チリチリするの   作:鳩屋

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20.フライアウェイ

 同日 1100 ガリア共和国 リヨン基地

 

 基地の中は朝とは打って変わり、重苦しい空気に包まれていた。

「ボクのせいだ……ボクのせいで、シノが……シノが……」

 廊下に設置された長椅子に座ったまま、ユーリがうわごとのように呟く。その頬には涙を流した後の痛々しい跡が幾筋も残っている。

「ボクがしっかりしてれば……」

「落ち着け、ユーリ」

 その頭をアンジェラがぽん、と叩く。長椅子の隣で、ずっと泣きじゃくるユーリに付き添っていた。

 周囲を見れば、向かい合わせに長椅子に座っているハンネとアルマ。事態を聞きつけてやってきたベレーナや待機中の仲間もこの場に集まっている。

「……ユーリ」

「ベレーナ……ボク……」

「立って」

 その言葉にユーリがふらふらと立ちあがる。次の瞬間。

 ぱしん、とベレーナの手が、ユーリの頬を叩いた。

「……っ!?」

「しっかりしなさい!!貴女がそんな顔をしていたら、シノさんがどう思うか分かってるの!?」

 普段の大人しいベレーナとは思えない、毅然とした口調だ。

「でも……でもっ!!」

「ベレーナ、やめなさい」

 ハンネが止めるが、ベレーナは止まらない。

「いつも生意気な事ばっかり言って!!調子に乗って!!その結果でしょ!?だったら受け入れなさい!!貴女がこんなんじゃ、次の作戦に支障が出るの!!」

「でも……っ!!」

「そんな風に、まるで()()()()()()()()()()()顔をしてたら、シノさんも迷惑でしょ!!」

「だけど、だけどっ!!」

「え、ええと……そろそろ出てもいいですかね?」

 そっ、と扉が開くと同時に響いた声に、はっ、と、ユーリが顔を上げる。

「シノ、シノぉっ!!」

「ユーリ、そんな顔は、あたしが死んだときにしてぇぇぇっ!?」

 がばり、とユーリに抱き着かれて、信乃が目を白黒させる。ていうか痛い。腕が痛い。

「シノぉ……ボク、シノがボクのせいで死んじゃったらって思ったら……」

「うんうん、解るよ。でも、一応怪我人ですし、もう少し優しくぅぅぅっ……!?」

 ぎゅっ、と、信乃の体を抱きしめる力がさらに強まる。

 散々心配をかけた手前無下に振りほどくわけにもいかず、助けを求める様に周囲を見渡すが、皆苦笑を浮かべて首を振った。

 ベレーナすらも、仕方がないといった顔で苦笑を浮かべたまま視線を合わせてはくれない。

 何で?死ぬと思ったけど死ななくて良かったねじゃないの?何でそんなマンボウを見るような目をされなきゃいけないんですか?

「えと、ユーリ……心配してくれるのは嬉しいけど……」

「皆さん、お待たせしました」

 信乃に続いて医務室から出てきたハンナが笑顔を浮かべる。

「萩谷准尉は若本中尉に救助された際の軽い肩の捻挫以外には目立った外傷はありませんでした。()()()()()()()()()()()()()()()はしばらく使えませんが、次の作戦に参加するにあたっては支障はありません」

 ハンナの言葉に皆がはぁ、と息を吐く。

「全く。大げさすぎるんだよ。たかがユニットを片方破損したくらいで」

 ハンネに続いて出てきた徹子が肩をすくめる。

「危なかったのは確かなんです。少しはいたわってください」

 信乃が口を尖らせる。

 ネウロイの熱線が破壊したのは信乃のユニットの主翼とその周辺部分。

 そのせいでユニットの制御が行えなくなった信乃の零式52型は失速を起こし、錐揉み状態になったことでかかった急激なGによって、機体を立て直す前に意識を失ってしまったのだ。墜落直前に徹子がその腕を掴んだ事で事なきを得たが、皆が一瞬ひやりとしたのは間違いではない。

「格好良かったよ、シノ」

「どうしてこんな時でもあたしをからかいますかね!?」

 ぱちり、とウインクして親指を立てるアルマに信乃ががぅ、と叫ぶ。

「いや、本当ならもっと心を抉るような事言えるんだけど。お望み?」

「……次の作戦に支障が出ますので、勘弁してください」

 控えめに言って、今回の落ち度は信乃にある。落ち度100パーセントだ。反省はしているので、出来ればそっとしておいてほしい。

「それよりもハギ、何か言う事があるんじゃないか?」

 徹子の言葉に、う、と信乃が周囲を見渡す。

 心配そうな顔をするもの、呆れたような顔をするもの。苦笑を浮かべるもの。皆それぞれ思うところはあるだろうが、一度は皆の胆を冷やしたのだ。連絡を受けたハンナに至っては、思わずその場で失神しかけたくらいだ。

