チリチリするの   作:鳩屋

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22.逃避行と総攻撃

 飛び立った輸送機隊と、上空で待機していたウィッチ隊が一度リヨン上空で合流する。

 

 しばらくは共に飛び、ディジョン上空でウィッチ達の針路は北から東へ、ジークフリートライン……ガリアではマジノ線と言われる要塞群の一角を侵食したネウロイ『壁』へと。輸送機隊とアルマはそのまま北へと針路を取り、カールスラント空軍の駐留するマーストリヒト・アーヘン空港へとそのまま向かう手筈となっている。

 背後からは国籍不明の一軍。最早隠す必要はない。ガリアの諜報部及びガリア軍だ。

 JG54に対する圧力がガリア軍部全体の総意なのか、それとも一部の先鋭的な者たちの暴走なのかはわからないが、現に降りかかる脅威である事には変わりない。

 空になった基地を見て彼らがどうするかは未知数だ。基地を制圧出来た事で良しとするのか、追撃を試みるのか。前者であることを望みたいが、どうなるかはヴァシェトの左目を持っていても解らない。

「そろそろディジョン上空だ」

 アンジェラの言葉に魔導通信の声が被る。

『こちらディジョン基地所属、506JFW『ノーブルウィッチーズ』B部隊。JG54、応答願う』

 ちらり、とアンジェラがハンナを見る。

「こちらJG54第1飛行隊第3中隊。手柄の横取りですか?ジーナ・プレディ中佐」

『そうしたいのは山々だが、今回は貴女に譲ろう、ハンナ・フィリーネ大尉』

 ジーナの声が響く。同時に、無線の向うからの銃声。

『隊長!!呑気に無線なんかしている場合か!!』

『ここから先は通しません!!』

 506のB部隊の面々の声が無線越しに届く。皆、ガリアの人々を守るため、戦っているのだ。

『……というわけだ。こちらも手一杯で君達の援護をしている余裕はない』

「敵はどちらに向かってますか?」

『南だ。君達の『居た』基地の方へ向かっている』

 やはり、とハンナは頷く。

 ネウロイの習性について人類が解っていることは多くはないが、いくつか解っていることはある。例えば、水を苦手としているのもそうだし、縄張りや行動習性に一定のパターンがあることもそうだ。

『こちらは私達で何とかする。君達は『壁』を頼む』

「了解。ご武運を」

『ああ。君達も……』

 通信が途切れる。何かを言いかけていたので彼女の意思ではないだろう。恐らく、ネウロイの放つ電波妨害だ。とすれば、彼女たちへ更に多くの敵の増援が向かっているのだろう。

「隊長、どうしますか?」

「ディジョン北部まで直進、その後、ウィッチ隊は予定通り『壁』に向かいます」

 アルマの言葉にハンナが答える。ディジョン基地のウィッチ達と敵の交戦ポイントを迂回し、敵に向かう。

 

 彼女たちは救援を求めていない。求めているのは、一刻も早く『壁』を破壊する事だ。

 

 一方、リヨン臨時基地。

 

『やられた。奴等、ウィッチ達と共にここを引き払ったようだ。人っ子一人いない』

 

 その言葉に少女がくそ、と呟く。どうやら、カールスラントの情報局を侮っていたようだ。

『よもや我々が二度までも出し抜かれるとはな』

 無線から別の声が響く。

 その声は無表情で、何の感情も感じられない。

「……『教授』、今から追えばまだ間に合う」

『我々の目的はこの国から奴等の影響を排除する事だ。自ら身を引いたのであればそれ以上は求めん……これから先は、政治の話だ』

 ちっ、と少女が舌打ちをする。少女達にとっては『敵』である存在をみすみす取り逃した事は屈辱以外の何物でもない。

 だが、『教授』の命令は絶対だ。

「了解。ガリア、我が……」

 肯定しようと口を開きかけた瞬間、無線の向うから上ずった声が響く。

『おい!?あれは……不味い、ネウロイだ!!こっちに向かってくる!!』

 はっ、とその言葉に少女が顔を上げた。

「数は!?大きさは!?」

『小さいのが2……いや、3機……まずい、こっちに……』

 無線の向うからざざっ、という音が鳴り、通信が途絶える。

 例え小型ネウロイだとしても、ウィッチではない一般の人間にとっては防ぎようのない脅威なのだ。ディジョン基地のウィッチ達が打ち漏らしたのだろうか。それならば、いずれウィッチ達がこちらへ向かってくる。いや、それよりも。

