0400 ウェストハムネット基地 第一格納庫
-1-
翌日のウェストハムネット基地は、日の出前にも関わらず、あちこちから騒がしい声が上がっていた。
ハンガーでは整備兵が出撃に備え、夜を徹してストライカーユニットの最終調整を行っている。
そんな中、56FGの気の早いウィッチ達が何人も、自分のストライカーユニットに足を通し、或いはM2機関銃を手に取って、今日の作戦に向けての準備に余念がない。
「ふぁ……」
「早いですね、クルピンスキーさん」
第一ハンガーに足を踏み入れ、自らのユニット、メッサ―シャルフBf-109の方へと歩いていたヴァルトルートに、いち早くハンガーで機材の点検をしていたひかりが声をかける。
「一番乗りだと思ってたんだけど。元気だね、ひかりちゃん」
「……えへへ、それだけが取り得ですから」
ヴァルトルートの言葉に照れたように頭を掻くひかり。
確かに、かつてのひかりならそれも間違いではないだろうが、502JFWでの戦いや生活を経た今、その言葉は他のウィッチが聞けば、只の謙遜にしか聞こえないだろう。
しかし、他の部隊のウィッチの実力を知らないひかりからすれば、自分は未だに『一番下』のウィッチなのだ。
ヴァルトルートがひかりの言葉を否定したところで、ひかりの立場としては、それは先輩の優しいお世辞といった風に感じてしまうのも無理はない。
「それより、『チドリ』の調子はどう?」
「はい。昨日まで右足の舵の効きが少し重かったんですけど、ばっちり治ってます」
ある程度経験を積んだウィッチなら、魔導エンジンを始動する前に足を通しただけでユニットのコンディションを掴める。502に入隊してから一貫してこの『チドリ』を使用していたひかりなら、猶更そのコンディションは敏感に感じ取れる。
その様子を見ていた整備兵が口を開く。
「雁渕軍曹は咄嗟の回避で左旋回を行う事が多いみたいですから、その辺りが痛みやすいんですよ」
ウィッチにはそれぞれ戦い方に癖がある。
直枝の二番機に付けることが多いひかりは、ネウロイの攻撃を避ける際に直枝との交錯を防ぐため左に体をひねることが多い。そのため、咄嗟の挙動でも右か左かと言われると左側に旋回を行う癖がついている。
だが、そんな事情はこの整備兵は知らない筈だ。
驚いたような顔をするひかりだが、ウィッチ同様、習熟した整備兵ならストライカーを見ただけでそれを扱うウィッチの癖や戦い方まで把握できるものだ。
「へぇ、そこまできちんと見てくれたんだ」
「皆さんは今回の作戦の要ですから、特に入念に仕上げておきました」
扶桑の整備兵に笑顔を浮かべ、ヴァルトルートが口を開いてユニットに足を通した。
整備兵の言葉通り、少ない部品や予備のメルスから引っこ抜いていたペテルブルグの時とは違い、魔法の伝達が格段に良くなっている。
ヴァルトルートの固有魔法『マジックブースト』は、強力な反面、魔導エンジンや魔力の伝達系統に大きな負荷をかける。そのせいで魔導エンジンも含め、あちこちガタが来かけていたパーツもあったはずだが、この様子だとほぼオーバーホールに近い形で整備しなおしたのだろう。
一日でここまでの整備がされているとは思っていなかったので、思わずヴァルトルートが感嘆の声を上げる。
「いいね。まるで新品みたいだよ」
「リベリオンのお蔭でここでは部品の節約とは無縁ですから」
かつかつの物資で常に四苦八苦しているペテルブルグの整備兵が聞いたらさぞ羨ましがる言葉だろう。
最も、四苦八苦させている原因の多くは、ヴァルトルートやひかり達『ブレイクウィッチーズ』が生み出したりもしているのだが。
まあ、普段から苦労を掛けている分、彼らの努力に報いるためにも、一刻も早く物資をペテルブルグに届けなくてはいけない。
「無事に戻って来れたらお礼をしなきゃね」
「そうですね!!あ、でも、お菓子くらいしかないですし……」
「じゃあひかりちゃんがハグしてあげたら?きっとすごく喜ぶよ」
「そんなの下原さんかクルピンスキーさんくらいです」
「クルピンスキー中尉、雁渕軍曹」
二人の言葉に目を細めていた整備兵が、ポケットから取り出した『それ』を二人に渡す。
「え?キャラメル……ですか?」
『それ』を受け取ったひかりが目を丸くする。
「うちの部隊の願掛けですよ……一昨日、あのユニットに乗ってた子にも渡してあげたんですが……」
ぽつり、と呟いた整備兵の視線の先をヴァルトルートがたどると、そこには、今回は使用されない二機の扶桑のストライカーユニットが、ヴァルトルート達のユニットと同じく、丁寧に整備がされていた。
