと呟くハンナを無視し、徹子が基地へと連絡を入れる。
「予想通り司令代理殿だ。言われた通り、ちょっと釘を刺しておいた……ああ、了解」
通信を切った徹子がハンナに追いうちの一撃となる一言を伝える。
「アンジェラが帰還後第直ちに司令室へ出頭するように、だと」
「……了解です」
えー?私一応司令代理なんだけどなぁ。結構お仕事頑張ったんだけどなぁ。交代かなぁ、それとも更迭かなぁ……。
がっくりと肩を落とすハンナ。先程小細工を弄してJFWの基地に乗り込んでいった人物と同一人物とはとても思えない姿だ。
「それじゃあ、帰投するぞ」
徹子の言葉にハンナと信乃も含めたウィッチ達が帰路に付いた。
「……あれ、シノさん、それは……」
「コーラ」
ベレーナの問いに銃を奪われて激おこな信乃がそっけなく答える。
「コーラ?ひょっとしてそれを仕入れるためにわざわざロンドンへ?」
「偶然拾った」
「落ちてるものなんですか、それ」
首を傾げるベレーナだが、視線は信乃の手にしているコーラのケースに注がれている。リヨン基地にかぎらず、欧州の戦場では嗜好品は貴重である。甘味、それもリベリオンのコーラなど、リベリオン部隊でもない限りは余程の事が無いと手に入れるのが困難である。
いいなぁ、欲しいなぁ、というベレーナの無言の視線に、信乃が開きかけていた口を止める。
ピンときた。自分だけでは持て余すのであれば、有効に活用しない手はない。
「……ベレーナ、一本いりますか?」
「いいんですか!?」
ぱっと笑顔を見せるベレーナ。
「別に構いませんけど……あたしも結構手に入れるのに苦労したんですよ……」
信乃の表情にベレーナも意図を察したのか、ちらり、と隊長がこちらを見ていない事を確認すると、そっと信乃の方へと身を寄せ、小声で尋ねる。
「……何が望みですか?」
先程も言ったが、戦場に置いて嗜好品とはそれだけで価値のあるものだ。そしてそれはしばしば取引の材料にも用いられる。
それは教本に乗っていなくても、訓練学校時代からのウィッチの基礎の基礎で、新兵だろうが歴戦のエースだろうが、常識として身に着けているのがウィッチの嗜みというものだ。当然、ギンバイの上手いウィッチは撃墜数に関係なくグレートエース並の尊敬と人気を集める事となる。
「あたし、チョコレートが好きなんですよ」
「チョコレートですか……それは……」
ベレーナが思案する。ウィッチ達の中でもチョコは極めて人気の高い配給品であり、ベレーナにとっても大好物の一つである。それをおいそれと譲る訳にはいかない。
「……じゃあ、コーラ二本で」
「乗りました」
信乃が頭で計算をする。これで自分の手元にはチョコレートが自分の分も含めて二つ、コーラは10本。弾としては十分なスタートを切れる。
現時刻をもってこの作戦を
最終目標は酒。それも配給では手に入らないクラスの上等な奴が好ましい。
酒を手に入れれば後は整備兵だ。上手く丸め込み、徹子にとられた銃を隙を見て奪還する。
待っててね、あたしの可愛い20mm。
決意の籠った眼差しで信乃が徹子の背中から下がっている99式2号2型を見つめる。
ハギのヤツ、何かまた馬鹿な事を考えてるな。
信乃の視線を浴びながら、徹子は小さくため息をついた。