「ごめんなさい、しような」

「……心配かけて、ごめんなさい」

 ぺこり、と信乃が頭を下げる。

 その言葉に皆が安心したように胸をなでおろした。

 

 

 同日 1145 ガリア共和国 リヨン基地

 

 

「偵察班のフィルムの解析結果が出ました。皆さん、心して聞いてください」

 再びブリーフィングルームに集まったウィッチ達を前に、ハンナが口を開く。

「萩谷准尉、ブレヴィス中尉、ハーン少尉の献身的な偵察により、敵拠点の概要は概ね把握出来ました。まずはこれを見てください」

 暗幕で閉ざされた部屋の壁に、アルマが撮影した敵ネウロイの全容が投影機で壁全体に映し出される。

「うわ……」

「本当なの?」

 隊員たちが思わず息を飲む。

 ジークフリートライン……ガリアの誇る要塞群(マジノ線)の一角が丸々ネウロイ化しているなど、流石に想定もしていなかったのだろう。

「便宜上、この超大型ネウロイを、『(モーエア)』と呼称します」

 限りなくシンプルで、それ以外に表現できない呼称。まさにネウロイの『壁』だ。

「ちなみに萩谷准尉はここです。『壁』の大きさは推定で横1キロ、縦20メートル、幅10メートル。動かないだけ良いにしても、これだけ巨大なネウロイは東部戦線ですら中々お目にかかれませんね」

ハンナの手にした指揮棒が豆粒の様な黒い点を差す。

「これがあたしの遺影になりかねなかったわけですか……」

 映っていると言っていいのかわからないレベルのそれを見て信乃が呟く。

「『壁』はこのように壁面のいたるところから熱線を発射し、近づくものを排除します」

 そう言ってスライドが切り替わる。映し出されたのは信乃が撮影したネウロイの近接写真。もし後世、人類が生き残れたなら、ネウロイの直撃に限りなく近い瞬間の画像として残りそうな程に鮮明な写真に皆が息を飲む。

「さらに、護衛のネウロイが『壁』の中から現れます。会敵した結果、1分たらずで一中隊ほどのネウロイが現れる事が判明しました」

 アルマと信乃が撮影した写真が次々とスライドで現れる。『壁』の一部に空いた穴からネウロイが飛び立とうとしている写真が次々と映し出されるに従い、皆の顔に絶望的な色が浮かぶ。

「どうするの、これ……」

「取りあえず、手に『Menschen』って書いておけよ」

 アンネが肩をすくめる。

「……作戦立案の為、1200から第二段階に移行する予定だったタイムスケジュールは一部遅延します。ただ、作戦の中止だけはあり得ません」

 ハンナが口を開く。

「アンジェラ、若本中尉は私と一緒に司令室に。他の者は各自食事を取った後に待機。いつ出撃してもいいように、機体の整備も怠る事の無いようにしてください」

 そういうとハンナは指揮棒を机に置き、顔を上げた。

「ブリーフィングは以上とします。解散」

 その言葉に全ウィッチが立ちあがり、敬礼をする。

 

 重苦しい空気だ。

 

 無理もない。藪をつついたら蛇どころかヤマタノオロチかヨルムンガンドが現れたようなものだ。何でこんなところにこんな大物がいるのかという思いに加え、それを相手にしなくてはいけないという重圧で、普段は明るいアルマやユーリですら、その顔に悲壮感を漂わせている。

 ハンナも敬礼を返しながら、内心で思索を巡らせる。

 戦わぬという選択肢はあり得ない。だが、闇雲に戦う訳にもいかず、当然負けるわけにもいかない。最早これはJG54や扶桑海軍遣欧艦隊だけの戦いではない。大げさかもしれないが、事と場合においては人類全体の……。

 そこまで考え、あ、と呟く。

 

 人類全体。

 

 そう、これは人類全体の戦いなのだ。

 