零式54型試作2型に、紫電改42型。
生々しい血に塗れたまま雨の滑走路に転がっていたそのユニットは、そんな事を忘れさせるくらいに奇麗に塗装が塗りなおされ、ウィッチさえいれば今すぐにでも空を飛べそうだ。
どんな気持ちで整備兵達があのユニットを直したのか。それが解らないヴァルトルートではない。
「……だったら、効き目は抜群だね」
ポケットにキャラメルをしまいながらヴァルトルートが笑みを浮かべる。
そう。ユニットに乗っていたウィッチ……信乃は助かったのだ。
自分達を送り出した後、地上から見送る事しか出来ない整備兵達の気持ちは解らないでもない。
JG52の時も、機材の不調や負傷等で飛び立つ仲間を見送らざるを得なかった事があったが、その時の時間は過酷な戦場に放り出された時よりも、遥かに長く感じられたものだ。
「ねぇ、ひかりちゃん。『あの』リベレーターよりはマシなお守りだと思わない?」
「酷いです。きちんと役に立ちました」
からかうようなヴァルトルートの言葉に、ひかりが抗議の声を上げる。
リベリオン製の世界一役に立たない拳銃は、一度はヴァルトルートの命を救い、そしてもう一度はネウロイの巣『グレゴーリ』を破壊したのだ。勿論今でもひかりのポケットにはその『お守り』は大切に仕舞われている。役立たず扱いは納得がいかない。
「……ところでひかりちゃん。それも『お守り』?」
ヴァルトルートの言葉にひかりが一瞬きょとん、となる。その視線の先……ヴァルトルートが自らの左腕にまかれた黒い腕章を見ている事に気が付いたひかりが、いえ、と首を振る。
「さっき貰ったんです。その、特別な戦いだから、って……」
その言葉にヴァルトルートが改めて周囲を見渡すと、ユニットを点検しているリベリオンのウィッチや整備兵達も皆、同じように黒い腕章を腕に巻いている。
「あの……」
そして、ヴァルトルートにも声がかけられる。
その声に振り返ると、そこには、リベリオン制服を着た、まだあどけなさを強く残す二人のウィッチが立っていた。
一人は、負傷した信乃を救助した回復魔法を使えるウィッチ。
そして、もう一人は、先日のブリーフィングで話しかけてきたウィッチだ。
「あの……クルピンスキー中尉……ですよね?」
ブリーフィングで話しかけてきたウィッチがおずおずと尋ねる。
「そうだけど、どうしたんだい?」
「お願いがあるんです」
対照的に、はきはきと口を開いたのは回復魔法を使えるウィッチの少女。
動きやすいように長い髪を後ろで一つに縛ったその姿は、先日回復魔法を使っていた時と比べ、随分と溌溂とした印象を与える。
二人とも、年齢的にはヴァルトルートの趣味の範囲には収まっていないが、あと2、3年もすれば思わず声をかけてしまいそうな素材の良さを感じさせる。
「これ、キャロル達の……仲間たちのコードレターなんです。もしよければ、皆さんもつけてくれませんか?」
そう言って昨日話しかけてきたウィッチ……確か、マグレガー軍曹と呼ばれていた少女が腕章をヴァルトルートに差し出す。
よく見ると、黒い喪章には小さな文字で『HV』と『LM』で始まる6つのコードレターが刻まれている。
「……いいのかい?ボクが貰っちゃって」
「もしよろしければ、是非お願いします」
「はい、キャロル達も統合航空戦闘団の皆さんと『一緒に』戦える事を喜んでいるはずですから」
そう言われては受け取らないわけにはいかない。
まだ幼さを残すウィッチ達から差し出された腕章を受け取ると、ヴァルトルートが笑みを浮かべる。
「もしよければあと3……いや、4つくれないかい。後、君たちの名前は?」
「私はリベリオン陸軍第八軍団第56戦闘群軍曹、ディアナ・シリングです」
「同じく、ニナ・マクレガーです……あの、昨日はお見苦しい所を」
はにかむように名を名乗る二人の少女達。
「気にしてないよ。仲間のために悲しむのは大事な事だからね」
「……しかし、軍紀に反してしまいました」
そう言って表情を陰らせるニナ。
それを見てヴァルトルートがほほ笑むと、その肩をぽん、と叩く。
「確かにそうだったかもね。でも」
そう言って、受け取った腕章の一つを腕に通すヴァルトルート。
「軍紀と仲間なら、ボクは仲間を取るよ」
ニナがその言葉に顔をあげる。
「ほら。『これで』この子達も今日でエースの仲間入りだね」
そういうとヴァルトルートが腕章を通した腕を二人に見せる。
彼女が思わず名前を呼んだ少女は彼女にとって上官か、先輩か、或いは友人だろうか。
