1944 ガリア パ・ド・カレー上空
「それにしても多いですね。ガリア中のネウロイ全部こっちに来たんじゃないですか?」
ブラウンヘアーの少女が手にしたM1919機関銃の引き金を引きながら呟く。
「この程度で全部なら、今頃501がガリアを解放してるさ」
「むしろ501が今まで解放できなかった理由が良く解ります」
軽口を叩きながらも次々に小型ネウロイを破壊していくブリタニアのウイッチ達。
HMW『グローリアスウィッチーズ』の精鋭、タングミーア基地航空部隊第3中隊のウィッチ達である。
「隊長!!8時方向より敵増援!!太陽の影、小型が10っす!!」
「了解!!エッタ、反転して上昇、頭殴りつけるわよ!!」
「マジっすか!?てか無茶っすよ!!」
ジェシカの言葉に僚機のヘンリエッタ・マクラウドが悲鳴のような声を上げる。
ファラウェイランド訛りが強い、小柄な『元』義勇ウィッチにジェシカが言い放つ。
「あいつらは馬鹿だから平気よ!!」
「馬鹿は隊長っす!!ああもうっ!!」
ダイブから一気にスピットファイアを引き上げるジェシカに、ヘンリエッタ……エッタが後に続く。
ファラウェイランドの義勇部隊からジェシカ自ら引き抜いただけあって、その動きは口とは裏腹に迷いがない。
ジェシカとエッタがM1919を構え、一射放つと同時に左右に散開。ネウロイのダイブからの攻撃を旋回でやり過ごし、そのまま二人そろって背後につく。
そのまま再度斉射。一気にその大半を打ち落とす。
「いいか、ここが正念場だ。奴等の巣を本隊が叩くまで、何としても食い留めろ!!」
部隊の副隊長、アラーナ・C・ディーアが檄を飛ばすと同時に手にしたボーイズ対戦車ライフルの引き金を引くと同時に、味方に襲い掛かっていたネウロイが次々に爆散し、青空に白い光の花が咲く。
「流石副隊長!!」
「これなら負ける気がしないっす!!」
歓声を上げるHMWのウィッチ達。
「……何か私の時と反応が違くない?」
ジェシカがぽつり、と呟く。
「負ける気はしないのに、何で私達が本隊に選ばれないのかしらね、ラーナ」
「さあな。最近の上の考えはドロレス隊長でもつかめないらしいからな」
ジェシカの問いかけにアラーナが答える。
ダウンディング空軍大将が失脚し、その後トレヴァー・マロニー空軍大将が台頭してきてから、ウィッチ部隊そのものが軽視される傾向にあった。
HMWではそこまで顕著ではないものの、漏れ伝わる情報からは、解散したばかりの501に対しては相当な圧力があったとか、マロニー個人の私怨があるとか、どうにもきな臭い。
今回の作戦も詳しくは聞かされていないものの、本隊の主力はウィッチではないらしい。
当然HMWの総隊長であるドロレス・バーター大佐を始め、HMWのウィッチ達からは不満の声が上がったが、マロニーを始めとする上層部は聞く耳を持たないどころか、囮の任務に虎の子のウィッチ部隊を使う事を決めてしまい、今に至っている。
「ふん。こんな作戦、失敗するのに1ペニー掛けてやります」
腹立たし気にブラウンヘアーの少女が呟き、M1919の引き金を引く。
「あ、じゃあ私は5ペニー」
「10ペニーと隊長の僚機になれる権利をかけるっす」
「おい、絶対に成立しない賭けを持ち出すな」
「どういう意味よ!?」
軽口を叩きながらだろうとも、敵が多かろうとも、小型の群れを相手に苦戦をする程HMWの精鋭の練度は低くない。
「それにしても、きりがないっす。隊長、弾足りるっすかね?」
「そうね、『私達だけ』じゃ足りないわね」
エッタと共同で中型を撃墜したジェシカが呟く。
落としても落としてもきりがない程、目の前の空を覆いつくすように展開する無数のネウロイ。
例え銃弾を節約しても、仲間達の数と携行弾数を考えれば、『自分達だけ』で落とし切れるわけがないのは明白だ。
だが。
「戦ってるのは、『私達だけ』じゃない」
アラーナが呟く。
本隊が敵の巣を叩けば、そこから派生するネウロイも自然に消滅する。
