「……えぇ……?」
思わずひかりが口を開く。ウィッチの飛行速度と比べ遥かにゆっくりとした速度で近づいてくる機影を確認し、思わず直枝が呻くように、そして若干の呆れを交えたように呟く。
「おい、あれってまさか……」
「『クラッシャー・オヘア号』……でも、あれって……」
ニナが呟く。ゆっくりと近づいてくるC-47輸送機にペイントされている派手なノーズアートを見、信じられないといった表情を浮かべている。
『来ました来ました!!待ってました!!智子お姉さま!!』
ハルカの能天気な声が魔導無線から響く。
しかし、喜んでいるのはハルカばかりで、他のウィッチ達は突然空域に現れた『クラッシャー・オヘア号』改め『クラッシャー・オヘアといらん子中隊号』の雄姿、もとい場違いさに唖然とした表情を浮かべている。
否。もう一人を除いて。
「遅いです。オヘア」
ぽつり、とウルスラが呟く。
その口元には笑みが浮かび、瞳にはしてやったりといった表情が浮かんでいる。
「中尉、どういうつもりだ」
「……これが本当の『後一手』です。ゼムケ大佐」
そういうとウルスラがFw-190に魔力を送る。
「ハルトマン中尉!?」
「話はあとです。大佐」
そういうとゼムケが止める間もなく、ウルスラが真っ直ぐ輸送機へと向かっていく。
『待たせたねー、ウルスラ』
「もう少し早く来れなかったんですか?」
『准将の説得に時間がかかったね』
オヘアが答える。
「お待ちしてました!!智子お姉様!!」
そういって近づいてくるハルカ。
「どうするウルスラ。幻覚が見えているようだが」
「そのまま利用しましょう」
ビューリングの問いかけにウルスラが答える。
「いえ、あの。冗談ですが?」
「そうなんですか?本気だと思っていました」
「おいハルカ。煙草持ってるか?」
「持ってるわけないじゃないですか!!」
二人の言葉にむくれた様に怒鳴るハルカ。
そして。
「イヨさん。『予定通り』、ゼムケ大佐と合流してください。着弾地点の座標指示はお任せします」
「了解!!」
ウルスラの言葉に伊予が上昇を始める。
「シノさんとフランさん。ハルカさん、私と共に機体の護衛を」
その言葉にウィッチ達が楔型の密集陣形を組む。
空の上のパンツァーカイル。奇しくもそれは、かつていらん子中隊がスオムスで最初の戦果を上げた時と同じ陣形だ。
「先頭は……」
「あたしに任せて下さい、ウルスラ」
信乃の言葉にウルスラが一瞬驚いた顔を浮かべる。
信乃の使用する零式54型は、この場にいるウィッチ達の履いているストライカーの中でも特に防御の薄いユニットだ。ネウロイの熱線をまともに受けるには非力に過ぎる。
「無茶をするなシノ、私に任せろ」
「無茶じゃないです。自信があるんです」
フランの言葉を遮り、信乃がウルスラへと目を向ける。
眼鏡越しのウルスラの瞳と、信乃の瞳が交錯する。
「……解りました。正面はシノさんに任せます」
「了解です!!」
ウルスラの言葉に返事を返し、信乃が輸送機の正面へぴたり、とつける。
『ちょっと、ちょっとシノ!!一体何考えてるの!?馬鹿なの!?』
魔導無線から聞きなれた声が響いてくる。
『ジェシーこそ。何ぼーっとしてるんです?戦果をあげるチャンスですよ』
『はぁ!?』
信乃の言葉にジェシカが素っ頓狂な声を上げる。
『聞いてください、皆さん』
ウルスラが無線に向かって語り掛ける。
『これからこの輸送機を『セイレーン』にぶつけます。私の開発した対ネウロイ用爆薬と通常爆薬、これなら『セイレーン』を破壊できます』
ウルスラがウェストハムネット基地に持ってきたのは探知機だけではない。何かの役に立つと思って持ってきた試製品と爆薬。
「……破壊力こそ正義です。いつか大型に試してみたいと思っていましたが、まさかこんなに早くチャンスが訪れるとは思ってもいませんでした」
何時になく興奮した口調で呟くウルスラ。普段はマイペースなその口調も、今は若干早口になっている。
そう。
今でこそ真っ当な科学者のような顔をしているが、スオムスにいたころのウルスラは爆発に魅せられ、いかに敵を爆破するかに命を懸けていた少女だった。
