俺、自分の能力判らないですけど、どうしたら良いですか?   作:一一 一

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第二十話〜そのころ〜

 ー二週間前ー

 

「いいか、お前たち。まずは体内に流れる、色素の脈……"色脈"を感じとれッ!」

 

 そう言って教官は腕を組み、ドヤ顔で仁王立ちをする。

 

「いや……いきなりやれって言われても……」

 

 何の説明も無しにやってみろって、無理だからね? 普通無理だからね?

 

「あの、せめて何かヒントか、お手本を見せてもらえませんか?」

 

 ──澪の言葉に、クラスの全生徒がうんうんと頷いています。

 

「むぅ……それもそうだな……わかった。一度私がやってみるからよく見ておけ」

 

 ──そう言うと、教官は目を瞑り、肩の力を抜いていきます。すると、教官の色素が揺れたのを生徒達は感じ取ります。

 

 

「──ふぅ、こんな感じだ。さ、やってみろ」

 

 

 

「「……いや、わからねぇよ!?」」

 

 

 ──この時、クラスの心が一つになりました。

 

 

 "やってみろ"って、目を瞑ってただけじゃん。どうしろってんだよ。もっとなんか無いのか?

 

「すんまへん。教官、何かコツみたいなのはあらへんのですか?」

 

 お、ナイスだ宗。良くぞ言ってくれた。

 そう、ヒントだ。ヒントが欲しい。目を瞑りました……はい、やってみて、じゃあ判らないんだよ。

 

「ん? 仕方ないな……いいか? まずは、こう……グワァァ!ってやるだろ? それから……バーン! ってやるだろ? そしたら、後はドドーンッ! てやれば出来る」 (ドヤッ)

 

「「………………」」 (ポカーン)

 

 ──思わず開いた口が塞がらない生徒達。ですが仕方ありません。私も分からなかったですし。

 

「参考にならねぇ……」

 

「余計に分からなくなりました……」

 

 俺と澪が目頭を抑え、

 

「うぅーん……難しぃよぉ……」

 

 皐月が唸り、

 

「なぁ、雅也は今の説明分かったか?」

 

 宗は口調が素に戻り、

 

「あぁ、分かったぞ。特に、グワァァ! と、バーン! が分かりやすかったな」

 

「ん、分かりやすい」

 

 雅也と麗奈は……理解してるっ!?

 

「え!? お前らあの説明分かったの?」

 

「ん? あぁ、分かったぞ」

 

「ん、簡単」

 

 二人が"え? 当たり前じゃん"みたいな顔をして、怪訝そうに言う。

 

「……えぇ……まじ?」

 

「あぁ、俺なりに要約するとだな。

 "開花の儀"の時のように、自分中で、何かが動く感覚を掴み、その流れに追従する感じだな」

 

「ん、そうそう」

 

 ──雅也が説明し、麗奈が同調するように頷きます。

 

「いや、お前の説明の方が百倍分かりやすいわ」

 

「えぇ、とても分かりやすかったです」

 

「せやな。教官の説明は、説明とは言わないやろ」

 

「んんー? 皐月まだ分かんないよぉ?」

 

 皐月はまだ判らないようだ。皐月ってどっちかって言うと、感覚タイプだから今の説明は逆に難しかったのかもしれない。

 

「皐月、"開花の儀"は覚えてますか?」

 

「うん、覚えてるよ?」

 

「その時の、感覚は覚えてますか?」

 

「うーん……あっ! あのくすぐったい感じのこと?」

 

「多文そうです。その感覚をもう一回思い度してみて下さい。そしたら、その流れを追いかけてみてください」

 

「わかった! ……………ん! 出来た!」

 

 早いな。皐月って以外と天才肌なのか?

 

「ありがとー! なんかね? ズズズー! ってなってね? グググってなって……びゅーん! ってなった!」

 

「……さいですか……」

 

 やっぱ教官と同類じゃねぇか。なんだよ、"ズズズ"って。

 

「んー、"開花の儀"かぁ……あんま良い思い出ないんだよなぁ……」

 

 だって噛まれたりしたり、異彩の"()"が分かんなかったり、青山に絡まれたり……ホント良いことねぇな!!

 

「──あ、何か来た」

 

 ──どうやら、琥太郎は色素を感じ取れたようです。

 

 なんか不思議な感覚だ、言葉にし難いな……。

 で、なんだっけ? この流れを追いかけるんだっけ?

