チリチリするの   作:鳩屋

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2-13.その頃の彼女達 -502 and 507 Ⅱ-

「いつになったら飛べるんでしょうね……」

 

 ぽつり、と窓の外を見て呟くひかり。ペテルブルグから途中ストックホルムを経由し、北海沿いのバルトランドの南方に位置するリュッゲ基地。

 目と鼻の先の北海を超えればブリタニア。だが、そこから来るはずの輸送機は2日たっても来なかった。

「輸送部隊に何かあったんでしょうか」

「面倒くせぇ。ネウロイが出たんだったらオレ達でとっととぶっ倒せばいいじゃねぇか」

「まぁまぁ菅野中尉。お茶でも飲んで。きっと何か事情があるんですよ」

「……そうすればアンタと早く離れられる」

 リュッゲ基地に来てみたら何故かいた507、そして、何故かいた迫水ハルカ。

 ひかりは扶桑以来の友人の再開に大喜びしていたが、菅野はその目的を察して渋い顔をしていた。

 

「リベリオンからの義援物資は私達でしっかりエスコートしますので、502は扶桑の輸送機の護衛を。こちらの事は気にしないでください」

 

 出会い頭から気持ち冷たさを増しているヴェスナの涼し気な声色で悟った。

 つまり、お前たちのしようとしていることは全てお見通しだ、と言われているのだ。

 もし相手がプロイやリーだったなら、上手く丸め込むことが出来たかもしれない。あるいは、互いの物資の交換という形の融通も利いたかもしれないが、ヴェスナはその辺り流石はカールスラントで鍛えられただけの事はある。規律には厳しい。

 ……最も、直枝の良く知るカールスラントのウィッチでここまで真面目なウィッチは見たことがないのだが。

「ひかりちゃんも、そんな暗い顔しないで。むしろちょうどいい休憩だと思うくらいの余裕があったほうが……」

 そう言ってひかりににじり寄るハルカ。びくり、と身を竦ませ、ひかりが直枝に口を開く。

「か、菅野さん!!私、ちょっと体を動かしてきますね!!」

「おう、行ってこい」

「行ってきます!!」

 そう言って部屋を飛び出していくひかり。取り残されたハルカがきょとんとした表情を浮かべる。

「どうして逃げるんですかね。あの子、まだ初対面なのに」

「初対面からそんな顔でにじり寄られたらそりゃ逃げるだろ」

どうやらハルカは502で唯一面識のなかった『純粋で疑いを知らなさそうな』ひかりを偉く気に入ったらしい。

 事あるごとにちょっかいをかけようとして、そして逃げられること数度。見事な危機回避能力と言わざるを得ない。或いは、曲者揃いの502でそのあたりの嗅覚も日々磨かれているのか。

そして。

「元気だねぇ、ひかりちゃんは」

 そんな様子を少し離れたところで見ているヴァルトルート。

 下原を連れていけないとなったので誰を連れて行こうかと思っていた矢先、どこから聞きつけたのか勝手に立候補してきた。

 ジョゼを連れて行くと下原の負担が大きくなるので無理、サーシャはついさっき叱られたばかりなので無理、ニパも無理、そうなると残りはエディータかクルピンスキーだが、エディータがうれしそうな顔で、『ぜひ連れて行ってください。むしろ置いてきても』というので仕方なしに捨てに……否、連れてきた。

