チリチリするの   作:鳩屋

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 陸自のイラク日誌が面白くて読んでるうちに話を書くのを忘れてました。
 そのパロディ的なものです。もし遣欧艦隊に日報があったら。そして、それを公表しろと迫られた結果色々と塗りつぶして公表したら。


おまけ2.扶桑皇国海軍遣欧艦隊日報(抜粋)

〇月×日

 

 

〇久々の瑞鶴

・●●●●●●●においての特別任務が終わり、久々の瑞鶴勤務となった。長い間空母という特殊な生活空間を離れ、地上での任務に従事するといかに船の上での生活が地上での生活と異なるのか。それを改めて実感させられる。

・一番困るのは何といっても揺れであり、波のほとんどない港にいるというのにこんなに揺れるものだったかと改めて認識した。一日も早く空母勤務に体を慣らし、改めて遣欧艦隊の一員として奮闘努力する所存である。

 

〇早速の

 ●●●から戻り、久々の瑞鶴勤務となるが、同部屋の●●中尉は翌日午前のシフトが無い事を理由に早速晩酌をたしなみ始めた。●●●にいた時は控えていたようだが、日に日に量が増えているのでいずれ注意したいと思う。

余談だが、酒を飲んでいる中尉に「日報は書きましたか?」と尋ねたところ、まだ書いていないといい筆を執り始めたが、その間「船はやっぱり揺れるなぁ。字が上手く書けん」とぶつぶつ呟いていた。揺れているのは●●の体です、というと、そんなはずはないの一点張りである。まだ確認はしていないが、●●中尉の本日の日報の信憑性にはやや疑いがあると思われる。

 

 

〇月×日

 

 

〇偵察任務

・本日は●●●●より自分、●●飛曹長、●●一飛曹の三人で偵察を行った。久々に飛ぶロマーニャの海は扶桑のそれとは違い、エメラルドグリーンに輝き、その美しさに息を飲むとともに、扶桑の荒々しさを秘めた青く深い海に思いを馳せていた。この海の向こうは故郷と繋がり、そして、憎きネウロイの拠点にもつながっていると思うと、複雑な思いに駆られる。

・といった趣旨の言葉を僚機に言うと『この海の向うはリベリオンですよ』と小馬鹿にしたような返事が返っていた。素直かつ合理的な思考は僚機の美徳だが、いささか無粋なきらいがある。若いうちに詩や小説を嗜み、感性を豊かにさせた方が良いと思う。誰か彼女に勧められそうな書籍を教えて欲しいものだ。

 

〇珍しい昼食

本日の任務は●●●●よりの偵察。特に変わったことは無く、先日までの戦闘続きの空とは打って変わって静かな任務となった。それよりも驚いたのは、昼食に出たカレーである。普段は野菜が多めで肉が入っているものが、本日はえびやイカ、貝などが沢山入っており、味もそのせいか魚介の風味が効いているように感じた。聞いてみると、主計課の仕入れ担当が木曜日の食材を一日間違えて注文したから急遽そうなったとのこと。最初は面食らったが、慣れてくるとそれなりに美味しい。これを機に、瑞鶴の食事にこの変わったカレーが加わる事を願う。

 

 

○月×日

 

 

〇六虫

・本日、甲板で行われていた若手の訓練を覗いてみると何やら不思議な事をしていたので話を聞いてみた。ボールを使うゲームで、体を動かすのならたまには趣向を変えてみようという事らしい。六虫、というゲームを知っているだろうか。自分は知らなかったので、ルールを聞いてみた。

・まず、同人数でチームを作る。

・攻守に分かれ、守備側は全員が入れるくらいの大きさの円形の陣地の中に入る。

・その陣地を二か所、数十メートル程離れたところに用意する。

・攻撃側は二人、その陣地の上でボールを投げ合い、ボールを取るたび、半虫、一虫、一虫半と数を数える。六虫までパスが続いたら、防御の陣地にいる防御側の者にボールを当てても良い。当てられたらその場で脱落となる。

・パスの間に陣地を出たものがいたらボールを当てても良い。当然、当てられれば脱落となる。

・防御側はそのボールを奪うか弾く。奪ったら速やかに投げる。もしそのままボールを奪い続けたら反則として脱落となる。

・ボールを弾くか、奪って投げたら防御側は速やかに反対側の陣地へと走る。攻撃側の者はそのボールを逃げている者に当てる。当てられたら脱落。

・防御側が投げられたボールをキャッチして再度投げるのは反則とならない。

・反対側の陣地に入った防御側の者にはボールは当ててはならない。

・そこから出たら当ててもいい。

・陣地を一回移動すると防御側の半虫となり、誰か一人でも六虫まで陣地を移動すれば防御側の勝利となる。六虫に至らず全員が脱落したら攻撃側の勝利である。

・なお、ボールが当たらなければその間何往復しても構わない。それぞれの防御側の陣地に人が分散した場合はどちらでボールを投げても構わない。

・攻撃側のコツとしては、陣地ギリギリでボールを投げ合う事でボールを奪おうとするウィッチの数を減らしたり、誤って陣地から出るのを誘う事。

・以上が彼女たちの行っていた六虫のルールである。ボールを追いかけていた●●飛曹長が誤って瑞鶴から落下した以外は特に問題の無い一日だった。

・●●小隊、皆極めて健康。

 