感情をコントロールできないのはまだ軍属となって日が浅いからかもしれない。
しかし、仲間を想うその気持ちは流れる月日だけでは手に入らないものだ。
「どう?似合うかな?」
「……はいっ!!」
ヴァルトルートの言葉に二人のウィッチが揃って頷く。
ウィッチは只の兵士ではない。この欧州で、人々の希望を担い、そして、笑顔を与える存在なのだ。
だからこそ、時にはそう振舞わなくてはいけない。
まだ若いウィッチ達が自分の背を見て憧れるように、彼女達もまた、いずれ誰かの希望になりうる存在なのだから。
0400 ウェストハムネット基地 第二格納庫
-2-
「ああ、素敵!!ついに智子お姉さまが降臨しました!!」
一方、少し離れた航空機用のハンガーの隅では、『クラッシャー・オヘア号』の前でハルカが頬に手を当て、うっとりとしたような表情を浮かべていた。
「……注文の多いお嬢さんだぜ……」
げんなりとした顔を浮かべているのは『クラッシャー・オヘア号』の機関士のボブ。ノーズアートが得意で、仲間の機体や、時にはウィッチのユニットにも描いてやる事もあるが、こんなに注文の多い娘は初めてだった。
目の前には、ようやく仕上がった追加のノーズアート。渡された写真だけを頼りに書き始めると、やれお姉さまはもっと胸が大きいだの、お姉さまの目はもっと力強く、かつ限りない暖かさにあふれているだの、やれお姉さまの髪はもっとサラサラとしているだの、注文が多い。
「お嬢ちゃん!!このままじゃ出発に間に合わないぜ。これで勘弁してくれよ!!」
目の前には完成(ボブ的には)した新たなノーズアート。『扶桑の巴御前』こと穴吹智子大尉が、ハルカの注文により海軍のボディスーツを着て、照れくさそうにこちらを睨みつけているという中々にフェチズムをくすぐる仕上がりになった。
「いいえ!!お姉さまを描くのであれば完璧にしないと……」
「それでいいね、十分ねー!!」
ハルカの隣に立っていたオヘアがハルカの言葉をかき消すように叫ぶ。
「今でもちょっと美化しすぎね!!このまま続けるとトモコがロマーニャの絵画の天使様になるねー!!」
「何言っているんですかオヘアさん。むしろ智子お姉さまはこの世界に降り立った天使ですよ」
真剣な顔で基地外じみた事を言い出すハルカに肩を竦めるオヘア。
「とっととハンガーに戻るね。ハルカがいると怪しまれるねー」
「もうちょっと、もうちょっとだけ!!」
「……何してるんだアイツ」
一方、遠めからそんなハルカの様子を若干引いたように見ている直枝。
ハンガーに向かう途中に首を絞められた発情期の猫のような声がしたので覗いてみれば、これである。
「お前こそ、ここで何をしている?」
背後からの声に振り返ると、そこには見知らぬ背の高い女性。
流暢なブリタニッシュだが、纏っているのはリベリオンの制服ではなく、私服のようなライダージャケット。その下からはブリタニア空軍の制服が覗いているが、直枝は見たことが無い。
「……誰だアンタ」
「運送屋だ」
「嘘だ」
「ああ。嘘だ」
顔を顰める直枝に対し、飄々とした口調で肩を竦めるビューリング。
「ハルカの知り合いか?」
「あんな奴知らん」
「いや……オレは知ってる……『義勇独立飛行中隊』の……」
「ビューリング!!どこ行ってたね!!ミーがいない間ハルカを止めるのはユーの仕事ね!!」
エリザベス・F・ビューリング。
確か、ブリタニアの古い雑誌か何かで見たことがある。
国際ネウロイ監視航空団に所属し、その後義勇独立飛行中隊へと渡り歩いた、協調性が無い孤高のエース。
「あんた、雑誌か何かに載った事は?」
「あるんじゃないか?私は見てないが」
「オレは見たことあるぜ」
「忘れてくれ。どうせろくな事しか書いてなかっただろ」
「感銘を受けた」
「猶更忘れろ。私はウィッチの中でも最も悪い見本だ」
「菅野少尉!?一体どうしたんですかー!?」
ハンガーの入り口に立っていた二人を見つけ、オヘアとハルカが大声を上げる。
「ていうか、アンタこそこんな時に何してんだ」
直枝がハルカに言い返す。新兵でもあるまいし。
悠長にこんなことしてる場合じゃないという事はわかっているはずだ。
「え?あ、いやあ……あの人が、智子大尉の絵を描いているのを見ていてもたってもいられなくなって……」
「呑気にお絵かきか?良い身分だな」
はぁ、と直枝がため息をついて輸送機……C-47を見上げ、ん?と眉を顰める。
「何だこれ」
「オヘア。私まで描くなと言っただろう?」
「描くなと言われれば描くに決まってまーす」