「ヴァルトルート中尉!!麗しの君!!またお会いできて嬉しいです!!」

「僕も嬉しいよ。後はブドウジュースでもあればもっと嬉しいんだけど」

「うちの義援物資の中にあるかもしれません。カリフォルニアのワインとか」

「良いね良いね。ねぇ、『ハルカ』。他にも何か良いものがあるんじゃないかな」

 耳元で囁くヴァルトルートにハルカがとろんとした目を向ける。

「うふ、融通つけましょうか?そのかわり、今夜は伯爵様のベッドの中であんなことやこんなことまで……」

 その結果がこれである。ある意味ここに来た目的はきちんとこなしているのだが、手段がえげつない。

 というか、女好きと女好きが合わさって変な化学反応が起こり始めている。

「直ちゃんも、そんなところで本読んでないでこっちにおいでよ」

「そうですよ、ゆっくりと語り合いましょう」

「こっちみんな」

 二人の座っている机と対角線上にある最も離れたソファにいる直枝にヴァルトルートが声をかける。

 内心既に読書どころではないが無視。誰が入るかあんな空間に。

 急な訪問だが快く基地内の談話室をウィッチ用に開放してくれた人の好さそうなバルトランドの空軍少将には悪いが、一刻も早く帰りたい。

 バルトランドもウィッチ隊がいるが、その数や練度は隣のスオムスや海の向こうのブリタニアに比べるとやや劣る。加えてその戦力の大半は危険度の高いオラーシャよりのストックホルムやカールスラントの目と鼻の先であるケベンハウンに集中させている状況だ。

 そのため、ここ、リュッゲ基地に常駐しているウィッチは今はいない。ガリア解放まで一中隊がいた名残か、ハンガーにはいつでもユニットをメンテナンスできるだけの設備は残されていたが、整備兵長以外は航空機はともかく、ストライカーユニットの整備には殆ど慣れていないという有様だ。

 暇つぶしの為に持ってきた芥川を流し読みするも、頭に内容が入ってこない。久々の扶桑の本を堪能する予定が台無しだ。

「……仕方ねぇ」

 本を閉じて立ち上がる直枝を見て、ヴァルトルートとハルカが目を輝かせる。

「ようやく来る気になった?」

「ちげぇよ。そっちじゃねぇ」

 そういうと本を机の上に放り投げ、出口へと向かう。他国の軍事基地なので行けるところに制限があるが、ここよりマシだ。

 ちぇー、というヴァルトルートの残念そうな声を背に、直枝は談話室を後にした。

 

「ええっ!?手紙って人に見られてたの!?」

「知らなかったの、ひかりさん」

 ひかりの言葉に呆れた様に美也が苦笑を浮かべる。戦地からの手紙には検閲が入るのが常識だ。恐らく、うっかり機密事項を書いてしまったであろう時のひかりの手紙には、墨で潰された後がいくつもあったりもした。

「恥ずかしい……変な事書いちゃってなかったかな」

「それは大丈夫じゃないかしら」

 むしろ微笑ましい内容ばかりだと思う。

 訓練が大変だとか、他の部隊のウィッチも一緒に皆でサトゥルヌス祭をしたとか(名前の所はきれいに墨が引かれていたが)、気温が低くて服が凍ったとか、そんな内容が多かった。

 読まれて恥ずかしいようなプライベートについてまでは書かれていなかったか、或いは検閲に引っ掛かって届かなかっただけか。

 それよりも、美也の印象に残っていたのはひかりから送られてくる写真の方だ。

 検閲に許されて時折同封されていた写真。そこには、部隊の仲間と上手くやっている証でもあるように、相変わらずの笑顔を浮かべているものばかりだった。そして、その写真の中の顔が、文章よりも何よりも、ひかりが無事であるという事を雄弁に物語っていた。

 そして、今、目の前にその笑顔がある。ちょっとだけ大人びた気もするが、欧州に向かう前と同じく、ひかりという名前に負けない、きらきらした笑顔を浮かべている。

「……どうしたの、三隅さん?」

「な、何でもない……って……」

 慌てて目を逸らした美也が空を見上げる。ぽつ、ぽつと、曇った空から冷たい雫が美也の頬を叩き始める。

「降ってきちゃったね……」

「そ、そうね。戻りましょうか、ひかりさん」

 美也の言葉にひかりも頷き、小走りで基地へと戻る。その間も雨は徐々に強まり、冷たい風が北海から吹き付けてくる。

 そういえば、あの日。欧州行きの選抜試験もこんな感じだった。急に降り出した雨と風が無ければ、あの時失敗をする事も無かっただろうが、結果としてはこれで良かったのだと思う。

