メロス「継続は力なり。低俗は力なり。これがソシャゲの基本だよ、諸君」

残された時間は三日間、メロスは全力でイベントを走った!

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テーマは友情


金と時間の両方をつぎ込む覚悟がないならソシャゲやめろ

 メロスは激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。

 メロスには政治が分からぬ。

 今年の流行語大賞はモリトモなんだろうなということしか分からぬ。

 メロスは、村の牧人である。ホラを吹き、ソシャゲで遊んで暮して来た。

 けれども乳首は人一倍に敏感であった。

 

 メロスは自分で真実を調べるやる気も出さず、他人から聞いた話だけで王を悪だと断言し、殴りに突っ込んだ。

 恥ずべき畜生である。

 

「妹の結婚式があるんです!

 親友のセリヌンティウスを置いていきます! 結婚式に行かせてください!」

 

 メロスは恥ずべき畜生であった。

 

「お前これで心痛まないのか……?」

 

「痛みませぬ!」

 

「キングビックリだわ」

 

 恥ずべき畜生であるメロスと比べれば、王にはまだ良心があった。

 

「セリヌンティウスはこの件で死んだとしても、私を恨まないでしょう!」

 

「メロス、それはお前の側が言う台詞じゃない」

 

「誰かを助けるのに理由が要りますか!? 親友ならばなおさらです!」

 

「お前の側が言う台詞じゃねえ」

 

「セリヌンティウスの命は、かけがえのない友のためならば、捧げることに躊躇いもない!」

 

「お前の側が」

 

 王は王の暗殺を企てたメロスに最後のチャンスを与えた。

 親友セリヌンティスを置いていったメロスが、三日後までに帰って来れば、身代わりのセリヌンティウスは解放しメロスを予定通りに処刑するという約束だ。

 逆に、帰って来なければメロスは無罪放免にしてやるという。

 こんな約束をしている時点で、王は極悪に至りきれていない、イキって悪ぶっているだけのイキり悪ぶり中学生に近いものものであることは明白だった。

 

「では妹の結婚式を終えた後、三日後までに帰って来ます!」

 

「……お、おう。親友のために帰って来いよ」

 

 王は疲れた顔で溜め息を吐き、メロスを送り出した。

 メロスの背中が見えなくなった頃、セリヌンティウスがぼそっと呟く。

 

「アイツ妹とかいませんよ」

 

「は?」

 

「いない妹の結婚式とかあるわけないじゃないですか」

 

「……ん、んんっ!?」

 

 メロス、戻って来る気無し。

 思考が停止した王の尻を、磔にされていたはずのセリヌンティウスが撫でていた。

 

「な、何故だ! 縛られていたはずだ、貴様は」

 

「雲を縛ることなど誰にもできない」

 

「関節もぎっちり縛っていたはずだ! 人体構造的に不可能だろう!」

 

「雲を縛ることなど誰にもできない」

 

「こいつ―――これで押し通す気か―――!?」

 

「ホモを縛ることなど誰にもできない」

 

「だからもうその理屈は……ん!? ちょっと待て今変な単語混ざらなかったか」

 

 讃えよ、その名を。彼の異名は掘りヌンティウス。ホモヌンティウスだ。

 

「外人のAV見てて『オゥ、イエス!』

 と叫んでいたのを見てセリヌンティウス思った。

 あんさん掘られたら『王、イエス!』って叫ぶのかなって」

 

「叫ばねえよ!」

 

「ワクワクが止まらねえぜ!」

 

「止まれ!」

 

「人間の好奇心は誰にも止められないんだ」

 

「お前は勃起心だろうがァ!」

 

 掘りヌンティウスは王のケツを狙ってフォーリンラブ。

 セリヌンティウスは無敵の男であった。

 王を守る兵士の攻撃も全て通じない。

 兵士の突き出す槍と剣の合間をすり抜け、王の背後を取っていくセリヌンティウス。

 

「私セリーさん。今あなたの後ろにいるの」

 

「後ろを取らせてたまるかぁ!」

 

 だが王は幾度となくバックアタック(隠語)を回避していく。

 

 全ては意地だった。

 

「お前もう帰っていいぞセリヌンティウス! というか帰ってくれ!」

 

「王よ。私はメロスと約束しました。

 メロスが帰って来るまでメロスを信じてここで待つと。

 私がここを離れる時は、メロスが帰って来た時だけです」

 

「クソぁ! 友情の約束がこんな形でわしの首絞めてきおって!

