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「こちら扶桑一番、ネウロイを確認しました」
伊予が呟き、背負ったS-18を構える。カールスラントとヘルウェティアにより開発されたライフルは、欧州各地で使用されるモデルで、遣欧艦隊でも狙撃を得意とするウイッチたちの間で用いられている。
『こちらリベリオン一番だ!!攻撃を仕掛ける……』
『いえ、その必要はありません』
緊張したフランの言葉を伊予が遮る。
伊予の目は既に敵を捕らえている。
それが何を意味するか。
「どうやら、向うもこっちに気が付いたようですね」
ぽつり、と呟く伊予。
相手が『はぐれ』ならまだよかったが、ネウロイはこちらに向かうのではなく、反転して空域から離脱しようとしている。
ウィッチでもネウロイでも、偵察型の役割は交戦ではなく敵の補足。むやみやたらに攻撃を仕掛けてくる『はぐれ』とは違う。
相手の動きを予知し、銃口をやや先に向ける。伊予の固有魔法『自動演算』は視界内の着弾位置を正確に割りだすが、相手の動きは他のウィッチ同様偏差射撃の技術が必要となる。
敵が飛び込んでくる位置に狙いを定め、一射。引き金を引く。
次の瞬間、遥か先にいるネウロイの動きが止まり、花火のように白い光をまき散らして爆散する。
『こちら扶桑一番、敵ネウロイ撃墜』
『……え?』
ぽつり、と呟いたのはフラン。
射程距離外どころか、狙撃銃とは言え弾が届くかどうかも怪しい距離で正確に相手を射抜いた伊予に、信じられないといった声を上げる。
『流石、相変わらずいい腕ね』
弾んだ声で声を上げるのはジェシカ。
伊予の固有魔法を知っていれば驚く事ではないが、これだけの距離で相手の動きを読み切るのは並大抵の技術ではない。
『やった!!一発だ!!』
『うぉぉ、当てたぞ!!』
護衛する輸送機からも歓声が上がる。ジョーイも思わず隣の機長に抱き着き、思い切り頭に拳骨を食らっていた。
『凄い……こんなことが出来るのか、伊予』
フランが呟く。ジェシカや信乃とは違い、初めてみたのであれば驚くのも無理はない。
だが。
「こちら扶桑一番。相手が偵察型なら、間もなく敵の本隊と遭遇する可能性があります。進路を変えつつ、各ウィッチは警戒を密にしてください」
その言葉にジョーイの笑顔が再度凍り付く。
『扶桑二番、了解です』
『ブリタニア一番、了解したわ』
『リベリオン一番、了解』
伊予の言葉に他の三人が答える。
「ど、どういう事です?先輩……」
「オクラホマにいるお前のママよりおっかない奴に見つかったって事さ、ジョー」
ジョーイの言葉にボブが呟く。先程までの温厚そうな顔は鳴りを潜め、ジョーク交じりながらもその表情は硬い。
「……やれやれ。後は扶桑の隊長さん次第だな」
吸いきった煙草を飲み終えたコーヒーのカップに入れ、ぽつり、と呟くビューリング。
「デビー、ここに残って、動かないところに捕まってるね。ビューリング、いざという時の準備はしておくね。輸送機だから銃と弾だけは豊富ねー」
「了解だ」
「解りました」
デビーの返事を待たずそう言って立ち上がり、後部の積み荷の方へと向かって行くオヘア。
「オヘア、魔導無線を忘れるな。左を見てろ、私は右を見る」
「了解ねー」
先程まで散々いがみ合っていたとは思えない程息の合った動きで、すぐさまストライカーの梱包をほどき、銃を用意すると輸送機の窓に張り付くオヘアとビューリング。
偵察型を出すだけの敵ネウロイがまさか1機や2機な筈は無い。
相手は少なくとも中隊規模。それも、中型か、下手をすると大型が率いている可能性が高い。
『扶桑一番、さっきの偵察型は南、カールスラント方面から出てきたわ』
『了解。輸送機は高度を7000まで上昇、バルトランド各基地に緊急応援要請をお願いします。私達はこのまま進路をソラ空港からオーランド空軍基地へ』
ジェシカの報告に伊予がすぐさま指示を出す。