そこに描かれていたのは、7人の少女。よく見ると、オヘアにハルカ、ウルスラまでいる。
「それに、ユーがいなければいらん子中隊にならないでーす」
「いらん子……義勇独立飛行中隊か?」
「そうね。いらん子ねー」
ぽつり、と呟く直枝にオヘアが答える。
「そうか……でもな……」
C-47に描き出されていたのは最初から描かれていたオヘアに合わせて妙に肌面積の多いボディスーツを身にまとったいらん子中隊の面々。
更にはリベリオンだけではなく、扶桑、ブリタニア、カールスラント、ロマーニャ。そしてスオムスのそれぞれの国旗。極めつけは『Crusher OHEA and others』の文字。
もはや迷彩どころか見つけて沈めてくれと言わんばかりだ。
「……頭痛え」
大きくため息をついて直枝が頭を押さえる。もはやどこから突っ込んでいいかわからない。
「菅野少尉じゃない。久しぶり」
「あんたは……」
近づいてきたブルネットの女性を見て直枝が眉を顰める。ある意味、ここに今最もいてはいけない類の人間だ。
グラフ社のカメラマン。デビー・シーモア。
「あぁ、安心していいよ。カメラは取り上げられているし、記者室からは一歩も出させてもらっていない」
「出てるじゃねえか。それにその手にしてるのは何だ」
「これは特別。オヘアさんとこの基地の司令に頼み込んで、これを一枚だけ取ることを許してもらった」
そういって手にしたカメラを振って見せるデビー。
「おい記者。終わったらとっとと帰るぞ」
見ると、お目付け役だろうか。先日信乃を取り押さえていた小柄なリベリオンウィッチがぶっきらぼうな口調でデビーに話しかける。肩からはこれ見よがしに機関銃をぶら下げているが、デビーは気にした様子はない。
「全部終わったら君達にもインタビューしていいかい?」
「駄目に決まってんだろ。何も話せねえ」
記者たちもデビーも、今基地で何かが起こっていることは知らされているが、それが何かはわからない。むしろ、積極的に知ろうとすればそのまま銃殺刑になる可能性もある。
「それじゃ菅野少尉。またどこかで」
「再会場所が天国になりたくなければとっとと歩け」
少女に促されてデビーがその場を後にする。
はぁ、と直枝が肩を落とす。出撃前からどっと疲れた。
「こんな時に本当、何やってんだ……」
機密保持が保たれている証左かもしれないが、あと半日後にはあの世にいっているかもしれない自分達との温度差にめまいがしそうだ。
「こんな時だからねー」
そう言ってオヘアが直枝にウインクを送る。
「ネウロイはきっとユー達が倒してくれるね。そうしたらすぐ出発でーす。絵なんて描いてある暇なくなるね」
「……勝手にやってろ」
「イエス、勝手にやってるねー」
呆れた様に一声吐き捨てると、直枝はハンガーを出た。すぐ後ろからハルカも出てくる。
「……なぁ、本当にただ絵ぇ描いてるだけだったのか?」
ぽつり、と呟きながら振り返る。
ハルカは普段通りとも、意味深ともとれる笑みを浮かべたまま、その問いには答えなかった。
-3-
時刻は0840。冬のブリタニアにしては珍しく天気は晴れ。遅い太陽が伸びり始めると、ウェストハムネット基地の周辺も徐々に明るさを増していき、雲一つはない、とはいかずとも、久しぶりの青空が一面に広がった。
ウェストハムネット基地の滑走路には、まるで見本市か何かと見まごう程の大量のストライカーユニットが並び、その間を整備兵たちが縫うように走り回っている。
そんな中、ジェシカはスピットファイアMk22……『JE-J』のコードレターが刻まれた愛機に足を通し、機材の離陸前チェックを行っていた。
「どっすか?隊長」
「飛んでみるまでは何とも言えないわ。アンタこそ、使ってる印象はどう?」
ジェシカの言葉にエッタが笑みを浮かべる。
「悪くないっすよ。Mk.Ⅸに比べて馬力はあるっすけど、旋回性は余り落ちてないっすから」
「そ。じゃあ問題ないわね」
エッタが言うのならそうなのだろう。
「いい加減っすね」
「信じてるのよ」
「嘘っす。どうせちょっとでも気にくわないと私のせいにするつもりっす」
「そこは信じなさいよ」
苦笑を浮かべ合う二人のブリタニアウィッチ。そして、二人の腕にはヴァルトルートに渡された黒い腕章。
「準備は出来た?二人とも」
「勿論よ」
ちらり、と目を声の方に送り、短く答えると、隣でBf-109に足を通していたヴァルトルートが頷く。
「その腕章、つけてくれたんだね」
「クルピンスキー中尉の為じゃないわ。別に私はこんなのはどうでもいいもの」
