チリチリするの   作:鳩屋

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2-3.504.JFW

 1330 ヴェネツィア公国 504JFW『アルダーウィッチーズ』基地上空

 

「竹井大尉、もっと高度を取った方が良いのでは?」

 

 ルチアナ・マッツェイ少尉の言葉に、話を振られた竹井醇子大尉がややあって口を開く。

「これ以上の上昇はこちらの速度が落ちるわ。仮に既に私達が補足されているとして、そこを狙われるくらいなら、このまま迎え打った方が良いと……」

 そこまで言ってちらり、と、醇子が前を飛ぶフェルナンディア・マルヴェッツィ中尉を見る。

「思うけど、今日の一番機はフェルだから。どう思う?フェル隊長」

 諄子の言葉に長くウェーブした茶色い髪に、気の強そうな大きな釣り目。やや子供っぽさを残す体にロマーニャ公国空軍の精鋭部隊の証……『赤ズボン隊』の制服を纏ったフェルナンディア……フェルがつぶやく。

「タケイの言う通りよ。皆、上を警戒して」

「「「「了解」」」

 幾度となく繰り返されたやり取り。模擬戦が始まって既に30分。優位高度を抑えられたままじりじりと時間を削っていくのもそろそろ我慢の限界だ。

「隊長、やはり……」

「いいから。黙って上見てなさい」

「見てますよ。今日もいい青空ですね」

「うわ、あの雲ゴリラみたい、ウッホウッホ」

 同じく赤ズボン隊のウィッチ達……ルチアナとマルチナ・クレスピ曹長が口を開く。

 勿論皆、一番の脅威が上からの攻撃である事は理解している。元々は対地爆撃を専門にしていたこともあるし、対空戦闘に配属されてから優位高度の絶対性を痛感させられた今ならなおさらだ。

 だが。

「実はもう後ろにいたりして」

「それは無いわ。ドッグファイトにもつれ込めばこっちが有利だって事くらい、徹……若本中尉は理解しているわ」

 ルチアナの言葉に諄子が返す。

 相手は上から来ることはほぼ間違いない。

 仮に後ろから奇襲をかけられても3対4、こちらが一人多いうえ、こちらにはルチアナとフェルがいる。パティは防御主体、アンジーは中距離よりも離れてからの攻撃で本領を発揮する。ほぼ同高度での近接戦闘なら、例え徹子がいたとしてもこちらのほうが有利だし、そもそも、今の徹子は、そんな戦いを望まない。

 だからこその確信。

 敵は優位高度からの一撃離脱を仕掛けてくる。

 ならば、こちらはそれをコンマ一秒でも早く補足し、すぐさま相手の射程の外へ向けて急降下。速度を稼いだら相手より先に上昇に移る。

 そうすれば有利高度を取られることを嫌がる相手は攻撃を諦め再上昇を始めるしかない。

 こちらもそれに合わせて高度を稼ぎ、相手のズームアンドダイブを封じる。互いに高高度を維持すればそれで形成は逆転する。

 相手もそれを理解しているからこその膠着状態。

 こっちも相手も、互いにお互いがしびれを切らすのを待っている。

 そして、そんな状況が永遠に続くと思われた瞬間。

「っ!!隊長!!4時方向から西北西!!今何かが光って!!」

ルチアナが叫ぶ。きらり、と、太陽の光を反射し、空に一条の線が描かれる。

「10時方向へ降下!!急いで!!」

 フェルが叫ぶ。その言葉を聞き、皆一斉に急降下。

 だが。

「……違う」

 ぽつり、と諄子が呟く。

 その言葉に振り返ったフェルが思わず目を見開く。

 それは人ではない。

 それは一振りの刀。

 きらきらと太陽の光を受け、抜き放たれた徹子の刀……『虎徹』が地面に向けて落下している。

 ぞわり、とフェルの肌が粟立つ。

「釣られたわ!!皆、上がりなさい!!」

 フェルの合図に諄子たちがストライカーの機首を引き上げようとする、その先。

 その頭を押さえる様に、徹子達が真っ直ぐこちらへと急降下してくる。

 あの刀は自分達をキルゾーンへと誘い込む囮。上昇してくるフェル達の頭を叩き、逃げ場を失わせるつもりだ。

 どうする。どうする?