C-47の実用上昇限界が8000程なので、ウィッチ隊のユニットの上昇限界も考えギリギリの高度を保つ。相手がそれより高度から奇襲を仕掛けてきたとしても、急降下で逃げ切るために必要な距離を今の内から稼ぐのと、輸送機を追うネウロイに逆にヒットアンドランを仕掛ける為に必要な余裕を持つためだ。
偵察型ネウロイがどれだけの情報を本隊に送ったかは分からないが、少なくとも偵察型が落とされた時点でその位置は把握しているはずだ。もし針路まで把握されていれば、最悪待ち伏せに会う可能性もある。
まずは針路を東北東に位置する北海沿岸のソラ空港から北部のオーランド基地へと変更し、502や507の部隊が待っているであろうリュッゲ基地も含め、バルトランドの沿岸沿いの航空基地へと輸送機から救援を要請しつつ、ネウロイの襲撃に備える。
偵察型の戻ろうとしていた方向が現在の6時方向のカールスラント方面。
ならば、敵が前から来る可能性は低い。真後ろからの襲撃ならば、ウィッチだけなら引き離せるが、鈍重な輸送機がいるとなると追いつかれる可能性が高い。
『リベリオン一番、高度を後1000上昇、背後に特に気を付けてください』
『リベリオン一番、了解した』
上昇していくフランがP-47Mはここにあるストライカーユニットで最も限界高度が高い。それを生かし、可能な限りの高高度へ。そこで索敵を行いつつ、いつでも迎撃に移れるように配置させておく。
『扶桑二番は輸送機の後方へ。いつでもシールドを張れるようにしておいてください』
『了解です』
信乃が伊予の二番機の位置を離れ、輸送機へと向かう。
信乃の役目は本来彼女が得意とする先行しての囮ではなく、零式の機動力を生かし、輸送機に張り付いてシールドで壁になる事だ。
『こちらブリタニア一番。こっちも余り離れすぎない方が良さそうね』
『はい。後ろはリベリオン一番と私が見るので、高度を取りつつ、左右からの奇襲に警戒してください』
輸送機の前方にフランとジェシカ。直上に伊予、背後に信乃。
「ネウロイ、来ますかね?」
「来るか来ないかよりも、ここまでくれば倒すか落とされるかを気にしたほうが良いぞ、『アンラッキー』ジョー」
ジョーイの言葉に機長が肩を竦める。
『こちらリベリオン一番!!6時方向より敵機らしき影を複数補足!!1、2……』
フランの声が魔導無線に響く。
「おちついてリベリオン一番、敵は沢山?」
『沢山だ!!』
『了解しました、輸送機及び扶桑二番は2時方向へ回頭!!』
伊予の指示と同時に旋回を始める輸送機の脇につけながら、信乃がふん、と鼻を鳴らす。
『任せましたよ、フラン、ジェシー』
敵は中型らしき一際大きな影が1、そして、随伴らしき小型が10と少しといった所か。
『この程度ならどうにでもなるわ』
無線越しに不敵に呟くジェシカの声に皆が頷く。
『こちら扶桑二番、輸送機へ、9時方向にも目を配ってください』
『こちらオヘア、了解ねー』
信乃の無線にオヘアが答える。
『ひぃぃ、来た、来たぁ~』
『そう簡単に落とされるもんじゃない、大人しくしてろジョーイ』
……こういう時に『若』が居れば近づいてくる前に特爆で敵を減らせるのに。
ぽつり、と信乃が考えるが、すぐさま余計な思考を頭から追い出す。上を見ると、高高度から敵へダイブするタイミングを見計らっているのであろうジェシカとフラン、そして、手にしたS-18を構える伊予の姿。
「来る前に皆落とせばいいだけの話です」
ぽつり、と呟き伊予が引き金を引く。
相手の攻撃よりも先に、一射、二射と弾を打ち出す。次の瞬間、小型ネウロイが3機、光の破片へと変わる。
『そういう事!!リベリオン一番!!』
『了解!!』
突然のアウトレンジからの攻撃で虚を突かれたように散開を始めるネウロイの群れに向け、ジェシカとフランが急降下攻撃を仕掛ける。
『行くわよ!!』
手にしたM1919機関銃の引き金を軽く叩くと同時に放たれる7.62mmが散開を始めていた小型ネウロイに吸い込まれる。すぐさま銃口を脇に向け再度一射。まるで手品のように寸分たがわず銃弾がネウロイへと吸い込まれていく。