『リベリアンめ。大雑把な仕事をする。お前も早く……』

「『教授』」

 ぽつり、と少女が呟く。少女が『教授』と名乗る男の言葉を遮ったのは、少女が彼と出会って以来これが初めてだ。

「……ここを抜ければ、リヨンの都市はすぐ目と鼻の先です」

 そう、例え小型ネウロイでも、無抵抗な人間の前では無慈悲な殺戮の使徒となる。

 ここを去るのは闇に身を置く自分としては当然の事だ。

 だが、そうすれば、小型ネウロイが街に到達する。僅かかもしれないが、人の命が奪われる。

『教授』と呼ばれる男も少女の意図を感じ取ったのだろう。ふぅ、と深い息が無線の向うから響く。

『まだお前にはやるべき事がある。ディジョンのリベリアンたちとの顔合わせには、まだ早い』

「奴らが来る前に片をつけてみせます」

『もし見つかるような事があれば、貴様の命は無いぞ』

「構いません・・・ガリア、我が喜び」

 

 そう呟き、少女がホルスターから拳銃を抜き、顔を上げた。

 

 これが、後にクリス・キーラと呼ばれることになる少女が、クリス・キーラとなる前の最後の任務となるが、その後の物語は今ここで語るべきものではない。

 

「後ろの方はどうです?アルマ」

「未確認の航空機、リヨン基地上空で反応が途切れました」

 ふぅ、とハンナが息を吐く。ネウロイらしき機影をアルマが感知したのがつい数分前。場合によってはアンジェラかハンネを引き返させなくてはならなかったが、どうやら貴重な人員を裂く事は防げたようだ。B部隊の誰かのお蔭か。それとも別の何かがあったのか。

