チリチリするの   作:鳩屋

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5.グリュンヘルツ

「以上で案内終わりですっ!!質問はありますか?シノ」

 

 談話室の前でユーリが快活な笑顔を浮かべる。扶桑の流儀に従えば、『旅行』にあたるのだろう。配属された船や基地を先任から案内され、一度で覚えなければ上官による海軍精神注入棒のケツバット。

 その話を聞いて以来、信乃はこういった行事に対しては殊更慎重に構えていたので、ある意味拍子抜けなところがあった。

「大丈夫です。ユーリ。なんというか、その、コンパクトな基地なので……」

 言葉を選びながら答える信乃にハンネが苦笑を浮かべる。身もふたもなく言えばただの大きな民家だ。

「夕食までには時間もありますし、少し休憩しましょう。シノ、コーヒーとココア、どちらが好みですか?」

 ハンネの提案に信乃の表情が明るくなる。コーヒーに限らず嗜好品の類は戦場では中々口にすることが出来無い。

「ありがとう、ハンネ。じゃあ、ココアの方で……」

「ボクもココアがいいです!!」

 ハンネが苦笑を浮かべて談話室のドアを開ける。同時に何人かのウィッチと、見た事のあるウィッチの視線が一斉にこちらに向いた。

「ユーリ!!生きてたのね!!」

「全く!!心配かけやがって!!このチビ!!」

「わわ、先輩達!?」

 数人のウィッチ達がユーリの元に駆け寄る。もみくちゃにされたユーリは目を白黒させながらもそのままウィッチ達の方へと連行されていった。

「……ユーリはうちのマスコットみたいなものですから」

「成程です」

 ハンネの言葉に信乃が頷く。庇護欲がわくというか、ついつい構いたくなるような雰囲気がユーリにはある。苦笑を浮かべていると、一人の少女が二人の元へと歩いてきた。

「あの、少尉……」

「ベレーナ、傷はもういいんですか?」

 信乃も見覚えのある顔がハンネの言葉に薄く笑みを浮かべる。

「見ての通りです……すみません、先程はご迷惑をおかけしました」

 三角巾で腕をつった状態のベレーナがぺこり、と頭を下げる。

「あ、でも、検査も受けましたがここ以外は大丈夫です」

 そういって固定された手を持ち上げて見せる。癖っ毛の金髪を揺らし、ベレーナが信乃にも頭を下げる。

「先程はありがとうございました。改めてお礼を言わせていただきます。ええと……」

「萩谷信乃准尉です。ええと、ベレーナさん?」

「ベレーナ・レシュケ曹長です。萩谷准尉、先程はありがとうございました」

 折り目正しい口調に信乃が敬礼を返す。咄嗟に敬礼をしようとして、その手が固定されていることに気が付いたベレーナが眉をハの字にする。

「……重ね重ねすみません」

 苦笑を浮かべる信乃に本心から申し訳なさそうにベレーナが頭を下げる。ユーリとは対照的に真面目で大人しい性格のようだ。

「ベレーナ。待っていてくれたことは嬉しいけど、無理をしているのなら関心はしません。休む時は休むこともウィッチとして大切な事ですよ」

「す、すみません……」

 ハンネの言葉にしゅんとなって目を伏せるベレーナ。

「……でも、自分の口できちんとお礼を言いたくて……萩谷准尉にも、ユーリにも……それに、少尉にも」

 どうやら気は弱いが頑固なところもあるようだ。

 呆れた様にため息をつき、ベレーナに座るよう促す。

「全く。ベレーナはコーヒーとココア、どっちにするの?」

「え?」

「きちんと休憩を取りなさいという事よ。暖かいものを飲んで心を休めることもウィッチの仕事です」