 国軍総員に告ぐ! 今より全力でメロスを捕らえ、今すぐこの場に連れて来い」

 

 かくして、国軍の総力を挙げたメロス追撃戦が開始された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 メロスは走った。

 友のためではなく、他の誰でもない自分のために。

 メロスはその行動を誰のせいにもしないし、誰のためとも言わない。

 どこまで行っても自分のためで、ゆえにそこには気高き輝きが宿っていた。

 まずは自分が幸せになることが重要なのだと、メロスはよく分かっていた。

 ゆえに、彼はソシャゲイベントを走るのであった。

 

 セリヌンティウスの命など知ったことではない。

 嘘をつくことにも躊躇いはなかった。

 メロスは純粋な人間であったから。

 

 あと三日。

 イベント終了まであと三日であった。

 ソシャゲは遊びではない。

 イベントを走るとは、ソシャゲ用語でイベントを全力でプレイすることを指す。

 命と金を削ってでも、この三日でイベントを走りきらねばならなかった。

 友を身代わりにした罪悪感はない。

 メロスはこう考えている。

 

「この三日間、時間が稼げればよかったのだ。

 私の金と命が費やされるのだ。

 セリヌンティウスの命をそこに費やすことに何の躊躇いがあろうものか」

 

 一万円札と友の命、どちらが重いのか?

 メロスは考える。

 前者が失われると悲しいし損が生まれるが、後者は失われても悲しみや損は生まれない。

 なーんだじゃあ一万円の方が重いじゃん!

 メロスは納得した。

 

 メロスはイベントを走らなければならない。

 あんなところで王に無駄に使ってられる時間はないのだ。

 メロスは友の命の無駄遣いは気にしないが、時間の無駄遣いは気にする男であった。

 

「さーて課金課金」

 

 メロスは王都のネカフェにこもり、二日間をイベントに費やす。

 課金に次ぐ課金でイベント疾走速度を上げることも忘れない。

 メロスは時間の無駄遣いは気にするが、金の無駄遣いは気にしない男であった。

 

「むっ」

 

 だが、金が足りない。

 彼のプレイしているF(ふたなり)G(ガンダム)O(オンライン)なるソシャゲはプレイヤー間での課金前提対戦を煽り、『ランキング○位までゲットできます』タイプの報酬を用意する史上最悪型のソシャゲであった。

 金が足りない。

 イベント期間残り一日。

 メロスは腕を組みATM(隠語)の心当たりを探す。

 

「そうだ、鬼ヶ島に行こう」

 

 かつて、お爺ちゃんは山へシヴァ狩りに、お婆さんは川へ選択に行きました。

 世界の存続を賭けた選択です。

 それはそれとして、メロスは鬼ヶ島に鬼狩りに行きました。

 鬼ヶ島には金銀財宝があることを思い出したからです。

 金がないなら奪えばいいのだ。

 

 かくして桃太郎メロスの下に三人のお供が揃いました。

 運営の犬。

 猿のように課金する畜生。

 運営がやらかしてもすぐ忘れる鳥頭。

 どいつもこいつも、ソシャゲに課金することを全く躊躇わない動物以下の畜生どもです。

 誰も彼もが課金する金欲しさにメロスの後について行きました。

 

 ですがそれこそが人生を楽しむコツなのです。

 彼らの人生は幸せなのです。

 彼らは悪ではありません。

 彼らは楽しんでいるし幸せなのです。

 さあ、鬼ヶ島に鬼を退治しに行こう。

 

 まあ倒すべき運営(オニ)には刃向けないんだけれども。

 

「あー! 困ります困ります! 桃太郎(メロス)さん略奪は困ります!」

 

「うるせえ! 昔話の鬼どもはどいつもこいつも財宝溜め込みやがって!