 ひゃぁ、と悲鳴を上げながら、二人のウィッチが屋根の下へと飛び込んだ。

 

「あら、菅野さん」

「ヴェスナか。調子はどうだ?」

「どうでしょう。先輩としてあまり変な姿は見せてはいないつもりですが」

 そう言いながら手に湯気の立ったカップを持ち、丁度反対側から歩いてくるヴェスナ。

 互いに顔見知りでかつ、現状では最も安心して話せる相手だ。

「談話室にはだれかいますか?」

「迫水中尉とクルピンスキー」

 その言葉に黙って談話室へ向かっていた足をくるりと翻し、直枝と並んで歩き始めるヴェスナ。ヴァルトルートと会いたかったのかもしれないが、一緒にいる相手を考えると懸命な判断だ。

「それで、菅野中尉はどちらに?」

「ハンガーにでも行こうとおもってた」

「勤勉ですね」

「居場所がねぇんだ」

 その言葉にくすり、とヴェスナも笑う。

「私もです。雁渕軍曹に美也を取られてしまいました」

佐世保の予備学校の同期という事もあってか、あの二人は積もる話もあるようだ。折角の機会ヴェスナが遠慮して二人きりにしてあげたらしい。

「伯爵の奴にあわねぇのか?」

「どんな顔すればいいかわかりません」

「今日は先生はいないぜ?」

「……なおの事、抑えがきく自信がありません。美也の前では良い先輩でいたいので」

「あー……いい天気だな?」

「今にも雨が降り出しそうですが?」

「いい天気だ。オレはこういう曇り空が好きなんだ」

 適当に振った話が藪蛇になりそうだったので強引に話題を変える直枝。

「天気の話はどうでもいいですが……」

 ヴェスナがぽつり、と呟く。

「美也が雁渕さんのユニットを羨ましがってました」

「だろうな。オレも正直羨ましかった」

 ヴェスナから話題を変えてもらえて助かった、といった顔で直枝も頷く。その言葉に、ヴェスナが首を傾げる。

「扶桑ではユニットの配置転換が遅れているのですか?この前護衛に来ていたウィッチも零式を使っていました」

「……紫電改は色々面倒なんだ。おかげで零式がまた改良された」

 直枝が肩を竦める。

 扶桑の最新型戦闘脚である『紫電改』は生産台数が少なく、かつ、仕様が複雑で量産が中々進まないのが現状だ。

 502でも直枝が受領してから定子が受領するまで結構な間があり、ひかりの使っている紫電改『チドリ』も、量産機と変わるところはないとはいえ試作機だ。最新機材が優先して投入される前線部隊である502ですらこの状況なのだから、他の部隊の配備状況は推して知るべしである。

 本来であれば次期ユニットに代わり退役するはずだった零式に64型という新型が急遽開発されたのも、紫電改の生産性が悪く、『繋ぎ』のユニットが必要になったからに他ならない。

「『雷電』も悪いユニットじゃないぜ。オレは使いたくないけどな」

「美也も戸惑っていました」

 美也が現在使用しているストライカーユニットは、扶桑皇国製の戦闘脚、『雷電』33型である。

 零式や紫電改に比べると旋回性能が悪く、扱いも難しいため、扶桑海軍のウィッチからは余り良い印象を持たれていないが、火力と高高度性能、そして速度は零式はおろか、紫電改と比べても決して引けを取らない。むしろ、一撃離脱に割り切れば非常に優秀なユニットだ。

 欧州の部隊で他国のウィッチと共に戦う機会が多い統合戦闘航空団等ではどうしても非力な零式では後れを取ることが多い。多少機動力を犠牲にしてでも安定性と高高度性能を高めた『雷電』の方が、欧州のユニットとは相性がいいのもまた事実だ。