ジェシカの腕章を見たヴァルトルートの言葉に肩を竦める。
両脇に目を向けると、ジェシカやクルピンスキーだけではなく、直枝やひかり、ヴェスナや美也、ハルカといった面々も皆FG56のウィッチ達と同様、腕に腕章をつけている。
「素直じゃないっすね」
苦笑を浮かべるエッタにジェシカは肩を竦める。
「嘘じゃないわ」
別に彼女達の為でもない。自分は自分のために戦っている。
自分が活躍した翌日、自分の戦果を伝える新聞の記事を読むのが何よりも楽しいし、活躍に応じた俸給で休日を楽しく過ごすのはまさに至福の瞬間だ。
僚機が落とされないようにするのも、味方が減れば責任を問われ、結果として自分が不利になるからで、決して彼女達の為ではない。
それに、味方が落とされた後の休日は、そのウィッチの顔が頭をよぎって楽しむ気になれなくなる。
そう。自分の為だ。
自分の為にも、仲間には生きていてもらわなくてはいけない。
「私は自分の為以外に飛ぶ気はないわ。人のために飛んだところで、碌な事になった試しがないもの」
「口だけっすよ。口だけ」
「五月蠅い」
いちいち茶々を淹れてくるエッタをじろり、とにらみつける。
「いいロッテですねぇ」
その様子を見てハルカが笑みを浮かべる。他のウィッチ達も同様だ。
「そうっすよ。感謝するべきっす。隊長の御蔭で私の撃墜数が減ったっす」
「素直じゃない僚機ね。シノなんて文句ひとつ言わずついてくるわよ」
「何言っても無駄って知ってるからっすよ」
直接話したことはないが、あの扶桑のウィッチとは一度ゆっくり話がしてみたい。色々分かり合える気がする。
「……さて、そろそろ時間だよ」
クルピンスキーの言葉に皆口を閉じ、表情を引き締める。
しばらくの沈黙の後、ぽつり、と直枝が口を開く。
「……いくぜ、ひかり」
「はい、菅野さん!!」
「無茶は禁物。でも、全力を出さないと落とされるわ、美也」
「了解です」
ヴェスナの言葉に美也が頷いた。
前衛を任された二組のロッテが互いに言葉をかけあう。
「それじゃ、右は任せるよ、ハルカちゃん」
「はい。左はお任せです、伯爵様」
ジェシカが無言で懐中時計に目を向け、顔を上げるとおもむろに呟いた。
「エンジン始動」
ジェシカの言葉に整備兵がクランク始動のレバーを引く。
発進ユニットが自動でエンジンを回し、ジェシカが魔力を叩き込むと同時に一気に回転数が上がる。
左右につけたウィッチ達も同様にそれぞれのユニットを始動させる。
それぞれの国籍を持つユニットが異なるエンジン音を上げ、勇ましい重奏を滑走路に響かせる。
「こちら菅野一番!!紫電改、出るぜ!!」
「雁渕ひかり、『チドリ』、出ます!!」
最初に飛び出したのは直枝。すぐ後をひかりが続く。
続いてヴェスナと美也が続き、ヴァルトルートとハルカがその後をぴたりと追う。
「行くわよ!!エッタ!!」
「了解っす!!」
ジェシカの合図とともに二足のスピットファイアMk.22が滑走路へと滑り出す。
第一陣となるJFWとHMWのウィッチ達が飛び立つと、すぐさま後ろに控えていたFG56のウィッチ達が飛び立つ。
「行くぞ『群狼』!!」
掛け声と共にゼムケが飛び立ち、その後を追うように次々とP-47を履いたウィッチ達が空へと上がる。一列が飛び立てば整備兵がすぐさま発進ユニットを脇へと運び、正面がクリアになると同時に次の列が飛び立つ。
空で一度旋回しながら4機づつのフォー・フィンガーを組み、ゼムケを中心に幾層もの楔型の隊列を組む。
「ハルトマン中尉」
「はい」
その言葉にゼムケの二番機についたウルスラが答える。先日のモスキートではなく、Fw-190A-8。本来のウルスラのストライカーだ。そして。
「ニナ。いけるか?」
「はいっ!!」
ウルスラの改造したモスキートを履いたニナが頷く。一晩付きっ切りでウルスラに使い方を教わった探査機のヘッドセットを耳に当て、ゼムケの言葉に答える。
「相手の速度は鈍重です。大まかな方向だけでいいので、音を逃さないように」
「了解……このまま12時、距離は300000です!!」
部隊からさらに高度を取り、ストライカーの限界高度まで上昇した位置から敵の位置を探索する。
「指示は私が出す。ハルトマン中尉は周囲の警戒と状況に応じた作戦指示を頼む」
「解りました」
フリーガーハマーを背負ったウルスラが頷く。4番機に付けたディアナと共に、補足された際の最終防衛を担うのもウルスラの役目だ。
「……今度は、最後まで戦います」
ぽつり、と呟き、ウルスラが周囲へ目を向ける。
