久しぶりに、夢を見た。
あの時の夢だ。
そう、あの時の――――
――――悪夢のような出来事の。
* * *
それはとても断片的なもので、あまり鮮明とは言い難いものだ。
とても大事な出来事が起きたはずの部分だけがノイズで掻き消されているという、なんとも都合がいいのか悪いのか分からない、そんな夢。
頭を強く打ったからなんだろうか。それとも忘れたくて忘れたのだろうか。
後者の理由で夢にそんなノイズがかかっているのだとしたら、取りあえず自分自身をぶん殴ってやりたい。
思い出したい記憶があるから?―――NO。寧ろ忘れたいぐらいだ。
だって――――
荒波で揺れる視界の中、暗がりでもわかる、空間にできたとてつもなく巨大な『違和感の塊』。
近くで見ているようで、遠くから見ているようでもある。
そして
その『塊』が
その腕のようなものを
こ っ ち に 振 り 下 ろ し―――――――――
「!!!っ.......う....」
はっと目が覚めれば、視界には見慣れた白い天井が映りこむ。
久しぶりに見ると、酷く気分が悪くなってくる。押し寄せる悪寒に、体中を伝う汗の相乗効果。そして胸への圧迫感。
これ以上苦しむことがあろうものなら、普通の奴なら自殺したくなるぐらいのノイローゼにさいなまれるんだろうな、と、そんな取り留めもない事を考えながら、ベッドから重い体を必死こいて引き剥がし、少し離れたところにある洗面台に向かう。
どうやら酷いうなされようだったらしい。
髪はボサボサ。顔は青ざめてやつれているように見える。
極め付きに、いつの間にか胸元がはだけて、今にもずり落ちそうになっている上の寝巻き。
所謂細マッチョとやらに分類されるであろう己の肉体が中途半端に見えており、その肉体に水に似た液体(言わずもがな、汗である)が滴っている。
その格好を他人に見られたら、きっと見たそいつはだらしないと思う事だろう。だけどうなされていたんだから、しょうがないじゃないか。
と、そんな風に自分の体を見ていると、一ヶ所違和感を感じた。
「...........?」
大胸筋の間。そこにはある時から、小さなこぶのようなものができていた。
こぶと言っても本当に目立つか目立たないかわからないぐらいのもので、普段は大して気にもかけやしないのだが....
「....なんか、でかくなってないか....?」
奇妙なことに、そのこぶがいつもより盛り上がってきているように見えるのだ。
本当に微々たる差だが、不本意ながらいつも鏡を見ているときに目にしているからこそわかる。
....今思うと、この胸のこぶがあの圧迫感の正体なのだと考えると納得だ。
きっとあの夢を見てしまったのも、うつぶせの時にこのこぶで肺が圧迫されて空気が脳に回らなかったからに違いない。うん、そうに違いない。頭に酸素が回らないと悪夢を見るって、誰か偉い人が言ってたし。
「....そう、なんでもないんだ、なんでも」
たかだかこぶが少し盛り上がってきただけじゃないか。そう、たったそれだけの事なのだから、何も心配する必要なんかない。
そう自分に言い聞かせ、寝巻きの胸辺りのボタンを2つ適当につけると、閉め切ったカーテンをバッとオープンする。
視界に映るのは、相も変らぬビル群に、そんな街を囲むようにそそり立つ馬鹿でかい防護壁。
ここは、東京。
これまでに怪獣共が立ち寄った事がないくらいに平和で安全で、そして退屈な国、日本の首都。
時は2015年、8月。
怪獣共が人類を蹂躙しだしてからかれこれ14年が過ぎた頃。
世界を守る組織である地球連合軍、EUFが事実上解体されてから2、3年ぐらい。
そして青年、波多 進也(ハタ シンヤ)が一人生き残り、あの悪夢を見だしてから15年と約半年。
人々は皆、敗戦ムードに包まれて生きる気力をほとんど無くしたか、いつやってくるかもわからない死に対して気丈に振る舞っている、そんな時代。
そんな世紀末やらこの世の終わりなんて言葉が似合いそうな世界を、彼は生きていた。
今の彼は知る由もない。
自身が歩むであろう大いなる運命。
そして己が知らぬ間に宿した大いなる力の存在を。
次回、ヒトのレキシ
40m級恐竜型怪獣 タイラノス 他、登場