チリチリするの   作:鳩屋

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24.伝説の魔女達

 次の瞬間、一条の光跡を描き、弾丸が中型ネウロイを射抜く。

 

 次いで二撃、三撃、四撃。

 

「え……?」

 

 思わずハンナが目を見開く。撃たれたのは自分ではなく、目の前のネウロイ。

 だが。どうして。

『今ですっ!!止めをっ!!』

 魔導無線から飛び込む幼さと強さが入り混じったような声に、ハンナの手にした銃が導かれるように露出したコアに向かい、弾き金が引かれる。

『やったあっ!!』

 この場にそぐわないような明るい声が歓声を上げる。

 聞きなれない声だ。JG54でも、506でも、HMWでもない。

 では、声の主は誰なのか。

 

『流石ですわね、リーネさん』

『はいっ!!ペリーヌさんは『壁』を!!』

『解っていますわ!!』

 

 その声が響くと同時に、一筋の雲を引きながら、ガリア空軍の制服を着た少女が一直線に『壁』へと向かって行く。

 

 そして。

 

「トネールっ!!!!」

 

 凛とした叫び声と共に、雷を纏った少女が『壁』を横切っていく。

 まるでバターを切り裂くように『壁』が破壊されていく様子に一瞬皆が我を忘れた様に見入る。

 

『皆さん、続いてください!!』

『皆、私に続きなさい!!』

 

 鼓舞する様な、背を押すような。

 優しく、力強い、その二つの声に導かれるように。

 その場に居るウィッチ達が一斉に『壁』へと向かう。

 

「そうだ!!コアが見つからねぇなら!!」

 

 背中に挿した『虎徹』を抜き放ち、徹子が吼える。

 短い黒髪が次の瞬間ばさり、と伸び、零式とは思えない速度で『壁』に肉薄する。

 徹子の固有魔法……使い魔との同調を極限まで高め、飛躍的に魔力と身体能力を高める『覚醒』だ。

「うおぉぉぉぉっ!!」

 壁に『虎徹』を突き立て、そのまま1kmにも及ぶ『壁』を横一文字に切り裂いていく。

 

「コアごと『壁』を!!」

 

 ベレーナが手にした三号特爆を次々に落とす。一旦離れ、背負っていたフリーガーハマーのロケット弾を次々に射出する。

 

「ぶっ壊すだけよ!!」

 

 ジェシカがシールドを展開させる。ただのシールドではない。地面から壁の天辺まで届くような超巨大なシールドだ。

 次の瞬間、ジェシカが拳を握ると同時に、シールドが細く、長く圧縮される。その形は、例えるのなら巨大な一振りの剣だ。

 大上段に構えた『それ』を、ジェシカは壁に向かって横薙ぎに振り降ろす。

 

「切り裂けっ!!『エクスカリバー』!!」

 

 ブリタニアの伝説に登場する円卓の騎士の王女の持つ剣の名前を冠したジェシカの固有魔法が、壁を貫き切り裂き、ついでに無数の小型ネウロイも巻き込んでいく。

 

「ああもう、本当に、若もジェシーも馬鹿ですね」

 笑うしかない。これだけ長大な壁が切り裂かれ、穴が開き、みるみるうちに破壊されていくのだ。

 最早連携は関係ない。信乃が『壁』に肉薄しながら、雷電に半固定された17式試製30mm機関砲の弾き金を引く。

 だっ、だっ、と、魔法力で強化された30mm弾が、クレーターのような大穴を『壁』に開けていく。

 

『アメリーさん!!』

『はいっ!!』

 アメリーと呼ばれた少女が背中に背負った大きなカバンの中から次々と弾薬を取り出す。

「補給か、有り難い」

「私に出来る事はこれだけですから」

「いや、最高の仕事だ」

 アメリーから弾薬を受け取ったウィッチ達が次々に歓声を上げる。

「行くぞ!!皆!!」

 最早小型ネウロイを生み出す余裕もないのか、『壁』は闇雲に赤い熱線を放つが、その勢いは徐々に弱まっていく。

 

『後れを取ったみたいだな、ハルトマン』

『うわぁ、本当におっきいねー』

 

 魔導無線に響く声。確認するまでもない。アーヘンからの増援だ。

「その声、バルクホルン大尉か!!」

『私もいるよ、アンジー!!』

 全人類においてネウロイの撃墜数一位と二位のウィッチ達の声が響く。これ以上の増援など望む事など出来ないほどの増援だ。

 

『行くぞ、ハルトマン』

 

『任せて!!行くよ!!シュトゥルム!!』

 

 一筋の風の刃となったエーリカ・ハルトマンが『壁』を貫き破壊していく。

 

『こんなもの、デカいだけのただの木偶だ!!』

 

 ゲルトルート・バルクホルンが肩から背負ったパンツァーファウストを次々に放ち、次いで手にしたMG42を『壁』に向けて掃射する。

 

『バルクホルン大尉!!ハルトマンさん!!』

『待たせたな、リーネ。ペリーヌ』

『……全く、遅いですわよ』

『にひっ。相変わらず素直じゃないなぁ、ペリーヌは』

 

 激しい攻撃を矢継ぎ早に繰り出しているにも関わらず、無線にはいる声はまるで旧友との再会を楽しむかのように、明るく、弾んでいた。

 

