チリチリするの   作:鳩屋

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14.偶発的な共同戦線

「ハギ、敵の数は?」

 

「中型が1、小型が9……いえ、今7になりました」

 信乃が眼下の光景を見て返事を返す。

「こちらリヨン臨時基地、JG54だ」

『もう来たのか?助かる』

『このまま全部落とそうかと思ってたんだけどなぁ』

 徹子の無線に二者二様の返事。リベリオン海兵隊の制服を着たマリアンと、陸軍の飛行服を着たカーラが、ネウロイと交戦している。

「だそうだ。ユーリ、ベレーナ、506に獲物を取られるなよ」

「「了解!!」」

 ユーリとベレーナが返事を返す。

 そのまま急降下。

 マリアンとカーラに食らい付いているネウロイへと向かい、99式2型2号の20mmと、MG42の7.92mmが一斉に火を噴いた。

「まず一機」

 そう呟いたのは信乃。そのままくるり、と体を180度捻ると上空の敵のネウロイの集団へと向き直る。地面を背に更に打ち上げの一射。もう一匹の小型ネウロイを撃墜する。

「いいぞ、シノ、そのまま誘い込め!!」

「うぅ、マリアンまでどっかの誰かみたいな命令しないでくださいよ」

 ぼやきながらも信乃がそのままくるりとその場で旋回しつつ上昇。スプリットSを逆にしたような挙動でネウロイの集団に飛び込む。小型ネウロイにとっては獲物が飛び込んできたようなものだ。

 一斉に信乃にチリチリが集中する間に、マリアンとカーラがその場から急上昇して高度を取る。

 

「この、このっ!!」

「当たって~っ!!」

 一方、中型に向けて飛び込んだのはユーリとベレーナ。

 7.92mmの弾丸はネウロイの黒い装甲を削るが、攻撃が集中しないせいで中々コアを発見できない。

 攻撃を受けた中型がゆっくりと旋回しながら、ベレーナとユーリに向けて反撃のレーザーを放つ。

「わわっ!?」

 ユーリがシールドを張り、ベレーナは攻撃を諦めて旋回しながら攻撃をかわし、そのまま上昇する。

「ユーリ、一旦上がって!!」

 ベレーナが叫ぶがユーリの耳には届かない。

「このぉっ!!まだまだっ!!」

 熱線を防ぎきると同時にユーリが再度反撃。ばらまかれた弾が回復する前のネウロイをさらに破壊する。

 そして、ついにそのうちの一か所が硝子のようにはじけ飛び、赤いコアが僅かに見えた。

「あった!!コアっ!!」

 ユーリが興奮したように叫び、狙いを定める。しかし。

「こら、後ろもちゃんと見ろ、ちっこいの!!」

 背後からの声と同時にユーリが突き飛ばされる。

 ほぼ同時に、後ろから一条のレーザーがユーリの背後を襲うが、間に割って入ったカーラのシールドがそれを防ぎ、逆に手にした水冷式M2重機関銃を叩き込む。

「わわ!?」

「全く。ほら、ちっこいの。ついてきなっ」

 小型を撃墜したカーラがユーリを後ろに続かせる。

「もぅ!!もう少しで落とせたのにーっ」

「元気が良いな、お前」

 素直に従いながらも悔しそうに叫ぶユーリを見てカーラが苦笑する。

「コアっ!?私がっ……」

 一方、上昇していたベレーナもユーリがコアを発見したのを見てその場で旋回、再度中型へと向かおうとする。

 しかし。

「残念だったな」

 その声と同時に上空から徹子がベレーナの目の前をよぎっていく。中型に狙いを定め、一射。

 急降下の勢いを殺さずそのまま上昇に転じるのと同時に、中型がぱん、と音を立て光の粒へと代わる。

「あぁっ!?」

「早い者勝ちだ。次を喰いたきゃついて来い、ベレーナ」

「っ、今度こそっ!!」

 にっ、と笑みを浮かべる徹子の言葉に、ベレーナがその後を追って上昇する。

「あぁもう、しつこいですね!!」

 中型から小型を引きつけていた信乃が叫ぶ。その数は4。チリチリのせいで被弾は無いが、常に背後から敵のレーザーが飛んできている状況は余り長続きさせたくはない。

「待たせたな、シノ!!」

 その言葉と同時にマリアンが信乃の斜め後ろの8時方向からネウロイへと飛び込み、信乃の背後に食らいつくネウロイに向けてM2を掃射する。そのうちの2機を落とし、そのまま信乃のすぐ脇を交差するようにすり抜けていく。