まるで双子の姉のような鋭い視線を周囲に向け、その頭では今後起こりうる様々な状況を計算し続ける。
「来やがったぜ!!」
前方を飛んでいた直枝が叫ぶと同時に一気に加速。
「行くぜ、ひかり!!」
「了解!!」
下方には無数のネウロイ。こちらが大部隊で来ることを察したか、その数はこちらのウィッチの総数か、それ以上か。
だが。
「遅え!!」
そう叫ぶと同時に急降下した二足の紫電改がネウロイの編隊の頭から突っ込む。ほぼ垂直の落下と共にネウロイと交錯。同時に、先頭を飛んでいたネウロイが一気に6機、光の破片となって飛び散る。
「オレが5機だ!!ひかり!!」
「わたしが2機です!!ずるしないでください、菅野さん!!」
互いに背を合わせ降下すると同時に周囲のネウロイを一気に蹴散らす。すぐさま身をひるがえして左右に分かれ、ネウロイが反応するより早く高度を取るため急上昇。再度ネウロイの編隊に突っ込み、上昇と同時に99式2号改を同時に掃射。編隊を突き抜け更に高度を取ると同時に、更に4機、ネウロイがはじけ飛ぶ。
「……すごい、雁渕さん」
「行きますよ、美也!!」
流れるようなひかりの動きに一瞬目を奪われかけるが、ヴェスナの言葉に美也もすぐさまダイブ。
「美也、後ろについて」
「はいっ!!」
上空の敵を察知したネウロイが数機、ヴェスナと美也に熱線を浴びせる。
「美也、冷静に。シールド解除と共に撃ちなさい」
「はいっ!!」
熱線が届く寸前、ヴェスナのシールドがそれを弾く。躱すことなくそのまま突っ込み、熱戦が途切れた瞬間。
「美也!!」
「はいっ!!」
ヴェスナのMG42と美也の99式が同時に火を噴く。更に4機、ネウロイが光の破片となって空に花を咲かせる。
「っ!!」
撃墜にも美也はヴェスナの背から目を離さない。ヴェスナがシールドを張ると同時に自身もシールドを展開。ネウロイの間をくぐり降下したまま速度を稼ぐ。
「撃墜数の稼ぎ時だ!!ひかり!!」
「はいっ!!」
ヴェスナ達を追おうとしたネウロイに狙いを定め、高度を取った直枝とひかりが再降下。美也の背後に取り付こうとしていたネウロイを一気に落とす。
「ひかり!!そのまま美也の後ろだ!!」
「菅野さんは!?」
ひかりの言葉に笑みを浮かべ、直枝が旋回。自動空戦フラップが落ちると同時に、鋭くネウロイの本隊に切り返す。
「このまま抜ける!!」
真っ直ぐ向かってくる直枝に動揺したように、ネウロイが回避を始める。だが。
「逃がすかよ!!」
直枝が吼え、引き金を弾く。動きの遅れたネウロイを次々に撃ち落としながら、ど真ん中を突っ切っていく。
「くっ……後ろ……っ……」
一方、美也は背後からぴたりとつけてくるネウロイを振り切れずに旋回を続けていた。雷電の旋回能力では巴戦は不利だ。徐々にネウロイの姿が近づいてくる。
「美也!!」
ヴェスナが高度を上げてその背後を突こうとするが、それよりも先に。
「三隅さん!!そのまま真っ直ぐ!!」
「雁渕さん!!」
ひかりの言葉に美也が雷電の火星エンジンに魔力を込める。扶桑のユニットには無い加速力で一気にその場を離脱しようとする美也の後ろから3機、ネウロイが追うが。
「このぉっ!!」
自動空戦フラップを落とした『チドリ』が鋭く切り込み、ネウロイの背後を取る。
99式の引き金を弾くと、美也の後ろについたネウロイが3機、光と共に消失する。
「ついてきて!!」
叫ぶと同時にひかりが美也の前に飛び出し、そのまま上昇。すぐ後ろをぴたり、と美也がつける。
「大丈夫!?三隅さん!?」
「あ、ありがとう……」
雁渕さん、と口を開こうとしたその瞬間。
「雁渕さん、美也!!」
「え……」
ヴェスナの言葉にひかりが目を見開く。
目の前の太陽を背に、黒い影が二人に向かって急速に近づいてくる。
だが。
「させない!!『マジックブースト』!!」
その間に割って入るようにヴァルトルートが弾丸のような勢いで飛び込んでくる。
身体をしなやかに捻らせ、そのまま急降下してきた『人形』と並ぶようにMP43を斉射。
ひかりに取り付こうとしていた『人形』が思わずその場を離れようとした瞬間。
「エッタ!!」
「はいっす!!」
エッタの構えたボーイズMk.1対装甲ライフルの弾丸が『人形』の頭を射抜く。
動きを止めた『人形』に、美也が99式の斉射を浴びせると同時に、『人形』が光の粒と消える。
「やるじゃねぇか、うっす!!」
「うっすじゃねぇっす!!エッタっす!!」
直枝の歓声にエッタが抗議の声を上げる。一瞬の喜びもつかの間、残った小型ネウロイが再び集まりはじめ、一斉に高度を取るため急上昇を始める。