「まぁ、扶桑じゃ真っ先に巴戦の技術を叩き込まれるからな」

 それに、そもそも欧州のウィッチの戦い方は、巴戦ではなく一撃離脱戦術が基本だ。当然ユニットも、取り回しの良さよりも頑丈さや速度、安定性が重視される傾向にある。

 扶桑海軍でも早い段階でそういった戦いに慣れてしまえば、雷電でもさほど違和感を感じずに済むはずなのだが、扶桑の軍学校や航空予備学校の訓練では零式11型を用いているので、零式とはそもそも設計思想の異なる『雷電』に美也が違和感を感じるのも無理はないだろう。

 そして、その傾向は直枝も含め、零式に慣熟したベテランに強く見られる。それを考えると、美也のような若手の方が雷電のような機材に慣れるのも早い筈だ。ヴェスナを始め、507には一撃離脱の手本となるウィッチも多いのも美也にはとっては僥倖だ。

 それに、前線では常に自分の機材が万全とも限らない。

 もし、自分のストライカーが使えなくなった時、他国のユニット……メルスやスピットファイア、P-51Dといった機材を扱う事になった時にも雷電に慣熟しておけばさほど違和感を感じることなく乗りこなせるだろう。

「あ、菅野さーん!!」

 そんなことを考えているうちに、廊下の向こうから響く声に二人が顔を向ける。手を振りながら近づいてくるセーラー服姿の二人の少女を見て、直枝が怪訝そうに口を開く。

「何だよひかり。外に行くんじゃないのか?」

「戻ってきました」

 そういってひかりが窓の外へと目を向ける。その視線を追うと、雪交じりのみぞれが窓を叩き始めている。

「……これでも外に行けっていうんですか?」

「……オレなら行かねぇ」

「ですよね」

 はぁ、と揃ってため息をつく直枝とひかり。かといって談話室に引き返すのもアレがアレだし、ハンガーにぞろぞろいっても整備の邪魔になるし。

「……ま、ここでいいか」

 そう言って直枝が壁に寄り掛かる。

「ここですか?」

「屋根があって窓がある。ここでいいだろ」

 他愛のない雑談でもしていれば時間も潰せる。最前線のテントに比べれば、隙間風の吹かない建物の中ならどこでも快適だ。

 そんなことを考えていると、今まで黙っていた美也がおずおずと口を開いた。

「あの、菅野中尉……」

「ん?確か三隅、だったか?」

「はい!!」

 ついさっき談話室で507との顔合わせは済ませてある。ハルカの存在が強烈すぎて自分の事など覚えていないのかと思っていたが、そうではないらしい。

 名前を呼ばれて少し安心したのか、美也が直枝に話しかける。

「その、カウハバに来る前から色々とお話を伺っていたので、一度お話が出来ればと思っていて……」

 そういって何か言いたそうな顔を浮かべる美也。緊張して言い淀む姿を見、何かを察した直枝が眉を寄せてひかりへ目を向ける。

「……おいひかり。その手の嫌がらせは止めろ」

「な、何も変な事は話してませんよ!?佐世保の話とかお姉ちゃんの話とかしかしてません!!」

 慌てて言い訳を始めるひかりを横目に直枝がさらに尋ねる。

「じゃあ何だ?502に合流する日に喧嘩して留置所に入れられた話でも聞いたか?アレはオレは悪くねえ」

「ち、違います!!」

 驚いたような顔を浮かべる美也と、ああ、やりそう、という顔を浮かべるひかり。

「そんな事してたんですか菅野さん……」

「それより前か。ああ、それなら無断で萩谷の22型を持ち出して壊した事か?」

「違います!!」

「それ、ちゃんと謝ったんですよね?」

「じゃああれだ。予備学校時代に曲芸飛行をした後教官のいたテントに落ちた。あれは多分伝説になってるはずだ」

「菅野中尉だったんですか、あの伝説……」

 横須賀でも佐世保でも、陸軍でも海軍でも、言われた以外の事はするな、と、最初の訓練飛行の前に必ず語られる逸話の主がここにいた。

「やっぱりアレって菅野さんの事だったんですね。一緒にいてなんとなく気がつい痛っ!!」