〇訓練中の反省

 本日の午前中、訓練に熱中するあまりに甲板から落下してしまった。幸いにして怪我はなかったものの、上官からの叱責と訓練器具を取り上げられるという事態になってしまった。自分の不注意であり、共に訓練をしていた仲間たちには申し訳なく思う。どうにか新たな訓練器具を入手したいと思うが、暫くの間は難しいだろう。

 

 

〇月×日

 

 

1.本日はサトゥルヌス祭の準備という事で、私達若手ウィッチの何人かがジェノヴァの街でその準備のための買い物をすることになりました。久々のジェノヴァの街はサトゥルヌス祭への準備で普段より華やかで、歩いているだけで気分が楽しくなりました。ロマーニャの人たちはサトゥルヌス祭は家族で過ごすことが多いとは買い出しに入ったお店の人の話、日本の正月みたいなものでしょうか。

 無事任務を終えると、一緒に買い出しに行った●●飛曹長がついでにカフェに寄ってコーヒーでも飲まないかと提案してきましたが、私達は曲がりなりにも任務中。そういう事は良くないと周囲の者も反対し、速やかに帰投することにしました。我々は扶桑の代表。慎んだ行動をとることが大事だという事を皆心に改めて刻んだ一日でした。

 

〇ロマーニャのコーヒーについて

 ロマーニャのコーヒーというのは扶桑ともカールスラントとも違い、ミルクを入れるような小さなカップに濃縮した苦いコーヒーを少量入れてたしなむものというのは知識では知っていたが、いざ飲んでみると本当にこんな苦いのかと驚かされたが、コーヒーそのものの味を楽しむのがロマーニャ流なのだろう。

 そう思っていたら、カフェの店員が『そのままじゃ苦いから、砂糖を沢山いれて飲むのが普通だよ』と教えてくれた。半分くらい飲んでしまったので早く言ってくださいよと思ったが、試しに砂糖を大目にいれると確かに美味しい。ちなみに、カップの底に残ったコーヒーの沁みた砂糖をお菓子のように食べるのもまたロマーニャ流の楽しみだという。今度カフェに立ち寄った際には最初から砂糖をたっぷり入れてロマーニャの味を楽しんでみようと思う。

 

 

〇月×日

 

 

 後はいたちがひさしぶりに扶桑のそうめんを作ってくれた。ただゆでただけじゃなくて、しょうがやネギもがんばって用意したようだ。最近はらの調子がよくなかったからするする食べれるそうめんは嬉しかったけど、食べすぎぎてやっぱりはらの調子がわるい。次から気をつけよう。

 

〇今日の昼食について

 先日ふらっと戻ってきた●●飛曹長が腹の調子が悪いと言っていたので消化の良い扶桑の料理は無いかと主計課に相談したら、ややあって倉庫に素麺が残っているといった。季節外れではあるが久々の素麺。それは良いと自分達で作る事を申し出たが、主計課の●●軍曹は生憎賞味期限が一年前に切れているから破棄したほうが良いと断ってきた。だけど素麺は数年熟成させたものが美味しいという話を聞いた事があったので、折角だから作ろうと申し出た。育ちの良い●●中尉が止めた方が良いというが、説得して作った。予想通り味に問題は無かったが、●●飛曹長が食べ終わった後少し腹が痛いと言い出した。だが、かなりの量を食べていた上、他の者に影響がない事から●●飛曹長の食べ過ぎなのだろう。腹八文目とは扶桑の格言だ。自分も重々心にとどめておこうと思う。

 

1.本日、●●飛曹長の提案で昼食に素麺を作る事になりました。私が薬味を仕入れて厨房に行くと主計課の●●軍曹と●●飛曹長がなにやら揉めていました。

 話を聞くと、どうやら素麺の賞味期限が切れていたとのこと。廃棄を主張しましたが、『素麺は熟成させると美味しくなるんです、絶対大丈夫です』と●●飛曹長が強硬に主張するので仕方なく作ってみることに。変な味がしたら出すのは止めようと言ってみたものの、食べてみると普通に美味しくいただけました。考えてみれば、まだ食べられるものを粗末にするのは前線で戦う仲間たちに対して失礼な事で、自分の見識の無さを改めて恥じる事になりました。

 

2.追記。●●飛曹長と●●少佐が腹痛を訴えました。食中毒の疑いがあるとの事。あの二人は一人で3人前ほど食べていたので、そのせいだと思いますが、主犯である●●飛曹長には何らかの処罰が下る事になりそうです。私は素直に調理に至る経緯を説明したので、おとがめはなさそうです。

 

 

〇月×日

 

 

〇再度の反省

 先日の素麺テロ事件により自分と●●中尉に課せられていた毎朝の瑞鶴の甲板ランニングから、ようやく今日になって解放された。今後このような事が無いように気を付けようと思う。