とにかく時間さえあれば爆発物を開発し、そして躊躇なく実験してハンガーを破壊する。
フリーガーハマーの前身となるフリーガー・アス……ロケット弾の開発を独自で行ったのもその一環だ。
そして、その本質は変わっていない。
ジェットストライカーや、役に立つのか良く解らない兵器の開発の合間を縫って、新型の火薬の開発に余念がないし、何かしらの理由をつけて『それ』をこっそり持ち込んでいるであろうことも、彼女をよく知る
「藤田中尉、どういうことだ」
近づいてくる伊予にゼムケが尋ねる。飛行停止だったはずのウィッチ達が輸送機を一機引き連れ突然現れたのだ。本来ならば命令違反どころの問題ではない。
だが。
「飛行停止はエイカー准将によって解除されました。今の私たちの任務は、あの輸送機を無事、『セイレーン』の『コア』に送り届ける事です」
『こちら第56戦闘隊第3中隊長、フランチースカ・S・ガブレシェフスキー中尉。残存ウィッチへ。輸送機の護衛を求む』
魔導無線にフランの声が響く。
その間にも『クラッシャー・オヘアといらん子中隊号』は高度を落としつつ速度を上げながら、真っ直ぐ『セイレーン』に向けて突っ込んでいく。
セイレーンもその姿に気が付いたのか、『コア』が赤く輝きだす。同時に、真っ直ぐ進んでいた船体部分がゆっくりと回頭を始め、爆撃に備えるかのようにその進路を変えていく。
「ギャビー!!」
『お願いします、隊長。やらせてください!!』
無線の向こうからフランの声が帰ってくる。
「……覚悟はできているな?」
ネウロイと戦う覚悟。そして、軍紀に背いたこと。
如何なる戦いになるのかも、如何なる罰が下るのかも、全てを受け入れる覚悟があるのか。
『イエス、マム』
ゼムケの懸念を払いのける様に、フランの返事が間髪入れず魔導無線に響く。
「……そうか」
小さくうなずき、ゼムケが伊予を見る。
「お願いします、大佐」
その言葉にゼムケが頷く。この場の指揮官はゼムケであり、全てのウィッチは彼女に従う義務がある。
だからこそ、ゼムケは決した意思を伝えなくてはいけない。
いらん子達の、成長した部下達の、文字通りの捨て身の覚悟に答えるために。
『残存戦力に告ぐ。我々は残された戦力を持って、『セイレーン』を殲滅する!!』
この空域に残ったウィッチ達の魔導無線に、ゼムケの凛とした声が響いた。
出来るな、というゼムケの無言の問いに伊予が頷き、眼下の『セイレーン』を睨みつけ、魔導無線のスイッチを入れる。
そう。ウィッチは……ウィッチならば、同じ敵に二度も不覚を取ったりはしない。
「ヴァルトルートさん」
「ヴェスナ、残りの燃料は?」
「少ないです。基地に戻ることを考えると、戦闘飛行は持って後一度です」
ヴァルトルートがその言葉に頷く。
「十分だね。ヴェスナ、美也ちゃん。『輸送機』の突入を援護するよ」
その言葉に二人が頷く。
Bf-109と雷電が輸送機に向かい、その左右、楔型の両端に身を寄せて加わる。
「ご協力感謝します。クルピンスキー中尉」
ぱちり、とウインクするヴァルトルートに、ウルスラが短く答える。
「どうして黙ってたんですか、中尉」
「言ったら止めますよね?」
「当たり前です」
「だからです」
くすり、と笑うハルカ。はぁ、とヴェスナがため息をつく。
「どうせ止めても止まらないのが中尉です。だったら、せめて一言言って下さい……一応、同じ部隊の仲間ですから」
「いきなりどうしたんですか!?抱いてくれるんですか!?」
「前言撤回です。ずっと黙っていて下さい」
二人のやり取りに苦笑を浮かべる美也。
自分の送られた507JFW……かつては『いらん子中隊』と呼ばれていた事も勿論知っているし、成程、その残滓というか何故そんな言われ方をされていたのか、時折その面影が見え隠れすることもある。
「美也、無理は……いえ、今は無理をさせます。ですが、このくらいの無理が出来ずに前線では生き残れません」
だが、今は違う。
皆優秀で尊敬する先輩達だ。危険を、そして軍紀を冒してまで、皆を助けるために助けに来てくれた。
そして、この『輸送機』は、そんな先輩達からの大切な『贈り物』だ。