 突拍子もない考えかもしれない。空振りに終わる可能性も十分にある。

 だが、試してみない手はない。潜んでいたネウロイもこちらが手の内を知った以上大規模な行動に出る可能性は高い。

 ならば、こっちも大規模に、派手に動いてやればいい。

 時間は、そう残されていない。

 ならば、やれるだけの事はやるのだ。

「……ハンナ、どうした?」

 隣に立っていたアンジェラがハンナの異変に気が付き、眉を顰める。

「ふふ。アンジェラ、良い事を思いつきました」

「う、うむ?」

 何故か笑い出すハンナにアンジェラが思わず後ずさる。

 そう。敵は強大だ。JG54だけで手に負える相手ではない。

 なら、どうすればいいのか。

「総力戦です」

 答えは簡単だ。

「総力戦でなくてはいけないんです。貧乏くじをひかされるのは慣れましたけど、折角なので、たまった貧乏くじはあちこちにばらまいてしまいましょう」

「だが、どうやって」

 アンジェラが呟く。ちょっとやそっとの事では動かなかった連中を、どうやって動かすというのか。

「ちょっとやそっとの事情ならともかく、今はちょっとやそっとどころではありませんよね?」

 そう言ってハンナが意味深な笑みを浮かべた。

 

 

同日 1200 ガリア共和国 リヨン基地 

 

 

『フィリーネ、貴女から連絡をくれるなんて何かあったのかしら?そっちはどう?変化はあったかしら?』

 電話の向うのミーナは久々に連絡が通じた事から少し安堵したような声を見せていた。何度か連絡はあったものの、疑心暗鬼に陥っていたため不在だと伝えていたからだ。

「ええ。ミーナ中佐。ありました。ありましたとも。大きな変化です」

『え?』

 普段の控えめなハンナからは想像もつかないような興奮したような声色に、電話の向うの声が戸惑いを見せる。

「つい先ほどこちらに侵攻するネウロイの拠点に強行偵察を行いました。場所はディジョン東部、カールスラント国境付近のジークフリートラインです。全長1キロにわたる要塞線の一角が丸々ネウロイになっていました。更に、その辺りがネウロイの生産工場も兼ねているようで、こっちが向うの存在を知った以上、いつリヨン上空にネウロイの大群が押し寄せてくるかも解りません。なので、今日の午後、1530から私達JG54はその『壁』に対して総攻撃を行います。もし私に何かあったら骨を拾って新カールスラントの母のもとに……」

『はあ!?ちょ、ちょっとちょっと。ちょっと待って!!待ちなさい!!何を言っているのフィリーネ大尉!!』

 何処をとっても機密情報。まるで言葉による絨毯爆撃だ。

 珍しく慌てふためいた口調でミーナがフィリーネの言葉を制する。

「はい?」

『こんな重要な情報を平文でするなんて、どうしたの、貴女』

「聞かれてもいいんです」

 ミーナの言葉にハンナが答える。

「盗聴されているなんて百も承知です。いいえ、むしろ聞かせてるんです」

 ハンナが言葉を続ける。

「聞こえていますか?レディの会話をこそこそ盗み聞きしているお偉いさん。これでも無視をするのなら、もう好きにすればいいです。その代り、貴方達の名誉挽回のチャンスは、私達カールスラントのウィッチでいただきますけど。ああ。後、この事はカールスラント政府を通じてきっちり世間に公表させてもらいます。ガリア政府も、ブリタニア政府も、この国に影響を及ぼそうとする貴方達がいかに役に立たないかが大衆の下にさらされるでしょうが……ミーナ中佐、ですよね」