 一瞬諄子の言葉を待つが、この部隊の隊長はフェルだ。フェルが決めるしかない。

「このまま再降下、地面すれすれまで降りて……」

 いや、違う。

 自分達が降下に転じれば徹子達は一度高度を取ってすぐさま背後を追ってくる。

 速度に乗った徹子達からすれば、それ以上下に逃げられない自分達は只の的だ。

 一か八か、自分達の腕を信じるしかない。

「このまま突っ切るわ!!皆!!ついてきなさい!!」

 フェルが叫び、真っ直ぐ徹子達へと向かっていく。互いに速度が出ていれば会敵は一瞬。数が減っても、その分優位高度を取り戻せる。

「いくわよ!!」

 フェルが叫ぶと同時に、皆が模擬銃を構える。眼前のウィッチ……扶桑皇国海軍遣欧艦隊の若本徹子中尉が自分を見、そして。

 にやり、と笑ったように見えた。

 

 数分前。

 

「やっぱり上がってこないみたいね」

「ああ。意外と粘るな。フェルの事だからすぐしびれを切らすと思っていたんだが」

 パトリシア・シェイド中尉の言葉にアンジェラ・ララサーバル中尉が呟く。

「このまま集中力が切れるのを待った方が良いかな」

「そうだな。マルチナの奴、日光浴でもしてるような顔してるからな」

「いや、あれはあれで悪くない」

 ぽつり、と若本徹子中尉が呟く。

「余り根を詰めても集中力ってのは続かないもんだ。あまり一点に集中せず、全体を俯瞰的に眺めていた方が変化に気が付きやすいし、気持ちも切れにくい」

「ひょっとしてマルチナ、それを知っていて……」

「偶然だろう」

「だろうな」

 即座に否定する二人の言葉にパトリシア……パティが思わず苦笑を浮かべる。

「でも、見てることは確かって訳ですし、このまま突っ込んでも……っていうか、竹井大尉、もうこっちに気が付いているんじゃないかしら」

「たぶんな」

 自分達が太陽を背にしていてそうそう肉眼では見つからない事は理解していても、遮蔽物の無い空では死角は限られる。諄子ならはそれに気が付き、こちらの出方をうかがっている可能性が高い。

「なら、私が囮になって攪乱しましょうか?」

「悪くないな。だが、他にも手はある」

 似たような戦術は徹子の、否、ここにはいない普段の僚機の十八番だ。

 だが、相手は諄子と赤ズボン隊。まとめて引き付けられなければ逆にパティが孤立させられてしまう。

 そうなればこちらは二人、戦況は逆に苦しくなるだろう。

「さっきも言ったが、集中力ってのは続かないもんだ。そろそろ諄子たちも動きたくてウズウズしている頃だろうからな」

 そう言って徹子はにやり、と笑うと、腰から下げた扶桑刀……『虎徹』を抜き放つ。

「若本中尉、何を?」

 アンジーの言葉に徹子がにやり、と笑う。

「今なら、些細な変化にも敏感に反応する」

 そう言って徹子が虎徹を思い切り投げる。まるで疑似餌に騙される魚のように、一斉に諄子たちの注意が誰もいない空……虎徹の方へと向く。

「隙が無ければ作ればいい!!行くぞ、奴らの頭を押さえる!!」

「成程、そう言う事」

 そう言ってパティが銃を構える。

「若本中尉、あの扶桑刀はどうするんだ?」

「終わったら探す。お前ら、手伝えよ」

 にやり、と笑う徹子に『ええ!?』と思わずパティとアンジーが叫ぶ。

 そんな声を背に徹子が反対方向へと急降下。

「気づいた気付いた、あれは相当焦ってるわね」

 パティが口元に笑みを浮かべる。

「油断するな。来るぞ」

 アンジーの言葉にパティが笑みを消す。

「パティ、頼む」

「任せて!!」

 そういうと真っ直ぐ上昇してくる諄子たちに突っ込みながらシールドを張る。

 一つではない、同時に四つ。シールドの操作はパティの十八番だ。

 左右に散開する徹子とアンジーを狙う模擬弾もまとめて遠隔操作したシールドで防ぎきる。

 手元から離れたところにシールドを張ると強度は一気に落ちるが、パティはそこに上手く角度を付け、貫通させる前に受け流す。

 シールドコントロールの技術の中にはネウロイのビームに弾き飛ばされることを防ぐため、シールドに角度を付けて受け流す技術があるが、その応用だ。

「貰った!!」

 アンジーが模擬銃を構える。パティを中心に扇型に広がり、反対側の徹子と共に両脇から、真っ直ぐ突っ込んでくるフェル達にペイント弾を掃射。この角度なら、アンジーの弾を防げば徹子の、徹子の弾を防げばアンジーの弾に当たる事になる。