 

〇雪

・ロマーニャは冬でも暖かい。ジェノヴァもまた同様で、冬でも気温が氷点下に下がる事は稀である。扶桑にいた時に比べれば格段に冬は過ごしやすい。だが、ここ数日、ジェノヴァではかなり気温が冷え込み、温暖なロマーニャ気候になれていた我が遣欧艦隊のウィッチ達には難儀な日が続く事となった。

・特に驚いたのは雪である。歴史的な建造物が多く残るジェノヴァの街並に雪が降る光景は中々に幻想的で、皆寒さも忘れ甲板に出てその光景に見入っていた。この程度の雪は積もることは無いので、後々の雪掻きの心配は無いのもまた、安心して雪の美しさに見入る事が出来た理由であろう。

・こんな天気でも●●飛曹長と●●中尉は元気に朝から甲板を走っていた。最近訓練に目覚めたのは、理由を付けては訓練をさぼろうとする●●飛曹長にしては良い心がけで、今後とも続けて欲しいものだ。

 

1.雪の中走るのは辛いです。

 

 

○月×日

 

 

〇零式54型について

 本日●●●●より、●●中尉と共に先日受領した零式54型の訓練を行った。零式という名に恥じず、非常に高い旋回性能と、更に今までに零式に無い非常に高い加速性能、加えて上昇能力の安定性には驚かされるばかりだ。自分にはもったいない機体であり、自分は紫電改で良いのでこの機体は●●中尉や●●中尉のようなもっと優秀なウィッチに使用してもらった方がより高い成果が上げられると思う。

 

1.本日の●●飛曹長の零式54型の訓練飛行について。

 零式54型は非常に性能が良い反面、非常にデリケートな機体であり、零式の軽量化された本体に金星エンジンを積んだことで高い加速性能と上昇能力、加えて零式21型並みの格闘性能を持った優れた機体であることが確認できました。しかし、その反面扱いは難しく、無理をすればエンジンの出力が機体の限界を超え、失速や機体の損傷の危険性があるとの事。零式の扱いに熟知したベテランである●●飛曹長だからこそ使いこなせる機体であると確信すると共に、今後量産される零式64型には装甲の強化などによる剛性の強化が必須であると感じさせられました。

 

 

〇月×日

 

 

〇サトゥルヌス祭

・●●飛曹長にとって、この日は素直に祝えない日であることは重々承知している。●●●●年の●●●●●作戦、●●●●●において●●●●●●●事、そして、サトゥルヌス祭に●●●●●を●●●●●出来なかった記憶は、●●飛曹長の証言により承知している。

・だが、●●飛曹長はそれを感じさせないように振舞い、皆を和ませた。果たして、過去の事を振り切れたのか、それとも無理をしているのか。個人的には後者であると思う。

・欧州にはサトゥルヌスカードという風習がある。扶桑の年賀状に近く、欧州においては親しいものに対して様々な絵柄の手紙をサトゥルヌス祭の時期に送り合う風習だ。

・欧州の生活が長くなると、我々もその風習に習い、手紙を何通も送る。自分もまた、多くのサトゥルヌスカードを送り、そして受け取った。●●●●●●の●●●●●少佐はついこの間共闘したばかりだが、律儀に瑞鶴にまで自分と●●飛曹長に送ってくれた。あの時●●した●●●●もまた、新たな新天地からサトゥルヌスカードを送ってくれた。●●飛曹長と共にそれを見るのはあの時の●●と●●を思い出し、久々に心温まる気分にさせられた。

・それと、●●飛曹長に送られた一通のサトゥルヌスカード。●●●●●から送られたものだ。

そこに書かれていた文字を見た●●飛曹長が●●●●●のには驚いた。

・私達は感謝してます。娘を、姉を連れて帰ってきてくれた●●さんに。●●さんに今後ともサトゥルヌスの加護があらんことを。

・●●小隊、皆至って健康。

 

1.サトゥルヌス祭のささやかなパーティは瑞鶴において恒例行事ですが、今年は特に皆楽しめたと思います。特に今年は素敵なプレゼントがありました。

詳細は事情により割愛しますが、本当に良かったです。

 

〇サトゥルヌス祭

 無事サトゥルヌス祭も終了。ばたばたした一日も終わりほっとするのと同時に、来年こそ扶桑の、そして、欧州の人たちの未来の為、一層努力をしなくてはいけないと思う次第。あと

 

 そこで途切れた文字。そこには何度も書き直した後があり、その上から震えた筆跡で一文。

 

 『遣欧艦隊の皆と、多くの欧州の人たちに心から感謝します』

 




 抜粋したのは若本徹子中尉と萩谷信乃飛曹長、藤田伊予中尉。特別ゲストで西沢飛曹長です。

 〇~
 ・~
 ・~
 という書き方が若。

 〇~
  ~~
  ~~
 が信乃。

 1.~
 2.~
 が伊予

 ひらがなが多いのがにしざわさんです。

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