だから。
「はい。生き残って見せます。今回も、そしてこれからも」
力強く美也が答える。
『いい返事ねー。流石ミー達の後輩ね』
満足げな声が魔導無線から伝わってくる。
『お前は何も教えていないだろう』
『ノー。ビューリング、後輩は先輩の背中を見て育つものねー』
『成程。お二人は自ら反面教師を示しているわけですね』
『そういうウルスラさんも人の事言えませんよね。こんなのこっそり用意しておいて』
思わず苦笑を浮かべるヴェスナ。
懐かしい声と懐かしいやり取り。
自分がかつて左遷同然にスオムスに来たばかりの時も彼女達はこんな調子だった。
こうはなるまい、こうはなりたくないと思いつつ、気が付けばまだ彼女たちの背には追い付いていない。
『攻撃、来ます!!』
信乃の言葉に皆が口を閉じ、一斉に顔を引き締める。
技量が無い、協調性が無い、やる気も根性も無い。
無い無い尽くしの『いらん子中隊』。
だが、そう言われ続けながらも、彼女たちは数々の戦いを潜り抜け、そして誰一人欠けることなく生き残った。
だからこそ、彼女たちは『いらん子』だが、正真正銘、歴戦の魔女なのだ。
そして、次の瞬間。
「……来る」
ぽつり、と信乃が呟く。
体に突きさすチリっとした痛みの代わりに、目の前に生じたシールド一杯に赤い光が広がり、そして。
輸送機を囲むウィッチ達の張るシールドが
「……え?」
思わずニナが呟く。
ニナだけではない。隣にいるゼムケも、その場にいたウィッチ達が皆驚きに目を見開く。
『同調シールド』
複数のウィッチの魔法力をシンクロさせ、シールドを融合させる。
シールドの操作技術の一環だが、同調させるにはウィッチ同士の近接距離を保つ必要があるため、一定の場所に留まる事の出来ない空戦で使われることは滅多に無い。
信乃が同調シールドを覚えたのも、実戦で使用するためというよりも、減少した魔法力を補うために行っていたシールド操作の訓練の為である。
普段は使いどころのない、曲芸のようなシールド技術だが、輸送機の周囲を取り囲んだまま一定の距離を保っている今ならば、個々の魔法力に関係なく、輸送機を取り囲むウィッチ全員の、『魔法力の総和』による巨大なシールドを張る事が可能となる。
そう。
たとえ、先頭にいるのが魔法力の低い信乃でも、その後ろには信乃よりも遥かに魔法力の高いウィッチ達がいるのだ。
この状態で全員のシールドを同調させれば、輸送機とその前を飛ぶウィッチを丸ごとカバーする巨大な一枚のシールドに出来る。
「……このために敢えて先頭に?」
「どうです?少しは見直してくれました?」
ウルスラの言葉にしてやったりと言った表情を浮かべる信乃。
そして。
『皆さん!!降下進路を後10度修正!!速度はそのまま。オヘアさんの離脱のタイミングはこちらで指示します!!』
『了解ね!!』
伊予の無線越しの言葉にオヘアが返す。
周囲に『人形』や小型ネウロイが未だ潜んでいる可能性も零ではない。ゼムケが周囲を警戒する中、魔導無線に耳を当て、伊予は輸送機に向けて上空から指示を送り続けている。
「それも自動演算か?」
「いえ、自動演算は触れたものにしか作用ません。ただの計算です」
淡々と、まるで当たり前のことのように言い放つ伊予。
ウィッチの中にも適正、不適正というものがある。
指揮に適したもの、戦いに適したもの。
性格的にも普段の態度からも、目の前の藤田伊代という中尉は指揮官向きだと思われている。実際、ゼムケの第一印象もそうだった。
だが、それはあくまで『印象』に過ぎない。
伊予は後方から指揮を行うタイプではなく、あくまで『戦闘』に特化したウィッチだ。
信乃が歪ながら洗練された、防御的なインファイターであるのなら、伊予の神髄は、理詰めと計算に裏打ちされた、攻撃的なアウトファイター。
例え離れた位置であろうと、たかだか数百マイルで飛翔する物体を、数十ノットの標的に命中させること等、造作もない事だ。
……船体は元のまま、セイレーンのコアに特別な動きなし。ならば、取れる回避行動は操舵のみ。
コアの大きさはおよそ20メートル、船体速度は回避時最大でおよそ15ノット。