「隊長っ!!」

「竹井大尉!!」

 咄嗟にルチアナとマルチナがフェルと諄子の前に出る。二人を庇うようにシールドを張るが、同時に被弾。その間に諄子とフェルが徹子達の脇をすり抜ける。

「ちょっと、何してんの二人共!!」

「隊長たちの方が勝てる確率高いから!!」

「後はお願いします!!隊長!!竹井大尉!!」

 確かに、一人が一人を庇った方が確実に二人は守れる。

 全員で突っ切っていたら、ひょっとしたらそれ以上、否、全員が撃墜判定されていてもおかしく無い状況だ。

 だが。

 もし、これが実戦だったなら。

 今まさに、フェルの判断がかけがえのない戦友二人の命を奪った事になる。

「タケイ!!アンジーを狙って!!」

 そう。

 これが実戦だったなら。

 二人の犠牲を無駄にするわけにはいかない。少しでも、二人の犠牲を勝利に結びつけるのが、せめてもの二人への弔いだ。

「二人共!!仇は取ってあげるわ!!」

『いや、死んでないよ』

『ピンピンしてます』

 無線から届く部下二人の声を無視して即座に反転。急降下でこちらに背を向けたままのアンジーに向け、フェルと諄子が一斉に模擬銃の弾き金を引く。

「くっ!?……やるな、フェル」

 アンジェラのユニットにペイント弾が付着。これで2対2。

「パティ、まだこっちのほうが足がある。そのままフェルを引き付けろ!!」

「了解!!」

 すぐ後ろにぴたりとつけるフェルを引き離すべく、そのまま高度を落とすパティ。

「逃がさないわよ!!」

 だが、フェルはそんなパティの背後にぴたりとつけて、銃口を背中に向けている。

『パティ、あまり離れすぎるな!!こっちに誘導しろ!!』

「……って、これは結構きつそうね……」

 大回りに旋回しながら上昇を始めるパティ。

「いいぞ、後は……」

 パティとは反対方向に退避しながら徹子が背後を振りかえる。

 図らずしも一対一。背後を取られる形になるが、それでも徹子は不敵に笑みを浮かべる。

「行くよ!!『徹子ちゃん!!』」

 背後から追い縋って来る諄子の声に、徹子が口元に獰猛な笑みを浮かべる。

「返り討ちにしてやるぜ!!『諄子!!』」

 徹子の機体は零式だが、諄子は紫電改。いくら急降下で速度を稼いだとしても、紫電改の降下速度には及ばない。加えて今から上昇しても、紫電改の上昇能力を加味すれば逃げ切る事は不可能だ。

「初めからこれが狙いか!!諄子!!」

 紫電改から逃げられなければ、選択肢はただ一つ。

 ここから先は巴戦だ。

「ここで徹子ちゃんを落とせば、フェルがパティを落としてくれる!!」

「それはどうかな?パティの方が今は冷静だぜ」

「熱意ならフェルの方が上よ」

 零式の旋回性能を生かして水平飛行に移った徹子の背を追う諄子。紫電改の自動空戦フラップが落ち、旋回性能を増した紫電改がぴたり、と零式の背後につける。

「いい機体だな、羨ましいぜ。せめて54型を持ってこれたらもっと楽だったんだがな」

「戦闘脚の性能が戦いの全てじゃないよ、徹子ちゃん」

 諄子が叫び、模擬銃の弾き金を引く。当てるのではなく、誘い込むように、徹子の動きを真綿をからめとるように誘導していく。

 まるで詰み将棋のように、一手一手、着実に徹子の逃げ場を奪う。今の諄子はかつての扶桑改事変の時の少女とは違う。リバウの貴婦人と称えられるまでに成長した、扶桑海軍でも随一の、腕利きのウィッチだ。