『やっぱりジェシーは上手い……けどっ!!』
きっ、と目を釣りあげ、フランが中型へと狙いを定める。手にしたM2重機関銃を構え、急降下で稼いだ速力を生かし一気に中型へと肉薄する。
『危ない!!』
誰かが叫ぶと同時に、まるで中型を庇うかのように前にでた数機の小型ネウロイがフランに向け赤く輝く熱線を放つ。
しかし。
『『
フランがシールドを展開。
後ろにいるジェシカすら覆いそうな程に大きなシールドがネウロイの熱戦を弾き、逆に速力を落とすどころか加速を増すP-47Mが中型を庇うように前に出る小型ネウロイと肉薄する。
『っ!!』
フランが引き金を引くと同時に小型ネウロイがはじけ飛ぶ。遍音速でネウロイの脇をすり抜け、上昇に転じるフランの背後に小型ネウロイが殺到する。
『フランっ!!』
「危ない!!」
ジェシカと伊予の放った弾丸が次々にフランの背後のネウロイを蹴散らしていく。
降下で得た速力を上昇力に変え、再度高高度へ上がるフラン。
『すまない、中型を……』
『いいからフランは高度を取る!!次よ次!!』
「後ろは私に任せてください!!」
ジェシカと伊予の言葉に頷き、再度急降下に転じようとフランが身をよじった矢先。
『まずいね!!輸送機の9時方向!!伏兵がいたねー!!』
魔導無線に飛び込んでくるオヘアの声。
『ちゅ、中型だっ!!助けて!!パパ!!ママっ!!』
ジョーイの悲鳴が無線に響く。ウィッチ達の意識が向いている反対側に、それを待っていたかのように現れた中型ネウロイが輸送機に狙いを定める。
「ハギちゃんっ!!」
伊予が叫ぶ。それと同時に。
『ふふん!!あたしは貴方のママじゃないけど、助けてあげますよ、ジョーイ!!』
ぴったりと輸送機に張り付いてた信乃がネウロイの死角から飛び出す。
ネウロイと輸送機の間に割って入り、射線上でチリチリと疼く感覚を振り払うようにシールドを展開。角度をつけてネウロイの熱線を脇に反らすと、そのまま一気に中型へ肉薄。
『この距離なら、あたしでも楽勝です!!』
信乃が叫ぶと同時に、手にした99式2型2号の20mmがハニカム模様の外壁を食い破る。
機械的な叫び声を上げる中型ネウロイ。コアをむき出しにしたまま、低空へと逃げようと降下していく。それを見送りながら、信乃が叫ぶ。
『今です!!誰か止めを!!』
低空での戦闘を得意とする信乃からすればこれ以上ない程に美味しい状況だ。追いかけて巴戦に持ち込めば、まず間違いなく落とす事が出来る。
だが、信乃の任務はネウロイの撃墜ではない。輸送機の護衛だ。必要以上にネウロイを追い、輸送機から離れるわけにはいかないのだ。
『譲るわ、イヨ!!』
フランの撃ち漏らした中型を追っていたジェシカの叫びに伊予が手にしたS-18を構え、そして一射。むき出しになったネウロイのコアを銃弾が貫き、白い光の花が咲く。
『ごめんね、ハギちゃん』
『謝るならあたしじゃなくて輸送機に。奇襲を許すなんてらしくないですよ』
信乃の言葉に伊予が表情を引き締める。今は撃墜数を競っている場合ではない。
一方。
『いい加減落ちなさい!!』
ジェシカが叫び、手にしたM1919の引き金を引く。コアを露出させた中型など、ジェシカの前では模擬戦の引き流しよりも御しやすい。旋回しながら逃れようとする中型の進路に向け、7.96mmが流れるように吸い込まれ、次の瞬間爆散する。
『中型全機撃墜を確認、あとは小型が……』
フランの言葉が一瞬途切れ、直ぐに緊張感を増して無線に響く。
『……敵機増援!!8時方向!!』
『……撤退します!!輸送機は及びウィッチ全機は速やかにウェストハムネット基地へ!!』
伊予の判断は迅速だった。どうやら完全にこちらの位置は補足されているようだ。
このままでは、第二波、第三波とネウロイの襲撃を迎え撃つことになる。
その言葉にすぐさまC-47と零式輸送機が旋回を開始し、元来た航路へと針路を向ける。