「……まるで、おとぎ話か夢のようですね……」

 

 手にしたMG42の弾き金を引きながら、ぽつり、とハンナが呟く。

 欧州では既に伝説となっていると言っても過言ではないウィッチ隊、501JFW。

『ストライクウィッチーズ』と呼ばれたその部隊に所属していたウィッチ達がここにいるのだ。

 

 それだけではない。

 

「落ちろぉっ!!」

 アンジェラが。

「落ちてくださいっ!!」

 ベレーナが。

「落ちなさい!!」

 ハンネが。

「落ちろ!!」

「落ちなさいよっ!!」

 アンネが、グレーテルが、JG54の皆の攻撃が、壁を破壊していく。

 

 自然と体が震え、視界がにじむ。

 これで負けるような事があれば、人類に未来などない。

 逆に言えば、負ける要素など万が一つにも有り得ない。

 

 人類はそんなに弱くない。不可能などないのだ。

 

「落ち……あ」

 かち、かち、と信乃の手にした30mmの射撃が止まる。

 弾切れではない。

「うっそ、こんなことろでジャムりやがりましたよ、この子」

 流石、試製の名は伊達ではない。

「でも!!」

 ぎり、と歯を食いしばる。固定装置から17式試を外し、砲身を握って大きく振りかぶる。

「だったら!!」

 そのまま真っ直ぐ『壁』に突っ込む。最早ダメージを受けていない箇所などない『壁』の中、僅かに無傷な場所に思い切りそれを叩きつける。

「これでっ!!」

 砲身に残った30mmが誘爆を起こし、17式試が目の前ではじけ飛ぶ。信乃の体に金属の破片が掠め、あるいは突き刺さって無数の傷をつけるが、『壁』の方にはわずかな亀裂が入っただけだ。

 

 しかし、扶桑の神様が上手くガリアの神様を懐柔したのか、それとも単なる偶然か。

 

「あは……そりゃ見つかりませんよね、これじゃあ」

 

 信乃の瞳が捉えた、亀裂の隙間から覗くモノ。

 

 目の前で輝く赤い小さな宝石の様な『それ』を見て、信乃が苦笑を浮かべる。

 

 亀裂の隙間から覗く、この巨大なネウロイに似つかわしくもない、赤子の握りこぶし程しかない、ほんの小さな『コア』。

 

 さて、どうするか、武器が無い。

 ならば、と、肩に刺さった17式試の砲身のかけらを引き抜き、それを握りしめる。

 まあ、あたしの肩に刺さるくらいだ。ナイフの代わりにはなるだろう。

 ふ、と笑い、信乃がそれを振りかぶる。

 

 悪いですね、皆。こいつの撃墜カウントはあたしが貰いましたよ。

 

 内心で呟き、自らの血で汚れた砲身の破片の尖った部分をコアに向かって振り降ろす。

 

 あっけない程簡単に、『壁』のコアにそれが突き刺さる。

 

 次の瞬間。

 

『壁』に無数のひびが走り、大きな振動が大気を揺らす。

『やったのか!?誰が!?』

 

 誰かが叫ぶ。

 あ、それ、あたしです、と答えようと思ったが、その前に。全身を包むチリチリとした感覚が爆発的に広がっていく。

 そして。

『壁』が、ひときわ大きな光の奔流となり拡散する。

 

 その衝撃に吹き飛ばされ、信乃の体が空へと投げ出される。身体を走る衝撃。雷電が足から脱げ、体が地面に落ちていく。

 

 ……あ、今度こそ駄目っぽいですよ、これ。

 

 だが。

 

「シノーっ!!」

 

 聞き覚えのある幼い叫び声が信乃の耳に届く。

 

 ……いつか、今度はボクが、信乃を守ってあげるから。

 

 身体を誰かに抱き留められる。自分よりも一回り小さなその体に体を委ね、信乃の意識が遠ざかる。

 

 いつか、って、ほんの半日しかたってないじゃないですか、ユーリエ。

 

 呟いた声は届いたのか届かなかったのか。

 

 ぼんやりと滲む視界の中で、泣き笑いの表情を浮かべたユーリが信乃を抱きしめた。

 

 

 

 同日 1752 ガリア共和国東部 マジノ線

 

 

 超大型ネウロイ『壁』は、JG54、506JFW、HMW、パリ及びアーヘンに駐屯する元501JFWのウィッチ達の活躍により沈黙。

 ガリア政府及びブリタニア政府は、新カールスラント政府に対し、事態の公表を控える代わりに、当該作戦に関わったカールスラント空軍のウィッチ達に対して逮捕や尋問などを含む一切の責任の追及を行わない事を約束した。

 ガリアの防衛を担う両国にとって、これだけの脅威が国内に迫りながら、その件に関し軍がそれを察知していなかったことは、国の威信にかかわる問題となりかねない。

 JG54の応援要請を黙殺してきた軍関係者及びそれに連なる政治家の一部は、その責を問われ多くが職を辞した。

 その中の一部が後に『王党派』と呼ばれる過激的な政治思想集団と結びつくことになるが、それはまた別の話。

 

 

 こうして、ガリア東部に生じていた超大型ネウロイ『壁』による侵攻の危機は、一部の軍および政府関係者以外に知られることなく、静かに幕を下ろした。

 

 

 

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