「その通りだ!!例え紫電改だろうが何だろうが!!」

 徹子が体をくの時に曲げる。限界ぎりぎりまでの速度が一気に落ちて、零式52型が悲鳴をあげる。

「なっ……」

 零式の限界寸前の急制動。オーバーシュートする諄子の背に向け、徹子が銃口を向ける。

 だが。

「やっぱり、徹子ちゃんならそうするよね」

 薄く笑みを浮かべて体を捻った諄子の目の前に先程徹子が投げた『虎徹』が落ちてくる。

 そう、だからこそ諄子は徹子をこの場所に『誘導』したのだ。

「っ!?まさか、そこまで狙って!?」

「いつまでも、昔の私だと思わないで、徹子ちゃん」

 諄子が叫ぶのと同時に、手にした『虎徹』の峰で徹子の銃身を殴りつけて射線を反らす。

「諄子の癖にやるじゃねぇか!!」

「誰かさんが鍛えてくれたからねっ!!」

「確かに……だがなっ!!」

 身体を捻りながら、自分に向けられた銃口を掴む。

「待ちなさい!!パティ!!」

「若本中尉!!今です!!」

「な……っ!?」

 予想外の闖入者。

 こちらに真っ直ぐ向かってくるパティとフェルに、思わず諄子が目を見開く。

「オレも昔の『徹子ちゃん』じゃない!!」

『冷静な観察眼と奇襲攻撃が身上』と称される、頭脳戦を得意とするウィッチ。

 そして、それ以上に。

『扶桑最強のウィッチ』

 その肩書を背負う徹子が、模擬戦とは言え、諄子相手に敗北を期すわけにはいかない。

 次の瞬間。

 諄子とパティ、そしてフェルの模擬銃の銃口が、同時に火を噴いた。

「……え?」

 自分の顔面にべっとりと付着したペイント弾を拭い、フェルが間の抜けた声を上げる。

 虎徹に弾かれた勢いを生かし、反対側の手で諄子の模擬銃を掴み、その狙いをフェルに反らす。

 結果として、諄子の放った模擬弾は、フェルの顔面に寸分たがわず命中した。

「頭に血が上ったほうが負け。一応これでも、経験は豊富なのよ」

 同じようにフェルの放ったペイント弾で背中を汚したパティが笑う。

 徹子の様子を見て、半ば賭けだったがパティはフェルの攻撃を受ける代わりに、今一番落とせそうな相手を狙った。

 そして、その相手は。 

「……してやられたわね。若本中尉、パティ」

 諄子が呟き、肩をすくめる。

 その胸元には、パティの放った模擬弾のペイントが、べっとりと付着していた。

 結果として、生存判定は徹子ただ一人。

 模擬戦は、徹子達の勝利で終わった。

 

「臨時教官、引き受けてくれてありがとう、徹子」

 ストライカーユニットから降り、ハンガーの片隅で諄子が手にしたカップに口を付ける。

 激戦区では滅多に口に出来ない、きちんと豆から挽いてドリップしたコーヒーだ。

 この部隊の隊長がロマーニャ人で、かつこういった部隊に楽しみや潤いをもたらすような物資の調達に余念がない人物であるため、こういった嗜好品の類は比較的楽に手に入るのだ。

「気にすんな。オレだって願ったり叶ったりだ。それに、この部隊の連中は素直な奴ばかりで鍛えがいがありそうだ」

 諄子の脇で同じくカップに口を付けながら徹子が答える。

 それに比べて瑞鶴の連中は。きっと今頃、鬼の居ぬ間になんとやらと、ゆっくり羽を伸ばしているに違いない。特にハギと伊予。あいつらがもっと勤勉なら、オレも新藤のヤツも安心して後を任せられるのに。

「変わったわね、貴女も。昔なら、『誰かに教えるよりもオレが教わるほうが先だ』ってつっぱねてたし」

「今も同じだ。教える事で教わることもある」

 あくまで戦うのは自分の為ならば、教えるのも自分の為だ。

 成長したとすれば、他人に教えるという行為は他人を知る行為でもあり、背を並べて戦うためには、他人を知るという事は必要不可欠であるという事。そして、自分が育てた奴が自分の手を離れ、いつしか前を飛んでいるのを見るのも、悪くない光景だと気が付いた事くらいだろうか。