『何よもう!!折角ここまで来たのに!!』
ジェシカが悔しそうに呟く。銃弾も燃料も、まだ十分に余裕がある。強行突破も一つの手だが、戦闘飛行は巡行中のそれと比べて魔力の消費がけた違いに高い。
波状攻撃を受ければ補給の間も無くあっという間に追い込まれてしまうので、撤退は当然の判断だ。
だが。
『……え?』
無線に飛び込んできたのは困惑したようなフランの声。
『フランチースカ中尉?』
『ネウロイが引き返して……何……これ……』
フランの声が途切れ途切れに聞こえ始める。魔導無線に何らかの異常が生じたのか、無線の音にノイズが混じり始める。
『不味い、あの時と同じ……『持ってかれる』ぞ!!』
『っ!!誰か、あの子を探すね!!』
ビューリングとオヘアの声が魔導無線に響く。
『フラン!!どうしたのよ!?落ち着いて、位置を知らせなさい!!』
ジェシカが焦ったように無線に話しかけ、その脇ですぐさま信乃がその場から上昇を始める。
『ハギちゃん!?』
『索敵はあたしの得意分野です!!輸送機の護衛を代わってください、ジェシー!!』
そう言いながらもフランの居た方向を中心に、周囲に目を配りながら上昇を続ける信乃。
12歳の頃から若の僚機について、散々索敵をやらされた上、偵察部隊で隊長を務めたこともあるのだ。どんな敵でも真っ先に見つける徹子には及ばないが、それでも徹子以外のウィッチに索敵で後れを取ったりはしない。
『……見つけました!!』
ややあって信乃の声が無線に響く。
『P-47M』を履いたフランが、輸送機から遠ざかっていくネウロイの編隊の背後を追うような形でふらふらと飛んでいる。
『シノ!!気を付けるね!!相手はどんなネウロイね!!』
オヘアの言葉に信乃はフランを追いながら、その先のネウロイを見据える。
『見た目は普通のネウロイです!!中型が1、後は小型が多数!!』
『普通、だと……?』
ぽつり、とビューリングが呟く。
『ジェシカ、イヨ!!シノを見失っちゃ駄目ね!!もしシノもおかしくなったら、直ぐに追いかけるね!!』
『了解です!!』
『わかってるわ!!』
無線から緊張した雰囲気の二人の声が届く。
『こちら扶桑3番、リベリオンの2番、俺達も追うか?』
零式輸送機の機長が無線越しに尋ねてくる。
『準備はしておくね!!ジョーイ、ユーもねー!!』
「嘘だろぉ……」
オヘアの言葉にぽつり、と呟くジョーイ。
「ママの代わりに助けてくれた扶桑のウィッチを見殺しにするな!!気合入れろ!!ジョージ!!」
機長がジョーイを怒鳴りつける。
『フラン!!大丈夫ですか!?応答してください!!フラン!!』
一方、近づいてくるフランの背に向けて呼びかけ続ける信乃。だが、フランは尚も応答が無い。
『ちょっと!!応答してくださいフラン!!散々人を罵倒しといて何ですか!!目の前に敵がいるんですよ!!とっとと正気に戻ってください!!馬鹿!!アホ!!フラン!!』
『……何か言ってるね』
『聞こえて無いと思って好き勝手言ってないか、アイツ?』
オヘアとビューリングが呟く。一応信乃なりにフランを振り向かせるための努力をしているつもりなのだが、はたから見ているとただの鬱憤晴らしにしか見えない。
そうこうしているうちに、気が付けば数メートル近くまで信乃がフランに接近している。
幸か不幸か、フランのユニットは失速しそうな程の低速しか出ていない。もし本気で信乃を振り切ろうとすれば、P-47Mの200キロ近い速度差であっという間においていかれるが、今の状態なら零式の巡行速度でも容易に追いつくことが出来る。
『ああもう!!フラン!!こっち見ろ!!この貧乳!!』
『……誰が貧乳だ!!』
突然フランがその場で立ち止まり、振り返ると同時に信乃へ向けてM2を向ける。
『何でそこに食いつくんですか!?』
慌てて速度を落としながら体を捻るが、止まることが出来ずにそのままフランに抱き着くように飛び込んでいく。