 さっきからやかましいひかりの額にデコピンを食らわせながら直枝が首をかしげる。自分の噂などてっきりそのあたりから出たものだと思っていたのだが。

「ええと、『協調性のない一匹狼、でも腕は一級品』……」

「どこのどいつだ。今度ぶん殴ってやる」

「……『だけど、私は助けられた。感謝してもしきれない』って」

「は?」

 最初の言葉はヴァルトルートがかつて自分を評した伝聞と同じものだが、後半には聞き覚えが無い。

「スオムスまで送ってくれた方が言っていました。過酷な場所かもしれないけど、隣の基地にいる菅野中尉ならきっと助けになってくれる。敵にも仲間にも容赦なく粗暴だけど、仲間を見捨てるようなことだけはしない、って……」

「オレほど仲間思いなウィッチに対して粗暴はねえだろ」

「どの口が」

「次言ったらもう一発だぞ、ひかり」

「……いえ、その通りだと思います。他にも、いろんな方から菅野中尉に遭った時に感謝しておいてほしいと頼まれたので、伝えられて良かったです」

 遣欧艦隊の旗艦『瑞鶴』で、着任先を答えた際に言われた言葉は主に二つ。『迫水中尉は危険がアブナイ』と『いざとなれば502を頼れ』の二つだ。

 そのうちの最初はカウハバに着任してすぐに思い知らされたが、もう一つはそれだけ502に派遣されている直枝や定子が他の扶桑のウィッチから信頼されている証だろう。想像していたよりも若干……否、かなり粗暴な印象だが、ひかりがこれほど懐いているのだ。きっといい人に違いない。

 そう言って笑顔を浮かべる美也の言葉に、ばつが悪そうな顔を直枝が浮かべる。

 そう。直枝は自分が思っているほど、扶桑のウィッチからの受けは悪くない。特に、上官以外の尉官や下士官たちからはむしろ好意的な目で見られている。

 粗暴ではあるが馬鹿ではない。

 不条理に見えて理に適っている。

 そして、理に適っているなら妥協しない。

 そういった真っ直ぐな姿勢は、後ろを追うものからすれば頼もしくすらある。

 それに、意外と面倒見がいいのだ。

 これでも尉官である。下士官のために上官や陸軍の憲兵に対して声を荒げたことも何度もある。ガキ大将に他の子供が怖がりながらも付いていくのと同じで、まだ年場もいかない若手ウィッチからすれば直枝は怖いけど頼もしい姉貴分なのだ。

 ……まあ、大抵の顔見知りは顔を合わせると『ユニット壊してないですか?』だの『他国のウィッチに誤解を招くような事はしてないか?』だの散々な言い草をしてくるのだが、それも直枝に対しての友情の裏返しなのだろう。

「……あいつ等。面と向かっては絶対に言わねぇ癖に」

 ぽつり、と呟く直枝。だが、満更でもないといった口調に、隣に立っていたひかりがじとっとした視線を送る。

「ふーん。よかったですねー、菅野さん。大人気じゃないですか。ふぅーん」

「……何だよ、何が言いてえんだ?」

 普段とは違うひかりの雰囲気に眉を顰める直枝。

「べっつにー。いつもは『オレの相棒は孝美だけだ』なんて言ってる癖に。なーんだ。菅野さん、より取り見取りじゃないですかー」

「なっ?」

「えっ?」

「まあ」

 思わぬ言葉に直枝が、そして隣にいた美也とヴェスナも揃って驚愕の表情を浮かべる。

 それってつまりアレ?そういう事なのでしょうか?

「違!?何言ってんだお前!!これはそういう意味じゃ……」

「……私にだって相棒って言ってくれたのに」

「んなっ!?」

「ええっ?」

「まぁまぁ」

 その言葉に美也とヴェスナが違う反応を見せる。心底驚いた表情を見せる美也と、興味深そうな表情になるヴェスナ。

「お、お二人ってそういう関係なんですか!?それに、孝美さんって……まさか姉妹揃って!?」

 何それ凄い。流石歴戦のエース。そっちの方も凄い。ひょっとして自分が伝えた事もそういう事なの?みんなまとめて『剣一閃』しちゃったの?