「あ、は、はい……じゃあ、少尉と同じので」

「コーヒーよ?ココアが良いんじゃないですか?」

「い、いいんです」

 背伸びをしたい年頃なのか、それとも。

「その……少尉と同じのがいいです……」

 頬を赤らめながらベレーナが呟く。成程。そう言う事か。

「……そう、じゃあ、少し待ってなさい」

「あ。飲み物なら私が……」

「休むのが仕事、そう言いましたよね。座ってなさい」

 きっぱりと言われ、ベレーナははい、としぶしぶ頷く。

 ハンネが飲み物を取りに歩いて行くと、向かい合わせに座った信乃とベレーナだけが取り残された形になる。

 上目遣いにこちらを見ているが何を言っていいのかわからない、といった様子のベレーナにくすり、と笑いかけ、信乃が先に口を開く。

「さっきは災難でしたね。傷はどうなんですか?」

「はい、おかげさまで……肩の脱臼以外はかすり傷程度です」

「レシュケ曹長は実戦経験は?」

「殆どありません……。その時も中隊長や少尉に守ってもらってばかりで、こんな風に本格的な戦闘は初めてでした……」

 話をしながらも、ちらちらと信乃の背後……ハンネがコーヒーとココアを入れている方へと目を向けているベレーナ。くすり、と信乃がほほ笑む。

「……レシュケ曹長、ハンネの事が好きなんですね」

「ふぇ!?い、いきなりなに言ってるんですか!?」

 途端に顔を真っ赤にするベレーナ。信乃はその様子に首を傾げる。

「違うんですか?あたしも昔はよく上官と同じものを注文しようとしてましたから。尊敬してる人と同じにしたいって気持ち、何かわかるな、って思ったんですけど」

「そ、そういう意味ですか……」

「他にどんな意味があるんです?」

「そ、それはその……知りません!!」

 ぷい、と顔をそむけるベレーナ。

「そ、それより、今少尉の事を名前で……」

「あ、ベレーナ!!」

 快活な声がベレーナの声をかき消す。

 ベレーナがびくっと振り返ると、そこには両手にビスケットやクラッカーを抱えたユーリがこちらに向かって小走りで寄ってくるところだった。

「ユーリ、どうしたのそれ……?」

「先輩達がくれたんだ、生き残った記念のプレゼントだって」

そういうとベレーナの横に腰を下ろすユーリ。

「ねぇ、ベレーナ。手、大丈夫?」

 心配そうに眉を顰めるユーリにベレーナが頷く。

「うん。大した怪我じゃなかったし……って、私の事は曹長って呼べっていつも……」

「そっか、それじゃあ良かった。心配したんだよ、ベレーナ」

「えっ……そ、そう……ありがとう、ユーリ」

 屈託のないユーリの笑顔にベレーナが言葉を飲み込む。

「はい、ベレーナ。シノも。おすそ分けだよ」

そういってユーリが机の上に乗せたビスケットの包みを一つづつ二人の前に差し出す。

「ユーリが貰って来たんでしょ?いいの?」

 信乃が尋ねる。

「うん。シノのお蔭で助かったんだから遠慮しないで!!」

「ちょ、ちょっとちょっと、ユーリ」

 慌てた様にベレーナが口を挟む。

「もう、ちゃんとベレーナにもあげるから、それとももう一つ欲しいの?」

「あ、ありがと……じゃなくて、そうじゃなくてっ!!名前名前!!」

 ベレーナが慌てた顔でユーリと信乃を交互に見つめる。

「萩谷さんは准尉さんなんですよ、呼び捨てなんてそんな……」

「えー?だって、シノは呼び捨てにしていいって」

「うん、何ならレシュケ曹長もシノって呼んでくれてもいいですよ」

 う、その言葉にベレーナが二人の顔を交互に見つめる。