『っつ!?何だ?喧嘩を売ってるみたいだな、このチビ』
『……やった!!皆さん!!フラン確保!!フラン確保ですぁ痛っ!?』
抱き着いたまま離れようとしない信乃に対して、M2重機関銃を持つ手と反対の手でその脳天に拳を落とすフラン。
『いいから離せ!!何でお前が私に抱き着いている!?ここを何処だと……ん……?』
ごんごんと拳を脳天に叩き込みながらそこまで口にし、フランが眉を顰める。きょろきょろと辺りを見渡し、すぐ背後から遠ざかるネウロイに目を止めてはっと我に帰る。
『シノ!!ネウロイだ!!くそ、私としたことが……』
信乃を振りほどき、銃を構えようとするフランに信乃が怒鳴る。
『それどころじゃないです!!フラン、貴女、今何してたか覚えてますか?』
くらくらする頭を振りながら信乃が尋ねる。混乱した状況で頭を殴られたのは不問にしても良いが、危うくネウロイに拉致られそうになったところを助けてやったのだ。折角追いついたのに、感謝の一つもされないのは納得がいかない。
『決まっている!!アイツらを追って……追っ……?』
フランが軽く頭に手を当てる。
『……追って、どうなった?ここは、どこだ?一体何が起きた……』
『それは……っ?』
次の瞬間、フランの背中越しにチリっとした感覚が信乃の体を刺す。
『危ない!!』
咄嗟にフランを突き飛ばし、固有魔法のチリチリした方向へ向けシールドを張る。
それと同時に、信乃が張ったシールドがネウロイの熱線を弾き飛ばす。
『シノ!?』
この状態でシールド操作をする余裕はない。真正面からネウロイの攻撃を受け続け、元々高くない信乃の魔力が急激に消耗していく。
『大丈夫です!!大丈夫ですから、あたしの後ろに居てください、フラン!!』
叫びながらもシールドを張り続ける信乃を見、今は余計な事を考える場合ではないと悟ったフランが素直に信乃の背後につく。
『敵機反転!!シノ達に向かってるわ!!イヨ!!』
『この距離じゃ届きません!!二人共、回避を!!』
『シノ!!回避だ!!』
フランの言葉に信乃は99式機関銃を放り捨て、空いた手でフランの手を握る。
『大丈夫です!!このまま降下して振り切ります!!ついてきてください!!』
ネウロイの攻撃の第一波を防ぎ切った信乃がフランの手を掴んだまま一気に高度を下げる。
『後ろは任せてください!!』
限界降下速度が高いフランを放り投げるように先行させ、信乃は背後に意識を向けた。
消耗した魔力でも、固有魔法はまだ健在だ。シールドを上手く張れば、生き残れる。
一方、絶好の好機を逃すまいと、ネウロイ達も二人の後を追うように急降下を始める。
しかし。
『馬鹿ね!!空では欲をかいた方が負けるのよ!!』
信乃達の降下した方向の上空から、スピットファイアが矢のように降下してくる。
頭を押さえるように降下してくるジェシカを認めるや否や、優位を失ったと判断したネウロイの編隊は蜘蛛の子を散らすように散開、急降下の速度を生かし再度反転して空域から離脱していく。
その様子を見てジェシカも無理には追わず、輸送機の方向へと向かってく信乃とフランに合流する。
『助かりました、ジェシー』
『感謝するならイヨの判断にしなさいな。アンタの言う通り輸送機に張り付いてたら間に合わなかったわ』
どうやら伊予がジェシカを先行させたようだ。
伊予一人では輸送機の護衛が脆くなるが、攻撃的な伊予の判断の方がこの場合は正しかったらしい。
『……何があったんだ?私は何をしていた……?』
一方、まだ混乱している様子のフランだったが、その様子を見た信乃が気を遣うように口を開く。
『仕方ないですね。帰りながら説明しますよ』
信乃の言葉にフランが目を見開く。
『帰る?どうして?ネウロイは追い払ったはずじゃ……』
『作戦失敗です。あと少しで未帰還を二人出すところでした』
伊予の通信を聞き、未帰還?と呟くフランを見て信乃が肩を竦める。
『貴女とあたしですよ、フラン』
『……え?』
その言葉に、フランの顔が驚愕の表情を見せた。