神殺しのエネイブル   作:ヴリゴラカス

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お久しぶりです。

前回までのあらすじ

セトとの交渉はあえなく決裂し、戦うことになったキンジ達。差し向けられた神獣を倒し、キンジはアイーシャ夫人を援護しようと行動を起こすのだった。


最古参の力

 セトの神獣が砂となって崩れ去ったのを見届けると、俺はアイーシャ夫人が向かった方角に使い魔を送った。

 

 ヒステリアモードのこともあり、すぐにでも援護に向かいたいところだが……何分場所が神と神殺しの戦場だ。その現場が空爆中の都市よりも悲惨な状況なのは間違いない。

 そんな場所に無策なままに突っ込んだ場合、アイーシャ夫人の足を引っ張るどころか、逆に俺が死亡する可能性すらある。

 

 ……見つけた。セトを氷の大蛇や巨人を使って攻撃し、なんとか互角に渡り合ってるね。

 だが、セトもさるもの。炎に風、雷撃に武芸までふるって氷の従僕達を迎撃し、粉々に砕き割っている。

 それでもなお、破壊されるそばから再構築されるアイーシャ夫人の権能には手を焼いているな。夫人を狙うのに集中出来てない。おまけに、従僕を越えてアイーシャ夫人に当たった筈の攻撃ですら、まるで効いている様子がない。あれは一体……

 

 そうこうしているうちに、使い魔の一体がアイーシャ夫人のもとにたどり着いた。

 

「アイーシャさん、今から――」

 

「遠山さん!? ああ、よかった。ご無事だったんですね!

セトさんが追って来たものですから、てっきり死んでしまわれたのかと――」

 

 援護しますと伝えようとしたとたん、食い気味に叫んだ夫人に抱き締められる使い魔。……勝手に殺さないで欲しいなあ。

 気を取り直してスピアの準備を始めた瞬間――こちらを向いたセトと目が合った。

 奴は俺を見ると口角をあげてにやりと笑い……今までの比ではないほどに強大な神力を膨れ上がらせる。

 

(――霧化(ザ・ミスト)!)

 

 明確な死のヴィジョンに突き動かされた俺が、咄嗟に切り札を切った瞬間――眼前のすべてが白く染まった。

 太陽が落ちてきたのかと錯覚するほどの白い光が、莫大な熱を伴って砂漠を舐め――そのあまりの熱量に、砂漠の砂が液体をすっ飛ばして一瞬で気化する。空には原爆を彷彿とさせるきのこ雲がもくもくと上がり、まるで核兵器の爆心地のようなありさまだ。

 ……初っ端からやってくれるぜ。今の一撃、こちらの数的優位を覆すためのものだろう。俺とアイーシャ夫人のどちらかでも、無力化ないし離脱させられれば上々ってところか。

 

 体を霧から人に戻しつつ、夫人のもとにやった使い魔を探してみると、とりあえず存在は感知できた。おそらくアイーシャさんも、何らかの権能で逃れたか。

 

 完全な体に戻った俺は全身を稼働させ、一気に前方のセトへと接近する。

 一瞬で100メートルを超える距離を踏破した俺を、セトは好戦的な笑みを浮かべて迎えた。

 

「貴様の方が永らえるとはな、若造! 思いの外骨があると認めてやろう!」

 

「そいつはどうもっ!」

 

ゴキイィィインッッッ!

 

 返答と同時に繰り出した桜花の拳は、セトが召喚したウアス杖に受け止められたものの――俺は、那由多はまだまだ止まらない。

 

「おおおオオオォォォッッッ!」

 

バガガガガガガガガガァンッッッ!

 

 ドリルで岩盤を掘削するような音をたて、俺の拳とセトのウアス杖が幾度となく激突を繰り返す。先の剣と違い、いくら打とうと杖が壊れる様子はない。逆に、拳の方が血を吹いている。

 更にセトの卓越した棒捌きにより、殆どが止められ、弾かれ、棒を掻い潜ったものは躱される始末。

 

 だが、拮抗した状態に持っていけている。連戦の消耗か強大な一撃の代償かは知らないが、今の奴を防戦一方に追い込めているのは事実。このまま決着を着けてやるよ……!

 

 そのまま延々と打ち合い続け――交わした拳が500を超えたあたりで杖にヒビが入り始め、丁度600で遂に杖が砕け散った。

 

この隙を逃すまいと俺がセトに打ちかかると――奴は砕けたなかで杭を思わせる杖の破片を掴み、俺の心臓目掛けて投げつけてきた。破片が俺の急所を捉える方が、セトを叩きのめすより早い。それならば――

 

(内臓避け(オーガンスルー)……!)