「う、でも……ハンネ少尉に聞かないと……」

「ユーリ、何を騒いでいるの?」

 背後から人数分の飲み物を乗せたトレーを手に戻ってきたハンネが声を掛ける。

「あ、少尉!!少尉にもクッキーあげる。今日のお礼です!!」

「あら、ありがとう、ユーリ。シノ、隣良いかしら」

「聞いてください少尉、ユーリってばまた上官を呼び捨てに……少尉?」

 聞いてはいけないものを聞いたような顔でベレーナがハンネを見つめる。

「どうぞ、ハンネ」

「……准尉?今何て?」

 ぽかん、と、一人取り残されたような顔をしているベレーナ。

「はい、シノとユーリはココアね。砂糖も置いておくわ」

「ありがとうございます」

「わーい、ココア大好きー!!」

「……」

 三人の顔を見比べるベレーナ。

「ベレーナはコーヒーで良かったのよね。ミルクは必要だったかしら?私はいらないけど」

「こ、このままでいいです……じゃなくて……」

 カップに口を付け、思わず『苦!?』と叫ぶベレーナ。

「……砂糖、いる?」

 どぱどぱと自分のカップに砂糖を投入していたユーリがその言葉にそっと砂糖の入ったポットを差し出す。

「もらいます……もらうけど……」

「だからレシュケ曹長も名前で呼べばいいのに」

「何で?私のいない間に何があったんですか!?」

 置いてけぼりになった子供のようなベレーナの言葉に三人が首を傾げた。

 

「……帰りの空でそんな事が……」

 ユーリに事の次第を説明されてベレーナがため息をつく。

「今度シノにビームをしゅばってやる奴教えてもらうんだ!!」

 そういってユーリがシールドを張る仕草を見せる。

「私も怪我さえしなければ……はぁ……」

 恨めしそうに包帯で固定された手を見つめるベレーナ。

「そのハートのワッペン、可愛いですね」

「これの事かしら?」

 信乃はココアを飲みながら、隣のハンネの腕に刺繍された緑色のハートマークへ目を向ける。コーヒーカップを置いて、信乃が見やすいように軍服の袖を引っ張ってハンネが口を開く。

「これはJG54の部隊章、『グリュンヘルツ』よ」

「え?部隊章なんですか?」

 いろいろな部隊章を信乃も見たことがあるが、どれも皆戦いをイメージさせるような、勇ましい意匠が多い。シンプルな緑のハートマークは、ウィッチ隊の部隊章としては珍しく思えた。

「これは私たちの誇り。この部隊章(グリュンヘルツ)に憧れてJG54への配属を希望する子も少なくないわ」

「ベレーナもそうなの?」

「う、うん。確かに、憧れではありましたけど……」

 ウィッチといっても年頃の少女である。精鋭部隊の証であるグリュンヘルツに憧れるカールスラントのウィッチは少なくない。訓練学校で優秀な成績を収めても、JG54への配属は決して簡単な道のりではない。この部隊章を身に着けられるという事は選ばれた者の証でもあるのだ。

「でも、グリュンヘルツを身に着けることが目標じゃなくて。それに見合うだけの実力を身につけなければ、意味が無いです。だから、今日みたいな戦い方じゃ……」

 そっとベレーナが軍服に刺繍されたグリュンヘルツを撫でる。

 成程、と信乃が内心頷く。だからこそ、この子はJG54に配属されたのだろうと。

「そうだ!!シノもJG54に来ればいいんだ。そうすればシノもこれ、つけられるよ?」

 良い事を思いついたとばかりに、ユーリが身を乗り出す。

「それは……また斬新な発想だね。ユーリ」

 信乃が苦笑を浮かべる。

「なんならボクの奴をあげてもいいから」

 こいつは何でここにいるんだろうか。可愛いから?