 うーん、流れを追いかけるって難しいな……なんか、無数に広がってる感じだし。

 

「……なんか、流れって言うよりは、身体中の血管を流れてる感じだな」

 

「そうなんですか? 私はそこまで細かくないですよ?」

 

「わいは骨に沿って流れてる感じやね」

 

「俺は心臓から広がっていく感じだな」

 

「身体の芯から広がっていく感じ」

 

 ──それぞれが、自身の感覚を話します。

 

「やっぱ人それぞれなんだろうな」

 

「そうですね。これも色彩魔術を行使する上で、何かに関係しているのでしょうか?」

 

「どうなんだろうな?……………教官!!」

 

 俺は大声で教官を呼ぶ。

 教官なら何か知ってるかもしれない。

 

「ん? 突然大声で人を呼んでどうした?」

 

「実は質問があるんです」

 

「何だ、言ってみろ」

 

「実は──」

 

 俺が教官に質問をしようとしたその時、

 

「人によって"色脈"の感じ方に違いがあるのですが、色彩魔術を行使する上で何か関係があるのでしょうか!」

 

 いきなり澪が割り込んできた。

 

「……人のセリフ取るの止めようや?」

 

「あっ……すみません……つい気になってしまって。気になることがあると止まらなくて……」

 

 あはは……と、恥ずかしそうにはにかみながら謝る澪。

 照れるんじゃないよ、まったく…………………………………非常に眼福です。

 

「まぁ、気にするな」

 

「すみません」

 

 

 

「……もういいか?」

 

「「あ、すみません」」

 

 ──息ぴったりで喋る二人を、危機感を持った眼差しを向けながら、一人の少女が頬を膨らませていました。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 ー麗奈saidー

 

「むむぅ……」

 

 思い出すのは、数週間前にあった色彩魔術の訓練中の出来事。

 あの時の琥太郎と澪の息はぴったりだったのです。

 これは由々しき事態なのです。新たなライバル登場なのです。

 澪のあの容姿と……む、胸は危険のです。"えまーじぇんしー"なのです。あれ? 使い方違ったかな? ま、いっか。

 そんな事より! 今重要なのは琥太郎に近づく女の子の影……!

 

 現状危険なのは二人。

 まずは、澪。

 澪は琥太郎と息ぴったりだし、美人だし、スタイル良いし……。

 次に、皐月。

 皐月は絶壁だけど小動物みたいな感じで、明るいし、可愛いし。

 

 二人は友達だけど、やっぱり恋愛となると違うと思うのです。

 そもそも、二人ともコミュニケーション能力が高い。これはかなり不利な状況なのですよ。私は、昔はそうでもなかったけど、今は人の前だと家族でも緊張して、ついつい無口になってしまう。それに、いまだに琥太郎達にもこの状態のにまま。これはマズイ、かなりマズイのです。治したいとは思うけど、中々難しいものがある。だから、他の所で魅力を上げるしかないのです。琥太郎に久しぶりに会えた入学試験。あの時は少々大胆過ぎた気もしますが、やはり積極性は必要だと思うのです。思い立ったが吉日! 行動あるのみです!

 

 まず顔です。だけど顔は簡単には変えることが出来ないので、せめてお肌のケアを大事にしよう。うん、そうしよう。

 次にスタイル。スタイルは琥太郎がロリコンで無いことを祈るとして、皐月を除外。次に澪。あの胸は協力です。破壊力抜群なのです。しかし、希望はある! それは、私のお母さん。お母さんの胸は澪など敵ではありません。それはもう、バインバインなのです。澪が丘なら、お母さんはマウンテンなのです。

 つまり! バインバインお母さんの血を受け継ぐ私もバインバインも一緒に受け継いでいる可能性が高い! 後はこの前呼んだ、『これで貴方も仲間入り! ~バストアップ体操~』の通りに体操をすれば……!

 

 ……ふっふっふっ、夢が広がります。これで、琥太郎もメロメロになること間違いなし。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 

 

「ふっふっふっ……」

 

 道のど真ん中で銀髪が煌めく少女が、二重面相のように表情をコロコロと変えたかと思えば、何かを企むような笑いをし始めましたわ。

 

「い、一体なんですの……」

 

 謎ですの。この何の遮蔽物の無い道の真ん中で、笑っているなんて……。一体何を考えているのかです?