「ちげえよ!!」

「でも、女の子……ウィッチ同士でなんて……ヴェスナさんはどう思います?」

「……えっ……ま、まあ、健全とは言えないかもしれませんね」

「『えっ』て何ですか?」

「……何でもないですよ」

「何で間があるんです?」

 どうしよう。安全だと思っていたのにヴェスナさんも何だか少し怪しい。危険がアブナイのはハルカさんだけだと思っていたのに。

 私は欧州を守るためネウロイと戦いに来たはずなのに。

 貞操を守るために他のウィッチと戦いに来たわけじゃないのに。

「……ねぇ三隅さん。『相棒』ってなんか変な意味でもあるの?」

「え?」

 ひかりのきょとん、とした顔に思わず目を丸くする美也。

 最初からひかりの言葉には深い意味など無い。姉や自分が一番の相棒と言ってくれた直枝に対するちょっとした嫉妬に過ぎない。変な風にとらえるのは、心が汚れている証拠だ。

「そ、そうだぞ三隅。相棒ってのは背中を預けて戦う仲間って意味だ。不健全じゃない。お前の考えてるようなことは決して、ない」

「そうですね。その通りです。美也が私の相棒になるのならもう少し実戦を積んでからでないと。そういう意味です。ええ」

 ひかりの天然発言にここぞとばかりに乗る薄汚い先輩共。

「しっ……失礼しました!!私、変な誤解を……!!」

 それというのもひかりさんが思わせぶりな態度をとるせいなんですけど!!そういうところが可愛いんですけど!!もう、ひかりさんの馬鹿、大好き!!

「いや、いい。誤解が解けたなら何よりだ」

 はぁ、と直枝がため息をつく。その時。

「こんなところで何をしてるんだい、皆」

「……談話室を占拠している上官達に対しての抗議の集会だ」

「ひょっとして上官って僕の事?まあ、上官なんだけどね」

 そういうヴァルトルートの顔を見て直枝がわずかに眉を顰める。ヴェスナも何かを察したのか、やや真剣な表情を浮かべる。

「……やっぱり輸送機に何かあったのか?」

「うん」

 その言葉にひかりと美也の表情も強張る。

「落とされたのですか?」

「大丈夫。輸送機も護衛のウィッチも無事だって。ただ……」

 ちらり、とひかりたちを見、ヴァルトルートが口を開く。

『相手は『人型』らしいよ』

「な……」

「っ!?」

 その言葉に驚愕の表情を見せる直枝とヴェスナ。

「え?何?」

「カールスラント語……でしょうか?」

 一方、カールスラント語を聞き取れなかった二人は首をかしげている。多国籍部隊、そして外国語というのはこういう時便利だ。欧州での生活が長い直枝はカールスラントの言葉が喋れるし、ヴェスナはカールスラントの部隊にいた。一方でひかりや美也は、ブリタニア語以外の欧州の言葉は理解できない。

『確かな情報か?』

 直枝の問いかけに頷くヴァルトルート。

『ハルカちゃんはこの基地の司令官に呼ばれている。詳しい話は分からないけど、ボク達にも応援要請がかかるかもしれない』

「あの……クルピンスキーさん」

 不安そうな顔を浮かべるひかりを見、ヴァルトルートがいつも通りのブリタニア語でにっこり、とほほ笑む。

「なぁに、大丈夫だよひかりちゃん。今から説明してあげるから。あ、一応外にばれちゃいけない情報だから書類にサインは必要だけどね。さ、談話室に行こう」

 そういって皆を促すヴァルトルート。

 もし本当だとすれば、ただの護衛任務が一転して厄介な戦闘に巻き込まれる可能性が高い。或いは、隊長たちはこのことを予め知っていたのかもしれない。

 だとすれば、これから先に起こることは容易に想像がつく。

 

「……嫌な天気だぜ」

 

 一番後ろを歩きながら、直枝がちらり、と窓の外を見てぽつり、と呟いた。

 

 

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