「ね、ベレーナ。ベレーナもシノがいた方がいいよね?」

 はぁ、とあくまでお気楽なユーリにベレーナが頭を押さえる。

「ユーリ。シノさ……萩谷准尉は扶桑のウィッチなの、解る?」

「うん。扶桑のウィッチ、凄いよね。サムライ!!ニンジャ!!リバウ!!シノ!!」

「そうね、解るわよね。で、私達……JG54はカールスラントの部隊よ?」

「あ。そっか」

 ユーリが眉を顰める。

「解った?」

「うん、だったらシノがカールスラントの人になればいいんだよ!!」

「解ってない!!何でこれで解決みたいないい笑顔してるの!?馬鹿なの!?」

 ユーリの言葉にベレーナが怒鳴る。

「そんなことしたら国際問題よ!!解る?他所の国のエースを国籍ごと引き抜くとか、怒られるとかそういう次元じゃないわ!!」

「えー?」

「えー、じゃないのっ!!」

 何となく三人の性格がわかってきた所で、信乃が残ったココアを飲み干す。

 ふと、時計に目を向けると、時間は7時近くになっていた。

「そろそろ夕食ですね。食堂に移動しましょう」

 ハンネもその事に気が付いたのか、冷めたコーヒーを飲み干して皆に口を開く。ベレーナも残ったコーヒーを飲み、ユーリは机の上のお菓子を慌ててしまいはじめた。

その時。

「傾注」

 慇懃な声が部屋に響く。信乃たちも、そして、思い思いに談笑していた他のウィッチ達も、その視線の先、談話室の入り口に立っていたウィッチを見て、慌ててその場で立ちあがる。

 

 アンジェラ・ヴォルフ中尉と、その隣に立つ徹子。そして、最後に入ってきたのは。

 

「皆さん、揃ってますか?夕食前で申し訳ないけど、伝えなくてはいけないことがあります」

 信乃の見たことが無い少女がそういって皆に声を掛ける。ハンネたちカールスラントのウィッチが皆その言葉に緊張したように背筋を伸ばす。

「点呼」

「第三中隊、揃っています」

 ハンネが素早く返事を返す。

 ハンナはその言葉に頷き、ちらり、と目で合図を送ると、アンジェラが手早く手にした地図を談話室の壁にかけ始める。

「誰なんですか?」

「ハンナ・フィリーネ大尉、この基地の司令代理です」

 こそり、と尋ねる信乃と、矢張り小声で答えるベレーナ。

 周りの様子を見る。一応この基地は1中隊が駐屯しているという事らしいが、数が少ない。

 隊長のハンナは別として、アンジェラ、ハンネ、ベレーナ、ユーリ。後は3,4人と言ったところだ。カールスラントの中隊は普通3つの四人小隊(シュヴァルム)で編成されているはずだ。 

「……部隊の再編中で、中隊の人員がそろっていないんです」

 ベレーナの言葉に信乃が頷く。

 ふと、徹子を見ると、信乃の方へ目を向けており、信乃の視線が向いたのに気が付くと、小さく手招きをする。遊びではなく真面目な仕事中の徹子に、信乃は直ぐに従い小走りで徹子の脇に立つ。

 ちらり、と横目で隣の徹子を見るが、前を向いたまま黙っているので、信乃もそれに習う。

 ハンナ、ウォルフ、徹子、そして信乃が横一列に並び、ハンネ達他のウィッチと向き直るような形になる。

 最初に口を開いたのは、地図をかけ終えたアンジェラだった。

「今から話すのは先程第3中隊がネウロイと会敵した件についてだ」

 そう言って手にした指揮棒を伸ばし、事の次第が説明されていく。

 それは先程ハンナが隊長室で話した事と概ね同じ内容だが、506JFWの部隊の問題点は、部隊全体に他の部隊の悪評をいたずらに流さないという配慮で、発足したばかりで連携が取れていない、と軽く流された。

「説明は以上だ」

 指揮棒をしまいながら、アンジェラがハンナに目配せをする。こくり、と頷き、ハンナが前に踏み出す。

「中尉の説明通りです。本時刻をもって我々リヨン基地に駐屯する私達JG54第1飛行隊第3中隊は506JFWとは別に、ガリア南部へ侵攻するネウロイの迎撃を行う事とします。勿論、訓練中の尉官以下のウィッチ達もこれに加わることになります。これから先は訓練ではありません、実戦です。総員、一層気を引き締めて任務にあたるように」

 つい先般も、オラーシャ方面に新たなネウロイの巣が現れた。欧州にいる以上、いつどこが最前線になるかは分からないというのが常識である。

 若手ウィッチ達は自分達も飛ぶことになるとわかり、皆一様に緊張した面持ちを浮かべているが、この欧州の状況を鑑みれば、決しておどろくほどの事ではない。

 むしろ、近くにネウロイの巣が出現したわけでもない分、まだマシな報告だ。

 だが、次の言葉に信乃は違った意味で驚くことになる。

「更に、506JFWの体制が整うまで、そして、オラーシャからの増援が届くまでの間、扶桑皇国海軍遣欧艦隊所属の若本徹子中尉と、萩谷信乃准尉に部隊に参加してもらう事になります」