 溜め込んで使わない金なんて課金しないソシャゲくらい意味ないもんやろが!」

 

「困りますぅー!」

 

 鬼ヶ島で略奪を終えたメロスはホクホクで帰還する。

 だが、ここで時間を使いすぎた。

 既にイベント終了まで残り数時間というとこまで時間を使ってしまっていた。

 これではいけない。

 このままでは『ランキング1000位以内報酬』ですら届かないかもしれない。

 それだけは許せぬ。

 メロスは激怒した。

 

「そうだ、運営を襲撃しよう」

 

 運営を襲撃する

→運営が緊急メンテナンスに入る

→イベント期間延長

→まだイベントを走れる。

 

 まさに合理の極致。

 この時点でメロスは三日縛りのこの物語において掟破りの四日目突入を行う気満々だった。

 

 現在は西暦にして6000年。宇宙世紀が始まって既に1000年が経過していた。

 この時代のソシャゲ運営は宇宙に浮かぶコロニーに存在する。

 ならばそこを襲撃し、運営に「想定外の不具合」を発表させ、イベント延長のお知らせを出させるしかない―――!

 メロスは空を走った。

 走れ、メロス。

 

 メロスの行方を阻む宇宙の守護者(ソシャゲ運営警備員)。

 あれは、詫び・ワン・ケノービ!

 

「詫び石です」

 

 メロスは蹴散らした。

 なおも立ちはだかる宇宙の守護者(ソシャゲ運営警備員)。

 あれは、課金・スカイウォーカー!

 

「詫び石はフォースにバランスをもたらす」

 

 メロスは蹴散らした。

 宇宙を走り、メロスは星の河を、銀河を越える。

 運営への襲撃を完了し、イベント期間を伸ばすためにボスエネミーではなく運営を殴るという逆転の発想を実行。

 運営を半壊させ、地球への帰還を開始する。

 銀河の川のアステロイドベルトは、生身でも越え難き濁流であった。

 

「ああ、鎮めたまえ、荒れ狂う流れを!

 時は刻々に過ぎて行きます。太陽も既に真昼時です。

 あれが沈んでしまわぬうちに、王城に行き着くことが出来なかったら!

 あの佳い友達が、私のために死ぬのです! 別にいいけどさ」

 

 メロスは戻る気などないくせに白々しく言った。

 だがこう言っておけば、友を助けたかったけど助けられなかった悲劇の男なんだよ私、と強弁できる気がした。

 メロスは友のために走るのも嫌だ。

 その程度の労力さえ費やしたくはない。

 だが、友のために頑張るのも嫌だが、友のために頑張らない人非人という風評が流れるのも嫌という男なのであった。

 悪事千里を走ると言うじゃないですか。

 

 メロスはかくして大気圏突入。

 大気摩擦でメロスの服が溶けていく。

 ストアでの課金で金が溶けていく。

 金と服を溶かしていくその姿はまさしく、走れメロスのテーマの体現。

 課金の神をその身で表す、神々しくも荘厳な姿であった。

 

 メロスの大気圏突入中に緊急メンテは終わり、詫び石の配布とイベント延長のお知らせがソシャゲのお知らせ画面に広がる。

 されど地上に降りたメロスを、王国軍が取り囲んでいた。

 

「待て!」

 

「何をするのだ! 私はイベ終了までにイベを走り切らなくてはならないのだ、離せ!」

 

「どっこい離さぬ。同行してもらおう」

 

「私には金の他には何も無い。そのほんの僅かな金も、これから運営にくれてやるのだ!」

 

「お前もう喋んなくていいよ……?」

 

「さては王の命令で、ここで私を待ち伏せしていたのだな!」

 

 メロスは構えた。

 天地魔闘の構えである。

 「天」とは攻撃、「地」とは防御、「魔」は課金の使用を指す。

 攻防課金を一体化し、イベントを走りながら国軍を蹴散らし始めた。

 