それに。
『待たせたな、『グローリアスウィッチーズ』。こちらリベリオン陸軍第8航空軍団、第56戦闘航空群。今より支援に入る』
待ち望んでいた声がオープンチャンネルの魔導無線に響きわたる。
「来ました!!『ウルフパック』!!」
「リベリオンの第56戦闘航空群だ!!」
HMWのウィッチ達が歓声を上げる。
「HMW全機は一旦離脱!!『狩り』に巻き込まれるわよ!!」
無線の声にジェシカが叫ぶ。
スピットファイアがすぐさま離脱を始めると同時に、遥か上空から無数のエンジン音の唸り声が響いてくる。
雲の隙間から覗く無数の影は、遠目にはネウロイの増援のようにも見える。だが、時折太陽の光を反射しきらきらと輝く姿は、禍々しい黒色の外皮を持つネウロイとは異なる。
『こちら『HV-A』、フランチースカ・E・ガブレシェフスキー。ウルフパック第二中隊は私に続け!!』
『『LM-S』、ディアナ・シリングよりウルフパック第一中隊全機へ、全機突撃。ギャビーに遅れを取っちゃ駄目よ』
短い指示が魔導無線に響くと同時に、10000メートルの上空からウィッチ達が一斉に急降下を始める。
P&WR-2800ダブルワスプ魔導エンジンの大出力により、あっという間に遍音速域に入ったP-47Dが、一斉に雷のようにネウロイに襲い掛かる。
そして、次の瞬間。
ウルフパックのウィッチ達が手にしたM2重機関銃が一斉に火を噴き、ガリアの空に雷鳴のような銃声を響かせる。
「うわ、壮観っすね!!」
エッタが歓声を上げる。
ウィッチという名の
しかも空には第二波に備え、同数かそれ以上のウイッチたちが指示を待って控えている。
『第三中隊、行け』
眼下の様子を眺めていたゼムケが人差し指を伸ばし、背後に控えるウィッチ達に合図を送る。
『了解!!第三部隊は『LM-Q』、
その猟犬に命を下す狩人のような、冷徹な口調に弾かれるように、空で出番を待っていたウィッチ達が一斉に降下を始める。
その眼下では攻撃を終えたウィッチ達がすぐさま上昇に移っている所だ。
何とか一矢報いようと、上昇に転じたウィッチ達を追おうとするネウロイだが、入れ違いに降り注ぐ第三中隊のウィッチ達のM2機関銃の12.7mmが残ったネウロイを容赦なく削り取っていく。
『ディアナ、前方よりネウロイの増援を確認。焦らず引き付けろ。ギャビーは再度降下、深追いはせず、増援が来る前に上昇しろ』
『第一中隊、了解ですわ』
『第二中隊、了解!!』
「……凄いっすね、あのウィッチの数」
「37」
「うぇ、隊長数えてたんですか?」
ジェシカの言葉にエッタが目を丸くする。
「まさか、『あそこ』にいる『あの子』に聞いたのよ。リベリオンは一中隊12人。3中隊と指揮官でそのくらいの数でしょう?」
「あの子……って、ひょっとしてフランっすか?」
ぱっ、とエッタの表情が輝く。
フランセス・S・ガブレスキー……オストマルク義勇兵としてリベリオンから渡ってきた年下の少女が再度リベリオン陸軍航空隊に復帰していったのはつい先日だ。
来た頃に比べマシになったとはいえ、少し無鉄砲な所があるので心配していたが、どうやらまだ生きているらしい。
「そうよ。今は中隊長。もうあんたより階級が上よ」
ジェシカの言葉にエッタが思わず口元に笑みを浮かべる。
「そっかあ……向うで立派になったんすね!!元僚機として鼻が高いっす!!」
ファラウェイランド出身のエッタにとって、オストマルク系リベリアンのフランはいわば同じ大陸で産まれて同じ国の部隊で戦った、所謂戦友でもある。
かつての三番機の活躍を喜ぶ二番機の言葉に、ジェシカも一瞬口元に笑みを浮かべるが、すぐさま表情を引き締めて口を開く。
「エッタ!!フランになんて負けてられないわ!!全機増援に備え集合!!これ以上横取りはさせないわ!!」
「「「了解!!」」」
ジェシカの声にHMWのウィッチ達が再度上空へ集結を始める。
「さあ、無駄にしてる時間なんて無いわ!!私達も行くわよ!!」