 そう、自分はお人よしの『あいつ』とは違う。扶桑一の魔女になりたいという願いも、アイツのそれと自分の利己的なそれとは似て非なるところから生じたものだ。

だが、その結果生じた『答え』が同じになる事もある。ただそれだけだ。

「それに、強くなってもらわないと、オレ達が困る。あんな作戦を聞かされたら、猶更な」 

 模擬戦の前に諄子と、504の司令を務めるフェデリカ・N・ドッリオ少佐から聞かされた、504JFWが行う秘密作戦。

 その作戦に対する自分の感情は脇に置く。あくまで実行するのは504であり、諄子であり、その指揮に従うウィッチ達なのだ。

 模擬戦をやってみて皆経験豊富で優秀なウィッチである事は理解した。

 だが、徹子から見ればまだまだ成長の余地はある。生き残るためには少しでも経験を積ませ、成長を促さなくてはいけない。

「フェルがあれだけやる気を出したのは久々よ」

「その分頭に血が上り易そうだがな」

 まあ。それはね。と諄子が曖昧にほほ笑む。

 フェルだけではなく、この部隊は自分の感情に素直な子が多い。その分やる気を出した時の爆発力は他のJFWと比べても群を抜いていると自負するが、やる気が無い時の緩さも他のJFWの部隊とは比べ物にならない程だとは思う。

 ふと空を見上げると、模擬戦を終えたばかりだというのに各々のウィッチたちが自主的に訓練を行っている。赤ズボン隊の3人がパティを集中攻撃していたり、陸軍の服を着た眼鏡の少女が同じく陸軍の制服を着た短髪の少女を誤射していたりと、ところどころ怪しいところもあるが、概ね徹子と模擬戦をした事は皆の心にそれなりに響いたようだ。

「それはそうとして、やっぱり徹子は強いわね。上手く裏をかいたと思ったのに」

 普段の大人びた雰囲気の諄子しか知らなければ驚くかもしれない、だが、徹子からすれば幼いころから見慣れた、どこか無邪気な雰囲気のふわっとした笑顔に思わず照れ臭くなって視線を逸らす。

「……いや、裏をかかれたのは間違いない。僚機についてくれた二人が良い動きをしてくれたからどうにかなっただけの話だ」

「ふぅん」

「……何だよ」

 徹子の言葉に悪戯っぽく微笑む諄子。

「別に。『徹子ちゃん』が謙遜するなんて、大人になったな、って思っただけ」

「な!?」

 予想外の諄子の言葉に、徹子の頬が赤くなる。

「ふ、ふざけんな!!人が真面目に話してんのに!!」

「ふふ。ごめんね。うん、やっぱり徹子は徹子ね」

 徹子も昔の徹子とは違う。

 それは坂本や西沢といった古くからの友人達も口をそろえる。

 冷静な観察眼と奇襲と一撃離脱を身上とする扶桑最強のウィッチという肩書は、かつての友人達からすれば同姓同名の他人なのでは、と疑いたくなっても不思議ではない。

 だが、それは諄子も美緒も同じだ。

 人見知りで泣き虫のお嬢さんだった諄子は今や背も階級も自分を飛び越し、各国のエースを集めた統合航空戦闘団の戦闘隊長を務めている。

 だが、顔を合わせて話をすれば、その根底の部分は変らない。仲間を失うのが怖くて、任務と素顔のはざまで揺れている様子を見ているうちに、気が付けば臨時教官などを引き受けてしまった。

 そう。

 なんだかんだで徹子は諄子に甘いのだ。

「……死ぬなよ。諄子」

「うん。徹子も」

 美緒のヤツも含めて、全員あがりを迎えたら一度皆で先生に会いにいこう、というと、諄子も小さく頷いた。

 出来る事なら『世界をネウロイから救ったら』といいたいところだが、それが不可能なのは徹子も、諄子もうっすらと悟っていた。

 本人は隠してはいるが、魔眼を酷使しすぎた美緒はもうシールドを張る事は出来ない。

 それはつまり、自分達にも間もなく同じ時が訪れるという事だ。

 だが。

 それでもまだ、オレ達に出来る事はまだあるはずだ。

 

 そう。

 

 例え、残された時間は短くても。

 

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