だが。
「馬鹿ね、そこは地獄の入り口よ!!」
ジェシカが叫び、シールドを展開。
集まってきたのが運の尽き。その空間を覆いつくさんとばかりに広がったシールドが一線に凝縮し、一筋の光の刃へと変わる。
「終わりよ!!『エクスカリバー』!!」
巨大シールドを圧縮した光の刃が上昇しようとするネウロイを次々に切断する。僅かにそれたネウロイもその熱量に焼かれ、そのまま光を放って消え去る。
「うわ……」
おもわずひかりの口から嘆息が漏れる。残った小型ネウロイの数十機が、瞬く間に切り裂かれ、或いはバターのように溶けて消え去る。
「……ふぅ」
「馬鹿なんっすか?いきなり最終兵器をぶっ放すとか?」
呆れたようなエッタの言葉にジェシカがふふん、と笑みを浮かべる。
「あんたがいるなら大丈夫よ、ウイングガール」
「……馬鹿が悪い方向に進化してるっす」
「……いやいや、凄いね」
苦笑を浮かべるヴァルトルート。
「それよりも警戒です!!」
ハルカの鋭い言葉に皆が周囲へと目を向ける。
「第二波、まだ来ないようです」
ヴェスナの言葉に皆が頷く。
「流石にこんなに早く終わるとは敵さんも思ってねぇだろうよ」
直枝が呟く。
ジェシカのお蔭で時間が稼げた。余裕をもって編隊を組みなおし、周囲への警戒へと当たるウィッチ達。
「隊長、私達は後方警戒っすよ?」
「知ってるわよ。アンタが良い恰好したから」
「じゃあもう二度と撃たないっす」
ジェシカの言葉にエッタが肩を竦める。軽口を叩き合いながらも、その視線は周囲に配られ、ほんの少しの異変も逃すまいと目を配らせる。
『こちらヴァルトルート。FG56、敵は?』
『こちら『LN-M』、そちらより10時方向、距離は10000。敵性反応、増えてます!!』
ニナの魔導無線に皆が10時方向へと目を向ける。
「第二波のおでましだ。気合い入れろ、ひかり、美也!!」
直枝がぱん、と掌を拳で叩く。
「はいっ!!」
「了解!!」
ひかりと美也が新しい弾倉を99式にセットしなおし、ヴァルトルートとハルカが周囲に目を配らせる。
『こちら『LM-Q』。降下ポイントを確認!!』
「行くよ!!皆!!」
ヴァルトルートの言葉に再び押し寄せるネウロイの群れに向かう。
「中型発見!!」
「デカいのは貰うぞひかり!!」
「了解です!!」
敵編隊の中央部に位置する一際大きいネウロイに向けて直枝が飛び込む。その背後にひかりがぴたり、と付け、次の瞬間、ネウロイが熱戦を放つと同時に同時にシールドを張る。
直枝が吼え、99式から放たれた12.7mm弾が群がるネウロイを薙ぎ払う。
「美也は右!!」
「了解!!」
直枝とひかりの両脇、左右に分かれたヴェスナと美也が両脇から取り付こうとする小型ネウロイを撃ち落とす。
そして。
「ひかり!!」
「はいっ!!」
直枝の脇からすり抜ける様にして中型に近づいたひかりが一瞬、その装甲に手を触れる。
次の瞬間、ひかりの瞳が赤い色を帯び、身体をしならせると同時にフラップの急旋回を利用しつつネウロイから距離を取りつつ狙いを定め。
「そこだあっ!!」
片手に持ち換えたひかりの99式から放たれた12.7mm弾がネウロイの装甲の一点に集中する。
装甲が割れ、その奥から赤く輝くコアが露出する。
「菅野さん!!」
「おう!!」
誰よりも早くひかりの動きに反応した直枝がコアに向けて99式の引き金を弾く。
硝子が割れるような音と共にコアが弾け、中型ネウロイが次の瞬間はじけ飛ぶ。
一歩間違えればどちらかが大怪我を負ってもおかしくない超近接からの連携攻撃に、思わずその場にいた皆が息を飲む。
「次だ!!」
直枝の掛け声に、皆がすぐさま目の前の敵に意識を戻す。
「……凄い……」
ぽつり、と、56FGのウィッチの一人がその動きに見入ったまま呟く。
第502統合戦闘航空団『ブレイブウィッチーズ』。
先日あれだけの大見得を切っただけの事はある。ストライカーの扱い方はもとより、個々のウィッチがまるで一つの大きな個体のように有機的に補うような連携。そして、その合間を縫うウィッチ達の熟達した動き。
人類の最前線で戦う攻勢部隊の実力に、思わず皆の目が奪われる。
『こちら『HV-A』、目標を補足した。前を向け!!『群狼』!!』
その言葉に皆がはっと我に返る。眼下には黒い海。
そして、一筋の航跡を残しつつ、『それ』が徐々に近づいてくる。
駆逐艦の船体に、巨大な黒い卵のようなネウロイの本隊。写真ではコアだった部分はハニカム模様のパネルに覆われ、周囲には無数の小型ネウロイがひしめいている。
