チリチリするの   作:鳩屋

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6.模擬戦

 明朝、0600

 

 黎明を待ち、ハンナ・フィリーネ大尉、若本徹子中尉、アンジェラ・ヴォルフ中尉、萩谷信乃准尉の四名は編隊を組み、朝日の元空へと飛び立った。

 まずは部隊を組むうえで中核となるであろう、扶桑から来たウィッチ達の実力と連携の確認を重視するため、哨戒も兼ねてこの四人で空に上がる事となったのだ。

「ふぁ……」

「萩谷二番、真面目にやれ」

「あたしは真面目です。でも、欠伸は生理現象です」

 いきなりナイトシフトに組み込まれ、ほぼ徹夜状態だった信乃が徹子の言葉に答える。

 現状、リヨン基地では夜間哨戒は専らレーダーを用いた哨戒班が行い、ネウロイを発見次第ナイトウィッチがいつでもスクランブルを取れる体制を敷くことにしていた。

 昨夜のシフトは信乃ともう一人、訓練を終えて着任したばかりのナイトウィッチの2名。

 というより、この二人しか夜間飛行の経験が無い、というのが正しい。

 アルマ・ブレヴィスと名乗ったナイトウィッチは元々一般的な航空ウィッチとしてJG54に加入したが、その後ナイトウィッチの適性があることがわかり、かの高名なレント中佐の下で夜間飛行の訓練を詰み、つい先日部隊に戻ってきたらしい。

 ナイトウィッチはおとなしいという印象を覆す明るくフレンドリーな挨拶と共に搭乗員室に飛び込んできたアルマに信乃が尋ねた時の事だ。

「ブレヴィス中尉、失礼ですが実戦の経験は?」

「昼間はそれなりに飛んできたけど、ナイトウィッチとしての実戦は今回が初めてだよ。いやあ、今からドキドキするね」

 心配に思った信乃が問うと、アルマはこれ以上ないくらいの良い笑顔でこれ以上なく不安な返事をかえしてくるからたまらない。ドキドキするのはこっちの方だ。

 その後信乃はカードゲームでの実力は既にエース級だったアルマとの夜間戦闘で夜間当直者に与えられる加食のブルーベリーの砂糖漬けとミルクを巻き上げられる事になり、交代交代に仮眠を取りながらスクランブルがない事をうとうとしながら一晩中祈る羽目になった。

 どうやら扶桑の神様は多少ガリアにも融通が利くらしく、昨晩ネウロイはこの近辺には現れなかったのがせめてもの救いだ。

「萩谷准尉、夜間飛行の経験はどのくらいあるんですか?」

「新月の夜でも地面と空を間違わない程度には場数を踏みました」

「そうですか……ナイトウィッチの件は早急に対処しないといけませんね」

 ハンナがため息をつく。

「『姫様』をしばらく借りれないのか?カールスラント空軍を通せば……」

「そうしたいところだけど、JFWの戦闘隊長ともなれば、そう簡単にはいかないわね」

 アンジェラの言葉にハンナが肩をすくめる。直接本人に言えば義に厚いヴィトゲンシュタインの事なので飛んでくる可能性もあるが、一部隊の隊長代理が国家間同士のもめごとの種を作る訳にはいかない。ついでにあの姫様はハンナでは手に余る。気が付けば部隊ごと姫様の傘下に加え兼ねられない。