 そこでようやく残されたネウロイたちが自分たちが罠にかかったことを悟り、二人の背後から上昇して逃がれようとする。しかし。

「ベレーナ、やれ」

「はいっ!!」

 ネウロイの逃げるであろう位置を正確に読み切り急降下してくる徹子と、その背後に付けたベレーナが同時に銃を構える。

 先日の徹子の教え通り、徹子が引き金を引くのに合わせ、ベレーナも弾き金を引く。

 残った2機の小型ネウロイも、徹子とベレーナの一斉射に合わせ、まとめて其の場で光の粒と消えた。

 それを確認したマリアンが戦闘飛行を止め、周囲のウィッチに向かって魔導無線を送る。

「こちら506B部隊、マリアン・E・カール。当空域でのネウロイの反応の消失を確認。54JG、支援感謝する」

「うぇぇ……また一機も落とせなかった……」

 魔導無線の声に、ユーリががっくりと肩を落とした。ここ数日、戦闘空域で『たまたま』506のB部隊とはち合わせるようになってから、ユーリの撃墜数も伸びていない。

「焦るな焦るな、ちっこいの。そういう時もあるって」

「むぅ、小さい人に小さいって言われたくないよっ!!」

「にゃにぃ!?恩人になんてこと言うんだ、チビ!!」

 11歳と同目線で喧嘩をする16歳ことカーラ。

「そんな奴にはご褒美のコーラはあげないぞ」

「え?コーラ!?ごめんね、カーラ。カーラはおっきい!!強い、格好いい!!」

「ははは、もっと褒めろ」

 あっさりと手のひらを返すユーリにコーラを一本手渡すカーラ。

「さあ、ぐっと」

「……これ、今開けたら噴き出す奴だよね?」

「……察しの良いガキは嫌いだよ」

 ちっ。と悪戯が失敗したカーラが舌打ちをする。全く、最近の子供は、可愛げのない。

 

「シノ、『サッチ・ウィーブ』って知ってるか?」

 マリアンに振られて信乃が首を傾げる。

「は?ウェーブ……って、何ですか?波乗りの技か何かですか?」

 信乃の頭の中で、ハワイの海でサーフィンをするカーラの姿が浮かぶ。

「アホか。何で空でサーフィンの話をするんだよ」

 マリアンが顔を顰める。信乃からすればそんな事、尋ねてきたマリアンに問い返したいが、マリアンはまあいいやと言って言葉を続ける。

「私の昔の長機……ジェーン・S・サッチ大佐が考案した、二機一組でネウロイを倒すフォーメーションだ。一機がネウロイを引き付けたまま旋回して、もう一機が反対側から旋回して撃つ。お互いに機織りを折るように交差して動くから、『ウィーブ』っていうんだ」

 あ……ウェーブじゃなくてウィーブですか。

「あ、さっきあたしの後ろから来たのって」

「そう。丁度いいタイミングだったからな。今のでコツを掴めそうだ」

「随分余裕がありますね。あたしは追っかけられていっぱいいっぱいだったのに」

 密かに練習中だった技が上手く決まったことに満足げな笑みを浮かべるマリアンに、知らず知らずのうちに実験台にされていた信乃が思わずむぅ、と口を尖らせる。

「あんなので落とされないだろ?お前の固有魔法……ええと『モゾモゾ』だっけ?」

「『チリチリ』です!!」

 何ですかその虫がお尻を這うような表現は。

「どっちでもいいや。ま、それがあるから大丈夫だろ?」

「全然大丈夫じゃないです。後、どっちでもよくはないです。絶対間違えないでください」

 全力で釘を指す。アバウトなリベリアンが間違った名前を流布しようものなら、ただでさえけったいな固有魔法の名前が更にひどくなる可能性がある。

 といういか、もし痛覚察知の感覚がチリチリしなくてモゾモゾしてたら固有魔法の名前が『モゾモゾ』になってた可能性も確かにある。それは嫌だ。何ておぞましい。

 