 ハンナの言葉に信乃は内心『え?』と呟いた。隣に立つ徹子に顔を向けたい衝動を抑えながら、驚いたようにこちらを見ているハンネ達を見返す。特にユーリは目と口をぽかんと開いて自分を見ている。

 いや、そんな顔されても。あたしもびっくりなんだけど。

「今後の部隊編成は夕食後、勤務表を見る様に。以上、解散です」

 そういうとハンナ達は地図を片付けて部屋を出ていく。途中ぽつりと徹子が小声で『詳しくは後だ』と呟き、信乃も小さく首肯する。

 

 談話室の扉が閉まる。

 

 と、同時に、それまでじっとしていたユーリが鉄砲玉のように信乃の元へ飛び出してきた。

「何で黙ってたんだよぉっ!!」

「知らないよっ!!あたしも今聞いたんだから!!」

 ユーリを抱き留めながら信乃が叫び返す。というか、年齢的にはかなり離れているのだが、体格的にはちょっと信乃が大きいくらいだ。勢いに任せたタックルは体に堪える。

「でも。本当なんですか、今の話……?」

 驚いた、という顔をしているハンネの言葉に信乃も眉を顰める。

「ネウロイの件は良く解りませんが、あたしの件については……まあ、そうなんでしょうね」

 似たようなことは今まで無くはないですし……と呟く。

「随分と簡単に決まるんですね。大事な事のように思えるんですが……」

 ベレーナの言葉に信乃が肩をすくめる。

遣欧艦隊の機動部隊(あたしたち)はこういう任務が多いですから」

 欧州各地のウィッチ隊に欠員が出た場合や戦局が激しさを増し、ウィッチの増員が必要になった場合などに扶桑の部隊へ応援要請が入ると、真っ先に派遣されるのが遣欧艦隊の機動部隊である。

 徹子や信乃、それに、リバウの魔王として名を馳せる西沢義子などもそういった各地を転戦するウィッチの一人だ。急な編成には慣れている。

「じゃあ、萩谷准尉も一緒に戦ってくれるんですね」

 ベレーナの言葉に信乃が頷く。

「あ、じゃあ、これつけてもいいんじゃないの?」

 そういってユーリが自分の腕に刺繍された緑のハート(グリュンヘルツ)を指さす。

「……後で若に聞いてみます」

 魅力的な提案に、だが。わずかに理性が上回る。

 いろんな部隊と共に行動してきたけど、部隊章まで一緒にしたことは無い。籍を移すわけではないので無理だとは思うが、記念に一つくらいもらえるかもしれない。

「……それよりも、同じ部隊になったって事は、今までみたいに遠慮は無用という事ですよね」

 背筋を伸ばし真顔になった信乃が口を開く。

 先程とあまり変わらない、だが、どこか重みを纏ったようなその言葉、声色に思わずユーリ達がびくり、と身を竦ませる。

 信乃もまた、欧州への派遣部隊に選ばれ、何年も転戦を繰り返している歴戦のウィッチである。

 つい最近部隊に配属されたひよっ子のような自分達からすれば、実績も実力も雲の上の様な存在だという事は、先程の戦闘中、肌で感じ取れた。

 客人でなく同じ部隊の隊員になったという事は、今までと接し方が変わるのかもしれない。

 それでなくても特務士官は下士官にとっても、新人少尉にとっても恐ろしい存在だ。下士官はしごかれ、新人少尉は経験の少なさをいびられたりと、そういった話は枚挙に厭わない。

「シノ……じゃなくて萩谷准尉……ええと……」

 不安そうにユーリが信乃を見返す。

「お、お手柔らかにお願いします……」

 ベレーナも震える声で呟く。

「取りあえず!!」

 信乃が声を張り上げる。びくり、と身を竦める二人に、信乃が口を開いた。

 

「まずは食事にしましょう。同じ部隊なら、あたしから言い出しても構いませんよね」

 

 次の瞬間、信乃のお腹がぐぅ、と音を立てた。

 

 

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