「アーヘンかサン・トロンに駐留する部隊を頼れないのか?あそこにはナイトウィッチもいるはずだが」

「そう思ってミーナ中佐に連絡をしたのですが、余り芳しくないですね。向うはここ以上の激戦地ですし」

「扶桑の遣欧艦隊にはいないのか?」

 アンジェラの問いに徹子が肩をすくめる。

「ハギと同レベルのヤツがせいぜいだな。陸さんには優秀なのが何人かいるはずだが、頼み込んでも聞いてくれるような連中じゃないぜ」

「いざとなったら速成レベルでもいいのでお願いしたいですね。萩谷准尉が倒れる前に……」

「若が土下座すればいいんじゃないですかね」

「オレにそんな事をしろと?」

「可愛い部下の為にも是非お願いします」

「本音は」

「陸さんに土下座してる若とか、愉快にもほどがありますね」

「……良い部下を持って幸せだぜ」

 若本が肩をすくめる。

「……周囲の状況はどうですか?」

 ハンナが口を開く。

「三時方向周辺は問題ない」

「右舷、怪しい影は見えないな」

「後ろも大丈夫です」

 三者三様の返事が返ってくる。それなら大丈夫、と、先頭を飛んでいたハンナが速度を落とす。

「じゃあ、そろそろ始めましょうか。打ち合わせ通り、私と萩谷准尉、ヴォルフ中尉と若本中尉でペアを組みます」

 模擬戦のルールはよくあるものだ。一定時間、互いに距離を取るため反対方向へと飛び、一定時間が過ぎた瞬間から戦闘開始となる。

「萩谷准尉はドッグファイトが得意なのでしたね」

「はい」

「無理に食いつかず、私に続いて飛ぶことは出来ますか?」

「ヒットアンドアウェイですか?可能です」

 ハンナの問いに信乃が答える。

「アンジェラが長機につくのか?」

 一方で徹子もアンジェラに尋ねていた。

「任務はJG54が中心になるからな。我々のやり方も覚えてもらいたい。だが、状況に応じて長機を交代しても構わん」

「了解だ。他人のケツにつくのは久々だからな、うまくいかなくても文句言うなよ」

「初めから期待はしないさ……いくぞ!!」

 その言葉に4人の編隊が2つづのロッテに分かれ、互いに真逆の方向に進路を向けていく。

「萩谷准尉、後10秒で反転します。後は私についてきてください」

「了解。フィリーネ大尉、戦闘中はあたしのことはハギでいいです」

「解りました。ハギさん、後5秒よ」

 カウントが開始される。打ち合わせ通り、30秒真逆の方向に進路を向けた後、模擬戦が開始される。

「3,2,1……行きます!!」

 ハンナの声と共にメッサーシャルフが鋭く反転。一気に高度を上げていく。単純に高度を取るのではなく、相手をかく乱する為、敢えて不規則な動きを交える。並の技量のウィッチなら置いて行かれそうなその動きに信乃もいち早く反応し、すぐ脇にぴたりとつけている。

 良い動きですね。

 信乃の様子を見ながらハンナが内心呟く。

 機材で言えば扶桑の零戦は旋回能力以外の面ではBf109に劣るとされるが、その旋回性能の扱い次第で多少のアドバンテージは覆せる。信乃もきちんとその辺りの特性を理解し、小回りを生かしてメッサーシャルフの動きについてきている。十分以上、期待通りの動きだ。

「ハギさん、このままついてきてください」

「了解です」

 旋回して徹子達の方向へと向かったハンナ達だが、どうやら徹子達はそのまま上昇して優位高度を取る事を選んだらしい。こちらに背を向けて上昇を続けるアンジェラと徹子の背中がハンナの目に映る。

「フィリーネ大尉、若は零戦のセッティングを上昇性能に振っています。あたしの機材だとこれ以上の高度では取り回しに不利が生じると具申します」

 零戦の格闘性能を引き出すために中高度での旋回性能に重きを置いたチューニングを施している信乃に対し、高高度からの急降下攻撃に重きを置いている徹子のセッティングではこれ以上の上昇はこちらが不利になる。

「わかりました。ハギさん、以後戦闘中はハンナと呼んでください」

「了解、ハンナ」

「……ハギさん、この模擬戦は勝つことが目的じゃありません。私のいう事を聞いてくれますか?」

「了解……え?」

 その言葉に信乃が一瞬首を傾げた。

 