「……アルマ、これから先の輸送機隊への指示は貴女に任せます。なるべく交戦は避けてください」

「ネウロイとですか?人とですか?」

「両方です」

 いざとなれば撃たねばならないのはハンナも理解している。同時に、ウィッチの敵は同じ人類ではないというハンナの高潔な意思もまた、アルマは理解している。

「……難しい事を言いますね」

 だからこそアルマは眉を顰める。

「貴女にしか出来ない事ですから。期待してますよ」

「意地悪です、ハンナ。期待されたからには、応えないといけないじゃないですか」

「ふふん。格好良いですよ、アルマ」

「うわ、今言うか。シノ」

 今までの意趣返しとばかりに口を開いた信乃の言葉に思わず皆が一瞬笑みを浮かべるが、直ぐにその表情が硬くなる。

「……それでは、ここで一旦お別れです。また、アーヘンで」

 そう言い残し、ハンナ達ウィッチ隊が旋回を開始。そのまま直進していく輸送機隊の姿がみるみるうちに遠ざかっていく。

「皆、大丈夫でしょうか?」

 ベレーナがぽつり、と呟く。

「気になるか?」

 徹子の問いにベレーナが被りを振る。

「はい。でも、今は私達の任務に集中します」

「ああ。そうしろ」

 徹子が笑みを浮かべる。ベレーナも少しはいい顔をするようになった。

 ディジョンとセダンの中間地点。

「若本中尉、ハギさん。どうですか?」

「こちら若本一番。敵影見えず」

「萩谷二番、電探に反応ありません」

 索敵の固有魔法が無くとも誰よりも先に敵を察知する徹子に、扶桑製の対空電探を雷電に搭載した信乃が同時に答える。

 つかの間の静かな空が空域を支配する。少し離れたディジョン上空では激戦が繰り広げられているのが嘘のようだ。

「……こんな空を飛んでいれば、リヨンで何が起きていたかなど解る訳がありませんね」

 ハンネが呟く。

『ああ。その通りじゃ』

 魔導無線の声がハンネの言葉に答える。

『ならばなぜ、斯様な窮地に追い込まれるまで、其方達はわらわに助けを求めなかったのじゃ?同胞を相手に遠慮をするなど、其方達の方がよほど無粋じゃぞ』

「……若本中尉、ハギさん……」

「違う。まだ見えない。遠すぎるんだ」

「……扶桑の電探は精度が悪いんです」

 二者二様の言い訳が返ってくる。

『同胞ではないにしろ、水臭いのは確かだな』

『ひょっとして、自分達で片付けるのが格好いいとか思ってるの?格好いいけど』

 魔導無線に次々と飛び込む声。ハンナも、他のウィッチ達も初めて聞く声だ。

「ハインリーケ大尉がいるという事は、セダン基地(506A部隊)ですね」

『その声はフィリーネ大尉じゃな。という事は、そちらはJG54か。成程、あの下品な曲芸飛行は粗野で粗暴なグリュンヘルツに似つかわしいの』

「あ?なんですか?貴族様?やるんですか?『壁』の前に一発殴られたいんですか?」

ハインリーケの売り言葉に粗野で粗暴を体現したような買い言葉で応酬するハンネ。

「落ち着け、ハンネ。今まで何もせず優雅にお過ごしになられていたお貴族様に失礼だぞ」

『ヴォルフ中尉にハーン少尉か。相変らずのようで何よりじゃの』

「はっ。養成学校時代友達がいなくて二人一組が組めなかったもやしっ娘が随分偉くなりましたね」

『お、なんじゃハーン少尉?やるのか?『壁』の前に一発殴られたいんじゃな?』

『おい、そこのウィッチ。その話、続きが気になる。詳しく聞かせてくれ』

『僕も興味あるな』

『お、お主たち!?』

 突然の味方の離反に思わず声が裏返るハインリーケ。

「もー!!何でもいいから真面目にやってよ!!カーラ達が頑張ってるのに!!」

 ユーリが怒鳴る。

『何じゃとお主!?偉そうに、名を名乗れ!!』

「JG54所属!!『音楽隊の4』ユーリエ・ブロッケ軍曹!!11歳です!!」

『じゅ……』

『……あー……これは……』

 506のA部隊の皆が思わず押し黙る。

 子供の正論はある意味どんな大人の理屈よりも強力だ。

「……すみませんでした。ユーリ」

『……済まぬ。わらわともあろうものが、少し頭に血が上っていたようだ』

 ばつが悪そうに、ハンネとハインリーケが素直に謝罪の言葉を述べる。

「……よく言ったね、ユーリ」

「偉いぞ、ユーリ」

「私も、ちょっとユーリの事が格好いいと思いました」

「え?」

 仲間たちから感心したように頭を撫でられ、ユーリが目を丸くする。

 可愛いは正義なのだ。

 

 程無くして、3機のストライカーユニットを履いたウィッチ達がハンナ達と合流する。

 一人はアルマと同じく、カールスラントの夜間戦闘隊の制服に身を包んだブロンドの令嬢、残りの二人は。

「ロマーニャ空軍所属、アドリアーナ・ヴィスコンティだ。よろしく頼む」

 赤い髪をした長身の美女が切れ長の瞳に好戦的な笑みを浮かべる。

「ベルギカ出身、ブリタニア空軍のイザベル・デュ・モンソオ・ド・バーガンデール少尉。ふふふ。僕を見たからには今日が皆の命日だよ」

「お帰りください。イザなんとかさん」

「冗談だよ。イザベルでいいから」

 いきなり縁起でもない冗談を口にするイザベルに、信乃が冷たい視線を送る。

 こちらはぱっと見少年のようにも見える雰囲気で、温和そうに見えてその実中々に曲者のようだ。

「皆さんは506のメンバーではないのですか?」

「まだ結成もされてない部隊だしね。原隊の方が馴染があるよ」

 ハンナの問いにイザベルが答える。成程。Bチームよりも結成に難航しているチームらしい。

「一応、個々の腕には自信がある者が揃っている。チームワークはまあ、どこかのだれかさんのせいで散々だけどな」

「誰の事じゃ、ヴィスコンティ大尉」

「気が付いてるようで何よりだよ、姫様」

 成程、とハンナが苦笑を浮かべる。この部隊をまとめるのには骨が折れるだろう。

「ヴィトゲンシュタイン大尉、探索魔法で周囲の警戒を。ヴィスコンティ大尉はアンジェラ……ヴォルフ中尉と、バーガンデール少尉は萩谷准尉と組んでください」

「了解した」

 短く答えてアドリアーナがアンジェラとハンナの僚機の位置につく。

「で、ヴォルフ中尉、どうするんだ?」

「簡単だ。勲章と恩賞が飛んでくるから、片っ端から落とせばいい」

 砕けた口調のアドリアーナに、上官であっても変わらぬ慇懃な口調でアンジェラが答える。

「解りやすくていいな」

 アドリアーナが口を吊り上げて笑う。いかに命令違反の常習者とはいえ、ここまで単純な命令であれば、それに歯向かうのは難しい。

「腕に自信があるようですね」

「ああ。何なら賭けてもいいぞ。誰が一番多く落とせるか」

「こいつはとんでもない貴族様ですね」

 ハンネが苦笑を浮かべて肩をすくめた。

 