「……どうした、ベレーナ」

 徹子に話しかけられ、ぼんやりしていたベレーナがはっと顔を上げる。

「あ!?いえ!!その!!」

「終わったとはいえ、余り呆けるな。まだ何があるか分からないぞ」

わたわたと首を振るベレーナ。戦闘中なら叱責ものだが、その理由が何となくわかる以上、徹子も苦笑を浮かべ、それ以上は追及しない。

「はい……あの、若本中尉、私……」

「単独撃墜2だ。ここまで長かったな、ベレーナ」

「!!」

 ベレーナがその言葉に息を飲む。

「私が……やったんだ……!!」

 余り撃墜数にこだわるのは本来は好ましいとは言えない。そのせいで敵を深追いしたり攻撃に夢中になるあまり、防御がおろそかになり、結果として落とされたウィッチの例は枚挙に厭わない。先程のユーリなどもいい例だ。

 だが、撃墜できない事で自信を失い、空で委縮してしまうウィッチも同じように少なくはない。特にベレーナのように内向的なタイプは、そういった事を内に貯めこみがちなところがある。

 そう言った意味では、ベレーナにとって初撃墜は良いころ合いだったともいえるかもしれない。逆にユーリは初撃墜が早すぎたせいで、若干突っ込みがちになっている。どこかで修正を入れたいところだ。

「……あのっ!!ありがとうございます、若本中尉!!」

「浮かれすぎるなよ。今日の戦果は次の戦いまでに忘れておけ」

そう言って軽くその頭を叩いて、背を向ける。

「そろそろ帰るぞ……カール大尉」

「ああ。了解した。カーラ。帰投するぞ」

「へいへいっと。じゃあな、ユーリ」

「またね、カーラ」

 背を向けたカーラにユーリがぶんぶんと手を振る。

「こっちも帰るぞ」

 了解、と三人が返事をかえす。徹子の後に続いて、信乃たちが基地に向かい編隊を組む。

「最近、『たまたま』が続きますね」

「そうだな」

 ここ数日、昼夜とわず、506のB部隊と戦闘空域でかち合わせる事が格段に増えた。というよりも、殆ど共同で戦っているようなものだ。

 カーラとユーリはいつの間にか互いに冗談を交わし合う程仲良しになっているし、マリアンと信乃も互いの動きを見越してコンビネーションを取れるまでに理解が深まっていた。勿論、ユーリや信乃だけじゃなく、他の面々もそれぞれ頼りになる空の増援に対しては好意的に接していた。

 更には夜間哨戒もジェニファーがいる事で、JG54としてもアルマ一人の負担が減り、結果、基地全体としてもようやく一息つけるようになってきた。

「この調子なら、あたし達がいなくてもどうにかなるんじゃないですか?」

「……」

 信乃の言葉に徹子は無言。代わりに答えたのはユーリだった。

「えーっ!?シノ、いなくなっちゃうの!?」

「元々あたしたちは臨時編入ですから。あまり長居するわけにも・・・」

「そんな、それじゃあ若本中尉も?もっといろいろと教わりたかったのに・・・」

 ベレーナが残念そうにつぶやく。

「……どうだかな」

 だが、徹子が呟いたのは、同意の言葉ではなかった。

「え?」

 信乃が首を傾げるが、徹子はそれ以上答えない。

 

 期待も不安も不確定な情報から生まれた推察にしか過ぎない。今の三人にそれを与えるにはまだ早い。

 

「それより飯だ。あと補給。ハギ、帰ったら瑞鶴に催促入れとけよ。特に三号と20mmの弾だ」

「むーっ。やってますよ、毎日。ていうか、いい加減20mm返してくださいよ」

「そうしてやりたいが、こいつがオレに使われたいって泣きついてくるんだ」

「嘘だ!!返してっ!!あたしの20mmっ!!」

 信乃が徹子の背後に飛びつこうとするが、それをするりと躱す。

「まだまだだな、信乃。お前に背中を取られる程衰えてはいないさ」

「いい加減引退したらどうですか、このロートル中尉」

「お前がオレを追い抜いて、一人前になったらな」

 その言葉にぷくり、と頬を膨らませる信乃。

 くすくす、と。ベレーナとユーリもその様子を見て笑顔を浮かべた。

 

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