 一方、優位高度を取ることに成功したアンジェラ達だが、すぐさまズームアンドダイブに移行することは無かった。

「やはり乗ってこないな。ワカの言った通りだ」

 途中まで背後に食らいついて上昇してきたハンナと信乃が其の場で旋回し、こちらに背を向ける形となったのを見て、アンジェラが呟く。

「自分を餌にするのはあいつの十八番だからな」

 零戦の得意高度に引き付けて、味方の援護を待つ。中高度での粘り強さで言えば信乃は扶桑でも指折りともいえる実力を持つドッグファイターだ。

 長年ロッテを組んできた徹子なら信乃の動きは手に取るようにわかる。

 零戦の優位高度では信乃を抜くことは困難などころか、むしろ向うのペースに引きずり込まれ、手痛い反撃を食らう事になる。

「どうする、ワカ」

「優位高度はこっちが取ってるのは間違いない。ハンナを引き付けることは出来るか?」

「空戦技術はハンナが上だ。長くはもたないぞ」

「ハギを落とすまで持たせてくれればいい。二対一なら……何?」

 次の瞬間、徹子が眉を顰める。

「何を考えてるんだ、ハンナ」

 アンジェラも同様だった。

 こちらに背を向けたと思ったハンナと信乃が、事もあろうに目の前で再び上昇を試みていたからだ。

「これは……罠か?」

 無謀ともとれるハンナ達の行動に一瞬アンジェラの動きに迷いが生じる。

「アンジェラ、放っておくと向うが優位高度を取る!!」

 その言葉にアンジェラと徹子が同時に動く。

「追うぞ、ワカ!!」

 即座にアンジェラも判断する。例え策があったとしても、むざむざ優位高度を取らせるわけにはいかない。

 そして、その判断は結果として正しかった。

「ハンナ、後ろにつかれます!!」

「ついてきて、ハギさん」

 優位高度のアドバンテージ以上に向うにあるのは速度の利。

 降下を生かして重力の恩恵を受けたアンジェラと徹子のユニットの速度は重力に抗うハンナと信乃のそれとは対照的だ。

 もう少し向うの判断が遅ければ遅い程、こちらの不利は覆せるのだが相手は歴戦のエース。隙を見逃すこともなく有利な状況と見れば迷うことなく食いついてくる。

「どうしたハンナ、お前らしくもない」

 アンジェラが呟き、射線をハンナと信乃に向ける。弾き金が引かれる直前、ハンナが身を翻し射線から身を逸らし、寸分たがわぬ動きで信乃がそれに従う。

「何か企んでいるのか……?」

 二人の動きを見越した徹子がその先に模擬弾を撃ち込むがハンナはさらにそれを見越したようにさらに減速、寸でで攻撃を避ける。

「危なっ……ふふ、まだついてこれていますね、ハギさん」

 徐々に追い詰められている状況ながら、ハンナは満足そうに笑みを浮かべる。

「ハンナ、これでいいんですか?」

「ええ、これでいいんですよハギさん」

 信乃の言葉にハンナが答える。

「なので、落とされるまで、もう少し頑張ってください」

 

 

「こちらアンジェラ。ハンナの撃墜を確認」

「どういう事だ?」

 アンジェラと徹子が拍子抜けしたように口を開く。

「やられましたね、萩谷准尉」

「うぅ、べとべとします……」

 頭に付着したペイント弾の塗料を拭いながら満足そうに微笑むハンナと、服に付着した塗料を拭っている信乃。

 結果として、特にハンナに作戦があった訳ではなかった。徐々に追い込まれ、まずは信乃が、そしてハンナがペイント弾の餌食となり、そして今に至る。

「ハンナ、どういうことだ?」

 アンジェラが尋ねる。もし実戦なら、自殺行為ともとれる行動に、アンジェラが戸惑うのも無理はない。

「アンジェラ、流石ですね。即席で組んだロッテでもきちんと任務をこなせていました。無理に残ってもらって本当に良かったです」

「ハギ、真面目にやれ」

「あたしはいつでも真面目です」

 徹子の言葉に憮然と答える信乃。終始一貫して不利な状況で逃げ回っていただけの模擬戦に何の意味があるのか。

 信乃ですら、今の模擬戦の意味を今一つ理解できたわけではない。

「皆さん。今の戦い方に疑問を覚えたとは思いますが、一応説明させていただきます」

 ハンナが口を開く。

「扶桑のお二人と共同作戦を実施するにあたって、まず確認したかったのが、若本中尉の協調性と、萩谷准尉の柔軟性です。お二人にとっては恐らく想定外の動きだったとはおもいますが、若本中尉も突出せずアンジェラと連携を組んでくれました。萩谷准尉も私の指示に従って普段とは違う挙動でもきちんとついてきてくれました。私は、お二人にそれが出来るという事を確認しておきたかったんです」