「じゃあ、こっちは?」

「若……若本中尉を援護しながら、『壁』のコアの位置が解った時点でその破壊に集中します」

「そういうのってヴィスコンティ大尉の方が向いてると思うんだけど」

「バーガンデール少尉はブロッケ軍曹と一緒にあたしを援護してください、コアを叩くのは、『この子』ですから」

 そういって信乃が手にした17式試製30mm機関砲を持ち上げる。

「……それ、本当に銃だったんだ」

「何だと思ってたんですか?」

「ええと。鈍器?」

「近づかないとかすりもしないって意味なら、概ね合ってます」

「じゃあ僕達も近づくんだ。うわあ。ますます大尉と代わってほしい」

「そんな事言わないで頑張ろ……じゃなくて、頑張りましょうよ……ええと、バーガンキング少尉」

「……僕の事はイザベルでいいよ。リベリオンのハンバーガーショップみたいな呼び方をされると、僕の些細なプライドも些か傷つくから」

 大げさに落ち込んだ仕草を見せるイザベルと、慌てた様に謝るユーリ。

 ……ボクっ子が増えた。

 そんな二人を見ながら、信乃はどうでもいい感想を抱いていた。

 

「助かりました。ヴィトゲンシュタイン大尉。よく部隊を動かせましたね」

「ハインリーケで構わぬ。フィリーネ大尉。何、止められる前に出てきてしまえば帰って始末書を書いて階級を一つ下げられ、ついでに営倉に入ればいいだけの話じゃ」

「大事じゃないですか」

 つまり、無断出撃か。よく他のメンバーが付いてきたものだ。

「ヴィスコンティ大尉の発案じゃぞ」

「……A部隊って貴族の集まりじゃなかったんでしたっけ」

 いつから貴族は愚連隊になったのか。

「貴族じゃからこそ、己可愛さにこのような事態を見過ごすわけにはいかんのじゃ」

「『高貴なる者の義務(ノーブレス・オブリージュ)』ですか」

 ハンナの言葉にハインリーケが大きく頷く。

「魔眼持ちのウィッチがいてくれれば助かるんですけどね」

「まあ。そうじゃな。どこかに転がってはいないものかの」

「そんなほいほい転がってたら今頃ネウロイからカールスラントを奪還できてますよ。後、私の事もハンナで良いです」

「同じ階級とは言え、年上で撃墜数が200機越えのグレートエースを気安く呼ぶ事などできぬわ。フィリーネ大尉」

 意外と律儀な所を見せるハインリーケにハンナが苦笑交じりに頷く。

 敵の情報はJG54から直接輸送された資料で506のA部隊にも伝わっている。一キロ近いネウロイの中から、1メートルにも満たないコアを見つけ出すのは容易ではない。

「どうするつもりなのじゃ?」

「扶桑のクラスター爆弾があります。壁の表面をまんべんなく削れば、いつかはコアが見つかります」

「成程。なまじ成功しそうな気がするのが質が悪いの」

 闇雲に攻撃を加えるよりはよっぽど効率が良いが、それでも賭けである事には代わりはない。

「それでもやらないよりかはマシです。高貴なる義務でなくても、私達はウィッチですから」

「良い考えじゃ。ならばウィッチであり貴族でもあるわらわは一層努力せねばならぬな」

 うんうん。とハインリーケが満足そうにうなずく。

「……時にフィリーネ大尉よ」

「何です?」

「先程から後ろについてきているウィッチは、貴様らの友軍か?」

「……何機ですか?全機ウィッチですか?」

「少し鈍いが、この動きはウィッチで間違いないの。数は6じゃ」

 ふぅ、と一瞬鋭さを増したハンナの瞳が緩む。どうやら、追っ手がこちらに来たわけではないようだ。

「こちらカールスラント空軍、JG54第1飛行隊第3中隊です。貴軍の所属を乞う」

『……ほら、バレたぞ。ジェシー』

『残念。このままこっそり追いかけようと思ってたのに』

「聞こえてますよ。どこのどちら様ですか?」