「虫唾が走るぜ! なんで私に気持ちよく課金させねえんだ!」

 

 虫唾が走るメロス。

 

 虫唾が走りながら、メロスは走った

 セリヌンティウスの下へ走った。

 

「戻って来おった……!」

 

 そして驚愕する王の横を通り過ぎ、メロスとセリヌンティウスが向かい合う。

 全裸のメロスと下半身を露出したセリヌンティウスが、スマホを突きつけあった。

 

「セリヌンティウス、私を殴れ。ポイントやるからポイントくれ」

 

「さーいえっさ」

 

 『殴り』。

 それはソシャゲのイベントにおいて、特定のボスキャラや他プレイヤーのチームを攻撃し、その攻撃に応じたポイントをゲットすることを言う。

 ポイントの積み重ねでランキングを駆け上がり、各々がランキング報酬に群がっていくのだ。

 メロスはセリヌンティウスと互いのPTを殴り、ここに来て一気にポイント数を跳ね上げようとする作戦に出たのであった。

 

 もはや王でさえもその存在を忘れられている。

 それを見ていたひとりの少女が、緋のマントをメロスに投げた。

 もはや見ていられなくなったのだ。

 全裸でソシャゲに熱中するメロスに、そんなメロスを見て興奮しているセリヌンティウスの下半身露出姿に、醜さしか感じなかったのだ。

 少女は思った。

 "なんで生きてるのが恥ずかしくないの?"

 少女が投げたマントが、セリヌンティウスの股間に引っかかった。

 

 走れ。

 走れエロス。

 ソシャゲの課金煽りの基本はエロス!

 男の股間をイラつかせる美少女をガチャにぶち込んであれば、金玉から金をいくらでも引き出せる―――これが、ソシャゲの王道!

 金稼ぎの至高型が一つッ!

 資本主義の究極形態ッ!

 

 共産主義の豚どもが、とうとう資本主義に敗北する日が来たのだ。

 その日を、資本主義の権化たるソーシャルゲームが到来させる。

 金を稼げればいいという金本位制の具現への貢献を終え、腰を下ろしたセリヌンティウスの周りに、畜生共が集まってきた。

 桃太郎のお供の三体である。

 

「よいのか、セリヌンティウス」

 

「まあ止めたってメロスは聞かないさ」

 

「諦めるな、セリヌンティウス!」

 

 桃太郎のお供三体が、セリヌンティウスに訳知り顔で語りかける。

 

 全員初対面だった。

 

「見知らぬ犬、初対面の猿、自分をキジだと思い込んでるオッサン……」

 

 初対面の者達の言葉に、セリヌンティウスは勇気を貰う。

 

 

 

「お前は掘りヌンティウス―――ホモから生まれたホモ太郎だッ!!」

 

 

 

 そして、運命を知った。

 

「―――そうだったな」

 

 セリヌンティウスは迷いなくメロスに近寄り、そのスマホを叩き割る。

 

「ああああああああっ!!」

 

「悪は去った」

 

 正義は勝った。悪は負けた。めでたしめでたし。

 セリヌンティウスは穏やかに王へと語りかける。

 

「王よ。友情の美しさとは、友を見捨てないことにではなく……

 間違った友を倒してでも止めるという、その勇気にこそ宿ると思うのです」

 

「そう……(無関心)」

 

 これもまた友情の形。

 ヤリチンティウスがメロスの尻を撫でているのも友情。

 友情なのだ。

 王が虚ろな目で語る。

 

「お前らの望みは叶ったぞ。お前らは、わしの心に勝ったのだ。

 信実とは、決して空虚な妄想ではなかった。

 どうか、わしをも仲間に入れてくれまいか。

 どうか、わしの願いを聞き入れて、お前らの仲間の一人にしてほしい」

 

 セリヌンティウスは正気を失った王を精神病院に叩き込んだ。

 

 

 




ハッピーエンド


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