「何だ?オレ達は試されてたって訳か」

「その事は謝罪します。ですが、結果は予想以上に素晴らしい物でした」

 徹子の呆れたような言葉にハンナは口元に小さな笑みを浮かべる。

「では、次は私とヴォルフ中尉、若本中尉と萩谷准尉でもう一戦。今度は『いつものお二人の実力』を見せていただけませんか?」

 ハンナの意味ありげな物言いに、察したように徹子が笑みを浮かべる。

「……だとよ、ハギ。いつも通りだそうだ」

「了解です。いつも通りですね」

 徹子の言葉に信乃が頷く。

「それでは、ルールは先程と同じです。行きますよ」

 模擬銃を構え直し、編隊をくみなおす。疲れを見せる素振りもなく、4人のウィッチが再度宙に舞う。

「アンジェラ、行きますよ」

「了解」

 先程とは異なり、一気に高度を上げる。メッサーシャルフの高い上昇性能を生かして素早く高度を取り、そのまま空中で旋回。優位高度から一気に急降下しての一撃を仕掛ける、優位高度からの一撃離脱。

 ルフトヴァッフェの十八番ともいえる戦術だ。

「ハンナ。若本中尉のストライカーは急上昇でも性能が落ちないようチューンされている。予想以上に上に居る可能性があるぞ」

「ええ、萩谷准尉もそう言っていましたが……」

 下方を中心に目を凝らしながら、ハンナが頷く。

「アンジェラ、若本中尉の限界高度は?」

「それは普通の扶桑のユニットと変わらないはずだ」

 零式は他国のユニットに比べ防御力や高高度での取り回しに難がある反面、中高度以下での旋回性能をはじめとする運動性能はその追随を許さない。

「なら、下に引っ張り込まれないようにしないと……っ!?」

 ぞくり、と背が粟立つ。長年のエースとしての勘が警告する。

有り得ない。だが、確かに『狙われている』と。

「ハンナ、上だ!!」

「まさか!?」

 言いながらも回避行動。ちらり、と太陽の方へと目を向ける。黒い影が二つ。猛然とこちらに向けて急降下してくる。

「くっ!?」

 咄嗟にシールドを展開。ほぼ同時に着弾。

「ちっ。ハンナ、すまん。やられた」

 舌打ちが聞こえる。すぐ脇を零戦が通過していく。

「アンジェラ?」

「被弾した。気を付けろ、ハンナ」

 僚機に目を向ける間もなく、第二射。次は下からだ。だが。

「食いつきすぎですっ!!」

 急降下の勢いをそぐその一撃は余計だ。シールドを張りながらその場で体をくるりと捻り、視界にとらえた信乃に向け、ハンナがズームアンドダイブを仕掛ける。

「っ!!」

 模擬銃を構えていた信乃がハンナの攻撃を察知して旋回行動に移る。だが、一度速度を殺した信乃のストライカーは速度に乗ったメッサーシャルフにたちまち背後を捉えられる。

「遅い!!」

 ハンナが引き金を引く。放たれたペイント弾が信乃の進路の先に寸分たがわず吸い込まれる。しかし。

「……一機足りない!?」

『その事』に気が付いたハンナが即座に急上昇。降下の勢いをそのまま生かし、再び高度を取る。次の瞬間。すぐ脇をペイント弾がすり抜ける。徹子の放った弾だ。

「流石に冷静だな」

 再度急降下を仕掛けてきた徹子が上昇しながら呟く。

「ハギ、やられたか?」

「何とか防ぎました」

 脚から張ったシールドでハンナの攻撃を防いだ信乃が返事を返す。

「次はもっと食いつかせろ」

「了解」

「させません!」

 一度相手を捉えれば、ハンナのメッサーシャルフの高高度性能の方が有利だ。中高度で待ち受ける信乃への過度な追撃は避け、メッサーシャルフの上昇性能を生かし再度優位高度を取る。