 

狙いをずらした破片が胸を貫くのを無理矢理無視し、僅かに驚いた様子のセトを呪力を込めた左拳で殴り抜いた。

 

「ちいっ……!」

 

 右肩に俺の拳を受けたセトはその衝撃を利用して後ろに跳びすさり、追撃を阻止する。

 が、確かに注ぎ込まれた呪力が内側から爆ぜ、セトの右腕を肩口から吹き飛ばした。

 

「ぐうおおっ……! よもやオレが、先に深手を負わされようとは……!」

 

 流石のセトも苦痛に声を漏らし、やっと俺への慢心を捨てたらしい。ざまあみやがれ。今まで散々痛い目に遭わせてくれたお返しだ。

 内心で溜飲を下げながら、胸に刺さった杭を引き抜いて投げ捨てる。

 

 再び正面から対峙し、互いに構え直した俺達が踏み込もうとした時……突如として、何かが天に現れた。

 

 予想外の事態に驚き、動きを止めたセトから片目を離さないまま、視線だけを頭上にやると――ボールを思わせるずんぐりとした体躯と煙で出来た下半身から成る、大剣を携えた魔神が顕現していた。

 

 おまけに、セトの後方には――いつのまに帰って来たのか、アイーシャさんまでもが姿を見せている。やっぱり無事だったね。

 

「我らの間に、かような従僕を放り込んでくるとは。無粋な真似をしてくれるものだな、魔女を統べる女よ」

 

 そう吐き捨てたセトが煩わしげに左手をふると、今までのように様々な攻撃が放たれ、魔神を打ちのめしにかかった。

 

GUAAAAAAAA!?

 

 衝撃波に雷霆、無数の槍と立て続けに喰らった魔神は名状し難い悲鳴をあげ、血の代わりに蒸気と大岩やら炎弾やらを周囲にばらまき始めてしまう。

 

 当然ながらセトはおろか、俺やアイーシャ夫人までその攻撃に巻き込まれており、俺達はダッシュでその場を離れざるを得なくなった。

 

 それにしてもこれ、被害範囲と傍迷惑さが尋常じゃないぞ。直径数メートルは下らない岩やら何やらが、豪雨よろしく降り注いで来るなんてな!

 

「つくづく面妖な権能を持つ女よな、まったく……!」

 

 セトもこれには閉口しているらしく、こちらに攻撃を仕掛けてくる様子はない。今のうちに合流しよう。

 

 落ちてくる岩やらに隠れるようにしてセトの横をすり抜け、土石流から逃げてる気分のまま落ちてくる岩を避けたり砕きながら、全力で逃げているアイーシャさんに追い付こうと走っていると……()()()()()()()()()()()()()

 

 さらに悪いことに、彼女に向かって結構大きな岩が落ちてきている。直撃しても死にはしないだろうが、歩く傍迷惑でも女性は女性だ。これは見過ごせない。

 

 走りながら一矢放って岩を粉砕し、アイーシャさんを背に庇いながらセトに向き直る。

 

 奴も魔神から離した視線をこちらに向け、動向を伺ってくる。神殺し側が二人になったことで警戒を強めているらしく、まだ仕掛ける様子はないな。

 

「アイーシャ()()()、今はここから退いてくれないか?俺が姉さんを必ず守ってみせるから、安心してほしい」

 

 あんな危なっかしい眷族がうろついていては、おちおち殴り合いもできない。夫人自身が爆弾染みていることもあり、ヒステリアモードの年下演技で帰ってもらおうとすると……

 

「お、お姉さん!? わたくしにそう言ってくれる人ができるなんて、感激です! よーし、お姉さん頑張っちゃいますよー!」

 

 どうやら琴線に触れすぎてしまったらしく、俄然張り切りだした。完全に逆効果だ。何てこった(マンマミーア)

 

 不穏な気配を察したセトが放ってきた光線を二人して跳び退いてかわし、撤退するようさらに説得しようとするも――

 

「いや姉さん、ここは俺に――」

 

「弟君が戦ってるのに、お姉さんだけが逃げる訳にはいきません! えーい!」

 

 全く聞く耳を持たないどころか、全力で権能を振るいだしてしまう。気合いの声に呼応して地表を覆う冷たく禍々しい神力に、俺の全身が総毛立った。

 