 気の抜けた無線の声に呆れた様に尋ね返すハンナ。オープンチャンネルなので、他のウィッチ達も何事かと耳をそばだてる。

『あー。こちらブリタニア空軍所属『HMW』グローリアスウィッチーズ第二航空隊戦闘隊長。ジェシカ・E・J・ジョンソン中尉。我が部隊は貴隊の勇猛と献身に感服し、微力ながら協力をさせてもらいます』

 流暢なクイーンズ・ブリタニッシュの応答が返ってくる。

「結構ですといったら?」

『そんなの、勝手についてくに決まってるでしょ』

 いきなり口調が砕けた。

 はあ、とハンナが大きくため息をつく。

「合流願います……二枚舌に後ろから撃たれては堪りませんから」

『賢明な判断ね』

 程無くして5時方向から複数のウィッチ達が近づいてくるのが目に入る。

 アッシュブロンドを灰色のリボンで結わえた少女に率いられた、スピットファイアを履いたウィッチ達。

 パリの防衛を担う、ブリタニア王立空軍『HMW』。通称グローリアスウィッチーズ。

 元々はロンドンを拠点としていたが、ガリア政府への協力という名目でパリ近郊にも部隊を駐屯させている飛行隊であり、JG54がガリアから撤退を迫られていた理由でもある。

 色々と思うところはあるが、『壁』を相手にするにあたり、戦力が増強されるのに越したことは無い。

 近づいてきたHMWのウィッチ達を見て、思わず皆が目を丸くする。

「何でしょう、あれ?」

「ベレーナにはあれが何に見えるんだ?」

 ベレーナの問いに徹子が苦笑を浮かべる。

「私の言いたいことはそういう事じゃなくて……」

「冗談だ。言いたいことはわかる」

 理解出来ないのではない。理解したうえでなお、信じられないのだ。

「一応指揮はそちらに任せるけど、特に指示が無ければ勝手に動くわ。折角『これ』も持ってきたわけだし」

「ええ、そうですね……」

 そう言いながらもハンナの目はジェシカの後ろをついてくるウィッチ達が四人がかりで運んでいる『それ』にくぎ付けになったままだ。

「隊長!!重いっす!!」

「そろそろ代わってください!!落としたら大変ですって!!」

「……ラーナ、代わってあげて」

「さっきまで私も持っていたんだ。ジェシーこそ、一度も運んでないじゃないか」

「私は隊長よ?私が持っていたら指揮が取れないじゃない」

「酷いっす!!」

「横暴よ!!」

「そうだそうだ!!」

 ウィッチ達が次々と非難の声を上げるが、ジェシカはどこ吹く風と言わんばかりにハンナに、否、其の場にいるウィッチ達に向かい誇らしげに口を開く。

「デカい敵にはデカい威力。ブリタニアの開発したこの『トールボーイ』があれば、動かないネウロイなんて楽勝よ!!」

 妙な兵器を作る事に定評があるブリタニア軍の作った大型爆弾『トールボーイ』。

 大きければ沢山爆薬が詰めて威力が増す、というシンプルな丼勘定により作られ、実際地上の大型ネウロイを破壊した実績も持つが、重さが5トンにも及ぶ為、大型爆撃機か複数のウィッチによる運搬以外に手段がない。

「……やっぱり爆弾だったんですね」

 ベレーナが呟く。

「あの、ジェシー」

 おずおずと口を開いたのは信乃。そちらを振りかえったジェシカの表情にぱっと笑みが浮かぶ。

「あら、シノじゃない。久しぶりね。ふぅん、扶桑の増援がいるって、貴女だったの」

「ええ、まあ……ところでジェシー。その爆弾なんですが」

「凄いでしょ!!何?扶桑にも欲しい?ダメよ、凄く高いんだから」

「そんなの抱えて、どうやって『壁』に近づくつもりです?」

「……え?」

 

 真っ当な信乃の疑問に、ジェシカの笑みが凍り付いた。

 

 

 

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