『え、ええ……って、ちょっと、フィリーネ、すこし待っ……』

「失礼します」

 言いたい事だけ伝えてがちゃん、と電話を切る。これでミーナにも、恐らくガリアやブリタニアの上層部にも正しく現在の状況が伝わるだろう。

 最早、人類同士で足を引っ張っている場合じゃない、と。

「言い過ぎたかしら」

「いや。よく言った、ハンナ」

 アンジェラが大きく頷く。

「506への『曲芸飛行』はどんな状況ですか?」

「若本とベレーナ、ハンネとユーリを出した。それぞれセダンとディジョンの基地に向かっている。ハギはお前の言った通り待機させているが……」

「ハギさんには『アレ』の整備をしてもらっています。最初はお荷物かと思いましたが、今回の作戦には有効なはずです」

「……ひょっとしたら扶桑の連中はこれを見越していたのか……?」

「それなら今頃空母ごと本隊がマルセイユに乗りつけてるはずですよ」

 冗談を飛ばしながらハンナが部屋を出る。パズルのピースが一つ一つ嵌っていくような感覚に、知らず気持ちが高ぶっていく。

大丈夫。きっと上手くいく。

 私達は所属する国も、組織も、信念も、目的も、何もかもが違うかもしれない。

 だが、一つだけ共通している事がある。

 私達は、皆、ウィッチなのだ。

 国や軍に縛られていても、ウィッチであれば、世界を、人類を脅かす脅威を前に、黙って見ているはずがない。

 ハンナには確信があった。東部戦線で出会った扶桑のウィッチの言った言葉を。チリチリと胸を焦がす焦燥を一笑する様な、いっそ清々しいまでの一言を。

 

 そう。

 

 ウィッチに不可能の文字は無いのだ。

 

 

 同日 1330~1400 ガリア共和国

 

 

 セダン基地、506JFW『ノーブルウィッチーズ』A部隊

 

「……何だ、あれは?」

 驚き半分、呆れ半分といった面持ちで顔で空を見上げているのは、この部隊に所属するロマーニャ空軍所属のウィッチ、アドリアーナ・ビスコンティ大尉。

 他にも同僚のウィッチ達が、自分たちの頭の上で繰り広げられているその光景を唖然とした顔で見上げている。

「いいぞ、ベレーナ。次は宙返りを三回連続だ」

「はいっ!!」

 徹子の後に続き、エーテルライトを利用した発光器の光跡を残しながらくるり、と空に円を描くベレーナ。

「若本中尉!!私、何か楽しくなってきました!!」

 他の基地の上空での曲芸飛行。基地にいるウィッチ達の目を引くという名目もあるが、今までの鬱憤を晴らしてきてください、というハンナのお墨付きである。

 軍紀違反どころではない。事によっては軍法会議もあり得るようなとんでもない事を行っている背徳感が、ベレーナを高揚させる。

 三回連続で宙返りを行った後、更にもう一回おまけで回るベレーナを見て徹子が顔を緩める。

「楽しいか。実はオレもだ」

 リバウの坂本達も編隊宙返りを披露した時はこんな気分だったのだろうか。全くあいつ等、楽しい事をしやがって。

「よし、次は編隊飛行だ、ついて来い」

「はいっ!!」

 緑色のエーテルライトを噴射し、徹子が叫ぶ。ベレーナが満面の笑みでそれに答えた。

「何なのじゃ、あれは!?隊長!!連絡は受けているのか!?」

「い、いえ、何も……」

 予告も無しに始まった曲芸飛行にセダン基地のウィッチ達も、基地に務める兵士たちもその光景を呆然と見上げていた。

 

 ディジョン基地、506JFW『ノーブルウィッチーズ』B部隊

 

「やっほー!!皆見てるー!?」

 ハンネと二人で空中にハートマークを描きながらユーリが眼下のウィッチ達に手を振る。

 緑色の光跡で描かれるハートマークはまさに『グリュンヘルツ』そのものだ。

「あれ、ユーリじゃん……」

「一体何してるんでしょうか……?」

 カーラとジェニファーが目を丸くしながらその光景を見つめている。

「ユーリ、余り夢中にならないように……そろそろ『アレ』を投下してください」

「はいっ!!」

 ハンネの合図と共にユーリが背中に背負っていた『それ』を空へと投げる。

 落下傘が付いたそれはふわふわと宙を舞い、眼下にいるウィッチ達の元へと落ちていく。

「ああ、ユーリ。そうじゃなくて、私達は『たまたま』サプライズで曲芸飛行を披露しているうちに『偶然』機密文書を落としてしまった感じでやるのよ」

「あ。ゴメンなさい。じゃあ、もう一回やり直……」

「余計に不自然でしょう!!ああ、もういいです。帰りますよ、ユーリ!!」

「ちゃんと読んでね!!その『きみつぶんしょ』!!じゃあ、『また』ね、カーラー!!」

 手を振りながらユーリ達が空に消えていく。落下傘によってふわり、と落ちてきた鞄を、カーラが首を傾げながらも受け止めた。

「何だこれ?コーラ……じゃないな。この重さは」

「……爆弾じゃないよな」

「うわ!?怖い事言うなよマリアン!!」

 慌ててそれを投げ出したカーラを見てくすくすと隊員達が笑う。

「兎に角、隊長のところに持って行った方が良いですね」

「ついでに金属探知機も持ってきた方がいいかな?」

「いりませんよ……多分」

 カーラの言葉にジェニファーが呆れた様に肩をすくめた。

 