 

「見たところ……同じ一年生のようですわね」

 

 普通、初参戦のランク戦において、一年生は上級生の実力を身を持って知ることを念頭に置いて行動しますわ。

 一部のお馬鹿さんを除いて、態々目立つような行動を取るのは愚の骨頂。それとも、余程自信があるのかしら?

 

「~♪~♪~♪~♪」

 

「ッ!?」

 

 鼻唄を歌いながら此方にスキップで近づいてきましたわ!

 ……もしや! 私の存在を見つけて、獲物を見つけたと思っているのかしら? だとしたら、なめられたものですわね。良いでしょう。受けて立ってやりますわ。

 

「お待ちなさい!」

 

「──っ!?」 (ビクンっ!!)

 

 まさか出てくるとは思わなかったようですわね。

 

「……私?」

 

「他に誰がいるのかしら?」

 

「何の用?」

 

 白々しいですわね。正確に私の位置を捉え、近づいてきた癖に。

 

「ふっ、分かっているのでしょう? 今更逃げるだなんて無粋なこと、仰らないでくださいまし?」

 

「ん、分かった。戦う」

 

「ふふっ、潔い人は好ましくてよ? 貴女の潔さに敬意を払って名乗るとしましょう。 一年生のスーリヤ・ヴァレンタインですわ」

 

「ん、桧並 麗奈」

 

「綺麗なお名前ですわね?」

 

「ありがと」

 

「あら? 桧並? はて、何処かで……」

 

 うんん……思い出せませんわ。

 

「どうしたの?」

 

「いえ、何でもありませんわ」

 

 今はそれどころでは無いですわね。

 

「じゃ、行くよ」

 

「ええ、いつでもよろしくてよ?」

 

 ヴァレンタイン家の名に懸けて。

 

 ……この勝負、勝たせていただきますわッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「きゅううう……」 (バタリ)

 

 

 

 

 

 

 

 そんな声をあげて、倒れるヴァレンタインさん。

 

「ん、私の勝ち」

 

 目の前で倒れている、ヴァレンタインさんにそう呟きます。多分、聞こえてないと思うけど。

 

「それにしても、ビックリした……」

 

 今後の方針(恋愛)を決めた後、気分良く歩いてたのに、目の前の茂みからいきなりヴァレンタインさんが出てくるんだもん。しかもいきなり勝負を挑んでくるし……お嬢様な見た目とは裏腹に結構アクティブな人みたい。

 

 裏腹に、って言うのも、この人。金髪で、縦ロールで、加えて「~ですわ」、「~よろしくてよ?」……物語の中から出てきたみたいな人だったなぁ。

 

「確か、一年生って言ってたよね?」

 

 だったら、また会えるかもしれない……もしかしたら、友達になれるかも。そしたら、お嬢様な暮らしぶりを聞けるかもしれない。そしたら……。

 

「……また会おうね、ヴァレンタインさん」

 

 そう言って私は、また歩き出します。

 

 

 ◇◇◇◇◇

 ー琥太郎saidー

 

 

 ──琥太郎が闘技場に着くと、丁度アナウンスが入りました。

 

 

『──みなさーん! 殺りあってますかー? 実況の高橋ですよー?』

 

「その言い方は何とかなんないのか……?」

 

『……なんで毎回物騒な呼びかけから始めるんスか?』

 

 ──峯麓は高橋アナに、呆れを含む眼差しを向けながら問います。

 

『いや、それがですね? やっぱり、ただ実況するだけじゃ誰も聞かないんですよね。私よりも強い方なんて、そこらじゅうにいますから。なので! 一捻り入れた実況をしてみよう! と、思いまして』

 

『……なんで物騒な実況に行き着いたんスか?』

 

『特に理由は無いです』

 

『そうっスか……』

 

 ──峯麓のその言葉は、闘技場にいる生徒の気持ちを物語っているようです。

 

『……それでは、現時点でのランク戦の1年生の順位を発表したいと思います!』

 

『その切り替えの早さを分けて欲しいっスよ?』

 

『嫌です』

 

『即答っスか!?』

 

 この二人は、どうして会話が成り立ってるんだ?