 直感でここも巻き込まれると悟った俺はアイーシャさんをお姫様抱っこで抱えあげ、地を蹴って空に飛び立つ。

 

 同じく飛ぼうとしたセトが魔神に阻まれた瞬間――大地が割れた。

 

 巨人の手で引き裂かれたように巨大な穴が地面にあき、ブラックホールを思わせる強大な引力で周囲のものを吸い込み始めたのだ。

 

「ぬおおおおっ! この力は――」

 

 必死に抗おうとしていたセトも叫びを残して引きずりこまれ、上空にいた俺達まで引き寄せられつつある。

 

 翼に違和感を感じて目をむけると、俺の翼が端から凍りつき始めていた。超強力な魔術耐性を持つ神殺し――それも冥界由来の攻撃に強い俺ですらこのザマか。なんて規格外な……!

 

「我は闇夜の貴族、高貴なる血脈を以て闇を統べる者なり!」

 

 戦慄しながらも聖句を唱えて耐性を強化し、なんとか空中に踏みとどまり続けたところ――俺の翼が半ばまで凍りはしたが、ギリギリで奈落の底行きは免れた。

 

「ふみゅう~」

 

 力を使いすぎたせいか、呑気な声をあげて目を回しているアイーシャさんを地面に置いた上着の上にそっと横たえ、辺りを見回すと……景色は一変していた。

 

 赤銅色の砂漠だった地面は氷に変わり、極地のような氷原となっていた。さらに雲一つ無い青空に太陽が照っているにも関わらず、吹き抜ける風はあまりに冷たい。多分これ、普通の人間が近づいたら凍死するんじゃないか。

 

 文字通りの天変地異とも言うべき有り様だ。これがカンピオーネの中でも最古参に位置する王の実力か……交戦場所を村や都市から離しておいて良かったな。人間が住む場所でもしこれをやったら、一帯が人の住めない不毛の地と化すところだった。

 

 こんな攻撃をまともに受ければ、神や神殺しでも死にかねないはずだが。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 心中でそう愚痴った時、地の底で神力が爆発した。

 

 こうなることを予測して、できるだけ距離をとってたとはいえ……こんな予想、当たらないで欲しかったぜ。

 

 前方で天蓋を焦がそうかという極大の火柱が氷を貫いて飛び出し、赤々と燃え盛る様を見て――俺はイレアナに命じ、あるものを転送させた。

 

 その重みを懐に感じたのと時を同じくして、火柱に乗り帰還したセトが再び地面に降り立った。

 セトは荒い息ながらこう嘯く。

 

「残念であったな。相手がこのオレでなくば、先の一撃で葬られていたであろうが――オレは大地をも版図とする神でもある。そこは不運だったな神殺しどもよ」

 

 そう。セトはホルスに敗れ足を失った後に、地下に隠遁し神話の表舞台から姿を消した。言わば、地の底は奴の家のようなものだ。

 

 とはいえ、相当に堪える攻撃だったことは間違いないらしい。身体中に重度の凍傷のような傷を負い、俺が吹き飛ばした右腕も治癒している様子がない。呪力も恐らく二割に満たない程度にまで減少しており、当初の強壮さは見る影もなかった。

 

 満身創痍となってもなお闘志が全く衰えないのは流石だが、これで終わりだ。

 

「この世にある者たちよ、秩序と正義を統べる者の言葉を聞け!」

 

 俺は懐から取り出した大きな金色の円盤――すべての始まりとなった、ハトホルを封じていた神具を天に向けて掲げ聖句を唱える。

 すると今まで不敵な態度を崩さなかったセトが、はっきりと焦りの表情を浮かべ――傷ついた体に鞭打ってまで、神力を練り上げようとする。

 が、必死の努力にも関わらず、高まった力は円盤から放たれた光に照らされた瞬間、跡形もなく霧散してしまった。

 

「おのれ! なぜ貴様がその神具を!」

 

「至上の神アモン・ラーの名のもとに命ず! 汝矛を収め、跪くべし!」

 

 悔しげに吠えるセトの言葉を聞き流し、聖句を唱え終わると――円盤の周囲に蟠っていた金色の靄が宙を滑り、避けようとしたセトを包み込むように捕らえてしまう。

 

「がああああああああああ――――ッ!」

 

 生きたまま業火に焼かれているような絶叫をあげるセト。無理もない。実際に体の一部を燃やされているようなものだしな。

 