 今度は二機、徹子と信乃を眼下にしたハンナが、果敢にも上昇しようとする徹子の零戦に食らい付き、その斜め後ろに回り込んで向けてペイント弾を放つ。

 だが、上昇性能を強化した徹子の零戦はそれを寸で交わし、旋回。ぴたりとハンナの背に機体を付ける。

 ハンナも即座に旋回し上昇しようとするが、それを阻止するように信乃のペイント弾が下方からハンナを狙う。上昇を諦め速度を稼ぐため降下しながらの旋回行動に移ろうとするハンナの背後に今度は信乃が食らいつく。

「っ!!」

 まずい、とハンナの本能が警告を放つ。降下速度を利用した速度の優位性がこのままでは薄れていく。逆に零式の旋回性能はこちらよりも上だ。このまま同高度で二機を相手にする訳にはいかない。

 一か八か。再度上昇を試みるハンナ。しかし、並のウィッチならともかく、相手が悪かった。

「これで詰みだ。大尉」

 その動きを読み切り、正面上空から急降下してくる徹子。

 前と後ろ。上と下。同時に放たれたペイント弾がハンナに襲い掛かった。

 

 

「まさか私が二連敗するなんて……ノヴィとやって以来の屈辱よ……」

 顔にお尻に背中にお腹。これでもかというばかりにペイント弾をぶつけられて全身を黄色く染めたハンナが呻くように呟く。

「あの時アンジェラがあっさり落とされなければ……」

「すまん」

 わざとらしく恨めしい声を上げるハンナに生真面目なアンジェラが肩を落とす。

「大尉、そこまで本気じゃなかっただろ。部下いびりは感心しないな」

 徹子が肩をすくめる。

「私は手を抜いたりはしません。あの時ハギさんを落とせていれば状況は変わったんですけど……」

「ですね。胆が冷えました」

 急降下から上昇攻撃を仕掛けた序盤戦の事だろう。ハンナの分析に信乃も頷く。

 優位高度を取られてたとは言え、あっさり背後に付かれる経験は信乃も多くない。

「……あそこで隙を見せたのは作戦ですか?」

「いえ、割と本気で落とすつもりでした」

 急降下後の下からの打ち上げ攻撃は信乃の得意技だ。隙を見せたつもりはないどころか、絶対の自信を持って放った一撃のつもりだった。

 それをあっさりと防がれたのだ。自分の実力がまだまだトップエースにおよばないという事を痛感させられ、少し気が滅入る。

「メルスの運動性能とハンナの実力を甘くみてました」

 信乃がその後のズームアンドダイブを防ぎきれたのはほぼ偶然、運が良かったとしか言えない。回避を諦めシールドでの防御に切り替える決断が少しでも遅れていれば、あの時落とされたのは信乃だった。

「それはこちらも同じですよ。あのタイミングで私の攻撃をかわしたウィッチは数えるほどしかいません。今は503にいるノヴィとキッテル、後は、ユーリですね」

「ユ……?凄いですねあの子?」

 思わぬところで出てきた名前に思わず信乃が目を丸くする。

「偶然だと思いたいですが、偶然じゃないと信じたいですね」

 ハンナも信乃の言葉に苦笑を浮かべる。偶然でなければ年齢も相まってちょっとした逸材だ。

「まあ、こっちからすれば最初で終わらせるつもりだったんだがな」

 零戦でメッサーシャルフから優位高度を取る。もし露見していれば動きの取れない高高度であっさり落とされる可能性のある危険な賭けだ。幸いにして今回は成功したが、警戒が厳しくなる二度目からは難しい。

「次は勝てるか解らんな」

「ええ、次は負けません……と言いたいところですが……」

 そういって懐中時計を取り出すハンナ。

「そろそろ戻らないと。メルスの燃料はそちらほど多くは無いので」

 ネウロイと遭遇する事態も想定すれば燃料に余裕があるうちに戻る必要がある。ハンナの雪辱戦は今後に持ち越しとなった。

「お蔭で色々解りました。今後の編成の参考になりますので、また機会がありましたらお願いします」

「本音は?」

「悔しいので次こそ勝ちます」

 ハンナがそういって獰猛さを滲ませた笑みを浮かべる。負けてそれで良しとするなど、航空ウィッチの名がすたる。

 その言葉に徹子も不敵な笑みを返した。

「返り討ちにしてやるぜ」

 

 

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