最終的な着弾地点を割り出すまでに必要なタイムリミットはパイロットの脱出を考慮した着弾の30秒前。
知識、そして視覚を含めた五感から割り出した情報を繰り返し反復しながら収集し、分析し、そしてさらに計算を繰り返し、より正しい答えを導き出す。
そう。例えば、船の航跡に見える僅かな違和感。当然ネウロイもそのままでは直撃する進路を取り続けるわけがない。
敢えて熱線を撃ち続けるのも、『それ』をごまかすため。
例え弾かれても、熱線を撃ち続けるのは、『敵』の視界を塞ぎ、自らの進路の変更を悟らせないため。
取り舵を一杯に取っていた船体の転回が徐々に緩やかになり、そのまま、面舵方向へと進路をずらす。
しかし、その全てが伊予には
『5秒後に機体を反対方向に30度、突入角度を5度上方に修正』
『了解したね!!』
伊予の位置からは相手の動きが手に取るように解る。
指示を出しながら、ちらり、と視線をゼムケへと向けると、その意味を理解したゼムケが頷き、口を開く。
『……ジョンソン大尉、菅野中尉、準備は整っているか?』
『任せろ』
『こっちも準備できてるわ』
ゼムケの問いに答える無線越しの声。
『藤田中尉、突入までの時間は?』
『後40秒。オヘアさん』
『オーケー!!いつでも固定出来るね!!』
その言葉に再度ネウロイを睨みつける。進路を変えた輸送機に対し、再度反転を試みようとしているようだが、もう遅い。
『機体を5度修正した後に進路を固定、離脱してください』
『了解ね!!』
伊予の指示に、オヘアが操縦桿をロープで固定するとそのまま操縦席を立つ。搭乗口を開け放ち、目の前に広がる空と海に向かって躊躇なく飛び出す。
『ビューリング!!ミーの事は任せるねー!!』
その言葉と同時にハリケーンで輸送機の脇に付けていたビューリングが急降下。オヘアのフライトジャケットの首根っこを掴む。
『ハギちゃん!!』
「皆、あたしの合図で散開!!用意!!」
シールドを張りながら信乃が怒鳴る。
『ジョンソン大尉!!菅野中尉!!』
「了解!!」
ゼムケの合図にジェシカがシールドを展開。
「エッタ!!」
「了解っす!!屍は拾うっす!!」
「死なないわよ!!叩き割れ!!『エクスカリバー』!!」
魔力の刃と化したシールドを構えたジェシカが、ネウロイに向けてそれを叩きつける。展開したシールドとシールドがぶつかり合い、魔法力の火花がはじけ飛ぶ。
「まだまだぁっ!!」
更に、ネウロイの直上から直枝が真っ直ぐに急降下。
拳に圧縮した魔力を込め、『エクスカリバー』の上からさらに一撃、叩きつける。
「『剣一閃』!!」
拳がシールドに突き刺さる。
攻撃に特化した二振りの『剣』が、徐々にネウロイのシールドを侵食し。そして。
次の瞬間、直枝の拳を中心に、ネウロイのシールドが音を立ててはじけ飛んだ。
「離脱します!!」
信乃の言葉にシールドを張っていたウィッチ達が一斉にその場を離脱。
ネウロイに向けて落下していた輸送機が真っ直ぐに『セイレーン』のコアに向かって突き刺さり。
2000キロ、2トンの爆弾と化した『クラッシャー・オヘアといらん子中隊号』が光を放ち、『セイレーン』と共に炎と爆発音に包まれた。
「……っす!!」
ジェシカと直枝の前に飛び出し、咄嗟に張ったエッタのシールドを、無数にはじけたネウロイの『コア』の残骸が叩く。
「隊長!!菅野中尉!!無事っすか!?」
「……もちろんよ、エッタ」
「……おう、助かったぜ、うっす」
「うっすじゃねーっす!!エッタっす!!」
疲れ切ったような顔をしているジェシカと直枝が憮然とするエッタの顔に薄い笑みを浮かべる。が。
「……っ!!」
一瞬浮かべた笑みが凍り付く。
はじけ飛んだコアの破片が海に落下する直前。すべてのコアがぴたり、と宙に静止する。
「……まさか」
誰もが愕然とした表情を浮かべる。
煙が晴れ、徐々に明らかになっていく爆発の中心地。
その殆どを爆発によりえぐり取られ、まるで大きなクレーターのような跡を残す『セイレーン』のコア。
だが、そのコアは依然として赤く輝き、そして、ゆっくりとコアが元の位置に集まろうとしている。
「……まさか『真コア』!?」