『見つけたぜ、『セイレーン』!!』
魔導無線にウィッチの声が響く。
『こちら『LM-Q』!!第一中隊及び第二中隊は私に続け!!』
中隊長を務めるウィッチの声に56FGのウィッチ達が一斉に降下体制に入る。
高度10000メートルの距離からリパブリカンP-47ストライカーユニット『サンダーボルト』のP&WR-2800、ダブルワスプ魔導エンジンが一斉に唸りを上げ、雷鳴のような音と共に一斉に『セイレーン』に向けてダイブを始める。
『『LM-Q』、小型ネウロイ、こちらに向かって来ます』
『まとめて蹴散らす!!第一小隊、ぎりぎりまで引き付けろ!!』
その言葉に先陣を切っていたウィッチ達が一斉にM2重機関銃を構える。
『私の合図で撃て!!3、2、1……!!』
撃て!!の掛け声に合わせ、一斉にウィッチ達が機関銃の引き金を弾く。狼の唸り声のような機関銃の咆哮と共に、次々と小型ネウロイがはじけ飛び、『セイレーン』への道が開けていく。
『第二小隊!!M9グレネード投下準備!!』
その言葉に一斉に第二中隊のウィッチ達が通学鞄のような形状のM9グレネードキャリアを構える。
鞄のようなキャリアに小銃用のM9グレネード弾を12発。投下スイッチを押す事で安全ピンを抜いたグレネードが落下するだけの非常にシンプルな爆撃装置だが、シンプルなだけに扱いは簡単で、かつ故障の心配が殆ど無いという旧式ながら信頼性の高い兵器だ。
第一部隊が散開し、第二部隊が直上から『セイレーン』を補足した次の瞬間。
『投下!!』
合図と共に一斉にキャリアから切り離されたM9グレネードが、『セイレーン』に降下し、そして、次々と爆風を上げる。
表面を覆っていた黒いハニカム模様のパネルが次々に削り取られ、やがて、赤い光を放つ巨大なコアが徐々にその姿を現していく。
『……っ』
写真だけだったその姿が露わになるにつれ、56FGのウィッチ達も、上空で指揮を執っていたゼムケ達も、そして、直枝やジェシカ達前衛部隊のウィッチ達も思わずその息を飲む。
「……これが……」
露わになった『セイレーン』の巨大なコア。間近で見ると、赤く輝くコアの奥で物言わぬ姿となったかつての仲間たちの姿がはっきりと捕らえられ、思わずウィッチ達が息を飲む。
だが。
『キャロル!!待ってて!!今助けるからっ!!』
ニナの叫び声が無線に響く。その声に、一瞬攻撃を躊躇っていた56 FGのウィッチ達の瞳に力が灯る。
『第三中隊!!爆撃投下!!『セイレーン』を黙らせろ!!』
その言葉に第三中隊……部隊の中でも練度の高いウィッチ達の手にした500ポンド爆弾が投下装置により次々とネウロイのコアに落とされていく。急降下により亜音速に達したP-47から次々と放たれる大火力の爆弾により、『セイレーン』がまたたたく間に爆炎と煙に包まれ、金属的なネウロイの悲鳴のような叫びが北海に響き渡った。
『やったか!?』
魔導無線にウィッチ達の歓声が響く。
だが。
爆炎が晴れ、その場に姿を現した『セイレーン』の姿に、その場にいた誰もが言葉を失う。
未だ健在な深紅のコア。
そして、そのコアを守るように展開する『シールド』。
その文様は、欧州のウィッチ達が使用する魔法陣と酷似している。
それだけではない。
周囲を取り囲むように出現した無数の小型ネウロイと『人形』ネウロイ。
「ネウロイが……シールドを……?」
誰かの声が魔導無線に響く。
その声は僅かに震え、そして、誰もが目の前の『ありえない』光景を呆然と見つめていた。
だが。
「……上等じゃねぇか」
ぽつり、と直枝が呟く。99式2型2号を握る指に、そして、もう反対の腕にも力を籠める。
むしろこれからが本番だ。欧州でも、否、この世界でも屈指の攻勢部隊の502JFWにとって、今までの戦いなどほんの準備運動に過ぎない。
「ひかり、ビビってんじゃねぇぞ」
「菅野さんこそ、腰が引けたりしてないですよね?」
直枝の言葉にひかりが笑みを浮かべる。
燃料も弾薬も、残りは半分といったところか。
否、まだ半分も残っている。猛吹雪の中で弾薬が尽き、大型ネウロイを前にしたときに比べれば、ようやく肩の力が抜けて本調子になった程度といったところだ。
状況は圧倒的に不利。だが、ひかりの教官はあのエディータ・ロスマン曹長で、その僚機は菅野直枝中尉なのだ。
この程度で怖気づくような軟な鍛え方をされているウィッチではない。
だからこそ、直枝が叫ぶ。その場にいる皆の勇気を奮い立たせるように。
「行くぜ!!『相棒』!!」