 

『今ランク戦は通称"振い落し"と呼ばれ、1年生の実力を主に測り、勧誘期間での参考とするのが、お馴染みですが、今ランク戦は例年に比べ実力の高い1年生が数多く揃っています! なので、いつもはがら空きのこの実況席のある闘技場になんと!生徒がいるんです! いやー、去年は一人だけだったので、とても嬉しいですねー』

 

『え? 生徒や解説の人は居なかったんスか?』

 

『えぇ、解説は今年からですし。そもそも、去年はリタイアする人はいましたが、全員大怪我によってそのまま治療院に直行してましたからね』

 

『じゃあ、1人で実況してたんスか?』

 

『そうです。冬なんかは、実況席に炬燵(こたつ)なんか持ち込んで、蜜柑なんか食べてましたからね。だから、峯麓さんが来てくれて私はとても嬉しいんですよ?』

 

『高橋さん……』

 

 ──自分が求められていることの嬉しさに、思わず言葉後出る峯麓。この人、結婚詐欺に合いそうですね。

 

『だってこんなに弄り甲斐のある人が来てくれるなんて!』

 

『僕の気持ちを返せっス!!』

 

 ある意味期待を裏切らないな……このコンビ。

 ボケの高橋アナに、ツッコミ兼いじられキャラの峯麓さん。結構いい感じじゃね?

 

『HAHAHA☆ それではランキングに入りたいと思います』

 

『笑って誤魔化された!?』

 

『まずは第1位! 圧倒的な数の生徒を倒し、只今絶賛独走中! 水上雅也!! しかも彼はなんと、イケメンです!』

 

 やっぱ雅也は強いな。所持ポイントまで開示してくれたら良かったんだけど、流石に無理か。

 

『最後の情報必要っスか?』

 

『続いて第2位! またしてもイケメン! その笑顔に既に何人堕とされたか!? 青山輝樹!』

 

 お? あのいけ好かないイケメンが二位……だと!?

 くっっそぉぉぉ……!! めっちゃ悔しいぃ……。

 今度決闘でも申請して、戦おうかな?

 

『だから、煽り文句って必要あるんスか?』

 

『どんどん行きましょう! おっと! またまたイケメン!! その槍で、私を突いて♡ 國原宗!』

 

「ブッ!?!?」

 

 ──思わず吹き出す琥太郎。

 

 あの人はいきなり何を言いってんだ!?

 

『っ!? い、いきなり何を言い出すんスか!?』

 

 ──そう思ったのは峯麓も同じようでしたが、琥太郎は無理矢理思考を別の事へ変えました。

 

 ふ、ふむ…………宗なら青山をボコボコに出来そうなんだけどな。にしても、やっぱ強えよなぁ……宗も。

 あ、そういや1位〜3位まで、全員異彩が武具だな。

 

『──と、そんな言葉で決闘を迫られたことがあるそうです』

 

 決闘……?

 

『決闘……?』

 

 ──琥太郎と峯麓の心は、見事にシンクロしています。どちらも苦労人気質だからでしょうか?

 

『あれれー? 峯麓さんは一体何だと思ったんですかねー?』

 

『そ、それは……う、ぅぅぅぅ///』

 

『初心なんですか? 乙女なですか?』

 

『ッ……』

 

 頑張れ……峯麓さん……!!

 それにしても、峯麓さんって意外と乙女なんだな。

 

『そんな涙目で睨まないでくださいよ〜。……いや、あのマジで涙目でも威圧が洒落になんないので、勘弁して下さい』

 

『……高橋さんは意地悪っス……』

 

『あはは……まさかその手の事に関してここまで乙女で初心だとは知らず……スミマセンでしただから睨むのやめて!?』

 

『……』 (プイツ)

 

『拗ねないでくださいよぉ〜』

 

『……真面目にやるっスか?』

 

『やりますとも!』

 

『……じゃあ、許してあげるっス』

 

『やったー!』

 

『お仕事するっスよ』

 

 峯麓さんや。そりゃぁ、ちいとばかし甘めぇってもんでさァ………………なんか、変な喋り方になった。

 

『へい、喜んで! 続いて第4位! 彼の棍棒を操る姿は正に鬼に金棒! 剛力力斗(ごうりきりきと)!』

 

『名が体を表してるッスね』

 

『続いて第5位! 気付いた時には殺られていた! 暗走夜歌(くらはしようた)!』

 

 これが今話題の"キラキラネーム"ってやつか?