 この神具は『ラーの天鏡』といい、秩序と正義を司るアメンと習合したラーの持つ、至上の王権を象徴するものだ。ラーの傘下にある神という条件こそあれ、たった一度で大神の神力すら大きく削ぐほどの効果を持つ。

 

 そして、セトは夜に冥府を渡るラーに従い、蛇神アポビスと戦いぬくという功績を挙げている。へリオポリス9神の中でもラーの忠臣といっていい立場にあるため、この神具の効果を殊更強く受けることになる。

 

 その結果――靄が晴れたときにはセトの神力が完全に封じ込められ、元からの重傷もあって立つのもやっとという有り様になってしまった。

 

 こうなっては撤退するかとも思ったが、セトは目を爛々と闘志で輝かせながら……なんと俺にむかって走り出した。

 

 俺も即座に矢を放って止めを刺そうとしたが、万全の時すら超えるセトの軽功の前に悉くがかわされ、氷原を幾度も抉った跡を残しただけになった。

 

 氷を踏み砕きながら肉薄したセトは俺の頭蓋を砕こうと、残った左腕をふるってハンマーパンチを繰り出し――俺はそれを橘花を併用して受け止め、骨まで揺らす衝撃に耐える。

 なおも諦めないセトが、俺の喉笛を食い破ろうと牙を剥いてくるので――ガンッ! と、右膝蹴りを鳩尾目掛けて叩き込んだ。

 怪我のせいか、踏ん張れなかったセトがよろめいた隙に……俺は右腕で渾身の、桜花の貫手を放つ。

 

 散る花びらのようなヴェイパーコーンを伴い、突き進んだ俺の一撃は――精魂尽き果てたセトの左胸に、深々と突き刺さった。

 

「ガハッ……」

 

 腕を引き抜くと、セトは血を吐きながら一歩、二歩と後ずさり……軍神としての意地故か、倒れることもなく静かに立ち尽くしていた。

 

「フ、フフ……。最後に一矢報いんとしたが、それも叶わなんだか。……なあ、神殺しよ。一つ問いに答えてくれぬか」

 

 

「……何だ?」

 

 

「オレは強かったか?」

 

 敗れたことを悔しがるでもなく、どこか清々しい顔でそう尋ねるセトに、

 

「ああ、強かったぜ。お前は」

 

 と、偽りのない本音で答えてやった。

 俺が先に深傷を負わせはしたものの、アイーシャ夫人の乱入無しでやりあっていれば俺が負けていた可能性も十分あった。地力ではセトが明らかに上だったからな。

 

「そうか……」

 

 俺の返答を聞いたセトは薄く微笑んで、

 

「ならば、強敵を下した勇士に対し、軍神として褒美をくれてやらねばな」

 

 などと言い出した。

 

 負けたわりには、随分と上から目線な言い様だなおい。まあ、くれるってんなら貰うけども。

 

「二人がかりだったが、それはいいのか?」

 

「あの粗忽な女ならばともかく、貴様になら構わぬ。二人がかりとはいえオレと真っ向から戦い、打ち倒してみせるなど――ホルス以外には成せなんだ偉業故な」

 

 徐々に体が石に変わっていくなか、セトが最後の力で声を張り上げる。

 

「聞いているな愚者の母(パンドラ)とやら! いつぞやの幽冥界での軽口、今こそやってのけろ。我が魂の片割れ、この男に必ずや届けてみせよ!」

 

 そう叫ぶとセトの体が完全に石と化し、粉々に砕け散った。

 それと時を同じくして、俺の背中に僅かに重みが加わる。

 

 これは……もしかして権能か?アレクの話じゃ、手負いの神を殺しても権能は増えない筈だが。

 もしかすると、セトの口添えがあったから権能を貰えたのかもな。義母さん(パンドラ)も粋なことをしてくれるもんだ。

 

 何はともあれ、これでこの一件も片付いたと言えるだろうな。ここから第三、第四の神がワラワラと出てきても困るし。やっとこの台詞を言えそうだ。

 

――これにて一件落着ってね。




 通廊で緊急回避したのにアイーシャ夫人が冥府落としを使えた理由は、彼女が姉さん呼びされてテンション上がったからです。
 ついでに言えば、セトにガンメタ張れる神具をちょうどよく持ってたのも彼女の幸運の権能によるもんなんで、ぶっちゃけセトがズタボロにされて負けたのは大体夫人のせいです。ヤンナルネ……
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