ヴァルトルートが叫ぶ。
コアの中に小さな真のコアを宿した、二重コアの構造を持つネウロイ。
表向きのコアを破壊しても、その奥にある『真コア』を破壊しなければ撃破出来ないネウロイだ。
「残りの部分を破壊するんだ!!早く!!」
そう言いながらもヴァルトルートは手にしたMP43短機関銃を構えなおす。
「二人とも、魔力を回復するっす!!」
咄嗟に固有魔法を使おうとするエッタを、ジェシカがその手を掴んで制止する。
「何してんのよエッタ!!あんたの魔力が足りなくなるわ!!海に落ちるわよ!!」
「今はそれどころじゃないっす!!」
長時間の戦闘とシールド、そして固有魔法による魔力の消費で皆体力も魔力も限界に近い。それでも皆、武器を構えなおし、残された『セイレーン』の残骸へと向かおうとする。
だが、それよりも早く。
「任せて下さいっ!!」
その中を、一人の、
「雁渕軍曹!?無茶です!!」
「駄目です!!戻ってください!!」
脇をすり抜け真っ直ぐネウロイに向かうひかりを信乃とウルスラが制止する。
だが、二丁の99式2型2号改機関銃を構えたひかりは真っ直ぐに、『セイレーン』に向かっていく。
『セイレーン』の『コア』の残骸部分のすぐ近くで体をひねり、『チドリ』の主翼が『コア』を横薙ぎに掠める。ちりっという火花が起こり、その先端がはじけ飛ぶが。
「見えました!!」
叫ぶと同時にひかりの双眸が赤い色を帯びる。固有魔法の『接触魔眼』により、コアの残骸の奥で息をひそめていたもう一つの『コア』の位置がはっきりとその瞳に写し出される。
「そこだぁっ!!」
くるり、と身を翻しながらひかりが叫び、両脇に抱えた機関銃の引き金を弾く。
二丁の99式2型2号の銃口からはじき出された13mmの銃弾が『セイレーン』のコアを削り取り、そして、今度こそ次の瞬間。
『セイレーン』のコアが、否、セイレーン全体が白く輝き、硝子のように、或いはペテルブルグの吹雪のように、白い無数の粒となって弾け飛んだ。
「ひかりっ!!」
「雁渕さんっ!!」
シールドを張るが、その勢いに弾き飛ばされて落下していくひかりの両腕を、間一髪で直枝と美也が抱きとめる。
「……やった!!やりました!!菅野さん、三隅さん!!」
そういって屈託なく微笑むひかり。
「うん……」
そして、そんな様子を僅かに潤んだ瞳でひかりを見つめる美也。
「……ったく、どうすんだよその主翼」
その言葉にひかりが、あっ、と呟き『チドリ』へと目を向ける。
両手に機銃を持っていたから仕方がないとは言え、ユニットごと『セイレーン』と接触したのだ。
ネウロイと接触した『チドリ』の左側の主翼の半分ほどが千切れ、エンジンからは白い煙が上がっている。
「ああっ!?ご、ごめんね『チドリ』!!」
慌てて謝罪の言葉を口にするひかりだが、当の『チドリ』は無茶な主人に抗議するかのようにぷすん、と白い煙を上げ、そのまま左足の魔導エンジンを停止させる。
「うわ……ど、どうしよう、どうしましょう菅野さん」
うろたえるひかりにはぁ、とため息を吐きだし、直枝が苦笑を浮かべる。
「そのくらいならすぐ直るだろ。それよりも……」
そういって直枝が顔を上げる様に促す。ひかりが顔を上げると、その場にいたウィッチ達がこちらに向かってくる姿が目に入る。
「やったっす!!大戦果!!大戦果っすよ!!」
「やりましたね!!雁渕軍曹!!」
「ひかりちゃん、格好良かったよ!!」
歓喜の表情を浮かべたウィッチ達にもみくちゃにされ、ひかりが目を白黒させる。
「わぁっ!?か、菅野さん!?三隅さん!!」
助けを求める様にひかりが手を伸ばすが、当の二人は互いに顔を見合わせ、苦笑を浮かべて肩を竦めるのみだ。
「あの、皆さん!!落ち着いて……ひゃっ!?誰ですか!?変なところ触らないでくださいよぉ!!」
歓喜の輪の中心で目を白黒させているひかり。
そして。
その輪を見下ろしていた一人の少女が、そっと腕に巻かれた腕章を撫でる。
「……終わったよ。見ててくれたよね。キャロル……」
歓喜の声の中で、親友に向けて呟いたニナの声は、誰に届くでもなく、北海の青い空への彼方へと消えていった。