 俺は勘弁だな。

 

『またしても名が体を表してるッスね』

 

『何でも彼は、昔から影が薄く、隠れんぼなどをすると、いつも忘れられていたそうです』

 

『可哀想っスね……』

 

 さっきは勘弁だなんて言って悪かったな……。

 

『まだまだ行きます、第6位! 綺麗な薔薇には刺がある! 璉珹寺美咲(れんじょうじみさき)!』

 

『彼女はグラビアアイドルとしても有名っスね』

 

『グラ……ビア……?』

 

『ど、どうしたんスか?』

 

 ──高橋アナは自分の胸に手を置こうとしますが、垂直なため、おけませんでした。

 そして高橋アナは、辺りを虚ろな目で見回し、ある一点で止まります。

 

『な、なんスか?』

 

 ──峯麓を見つめる……いえ、峯麓の胴体から激しい自己主張をする2つの"メロン"に釘付けになっているその目から、更に光が消えていきます。

 その間も、│頻《しき》りに自分の胸に手を置こうとしますが、やはりおけません。

 

『世の中って不平等ですよね……』

 

『……何の話っスか?』

 

『私、思うんです。みんな平等だと、個性がなくなってしまうけど、差が有り過ぎるのも良くないと思うんですよね』

 

『そ、そうッスね。世の中には"貧富の差"もあるっすからね』

 

『グッ!? ……貧富の差……』

 

『"貧しい人達"と富んだ人達"の差は、今も昔も激しいっスからね……』

 

『グフッ!?……貧しい人達……』

 

 これ以上高橋アナのライフを削らないで!?

 既に高橋アナのライフはマイナス値に突入しちゃってるから!?

 

 ──琥太郎の心の叫びも虚しく、峯麓はトドメの一言を告げます。それも、無意識に。……天然って怖いですね。

 

『貧しい人達って│可《・》│哀《・》│想《・》ですよね……そう思うと、私は恵まれてるって思うんスよ』

 

『…………』

 

 ──高橋アナは俯き、プルプルと震えています。そして、唐突に顔をあげます。

 

『峯麓さん』

 

 ──その顔は、まるで聖母の様に慈愛に満ちています。

 

『そう思うのなら、分けてくれますよね?』

 

『──え?』

 

──何故でしょう。高橋アナは、顔は聖母の微笑みですが、その背後に、阿修羅の姿が見えています。

高橋アナは両手をわきわきさせながら、峯麓に迫ります。

 

『そこまで、自分が恵まれている事に気づいているなら、分けてくれますよね? 平等っていい言葉ですよね……』

 

『あ、あのっ……それは一体どう言うことっスか……!?』

 

──思わず顔が引き攣ってしまう峯麓。しかし、高橋アナに最早周りの声は聞こえていません。

 

 

『いいから……いいからその乳寄越せやァ!!!!』

 

 

──遂に、高橋アナが暴走しました。

 

 

『ひゃあっ!……くっ……い、いきなり何をするんスか!?』

 

 

『何を? ……フフっ……もぎ取るに決まってるじゃないですか?』

 

 

『さ、させないっスよ!?』

 

──高橋アナが峯麓に両手で掴み掛かり、それを峯麓が両手で受け止める。

まるでプロレスの様な光景が実況席に広がっています。

 

『くぅ……! なんて馬鹿力出してんスか! 誰かー!?誰か助けてー!?』

 

──峯麓の声を聞き、近くにいた教師陣が集まってきた。

 

『ハーナーセー!! 不平等ダッ!! コノ世ハ、不平等ダッ!!』

 

──高橋アナ(覚醒)は、そんな言葉を残し、拘束具と共に、教師陣に連れていかれました。

 

「…………」

 

──闘技場内を静寂が包みます。この闘技場にいる全員が、まだ今起こった出来事を飲み込めていないからでしょう。

 

な、何だったんだ……今のやつ……。

高橋アナは、一体……。

 

──すると、アナウンスがかかりました。しかし、それは実況席からではなく、校内放送によるものでした。

 

『えー、皆さん。 実況は、トラブルより、途中中断とさせていただきます。以上』

 

──それだけを言うと、アナウンスは切れました。

 

「「ええええぇぇぇぇぇぇ!?!?」」

 

嘘おぉぉ!? マジかよ。こんなんありかよ!? ホントにこの学校大丈──

 

「──いっつぅぅ……一応治療院に行っとこうかな……」

 

俺は右手を擦りながら、治療院に向け歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

俺は…………負けた。


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