 パリ近郊 HMW『グローリアスウィッチーズ』

 

「……不自然な待機命令の理由が解ったわね。ラーナ」

 軍の司令部からの電話を切ったアッシュブロンドの長髪の少女が呟く。

「ふざけた話じゃないか。ジェシー」

 もう一人の少女が肩をすくめる。

「お偉方の都合で伝わらなかった情報のせいで窮地に陥った状況を、お偉方の都合でどうにか尻拭いしろ、だと?」

「尻拭い?違うわ。これはチャンスよ」

 だが、もう一人の少女はそんな状況にも笑みを浮かべる。

「ガリアを脅かす超大型ネウロイ、それを私達グローリアスウィッチーズが華麗に倒す。こんな大手柄、506やカールスラントの連中に譲る訳にはいかないわ。明日のブリタニアの新聞の一面は私の大活躍で決まりね」

「お前のそういうところは素直に尊敬するよ」

 ラーナと呼ばれた少女が苦笑を浮かべる。

「……まあ、偉い奴らのやり方には辟易していたところだ。奴らのケツの穴を蹴っ飛ばしてやるのも悪くないか」

「そういう事。ラーナ、『アレ』を用意して」

「『アレ』……って、ジェシー、まさか」

「そのまさかよ」

 そう言ってジェシカと呼ばれたアッシュブロンドの少女が、その長い髪を灰色のリボンで結わえる。

「さあ、スクランブルよ、ラーナ!!無駄に出来る時間なんて無いわ!!」

 HMW戦闘隊長にして、ブリタニア王立空軍のエース、『グレイリボン』こと、ジェシカ・E・J・ジョンソンが凛として言い放った。

 

 ガリア共和国 パリ近郊

 

「行きますわよ!!リーネさん、アメリー!!」

「「はいっ!!」」

 ペリーヌ・クロステルマンの言葉にリネット・ビショップとアメリー・プランジャールが同時に返事をする。

 孤児院も兼ねている建物から真っ直ぐ伸びる道は、いざという時の滑走路も兼ねている。屋敷の入り口に並んだ発進推進装置に固定されたストライカーユニットに飛び乗った3人が発進準備を始める。

「……まさかこんなことが私たちの知らないところで起こっていたなんて……」

 リーネがぽつり、と呟く。

 カールスラントの最前線に駐屯するミーナから連絡があったのはつい先ほど。僅か一時間にも満たない間で出撃準備を整えたのは、歴戦を潜り抜けた流石の手腕という他無い。

 これだけの大型を相手にするのは501の最後の戦い以来だ。不安もある。

 だが、それ以上に、これだけの相手を前にみすみすと黙っている訳にはいかないという気持ちの方が強かった。

「放ってはおけないですよね」

 ぐっ、と拳を握るアメリー。普段は気弱な所もあるが、それだけの少女ではない。

 かつて501のガリア解放の陰で、仲間たちとワイト島を防衛したウィッチなのだ。

ガリアが再び脅威にさらされると知れば、真っ先に飛び立つ勇気も、そして、芯の強さも持ち合わせている。

「その通りですわ、アメリー」

 ペリーヌがその言葉に頷く。

「私たちのガリアに再び手を出そうとした報いは、受けてもらいますわよ!!」

「そうですね!!」

「はい!!」

 その言葉にアメリ―とリーネも頷く。

「頑張って!!ペリーヌお姉ちゃん!!」

「ご無事で、お嬢様」

 孤児たちや屋敷で働く皆がペリーヌたちを見送る。その声に笑みを浮かべ、次の瞬間、ペリーヌが口を開いた。

「スロットル・ミリタリー。青の一番(ブループルミエ)、発進します!!」

 

ガリア 或る所

 

『……どうしますか。流石に行き過ぎた行為かと思いますが』

 目の前に立つ少女に、男がふ、と口元に笑みを浮かべる。

「仕方あるまい。このような事態は流石に想定外だ。人間相手ならまだしも、ネウロイ相手では我々には何も出来んよ」

『では、様子を見ますか?』

「今はな。この『壁』を彼女たちが破壊するまでは、好きにさせようではないか」

『……破壊するまでは、ですね』

「そうだ」

 男が頷く。

 

「……リヨンの同志たちを奴らのもとへ向かわせろ。ウィッチ達がいなくなった後、行動に移せ」

 

 

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